2016年2月5日金曜日

ダイナミズムを制する

いわゆるエレアコというヤツにおいて、ヴォリューム・コントロールというのは重要であると考えます。そもそもはアコースティックにおけるダイナミズムをギターならピッキング、管楽器ならブレスで調整することでヴォリュームとアタック、サスティンといったニュアンスを操っているわけです。



そこで思い出すのがアコースティック時代のマイルス・デイビス。ステージ上でスタンド・マイクに向かい、くっ付いたり離れたりミュートを擦り付けたりという、まるでカラオケでマイクを口元から動かしながら '天然ヴィブラート' をかけるかの如く繊細なダイナミズムを強調しておりました。当然、そこにピックアップ・マイクを導入すれば、今度は機械的にヴォリュームを調整することになる。そのこだわりはエレクトリック時代になっても続き、ヴォリューム・ペダルの元祖DeArmondに特注で製作してもらったことからも伺えます。というか、デイビスが一挙手一投足で指揮していたものこそ、まさにバンド全体をヴォリュームの強弱で操る 'エレクトリック・マイルス' の真骨頂でしょう。さて、そんなヴォリューム・ペダルというヤツですが、これがまた途轍もなく大きい。それでも最近はかなり小型なものも市場に登場してきており、特にペダルボードで活用する人たちのニーズが反映されたものだと言えます。

→①AMT Electronics LLM-2 Little Loudmouth
→②Hotone Soul Press
→③ROD技研 Volume Pedal Rising VPR-02

ロシアからやってきた黄色いヤツ①、香港製のワウ・ペダル、エクスプレッション・ペダル、ヴォリューム・ペダル切り替えの '一台三役' な②、東京発の下町 'モノ造り' 的発想から生まれた③などなど、どれも可愛くて魅力的なものばかり・・。しかし、そもそもヴォリューム・ペダルにとって '踏み心地' とペダルのカーブによる '立ち上がり' 設定は重要なのです。単にヴォリュームのOn/Offだけならミュート・スイッチで十分。そして、このような '踏み心地' と '立ち上がり' を提供すべく、ペダルをギアポットから紐によって可動させる、安定して足を乗せられるよう大きな踏み板とする設計がそのまま、使い心地や効果と必然的な関係を結んでいるのです。その一方でヴォリューム・ペダルの大半は、ただ繋ぐだけでバッファーの影響がかなり音色の変化を左右するものも多いのが実情。その変化を嫌がり、足元でヴォリュームを調整できる便利さは分かるものの、あえて使わない人がこれまた多いアイテムでもあります。

正直わたしも、以前はそれほどヴォリューム・コントロールに対して気にはしておりませんでした。それでも、複数のエフェクターの組み合わせによってはそのかかり方でかなりの音量差が現れることがあり、ヴォリューム・ペダルほど大げさではないもので何かないかと探しておりました。ちなみにヴォリューム・ペダルの欠点としてはサイズやバッファーの影響のほか、最初にベストなヴォリューム設定をした状態から可動させた後、瞬時に元の設定位置へ戻すのが難しいことです。




OK Custom Design VPLM ①
OK Custom Design VPLM ②
Bambasic Effectribe Volume Indicator

そのような不満に応えようと最近では、このようにヴォリュームの状態を視認できる 便利グッズ’ もあります。その視認性の高さ以外に見た目としても華やかで楽しく、チューナー・アウトもしくはエクスプレッション・アウトの端子を持つヴォリューム・ペダルに対応しているようです。また、接続する製品によっては裏面のトリマーを調整してレベル・マッチングが図れる設計のようですね(現行品は上面にトリマーが付いているようです)。そして、同様な製品としてはもうひとつ、名古屋で事細かなオーダーに対応して製作するガレージ・メーカーBambasic EffectribeからVolume Indicatorがあります。

Neotenic Sound Purepad ①
Neotenic Sound Purepad ②

さて、残念ながら動画はありませんが、わたしが導入したのは大阪で製作しているガレージ・メーカーNeotenic SoundPurepad。これは2つに設定されたプリセット・ヴォリュームをスイッチで切り替えるもので、ひとつは通常の状態(Soloと表記)、そしてもうひとつが若干ヴォリュームの下がった状態(Backingと表記)となっており、全体のバランスを崩すことなくヴォリュームを上下できる優れものになります。

メーカーの取り扱い説明書にはこうあります。

"ピュアパッドは珍しいタイプのマシンなので使用には少し慣れとコツが必要かもしれませんので、音作りまでの手順をご紹介します。アコースティックの場合は図のように楽器、プリアンプ、ピュアパッド、アンプの順に接続します。エレキギターなどの場合は歪みペダルなど、メインになっているエフェクターの次に繋ぐとよいでしょう。楽器単体でお一人で演奏される場合は、初めにピュアパッドをソロ(赤ランプ)にしておいて、いつものようにプリアンプやアンプを調整していただければ大丈夫です。ピュアパッドのスイッチを踏んで、緑色のランプになったら伴奏用の少し下がった音になります。複数の人とアンサンブルをする場合には、初めにピュアパッドをバッキング(緑のランプ)の方にして、他の人とのバランスがちょうどいいようにプリアンプやアンプで調節します。そしてソロのときになったらピュアパッドのスイッチを踏めば、今までより少し張りのある元気な音になってくれます。また、ピュアパッドを繋ぐと今までより少し音が小さくなると思いますが、プリアンプよりもアンプの方で音量を上げていただく方が豊かな音色になりやすいです。もしそれでアンプがボワーンとした感じになったり、音がハッキリクッキリし過ぎると感じたら、アンプの音量を下げて、その分プリアンプのレベルを上げてみてください。ツマミを回すときに、弾きながら少しずつ調整するとよいでしょう。

このNeotenic Soundで製作するいっぺいさんという方は、基本的に 'アンプに足りないツマミを補う' をコンセプトとしたエフェクターをラインナップしており、あくまでアンプとのバランスを取りながら設定することに強いこだわりを持っています。本機はヴォリューム・ペダルのようにOnからOffまで可動するものではなく、あくまで全開と中間のピーク・レベルを下げるものではあるのですが、個人的にはとても使いやすい一品です。当初わたしは、ループ・サンプラーでオーヴァーダブする際にフレイズが飽和することを避けるために導入したものの、宅録の際にもアンプのヴォリュームはそのままに全体の音像を下げる、もしくは歪み系やディレイと共に使う際、ハウリングを誘発する直前にグッと音像を下げるという使い方でとても有効でした。しかも本機は、ただヴォリュームをコントロールするのみならず、全体の音像をギュッと真ん中に集めて演奏のしやすくなる効果があります。特に、同じくNeotenic SoundのダイナミズムをコントロールするプロセッサーMagical Forceと共に用いることでより顕著となり、全開時の 'Solo' から 'Backing' によりヴォリュームを下げた状態にしても密度ある纏まりとエッジのバランスは崩れません。正直、もっと 'エレアコ' な楽器の人たちに知られてよいアイテムだと思いますね。

他に、ヴォリューム・ペダルにおける演奏としてはヴァイオリン奏法があります。いわゆる弓でフワッと立ち上がるような効果として今では単にヴォリューム奏法と呼んでおりますが、エンヴェロープ・モディファイアはそれを音量の入力感度により自動でかけるエフェクターとして再現しました。これはVCAとエンヴェロープ・フォロワー、コンプレッサーの機能を応用したもので、シンセサイザーの音作りで重要なADSR(Attack、Decay、Sustain、Release)という音の立ち上がりから減衰までの動きを入力感度で作用させます。フワッと入力感度に応じて反応するその効果は、ときに 'テープ逆再生風' なイメージを生成することが特徴ですね。あまり一般ウケはしませんでしたが、現在でも地味な 'ジャンル' としてマニアックにラインナップするメーカーがあります。

 

 



1970年代後半、Electro-Harmonixのエンジニアであったハワード・デイビスの手がけるAttack Decayを、本人が現在の居場所であるPigtronixで発展させたのがこのPhilosopher Kingです。CV(電圧制御)による外部との同期にも対応するなどモジュラー・シンセ的な発想が盛り込まれておりますが、管楽器でアプローチするなら・・ただでさえ入力感度にシビアなこのエフェクター、単純にヴォリューム・ペダルでフワッとやった方が上手く行くと思います。むしろわたしとしては、ディレイの後ろにこのエンヴェロープ・モディファイアを繋ぎ、音のアタックからフワッと立ち上がるような幻想的なディレイの効果をお薦めしたい。これは 'アナログ・モデリング' なディレイとして人気を博した、Line 6 DL-4 Delay Modelerにプリセットとして入っているAuto Volume Echoの効果ですね。

Hilton Electronics Volume Pedal
Lehle Mono Volume

もちろん '本家' であるヴォリューム・ペダルとして、老舗Ernie BallやGoodrich、定番のBossにJim Dunlop、Korg VP-10、それらをさらに高品質にするモディファイやオリジナルを製作するShin's Musicなどがラインナップされております。しかし、最近はこの分野でも新しい方式の製品が投入されており、従来のポットを紐の付いたペダルで可変させるシステムから磁気センサーとVCAで操作するヴォリューム・ペダルが登場しています。DC24V駆動で高品質バッファーとセンサーによるOn/Offでガリノイズを起こさないHilton Electronicsのヴォリューム・ペダル。こちらは一般的な踏み込み幅のStandardと、座って弾く人に最適なように踏み込み幅を浅くしたLow Profileの2種がそれぞれ用意されております。そして、ドイツでスイッチング・システムを中心に製作するLehleの同機種が後に続くことで、このタイプは次の時代のスタンダードを目指したものだと言えるでしょう。また、ヴォリューム・ペダルはエフェクターに対して先頭、もしくは最後尾と繋ぐ順番により効果が変わり、それぞれの入力インピーダンスに合わせてハイ・インピーダンス用とロー・インピーダンス用の2モデルを各社は用意しています。

単なる音量の操作でありながら、地味なようで確実に演奏へ反映するヴォリューム・ペダル、重要です。




Rumberger Sound Products K1X ①
Rumberger Sound Products K1X ②
Nalbantov Electronics
TAP Electronics Pick-up

さて、クラリネットなど木管楽器専門のマウスピース・ピックアップがバルカン半島中心で盛り上がっていることを以前に 'マウスピース・ピックアップの誘惑' の中で書きました。上の動画はドイツのRumberger Sound Products K1Xというピックアップで、この手のピックアップの大半がピエゾ・トランスデューサーにあって、このK1Xはコンデンサーマイクで駆動する優れたものです。近藤等則さんもコイツの存在を知っていたら、わざわざグローバルにお願いしてDPAのマイクを流用しながら苦労することもなかったことでしょう。リンク先にSalomon Helperinさんなる方のユーザー・レビューがあり 'Perfect Mic !' の5つ星満点の評価となっております。

そして新たにもうひとつ、創作楽器中心でパフォーマンスを行うLinsey Pollakさんが用いるマウスピース・ピックアップ 'Azure' がeBayで販売されております。こちらはSteve Fransisさんという方がPiezoBarrel社で開発した管楽器用マウスピース・ピックアップです。





PiezoBarrel ①
PiezoBarrel ②

ハハハ、Linsey Pollakさんはにんじんやチューブなど、口に咥えられるものは何でも楽器にしてしまうというか、これは楽しいですね(しかも結構イイ音!)。YouTuber的ループ・サンプラーの扱い方も巧みです。





ドリルでバレルに穴を開けて接着剤で真鍮のソケットを装着、そしてプリアンプ内蔵のピックアップ本体をネジ止め、使わないときは蓋をするVox / King Ampliphonicのマウスピース・ピックアップと同じ構造ですね。また取説を見ると、最初にソケット大の穴をソケット用ナットが抜け落ちないよう貫通させずに開けて、その後に細いドリルで貫通させるという2段工程のようです。

King Ampliphonic Pick-up
King Ampliphonic Pick-up 2

う〜ん、サックスやクラリネットのような分厚いマウスピースやバレルには嵌るソケットが、果たしてラッパのマウスピースの薄いシャンク部に取り付けられるか、という問題はありますケド(一応、HPのTopには木管楽器と一緒に 'trumpet' と書いてあります)。たぶん装着したら↑のリンク先にあるKing Ampliphonicを装着したラッパのようになるかも。このPiezoBarrelの 'Azure' にはドライバーで調整できるゲインのトリマーがありますが、リンク先の画像にあるラッパのマウスピースに装着したAmpliphonicピックアップにも、同様のヴォリューム操作が付いているんですね(わざわざ青丸で囲ってまでアピールしてます)。このピックアップを自ら購入して穴を開けるのはさすがにハードルが高いので是非、PiezoBarrel社にはラッパのマウスピースに接合した '加工済み' のものもeBayで発売して頂きたいです。しかし、開発者のFransisさんはラッパからそのキャリアを築き始めたというのに、なぜこんなにも木管楽器ばかりが 'アンプリファイ' の恩恵を受けるのだろうか・・(悲)。



2016年2月4日木曜日

改稿: プリアンプのお仕事

以前に書いた 'プリアンプのお仕事' がほぼ日記的な内容でしたので、ここで再度ちゃんと記しておきたいと思います。そう、管楽器にとって音の入り口、出音の最も重要な出発点であるマイクとプリアンプは重要です。昔はART Tube MPやBehringer Tube Ultragain Mic 100のような卓上プリアンプくらいしか選択肢がなかったのですが、近年はもっと管楽器に適したお手軽なプリアンプが市場に現れております。

Audio-Technica VP-01 Slick Fly

Audio-Technica VP-01 Slick Fly 1
Audio-Technica VP-01 Slick Fly 2

まずはこちら、最初に市場に現れたAudio-Technica VP-01 Slick Flyです。マイク・プリアンプにしてDI機能、そしてコンパクト・エフェクターをインサートするという仕様は、この後に登場するVoco Locoの先鞭を付けたと言えるでしょう。Slick Fly1万円前後の低価格であり、BossのPSA-100Sを始めとしたDC9Vセンターマイナス(300mA以上を推奨)の電源供給が可能です。



Radial Engineering Voco Loco

もうひとつのRadial Engineering Voco Locoは、さすがに4万円クラスのものだけあり、クラスAなプリアンプとToneLoHi2バンドEQを備えており積極的な音作りが可能となっております。ただしDC15V(400mA)のセンタープラスによる専用電源なので汎用性は低いですね(並行輸入品でご購入の方ご注意あれ)。



Eventide Mixing Link

こちらはEventideによるループ・ブレンダー機能を備えたライン/マイク・プリアンプ。ファンタム電源内蔵でコンデンサー・マイクのほか、通常の楽器入力、モバイルフォンからのライン入力にも対応しております。入力とループ・ブレンダーとのミックスは、Dry+FX(ドライ100%+ウェット)、Mix(ドライ/ウェット)、FX Only(ウェット100%)の3タイプの切り替え可能。

このようなコンパクト・エフェクター用のインサート端子を備えたプリアンプを用いるメリットは、マイクからバランス接続によりPAへと引き回すためのインピーダンス・マッチングを取った上で、ギター用のコンパクト・エフェクターを接続できることにあります。一方、プリアンプからアンバランスのフォーンで出力し、そのままコンパクト・エフェクターに繋いだ後にDIからバランスでPAへと出力する方法もあります(わたしはこれです)。こちらはきちんとしたインピーダンス・マッチングを取らないと不要なノイズなど、劣化した接続になる場合があります。基本的には 'ロー出しハイ受け' (低いインピーダンスで出力し、高いインピーダンスで受ける)という '公式' を覚えておくと良いのですが、これも製品ごとの微妙な差異がありケース・バイ・ケースですね。わたしが愛用するJoemeekのプリアンプThree Qにはバランス出力用の+4dBuと-10dBvの切り替えスイッチがあります。これはコンパクト・エフェクターへ出力する場合、アンバランスの-10dBvにしてインピーダンス・マッチングを取ることが可能となります。以下にご紹介するプリアンプはすべてフォーンによる出力を備え、別途DIと組み合わせて管楽器で用いるものですが、面倒臭い '接続の公式' に頭を悩ませたくないのならば、素直に上述したVP-01やVoco Loco、Mixing Linkを用いた方が良いでしょう。ちなみにDIに関しては個人的にパッシヴのものがベストでした。アクティヴ(電源必要のDI)にするということは、まずピックアップ・マイクをプリアンプで増幅した後さらに 'アンプ' を通ることでゲインを上げてしまうことと同義であり、音質の変化やレベルの調整に大きな影響をもたらして扱いが難しかったです。つまり、パッシヴの欠点とされたトランスによるゲインの減少を最終的にアコースティック用アンプで持ち上げる方が明らかに調整しやすかったですね。

Radial Engineering JDI ①
Radial Engineering JDI ②

さて、わたしはプリアンプからコンパクト・エフェクターを経た信号はパッシヴDI(電源不要のDI)であるRadial EngineeringのJDIにステレオで入力しております。信号を色付けせずナチュラルにロー・インピーダンスへと変換するのがパッシヴDIの特徴ですが、ゲインを下げる分トランスの品質がその音質を左右します。JDIはその名の通りJensenの高品質トランスを搭載しており、またステレオのエフェクターからの出力を受けられる 'Mono to Merge' 機能が大変ありがたい。わたしの愛用するディレイStrymon Brigadierは、原音はAD/DAを通らずに内蔵のアナログ・ミキサーでミックスする仕様で、つまり原音とエフェクト音をそれぞれ分離した状態のままJDIの方で 'モノ・ミックス' することが可能なのです。これは、BrigadierからモノでJDIに出力したものと比べると最終的な 'モノラル' 再生は同じでも、明らかに音の広がり方で違いが現れますね。



Joemeek Three Q ①
Joemeek Three Q ②

こちらは、わたしがダイナミック・マイクのSennheiser e608と共に使用中であるJoemeek Three Qというハーフラック・サイズのプリアンプ、コンプレッサー、EQ搭載の 'チャンネル・ストリップ' です。このメーカーは太さともっちりした質感が '売り' であり、本機でも従来機(VC3Q)に比べてダイナミック・レンジは広くなったものの、少々クセのあるオプティカル・コンプレッサー含めて、いわゆる 'Joemeekらしさ' は健在です。わたしはコンプレッサーは使わず、Input Gain 30ddB、Output Gain -3dBの設定をプリアンプの基本にして、-10dBvのアンバランス出力でコンパクト・エフェクターに繋いでおります。 EQは160Wのアンプを真横に置いているのでさすがにハイは抑えめの-3dB、ミッドは生音のおいしい帯域を強調すべく+5dBのブースト、可変する中心周波数のQを1kHzに設定し、ローはワウを踏むと膨らんで抜けが悪くなるのでフラットと、ほぼ補正的に用いております。ダイナミック・マイクのSennheiser e608と組み合わせるとクリアーで使いやすいですね。



Studio Projects VTB 1 ①
Studio Projects VTB 1 ②

比較的安価な製品の中で、なぜか 'Neveのような・・' という '口コミ' が広まり人気が出ているのがハーフラック・サイズの本機、Stuido Projects VTB 1です。Joemeek同様すでに10年以上経った製品ながら、真空管のトーンをツマミでブレンドできるという 'ハイブリッド' な仕様がその価値を高めています。正直、安価なクラスの真空管搭載というのは、単にアウトプットで通しているだけの無駄なノイズを付加する意味のないものが多いのですが、このVTB 1はなかなかにその 'ハイブリッドさ' を楽しめる一台です。上の動画を見ても真空管のトーン・ツマミを上げるだけでグッとエッジが出てくるのが分かります。また、Three Q及びVTB 1にはインサート端子を備えているので、ライン・レベルのエフェクター(コンパクトでは歪んでしまうと思う)であればここにインサート・ケーブル(Y型のケーブル)を用いて接続することができます。

 

Presonus Tubepre V2 ①
Presonus Tubepre V2 ②

こちらはStudio Projects VTB 1同様に真空管とのハイブリッドなPresonus Tubepre V2。GainのほかにDriveのツマミを持ち、上げていくと真空管特有のサチューレーションを付加してくれます。



Summit Audio 2BA-221

そのほか、Studio Projects VTB 1やPresonus Tubepre V2の '上位互換' 的機種として、サウンドハウスが代理店を務めるこちらの真空管マイクプリ、Summit Audio 2BA-221もあります。

Phoenix Audio DRS-Q4M Mk.2
Alembic F-2B Stereo Tube Preamp
Toshinori Kondo Equipment

そして我らが 'アンプリファイな' ラッパの師、近藤等則さんが現在使用中なのがこちらのハーフラック・サイズのプリアンプ、Phoenix Audio DRS-Q4M Mk.2です。これまでコンドーさんもいろいろなプリアンプをこだわって '取っ替え引っ替え' してきており、以前にマウスピース・ピックアップとベル側のコンデンサー・マイクのミックスで使用していた時には、Alembic F-2B Stereo Tube Preampという2チャンネルEQのものが長くラックに鎮座しておりました。これは1960年代後半、FenderのDual Showmanアンプのプリアンプ部分を元に設計された1Uプリアンプとして、特にパッシヴのベーシストに重宝された機器であります。コンドーさん的には、この2チャンネルをモノで出力できるMixアウトから足元のコンパクト・エフェクターに繋げることが重要だったのでしょう。それはこれ以降、コンドーさんが特にマウスピース・ピックアップをDPAのマイクに換装したことでより高品質なプリアンプを物色する際、コンパクト・エフェクターへ入力する為のフォン出力の備えたプリアンプを選ぶことからも伺えます。音響機器の世界で伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴが新たにRupert Neve Designsの名で手がけたプリアンプ/EQ、Portico 5032 Mic Pre/Equalizerを手始めに、それをツアー中の空港でのロストバゲージで紛失した後には、プリアンプ、コンプレッサーを備えたAPI The Channel Stripという1Uラックのものに換装、そして上述のPhoenix Audio DRS-Q4M Mk.2へと行き着きます。一時期APIを試していたとはいえ、PorticoにPhoenix Audioと基本的にコンドーさんはNeveの持つプリアンプの質感が好みのようですね。

Hosa MIT-435
Hosa MIT-176
Classic Pro ZXP212
Classic Pro ZXP212T

いや、わざわざマイク・プリアンプなど用意せずマイクからコンパクト・エフェクターに繋ぎたい!そんな極力 '無駄銭' を使いたくない方には、こんな便利なインピーダンス・トランスフォーマーという変換アダプターがあります。これはXLR(メス)とモノラルフォンをインピーダンス変換するもので、そのまま簡易プリアンプとして使うことができるんですね。Hosaは200Ω⇄50kΩ、Classic Proは600Ω⇄50kΩのインピーダンス変換となります。もちろん、これはダイナミック・マイク限定のやり方であり、コンデンサー・マイクはきちんとファンタムかバッテリーボックスなどの電源が必要となります。

2016年2月3日水曜日

‘On The Corner’ の為に - 10の欠片 -

マイルス・デイビスの踏み絵として、’On The Corner’ はいつでも新しい聴衆を篩にかけるのを待ち構えている。この黄色いジャケットの意匠は、過去といまの音楽を繋ぐ結節点として常に強い磁場を放っているのだ。以下、10枚からなるアルバムは、’On The Corner’ と同時代に生きながら、デイビスと間接的、もしくは相似的な関係を結ぶためのキーワードとなるべきものである。’On The Corner’ の難解なパズルのピースを各々見つけて頂きたい。



There’s A Riot Goin’ On / Sly & The Family Stone (Epic / Sony) 1971

1960年代後半に鮮烈なデビューを果たし、この1971年の本作でファンクの金字塔を打ち立てたスライ。しかし、大ヒットした ‘Stand !’ から一転、どうしてここまでダウナーで自閉的な内容となってしまったのか。’The Family Stone’ の名義とあるが、実際は、スライ・ストーンのソロ・アルバムとして、チープなリズム・ボックスと編集によりほぼひとりで作り上げている。’Stand !’ に続く大ヒット作ながら以後、スライという自我に苛まれる出発点となった特異な作品でもある。それまでファミリーのように築いてきたバンドが瓦解し、頂点へと上りつめることがそのまま、米国という国家が誇ってきた共同体の崩壊する姿とだぶるスライがここにはいる。ともあれ、そのようなメッセージは置いておくとしても、ここでの冷たいファンクの姿は、デイビスに強烈なイメージと共に次なる ‘On The Corner’ 創作の原動力となった。



Revolution of The Mind: Live At The Apollo Vol. 3 / James Brown (Polydor) 1971

病んでいるスライのファンクは、そのまま全米各地から多くのファンク・バンド興隆のきっかけとなったが、このマスター・オブ・ファンクことジェイムズ・ブラウンと彼の帝国も、すでに古臭くなったソウル・レビュー的ショウアップのスタイルもなんのその、そんな時代の連帯感を受けてまさに最盛期まっただ中にいた。スライの ダウナーなファンクから一転、アッパーな ファンクで疾走するブラウンの強力な統率力はしかし、一方で多くの造反者を生み出し、その巨大な帝国崩壊の足音が近づく序章となる。以降、ブラウンは狭いR&Bの世界を抜け出し、エンタテイナーの大御所としてのポジションに収まっていく。それでも、このワン・アンド・オンリーなスタイルを発明し、全員が一糸乱れずマシーンのようなグルーヴを生み出すブラウンの構成力は、何度褒め称えてもし尽くせない。その強力な統率力は、デイビスにグルーヴを司るためのバンドの扱い方へ大きな影響力を与えている。



Chitinous / The Chitinous Ensemble: Directed by Paul Buckmaster (Vocalion) 1971

原盤はDeram’On The Corner’ の影の立役者であるポール・バックマスターは、イギリスの王立音楽院でクラシックと現代音楽を専攻し、以後、エルトン・ジョンやデイヴィッド・ボウイのアレンジ、映画音楽にプログレッシヴ・ロックの分野でも広く活躍するチェリストであり、作・編曲家となる。本アルバムは、そんなバックマスター唯一のリーダー作であり、ブリティッシュ・ジャズ・ロックの精鋭たちとストリングス、インドのタブラなどが組曲形式による壮大なエレクトリック・オーケストラを展開する。ここには、明らかに ‘In A Silent Way’ ‘Bitches Brew’ からの影響力大であり、それは、‘On The Corner’ への長いイントロダクションと共にバックマスターの青写真を写す一枚となった。




Ashirbad / Badal Roy (AMJ) 1975

原盤はTrio’On The Corner’ のキーパーソンにはいろいろな名前が浮かんでくるが、終始メトロノームの如くテンポを刻むタブラのバダル・ロイの存在は大きいであろう。高音のタブラと低音のバヤのふたつのハンド・ドラムから叩き出されるグルーヴは、デイビスにとって、常に ’On The Corner’ セッション開始のキューの合図に指名され、そこに各自リズムを混ぜ合わせていくものであった。本アルバムは、当時、ロイが在籍していたデイヴ・リーブマンのバンドをバックに、インド・ミーツ・ジャズによる密やかな室内楽アンサンブルを展開するものだ。ちなみに日本制作による企画もの的一枚であり、本来はリーブマンをリーダーにするはずが、契約の関係でスピンオフ的にバダル・ロイをリーダーとした貴重なアルバムでもある。




Dancing Time: The Best of Eastern Nigeria’s Afro Rock Exponents 1973 - 1977 / The Funkees 
(P-Vine / Soundway) 1973 - 1977

原盤はAmbaNigeria EMIで、それらの音源を用いたベスト盤である。’On The Corner’ に欠けていたファンクの連帯感は、ある意味で、遠くナイジェリアの地で米国のファンクやロックに憧れながら、どこかファンクの ‘誤用’ となってしまったアフロ産バンドとの共通項がある。フェラ・クティを始め、ナイジェリアと西アフリカ一帯には数多くの部族とそれぞれに言語とリズムの伝統があり、このザ・ファンキーズも、イボの伝統的なリズムに範を取る6/8のアフロ・ポリリズムによる強烈なグルーヴと、米国のファンク・マナーにそった洗練されたビートの共存に溢れている。特に、ナイジェリアEMI時代にリリースされた7インチ・シングルのグルーヴはポリリズムの嵐で、また’Acid Rock’ という曲など、’On The Corner’ 以降のコンサートバンドで展開するオープニング・ナンバー ‘Rated X’ そのまんま、である。



Tomorrow / “Blackman” Akeeb Kareem and his Super Black Borgs (P-Vine / Hot Casa) 1974

原盤はNigeria EMI。とにかく星の数ほどあるアフロ産バンドだが、その中でも ‘On The Corner’ と近い質感を持つこのアルバムは特筆したい。1966年から1980年代までナイジェリアで活動していたブラックマンは、7枚ほどのアルバムを制作しており、本作は1974年の二作目。最近、ファンページと称したFacebookを立ち上げて健在ぶりをアピールしているが、この本アルバムでの引っくり返ったようなポリリズムの嵐はどうだろう。また、フェイザーのたっぷり効いたギターと並び、この酩酊感にひと味加える当時の最新アイテム、モーグ・シンセサイザーが、さらに ‘On The Corner’ との近似性を露わにする。そして ’Esin Funfun’ では、レゲエのスライ&ロビーによるミリタント・ビートを先取ったようなグルーヴまで披露し、現在の袋小路と言われたようなビート・ミュージックに対してアイデアの宝庫としての存在を誇示する。




King Tubbys meets Rockers Uptown / Augustus Pablo (Get On Down) 1976

原盤はClocktower‘On The Corner’ の秘術的なミックスを手がけるテオ・マセロは、遠くカリブ海の小島で、簡素な機材と共にミックスの換骨奪胎に挑んでいたダブの存在を知っていたのだろうか。ヴァージョンという名のリサイクルによるミックスの再構築は、今や、ストリートを占拠するビート・ミュージックのセオリーとして広く流布しているが、奇しくも、ダブも ‘On The Corner’ もお互いの与り知らないところで同じ到達点へ向かうシンクロニシティの存在であった。ここでは、そんなダブのスタイルを定義したキング・タビーとオーガスタス・パブロのコラボレーションによる名盤を挙げておく。このローファイな質感の中から、オーガスタス・パブロとザ・ロッカーズが提供するメロディカとリディムが、新たな素材としてすべてタビーの手により解体されていく。特にタイトル・ナンバーの、ディレイでバネの効いたようなリディムに変調されたダブルタイムと、断片となって吹っ飛んでいくジェイコブ・ミラーのヴォーカルからなる宙吊りの世界は本作の白眉だ。それまでの音楽の構造をひっくり返したダブの方法論がここにある。




Ceylon c/w Bird of Passsage / Karlheinz Stockhausen (Chrysalis) 1975

‘On The Corner’ に強い影響を及ぼしたシュトゥックハウゼンだが、その逆に、シュトゥックハウゼンへはどのように波及したのだろうか。この1975年の小品は 直観音楽と称して、従来のセリーや図形楽譜からのコンテクストを脱し、即興演奏をさらに直観なる哲学に基づいたコレクティヴ・インプロヴィゼーションにより イメージの具象へ挑んだものである。1970年の大阪万国博の帰りに立ち寄ったスリランカでの体験を元に書いた ‘Ceylon’ と、1975年の ‘Bird of Passage’ B面に配されているが、その ‘Bird of Passage’ の方に、何と息子のマルクスが ‘On The Corner’ に触発されたようなアンプリファイによるトランペットで参加している。クラシックと現代音楽を専攻し、父親の難しいスコアも吹きこなすマルクスだが、一方でジャズにも強い関心を持ち、当時、自らのジャズ・ロックのグループで活動していた。また、本盤ではカールハインツ自らも民俗楽器のKandy Drumやフルートを持ち、演奏に参加しており、ワウワウの効いたトランペットと無調によるエレクトロニクスが錯綜する中、まるでデイビスとシュトゥックハウゼンの擬似共演を聴いているようでもある。




Tales of Captain Black / James “Blood” Ulmer (DIW) 1978

原盤はArtists House。孤立無援であったマイルス・デイビスのエレクトリック・ファンクを継いだのは、何と、あのオーネット・コールマンであった。1975年の活動休止以降、コールマンは自らのエレクトリック・バンド結成のためにレジー・ルーカスとマイケル・ヘンダーソンに声をかける。結局、バンド加入とはならなかったが、ルーカスは同郷のベーシスト、ジャマラディーン・タクマをコールマンに推薦する。1976年の12月にフランスのパリでスタジオに入り、そこから ‘Dancing In Your Head’ ‘Body Meta’ の2枚が生み出されたが、これは ‘On The Corner’ に対するコールマンの遅い返答ともいえる。本アルバムはコールマンの愛弟子、ジェイムズ “ブラッドウルマーの初リーダー作であり、コールマン本人はもちろん、タクマや息子のディナードらとの小編成で ハーモロディクス流ファンクの最もソリッドでプログレッシヴな姿を披露する。伸び縮みするようなファンクやアフロの感覚が、フリーフォームと共に当時の潮流であるパンク、ニューウェイヴとぶつかる様は実に刺激的だ。




Susto / Masabumi Kikuchi (Sony) 1981

マイルス・デイビスのエレクトリック・ファンクに強い憧憬を示し、また、ニューヨークに移住してギル・エヴァンスとの交流を経ながら、デイビスの長期隠遁時期、ラリー・コリエルやTMスティーヴンスと共にデイビスとのセッションに参加した菊地雅章。1976年の ‘Wishes / kochi’ では、日野皓正を始め大挙デイビスの元エレクトリック・バンドのメンバーを集めて、デイビス流のエレクトリック・ファンクと雅楽による和の折衷主義に終始した世界観を提示したが、1981年の本作では、いよいよ ‘On The Corner’ の方法論を用いて、完全にオリジナルのポリリズムと編集によるファンクの脱構築を確立した。また同時期、ほぼ同じメンツによる日野皓正の ‘Double Rainbow’ も同様のコンセプトの姉妹盤である。そして ’On The Corner’ へのオマージュ的内容となったこの年、マイルス・デイビスは6年もの長い沈黙を経て復活する。