2023年7月15日土曜日

真夏の 'TOKYO' ミッドナイトツアー

暑中お見舞い申し上げます。





さて、ほぼ終焉と第9波拡大の狭間で揺れている様相のコロナ禍ですが、真夏にずーっと自宅で引き篭もって小さな液晶画面と顔突き合わせてるのは勿体無い...。スプリフに火を付けて煙燻らすジャマイカのダンスホール文化もそうなんですけど、あの膨大なダブ・プレートはどこで需要があるのかと言えば、それは週末の野外パーティーで超低音のウーハーを飛ばす勢いで踊らせる為にあるのです。南国と音楽の関係性については偏見かも知れないけど、例えばコンピュータ中心の制作環境で '宅録' をやっているイメージは、暖かい陽射し溢れる日常より寒くて閉ざされた地域の方が活発なんじゃないか、という気がします。冬は外に出て行く機会もなく、ひとり暗く自室に閉じこもってアレコレやっている国々に対し、毎日が澄み渡る青空と陽射しの連続ならカーニバル的 '夏祭り' な過ごし方で一日の予定を立てる...。いや、実際にはあまりに猛暑で日中は外出せず自宅で涼み、わざわざ海水浴のバカンスに来る観光客を理解できないのかも知れませんけど(苦笑)。

ア・トライブ・コールド・クエストの 'Midnight Marauders' からほぼ30年。米国のソウル/R&Bシーンを揺るがした '隔世遺伝' にして乗っ取ってしまったヒップ・ホップが成熟を示した一枚であり、未だJディラの 'Donuts' と並び何度でもリファレンスとして聴かれるべきものでしょう。というか、んな小難しいお話はどーでもいい...(汗)。カル・ジェイダーの 'Aquarius' をサンプリングした熱帯夜の 'ミッドナイトツアー' は、途中で英国の 'トリップ・ホップ' へと寄り道をすべくジェイムズ・ラヴェルの2時間に渡る 'Mo' Wax Tripped-Out Jamz' を経ながらこちらの '旅のしおり' をお読み(お聴き)下さいませ(笑)。

ブラジルといえばサンバ。その熱狂を彩る打楽器としてスルド、パンデイロ、ビリンバウといったユニークな打楽器がありますが、わたしが特に惹かれたのがゴミ箱のようなバケツに手を突っ込んで鳴らすクイーカというヤツなのです。そのバケツに山羊や水牛などの皮を張り(近年はプラスティック打面もあり)、その真ん中へおっ立てた竹ひごを濡れた布(ウェットティッシュなども最適)でゴシゴシ擦ると例の "クック、フゴフゴ・・" と鳴るブラジルの民俗楽器です。皮の打面をチューニングしながら指でミュートすることで音程を変えることも可能で、大きさで人気のあるのは大体8インチ、9.25インチ、10インチのもので大きいほど音量も大きくなります。バケツ側の素材は昔は樽を用いたこともありましたが、その他ブリキ、真鍮、アルミ、擦る手元の見える透明のアクリル樹脂などありますが、一般的なのはステンレスですね。そんなクイーカの音色といえば30代後半以降の世代ならNHK教育TV 'できるかな' に登場するキャラクター、ゴン太くんの鳴き声として記憶にインプットされているでしょう。一方でボサノヴァ、そして 'トロピカリア' 以降のMPBを始めとしたブラジル産サイケデリアの世界もあり、まさに過去と未来が混在する 'コスモポリタン' としてのブラジルがあります。そういえば2004年頃、ブラジルの現代美術を紹介する催しとして 'Body Nostalgia' を見に行ったことを思い出します。タイトルはブラジル現代美術の出発点である女性作家リジア・クラークが自ら一連の作品に与えた名称 'Nostalgia do corpo' (身体の郷愁)から取られており、それはよくブラジルの雰囲気を説明するときに用いられる 'Saudade' (サウダージ)という言葉をグッと深化させて、'Nostalgia' の語源がギリシア語の '帰郷(ノストス)' と '苦痛(アルジア)' の造語から派生したということと深く結び付いているということ。つまりブラジルという場所は、根元的に多くの '痛み' とその '記憶' から身体の新たな '出会い' を促しているのではないでしょうか。それはここで聴ける土着的なリズムと洗練されたハーモニーの '異種交配' において、ブラジルほどその自浄作用が機能している場を他に知りません。そして旅立って行った 'イパネマの娘' ことアストゥルージ・ジルベルト...永遠なり。

陽射し溢れるカリブ海とバハマ一帯。実は音楽的に '不毛地帯' ではなかったことを証明する怪しいシリーズ 'West Indies Funk' 1〜3と 'Disco 'o' lypso' のコンピレーション、そして 'TNT' ことThe Night Trainの 'Making Tracks' なるアルバムがTrans Airレーベルから2003年、怒涛の如く再発されました・・。う〜ん、レア・グルーヴもここまできたか!という感じなのですが、やはり近くにカリプソで有名なトリニダード・トバゴという国があるからなのか、いわゆるスティールパンなどをフィーチュアしたトロピカルな作風が横溢しておりますね。カリブ海といえばトリニダード・トバゴ、そして '20世紀最後のアコースティック楽器' として世界に羽ばたく打楽器、スティールパンを生み出した地でもあります。2本のマレットで叩けば真冬であろうとコロコロと南国のムード溢れるドラム缶の気持ち良さで、上記コンピレーションからもThe Esso Trinidad Steel Bandを始め数多の 'パンマンたち' が奏でます。また、バハマとは国であると同時にバハマ諸島でもあり、その実たくさんの島々から多様なバンドが輩出されております。面白いのは、キューバと地理的に近いにもかかわらず、なぜかカリブ海からちょっと降った孤島、トリニダード・トバゴの文化と近い関係にあるんですよね。つまりラテン的要素が少ない。まあ、これはスペイン語圏のキューバと英語圏のバハマ&トリニダードの違いとも言えるのだろうけど、ジェイムズ・ブラウンやザ・ミーターズ、クール&ザ・ギャングといった '有名どころ' を、どこか南国の緩〜い '屋台風?' アレンジなファンクでリゾート気分を盛り上げます。ジャマイカの偉大なオルガン奏者、ジャッキー・ミットゥーとも少し似た雰囲気があるかも。しかし何と言っても、この一昔前のホテルのロビーや土産物屋で売られていた '在りし日の' 観光地風絵葉書なジャケットが素晴らし過ぎる!永遠に続くハッピーかつラウンジで 'ミッド・センチュリー・モダン' な雰囲気というか、この現実逃避したくなる 'レトロ・フューチャー' な感じがたまりません。そんなバハマといえば首都のナッソー(Nassou)、ナッソーといえば 'Funky Nassou' ということで、この 'カリビアン・ファンク' で最も有名なのがバハマ出身のファンクバンド、The Bigining of The End。1971年のヒット曲で聴こえる地元のカーニバル音楽、'ジャンカヌー' のリズムを取り入れたファンクは独特です。このジャンプアップする 'Funky Nassou' 一曲だけでカリブの泥臭くも陽気な雰囲気はバッチリ伝わっており、その優れたファンクを全編で展開したデビュー作以後、ディスコ全盛期の1976年にバンド名そのままの2作目をリリースして消えてしまいました。そんなカリブとファンクを繋ぐ結節点として、港町ニューオーリンズで開花したセカンドライン・ファンクの源流に当たるプロフェッサー・ロングヘア1964年の 'Big Chief' のシンコペイトするリズムを聞いて頂きたい。この縦に揺れるマーチング・リズムを叩き出すスモーキー・ジョンソンの '直系' としてザ・ミーターズのジョゼフ 'ジガブー' モデリステがおり、それはまた同時代のラテンで起こったソン・クラーベからブーガルーの8ビートに混ぜ合わせられる 'メルティング・ポット' の過程と対を成します。







そして中南米から大西洋を渡り北アフリカへ上陸!。エチオピアから '昭和の哀愁を持つ男' (笑)ムラトゥ・アスタトゥケを始めとした、この懐かしくも夏祭りの叙情溢れる 'エチオピアン歌謡グルーヴ' で厳しいコロナ禍の夏を乗り切りましょう。ジャマイカで推進されたラスタファリ運動の神ジャーの '化身' として推戴されていたのがエチオピアの皇帝、ハイレ・セラシエ一世だったということで、なぜかジャマイカもそうなのだけど、彼らと日本の音楽が持つ '演歌性' の親和感って一体どこで繋がっているのだろうか?(謎)。そのジャマイカといえばスカ、ロック・ステディから初期レゲエ期を支えたヴァイブ奏者、レニーヒバートも素晴らしい。この夏の夜の盆踊りとムラトゥ・アスタトゥケやヒバート...不思議とハマってきませんか?。そんなアフリカへの日本の '回答' としては、歌謡ジャズ・ヴァイブの至宝、平岡精二とブルー・シャンデリアの '謎の女B' でお別れです。怪しくブッ飛んでます(笑)。













チャカポコと一定のテンポを刻むリズムボックスが、ひんやりとした午睡のロビーで直射する陽射しからわたしを遠ざけ眠りへと誘ってくれます...。ジ・アップセッターズの 'Chim Chim Cherie' では、Korg Mini Pops 3のOEMであるUni-Vox SR-55にShin-eiのOEM品である木目調が素敵な4 in The Floor Percussion Comboのロールする 'Snare Drum' を組み合わせております。また、Maestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-2の 'Clave' を 'One Punch' で鳴らしております。さあ、コロナ禍開けの '夏休み'。誰かすぐにホテルを手配して航空機チケットをわたしに送ってくれ〜。今夜一眠りして、翌朝目が覚めたら一面、突き抜ける青空と青い海、降り注ぐ日差しを浴びながらプールサイドで寝そべっていたらどれだけ気持ち良いだろうか。定番のハワイやバリ島はもちろん、豪華な巨大クルーズ船の旅のパッケージツアーでは、やっぱりカリブ海の西インド諸島周遊に人気が集まっているんですよね。















Hikari Instruments Analog Sequencer Ⅱのトリガーを軸に 'Pingサウンド' を生成する同工房のPing Filterから、Bastl Instrumentsによるコンパクト・ペダルとの 'インピーダンス・マッチング' ともいうべきHendriksonを介してMaestroのRhythm 'n Sound for Guitar G-1をチョイス。本機はエフェクター黎明期と ' サイケな時代' を象徴するカラフルなスイッチを備えた仕様として、ファズとオクターバー、3種のトーン・フィルターにギターのトリガーで鳴らすリズムボックスを加え現在まで異色のユニットとして時代の評価に埋もれたままの存在となっております。1968年登場のG-1はBass Drum、Bongo、Brush、Tam-bourine、Claveの5つのパーカッションを搭載し、この時代では先駆だったオクターバーにして 'ウッドベース' のシミュレートとも言うべきString Bass、Fuzz Bassの2種、そして 'ワウ半踏み' 風なトーン・フィルターのColor Tonesを3種備えておりました。このG1も翌69年にはG2として大々的にヴァージョンアップし、より 'マルチ・エフェクツ化' します。G2ではパーカッションからBass Drumを省きオクターバーもString Bassひとつになった代わりにMaestro伝統のFuzz Toneを搭載、Color Tonesも2種に絞られた仕様となりましたね。そしてBugBrandのローファイなPT Delayでダビーな音像と多彩なリズムへの変調を開始します。このHikariのPing Filterはその名の如く "ピン!" と鳴る磨き上げた球のような質感がたまりませんね(笑)。これらをトリガーすべくHikariの8ステップ・シーケンサーAnalog Sequencer Ⅱがリズムの中心であり、本機は各ステップごとにCV入力があり、その各ステップ個別に外部のCVから制御することが可能。上昇、下降各々の調整と独立したGride(ポルタメント)を内蔵しているので、ピッチ上昇のみのポルタメント、Gateを入力すればARエンヴェロープとしても使えますね。Gate出力はPWM(内部クロック時のみ有効)によりGateの長さが調整可能です。とりあえずルーレットのようにクルクルと回るLEDがカワイイ(笑)。しかし、どんどんメトロノームのようにシンプルなセッティングへと原点回帰しておりまする(苦笑)。







追加のエフェクツとしてこちらの4つのモジュールで音作り。Error Instruments Broken Tapeと2hpの細長い2つのモジュールFreezとRnd、そしてGotharman's Musical Instrumentsの強力な真空管とICのハイブリッドなフィルター、Gotharman's Euroboardでリゾナンスの効いたVCF 2が強力なフィルタリング。ここでの基本はBroken Tapeでチリチリ、グシャッと破壊したフレイズをFreezのスタッター効果で切り出しながらRndのランダマイズなシーケンスでコントロールすること。Rndの 'Smooth' と 'Quant' を個別の電圧で出力することで、シンプルだけど予測不能なリズムが飛び出します。












これまで基本的には 'リファイン' によるリイシューで、それとは別に個別オーダーとしてヴィンテージ・スタイルでの '特注品' を手がけていたBuchla Music Easel。ヴィンテージのオリジナルは1973年にわずか25台が製造され、その後は個別オーダー?への対応をすべく1978年まではカタログに記載されていたようです。最近ではタッチセンサー型鍵盤をカットしたEasel Commandへと生産体制は移りましたが、なんと本機誕生50周年を記念して 'オリジナル風リイシュー' (MIDIなど現代的 'リファイン' の機能はそのまま)を限定復刻するとのこと。これまでの黒いポリカーボネード樹脂によるアタッシュケースから粉体塗装を施した青いアルミ製ケースに組み込み、Model218のタッチセンサーTouch Activated Voltage Sourceのプレートが金色のメタリックなヴィンテージを踏襲したものになっております。そしてヴィンテージならではの監視用の電圧メーター装備、と。これまでにも 'Roman Clone' と呼ばれるEric Loganにより組み込まれたヴィンテージ復刻ものはありましたが、やっぱこのヴィンテージのスタイルは格好良い。ほんとBuchlaは最初からこのカタチで出せよ、と。代理店であるFive Gの商品ページを見るとModernとRetroの2機種展開による通常版に比べ、50周年記念の限定ヴィンテージ仕様は約160万...こりゃ高えなあ(汗)。










さて、エフェクター最初の黄金期を迎えたともいえる1960年代後半のロックによる '世界同時革命' は、まさにサイケデリックの価値観を '1粒の世界' で具現化した幻覚剤LSDの服用による '意識の拡張' から多くのパラダイム・シフトを呼び越しました。まだ、日本と欧米には距離が開いていた時代。直接的なLSD体験もないまま、世界の誰かが同時多発的に似たようなアプローチで探求していたものを各々応用した後、いくつかのメーカーから電子的にシミュレートした機器、エフェクターが発売される流れとなっていたのがこの黎明期の風景でした。その嵐のような季節の中心で、ドン・ブックラの手がける機器から50年以上の時間を経て '小さな付着物' によりもたらされた幻覚・・怖い。わたしのMusic Easelのパネル面に '怪しい物質' は塗られておりませんが(笑)、あの 'サマー・オブ・ラヴ' の季節にケン・キージー&メリー・プランクスターズ主宰の '意識変革' の場として機能した 'アシッドテスト' でSEを担当したドン・ブックラ。最先端のNASAから極彩色に塗れたサイケデリアの世界へ 'ドロップアウト' した彼の姿を、ノンフィクション作家トム・ウルフの著作「クール・クールLSD交換テスト」ではこう述べられております。

"突如として数百のスピーカーが空間を音楽で満たしていく・・ソプラノのトルネードのようなサウンドだ・・すべてがエレクトロニックで、Buchlaのエレクトロニック・マシンもロジカルな狂人のように叫び声をあげる・・(中略)エレクトロニック・マシンのクランクを回すと、なんとも計算できない音響が結合回路を巡回して、位相数学的に計測された音響のように弾き出された。"


このダビーな音像によるコロコロと奏でるスティールパンと浮遊感のあるフェンダーローズ、エレクトロなヴォコーダーの絡みがとっても気持ち良いなあ...。なるほど、ヴォコーダーはRolandのヴィンテージなSVC-350で、一方のローファイなブレイクビーツはRolandのSP-404SXで流してるのか...。もっと再生数伸びても良いくらいカッコいいサウンドやってると思うんだけど、昨今の人たちにはあんまり訴えないのかな?(謎)。いまフル・アルバムを聴きたいアーティスト・ユニットのひとつなんですけどパンを奏でる渡辺さん、本業はお坊さんだったんですね(凄)。ちなみにスティールパンの側に転がってるクイーカというブラジルの民俗楽器も面白いです。マイルス・デイビスのステージで後方に座り一心不乱に擦るアイルト・モレイラの姿を思い出す人もいるでしょうが、これはバケツや樽に山羊や水牛などの皮を張り(近年はプラスティック打面もあり)、その真ん中へおっ立てた竹ひごを濡れた布(ウェットティッシュなども最適)でゴシゴシ擦ると例の "クック、フゴフゴ・・" と鳴るプリミティヴな打楽器。皮の打面をチューニングしながら指でミュートすることで音程を変えることも可能で、大きさで人気のあるのは大体8インチ、9.25インチ、10インチのもので大きいほど音量も大きくなります。バケツ側の素材は昔は樽を用いたこともありましたが、その他ブリキ、真鍮、アルミ、擦る手元の見える透明のアクリル樹脂などありますが、一般的なのはステンレスですね。そんなクイーカの音色といえば最近、あの無口なノッポさんの訃報が告げられましたが、30代後半以降の世代ならNHK教育TV 'できるかな' に登場するキャラクター、ゴン太くんの鳴き声として記憶にインプットされているでしょう。その '音比べ' の動画では順にContemporaneaの9.25インチステンレス胴(プラスティック打面)、Lescomの9.25インチ真鍮胴(山羊革)、Art Celsiorの9.25インチブリキ胴(水牛革)で鳴らしておりますが、これだけでも結構な音質の違いが分かると思います。わたしはブラジル産のArt Celsior製8インチのステンレス胴(山羊皮)を入手し、さらに日本で 'アンプリファイ' した打楽器専用のピックアップを製作するHighleadsへ連絡。通常はPearlの8インチに加工済み製品をラインナップしているのですが、工房主宰のともだしんごさんに特別にCube Micをわたしのクイーカの胴へ穴を開けてXLR端子(オス)を加工、装着して頂きました。




地球を周回する人工衛星が一周を1時間半で巡る俯瞰した世界は、そのまま赤道をなぞる子午線が描き出す '真夏' の記憶として切り取られていく...サム・ゲンデルとアート・リンゼイ。ああ、まるで宇宙遊泳をしているようなこの無重力感。強烈なノイズを生成するDanelectroのHawk 12 Stringギターが実はアートの原風景であるブラジルの打楽器、ビリンバウから発案されたことはあまり知られておりません。この引っ叩いたような '鉄弦っぽい' ギターのノイズ生成としてProco RatとDigitech Whammy、他にAkai Professional Headrush E2やMasf PedalsのPossessedなども一時使っていたことがあるようです。そんなボサノヴァが持つ '余白' と浮遊するコードの魔力に対する異化効果としてのノイズ、一方でピッチシフティングしたような伸縮するサムのサックスの '電化' にはドイツのRumberger Sound Products K1Xピックアップが装着、どこかねじれた空間の表出こそこの2人の個性でしょう。





わたしも好物の 'テープ・コンプレッション' の世界。さすがにStuderのレコーダーとAmpexのオープンリール・テープを揃えて...なんてことは出来ませんが、ここ最近はこの手の分野でDSPテクノロジーを最大限に活用した 'プラグイン' により豊富な '質感生成'を可能とします。これは、そのまま昨今の市場で人気を博している 'ローファイ・ペダル' へと反映されており、イタリアの工房TEFI Vintage Lab.から登場したGolden Eraが素晴らしい。本機はTemplesのリーダーであるJames Edward Bagshawのアイデアから生み出されたもので、6つのツマミのうち 'WOB.dpt' でテープの摩耗と不安定なワウ・フラッターの再現、'WRP.dpt' でその音ズレの深さを調整しながら 'Noise' を混ぜて行くことで歪んだ世界を表出します。そして、サチュレーションやテープコンプの '質感' をDSPテクノロジーにより再現、この分野でのヒット作となったのがStrymonの 'tape saturation & double tracker' のDeco。去年にその音質をブラッシュアップしてMIDIにも対応したマイナーチェンジ版のV2は、これまでの 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleの 'テープ・フランジング' に加え、新たに搭載された 'Cassette' モードが好評とのこと。このStrymon各製品は楽器レベルからラインレベル、そして入力に 'インサート・ケーブル' を用いることでステレオ入出力にも対応とあらゆる環境で威力を発揮します。









Ampex 456テープとStuder A-80マルチトラック・レコーダーによる '質感' をアナログで再現したRoger Mayer 456は、オープンリール・テープの訛る感じとバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションに特徴があります。本機の大きなInputツマミを回すことで 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここからBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整。キモはその突っ込んだ '質感' を 'Presence' ツマミで調整する音抜けの塩梅にあります。そして、この手の 'エミュレータ・ブーム' の先鞭を付けたのが、アウトボード機器の伝説として現在まで引き継がれるルパート・ニーヴが新たに始めた 'Porticoシリーズ'。その中でも最も大きな話題と共に数々のスタジオのラックに収められたPortico 5042は、そのモチッとした 'テープ・コンプレッション' とラインアンプの組み合わせで馴染ませた '質感' を生成してくれます。発売当初はその高級品ともいうべき高価なアウトボードで手が出ませんでしたが、最近その貴重な '初期カラー版' の一台を安価で手に入れることが出来ました(涙)。操作はそのコンプレッションの突っ込み具合を調整するゲインと共に、オリジナルのレコーダーで回るテープ速度(のキャラクター)をエミュレートした '15ips' か '7.5ips' を各々選ぶのみ...簡単。しかし効果は帯域のスパイス的操作からローファイな '飛び道具' まで絶大な威力を発揮します。ちなみにここでは 'テープ・コンプレッション' の突っ込み具合をあれこれ弄るべく、パッシヴのヴォリューム・コントロールで2つのプリセットを切り替えるNeotenicSound PurePadも用意しておりまする。








そういや、ここ一ヶ月以上ペダル買ってない...ヤバイなあ(って何が!?笑)。まあ、それほど触手が伸びなかった&部屋が手狭になってきたので意識的に物欲を控えていたのだけど、このワケわからんブツは 'ぶっ壊れたファズ' というべき代物ながらその放出されるサウンドがかなり格好良し。シンプルなパラメータだけどその説明は難しい...ということで取説から頂きましょう。

R - Tuneパラメータの可変幅を切り替える。(1,ノーマル、2.拡張)
F - Wetにかかるヴォイスフィルター(300〜3kHz)のOn/Offを切り替える。(0.Off、1.On)
T - 1/8インチミニプラグCV Input

Tune、Shift、Drive、Rコントロールは非常にインタラクティヴである。
Driveツマミを高くすると多くのアーティファクトが生成される。
Tuneは最も広く非線形なコントロールであり、最小から最大まで大きな可変幅を持つ。
TuneとShiftは相互に依存したパラメータであり、両方を微調整するとサウンドが変化する。
Rスイッチは可能性のパレットを切り替える。
Wetは意図的に位相がずらされており、WetとDryがフィルターにより相互作用を行う。
元の信号がWet側に存在する場合、Dryを加えると原音がキャンセルされ歪みの
アーティファクトだけが残る。同じ条件でフィルターを加えるとバンドパスフィルターの
Midスウィープのように変調する。

え〜っと、どうでしょう?わかりましたか?わたしはわかりませんでした(笑)。
とにかく動画を見れば、TuneとShiftを微調整することでラジオのチューニングを弄るかのようにジリジリとしたノイズが放出されます。この変調に合わせるのは先日購入したばかりの'Pedal Shop Cult Presents' によるElectrograve謹製のステレオ・ノイズマシン、Superposer  SP-1。設計者のKaz Koike氏曰く '半導体の絶叫' を具現化したノイズマシンとのことで、本機はレギュラーモデルのQuad Osscillatorから移植されたオシレータをL-Rそれぞれに4つずつ、計8つ搭載して個別にOn/Off(キルスイッチ)しながら加算、減算合成により生成させて行きます。さて本機で重要なのはステレオL-Rにより干渉させていくことにあり、周波数帯域を変調させるFilterとモジュレーションのLFOを司るRateとStabilityにより音色のヴァリエーションが変わります。まあ、いわゆる原始的なオシレータの塊なので好き勝手にあれこれツマミを触って 'ちょうど良いところ' を一期一会的に発見、チューニングしていくのが '正解' ですね(笑)。この手のガジェット的なノイズマシンというのは大抵、シンプルにしてお手軽に作ってあるもの(失礼)が多いのだけど、本機はさすがCultと思わせるこだわりの作りなのが素晴らしい。その弁当箱サイズの筐体から受ける見た目そのまま...ズッシリとめちゃくちゃ重いです!。この重厚感にして、筐体を開ければギッシリと詰まった基板の塊にニンマリしながら所有欲を満たすと共に本機がひとつの創造的な '楽器' であるというコンセプトに嘘はありません。せっかくのステレオなのでここはグリッチ系ペダルを得意とするノルウェーの工房、Pladask Elektriskから登場した4チャンネル ×  4チャンネルのマトリクス接続のMatriseでパラレル・ミックス。通常のミックスからパラレル・ミックスのほか、出力を再度入力することで生じる 'フィードバック技' など攻撃的な使い方までカバーします。これはDeath by AudioのTotal Sonic AnnihilationやFairfield Circuitry Hors D'oeuvre ?などの 'フィードバック・ルーパー' ペダルでお馴染みの機能でもありますね。てか、このクソ暑い真夏に遊ぶようなペダルじゃない...(苦笑)。









エレクトロニカの音響職人フェネスに象徴される 'グラニュラー・シンセシス' の音作りでは、ようやく 'DAWレス' のハードウェア専用機として登場したTastychips Electronics GR-1。この 'グラニュラー' の特徴であるドローン、アンビエントなパッドやグリッチの生成に威力を発揮するポリフォニック・シンセサイザーです。1ヴォイスあたり128グレイン、16のヴォイスで合計2048のグレインを生成するもので、32ビットミキシングと高音質なHiFiステレオDACを採用して7インチのフルカラーディスプレイによりリアルタイムで波形を操作することが可能です。こりゃ誰でもオウテカやヴラディスラヴ・ディレイ、ミル・プラトー・レーベルなどのクリック・テクノな音像が手に入っちゃいますねえ。しかし、その '誰でも手に入れられる' ゆえにそこで何をやるべきなのか、明確なサウンド・デザインのセンスが求められるだろうなあ...。夏にチマチマしたLCD液晶画面から離れようと言っておきながら、やはりこーいうガジェット的デバイスひとつあればフィールド・レコーディングで採取したネタからいろんな生成変化を楽しめますヨ。そして、この 'グラニュラー・シンセサイズ' のエラー的音作りとしてはElektronお得意のパラメータロックを駆使したDigitaktでも生成可能なのですが、さらにもうひとつ可愛いインターフェイスにデモ動画からもワクワクさせてくれる新製品、Nopiaもスタンバイ。では、そんなグリッチを永遠の夏のサウンドスケープにまで高めた傑作、フェネスの 'Endress Summer' に触発されて下さい...。








最近、こういう傾向の音作りがトレンドなのかな?と思わせる管楽器の 'アンプリファイ' は面白いですね。Hologram MicrocosmやMeris LVX、Chase BlissのBlooperやMood Mk.Ⅱといったここ最近の 'グラニュラーシンセシス' を得意とするペダルを共通項として、'ローファイ' なテープ・コンプレッションと共に新たなマリアージュを提示しております。LVXの4つのスイッチにアサインしたHold Pitch、Hold Wah、Hold Stutterというリアルタイム操作は、そのサウンドも素晴らしく便利で良いですねえ。管楽器の 'プレイヤビリティ' においてペダルもシンセサイズも渾然一体、すべてはサウンドがその環境を支配します。















今年初めは運良く 'ユーロラック版' のTalking Synth入手が叶ったことから、この 'スピーチシンセ' を発音させるべくシーケンサーをベースに最少サイズのモジュラーシステムを思案したんだった。'ユーロラック' は全くの門外漢なのでそれこそペダル・エフェクターとはまた違う実に奥行きの深い世界があり、これまた大手から限定モジュールにプレミアの付く個人製作モノまで幅広く用意されているんですよね。古の 'Speak and Spell' で有名となった 'Speech Synthesis Chip' ですけど、このFlameの第一号製品であるTalking SynthにもMagnevation LLCにより製造された古いアナログの 'Speakjet Chip' を2つ装備していることからプレミアが付いておりまする。当初はTalking SynthをBastl InstrumentsのThymeからMIDIで発音含め、緻密にプログラミングしてコントロールしたかったもののMIDI to CV Converterなど大掛かりになりそうなので断念...。モジュラーならではのCV/Gateによるランダマイズなシーケンスの '飛び道具' として、ThymeとのCV同期も活かしながら簡単な使い方に終始しております。また、ケースの電源スロットをもう1つ追加してエンヴェロープ・フォロワー(例えばSynthrotek ADSRなど)も入れたかったのですが、これもThymeにCVで同期してこっちのエンヴェロープでソレっぽくかけるだけに留めました(笑)。このモジュール導入のきっかけとなったのが、現代音楽の作曲家にしてオノ・ヨーコの元旦那でもある一柳慧氏のブッ飛んだ1969年の作品 'Music for Living Space'。ここでの京大工学部が作製した初期コンピュータによる辿々しい ' スピーチ・シンセサイズ' のヴォイスとグレゴリアン・チャントの錯綜が面白い効果を上げておりまする。ちなみにここで読まれるテキストは建築家、黒川紀章氏による1970年の著作「黒川紀章の作品」から 'Capsule'、'Metabolism'、'Spaceflame'、'Metamorphose' の章を各々読み上げたもの。そんなTalking Synthの発音に威力を発揮するのが、HikariのAnalog Sequencer Ⅱと組み合わせるユークリッド・シーケンサーEucrhythm。グリッチ系のリズムということで本機は 'デュアル' ということで2つのシーケンスを搭載し、各々StepsとPulesの2つのツマミによりループの長さと1ループの出力数を設定してポリリズミックなリズムを生成。そしてPulse Width横のスライダーでGateの長さの変更、Gate Delayによりクロックの1/16のタイミングでその出力が遅延してクロックからズレたリズムを吐き出します。またこれらはCVコントロールが可能。A、Bの2チャンネル出力、AとBのORとAND(論理和)のロジック出力により合計4種類のパターンを生成し組み合わせることで様々なリズムを堪能することが出来まする。そのEucrhythmは内部クロックを備えていないのでAnalog Sequencer Ⅱからクロックを貰って駆動させるかたちとなります。






さて現在、目下捜索中のペダルたち... 'WANTED' 。

基本的にヴィンテージの '秘境' を旅するモノばかりなんですが、やはりエフェクター黎明期という '海千山千' の混交した状況ではブッ飛んだ発想を持ったビルダー、工房があったことを現代の我々に教えてくれます。現代音楽の世界ではテープによるミュージック・コンクレートから剥き出しのオシレータを駆使した実験に勤しみ、その後ファズとワウがようやく '時代のサウンド'として持て囃されて、その狭間に産み落とされた製品は技術者のアイデアだけが横溢したチャレンジ精神のまま記憶の彼方へと消え去っているのが現状です。現代の活性化したペダル市場の裏で代わり映えのしない製品が並び、それは飽和したカテゴリーから新しいモノが生まれにくい時代であると揶揄される一端でもあります。一方で実は50年も前の製品が大した評価もなく埋もれているという '考古学' の世界があり、それは未だ陽の目を見ない状況においてこれから触れるであろうユーザーに対し過去からの '挑戦状' として待ち構えているのです。ちなみに直近で海外から購入したブツのひとつがドイツ産の謎なマルチ・エフェクツ・ユニット、Schaller Jet Noiser。本機の基本的構成はChorus/Vibrato + Tremoloのモジュレーション系なんですが、しかし主張するのは '揺れ' ではなく '歪み' ということで 'Jet' と 'Noise' の2つのパラメータでホワイトノイズの 'Filter Matrix' 効果をメインに置くというSchallerの狂った一台です。チープなプラスティック製のアタッシュケース型筐体ですけど、当時としては最先端の静電容量によるタッチセンサーの各モード切り替えがかなり不安定...思い通りの反応を示してくれません(謎)。ま、こーいう '不機嫌さ' もヴィンテージと付き合う楽しみだったりするのですが、むしろ惹かれるのは当時の製作陣が抱えていた '視線' の重要性の方だったりします。なぜ、こんなモノを作ったんだろうっていう...(笑)。






                                                      - Ace Tone Multi-Vox EX-100 -

国産初のファズボックスを製作し、後に独立してRolandを設立する梯郁太郎氏が手がけたブランド、Ace Toneことエース電子工業株式会社。Fuzz MasterやWah Masterは知っていてもこの管楽器用オクターバー、Multi-Vox EX-100を製作していたことはほとんど知られておりません。当時、39,000円というあまりにも高価格の設定とそのニッチな需要から現在までこの実物を見たことがないのですヨ。当時の雑誌広告など資料は揃えましたがあのEffects Databaseにも未だ網羅されていない為、どなたかより詳細な本機の情報を求む(実際に使用した日野皓正さんや村岡建さんはもう忘れてるだろうなあ...)。今のところ、唯一の音源として残されているのは1970年に日野クインテットが手がけた東宝映画 '白昼の襲撃' のO.S.T.盤。そのタイトル曲である 'Super Market' (3曲目)から日野さんの吹くソロで影のように追従する蒸し暑いオクターヴトーンが聴けますけど、これはオクターヴのカットされた45回転シングル盤とは別テイクのミックスでO.S.T.盤でしか味わえない貴重な音源となります。当時、Yamahaトランペットのベル横側に付属のピエゾ・ピックアップPU-10(3,000円)を自ら穴を開け取り付けたことがジャズ誌で述べられておりました。

Ace Tone Mic Adapter MP-1

そんなMulti-Voxと組み合わせて使うモノなのかは分かりませんが、Ace Toneから同時期発売されていたのがMic Adapter MP-1という2チャンネルのアクティヴDI(9V電池駆動)。入力ゲイン自体低く設定されておりH.I.、L.I.各々2つずつ計4つの入力があるなどミキサーとしての機能も備わっております。出力がバランスのXLRではなくアンバランスのフォンなのは古い時代ならではですけど(苦笑)、本機の使い方を考えてみれば管楽器のベルに立てたダイナミックマイクの収音をCh.1のL.I.、Multi-Voxからピエゾ・ピックアップで収音したものをCh.2のH.I.に入力してミックスするということでしょうか?。ちなみにわたしの所有品の出力ケーブルは柔らかかったです(笑)。



                                                            - Carlin Ring Modulator -


1970年代初めにスウェーデン初のビルダー、ニルス・オロフ・カーリンの手がけたブティックペダルは各々100台前後製作されたPhase PedalとCompressor(すでに入手済)。これだけでも超絶レアものですけど当時、オーダーによりわずか3台しか製作されなかったのがこのRing Modulator。現行のリング・モジュレーターの大半が2つの入力の和と差をマルチプライヤー(乗算器)という回路で掛け合わせ非整数倍音を生成し、これらを掛け合わせるためのキャリア内蔵が一般的ですけど、本機はリング変調の原点に則ってA、Bふたつの入出力を掛け合わせて音作りをする珍しい仕様。2016年に同地の工房Moody Soundsから復刻の決まったCarlinのペダルは、その製作者本人の監修のもと現代風の仕様にブラッシュアップされてようやく陽の目を見ます。本機も当初はオリジナル通りのレイアウトで復刻されましたが、すぐにA、B各々でレベル調整出来る仕様へと変更されて使い勝手が向上しました。1970年代に製作されたヴィンテージの3台を見つけることはさすがに無理ですが、復刻に際して当時のパーツでカーリン本人の手により2013年に 'リビルド' されたものを探しています(Moody Soundsは1,850クローネでこれを販売済)。しかし、オーダーまでした当時の3台...何処に行ったんだろうなあ。想像するに当時20代であったであろうスウェーデンの若者も、今や70代の終活世代なのは間違いない。汎用性の乏しい特殊な効果だけに一度使用して棚の奥に仕舞われたままか、すでに遺品として残された家族の手によりゴミ箱へ捨てられてしまったか...。




                                                             - Jennings Cyclone -

英国のVoxとも深い繋がりを持つJenningsは、独創的な操作で俗に 'ツイスト・シリーズ' とも言うべきラインナップを展開しました。ワウのGlowlerやトレモロのRepeaterはすでに知られた存在でしたが、このシリーズには思いも寄らない '飛び道具' で不意打ちが仕掛けられていたことを忘れてはいけません。Cycloneと題されたこのマルチエフェクツは、ワウファズに加えてなんと 'Silen' と 'Tornedo' のノイズ効果を搭載。はて?この効果といえば我が日本から世界に発信されたマルチエフェクツ、Super Effect HA-9Pとの関係性を知りたくなるのが人情というもの。その '卵が先か鶏が先か' の真意は未だ藪の中ですが、このレアペダルをJHS Pedals主催のジョシュさんのコレクションから動画で開陳したことでわたしの '指名手配' に加わりました(笑)。ちなみに本機のシリーズとしては、ロータリー効果による 'フェイズワウ' の姉妹機Bushwhackerというペダルも用意されております。

                                                            - Honey Special Fuzz -

先駆的な日本を代表するメーカーのHoney。元Tiescoの社員を中心にわずか2年半もの短い生涯だったこの会社は、アッパーオクターヴ・ファズのBaby Crying、Crierワウペダル、飛び道具的効果のSuper Effect HA-9P、スプリング・リヴァーブとトレモロのラック版Echo Reverb ER-1P、あの 'Uni-Vibe' の源流であるVibra ChorusとHoneyの集大成的マルチエフェクツを誇示したPsychedelic Machineと、その類を見ないラインナップは世界の先端を突っ走っておりました。その中でもファズとエンヴェロープ・フィルターを組み合わせてしまったSpecial Fuzzは相当な '曲者' であり、この一定の周期で変調する 'オートワウ' 風の歪みでMusitronics Mu-Tron Ⅲが開いた時代を先取ります。



                               - Blackfield Orchester Elektronik Rotor Effekt / Flying Sound -


パッと見でおお、コレは新映電気のOEMか!?と早とちりするのも無理はない 'ダブルラバー' のペダル部分は、よ〜く見れば少しだけ細身のゴムが貼られていて似て非なるものだったりする...。この1970年代のドイツ産モジュレーション、ファズ・フェイザーの2種である本機たちは、その出所不明なレア物として君臨しながらどこか 'Uni-Vibe風フェイズ' なのが謎を増幅させております。サイケなフォントであしらわれたFlying SoundとポップなフォントのRotor Effektに装備されているのは、旧ソ連製ペダルを思わせるローター型パラメータとドイツ産をアピールする質実剛健で無骨な筐体により製品としての品質の高さを伺わせますね。







                              - Sound Pedals ES-1〜ES-4 -

1960年代のロックとLSD、その '追体験' ともいうべきエレクトロニクスによる '世界同時革命' の熱病は世界に広がり、それは遠く南米ブラジルの地でも花開くこととなりました。いわゆる 'トロピカリア' と呼ばれるムーヴメントによりオス・ムタンチスを始めとした数多のロック、R&Bバンドが到来、それに呼応するように同地初?のブランドとして1960年代後半から1980年代半ば頃まで楽器メーカーとして君臨していたSound Pedals。その中でもファズワウ、トレモロ、フェイザー、あのHoney Super EffectやJennings Cycloneとの '同時性' を感じさせる 'Siren' 効果などを盛り込んだES-1からES-4に至るシリーズはユニークです。そのチープな旧ソ連製ペダルを思わせる筐体に欧米のペダルとは一味違う仕様が、そのまま荒い '持ち味' として南米産ならではの出自を誇示しております。ブラジルといえば1970年代後半には 'エレハモ' 風筐体を持つGiannini、Bossのパクリとして代理店のタハラが扱ったOnerrや現在でもユニークなパッケージングでペダルやアンプ製作を行うMG Musicなどがあり、実は南米もアルゼンチン(Sonomatic、Dedalo Fx)やウルグアイ(Maneco Labs)含めて活発な 'ペダル大陸' だったりするのです(カリブ海の中米まで含めればドミニカの工房Copilot Fxもあります)。







                                                              - EMS Synthi Hi-Fli -


あのデイヴィッド・コッカレルの傑作!。英国のシンセサイザー・メーカーEMSの手がけた初期ギターシンセサイザーであります。レアですが手放すユーザーがいることで不定期ながら市場で見かけるものの、伝説的なEMS製品ということもあり基本的にどれも100万オーバーで手を出すことが出来ません...。ほぼ '投機物件' 扱いのペダルの範疇を超えたスーパーカー的存在と言って良いでしょう。その価格は年々高騰しており下がることはなく、当時のパーツを中心に 'リビルド' で復刻するDigitana Electronics(EMSのリビルド部門会社)のものも長い順番待ち状態...(現在EMS製品には所有履歴の追跡できるギャランティカード必携)。まさにこれぞ '世界で一番美しいペダル' であり、このデザインを見れば確実に萌えるだろうAppleとのコラボで電源Onと共に '🍏マーク' の光る 'Apple / EMS Synthi Hi-Fli' の復刻版を期待します(笑)。






The History of Paradis Guitar Sound

こちらはオリジナルの入手(そもそも世界で一台)というより、どこかの工房が発案者のイルミン・シュミット監修で '完全復刻' を期待してのご紹介。謎めいた 'ワンオフ' のシグネチュアモデルとしてクラウト・ロックのバンドCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案による巨大な創作サウンド・システム、Alpha 77を早く解明して頂きたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、動画はダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴのスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。シュミットが弾いている右手はFarfisa Organとエレピ、伸ばす左手の先で操作する黒い壁のようなモジュールがそのAlpha 77であり、製作を請け負ったのはスイス・チューリヒにあったHogg Labsという会社でした。H.Hogg氏はこのシュミットの為に製作したデスクトップ型の成功をベースに簡易的な 'ギターシンセ' 版の製作へと移行、その他バンドの各種機材のカスタマイズなど一手に担っていた存在でもありました。そして、このデスクトップ型を数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたJono Podmore氏はこう述べます。

"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"





                                - Irmin Schmidt's Alpha 77 Effects Unit: build by Hogg Labs -

Irmin Schmidt's Alpha 77 Effects Unit.

またシュミット本人もこう述べております。

"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"








さて、今年の真夏ほど '狂気の季節' 真っ只中であることは間違いありません。だって直近の記憶の中からすっかり忘れていた '夏休み' が目の前に現れたのだから...そりゃ抑制された意識も飛んで気は狂うでしょうね。汗かいて陽に焼けて蝉は精一杯鳴き続ける...ビールは美味い。アスファルトは昼間の照り付けた熱気のまま真夜中の散歩道となる...その渇いた独特の匂い。これが夏本番を迎えて街中がソワソワし出す初夏の雰囲気であり、遠くから提灯の灯りと共に夏祭りの笛や太鼓が聴こえてきました。さあ、皆さま久しぶりに思い出しませんか?。