2016年12月5日月曜日

わたしの '道具箱'

さて、いろいろと述べてきたラッパの 'アンプリファイ'。実際にやってみようと思ってもその手の '解説書' というのはないので途方にくれた方も多いかと思います。もちろん、わたしもそのひとりでして、ひとりコツコツと 'トライ&エラー' しながら現在のサウンド・システムを構築しております。そこで、過去の記事の中でも折に触れて述べてきましたが、ここで改めてわたしが現在用いている環境 - My Equipments - をザッとまとめてみました(ほぼ接続順の並びです)。トランペットのセッティングではありますが、サックスでも参考になるかと思います。

PAに送ってラインによる音作りで再生するのならともかく、自分の横にアンプを置いて鳴らそうという場合にコンデンサー・マイクというのはやっかいな代物です。そのダイナミックレンジの広い収音が仇となりハウリングに悩まされるのですから・・。そんな時に便利なのがダイナミック・マイク。基本的に管楽器用のグースネック式マイクはコンデンサー・マイクが一般的ですけど、このSennheiser Evolution e608は数少ないグースネック式のダイナミック・マイクで大変重宝しております。スーパーカーディオイドの指向性で、ShureのHPの説明によれば "カーディオイドよりもピックアップ角度が狭く、横からの音を遮断、ただしマイクの背面にある音源に対し少し感度が高くなっている。環境ノイズや近くの楽器などからの遮音性がより高いためフィードバックが発生しにくくなるが、使用者はマイクの正面の位置を意識する必要がある" とのこと。また一般的なクリップではなく、ベルを上下から挟み込むようにマウントするユニークな形状も特筆したいですね。ただしマイクはマイクなので、プリアンプでGainを上げ過ぎれば当然ハウリングを誘発する為、あくまでマウスピース・ピックアップのピエゾに足りない高域を足す、という感じでセッティングします。


グースネック式マイクと併用するのがBarcus-berryのマウスピース・ピックアップとして有名な1374ピエゾ・ピックアップ。パッシヴのため外部にプリアンプのBarcus-berry 1430と組み合わせて用いております。Piezo Barrelのアクティヴなマウスピース・ピックアップも所有しておりますが、個人的な使い勝手としてはパッシヴの方が良いですね。音質的にはピエゾ・ピックアップの構造上、中域中心の硬いシャリシャリとしたものです。1430はヴォリュームにあたるGainツマミとLo-Cutスイッチ、'Response' と呼ばれるLoからHiまで可変する1バンドEQの構成で、ハイ・インピーダンス出力のためか全体的に高めのゲイン設定となっております。ツマミの設定はGain (12時)、Lo-Cut On、Response (2時)です。



Joemeek Three Q

こちらはダイナミック・マイクのSennheiser e608と共に使用中のJoemeek Three Q。マイク・プリアンプ、オプティカル式のコンプレッサー、'Meequalizer' と名付けられた3バンドEQ搭載のチャンネル・ストリップですね。わたしはプリアンプとEQのみ使用し、入力のPreamp Gainは (1時)、出力のOutput Gainが (11時)の位置にしております。通常の用法に対してかなりGainを抑えた設定にしているので、いわゆる 'Joemeekらしさ' と呼ばれるもっちりとしたプリアンプの濃い質感は堪能できません。3バンドEQも高域を抑える代わりに中域を出し、低域は少しカットの設定にしておりますが、これはわたしの狭い部屋に対するイコライズでして、ホントは低域の回り込みを回避すべく 'ルーム・チューニング' をちゃんとやる方が先決なんですケドね。マイクをアンプで鳴らす設定の場合、Gainを上げ過ぎるとハウリングを誘発するので慎重に。本機から-10dBvのアンバランス出力でコンパクト・エフェクターに接続します。



Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds W2
Lehle DC-Filter
Dr. Lake KP-Adapter

Gibson / Maestro Sound System for Woodwindsをオクターヴ・ファズとして用いておりますが、本機をどこにインサートするかが問題です。以前はJoemeek Three Qのインサート端子に繋いでおりましたが、やはりマウスピース・ピックアップ側でかけた方がより本来の性能を発揮するんですよね。ところがこのWoodwinds、いわゆるラインレベルのエフェクターの為にコンパクト・エフェクターと併用すべくインピーダンス・マッチングを取る必要があります。そこで登場するのが、新潟の楽器店あぽろんのプロデュースするDr. LakeのKP-Adapter。この 'KP' とは、テクノDJ系 '卓上' エフェクターとして一斉を風靡したKorg Kaoss Padをエレクトリック・ギターで用いるべく開発されたもの。インサートする入出力端子がRCAとなっているのが特徴で、Kaoss Padの他、各種ラインレベルのエフェクターをインサートする場合にも重宝します。と、ここで追記。実はKP-Adapter導入で唯一気になっていたことが表面化しました。それはトゥルーバイパスゆえのポップノイズ(DCオフセットともいうらしい)。スイッチをOn/Offする度にバツッとアンプに負担をかけるような音が鳴るのだから問題です。これはスイッチの構造上避けられないらしく、解決策としては本機をバッファードバイパスへ 'モディファイ' することですが、これまたスペース的に組み込めないそうです・・。そこで救世主ともいうべきスイッチャーを得意とするLehleのDC-Filter。電源不要の入出力の付いた単純な機器なんですけど、その名の如くDCブロッキングフィルターで '突入電流' を除去するというもの。コレをKP-Adapterの前に繋ぐとあら不思議、ばっちりポップノイズは消えてしまいました。ただしパッシヴのためか、若干ではありますが落ち着いた音色になった気がします(追記:結局、音色がひ弱になってしまったような感じが拭いきれなくて外しました)。

Root 20 Mini Mixer

東京でエフェクターのモディファイを得意とする(現在は休業中)工房が受注生産する '便利小物' で、ダイナミック・マイクとピエゾ・ピックアップの信号をそれぞれミックスします。本機はオペアンプによる簡単なものですが、ドライバーで入力(0〜2倍)と出力(0〜1倍)を調整できるトリマーを備えております。

これはどのような 'ジャンル' と呼ぶべきか、大阪で 'アンプに足りないツマミを補う' をコンセプトとしたエフェクターを製作する工房の '迫力増強系' エフェクター。プリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのようでもある・・とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すとギュッと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれる。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、Three Qの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。ここでのツマミの設定はLevel (10時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (8時)です。



Salvation Mods Vivider

チェコ共和国の新興メーカーSalvation Modsが送り出す 'ハイブリッドな' オクターバー、Vivider。元となっているのはMusitronicsの傑作オクターバーMu-Tron Octave Dividerでうまく再現されています。過去のオクターバーにとってネックであった追従性の機能のみデジタルで処理されているようで、出音は完全にアナログのぶっとい感じ。この食いつくような '肉食的' オクターヴの質感はたまりませんね。'Ringer' と呼ばれるアッパー・オクターヴのスイッチを入れるとファズっぽいトーンとなりますが、もう片方のスイッチ 'Stab.' はオクターヴのかかりを安定させる 'コンプ的' 動作のもの。わたしの場合、Offの状態でまったく問題はないものの、Onにするとビックリするくらいエラーを起こしてしまう・・なんでだろ?ツマミの設定はMix (12時よりちょい左)、Tone (2時)。



Plutoneium Chi Wah Wah

超小型ワウペダルの先鞭をつけたChi Wah Wah。わたし的にはワウのトーンを個別に調整できるLevel、Contour、Gainの3つのツマミが便利だったのでコレを選びました。通常のワウペダルとは逆のかかと側を踏む仕様で、ワウの効果も深く踏み込んだときにクワッと効き始めるクセのあるタイプ。バッファー内蔵の0.5秒でOn/Offする光学式ということで、立つよりも座って踏んだ方が扱いやすい操作性という点では、人によって好みの分かれるワウかもしれません。ツマミの設定はLevel (12時〜1時)、Contour (4時)、Gain (2時)。

Neotenic Sound Purepad ①
Neotenic Sound Purepad ②

残念ながら動画はありませんけど、ヴォリューム・ペダルの代わりに導入しているのがNeotenic Sound Purepad。これは2つに設定された 'プリセット・ヴォリューム' をスイッチで切り替えるもので、ひとつは通常の 'Solo' の状態、もうひとつはヴォリュームを若干下げた 'Backing' の状態で、全体のバランスを崩すことなくヴォリュームを瞬時に上下してくれます。最初はループ・サンプラーへオーバーダブする際、異なるダイナミクスを付けたフレイズで録音することを想定しておりましたが、他の効能として、Gibson / Maestro Sound System for Woodwindsでファズをかけた場合、ワウを踏むことで全体のゲインが上がってハウリングするのを抑える働きにも重宝します。





Electro-Harmonix 16 Second Digital Delay

今や、エフェクターの 'ジャンル' の中でも大きな市場を占めるループ・サンプラーですが、その元祖とも言えるのがサンプラー黎明期の1982年に登場したElectro-Harmonix 16 Second Digital Delay。もちろんディレイとしての機能も有しておりますが、本機の魅力は16秒のサンプリングタイムを駆使して、オーバーダブしながらピッチとテンポ、逆再生などで奇妙なフレイズを生成することにあります。わたしが所有しているのは2004年に現代版として限定復刻されたもので、別売りのフット・コントローラーやループ・フレイズのメモリー機能のほか、本機をマスターにしてMIDIクロックでドラムマシンと同期できるなど付加機能を備えております。



Strymon Brigadier

'アナログ・モデリング' なデジタル・ディレイが恩恵を受けているのは、PT2399というデジタルICのおかげ。そんな中、Strymonが独自の技術として再現するDSPテクノロジーの 'dBucket' を用いたのがこのBrigadier。おおよそデジタル・ディレイらしからぬ丸いくぐもったトーンを持ちながら、決して埋もれないデジタル的エッジを併せ持った 'ハイブリッドさ' は絶妙です。約5秒ものロング・ディレイ、モジュレーション、スイッチひとつで発振する太いフィードバック、4分音符、付点8分音符、3連符からなるタップ・テンポ、アナログ・ディレイの特徴であるエイリアシング・ノイズを再現する 'Bucket Loss' というツマミ、エフェクトOn時のブーストレベルを+/-3dBの範囲で調整可、別売りのスイッチを用いて組めるひとつのプログラム、AD/DAを通らない原音の確保とアナログ・ミキサー、トゥルーバイパス及びバッファードバイパスの選択可と至れり尽くせりな作りとなっております。

電源不要のパッシヴDIはトランスの品質が重要で、本機は高品質トランスとしても有名なJensenのものを搭載し、色付けなくナチュラルにロー・インピーダンスへと変換しれくれます。パッシヴDIはトランスでゲイン自体を落とすことに良くも悪くも特徴があるのですが、ここではアンプへと出力する直前にパッシヴで '落とす' ことが 'アンプリファイ' の音作りのキモとなります。ここにアクティヴのDIを入れてしまうと過剰にプリアンプをかけてしまうことと同義となり、やはり音が歪んでしまうんですよね。また、本機の気に入っている仕様として、ステレオのエフェクターからの出力をそのまま受けられる 'Mono to Merge' 機能があります。これは、通常 'Turu' としてモニター用アンプに出力できる端子がスイッチで 'L-R' の入力の一つに変換し、いわゆるJDIで 'モノ・ミックス' してくれるのです。Strymon Brigadierは原音がAD/DAを通らず内蔵のアナログ・ミキサーでエフェクト音とミックスする仕様の為、アンプからの最終的な 'モノラル' 再生は同じでも明らかに音の広がり方で違いが現れますね。

SWR California Blonde Ⅱ

アコースティック・ギターやヴァイオリン、ハーモニカなどのアコースティック楽器向け160Wのコンボアンプ。とにかく特筆したいのはフォン入力の下にある小さなスイッチで 'Low Z Balanced' と書いてあるヤツ。つまり、こいつをOnにするとローインピーダンスの信号をTRSフォンで受けるというワケで、取説にはこう記載されております。

"ロー・インピーダンス仕様のギターのバランス出力を入力端子に接続するときは、このスイッチを押し下げてください。TRS端子による接続が必要なバランス接続では、最高のダイナミックレンジと低ノイズの環境が得られます。"

バランス出力のギターというのは馴染みが薄いですが、なるほど、'エレアコ' においてDIからバランスでPAのミキサーへ入力してモニターで再生する一連の環境を、このスイッチひとつで解決しているワケです(大げさ?)。他社のアコースティック用アンプでバランス接続しようとするとマイク・プリアンプの通るXLR入力しかない為、このライン環境の中で再生できるコンボアンプはとても重宝します。また、内蔵のスプリング・リヴァーブは浅めにしてかけておりますが、ツマミを上げ深くしていくと少々ノイジーになるのは玉に瑕。Aux/Send Returnを1つ備えているので、ここにデジタル・リヴァーブなどを入れることもできます。ちなみに、このSWRのほかに4チャンネル・ミキサー内蔵の 'PAライクな' 135Wコンボアンプ、Genz-Benz UC4も所有しておりますが、このSWRの方が、いわゆるアンプの '箱鳴り' 的ドスッとした鳴り方をしてくれて好きですね。

こういうのは実際に購入し、あれこれ 'トライ&エラー' で推察しながら '正解' を見つける以外に方法はないですね。特に、電気楽器やPAに対する知識の乏しい管楽器奏者は、ここまで読んですでに挫折したくなっているのでは?それともう一点、補足したいのですが、ここでは 'アンプリファイ' によりラッパでエフェクターを用いることを主眼としているので、どうやっても生音の再現性が足りない、とか見当違いの探求は意味がありません。生音の再現性はコンデンサー・マイクに勝るものはなく、最も劣化の少ないエフェクターの使用はPAのミキサーでかけてもらうことが確実です。マウスピース・ピックアップは音の振動を電気信号に変換するピエゾ式であり、EQの補正やプリアンプ、ベル側の生音とミックスするといった方法も妥協でしかありません。

管楽器の生音に対する 'こだわり' は一旦横に置いて、イマジネーションが機械的に加工されることでどれほど刺激されるか、ということに皆さまも溺れちゃって下さいませ。








Monette
Spiri Vario Trumpet

さてさて、ヨーロッパのクラシックの中で育まれてきたトランペットという金管楽器。永らくその変わらないフォルムの伝統を引き継いできましたが、近年はかなり独創的なラッパを好む層が増えてきました。古くはアート・ファーマーの要望でMonetteが製作したトランペットとフリューゲル・ホーンの '混血' Flumpetや、近藤等則さんもご愛用のスイスの工房Spiriによるカーボンファイバー製のベルを装着したda Calboなど、古い固定観念に捉われない 'ものつくり' のラッパが目白押し。おお、ロイ・ハーグローヴもThe RH Factorのときはda Calboの愛用者だったんですね。



Inderbinen Horns
Inderbinen Silver Art
Inderbinen Inox
Inderbinen Da Vinci

ロイ・ハーグローヴと言えばスイスのInderbinenを吹くイメージが強いのではないでしょうか。従来のラッパにはなかった奇抜な発想の先駆的メーカーとして、管体すべてに銀をダラダラと垂れ流しちゃうこのSilver Art・・正直、ラージボアで銀の固めまくったベルは鳴らすのキツイと思うなあ。他にもInoxやDa Vinciとか・・一体何なんだ?また英国のTaylorとか、もうふざけているとしか思えないくらい 'やり過ぎ' なラッパのオンパレード・・。実際、ラッパ業界は 'Selmer信仰' の強いサックスに比べてヴィンテージへの執着が薄いと思います。









Taylor Trumpets
Whisper-Penny
Monette

現在、奇抜なラッパばかりを作るイメージの強くなったTaylorのフリューゲルホーン、Phatboyでケニー・ウィーラーの名曲 'Kind Fork' に挑戦。ウィーラーはWeberのフリューゲルホーンでしたけど、どちらも管体がグニャグニャと曲がりに曲がり・・Whisper-Pennyなるドイツの工房からMonetteまでこの流行に追従します。これが近年のフリューゲル界の傾向なんでしょうか?ちなみにこのWhisper-Pennyさんのところはラッパも何だか凄そう。しかし、マウスピースのスロートから奇妙な金属棒を入れてスロート径を狭くし、'サブトーン' を発する 'エフェクト' は初めて聴きました。









Adams Instruments by Christian Scott

最近、メディアでその名前を聞くクリスチャン・スコットの最新作 'Stretch Music' のジャケットに現れる、フリューゲルホーンを上下引っくり返してしまったような?ヤツ(クレジットには 'Reverse Flugelhorn' となっている!)、これってオランダのAdamsでオーダーしたヤツなんですねえ。正直、かな〜り格好イイんですが、この人のやっている音楽も複雑なポリリズム構造でこれまた格好イイ!しかしスコットさん、いろんなタイプのアップライト・ベルなラッパが好みというか・・すべてメーカーのカタログには無いものばかり。





Schagerl Trumpet

そんな独創的なラッパの中でも、ドイツやオーストリアなど一部のオーケストラでは、トランペットと言えばピストンをフレンチホルンと同じロータリーバルブの横置きにしたロータリー・トランペットのことを指すようです。ジャズでは構造的にハーフバルブなどの細かいニュアンスが出来ないとかで一般化しておりませんが、ブラジル出身のラッパ吹き、クラウディオ・ロディッティなどはロータリーでバップをやったりしております。そんなロータリーを今度はそのまま縦置きにして作ってしまったのが、発案者であるトマス・ガンシュの名を付けたSchagerlのガンシュホーン。柔らかいトーンでこれまた格好イイですねえ。



ちょっと追記で凄い動画を上げてしまおう。クラシックのピアニストで作曲家のフリードリヒ・グルダ。クラシックのみならずジャズにも造詣が深く、1970年代には '二足のわらじ' でジャズ・ピアノの即興演奏にも挑んでおります。そのあたりファンの間では賛否両論が出ているようですが、わたしにとってはケニー・ウィーラー、ジョン・サーマン、バール・フィリップスらブリティッシュ・ジャズの精鋭たちによる活きの良い演奏が堪能できること!ジョン・サーマンは名盤 'The Trio'、ケニー・ウィーラーはスポンティニアス・ミュージック・アンサンブル(SME)やアラン・スキッドモアのグループでバリバリ吹いていた頃だけに悪いワケありません!この独特なアーティキュレーションとクールなリリシズムこそ 'ウィーラー節' ですね。

ああ、今年もあとわずか・・。こんな高級なラッパたちと縁のないわたしは、暮れの慌ただしい風景を身に沁みながら1年の垢の溜まったラッパの大掃除に精を出します、うう。少し早いですが皆さま、よいお年を。


2016年12月4日日曜日

テクノ 'DIY' 精神

1996年、エイフェクス・ツインことリチャードDジェイムズ主宰のレーベル、Rephlexから現れた一枚のアルバム 'Feed Me Weird Things' はジャンルを超えて世界を熱狂させました。



すでにUKのアンダーグラウンドから火が付いたジャングルという高速ブレイクビーツは、この時期、テクノやジャズのクールな世界観と結び付き、新たにドラムンベースとして '再生' します。いわゆるジャズの 'サンプル' を乗せたトラックが蘇生乱造される中、ひとりジャコ・パストリアスばりにエレクトリック・ベースを手に持ち、BPM170前後の 'ドリルンベース' と呼ばれる緻密かつ縦横に掘り尽くすビーツのスタイルは、ある種、'打ち込み' 音楽の極北を提示しました。その名はスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。もちろん、現在も旺盛な創作力で作品をリリースしておりますが、すでにこの頃からは相当違う世界観に行っておりますね。





そんなスクエアプッシャーが 'ドリルンベース' の嚆矢のイメージから最初に脱却を始めたのが1998年、デビュー作から4作目(初期発掘作やカオスAD名義除く)にあたる 'Music Is Rotted One Note' にここでは注目。コレ、従来の 'ドリルンベース' を期待していたファンを一挙に引かせ、たぶん、これ以前と以後のファン(さらに最近のファンとはまた別の線引きがあるのですが)に分かれるきっかけとして、何故か現在まで宙に浮いた印象のある一枚なんですよね。

Squarepusher Interview ①
Squarepusher Interview ②

当時の心境は、上記の 'サウンド&レコーディング' 誌1997年7月号及び98年11月号のインタビュー記事を読んでもらうとして、98年の本作に関するインタビューでトム・ジェンキンソンが強調するのは、それまでスクエアプッシャーの音作りを象徴するシーケンサーとサンプラーは一切使わず、すべての生楽器(ドラムス、ベース、Fender Rodes、各種パーカッション、アナログシンセなど)を一人多重で演奏しながら昔ながらに組み立てていったことです。狭い四畳半の一室で、各楽器に安物のマイクをセットしてMTRに録音するスタイルは、本作のジャケットに登場する本人手作りのプレート・リヴァーブにまで 'DIY' 精神を発揮。しかし、昔ながらといってもそこに現れるのは、いわゆるジャズでもなければロック回帰でもない、まぎれもなくテクノを通過した者だけが手に入れられるアブストラクトなもの。





ちょうど時代的にクラブ・ミュージック界隈で 'エレクトリック・マイルス' 再評価の動きが騒がしかったこともあり、本作にもそこからの影響を受けたと思しき '質感' が横溢しております。こういうの、ジャズ上がりのミュージシャンだとアレンジ過多とソロ寄りの即興演奏になりすぎてつまらないものになっちゃうんだケド、本作のゴリゴリとした荒削りな感じはいかにも '宅録' っぽい匂いがして格好良いですねえ。



ちなみにこちらは2005年のライヴ。彼の 'ドリルンベース' もかな〜り進化しているというか、もう、唯一無二のスタイルで攻めてますねえ。これは盛り上がらない方がおかしいってくらいの熱狂的なノリ!スラップのアップダウンが激し過ぎる・・。





う〜ん、かなりクールというか、別の言い方をすれば耳にひっかる楽曲としてのフックのない、実にアブストラクトな展開のものばかり。上記のインタビューでも、スクエアプッシャーがフリー・ジャズを意識する、みたいなことが記事に書かれておりますね。しかし、このポップさ加減の少なさが時代の空気を超越して、いま聴いてみてもまったく古臭く感じない要因でもあります。何より、生楽器演奏であっても一発録りの勢いであるとか即興の精神性みたいなものだけを有り難がらず、最終的な編集と加工によって完成形にもっていこうというスタンスは、明らかに 'テクノの耳' から音楽を捉えていることを如実に反映します。この人が強調する 'インプロ' の精神性というのは、技術的な向上や高尚な複雑さというよりも、ひとり機材と向き合うことで '発見' することのプロセスに重きを置いているという印象が強いですね。





そんなスクエアプッシャーが2016年、再び1996年の 'Squarepusher Theme' を再演します。というか、出で立ちがほとんどDaft Pankみたいになっとる・・。しかし、'いま' の彼はダブステップ以降のウォブルベースで完全なるEDM路線を突っ走っております。いや、2015年の最新作である 'Damogen Furies' では、さらにそこのところを突っ込んだサウンドになっているようで・・もうわたしはついていけてません。

2016年12月3日土曜日

一粒のアシッド - 白昼の幻想 -

昨日のファンカデリックで気づかされるのは、1960年代後半に投入された 'クスリ' の効能というのはいかにデカかったかということ。ある意味 '狂気' の季節であり、この時代を全身で受け止めてしまった人ほど 'あっちの世界' へ行ってしまったか、ほとんど '廃人' として余生をギリギリの状態で甘受しているのだと思われます。1967年にB級映画の帝王、ロジャー・コーマンはピーター・フォンダを主演とする低予算映画 '白昼の幻想' で、このドラッグ・カルチャーを視覚的に再現することに挑みました。





当時としては画期的であったろうチープな '追体験' の演出は、それまでロジャー・コーマンがAIPで制作していたB級ホラー映画のノリでLSDの幻覚体験を認識していたこと、そして、これ以後に続く亜流 'ドラッグ映画' の先鞭を付けたきっかけだったとも言えます。音楽を担当したのは、バディ・マイルスやマイク・ブルームフィールドらが参加したジ・エレクトリック・フラッグで、当時、未知の楽器であったMoogシンセサイザーのインストラクターを務めるポール・ビーヴァーもこの '幻覚体験' に電子音で一役買っております。このサイケデリック革命が音楽にもたらした影響としては、エレクトリック・ギターやシンセサイザーはもちろん、オーバーダブやマルチ・トラック、テープ編集にエフェクターの特殊効果など、その '追体験' のための 'ギミック' とレコーディング技術が飛躍的に向上したことです。ある種、ジャマイカのダブに先駆けて起こったものと捉えてもよいでしょうね。





このような幻覚の '追体験' は、ケン・キージーが 'Can You Pass The Acid Test ?' を合言葉に主催する一大イベント 'Acid Test' でストロボや墨流しなどの舞台照明と共に、グレイトフル・デッドが大音量のロックでそれら演出を盛り上げたことから広く普及しました。この1969年の 'Joy Ride' は、米国西海岸で活動したBrotherhoodというサイケデリック・ロック・バンドがより実験的な姿勢の別名義であるFriend Soundとしてリリースしたもの。聴き手の '知覚の扉' を刺激しながら、もう、ズブズブの 'ダウナー系' で行ってしまう強烈さですね。そしてジェイムズ・クオモを中心とした謎のサイケデリア集団、The Spoils of War。ところどころに挿入される電子音は、初期コンピュータのパンチカードを用いて演算し生成したものということから、案外と現代音楽畑にいた人なのかもしれません。しかし、出てくる音は電子音+サイケデリック・ロックのザ・ドアーズ風ポップを基調としており、Silver ApplesやFifty Foot Hose、The Free Pop Electronic Conceptなどと近い位置にいる音作りです。



'LSDの教祖' としてその布教活動に取り組んだティモシー・リアリー。これは 'セットイン' と呼ばれるLSD服用の為のリラクゼーション導入を促す一枚で、濃密なインド音楽と電子音で被験者を 'Stone' させる1967年の 'Turn On, Tune In, Drop Out'。しかし、上記のFriend Soundもこのリアリー盤も大手メジャー・レーベルであるRCAやMercuryからリリースされていたというから、やっぱりどこか社会全体が壊れていたのかもしれないな・・。





やはり挙げねばならないファンカデリックの2作目 'Free Your Mind and Your Ass Will  Follow'。Friend Soundやティモシー・リアリー、昨日ご紹介したファンカデリックの1作目がドロ〜ンとした 'ダウナー系' なら、こちらは瞳孔開きっぱなしの覚醒する 'アッパー系' という感じでしょうか。そして、テキサス・サイケデリックの雄として、現在まで '永遠のアウトサイダー' の如く君臨するメイヨ・トンプソン率いるレッド・クレイヨラ。サイケということでは1967年の大名盤である 'The Parable of Arable Land' を挙げなければならないところですが、ここでは、2作目として予定されながらあまりのダダ的 '実験ぶり' にお蔵となった 'Coconut Hotel' をどーぞ。この荒涼としたテキサスの砂埃舞う中に現れるひなびたホテル、という設定が何ともサイケというか、チープなトレモロの効いたオルガンやハープシコードと共に、こちらも瞳孔開きっぱなしの乾いた覚醒感が迫ってくる怖い感じ・・ヤバイ。



ここまでくるともう '電波系' というか、勝手に宇宙からの電波と交信している状態で、ほぼ廃人状態。間違いなく日常生活を送ることは困難かと思われます・・。1966年にイタリアで結成された '電脳サイケデリア集団' であるMusica Elettronica Viva。現代音楽畑のリチャード・タイテルバウムやフレデリック・ジェフスキ、ジャズのサックス奏者、スティーヴ・レイシーなども参加するなど、まさにヒッピー的な 'コミューン' として機能しました。似たような集団として、ここ日本でも小杉武久氏を中心とするタージ・マハール旅行団というのがありましたね。





オーストラリア人ヒッピーとして世界を放浪し、英国でロバート・ワイアットらとソフト・マシーンを結成しながら 'クスリ' で再入国を拒否されたデイヴィッド・アレン。新天地フランスで後に奥さんとなるジリ・スマイスらと結成したのがこのゴング。'コミューン' 的色彩の強い 'プログレ' が特徴の出入りの激しいバンドで、フランク・ザッパやPファンクの向こうを張る 'ラジオ・グノーム・インヴィジブル' (見えない電波の妖精の物語)のストーリーを三部作でぶち上げて人気を得ました。





サイケデリックの時代というのは、音楽のみならず美術や映画、文学などあらゆる芸術分野へ波及するくらいの意識革命だったと思うのですが、むしろ、そのような '時代の空気' に感染することで、期せずして結果的に 'サイケ' となってしまったものも大量に粗製乱造されました。当時の 'イージー・リスニング' 界を代表する101人のオーケストラからなる101 Stringsは、まさにそんな 'Space Odyssey' を締め括る1969年にこんな 'ギミック満載' なサイケデリック作品を作り上げてしまいました。そして、ジャズの分野でもエレクトロニクスを導入したことであらゆる実験へと勤しむことになるのですが、この三保敬太郎率いる 'Jazz Eleven' の 'こけざる組曲' は最高峰でしょうね。特にこの '聞かざる' のファンクなビートとワウ、ハープシコードや女声コーラスの 'サイケ' な音色を用いながら、3:28〜のグルグルと三半規管を狂わせるような強烈なパンニングの嵐(ぜひHead phonesで体感して頂きたい!)。もう完全にトリップしますヨ、これは。



そんな '狂気' の季節から40年以上経った現在、まだまだサイケデリックの神話は社会のあちこちで大きく口を開いて待ち構えております。皆さま、絶対に興味本位で手を出してはいけません。これらはイメージの副産物であり、創造することが決して大きくなったり小さくなったりするワケではありません。もう一度言います。幻覚もいつかは覚めるのです。



1980年代後半に英国に渡ったハウス・ミュージックは、Roland TB-303のベース音と共にアシッド・ハウスとして爆発的な人気を得ます。これは、1960年代後半に盛り上がったサイケデリック・ムーヴメントが 'セカンド・サマー・オブ・ラヴ' として蘇ったものとも捉えられて、このようなレイヴの流れはテクノ以降のミニマル・ダブにまで連綿と受け継がれております。ミニマル・ダブの重鎮、Rod ModellとStephen HitchellによるユニットCV313のヒプノティックな人気曲 'Infinit 1' のSTLによるリミックス。このビザールな1970年代の映像と '四つ打ち' のサイバーな出会いがなかなかにサイケですねえ。

2016年12月2日金曜日

Pファンクってなんだ?

さぁて、デカいテーマに挑まなければならない連中・・Pファンクです。と言ってもこの限られたスペースでは到底語り尽くせないので、この集団を代表する '二大巨塔' のひとつ(と言っても中身は一緒のメンツなんですが)ファンカデリックを取り上げます。







1950年代後半、床屋の理髪師をしながらドゥーワップR&Bのコーラス・グループ、ザ・パーラメンツを結成しメジャーを目指していた男、ジョージ・クリントン。そんな鳴かず飛ばずの苦しい彼らも1960年代後半には、まったく新しい '革命' に触れてそれまでの古臭いスタイルから脱却を図ります。特に強烈な '二大インフルエンス' となったのがジミ・ヘンドリクスとスライ&ザ・ファミリー・ストーン。黒人が当時の狭いR&Bの枠を抜け出して、ロックという新たな 'アンプリファイ' の世界の中でLSDの幻覚に塗れたのだから、これはジョージにとって完全にぶっ飛んだ経験だったのでしょう。さっそくコーラス・グループをアシストするバックバンドを組織するのですが、ここにきて以前からの契約問題が彼らの足を縛ります。ちょうど1967年に '(I Wanna) Testify' が全米R&Bチャート3位のヒットを飛ばしたこともあり、彼らを雇うレーベル側がその権利関係にうるさく口出してきたのです。そこでジョージは一計を案じ、まず彼らのバックバンドだけを別レーベルと契約してデビューさせることを画策します。もちろん、その中身はザ・パーラメンツ+バックバンドということで、彼らはそれまでの名前を捨て、新たにファンカデリックと名乗りました。まさに時代はジェイムズ・ブラウンやスライ・ストーンらファンク革命と、ヘンドリクスに代表されるサイケデリック・ロックを掛け合わせた造語として、このPファンクという集団のコンセプトを見事に定義します。ジョージはまた、前レーベルとの契約切れを待ってコーラス・グループ+バックバンド(要するにファンデリックと一緒)として新たに別レーベルと契約、パーラメントとしても再出発します。ちなみに彼らの 'クスリの分量' は半端ではなかったようで、スタジオは常に煙でモクモク、何かしら一発 'キメた' 状態で大量の楽曲を制作していたことは、上の動画にあるデビューアルバムを聴いて頂ければお分かり頂けるかと。彼らがユニークかつ新しい価値観を持った黒人たちなのは、ジミ・ヘンドリクスやスライ&ザ・ファミリー・ストーン、ジェイムズ・ブラウンを聴きながら、同時にサイケデリック・ロックのヴァニラ・ファッジや、同じデトロイトで強烈なメッセージと共にアナーキーなパンク・ロックの元祖となったMC 5らと共にステージへ上がっていたことです。ほんと、Pファンクを聴いているとレッド・ホット・チリ・ペパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンがいかに可愛いものなのかが実感できます(彼ら自身ルーツであると公言しておりますケド)。



彼らは1970年代後半までに多くの 'クローン' を生み出してはあらゆるレーベルと多様な名義で契約することで、いわゆる 'Pファンク' と呼ばれる一大帝国を築き上げて、それまでになかったロックとR&Bという境界をハミ出したサウンドを提示することに成功しました。ええ、こわくない、こわくないですよぉ・・危ない 'フリークス' な集団の匂いプンプンですがこわくない・・が、確かに人に勧めるのも勇気はいる。

とまあ、大分端折ったかたちで述べてみましたが、わたしの音楽観に多大なる影響力をもたらした存在として彼らを抜きにしては語れませんね。当時、日本の音楽シーンの多くが欧米のロックとMTVを基軸としたポップ・シーンに追従しており、いわゆるR&Bはマニアが好むバカバカしいものというイメージで固定しておりました。当時台頭してきたヒップ・ホップも一過性のコミックソング的扱いに終始し、皆がキャーキャーするのはロックのナルシシズム的美的感覚の横溢したものばかり。わたしからすると、長髪でピタッとしたスリムジーンズにブーツの出で立ちの白人が恍惚するようにギターを弾く、マイクスタンドを鷲掴みにしてシャウトする、みたいなのに寒気がしたものです。当時、黒人の持つ、どこかふざけた '笑い' というか、過剰なかっこ悪さが一周回って格好良いよなあ、という感覚を友だちに触れ回るも、いきなり巨大なアフロヘアーが出てくるだけで笑われておしまいなのだから、ひとり孤独に聴いていたという悲しい時代がありましたね・・。しかしPファンクに触れたとき、自分の中にあった 'ロック = ダサいもの' というこだわり自体もまた、ダサいんだよってことを教えられた。ファンカデリックの曲に 'Who Says A Funk Band Can't Play Rock ?!' ってのがあるんだけど、まさにその通りで、ロックンロールは黒人が作り出したものだけど、だからってわざわざルーツを主張なんかしないし、白人が気に入ってロックへと作り変えたのならば、それを再び黒人がやってみたって何らおかしな話じゃない・・イイもんはイイんだよっていう、青臭いけどそういう音楽のフリーダムな意識を彼らに叩き込まれた気がします。またこれは、黒人に対するステレオ・イメージを客観視させてくれる良い出会いであったことも述べておきたいですね。



ジョージ・クリントンをPファンクの '頭脳' とするなら、それを音楽的に再現する '肉体' として番頭格の如くこの集団を束ねていたのがバーニ・ウォーレルとウィリアム 'ブーツィ' コリンズの2人です。特にブーツィはジェイムズ・ブラウンの所からメイシオ・パーカーやフレッド・ウェズリー共々やってきた '移籍組' であり、より音楽的自由とソロの 'ラバー・バンド' 活動の一環として参加した 'ファンク・マスター' でもあります。しかし、ブーツィがPファンクの正式メンバーとなったことはなく、基本はアルバムでの楽曲プロデュース(後期は元オハイオ・プレイヤーズのウォルター 'ジュニー' モリソンが中心)のみで、ライヴではPファンクの前座として自らの 'ラバー・バンド' での活動が主でした。ブーツィが正式に参加しなかった理由のひとつとして、彼らがあまりにも 'クスリにどっぷり' で、その生活サイクルのまま全てにかかわっていたら身を滅ぼすことを危惧したからだそう・・。実際、当時の看板ギタリストであったエディ・ヘイゼルは薬物の不法所持で懲役刑を食らっております。ちなみに、ブーツィが初めてPファンクに参加したのはファンカデリックの4作目 'America Eats Its Young' から。





ファンカデリックを代表する狂おしき1曲 'Maggot Brain'。エディ・ヘイゼルの土壇場ともいうべきギターソロをフィーチュアしたナンバーですが、クスリでメタメタになったヘイゼルの後釜として加入した 'Kid Funkadelic' ことマイケル・ハンプトンが見事なソロで引き継ぎます!1980年以降のPファンク・オールスターズのステージでは、大抵この二人によるギターソロ合戦がひとつの見せ場となっておりましたね。そして、Pファンク全盛期のアース・ツアーのステージなんですが、そう、いつかはマザーシップが迎えにきてくれることを信じたいという、ゲットーで新たな価値観と共に生きた1970年代の黒人像を代弁する存在、それこそPファンクであり '黒い牧師' としてのジョージ・クリントンでした。このまがまがしい祝祭性、演劇的で強烈な皮肉が路地裏のゲットーと宇宙を一直線に結び付けます!彼らのライヴはカラフルな意匠が持ち味なだけにモノクロなのは残念なんですが、カラーのヤツは毎度の視聴制限(涙)。



'Maggot Brain' や 'Cosmic Slop' と並ぶハード・ロック・ナンハー 'Red Hot Mama'。ここではマイケル・ハンプトンと並ぶ後期ファンカデリックの要、ドウェイン 'ブラックバード' マクナイトが引っ張ります!ブラックバードはこの後、1980年代のマイルス・デイビスのバンドにも一時在籍しましたね。そんな彼らも1981年の最終作 'The Electric Spanking of War Babies' から33年、2014年に全33曲からなる3枚組 'First Ya Gotta Shake The Gate' をリリースしました。ジャケットもこれまたファンカデリックではお馴染み、ペドロ・ベルの 'サインペン・アート' によるコミカルなイラストで裏切りませんねえ。



Pファンク後期には交流のあったスライ・ストーンが4曲参加したり、制作当時、すでに故人であるエディ・ヘイゼルやゲイリー・シャイダー、ロバート 'Pナット' ジョンソンのクレジットがあるなど、素材となった音源は多岐にわたるものの、ヒップ・ホップやネオ・ソウル、ジャジーなものからデスメタル!までの幅広さを持って、現在のR&Bシーンに流れる '遺伝子' の強さを見せつけます。かなり '今風' にブラッシュアップしておりますが、う〜ん、このヘロヘロした 'Pファンク節' が流れてくるとオールド・ファンなわたしなどは歓喜の涙を流しますヨ、ホントに。ああ、そういえばバーニー・ウォーレルも 'マザーシップ' に乗って宇宙へと旅立っていかれました・・。



すでに70歳も超えた御大ジョージ・クリントンは、あのフライング・ロータスのレーベルであるBrainfeederから新作を準備しているというから嬉しい話。1978年、'グルーヴの名の下に世界を統一する' とぶち上げて当時のディスコ・ブームに乗ってヒットさせた、彼らの代表曲 'One Nation Under A Groove'。まだまだPファンクの神話は終わりません。


2016年12月1日木曜日

トレモロで挑発する

車窓から眺める米国南部の長閑な田園風景や、色褪せたセピア色の写真を見ながら遠い過去に想いを馳せるなど、どこかノスタルジックな演出にかかせないのがゆらゆらとしたトレモロの音色。しかし一方で、まるでゲートでスパッと切り刻んでいくようなマシンガン・トレモロからVCALFOをかけてシンセライクに 変調させるトレモロまで、実は結構、奥の深いエフェクターではないかと思っております。ちなみによく似た効果であるトレモロとヴィブラートの定義は、音量の増減がトレモロ、音程の上下がヴィブラートであると考えるのですが、これは製品によって混同されている場合もあるので注意が必要です。


ここではエグい効果のトレモロを中心にご紹介したいのですけど、その出発点としてギターの入力ジャックに直接取り付けるVox Repeat Percussionという製品がありました。その名の如く、リズミックにフレイズを切り刻むことを目的として マシンガン・トレモロの異名も付けられた本機の魅力は、英国のFret-WareからそのVoxを元にMachine Gun Repeatを発売したことにも伺えます。通常の 'フット・ボックス' 型となったこの本機のユニークさは、スイッチがモメンタリー仕様となっており、踏んだ状態でのみエフェクトがかかるリアルタイム性に寄っていること。上の動画はかなり飛び道具的セッティングではありますが、その切れ味のほどが分かるかと思います。

このVox以前のトレモロとしては、基本的にスプリング・リヴァーブと併用してアンプに内蔵されるエフェクトという位置付けでした。その中でもユニークな一品として存在したのが、ヴォリューム・ペダルの製作で有名なDe-ArmondTrem-Trol。なんとペダル内部に組み込まれた電解液で満たした筒を、発動機により一定間隔で揺らして筒の壁に触れる面積の変化から音量を上下させるという・・なんとも原始的で、手の込んだ構造のトレモロですね。その下の動画は前身機のModel 601の内部構造でこんな感じに揺らしております。今じゃその製作コストがかかり過ぎて大変だろうけど、エフェクター黎明期にはいろんな発想から電気的操作として取り出すという面白い時代でした。この丸く暖かいレトロな雰囲気こそトレモロの真骨頂・・'ツイン・ピークス' のテーマとか弾きたくなりませんか?



Z.Vex Candela Vibrophase

このような物理現象を機械的に取り出したものとしては、エフェクター界の奇才、ザッカリー・ヴェックスがなんとロウソクの炎のゆらぎからトレモロとヴィブラートの効果を取り出すZ. Vex Candela Vibrophaseとして製作します。扇風機のような風車はヴィブラート効果のもの(扇風機にア〜と声を出すと変調するヤツ、昔やりませんでした?)で、これはレスリー・スピーカーを簡易的に再現するFender Vibratoneというギターアンプで製品化されましたね。ちなみに、この 'からくり時計' のようなプロトタイプはそのまま製品としても販売中・・お値段6000ドルなり。



Analog Outfitters The Scanner

トレモロ/ヴィブラートというヤツは、ファズ同様にヴィンテージな設計思想がそのまま独特な効果として認知されており、現代のテクノロジーが手を出しにくいエフェクターのひとつでもあります。ジミ・ヘンドリクスが使用したことで一躍有名となった日本が世界に誇る名機、Shin-Ei Uni-Vibeのドクドクした '揺れ' の効果を司るのは、その '心臓部' ともいえるフォトカプラー(CDS)という電球のような素子のおかげ。しかし、硫化カドミウムによる現在の環境規制で製品に組み込んで製作することはできず、各社が電子的なシミュレートにより何とか再現しようとしているのが現状です。このAnalog Outfitters The Scannerは、壊れたハモンド・オルガンからヴィブラート&リヴァーブ・タンクの部分を取り外し、新たにエフェクター・ユニットとして 'リビルド' したもの。やはり電子的な回路構成では味わえない、この物理的に変調させる '古くさい' 感じはたまりませんね。



Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ①

Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ②

そんなトレモロとヴィブラートの '混合' ということならこちら、米国ニューハンプシャー州で製作するMid-Fi Electronicsの新製品、Electric Yggdrasil (エレクトリック・ユグドラシル)。設計は 'MMOSS' というバンドのギタリスト、Doug Tuttle氏で、いわゆる '現場の発想' から一筋縄ではいかない '飛び道具' エフェクターばかりをひとり製作しております。Mid-Fi Electronicsといえば、'変態ヴィブラート' ともいうべきPitch PirateやClari (Not)の 'ぶっ飛んだ' 効果で一躍このメーカーを有名にしました。本機は位相回路による 'フェイズ・キャンセル' の原理を応用し、Uni-Vibe風のフェイズの効いたトレモロでサイケデリックな匂いを撒き散らします。



Supro 1310 Tremolo


いわゆる 'フットボックス' になる以前のトレモロはアンプ内蔵というのが一般的でしたが、その中でも代表的だったのがSuproのギターアンプ内蔵のもの。このSupro 1310 Tremoloは、そんな古臭い 'トレモロ感' をわざわざトランスによるサチュレーションを駆使し、真空管のバイアス可変による伝統的なSuproトレモロを再現する 'Amplitude' と、Fenderのギターアンプ内蔵のトレモロを再現した 'Harmonic' の2つのモードを搭載しております。また、'揺れ' のスピードはエクスプレッション・ペダルにも対応。
さて、時代はグッと駆け上がり、いわゆるシンセサイザーの発想により音量をコントロールする新しい発想のトレモロを見ていきます。こちらのザッカリー・ヴェックスによるZ.Vexから、16ステップのシーケンサーを組み込んだ変態トレモロSuper Seek Trem16のステップによるシーケンスから好きなステップを選択し、さらにその速度やタップテンポ、Glissと名付けられたツマミでランダムに設定することで予測不能な効果を現します。またMIDIで外部機器との同期をするなど、トレモロというよりシンセで用いるアナログ・シーケンサーの発想です。Sonarの方は、このサイズにしてこれまた多様な揺れ方を設定できるぶっ飛んだもの。Clean/Machineのスイッチでクリアーなトレモロと極悪な歪んだトレモロ、dutyツマミはタップテンポのスイッチと連動し、1、2、4のテンポ設定と合わせて等速、倍速、4倍速と変わり、Deltaツマミは上部のスイッチと合わせてスピードの可変を・・うん、複雑すぎるので動画で確認してみて下さい。しかしZ.Vexほど、トレモロだけでこんなに面白いヤツをラインナップしている会社はないですヨ。





Lightfoot Labs

突然その姿を現し、数量限定でGK.1GK.3までのシリーズを残して忽然と消えて行ってしまったLightfoot Labs Goat Keeper。たぶん、トレモロと名の付いたものとしては最も飛び道具的色彩の強いものでしょう。 ウムム・・これもSuper Seek Trem同様に説明するのが大変なくらいぶっ飛んだもの。トレモロの波形やテンポはもちろんシーケンス的効果も出来るのですが、かなりエレクトロニカ風壊れた揺れまでカバーしており・・なにがなにやら。正直グリッチ/スタッター系エフェクターのジャンルに入れてもおかしくないですね。またSync Inの端子を用いれば外部のドラムマシーンとの同期もOKです。しかしオレゴンの片田舎からこんなネーミング・センスと羊のイラストで疾風の如く駆け抜けた本機、本当に謎のまま 'Pedal Geek' たちを狂喜乱舞させた存在でした。
Dreadbox Kappa - LFO + 8 Step Sequencer

ギリシャでモジュラーシンセ的発想によりエフェクター製作をするDreadboxTaff。一見すると通常のトレモロと共通するものながら、メーカーも ‘Scientific Tremolo’ と名付けて従来のトレモロ感に捉われない音作りを推奨しております。本体自体はDepthSpeed、四種類からなる波形選択と深さを調整する一般的なパラメータを持ちながら、やはりLFO8ステップ・シーケンサーを備えるKappaに電圧制御(VC)で繋ぐことで、MoogMoogerfoogerシリーズやKoma Elektronikのエフェクターと共通するシンセライクな音作りに変貌します。

前述しましたが、トレモロはスプリング・リヴァーブと併用することであの古臭い揺れを演出するエフェクターです。そんな2つの効果を現代のDSPテクノロジーで1つにまとめてしまったのがStrymon Flint。基本的にアナログ回路で構成されるトレモロにあって、このStrymonの再現性は目を見張るものがあります。リヴァーブ部は1960年代のバネ臭いものから70年代のプレート・リヴァーブ、80年代のデジタルなホール・リヴァーブまで再現しており、このサイズのエフェクターから実に多様なセッティングを引き出すことが可能。



Z.Vex Loop Gate

ここからは番外編。結果的にトレモロの効果ではあるものの、機能としてはノイズ・ゲートを利用したキルスイッチの変異系をご紹介しましょう。まずはお馴染みZ.VexLoop Gate。本体にSend/Returnを備え、そこに歪み系などをインサートし、なんでもLoop Gateでぶつ切りしてやろうというもの。本機はNormalChop2つのモードを有し、Normalではインサートしたエフェクトに対し通常のゲートとして働き、その切り加減を入力感度のSens.と音のエンヴェロープに作用するReleaseで調整します。そして本稿の目的であるトレモロ的ブツ切れ感を演出するChop。この時のReleaseはゲートの開閉速度として、トレモロのSpeedツマミと同等の働きに変わります。



Dwarfcraft Devices Memento

このゲートによるブツ切れ感をもっとランダムに、例えばグリッチ/スタッター系エフェクターのように作用したら面白いのではないか?じゃ、やってみようということで試してみたのが、新たな ‘変態エフェクターとして頭角を現しているDwarfcraft DevicesMemento。基本的にはミュートするためのキルスイッチを応用したもので、このカットするテンポをキルパターンとしてKillスイッチにタップテンポで記憶させるだけ。後はRe-Killスイッチを踏めばその踏んだテンポの状態で ブツ切れ感が再現されます。またこの再現中にKillスイッチを踏めば、キルパターンの速度を2倍、または4倍にできます。



Selmer Varitone ①
Selmer Varitone ②

管楽器においては、世界初の管楽器用エフェクターであるSelmer Varitoneにもオクターバーと共にアンプに内蔵されていたのがトレモロでした。この素朴な効果の為だけにこんな大仰なサウンド・システムを稼働させなければいけないという可搬性の悪さ・・。しかし、こんなぶっとい感じのトーンは今のデジタルでは再現できないでしょうね。


モジュレーション系エフェクターの元祖として、ゆらゆらと空間を震わせるトレモロの音色・・揺れるって案外と人間の感情と近いところにあるのかもしれません。