2018年1月5日金曜日

ミキサーを考える

管楽器に取り付けるピックアップ・マイク。一般的にはグーズネック式のもの1つをベルにクリップで装着するのですが、わたしのようにマウスピース・ピックアップも併用する奏者は少なからず?いると思うのです(イヤ、いないか・・)。そんな場合に必要なのがミキサーでして、つまりグーズネック式マイクとマウスピース・ピックアップを混ぜてからコンパクト・エフェクターに通すワケです。一昔前はベル側の生音はそのままPAのミキサーにラインで送られて、そこでエフェクツの通ったマウスピース・ピックアップの信号とミックスしてパワード・モニターに振り分けられるのがセオリーでした。昨日の ''Piezo Barrel' と格闘する' でも少し触れましたが、ここではそんなミックスについてのお話。









Solid Gold Fx Funkzilla - Ultimate Envelope Filter

ここでのエフェクティヴな音作りにおいて、中低域に芯のあるマウスピース側と空気感のある 'アンビエンス' を中高域で捉えたベル側でミックスすることは、そのままよりレンジの広い再生を可能とします。ここで注意したいのはダイナミック・マイクを用いること(上の動画ではコンデンサー・マイクですが)と、マイク側のミックスを適量にすることでアンサンブル中のハウリングの誘発を避けること。また、2つのピックアップ・マイク使用によるマイキングからくる '位相差' を揃えておくことも重要です。ちなみにJohn Bescupさんがレビューするエンヴェロープ・フィルターはカナダ産のSolid Gold Fx、Funkzilla。いやあ、ここまで多機能かつエンヴェロープを追い込めるオート・ワウはそうそうないですね。これ一台でワウからフィルタリング、タップテンポによるリズミックな 'グリッチ風' トレモロ、フェイザーのようなモジュレーションまで見事にカバーします。







コンデンサー・マイクの場合、いわゆるPAミキサーからパワード・モニターへと引き回す場合では問題ありませんが、これをアンプにマイクを立てて収音する場合、その感度の良さからあっという間にハウリングを誘発してしまうため、あえてダイナミック・マイクを用いることで限定したレンジで収音する代わりにハウリング・マージンを稼ぐことができます。





Sennheiser Evolution e608
Sennheiser Microphone
Beyerdynamic TG i52d
SD Systems LDM94
Classic Pro ZXP212T
TDC by Studio-You Mic Option

ちなみにそのマウスピース・ピックアップとミックスするマイクはこちら、Sennheiserの珍しいグーズネック式ダイナミック・マイクのEvolution e608。このマイクはリムに対して挟み込むようにマウントする独特な形状のクリップにも特徴があります。というか、このSennheiser e608のほかはBeyerdynamic TGi52dとSD Systems LDM94(これはAmazonで購入可)くらいしか選択肢がないので、もうちょっと各社からも作って頂きたい。そして、ダイナミック・マイクからのXLR出力はClassic ProやTDCの 'インピーダンス・トランスフォーマー' を介して変換、ミキサーへと繋ぎます。

Piezo Barrel on eBay
Neotenic Sound Board Master

そして、ピエゾ・ピックアップとコンパクト・エフェクターを介す 'インピーダンス・トランスフォーマー' として 'ディスコン' ではありますが、Neotenic Soundの '隠れ名機' であるBoard Masterがここで登場。詳細は昨日の 'Piezo Barrelで格闘する' でご紹介しましたが、このLevelツマミの 'アッテネート' しながらゲインを稼ぐ感じは素晴らしい。確かにゲインは増すのですがプリアンプでもなければバッファーとも違う、この絶妙にLevelを底上げしてくれる感じはPiezo Barrelの '純正品' と言っていいくらい相性バッチリ。





Root 20 Mini Mixer
Red Panda Mixer
Behringer MX400 Micromix

そんな2つのピックアップ・マイクをミックスする上で有効なミキサー・・なのですが、これが意外と選ぶのに苦労します。音質の良い 'Mic / Line Mixer' (MackieとかAllen & Heath、Yamahaなど)は豊富にあるものの、どれも大きなサイズとオーバースペックで手元、足元に置いておくのには少々煩雑なのが悩み。単純に2つの信号を1つにミックスするだけなのにコンパクト・サイズのミキサーを用意しているメーカーって少ないのですヨ。わたしが愛用しているのは東京でエフェクター製作とモディファイを行っていたRoot 20の超小型なもの。ドライバーで入出力のゲイン調整できる便利なヤツなのですが、'行っていた' と過去形なのはHPはあるものの現在 '開店休業' 状態のようなのです。Red Pandaのものはここ最近の製品で3つの入力をミックスできるもの。残念ながら日本未発売なのでeBayで個人輸入するほかありませんが、サイズと音質、利便性という点からこれはかな〜りの便利もの。他に現行品として、以前は 'ヘッドフォンアンプ' のHA400、現在ではBehringer MX400に '改名' した小型ミキサーがありますけど、やはり音質やコンパクト・エフェクターとの 'インピーダンス・マッチング'、DC9V〜18Vの仕様において、このRed Pandaくらいのクオリティは欲しいところですねえ。しかし、いつもながらPedals And Effectsさんの動画はこの秘密基地っぽい所で騒ぐ感じがホント好き。



Roland Go Mixer ①
Roland Go Mixer ②

こちらはRolandの新製品であるGo Mixer。ミキサーというよりPCとの連携も目指したオーディオ・インターフェイスのデザインではありますが、楽器からマイク、ライン機器など '8 In 2 Out' を備え、ちゃんとUSBの他にLine出力もあります。さすがにこのサイズなのでマイク入力はフォン仕様、そして少々安っぽい作り(この辺りはRolandらしい)ではあるものの、動画を見ればちゃんと2つのピックアップをミックスすることが出来ますね。







Dwarfcraft Devices Paraloop
Boss LS-2 Line Selector
Lehle Parallel L

こちらのパラレルに2つの音源をミックスしてくれるループ・セレクター、Paraloopもいわゆる小型ミキサーとして使えるでしょう。リンク先の宣伝文句で "2つのオーディオソースをミックスしたい、でもミキサーは使いたくない。おそらく大丈夫です。" などと記載されておりますが・・おそらく?本機は基本的にA/Bそれぞれに繋いだエフェクターをそのままパラレル(並行)で出力にミックスするもので、他にA/BのReturnを入力で使うことで簡易ミキサーとして用いることが出来ます。ただし、Send Vol.の出力ツマミ1つしかないことから、う〜ん、やはりReturn側のゲインを稼ぐ入力ツマミも無いとミキサーというには少々役不足・・。この手のものでは、Bossの '定番' である多目的ライン・セレクターLS-2のReturnを利用した 'A+B Mix' がA/BそれぞれにLevelツマミも付いており、とりあえずお手軽に '2ミックス' のブレンドができるのだけど・・こちらもちょっと物足りない。と思っていたら、ドイツで頑丈かつオシャレなデザインでライン・セレクターなどを製作するLehleから、2つのSend/Returnをそれぞれ0〜+12dBまでゲインアップ、Mixツマミの付いたParallel Lの登場です。アンバランス、TRSフォンにもそれぞれ対応するなど高品位なミキサーとしてもスペック的には申し分なし。





Crews Maniac Sound CMX-3 3ch. Foot Mixer ①
Crews Maniac Sound CMX-3 3ch. Foot Mixer ②
Crews Maniac Sound DMA-3.2 Discrete 3ch. Mixer ①
Crews Maniac Sound DMA-3.2 Discrete 3ch. Mixer ②
Radial Engineering Tonebone Mix-Blender

こちらは、その名もずばり 'Foot Mixer' ということでCrews Maniac SoundのCMX-3はこの項に相応しい一品と言えるでしょう。3チャンネルの入力を持ち、それぞれを個別にOn/Offするマニュアル・モード、リレー式にて選択したチャンネル以外がOffになるプリセット・モードの2モードを備えます。また外部エフェクト用のSend/ReturnとAux入力、ヘッドフォン出力(各チャンネル切り替えで個別にモニター可)も備え、出力は2つのパラレル出力としてアンプやPAミキサーへと同時に送ることも可能と、ほとんど一般的な 'Line Mixer' をそのまま足元に置いたようなまさに至れり尽くせりの仕様。また、CMX-3の前モデルであるDMA-3.2ではXLRによるバランス出力にも対応しております。ただしCMX-3、DMA-3.2共にSend/ReturnからのエフェクツのミックスはDryとWetのMixツマミで原音に混ぜるもので、空間系ならDryとバランスを取って使えるものの、オクターバーやワウのように直接原音を加工する場合ではうまくいきません。Wet 100%でSendから出力して空いているCh.3にReturnで入力することになるのですが、各チャンネルの入力レベルを2回、その後に出力レベルを通るのでどのくらいノイズが増えるのかは気になりますねえ。ともかく、価格は少々お高いですけど管楽器の 'アンプリファイ' 派は要チェック!ちなみにこのCrewsと同様のSend/Returnを備えたミキサーとしては、カナダのRadial EngineeringからMix-Blenderというのもありますが、残念ながら日本未発売なり・・。





Pigtronix Keymaster

さて、そんな利便性の高い小型ミキサーではありますが、しかしダイナミック・マイクからの入力に際しては結局 'インピーダンス・トランスフォーマー' を介してフォンに変換、繋ぐしかないという意味で100%満足な環境を構築できるものではありません。その不満を解消してくれる 'ニッチな' ライン・セレクターというべき、Pigtronixの 'Studio Effects Mixer' の名を持つKeymasterを早速チェック!コンパクトの体裁を取りながらフォンとXLRの入出力、A/B及びA+Bのライン・セレクターを備えるという至れり尽くせりな一品・・と言いたいところですが、コレ、基本はXLRとフォンの同時入出力が不可能なのです・・なんだよぉ。まあ、Aループ側のReturnを入力にすれば一応フォンとXLRのミックスはできるのですが、しかし、せっかくReturnからの入力を最高10dBに底上げするOutput Boostが付いているというのにゲイン不足のため、別個にゲインを稼ぐプリアンプが必要となるなど、いまいち使い勝手がスマートじゃない。こういうXLRとフォンの同時入力ってそんなに難しい技術なのだろうか?(単にそういうニーズが無いってだけ?)。う〜ん、本機は管楽器用 'アンプリファイ' に適したスペックが良いだけに惜しいなあ。ちなみに本機のXLR入出力はファンタム電源不可のため、そのままではコンデンサー・マイクを繋いでも使えないのであしからず。









K&K Sound Dual Channel Pro Preamp ①
K&K Sound Dual Channel Pro Preamp ②
K&K Sound - Wind Instruments

こちらは英国の 'エレアコ' 用ピックアップのメーカー、K&K Soundの2チャンネル・プリアンプ。9V電池のみの駆動で+/-20dBの範囲で効くBass、Trebleの2バンドEQ、Gain装備で腰に装着するもの。EQを基板上でドライバーにより調整するのは少々面倒くさいですが、このミックスをワイヤレス・システムに組み込んで使用する場合は重宝すると思いますヨ。ちなみにこのK&K Soundからは、管楽器用として 'Silver Bullet Microphone' という名のグーズネック式マイクも用意しております。この可愛いフルートのお姉さんはMelissa Keelingなる同社の'看板娘' のようで、フルートを 'アンプリファイ' させてワウやディレイ、Boss VE-20などのデモ動画をYoutubeに上げておりますね。



Trial
Trial Dual Input Preamp Professional

こちらは大阪でエフェクターの製作を行っている工房、高早楽器技術のブランドTrialのDual Input Preamp Professionalです。Dual Input Preampの上位機種という位置付けで、従来機がTRSフォン1つによる 'ステレオ' 入力だったのに対し、本機はちゃんと2つの入力とそれぞれの位相差を解消するPhaseスイッチも設けるなど、これまた至れり尽くせりの仕上がりで管楽器にも良さそう。





Headway Music Audio EDB-2
Headway Music Audio EDB-2 Review
Aer Dual Mix 2

こんな2つのピックアップ・マイクのミックスにおいて、実は専門的に探求、製品化している分野が 'エレアコ' のプリアンプ/DIですね。'ピエゾ + マグ' とか 'ピエゾ + 'コンデンサー' とか、いかにしてPAの環境で 'アコースティック' の鳴りを再現できるのかの奥深い世界。このEDB-2こそまさに至れり尽くせりの決定版というか、細かな内容は動画を見て頂くとして、フォンとXLRの2チャンネル仕様でEQをch.1、ch.2で個別及び同時使用の選択、2つのピックアップの '位相差' を揃えるフェイズ・スイッチと突発的なフィードバックに威力を発揮するNotch Filter、DIとは別にフォンのLine出力も備えるなど、おお、高品質かつ '痒いところに手の届く' 精密な作りですね。個別にミキサーとマイクプリ、EQをあれこれ中途半端なヤツ買って散財するのなら、思い切ってコイツを買ってしまうというのもアリかも。そして 'Bingo' の名で幅広い層に好評を博した 'エレアコ' 用アンプ、Compact 60のプリアンプ部を独立させコンパクトに製品化したDual Mixも新たに 'Dual Mix 2' として復活。こちらもEDB-2同様の '2ミックス' 仕様でエフェクツ内蔵の高品質なヤツなんですが・・しかし 'エレアコ' 用機器はどれもお高い。









Earthquaker Devices

そういえば、米国のEarthquaker Devicesが以前のオール・アクセスとの代理店契約を終了して、新たなラインナップと共に再び日本へ襲来してきましたね。コンパクト・エフェクター業界では最も勢いに乗っているメーカーというか、ベーシックなものから '飛び道具' まで幅広いラインナップで、個人的には 'エレハモ' のライバルというか後継者的存在になるんじゃないか、と睨んでおります(次点でDwarfcraft Devicesなどが期待大)。去年登場した特異な 'ギターシンセ' 風のData Corrupterとか、もう管楽器で使ったらどんな感じになるのかワクワクしちゃいますヨ。









Dwarfcraft Devices
Dwarfcraft Devices Grazer
Pigtronix Mothership 2
Pigtronix

次の注目株Dwarfcraft Devicesからは 'グリッチ/スタッター' 系に特化した新製品、Grazerが登場!効果の面白さはもちろんだけど、このフォロワーさんがマネして作った動画を見るとYoutuber、Knobsさんが演出する 'グリッチ/スタッター' の魅力って凄かったんだなあということを改めて確認しました(笑)。また、ここにPigtronix辺りが絡んでくるともっと面白くなりそうな気がするものの、いまいちマイナーな位置に甘んじているのは残念。Dwarfcraft Devices Happiness同様に、このPigtronix Mothershipに見るCV(電圧制御)でモジュラー・シンセサイザーやドラムマシンとの同期による音作りは、コンパクト・エフェクターの将来性という点で無視できないでしょうね。しかし、Dwarfcraft Devicesの代理店をやっているLep Internationalってなぜ自分のところの製品ページをリンクさせないのだろう?スペックとか紹介したいのに使いにくいのが本当に残念・・。

さて、正直ベーシックなヤツはもう供給過多というか、何か '一攫千金' 的に話題となるとそれのクローンが各社から出回るというサイクルが繰り返されるばかりなので、そういう中からアイデア勝負の '飛び道具' 的製品を打ち出せるかどうかにメーカーの底力を試されている気がします。やはりコンパクト・エフェクターって弾き手をワクワクさせること、挑んでくるようなモノじゃないとつまんないでしょ!あ、そうそう、管楽器には 'グロウル' とか 'ファズトーン'、フラジオに代表される 'ハーモニクス' やミュートといった '人力' による 'エフェクト的' 奏法があるのだけど、そんな主張を代弁してくれる我らが '電気ラッパの師'、近藤等則さんの有難〜いマニフェストをどーぞ。

"ところで、エフェクターの発祥はトランペッターだと知ってる?デキシーランドJAZZがあるだろ?そこで使われるワウからフランジャー、ミュートなど、皆、JAZZのトランペッターが生み出したアナログのエフェクト。それをエレキギターが登場後、同じ効果を生むために電気で開発したものが、ギターエフェクター。エフェクターを成立させたのは、エレキギターでは無く、トランペットが先。そういう意味で、私の「エレクトリック・トランペット」は邪道を行っているのではなく、JAZZの本道を行っている訳だ。JAZZのトランペッター達が、なぜ、エフェクトを産んだのか?それは、音色の違いでもっと色々な表現を増やしたかったから。エフェクターが先に在ったのではなく、自分のイマジネーションを表現するためにエフェクトを作った。つまり、自分がどんな音を出したいのか、そのイマジネーションがしっかりあれば、そうしたエフェクターに巡り合った時に、その性能をフルに発揮できる。何のイマジネーションも持たない人が使っても、機械に振り回されるだけで、その機械を使い込む事は出来ない。イマジネーションが大事。ギターをやっている人達も、その点を意識して、エフェクターを更に楽しんで、面白い音楽をどんどん作って欲しいね。"









そして、毎度楽しい(英語なんで半分も理解しておりませんが・・汗) 'Pedals And Effects' さんによる '秘密基地' でのペダル遊びは、おととし2016年&去年2017年のベスト10!こういうペダル満載の棚を置き、24時間いつでも爆音で音出しできるプライベートな '遊び場' が欲しいなあ。しかし、音楽業界斜陽の時代にあって洪水のように市場へ溢れ出てくるペダルという名の 'ガジェット' 群。往年の名機 '復刻' もあればそれらのクローンと発展型、デジタルによる 'アナログ・モデリング' とエレクトロニカ以降の発想による新しい機器の登場は、まさにコンパクト・エフェクターにとって今が一番恵まれているんじゃないでしょうか。


2018年1月4日木曜日

'Piezo Barrel' と格闘する

1970年代に一斉を風靡しながら、ワイヤレス・システムと共に広く普及したグーズネック式マイクの登場で、完全に過去の '遺物' と化した管楽器用マウスピース・ピックアップ。それをオーストラリア在住のSteve Fransisさんにより立ち上げられた工房、Piezo Barrelが手がけたことで再燃、いま少しづつそのユーザーの裾野を広げております。結構eBayを見ているとコンスタントに数は捌いているようで、とりあえず管楽器の 'アンプリファイ' 普及のまとめとしてどーぞ。









Piezo Barrel Wind Instrument Pickups
Piezo Barrel Instructions
Piezo Barrel on eBay
vimeo.com/160406148

このPiezo Barrel、わたしもeBayを通じていくつか入手してみたのですが、やはり管楽器の 'アンプリファイ'・・そうすんなりと 'コトが済む' はずはなく、散財と 'トライ&エラー' の季節を迎えておりまする。いやまあ、わたしも長くラッパを 'アンプリファイ' しているだけに、こういう問題点をあれこれ面白がれる歳にはなりましたヨ(苦笑)。すんなりと行きたいのだけど、些細な問題に揉まれることでいろいろと身に付く知識もあるってもんです(オススメはしません)。この辺の話は去年の 'あらゆるレベルをひとつにする' を始め、もうここでは何度もしているので繰り返しになってしまうのですが(汗)、本品の普及、向上のために改めてしつこく解説します(笑)。ちなみにこのPiezo Barrel、トランペットではBachタイプのマウスピースによる既製品がラインナップされておりますが、予備としてゴムパッキン付きのソケットが複数封入されているんですね。つまりドリル片手に 'DIY' でお好みのマウスピースへ加工、接合を推奨しているのですが、サックス/クラリネット用に比べると比較的簡易ながら少々心許ない取り付け・・。マウスピースのシャンク部分を薄く平らに削り取り、そこへ乗せたソケット部をハンダで接合するのだけど、単にハンダで固定しているだけなので強くネジ締めするとポロッとハンダごと外れちゃうからご注意(一度外れて、自分でハンダで付け直しました)。これはサックス、クラリネット用マウスピースに比べてシャンク部の肉厚が薄い為、このソケット自体を埋め込むスペースが確保できないんですよね。Monetteタイプのものならガッチリ取り付けられるのだろうけど、ここが本品唯一の欠点。まあ、丸いシャンク部に平らなソケット部をそのまま乗せること自体、無理のあることなんですが・・。

さて、このPiezo Barrel製ピエゾ・ピックアップはアクティヴの仕様でして、本体に小さなドライバーで調整するゲインのツマミを内蔵しております(と言っても基本フルですが)。当然、製作者のFransisさんもこう自身のHPで述べられておられるワケです。

Q: Do I Need a Pre-Amp ?

A: Piezo Barrel Pick-ups do not require a Pre-Amp.The output is similar to an Acoustic Guitar pick-up (Which is also a Piezo pick-up).

大意として、コイツはプリアンプいんの?いや、アクティヴだからそのまんまコンパクト・エフェクターに突っ込んじゃってOK!ってことらしいのですが、う〜ん、どうもわたしの環境だとそのまま突っ込んじゃうとゲインが上がりノイジーになってしまう・・。つまり、ちゃんとインピーダンス・マッチングが取れていないと思うのです。

Joemeek Three Q Review
Classic Pro ZXP212T
Classic Pro APP211L

さあ、問題発生ということでいろいろ試してみるのだけど、一番最初に効果を発揮したのは手持ちのマイク・プリアンプ兼 'チャンネル・ストリップ' Joemeek Three Q。本機のLine入力から突っ込めばそのままプリで増幅、3バンドEQで補正、お好みでオプティカル式のコンプレッサーもあるよ、という感じで、-10dBで出力してあっさり解決しちゃったワケなんですが、いやいや。このThree Qがマイク入力との '2ミックス' でLineと同時入力、ミックスできれば確かにこれで終了、なんだけど、残念ながら本機は同時入力不可・・うう。ということでまた別の方策を考えてみれば、低コストかつ最もお手軽な方法としてインピーダンス・トランスフォーマーをかまして、別途ミキサーでミックスするというやり方を見つけます。通販の頼れる味方、サウンドハウス・プロデュースのClassic ProからZXP212TとXLRからフォンへの変換コネクター、APP211Lを購入、翌日には自宅へ配送と良い時代になったもんだ(合わせて1,836円也)。これは50kΩのフォンと600ΩのXLRをインピーダンス変換してくれるケーブルでして、まあ、インピーダンスの専門的な説明はできませんけど(汗)、確かにこれでキチンと信号の不具合を解消してくれました。ただし、あくまでインピーダンス変換なので音色的には可もなく不可もナシ(そこに拘らなければコレが最も安価、かつお手軽な解決策)。


もうちょっと音色的にどうにかなんないかな?と思案していたところ、まさに '痒いところに手の届く' 及び 'アンプに足りないツマミを足す' のキャッチコピーでお馴染みEffectronics Engineeringとそのブランド、Neotenic Soundの製品が目に付きます。すでにわたしは同工房の代表作Magical ForceとPurepadを愛用しており、また、他社の製品ではあまり見当たらないユニークかつ 'ニッチな' アイデア品を出すことでいろいろ期待していたんですね。最初に見つけたのはBoard Masterという赤い小箱のヤツ。いわゆるギターとアンプの間に挟む 'アッテネーター' の一種のようで、各ピックアップに対してHum、Single、Active、Lineの4種切り替えとLevelツマミを備えておりました。正直、管楽器でこの4種切り替えはほとんど意味ない感じで違いが分かりませんでしたけど、おお、確かに本機を挟んで適度にLevelツマミを回せばちゃんとインピーダンス変換されております。購入時すでに 'ディスコン' 品ではありましたが、わたしは運良く中古を2機確保して足元にセット。さて、ピエゾ1つでも十分に 'アンプリファイ' の効果は堪能できるのですが、やはりベル側のマイクとミックスすることにより、レンジの広い再生と '生っぽい' 空気感を演出することが可能となります。

ex①
Joemeek Three Q
Root 20 Mini Mixer
Red Panda Mixer

まずはわたしのメインボードである小型ミキサーでミックスする環境でのチェック。マイク側はJoemeek Three Qで音作りしたものを入力し、Root 20のMini Mixerでそれぞれ混ぜてみたのですが、うん、特別位相が乱れることもなければ変に音痩せすることなくギュッと各帯域に渡って再生してくれます。Red Pandaのものは入力ゲイン1つでレベルを増幅、調整しますが、これもRoot 20のものに比べて特に不具合はないですね。ちなみにRoot 20のものは現在入手不可能なので、これとほぼ近い構成のRed Pandaのものをお勧めします。また、エフェクターからの出力はそのままフォンで出力、もしくは別途DIを用意して送ります。

ex②
Pigtronix Keymaster - Studio Effects Mixer
Red Panda Mixer

こちらはサブボードによるチェックで、'Studio Effects Mixer' の名を持つKeymasterでミックスしてみました。ピエゾ・ピックアップ側は本機Loop AのReturnから入力しますが、このままではゲイン不足でレベルが取れません(In、OutそれぞれBoostが付いているというのに・・)。そこでReturnの前にRed PandaのMixerでピエゾ側のゲインを稼ぎます。そしてLoop Bにエフェクターを接続して 'インサート' するのですが、各種ライン・セレクターの中でこの 'A+B' ミックスは他社ではあまり見かけない本機の特徴です。また、エフェクターを一括バイパスすべくLoop Bをオフにすればマイクからそのまま劣化なくDIで出力できます。

ex③
TDC by Studio-You Mic Option
Crews Maniac Sound DMA-3.2 Discrete 3ch. Mixer

こちらは 'インピーダンス・トランスフォーマー' のTDC Mic OptionとCrewsの3チャンネル・ミキサー、DMA-3.2を組み合わせてミックスしたもの。このCrewsのは現在、CMX-3 3ch. Foot Mixerとしてモデル・チェンジされてますが基本的な構成はほぼ同じです。エフェクターは本機のSend Returnに繋ぎミックスするので、①②と比べて結線による劣化が最小限に抑えられ、そのままDIで出力できます。









何でかクラリネット関係の 'アンプリファイ' って盛んなんですよね・・(謎)。そんなにステージ上の音量面で困っているのでしょうか?特に以下、ブルガリアからトルコ、ギリシャといったバルカン半島周辺に工房が集まるのは、オスマン・トルコ時代からの '軍楽隊' の伝統を引き継ぐ地域だからなのか、かなりの需要があるようです。ああ、エリック・ドルフィーももう少し長生きしていたら、間違いなく 'アンプリファイ' して木管楽器の可能性を引き出していたかと思うと残念至極。ずっとバンドに恵まれなかった孤高の人だったから、ローランド・カークとは別の意味で、エフェクターによる '一人多重奏法' でもうバンドはいらん!とかなっていたりして(笑)。







Nalbantov Electronics

Piezo Barrelのライバルその1。ブルガリアの工房Nalvantov Electronicsです。ガレージ臭たっぷりのPiezo Barrelに比べて、製品としてよりハイクオリティなパッケージとなっており、専用のオクターバーからDIYキット、ワイヤレス・システムに至るまで幅広く対応しております。





TAP Electronics
TAP Electronics Pick-up

Piezo Barrelのライバルその2。ギリシャのTAP Electronicsです。こちらもNalvantov同様に幅広いラインナップを揃えており、Piezo Barrelに比べ製品としてよりこなれた設計となっておりますね。ピックアップ本体にオクターバーを内蔵させるとか、なかなかメンドくさがりな管楽器ユーザーの心理をよく読んでいる(笑)。





Rumberger Sound Products
Rumberger Sound Products K1X ①
Rumberger Sound Products K1X ②

Piezo Barrelのライバルその3。ドイツのRumberger Sound Productsのマウスピース・ピックアップはコンデンサー・ピックアップによる高音質なサウンドを追求。現在、K1XとWP-1の2種をラインナップしてワイヤレス・システムにも対応しております。現在、近藤等則さんがDPAのミニチュア・マイクロフォンを用いて 'アンプリファイ' している以外、マウスピース内にマイクを突っ込むというのはセッティングであれこれ悩みそうな気がしますが、機会があれば探求してみたいですねえ。マイクなので当然ですけど、プリアンプとは別にマイクを駆動させるための電源を必要とします。

Barcus-berry
Barcus-berry C5600①
Barcus-berry C5200②

そして管楽器用ピックアップといえば老舗のBarcus-berry。一時は豊富に取り揃えていた各種 'アコースティック' 用ピックアップもカタログから減り、現在、同社の管楽器用ピックアップはフルートの頭管部に差し込む6100M、サックス/クラリネット用のC5200(ハーモニカ用C5600と同型)の2種のみ。こちらのC5200 (C5600)はピエゾではなく、9V電池で駆動するエレクトレット・コンデンサー・ピックアップ。このピックアップ本体をマジックテープでサックスのベル内に装着するという・・おお、何と荒っぽい仕様なのかと驚いてしまいます。電源として付属のバッファー・プリアンプ3000Aと一緒に用いるのですが、これがまた頻繁に抜き差しする接続部分にRCA端子を採用するという信じ難いもの。このRCA端子というヤツは基本オーディオの入出力でよく見かけるもので、一度繋いだらそう頻繁に抜き差しするほど強固には作られておりません。わたしが以前に愛用していたマウスピース・ピックアップのModel 6001もこの作りだったのですが、案の定、抜き差しのし過ぎでプリアンプ受け側の端子がハンダごとすっぽ抜け。自分で再度ハンダ付けをして直しましたヨ。







Barcus-berry 1374 Piezo Transducer Pick-Up
Barcus-berry 1375 Piezo Transducer Pick-up

ある意味Barcus-berryで一世を風靡したのは、マウスピース・ピックアップのModel 1374でしょうね。ちょうどフランク・ザッパ率いるザ・マザーズがジョージ・デュークなどジャズ系ミュージシャンらを擁して活動した1973年頃から普及し、動画中のジャン・リュック・ポンティが持つエレクトリック・ヴァイオリンを始め、ホーン2人のマウスピースにもしっかりBarcus-berryの製品がラインナップされております。また、当時のフュージョン・ブームで吹いていた管楽器奏者のマウスピースにはほとんどこの1374(1375-1)が穴を開けられて接合されており、その代表格なのがザ・ブレッカー・ブラザーズです。特にトランペットのランディ・ブレッカーは1994年頃まで本品を用いており、その当時の 'Jazz Life' 誌によるインタビュー記事でもこう述べております。

ランディ "ここには特別話すほどのものはないけどね(笑)。"

− マイク・スターンのエフェクターとほとんど同じですね。

ランディ "うん、そうだ(笑)。コーラスとディレイとオクターバーはみんなよく使ってるからね。ディストーションはトランペットにはちょっと・・(笑)。でも、Bossのギター用エフェクツはトランペットでもいけるよ。トランペットに付けたマイクでもよく通る。"

− プリアンプは使っていますか?

ランディ "ラックのイコライザーをプリアンプ的に使ってる。ラックのエフェクトに関してはそんなに説明もいらないと思うけど、MIDIディヴァイスが入ってて、ノイズゲートでトリガーをハードにしている。それからDigitechのハーモナイザーとミキサー(Roland M-120)がラックに入ってる。"

− ステレオで出力してますね?

ランディ "ぼくはどうなってるのか知らないんだ。エンジニアがセッティングしてくれたから。出力はステレオになってるみたいだけど、どうつながっているのかな?いつもワイヤレスのマイクを使うけど、東京のこの場所だと無線を拾ってしまうから使ってない(笑)。生音とエフェクト音を半々で混ぜて出しているはずだよ。"

− このセッティングはいつからですか?

ランディ "このバンドを始めた時からだ。ハーモナイザーは3、4年使ってる。すごく良いけど値段が高い(笑)。トラック(追従性のこと)も良いし、スケールをダイアトニックにフォローして2声とか3声で使える。そんなに実用的でないけど、モーダルな曲だったら大丈夫だ。ぼくの曲はコードがよく変わるから問題がある(笑)。まあ、オクターヴで使うことが多いね。ハーマン・ミュートの音にオクターヴ上を重ねるとナイス・サウンドだ。このバンドだとトランペットが埋もれてしまうこともあるのでそんな時はエッジを付けるのに役立つ。"

− E-mu Proteus(シンセサイザー)のどんな音を使ってますか?

ランディ "スペイシーなサウンドをいろいろ使ってる。時間があればOberheim Matrix 1000のサウンドを試してみたい。とにかく時間を取られるからね、この手の作業は(笑)。家にはAkaiのサンプラーとかいろいろあるけど、それをいじる時間が欲しいよ。"

− アンプはRolandのJazz Chorusですね。

ランディ "2台をステレオで使ってる。"

また、グーズネック式マイク1本となった後年、そんなマウスピース・ピックアップのセッティング期に対してあのやり方も悪くなかったヨ、とのこと。しかし、このBarcus-berryの製品も言葉は悪いですが '使い捨て' というか、接合して1年も吹きまくると急速な息による湿気であっという間にピエゾの反応が悪くなるという弱点が露呈します。上の動画だとチャカ・カーンとのライヴ動画はエフェクトがほとんど聴こえてませんね。まあ、PAとの兼ね合いもあるとは思うのですが、そんなモニター環境の悪さを考慮?してか、ランディがウォークマン用のヘッドフォンを用いてモニターするという奇異な光景が・・(笑)。





オーストラリア?の海軍バンドによるライヴ・セッションなんだけど、短いながらも途中で出てくるバリトン・サックスのワウペダルを用いたソロが格好イイ!お、ちゃんとバリトンのネックにはPiezo Barrelのピックアップが備えられておりますねえ。よく聴けばネロ〜ンとしたオクターヴからオーバードライブ、ワウからモジュレーションとフレイズのニュアンスを変えて吹き分けるなど、まさに 'アンプリファイ・トーン' ならではの威力を発揮!そして 'Pedals And Effects' さんの動画に初登場の 'アンプリファイ' したサックス奏者はAdrian Terrazas-Gonzalezなる人で、どれもベーシックな足元ながらツボを押さえたセレクトですね。Ernie Ballのワウペダルってのは結構珍しいけど、このヒモでペダルを稼働させる '踏み心地' が気持ち良かったりして(笑)。

最近の管楽器用グーズネック式マイクとPAによる再生はかなり進化しており、わざわざこのような旧態依然のスタイルでやる必要はないのかもしれませんが、しかし、これでなければ鳴らない '質感'、サウンドというのはあるのです。お金もかかるし煩雑なセッティングにも悩まされますけど、管楽器で攻めた音作りに興味を抱いている '変わり者' の皆さま、Let's Try !





さて、2018年の年初といえば去年の '総括' ということで、The PedalZoneさんとDennis Kayzerさんによる 'Best Pedals of Top 10 2017' の発表です。こういうのを見ると日本と米国の人気の違いはもちろん、まだまだ知らないペダルがあるもんだなあ、と勉強になります。

2018年1月3日水曜日

'こえ' とギター

こんな新年の三が日、ひんやりと張り詰めた東京の空気には '歌う' 吟遊詩人、アート・リンゼイの新作 'Cuidado Madame' が良く似合います。







このひとの持つコード感がもの凄く好きだ。自分の 'こえ' の最も波長の合うところを分かっているというか、良い意味でずっとそれはソロ1作目から変わらない。まったくの 'ノー・チューニング' によるDanelectroの11弦を掻き鳴らし、一切の音楽的楽理から距離を置いたところでその個性を獲得したアート・リンゼイは、しかし、ジョアン・ジルベルト、ロバート・ワイアットと並び世界で最も美しい 'うた' を呟いている。







ああ、まるで宇宙遊泳をしているようなこの無重力感。アートが盟友ともいえるボサノヴァのギタリスト、ヴィニシウス・カントゥアリアと共作した1曲に 'Astronauts' という曲や、またバーデン・パウエルの 'O Astronauta' などがあるのだけど、まるで宇宙の果てへたゆたうように飛ばされながら一切の真空の中、耳元で囁かれている宇宙飛行士のような気分だ。このボサノヴァの持つ '余白' とコードの魔力、首都ブラジリアを設計したオスカー・ニーマイヤーの持つ近未来的デザインと宇宙飛行士がボサノヴァと融合する・・分かるかなあ?この感覚。







アート・リンゼイのもうひとつの 'こえ' ともいうべきノイズギターではありますが、例えば、膨大なエフェクツとあらゆる異物により変形させる 'プリペアード・ギター' のフレッド・フリス(元ヘンリーカウ)やマーク・リボー、ユージン・チャドボーンにヘンリー・カイザーといったニューヨークの実験派、そして彼らのルーツ的存在であるAMMのキース・ロウとは違う立ち位置にいる孤高の存在ですね。やはりその精神はアカデミズムとは真逆のパンクというか。足元の歪みはほとんどProco Ratだけで、そこから実に多彩なノイズを放出できるのはひとつの '匠' の域と言ってよいでしょう。







また、この手の元祖であるソニー・シャーロックやデレク・ベイリーとも違い、個人的には、ブラジルの弦楽器にして打楽器でもあるビリンバウからの影響をもの凄く感じます。実際、そのビリンバウの名手であったナナ・バスコンセロスとはよく自身の作品で共演、共作していたし、何より、その幼少期をブラジルで過ごしたアート自身の 'コスモポリタン' な立ち位置と強く結びついていると思いますね。ちなみにアート自身は自分の10代の '2大インフルエンス' としてジミ・ヘンドリクスと 'エレクトリック・マイルス' を挙げていたから、その怪人ギタリストとして異彩を放ったピート・コージーへの憧憬も強い。ふたりのルックスは '巨漢' と '痩せっぽち' と対照的ながら、実は案外似た者同士なんじゃないだろうか?いわゆる 'ヘンドリクス・マナー' でギターを弾きながらEMSシンセサイザーでノイズ垂れ流すというのが、まさにピート・コージーの特異性なワケでして・・。









ある意味でこの異邦人のセンスは、完璧な空調の効いた '不快指数0%' のリビングで遠くアマゾンやリオのゲットーから聴こえてくるカーニバルの喧騒に意識を飛ばす 'エキゾティカ' の視線とぶっ壊れたパンクの精神、それをヒップ・ホップやテクノの包装紙で包む同居した面白さがあります。キレイに包装されたプレゼントが届けられて開封したら、醜悪なXXXが溢れ出してくるような(イイ年した)こどもの悪戯というか嫌がらせというか。こういう毒のあるポップって最近聴きませんね・・。奇抜なことやるとかラウドに絶叫するとかじゃなく、こう、綺麗にポップな 'フリ' して醜悪な匂いを放つってのがたまらないのですヨ。





2018年もすでに後363日。地球を周回する人工衛星は一周を1時間半で世界を巡る・・あっという間。そんな青い惑星から今日もまた誰かがどこかの片隅で呟きます。世界の醜悪さと美しさと愛を口にして。


さて、そんなアート・リンゼイの 'こえ' は唯一無二のものなのだけど、ヴォーカル含めて楽器の持つ 'ヴォイス' を加工する上で、その質感を操作するエフェクターというのも見逃せません。トーク・ボックスやヴォコーダー、Autotuneによる 'ケロッた' 人工的なものまで行かなくとも '電話ヴォイス'、'AMラジオ・ヴォイス' を始めとしたザラついた質感は管楽器にも応用できるはず。いわゆるフィルターのシンセサイズやEQに加え、コンプに代表される 'ギュッ' と滲んだ '圧縮感' へ飽和する 'テープ・コンプ'  とサチュレーション。ここからは番外編、そんな 'ローファイな' 質感生成に特化したものを見ていきましょう。







Ibanez LF7 Lo Fi
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky ①
Z.vex Effects Instant Lo-Fi Junky ②
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱ ①
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱ ②

楽器や音声などを加工する上で、エフェクターの中でも1990年代以降の新たな価値観に触発された一風変わったものが、Ibanezの 'Tone-Lok' シリーズの一台、LF7 Lo Fiです。その名の如く 'ローファイ' な質感にしてくれるもので、電話ヴォイス、AMラジオ・トーンなどの 'バンドパス' 帯域に特徴のある荒れた質感と言ったらいいでしょうか。そもそもは 'オルタナ・ロック' やヒップ・ホップにおけるロービットなサンプラーの荒れた質感を指す言葉として、1980年代のデジタル中心な 'ハイファイ' に対する価値観として共有されました。それはヴィンテージ・エフェクター再評価などもそうなのですが、むしろ、ターンテーブルからサンプラーなどのデジタル機器に取り込むことで、それまで気にも留めていなかった 'ノイズ' が音楽の重要な要素として際立ったことが、そのままある種の 'エフェクト' として切り取られたことに意味があったワケです。このLF7はギターのほかドラムマシン、ヴォーカルのマイクなど3つのインピーダンスに対応した切り替えスイッチを備えており、Drive、Lo Cut、Hi Cut、Levelの4つのツマミで音作りをしていきます。一応、ギタリストからDJまで幅広く使ってもらうことを想定していたようですが、結局はギタリストにはイマイチその価値観が伝わらず、DJにはそもそもこの製品の存在が知られることがなかったことで、現在でも他の追随を許さない '迷機' としてのポジションに甘んじております。また、このような 'ローファイ' な質感をアナログ・レコードのチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものとして、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi JunkyやChase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱなどが登場しました。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。特にこのWarped Vynal Mk.Ⅱのアナログによる古臭い質感、背面に備えられた8 x 2のDIPスイッチによる多彩なコントロール(多彩過ぎてリンク先参照)の 'ハイブリッド' な設計の緻密さに感服して頂きたい・・。個人的には派手にかかるエフェクツより、こういうビミョーな質感をチマチマいじれるヤツで自分のラッパの 'ヴォイス' を生成したいですねえ。









Penny Pedals Radio Deluxe Lo Fi Filter
Placid Audio Copperphone

そして、いわゆる 'ラジオ・ヴォイス'、'電話ヴォイス' に特化したPenney PedalsのRadio Deluxe Lo Fi FilterやPlacid Audioのダイナミック・マイク、Copperphoneなどのニッチかつユニークな製品はもっと広く 'エフェクツ派' に普及していって欲しいですねえ。リンク先にはトランペットでの音源もありますが、まさに1940年代の古臭いラジオからビ・バップが流れてきたようなトーンになってる!

2018年1月2日火曜日

倍音とリング変調の世界

リング・モジュレーションといえば現代音楽の大家、カールハインツ・シュトゥックハウゼンが 'サウンド・プロジェクショニスト' の名でミキサーの前に陣取り、オーケストラ全体をリング変調させてしまった 'ライヴ・エレクトロニクス' の出発点 'Mixtur' (ミクストゥール)に尽きます。



'Mixtur' Liner Notes

詳しいスコアというか解説というか '理屈' は上のリンク先を見て頂くとして、こう、何というか陰鬱な無調の世界でおっかない感じ。不条理な迷宮を彷徨ってしまう世界の '音響演出' においてリング・モジュレーターという機器の右に出るものはありません。映像でいうならフィルムが白黒反転して '裏焼き' になってしまったような色のない世界というか、ゴ〜ンと鳴る鐘の音、世界のあらゆる '調性' が捻れてしまったような金属的な質感が特徴です。

以前にも ''飛び道具'の王様リング変調器' として取り上げましたけど、ほとんど制御不能ながらエフェクターの面白さを手軽に味合わせてくれるものということで、ここで再び取り上げます。そんな個人的 'リング変調ブーム' も再燃して去年の暮れ、Cosmic RayというNeotenic Soundのちっちゃいリング・モジュレーターを買いました。単純に管楽器でも扱いやすいことからこのブランドをよく手にとりますが、このCosmic Ray、すでに生産終了の 'ディスコン品' として、わたしが購入したのは楽器店の店頭在庫 '最後の一台' だったみたい。本機の利点は手のひらサイズの超小型、原音とエフェクト音のMix、リング変調のフリケンシーを司るπ(パイ)というたった2つのツマミだけ、シンプル・イズ・ベストの '場所取らず' で悩むところは一切なし。









Neotenic Sound Beep Impact - 8 Bit Fuzz
Jen HF Modulator
DOD Gonkulator
Heavy Electronics Saturn ①
Heavy Electronics Saturn ②

ただし、リング・モジュレーター唯一の操作法といっても過言ではない、エクスプレッション・ペダルによるフリケンシー操作はできないのでリアルタイム性には乏しいかも。ある意味、エグい '飛び道具' 的発想だけで見れば、もっとエグくてぶっ飛んでくれる多機能なヤツはいっぱいあります。ちなみにこの動画では8ビット・ファズBeep Impactとの 'コラボ' ですけど、その質感は1970年代にJenが 'Gretch / Playboy' のブランドで発売していたHF Modulatorを思い出しました。またディストーションを内蔵した '2 in 1' 的歪んだリング・モジュレーターとしては、DODから再登場したGonkulatorがありますね。続く緑色のシンプルな面構えのHeavey Electronics Saturnは、Sayer Payneの手により製作されるガレージ工房のもので、中身は一般的なリング変調の構成を備えながらDriveセクションにより強烈な歪みを生成します。









Black Cat Products Ring Modulator
Electro-Harmonix Ring Thing
Dwarfcraft Devices Hax ①
Dwarfcraft Devices Hax ②

1990年代後半、わたしが最初に購入したBlack Cat Products Ring Modulatorを皮切りに現在までいろんなタイプのリング・モジュレーターを試してきました。個人的に気に入ったのは名門Electro-Harmonixが満を持して復刻したFrequency Analyzer EH-5000。現在の小型となった 'Xo' シリーズではなく、分厚い鉄板を加工した大柄な1970年代の復刻ものでして、これはCosmic Ray同様にエクスプレッション・ペダルの操作ができないんですよねえ。現在ではより多目的なプログラム機能を備えるRing Thingや、'Clash' ツマミで電圧を可変させると共に歪ませながらTuneツマミでオシレータ演奏も可能なDwarfcraft Devices Haxの '発展型' 機種も増えたものの、それ以前は、本当にフリケンシーのエクスプレッション・コントロールが唯一の '飛び道具' というイメージだったのです。そういう意味では、初めからエクスプレッション・ペダルのないマイナス点というべきこの仕様は、逆に本機のツマミを通してアンプの '箱鳴り' という一風変わったシミュレートの探求へと向かわせます。このリング変調による非整数倍音が生み出す '箱鳴り' に興味を持ったのは、ギタリストの土屋昌巳さんによる雑誌のインタビュー記事がきっかけでした。

"ギターもエレキは自宅でVoxのAC-50というアンプからのアウトをGroove Tubeに通して、そこからダイレクトに録りますね。まあ、これはスピーカー・シミュレーターと言うよりは、独特の新しいエフェクターというつもりで使っています。どんなにスピーカー・ユニットから出る音をシミュレートしても、スピーカー・ボックスが鳴っている感じ、ある種の唸りというか、非音楽的な倍音が出ているあの箱鳴りの感じは出せませんからね。そこで、僕はGroove Tubeからの出力にさらにリング・モジュレーターをうす〜くかけて、全然音楽と関係ない倍音を少しずつ加えていって、それらしさを出しているんですよ。"

なるほど。土屋さんは自宅という環境においてアンプを使えないというところからこのやり方を見つけたようですが、特別ギタリストと何の縁もないわたしにとって土屋さんと同じ結果になることはなくとも、こういう変わった音作りの話は大好きです(笑)。その興味深い話の続きを聞きましょう。

"僕が使っているリング・モジュレーターは、電子工学の会社に勤めている日本の方が作ってくれたハンドメイドもの。今回使ったのはモノラル・タイプなんですけれど、ステレオ・タイプもつい1週間くらい前に出来上がったので、次のアルバムではステレオのエフェクターからの出力は全部そのリング・モジュレーターを通そうかなと思っています。アバンギャルドなモジュレーション・サウンドに行くのではなくて、よりナチュラルな倍音を作るためにね。例えば、実際のルーム・エコーがどういうものか知っていると、どんなに良いデジタル・リバーブのルーム・エコーを聴かされても、'何だかなあ' となっちゃう。でもリング・モジュレーターを通すとその '何だかなあ' がある程度補正できるんですよ。"

そもそもアンプではなく、ラインによる音作りが主の管楽器による 'アンプリファイ' なんですけど、わたしはGenz Benz UC4という 'PAライクな' 135Wのコンボアンプを用いて、アンプの 'Send / Return' にリング・モジュレーターを繋ぎ、スプリング・リヴァーブと共に極力かかっているかいないか分からないくらいの非整数倍音を加えて、ラッパで強くブロウした時にギザギザッと狂う感じを演出してみました。まあ、これが土屋さんの言われる '箱鳴り' と同等なものなのかは置いておくとして(苦笑)、しかしアバンギャルドではないかたちでリング・モジュレーターの魅力を再発見できたのは嬉しい収穫でしたね。Frequency Analyzerの場合だと、ギュイ〜ンと変調するShiftを追っかけるように追従するFineというツマミが他社の製品にはない独特なものでして、これは '箱鳴り' の演出において、エクスプレッション・ペダル以上に重宝したことを思い出します。そう、一通り 'エグい' 使い方で一周するとFrequency AnalyzerやCosmic Rayのような 'シブい' ヤツの倍音生成にハマるのですヨ。











Colorsound Ring Modulator
Masf Pedals Swan Song
Bananana Effects
Copilot Fx Planetoid ①
Copilot Fx Planetoid ②
Copilot Fx Broadcast BC-2 ①
Copilot Fx Broadcast BC-2 ②

一方で、リング変調のフリケンシー・コントロールに重点を置いたものとしては、1970年代に登場したColorsoundのペダル内蔵型があります。大抵の製品は外部にエクスプレション・ペダルを接続する仕様にあって、むしろ 'ペダル内蔵' というのはリング・モジュレーターにとってもっと普及して良いと思うんですけどね。このColorsoundのは1990年代初めにズラッと復刻版が市場に現れた内のラインナップに入っていたのですが、その特殊な効果のためか早々と見なくなり、わたしがエフェクターを漁るようになった1990年代後半にはすでにプレミアが付いておりました。なかなかにささぐれ立った荒い変調具合で、この後に取り上げるCarlinのRing Modulatorと近い匂いを感じますね。その後、日本を代表するノイズ・メーカーであるMasf PedalsからもSwan Songという一体型が現れましたけど、ガレージ工房であるBananana Effects Growl 567はその 'エクスプレッション操作' を光センサーによりやってしまうナイスな一品!そして、中南米のドミニカから '飛び道具' なエフェクターばかり小まめにモデル・チェンジしながら製作するCopilot Fx。リング・モジュレーターのPlanetoidと共に使うと威力を発揮する 'エクスプレッション・ボックス' のBroadcast BC-2は、単なるフリケンシーの変調のみならず、ランダマイズなLFOなど多様な音作りを可能とします。





Oberheim Electronics Ring Modulator (Prototype)
Maestro Ring Modulator RM-1A
Maestro Ring Modulator RM-1B

そもそもは1960年代後半、後に 'オーバーハイム・シンセサイザー' で名を馳せるトム・オーバーハイムが同じUCLA音楽大学に在籍していたラッパ吹き、ドン・エリスより 'アンプリファイ' のための機器製作を依頼されたことから始まりました。この時少量製作した内のひとつがハリウッドの音響効果スタッフの耳を捉え、1968年の映画「猿の惑星」のSEとして随所に効果的な威力を発揮したことでGibsonのブランド、MaestroからRM-1として製品化される運びとなります。オーバーハイムは本機と1971年のフェイザー第一号、PS-1の大ヒットで大きな収入を得て、自らの会社であるOberheim Electronicsの経営とシンセサイザー開発資金のきっかけを掴みました。それまでは現代音楽における 'ライヴ・エレクトロニクス' の音響合成で威力を発揮したリング・モジュレーターが、このMaestro RM-1の市場への参入をきっかけにロックやジャズのフィールドで広く認知されたのです。













Carlin Ring Modulator
Moody Sounds Carlin Ring Modulator Clone
Masf Pedals Tortam
Pigtronix Philosopher King
Subdecay Vitruvian Mod. VM-1
Lastgasp Art Laboratories Sick Pitch King
Lastgasp Art Laboratories Sick Pitch King Jr.

本来リング・モジュレーターとは、2つの入力の和と差をマルチプライヤー(乗算器)という回路で掛け合わせることで非整数倍音を生成するものです。大抵のリング・モジュレーターには掛け合わせるためのオシレータが内蔵されておりますが、このCarlinのヤツはそんな原点の構造に則って、A、Bふたつの入出力を掛け合わせて音作りを行える珍しい一台。オリジナルはスウェーデンのエンジニア、Nils Olof  Carlinの手によりたったの3台のみ製作されたという超レアもの。それを本人監修のもとMoody Soundsが復刻した本機、わたしも早速購入しましたが、ひと言で表現するならば '塩辛い'!いや、ヘンな表現で申し訳ないですけど(笑)、通常のリング変調にみるシンセっぽい感じとは違い、チリチリとした歪みと共にビーンッ!と唸る感じに柔らかさは微塵もありません。かなり独特というか、ステレオ音源を通しても良いし、B出力をB入力にパッチングしてA入力と掛け合わせても良いし、いろいろな発想を刺激してくれますヨ。ちょっと凝ったセッティングとしては、CarlinのB入力にMasf Pedalsのオシレータ発振を軸とした風変わりな一台、Tortamを接続。そのTortamにはLowpass GateのCV入力があるのでPigtronixのエンヴェロープ・ジェネレーター、Philosopher KingからCVで操作することで本機のHoldツマミを回すと2つのフリケンシー・シフトをリアルタイムで変調することができます!ま、ちょっとした 'プチ・モジュラー気分' が味わえますね。そんな外部オシレータとの連携できる機器の一方、Subdecayのものは、本体内に7つの切り替え式キャリア・オシレータを備え、それぞれE、A、D、G、B、E、Aと優れたピッチ変換で追従、Fineツマミで上下マイナー3度、EntropyスイッチがChaosモードの場合はCarrierとFineツマミ合わせて19Hzから2.5kHzの8オクターヴの範囲でレンジ調整し、変わった倍音構成を生成する音楽的アプローチの変調を得意とします。そして、日本発の 'ノイズ・メーカー' として特異な製品開発によるラインナップを展開する 'L.A.L.' ことLastgasp Art Laboratories。現在はオーストラリアに拠点を移しているようですが、このSick Pitch Kingは 'エレハモ' やMoogerfoogerが登場する前に市場で購入できた貴重なリング・モジュレーターでした。この初代機は現在でも他社の製品ではあまり見ない 'Carrier' 入力が備えられており、ここからいろんな音源を突っ込んでリング変調の実験に活躍したことを思い出します。









Moog Moogerfooger
Fairfield Circuitry Randy's Revenge
Way Huge Electronics Ring Worm WHE606

現在の市場で高品質なリング・モジュレーターとして人気を集めているのが、'Moog博士の置き土産' ともいうべきMoogerfooger MF-102とカナダの工房、Fairfield CircuitryのRandy's Revengeでしょう。特にRandy's Revengeは、そのコンパクトなサイズに多様な機能を詰め込み、これまでの歪みきって 'ノイジーな' イメージのリング変調にあって、本機は実にクリアーで粒の際立った効果が特徴的です。ただ無調にギザギザと濁った '音響' になるだけと思い込んでいる人は、是非とも本機の高品質なサウンドにヤラれて下さいませ。また、高品質ということではJeorge Trippsの手がけるWay Hugeから登場したRing Wormも評価が高いですね。DC18Vという広いヘッドルームもそんな音質に貢献している思うのだけど、残念ながらすでに生産終了しているので中古で見つけるしかありません。







Z.Vex Effects Ringtone
Z.Vex Effects Super Ringtone

やっぱりZ.Vex Effects Ringtoneの動画は面白い。もう10年以上前の動画ながら未だに本機を使いこなすプレイヤーが現れていない現在の状況で、俗に 'エフェクター界の奇才' と呼ばれるZachary Vexさんの斜め上を行く発想は凄すぎます。デジマートなどで検索すれば安価な中古が出回っており、いつか試そうと思っているのだけどなかなか手を出す勇気がない(笑)。いや、でもエフェクターってそもそもこういう 'ぶっ飛んだ' 体験をするものですよね。エクスプレッション・ペダルでもなければ原音とのミックス具合でもなく、'歪み' 系との '2 in 1' でもない。8ステップ・シーケンスをリング・モジュレーターに組み合わせてペダルにしてしまうセンス、普通のシンセ・メーカーでも思いつきませんヨ。ザッカリーさん自らが解説するこの動画では、フリケンシーを司る8つの各ステップのエフェクト音と原音を調整し、微妙に狂ったオクターヴを合わせるというなかなかに面白い展開。現行品は倍の16ステップを備えてMIDI同期にも対応するSuper Ringtoneがラインナップされておりますが、この8ステップ・シーケンサーの '飛び道具' Ringtone、まだまだ探求する価値アリ、です。









Dreadbox Sonic Bits - LoFi Bit Crusher Delay
Dreadbox Kappa - 8 Step Sequencer + LFO
Koma Elektronik BD101 Analog Gate / Delay
Sherman Filterbank 2

リング・モジュレーターと類似性の高い効果として、いわゆるフランジャーの付加機能として 'エレハモ' 製品でよく見る 'Filter Matrix' や、'ロービット' 系のゲーム・サウンドに聴かれるブチブチした 'MXR Blue Box風' ファズがあります。ギリシャ産のDreadboxとドイツ産Koma Elektronikはビット・クラッシャー系ディレイながら、どちらも十分リング・モジュレーターの代用、発展系としてその豊富な音作り含め使える優れた一品。またコンパクト・エフェクターではなく、アナログ・シンセサイザーにおいてリング・モジュレーションと同義語と言えるのがAM(Amplitude Modulation)とFM(Frequency Modulation)変調による音作りですね。アナログ・シンセKorg MS-20からの信号をSherman Filterbank 2のAM、FMそれぞれの入力から掛け合わせることで狂った非整数倍音を生成します。





Elta Music Devices
Lovetone Ring Stinger
Free The Tone RM-1S Ring Modulator

1990年代にはほとんど新製品のなかったリング・モジュレーターですが、名門Electro-HarmonixとMoogerfoogerをきっかけにして今ではかなり小さな工房からも製品化されており、それだけコンパクト・エフェクターに対する多様化が広がったと見て良いと思います。もう 'ニッチ' でもなんでもなく、定番と一緒にちょっとぶっ飛びたいとき一台足元へ置いとく、という感じで、どれにしようか迷うくらい選択肢があるっていうのは嬉しいですヨ。こういう製品はやはりシンセサイザーの設計を得意とするメーカーが多く、ロシアでその手の製品を 'ペダル化' してラインナップするElta Music Devicesは今後の有望株。大体このString Ringerというのが、Lovetoneのリング・モジュレーターであるRing Stingerを 'デッドコピー' したものというから尋常じゃない。こう、何というか製品化のニーズを間違えてるというか(笑)、エフェクター好きの自分からしたらこの血迷ったセレクトに 'Good Job!' 以外の何ものでもないのだけど、市場調査的には完全に失敗でしょうね。しかし、どっかの誰かひとりにでもソレ欲しい!と思わせたなら完全に成功なのが、このリング・モジュレーターという存在なのです。実際、昨年暮れにFree The ToneからLuna Seaのギタリスト、Sugizoのシグネチュア・モデルとして280台限定で募ったリング・モジュレーター、あっという間の予約完売だったらしいですから・・。ま、リング効果というよりSugizo効果なんだろうけども(笑)。


2018年1月1日月曜日

'電化ジャズ' -可能性と問題点-

明けましておめでとうございます。

'温故知新' - 古きをたずねて新しきを知る。さて、オクターバーというヤツは管楽器用エフェクターとしても最初に製品化されたものなのですが、ここではそんな初期の胎動を示す 'スイングジャーナル' 誌1968年10月号に寄稿された児山紀芳氏の記事 'エレクトリック・ジャズ - 可能性と問題点' を、いくつか抜粋してお送りしたいと思います。しかし、この '問題点' というところに当時の保守的なジャズ界の '右往左往ぶり' が伺いしれるのだけど、一方では、当時台頭してきたロックと '電化' の波がもたらす風潮を耳あたりの良い 'ギミック' として、それがいつまで '賞味期限' を保証してくれるのか、というビル・エヴァンスの鋭い批評を引用するなど、今の時代から読んでも唸らされるところがあります。'プッシュボタン時代' という今からすれば実に古臭いキャッチコピーは、現在の生活、音楽シーンなどと合わせて考えてみるとなかなかに示唆に富んだ表現なのですが、これはそんな時代の変わりゆく '証言' の一端です。


- 来るかプッシュ・ボタン時代 -

アメリカでエレクトリック・サキソフォーンが開発されたのは、いまから2年前の1966年夏のことだった。いらい今日では、リー・コニッツからキャノンボール・アダレイまで、実に多くのジャズメンがエレクトリック・サックスを使っている。そこで本稿では、私が最近アメリカで見聞、取材した材料をもとに、話題のエレクトリック・ジャズと、その可能性と問題点を探ってみる。

エレクトリック・サックスというのは、サックスの音をひろうピックアップを楽器に接続して、電気増幅器で音をいったん電流に変え、スピーカーを通して再生するもので、すでにアメリカでは、いくつかのメーカーが売り出している。





エレクトリック・サックスを最初に開発、発売したのは有名なサックス・メーカーのセルマーだが、セルマーがエレクトリック・サックスの研究を進めた動機は、ローランド・カークの二管同時吹奏という驚異のテクニックにアイデアを求めたものといわれている。一本のサキソフォーンでカークのようなマルチ・プレイが電気仕掛けでできないものか - これがセルマーの考えだった。こうして完成されたのが今日のエレクトリック・サックスだが、この楽器を使うと、人は一本のサックスで、いうなればテナー・サックスとアルト・サックスの演奏ができる。もちろんサックスばかりでなく、ピックアップをクラリネットやフルートに装てんすれば、同じ結果(正確には1オクターヴ下の音)が得られるのだ。そのほか、増幅器(アンプリファイヤー)に内蔵された種々のメカニズムによって電気的に音色を明るくしたり、ダークにしたり、エコーをつけたり、トレモロにしたり、都合、60種類もの変化を得ることができる。



「音楽にプッシュ・ボタン時代来る」 - これはあるエレクトリック・サックス・メーカーが考え出したキャッチ・フレーズだが、ここで考えられる問題点や疑問については、あとでふれるとして、少なくとも私が見聞したかぎりでは、このキャッチ・フレーズは全くウソではない。事実日本でも松本英彦や北村英治、原信夫とシャープス&フラッツがプッシュ・ボタンやつまみのついたリード楽器を使いはじめているし、上記したようにアメリカでは多くのミュージシャンたちがサックスを吹きながら手や足でプッシュ・ボタンを操作しているのだ。単にサキソフォーンばかりではなく、ボタン時代はトランペットにも、ピアノにも、もちろんギターやベース、ドラムスにも波及してきている。

- 電化サックスの可能性 -



このところエレクトリック・アルト・サックスをもっぱら使用しているリー・コニッツは、サックスが電化されたことにより、これまでの難問題が解決されたと語っている。コニッツが従来直面していた難問題とは、リズム・セクションと彼のアルト・サックスとの間に、いつも音量面で不均衡が生じていたことをさしている。つまりリズム・セクションの顔ぶれが変わるたびに、ソロイストであるコニッツはそのリズム・セクションのサウンドレベルに自己を適応させなければならなかったし、リズム・セクションのパワーがコニッツのソロを圧倒してしまう場合がよくあった。電化楽器ではサウンド・レベルを自由に調整することができるからこうした不均衡を即時に解消できるようになり、いまではどんなにソフトなリズム・セクションとも、どんなにヘヴィーなリズム・セクションとも容易にバランスのとれた演奏ができるという。しかも、リー・コニッツが使っている 'コーン・マルチ・ヴァイダー' は1本のサックスで同時に4オクターヴの幅のあるユニゾン・プレイができるから、利点はきわめて大きいという。先月号でも触れたように、コニッツは1967年9月に録音した 'The Lee Konitz Duets' (Milestone)のなかで、すでにエレクトリック・サックスによる演奏を吹き込んでいるが、全くの独奏で展開される 'アローン・トゥゲザー' で 'コーン・マルチ・ヴァイダー' の利点を見事に駆使している。この 'アローン・トゥゲザー' で彼は1オクターヴの音を同時に出して、ユニゾンでアドリブするが、もうひとつの演奏 'アルファニューメリック' ではエディ・ゴメス(ベース)やエルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)、カール・ベルガー(ヴァイブ)、ジョー・ヘンダーソン(テナー・サックス)ら9人編成のアンサンブルで、エレクトリック・サックスを吹き、自分のソロをくっきりと浮き彫りにしている。ここでのコニッツは、アルト・サックスの音量面をアンプで増大するだけにとどめているがその効果は見逃せない。





いまアメリカで圧倒的な人気を得ているエディ・ハリスの場合は、リー・コニッツとは別のアプローチから電化楽器に挑んでいる。最近の彼はエディ '電化' ハリスと呼ばれるほど徹底したエレクトリック・サックスの実践者だが、そもそも彼がエレクトリック・サックスを使うようになった動機はこうだ。

いまから7、8年も前、'栄光への脱出' という最初のヒットを出した当時のエディ・ハリスは、テナー・サックスで何とか独奏的なサウンドを出そうと研究していた。結局彼はアルト・サックスに近い高音部を駆使するユニークなスタイルをつくったが、その後、コルトレーンが登場して、テナー・サックスのレンジや奏法には飛躍的な進歩がみられるようになり、彼にとって新しい課題ができた。私がエディ・ハリスに会ったとき、ハリスはテナー・サックスでヴァイオリンの高度な練習曲を吹いていたが、彼はこれまでにトロンボーンのマウスピースをサックスに接合したり、バスーンのリードをつけて工夫してみたり、ことテナー・サックスで考えられるありとあらゆる実験をやり、それによって独創性を維持しようとしたという。たまたまそんなとき、セルマーのヴァリトーン・サックス(電化サックス)が開発され、これによって種々の効果が電気的に出せるのを知った。ハリスは早速 'The Tender Storm' (Atlantic)で使ったが、やがてギターの 'ギブソン' のメーカー、シカゴ・ミュージカル・インストゥルメントが開発したエレクトリック・サックス 'マエストロ' に切り変えた。現在も彼はこの 'マエストロ' を使っているが、この電化楽器だと、テナー・サックスでオーボエ、バスーン、バス・クラリネット、イングリッシュ・ホーンの音が出せる。テナー・サックスにバスーンのリードをつけて実験していた効果が、この 'マエストロ' だと簡単に吹けるというわけだ。

エディ・ハリスのグループがロサンゼルスの〈シェリーズ・マンホール〉に出ていたとき、彼のグループはジョディ・クリスチャン(ピアノ)、メルヴィン・ジャクソン(ベース)、リチャード・スミス(ドラムス)で構成されていたが、ハリスとベースのジャクソンが電化楽器を使っており、ジャクソンがアルコ奏法で発する宇宙的サウンドをバックにハリスが多彩な効果を発揮してみせた。2音、3音のユニゾン・プレイはもちろんのこと、マウスピースにふれないでキーのみをカチカチと動かしてブラジルの楽器クイーカのようなリズミックなサウンドを出し、ボサノヴァ・リズムをサックスから叩き(?)出すのである。この奏法はエディ・ハリスが 'マエストロ' の練習中に偶然出てきた独奏的なもので、同席した評論家のレナード・フェザーとともにアッと驚いたものである。ハリスはあとで、この打楽器的な奏法がサックス奏者に普及すればサックス・セクションでパーカッション・アンサンブルができるだろうと語っていたが、たとえそれが冗談にしろ、不可能ではないのだ。ともあれ、エディ '電化' ハリスのステージは、これまで驚異とされていたローランド・カークのあの演奏に勝るとも劣らない派手さと、不思議なサウンドに満ちていて人気爆発中。しかもカークが盲目ということもあって見る眼に痛々しさがある反面、ハリスは2管や3管吹奏をプッシュ・ボタンひとつの操作で、あとはヴォリューム調整用のフット・ペダルを踏むだけで楽々とやってのけているわけだ。エレクトリック・サックスの利点は、体力の限界に挑むようなこれまでのハードワークにピリオドを打たせることにもなりそうだ。ハイノートをヒットしなくても、ヴァイタルな演奏ができる。つまり、人体を酷使することからも解放されるのだ。この点は、連日ステージに出る当のミュージシャンたちにとって、大きな利点でもあるだろう。



エディ・ハリスは電化サックスの演奏中は、体が楽だといった。これを誤解してはいけないと思う。決してなまけているのではなく、そういう状態になると、その分のエネルギーを楽想にまわせることになり、思考の余裕ができて、プラスになるという。さらに、エレクトリック・サックスを使う場合、もし人が普通のサックス通りに演奏したら、ヒドい結果になるという。楽に、自然に吹かないと、オーバーブロウの状態でさまにならないそうだ。新しい楽器は新しいテクニックを要求としているわけだが、それで体力の消耗が少しでもすめば、まことに結構ではないか。

-ドン・エリスと電化トランペット-





同じ電化楽器でもトランペットの場合は特性面でかなりの相異がある。電化トランペットの使用で話題になったドン・エリスの場合、やはり種々のアンプを使っているが、サックスとちがって片手でできるトランペット演奏では、もうひとつの手でアンプの同時操作が可能になる。読者は、先月号のカラーページに登場したドン・エリスの写真で、彼がトランペット片手にうつむきながらアンプを操作している光景をご覧になっているはずだ。あの場合、ドン・エリスはいったん吹いたフレーズをエコーにしようとしてるのだが、この 'エコー装置' を使うと 'Electric Bath' (CBS)中の 'Open Beauty' にきかれる不思議な音楽が誕生する。装置の中にはテープ・レコーダーが内蔵されており、いったん吹かれた音がいつまでもエコーとなって反復される仕組みになっている。ドン・エリスは、この手法を駆使し谷間でトランペットを吹くような効果を出しているが、彼はまた意識的にノイズを挿入する。これも片手で吹きながら、もう一方の手でレバーを動かしてガリガリッとやるのである。こうした彼のアイデアは、一種のハプニングとみなしていいし、彼が以前、'New Ideas' (New Jazz)で試みた実験と相通じるものだ。





もちろんトランペットでもサックスと同じユニゾン・プレイは可能である。マルチ・ヴァイダーさえ使えば、トランペットの音が2重3重に拡大分離されて出てくるから、高低ブラス・セクションのような効果になる。ナット・アダレイが最新アルバム 'You, Baby' (A&M)で早速この成果を世に問うているが、ギル・エヴァンス・オーケストラがこのエレクトリック・トランペットをそこでどう利用しているかという点が、現在のところ興味をもって待たれるところである。

-エレクトリック・ジャズ批判-

読者の中には、電化楽器など、くそくらえだと考えていらっしゃる人も多いのではないかと思う。実は、かくいう私自身、エディ・ハリスやドン・エリスの演奏をきくまでは、そんな風にも考えていた。だからこそ、チャールズ・ロイドやスタン・ゲッツが5月に来日したときその問題点をきいたわけである。もともとゲッツは、セルマーから最初にヴァリトーン・サックスの使用を要請されたミュージシャンだったが、彼はボサノヴァには不必要だと断ってしまった。チャールズ・ロイドにしても、自身持っていながらいまのところは使う意志がないという。つまるところ、異質な電気を音楽に作用させるところを不自然で、抵抗になっているのだ(2人の電化楽器への感想は、本誌68年7月号を参照されたい)。





たしかに、ドン・エリス・バンドやエディ・ハリスの演奏をきいていると、電化楽器の新しいサウンドをノベルティとして売りものにしているところが全くないわけではない。エリスがトランペット片手にアンプの操作を長々とやるのは、途中で退屈もした。ただし、トム・スコットの言葉 "ジャズはこれまで多くの制約でしばられてきた。世の中がエレクトロニクスの時代になっているのに、ジャズがいつまでも旧態然としていていいものか。新しい楽器が開発され、それからジャズの新しい可能性を引き出してみせるのは、決して無意味だとは思わない" という発言には賛成だ。

また、エディ・ハリスによれば、これまで有名なプレイヤーがエレクトリック・サックスをマスターしようとして、多くの人が失敗して使うのをやめてしまっているという。つまり、この種の楽器は、利点も多いがコントロールするのがむつかしく、タンギングもフィンガリングのタッチも息の入れ方も、根本的にやりなおさなければならないという。彼によれば、ロイドのようにニュー・イディオム(2音、3音奏法や変則的なフィンガリング)を追求しているジャズメンが、この楽器を使わないのはかえっておかしいという。





問題は、エレクトリック・ジャズが、いまでこそニュー・サウンドで人々の耳目を集めているが、これからさきその '新しさ' がどれだけ生命を持ちつづけられるかということだろう。ピアニストのビル・エヴァンスがドン・エリス・バンドの 'Open Beauty' についてその冒険性を高く評価しながらも "問題は音楽的な内容だ。この演奏は、ただちに人の耳をアトラクトする何かをそなえているが、いまは新しい何かが、20年のちには全く無意味になりかねない。その意味でも肝心なのは内容でしかありえない" と語っているが、至言であろう。とにかく、電化楽器はまだ開発されて間もない新しい分野である。今日のエレクトリック・ジャズは、先月号でもふれたように、ギミックとしての性格が強いという弱点はたしかにある。しかし、一方では、タル・ファーロウやサン・ラ、リー・コニッツの音楽のように充分な内容をそなえたエレクトリック・ジャズも誕生しはじめている。そしてジャズの世界に、やがては本格的な 'プッシュ・ボタン時代' が到来するかもしれないのである。ジャズは、つねに未知の世界に挑戦しつづけてきたのだから・・。






すでに1967年から68年の時点で相当の数の '電化ジャズ' が市場に現れていたことに驚きます。当時、ロックやR&Bを中心とした電気楽器によるアンサンブルに最も危機感を覚えていたのがホーンを持つ管楽器奏者たちだったことは間違いありません。ビッグバンドにおける4ブラスを始めとした豪華な '音量' は、些細なピッキングの振動がそのまま、ピックアップとアンプを通して巨大なスタジアム級のホールを震わせるほどの '音圧' に達する 'エレキ' に簡単に負けてしまったのです。それでも1970年代にはまだ、ギターとは違う '音色' としてアンサンブルの中で生き残りをかけていたホーンは1980年代、デジタルの分厚く多彩な音色が特徴のポリフォニック・シンセサイザーに完全に駆逐されてしまいました。当時、'ブラスシンセ' という言葉と共にズラッとバンドの中で並んでいたホーンはほとんど1台のキーボードで賄えるようになり、また、Akai Proffesional EWIやYamaha WXなどのウィンド・シンセサイザーはキーボードの延長線上にあるMIDIコントローラーとして探求されていったという印象があります。さて、音楽を始めとした文化の '地殻変動' が根底から湧き起こった1960年代後半、この、今から見れば大げさのようにも感じる '電化騒ぎ' と表現の変容を皆さまはいかが感じるでしょうか。