2018年5月5日土曜日

'UK Blak' と汎アフリカ主義 (再掲)

ピーター・バラカンさんがどこかで言われておりましたが、思春期に影響を受けたものはその後の '自分' を形成する上でずっと残っていく(相当意訳しておりますが)そうで、聴いてきた音楽体験も大体そこに引っ張られていくらしいです。なるほど、確かにわたしにとってのR&Bやソウル・ミュージック、特にファンクの持つグルーヴの中毒性は、いまに至ってもなお自分を惹きつけるんですよね。だから 'ジャズ原理主義者' が毛嫌いするアシッド・ジャズ系のものなど、むしろ、わたしにとってはジャズを聴く上での良い '入り口' だったと思っております。一方で、それまで米国産の音楽ばかり嗜んできた自分が、ある音楽をきっかけにUK産やヨーロッパのものにシフトするグループがいました。





ジャジーBなる、レゲエやレア・グルーヴを中心に回していたDJを中心に結成されたユニットSoul Ⅱ Soulです。ブラック・ミュージックとして、米国からカリブ海のものをいろいろ物色していた当時のわたしにとり、英国というのはいまいちピンと来なかったのですが、そもそも英国に住む黒人の大半が旧植民地であったジャマイカなど、西インド諸島からの移民で構成されております。特に、彼らが持ち込んだダブの血脈はザ・ビートルズ以降のUK産ポップ・ミュージックの下地に流れ込み、このSoul Ⅱ Soulというグループ登場へと到達、現在のクラブ・ミュージック全盛の 'ターニング・ポイント' を象徴します。また、この英国という国は日本と似て、米国のポップ・ミュージックに対する偏愛的な影響や '収集癖' でもって自らの文化と上手に溶け込ませる術を心得ておりました。米国という国は比較的過去を振り返らず、全体的に新しいもの好きな傾向が強いのですが、英国人はすでに過去の遺物となった米国のサイケデリック、R&B、ジャズやラテンなどのレコードを収集しては、そこからレア・グルーヴやアシッド・ジャズといったムーヴメントを仕掛け、まさに '温故知新' の如く古いものから新しい '聴き方' を提示してきたのです。もちろん、古いものばかりではなく、ニューヨーク・ガラージやシカゴ・ハウスからアシッド・ハウス、ブリープ・テクノといった '4つ打ち' によるレイヴ文化を生み出したのもUKです。このSoul Ⅱ Soulには米国のR&Bやジャズ、ジャマイカ産のダブからの大きな影響を受けながら、しかし、英国という場所でのみ可能となった独自の存在だと言って良いでしょうね。

さて、そんな 'UKダブ' は、マッド・プロフェッサーやエイドリアン・シャーウッド、ジャー・シャカらがジャマイカのサウンド・システムを持ち込みながら 'ニューウェイヴ' の影響を受けて独自に発展、その中の象徴的な存在なのが 'ダブ・ポエトリー' の巨匠、リントン・クウェシ・ジョンソンと彼の代表作 'LKJ in Dub' を手がけた元マトゥンビのメンバー、デニス・ボーヴェルでしょう。このあたりのスモーキーな '煙たい' 感覚は、英国の港町で多くの 'UK Blak' が住み着いていたブリストルを中心に継承されてマッシヴ・アタックの登場とトリップ・ホップなど、ブレイクビーツからダブの '換骨奪胎' が1990年代を通して提示されていきます。





その 'UKレゲエ/ダブ' のコミュニティの中からラヴァーズ・ロックの3人組コーラス・グループ、ブラウンシュガーで1970年代にデビューしたのが当時わずか12歳のキャロン・ウィーラー。すでにこの時点でその洗練された声はレゲエという狭いフィールドを飛び出し、その後、ロンドンの小さなクラブ、'Africa Center' で自身のサウンド・システム 'Soul Ⅱ Soul' を主宰してレゲエからレア・グルーヴまで幅広く回していたDJ、ジャジーBと合流して大きなムーヴメントを発動させます。



'Keep On Movin'' のいきなりドスッとぶっとく鳴る(たぶん)Roland TR-909のキック一発。もう、この瞬間こそわたしにとっての大きな最初の 'パラダイム・シフト' でした。時代もまさに1989年ということで、それまで世の中から聴こえてきた80's的 'プラスティックな' サウンドから、急にリアルな音像が目の前に現れた衝撃というか・・。そして 'Back To Life' の土着的なコール&レスポンスとレア・グルーヴ感覚。すでに70'sファンクの熱狂的な信者であったわたしにとって、こういうかたちでファンクの黒い感覚が蘇るとは・・。同時代、すでに米国で流行していたニュージャック・スイングと呼ばれるダンス・ミュージックに比べれば、レゲエ・フィルハーモニック・オーケストラの奏でるストリングスを加え、もっとずっと落ち着いていて、そこにちょっとジャジーな大人っぽい雰囲気さえ漂わせている。ともかく、ある時代の米国が持っていたR&Bの伝統を昇華させた 'やり方' としては、個人的に '英国もの' の方が好みであったことをこのSoul Ⅱ Soulは教えてくれましたね。そして、ここでフィーチュアされる女性ヴォーカルのキャロン・ウィーラー。このハスキーにしてどこかウェットな質感のする声に一発で参ってしまいました。それまでの米国産R&Bシンガーに共通するゴスペル・ライクなスタイルに対し、彼女はレゲエのラヴァーズ・ロック出身ということで、暑苦しくなる一歩手前で抑えるクールな印象が完全にこの '打ち込み' とぴったりハマっておりました。





彼らが打ち出したグラウンドビートというグルーヴは、'大地' という意味での 'Ground' ではなく '擦り付ける' という意味 'Grind' の他動詞 'Ground' から来ているようで、これは、レゲエのダンスに男女が股間を擦り付けるようにして踊る 'ラバダブ' というのがあり、この辺りから派生した言葉ではないかと思います。それはともかく、ある意味 '大地' と言い換えても良いくらい、この地を這うようなベースラインとキックのぶっとい感じがダブの血統を強く主張し、また、この緻密なビート・プログラミングに当時英国在住であった日本人ドラマー、屋敷豪太氏(元メロン、ミュートビート)が深く携わっていたのは興味深いです。それは、このカッチリとした構成に日本人的な '職人感' があるというか、屋敷氏にとってはSoul Ⅱ Soulの '屋台骨' 的存在であったネリー・フーパーとの出会いが大きかったようですね。他にメジャーどころではD.N.A. feat. Suzanne Vegaの 'Tom's Diner' とか、耳ダコになるくらい聴いたグラウンドビートの代表的一曲。また、ジャジーB&ネリー・フーパーが 'True Love'、'1-2-3' の2曲プロデュースに携わった 'Soul Ⅱ Soulフォロワー' 的ユニットのThe Chimesなんかも話題となりましたね。彼らのサウンドに通底する 'ジャジー' な響きはそのまま、Soul Ⅱ Soulと並んで人気を得ていたUKジャズの新星、コートニー・パインのサックスをフィーチュアした 'Courtney Blows' を2作目 '1990 : A New Decade' で披露するなど、この後のアシッド・ジャズ・ムーヴメントへの予兆を匂わせます。しかし、後述しますけど一躍躍り出たSoul Ⅱ Soulのフロントに歌姫キャロン・ウィーラーの姿はなく、彼女がジャジーBと '和解' して戻ってくるのは1995年の 'Vol.V : Believe' まで待たねばなりません。まあ、グラウンドビートとは結局、Soul Ⅱ Soulで始まり終わった短いムーヴメントではありましたが、それまでの 'UK産R&B' というイミテーションを脱してクラブ・ミュージックの新しいスタイルを提示したことに意味があったワケです。そして、このグルーヴにはダブに加えてもうひとつ、そもそもレア・グルーヴを回すDJであったジャジーBが '見つけてきた' と思われる一曲も元ネタとして強く結び付いております。



ワシントンDC出身のグループ、チャック・ブラウン率いるザ・ソウル・サーチャーズが1974年にリリースした作品 'Salt of The Earth' からの1曲 'Ashley's Roachclip' です。当時彼らは完全なるB級ファンク・バンドでして、この後1978年に 'Bustin' Loose' で全米R&Bチャート1位を記録。その後、またしばし音沙汰もなく1984年に 'We Need Some Money' と共にワシントンDC産のファンク・ムーヴメント、ワシントン・ゴーゴーの創始者としてR&B界に大きくその名を轟かすこととなりました。それはともかく、本曲の実にアフロっぽい雰囲気とレア・グルーヴ的怪しい濃度を持った70'sな下地には、確かにグラウンドビートと共通するクールにビートをキープする感覚が漲っています。ちなみにこのグループからは、ゴーゴーのムーヴメントに注目したマイルス・デイビスによりリッキー・ウェルマンという凄腕ドラマーを発掘、晩年のデイビスのバンドを牽引する存在としてアピールしました。



そんなキャロン・ウィーラーも参加するSoul Ⅱ Soulなのですが、1989年の大ヒットでさあ世界ツアーだ、と意気込んだ矢先にジャジーBとウィーラーの間でグループを巡る諸々のトラブルが起こりウィーラーは脱退、いきなりSoul Ⅱ Soulはグループとしての '声' を失うこととなります。その理由のひとつに、そもそもこのユニットのコンセプトに深く携わっていたウィーラーへ正統なクレジットと対価が支払われず、ほぼジャジーB中心で事が進んでいくことに彼女が強く反発したことが発端となりました。そんなウィーラーが脱退後すぐさま自らのコンセプトを元に1990年、ソロとしてリリースしたのが 'UK Blak'。わざわざスペルから 'Black' のCを抜いたのは、ジャマイカ移民のアフリカン・ブリティッシュとして米国の黒人とは違うアイデンティティを表明してとのことで、単なるポップ・シンガーではない強いこだわりが伺えます。また、グラウンドビートのアイデアも元は私にあると主張したいのか、'Blue' や元ネタの 'Ashley's Roachclip' をサンプリングした 'Never Lonely' で、自分こそグラウンドビートのオリジネイターであると訴えているような完成度です。この 'Never Lonely' に聴こえるアフロっぽい雰囲気が、そのままウィーラーの思想であるカリブ海から汎アフリカ主義的なスピリチュアリズムへの志向と結び付けるようにアレンジしたのはさすがですねえ。







このような 'アフリカ回帰' 的なユートピア思想は、特に想像上の 'アフリカ' というルーツを観念的に捉える一部のアーティストたちに共通するものです。例えばジョン・コルトレーンからアーチー・シェップ、ファラオ・サンダースらのフリー・ジャズとアフロ・スピリチュアリズムの関係や、ヒップ・ホップにおけるアフリカ・バンバータと 'ズールー・ネイション' といったかたちで、スローガン的に連呼して自らの立ち位置を再確認することは彼らにとって意味があるのだと思います。ちなみにソロ後、立て続けでジミー・ジャム&テリー・ルイスのプロデュースにより映画 'Mo' Money' OST中の一曲 'I Adore You' をきっかけにして、'UK Blak' のプライドは持ちながらも障害を抱える自身の子供のために米国へと活動の拠点を移すキャロン・ウィーラー。







その米国の地ではビズ・マーキーやグールー、ピート・ロックら、ヒップ・ホップ勢とのコラボレーションを行いますが、やはり米国R&Bの歌手たちとは一味違う '体温低め' のウェットな歌声はラップとの相性もバッチリ。もちろん、英国での活動も忘れることなく、アシッド・ジャズ・ムーヴメントを覚えている人には懐かしいオマーとのコラボレーション 'Treat You' を2013年にリリースします。しかしキャロンの好むハーモニーって一聴してすぐ分かる・・ホント、この人の持つエキゾチシズムなトーンが凄い好き。1990年のデビュー・アルバム 'UK Blak' と1992年のセカンド・アルバム 'Beach of The War Goddess' はその懐かしい音作り含め、未だに好きでよく聴いておりますヨ。







しかし、そんな 'アフリカ回帰' の根底にあるのはある種のエキゾティシズムというか、やはりSoul Ⅱ Soulがワールドワイドに大ヒットしたのは都会的に洗練されたグルーヴと女性ヴォーカルのコラボレーションにあると思うのです。これが、単に '土臭い' だけのワールド・ミュージック的展開になっていたらここまで人々の意識を惹きつけることはなかったでしょうね。その 'Soul Ⅱ Soul的' なUK Soulはジャズ、というよりジャジーな響きとの親和性が高く、このグラウンドビートに続いてアシッド・ジャズからトリップ・ホップ、ジャングル/ドラムンベース、2ステップ/ブロークンビーツへと続いていくUKならではの 'サンプル' 的に切り取った価値観の提示と深い関係があります。まあ、こういうところが 'ジャズ原理主義者' からは軽薄に見られるところなのかもしれないのだけど、しかし、ジャマイカから持ち込んだサウンド・システムとレコードの結ぶコミュニティの '共有' は、そのジャジーにしてダビーな浮遊感、サイケデリックにして想像上の 'アフロ・スピリチュアリズム' でもって熾烈な現実から 'ダンスホール' を占拠します。







さて、その 'アフリカ回帰' なメッセージを軽やかに打ち出したヒップ・ホップ・ユニットとして、アフリカ・ベイビー・バム、マイクG、サミーBの3人からなるジャングル・ブラザーズがいます。1988年の 'Straight Out The Jungle' はまさにヒップ・ホップ黎明期を飾る1曲。ここでサンプリングされる1970年代のファンク・グループ、マンドリルの 'Mango Meat' もこれまたアフロ志向とレア・グルーヴ感覚の強いもの。彼らは当時のヒップ・ホップ界を覆い始めていた 'マッチョイズム' (銃やドラッグ、暴力など)を志向しない 'ネイティブ・タン' と呼ばれる一派の 'はしり' であり、これ以降のデ・ラ・ソウル、ア・トライブ・コールド・クエストといった連中が続くことでヒップ・ホップの音楽的追求を試みていました。彼らは米国のグループではあるのですが、しかし、その肩の力の抜けた 'ネイティヴ・タン' のアプローチは、むしろ、アシッド・ジャズからトリップ・ホップなどのジャズとヒップ・ホップの接近に強い影響を与えたのではないでしょうか。直接的なライムのメッセージではなく隠喩的な 'サンプル' の換起力と匿名的なブレイクビーツの戯れ。



そうそう、このアフリカ・ベイビー・バムは、キャロン・ウィーラー1991年のデビュー・アルバム 'UK Blak' からのシングル・カット 'Livin' In The Right' のプロデュースをしているんですよね。おお、ここでようやくふたりの '想像上のアフリカ' がぶっといダビーなベースラインと共に繋がった!





このマンドリルも実に雑多な要素を持ったB級ファンク・グループとして、ジャズやロックにラテン、アフロ、その他怪しげな民俗音楽的なものを飲み込みながら1970年代に全盛期を迎えました。上は久しぶりの再結成でモントルー・ジャズ・フェスティヴァルに出演したもので、下はまさにデビュー直後の貴重なもの。椅子に座って見ているのは御大JB!?マンドリルのデビューした1970年代初期はファンク黎明期なだけに、とにかくあらゆる要素が 'ごった煮' 状態のファンク・グループで溢れており、この初期マンドリルのサウンドだけ聴いてもサイケ、ロック、ファンク、ジャズ、ラテン、アフロ・・といろんな要素の雑多で満ちています(サンタナっぽいかも)。後にディスコでそのイメージを決定させたアース・ウィンド&ファイアーなども、活動初期はこんな感じの 'アフロ・ジャズ・ファンク' なスタイルであり(そもそも彼らはジャズ出身者であります)、彼らと '姉妹的な' 関係であったザ・ファラオズというグループは、コルトレーンのスピリチュアリズムを継承したフリー・ジャズのユニットでした。ちなみに、日本でも彼らのサウンドはよく聴かれており、実はプロレスのアントニオ猪木が入場するテーマ曲もとい、元々はモハメッド・アリのテーマ曲であった 'Ali Bom-Ba-Ye 〜Zaire Chant〜' のオリジナル演奏者が彼らなのです。なるほど、どうりであの曲はアフロっぽかったわけだ。







あ、そうそう、アフロ志向なUK産ファンクといえば、1970年代に活動、後にレア・グルーヴで再評価されたサイマンデというグループがおりましたね。ラテンというよりカリビアンっぽい陽気さ、というか、やはりカリブ海からの移民の血が疼くのでしょうか?そして、さらにB級感満載のFunky Bands Inc.ことF.B.I.の1976年唯一のアルバム 'F.B.I.'。ゲットー感覚のファンクからカリビアン風、メロウなグルーヴまで実にバランスの取れたスタイルを誇っており、'土臭い' サイマンデよりもこのF.B.I.の方がSoul Ⅱ Soulへと続くUK Soulの出発点といった感じがありますね。また、このダニーもとい(英国風の発音で)ドニー・ハサウェイの名曲 'Love Love Love' の70'sなメロウ具合もたまりません。





ある意味で1970年代の音楽は、'第三世界' などと呼ばれた文化の要素を取り込みながらその後の 'ワールド・ミュージック' と呼ばれる芽をつみ始めた最初の時期でした。それはラテン界隈から登場したサンタナやウォーにしろ、'アフロ・ロック' などと呼ばれて一時的に脚光を浴びたオシビサやラファイエット・アフロ・ロック・バンドにしろ、すべて 'アメリカナイズ' された上で作られた想像上の異国情緒を増幅する存在に 'なりきる' ことで幻想を具現化させていました。それは、ジョン・コルトレーンに比べてよりR&Bなレス・マッキャンとエディ・ハリスのアフロ感覚を実際のガーナ人たちの前で披露する姿と、一方で英国から、ガーナ、ナイジェリア、西インド諸島出身の多国籍なメンツで結成されたグループ、オシビサが 'アフロ・ロック' としてスウェーデンの聴衆の前で披露する姿の '温度差' に共通して現れております。ちなみに彼らは、'ブラックスプロイテーション' 映画 'Superfly' の続編である 'Superfly T.N.T.' のテーマ曲や 'Sunshine Day' でワールドワイドにヒットを飛ばしました。





そんなアフロとジャズ・ロック、ラテンの 'クロスオーバー' として、突如現れたこのカメルーン出身のサックス吹き、マヌ・ディバンゴの大ヒット曲 'Soul Makossa' は忘れられません。アフリカからカリブ海一帯の西インド諸島には、スペイン語圏のキューバ〜プエルト・リコを中心にアフロ・キューバンの伝統が息づいております。ここではそんなラテンの新世代として登場したサルサの 'デスガルガ' ともいうべき、ファニア・オール・スターズとの共演。おお、ジョニー・パチェーコ、ボビー・ヴァレンティン、レイ・バレットもいるゾ!さらに、これまたラテンとファンクのレア・グルーヴ的 '折衷主義' ともいうべきTempo 70の 'El Galleton'。





そして、世界は再び '動き続けろ'とばかりに目まぐるしく '45回転' で回り出します。何度でも '地を這う' ようなビートにノッてクールを 'Keep' し続けろとSoul Ⅱ Soulは歌う。キャロンもジャジーBも歳は取りましたがそのグルーヴは永遠に変わらない。あ、そんなキャロン・ウィーラーの最も新しい仕事は、Children of Zeusなる2人組のユニットがフリーで配信したシングル 'U Alone' のリミックスへの参加。このソリッドなグルーヴに乗って哀調ある '体温低め' でウェットな歌声は健在です。

2018年5月4日金曜日

シタール60's (再掲)

Jerry JonesによるCoral / Dan ElectroのElectric SitarとBaby Sitarそれぞれの復刻は、この特異な 楽器の存在を再評価する上で大きな貢献をしたのではないでしょうか。1967年から69年にかけて販売されたこの 'シタール・ギター' は、1960年代後半の季節である 'サマー・オブ・ラヴ' を象徴するアイテムとしてひとつの市場を生み出しました。こちらの動画はDanelectroがCoralのブランドで1967年にヴィンセント・ベルの手により開発、発売したエレクトリック・シタール。シタールの共鳴にも似た 'Buzz' 音を出すブリッジ部を備えることで 'シタール風' の音色を出すエレクトリック・ギターの一種です。







Coral Electric Sitar
Kartar Music House Electric Sitar
Electro-Harmonix Ravish Sitar

また、このようなエレキギターの 'シタール化' は、そのまま本場インドでシタールの 'エレキ化' のような動きが起こり、インドのKartar Music House社製ほか、こんなピックアップやツマミを備えた 'エレクトリック・シタール' もございます。そして、さらにお手軽な 'アタッチメント' として、エレキギターをそのまま 'シタール化' するシタール・シミュレーター、Electro-HarmonixのSitar Ravish。昔は 'ギター・シンセサイザー' のプログラムとして用意されておりましたが、現代のDSPテクノロジーでここまで 'エフェクト化' してしまったマイク・マシューズおじさんは凄いなあ。





Danelectro Sitar Swami DDS-1
Freakshow Effects Maharishi

ちなみにDanelectroといえば一時、エレクトリック・シタールとは別に奇妙な 'シタール・シミュレーター' を発売していた時期がありました。Sitar Swamiと命名されたソレは、シタールを彷彿させる茶色い筐体にサイケな尊師(グル)の下手な似顔絵、そしてスライド・バーが一緒に封入されていた気がする。効果はオクターヴ・ファズにフランジャーかけたような感じで、これをウィ〜ンとスライド・バーで弾くとソレっぽく聴こえるのかな?動画のもこれをシタールと言うのはどうかと思えますが(苦笑)、しかし、新たなエフェクトと言えば面白いのかも。それでもこのシリーズ、他にPsycho FlangeやBack Talkとかなかなか侮れないモノもあって無視できないんですけどね。このような '空耳' っぽくシタールに聴こえるということでは、そんなシタールの流行した1960年代後半、同じく時代を席巻したファズの音色もどこかシタールに例えられることがありました。日本のHoneyが1967年に発売したアッパーオクターヴ・ファズの名機 'Baby Crying' は、米国にも '流行の東洋の神秘、Honeyの効果装置' のキャッチコピーと共に上陸し、その評価は "従来のファズ・トーンに加えて世界的流行のインド楽器、シタールの音色を新たに付け加えた、初めて2種類の音色を持つデラックス・ファズ・マシーン" とのこと。Freakshow Effectsはそんなファズのイメージを 'Maharishi' の名前と共に特化、蘇らせます。





インドの民俗楽器であるシタールが、当時の新しいロックの響きの中で渇望されていたというのは、今から考えると相当に '異様なもの' のように思えるてきます。それは突然、欧米の文化圏の中から三味線や尺八が聴こえてくるようなもので、以前なら 'エキゾティック' なもの、今風に言えば 'Cool Japan' などと称して取り上げていたことでしょう。しかし1960年代後半、このシタールを始めとした東洋文化とヒッピーイズムの伝播は、遠くインドシナの地で泥沼に陥ったベトナム戦争を始め、それまで誇っていた欧米の価値観が揺らぎ出していたことに意味がありました。つまり、単なる流行を超えたところで時代を乗り越えようとする若者の反乱と意識改革に大きな力を与えた '響き' がシタールにはあったのです。1965年のザ・ビートルズ 'Norwegian Wood' と1966年のザ・ローリング・ストーンズ 'Paint It Black' で、それぞれシタールをフィーチュアしたことがロックにおけるシタール・ブームのきっかけを作ります。以後、サイケデリック・ロックにおいてシタールの響きは人気を博し、またジャズや映画音楽においても多用され、当時のフラワー・ムーヴメントを彩る 'サウンドトラック' として、大音量のエレクトリック・ギターと共に時代の空気を代弁しました。





Electric Psychedelic Sitar Headswirlers - 11CD Box Set
Sitar Beat ! : Indian Style Heavy Funk Vol.1
Sitar Beat ! : Indian Style Heavy Funk Vol.2

'Electric Psychedelic Sitar Headswirlers' という全11枚からなるコンピレーションがありますけど、これこそまさにそんな時代に量産されたシタールをフィーチュアするロック、ジャズ、イージー・リスニングetc...をコンパイルしたもの。もちろん、こんなものは氷山の一角であり、他にも、掘り起こせばいくらでも出てくるほど粗製乱造にシタールが '時代のサウンド' であったことをこのコンピは教えてくれます。また、本家インドのハリウッドならぬ 'ボリウッド' の一大映画産業で用いられるO.S.T.からグルーヴィーなもの中心に編集したコンピレーション、'Sitar Beat !' も有名ですね。ちなみに上の動画の 'The Minx' は1969年のポルノ映画のO.S.T.なのですが、サイケデリックなソフト・ロックの雄、ザ・サークルが参加し、本盤のレーベルは、Impulse !の創業者ボブ・シールが独立して新たに設立したFlying Dutchmanというジャズ・レーベルからの発売という、何とも混迷した時代を象徴する一枚でもあります。

さて、ここからはそんな混迷する時代の中でシタールをフィーチュアした曲、それもグルーヴィーなヤツをご紹介したいと思います。ある意味、ジョージ・ハリソンがマハリシ・マヘギ・ヨギにかぶれてしまった '若気の至り' 的抹香くさいものから、単純にエキゾでモンドな 'のぞき見趣味' 的にアプローチしたものまで、いやあ、熱狂する時代のエネルギーというのは凄いものです。それまでキッチリとアイビー・スーツ着こなして会社に行っていたヤツが突然、髪もヒゲも伸ばし放題となり、革靴からサンダル、ジャラジャラした数珠などを修行僧の格好と共に身にまとい、お香を焚いてはそのままインドへ旅立って行方不明となってしまった 'ドロップアウト' 組を大量に生み出してしまったのだから・・。



ここ近年のサイケデリックに対するリバイバルで見るなら、1990年代以降のアシッド・ジャズ、モンド・ミュージックとの繋がりでドイツのジャズ・ロック・グループ、ザ・デイヴ・パイク・セットの 'Mathar' が再評価されたことは大きいですね。それまでの瞑想的なインドのラーガ的イメージから一転、シタールをグルーヴィな8ビートに乗せるという価値観は、そのまま余計な '抹香くささ' を払拭すると共に時代が一周したかのような面白さがありました。スタイル・カウンシルのポール・ウェラーがIndian Vibesという '覆面バンド' でカバーし、日本では立花ハジメ(懐かし〜名前)がテイ・トウワをプロデュースに迎えて制作したアルバム 'Bambi' で 'Son of Bambi' としてカバー。こんな再評価で突然蘇ったザ・デイヴ・パイク・セットは、過去MPSでリリースしたアルバムがすべてCDリイシューされました(さすがにグループの復活はなかったけど)。この 'Mathar' のイメージが強い彼らですが、実際は過去作全7枚中、シタールをフィーチュアした曲はわずかに3曲、意外でしたね。それはともかく、このグループはプログレにも通じる格好良さを備えており、わずか4年ほどの活動期間ですべてにクールなジャズ・ロックを展開しております。ちなみにデイヴ・パイクと並ぶ '双頭' リーダーのひとり、ギター、シタール担当のフォルカー・クリーゲルはその 'Mathar' 収録のアルバム 'Noisy Silence - Gentle Noise' のライナーノーツでこう述べております。

"まだ2週間にしかならないけれど、インドの楽器シタールと取り組んでいるところなんだ。ご多分にもれず、この偉大な楽器のすばらしいサウンドに興味を持ったからね。'Mathar' っていうのは、ラヴィ・シャンカールが人前で演奏できるようになるまで、グルの元で14年間学んでいた北インドの村の名前なんだ。でも、それだけじゃない。この言葉には、'Mathar' が 'Mother' (母)と 'Sitar' という言葉も含んでいるように思えるんだ。"

ちなみにこのクリーゲルさん、1970年代をジャズ・ギタリストとして駆け抜けながら1980年代には廃業、その後、不動産業かなにかに転身してしまったという変わり種の人でもあります。



こちらは何とも謎のグループ、ザ・ソウル・ソサエティの 'The Sidewinder'。そう、一聴してお分かりのようにリー・モーガンのヒット曲ですね。1960年代後半に 'Saticfaction from The Soul Society' というアルバムをDotというレーベルからリリースしたグループのようで、その他、当時のヒット曲であるサム&デイヴ 'Soul Man' やザ・ローリング・ストーンズ 'Saticfaction'、ミリアム・マケバの 'Pata Pata' などをファンキーにカバーする '企画もの' 的一枚のようです。本曲のラテン・アレンジによるイントロで鳴る濃厚なシタールの '響き'、ええ、たったこれだけのアレンジなんですけど良いですねえ。





さて、このようなシタールに魅了された者たちとしては、当時、ギターにおける早弾きのスキルと相まってアプローチする奏者がロック、ジャズの界隈から現れます。ザ・ビートルズのジョージ・ハリソン、ザ・ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズ、ジミー・ペイジの師匠筋にあたるビッグ・ジム・サリヴァン、ジャズにおいては、パット・マルティーノやガボール・ザボ、後にヒンズー教徒に帰依までした 'マハヴィシュヌ' ことジョン・マクラフリンが代表的ですね。また、米国人ながらラヴィ・シャンカールに師事してシタールを習得、そのままジャズの世界で '伝道師的に' アラン・ローバー・オーケストラを始め、数々のセッションを経ながら無国籍グループ、オレゴンを結成、そしてマイルス・デイビスの 'On The Corner' にも参加したコリン・ウォルコットもおりました。その他、パット・マルティーノとの共演を経てマイルス・デイビスのセッションに参加、後にそのメンバーとなるカリル・バラクリシュナ、ウェストコースト一帯でセッション・ミュージシャンをしていたビル・プルマーなどもそれまでフツーの米国人ながらインドに '感染' し、以降は完全に 'ドロップアウト' してしまった連中です。





当時、ドン・セベスキーやデイヴ・グルーシンなど多くの作、編曲家らも夢中となったシタールの音色ですが、1968年のハリウッド映画 'The Party' のOSTはヘンリー・マンシーニが手がけ、そのテーマ曲でのシタール演奏をビル・プルマーが担当しました。ここでの 'エセ・インド人' を演じたのは 映画 'ピンクパンサー'  のクルーゾ警部でおなじみ若き日のピーター・セラーズ。またプルマーが同時期にImpulse !で吹き込んだ一枚 'Bill Plumer and The Cosmic Brotherhood' から、これまた同時代のバート・バカラックによるヒット曲 'The Look of Love' をどーぞ。このように '時代の音色' としてシタールを取り入れる一方で、インドの古典音楽の持つ即興演奏の '構造' にアプローチするジャズマンも登場します。ジャマイカ出身で米国で活動するサックス奏者ジョー・ハリオットは、早くからインドの古典音楽にアプローチしていた稀有なひとりであり、インド人ヴァイオリニストのジョン・メイヤーと '双頭' による 'Joe Harriot - John Mayer Double Quintet' としてAtlanticから立て続けにアルバムをリリースしました。





このジョー・ハリオットとジョン・メイヤーの試みは大西洋を渡り、ブリティッシュ・ジャズのジャズマンたちを刺激し、1969年にThe Indo-British Ensembleの名義で 'Curried Jazz' というアルバムを制作します。ここでは1965年のハリオット、メイヤーらの 'Indo - Jazz Suite' に続いてラッパのケニー・ウィーラーらも参加しておりますが、この時代、まだ駆け出しの 'セッションマン' であったウィーラーがモダン・ジャズからフリー・ジャズ、ジャズ・ロックに加えてこのような 'インドもの' にまで参加するというのは、その後のECMで打ち立てる様式美を考えると感慨深いものがありまする。また、そのジョン・メイヤーがさらに 'プログレ寄り' のコンセプトで行なった続編的プロジェクト、Cosmic Eyeの 'Dream Sequence'。こういう組み合わせって即興音楽の '構造' の面白さを引き立てる上でまた流行しないですかねえ?





そして、インドの古典音楽が持つ即興演奏の '構造' を自らのビッグバンドに取り入れたドン・エリスなのですが、おお〜!まさかこんな音源がそれも高音質で残っていたとは・・コレ、明日にでもCD化して発売できるクオリティですよね。'Hindustani Jazz Sextet' という名の実験的グループによるライヴ音源のようで、ジョー・ハリオットよりもさらに早い1964年の時点でその後の 'インド化' の端緒を試行錯誤していたことが分かります。しかしシタールとボサノヴァがラウンジに融合するという怪しげな展開・・コレ、もっと音源ないのかな?ここでのタブラやシタールの演奏はHari Har Haoなるインド人?が担っているようですが、ヴァイブのエミル・リチャーズやベースのビル・プルマーなど、エリス同様にインドへかぶれてしまう連中が参加しているのも興味深い。う〜ん、何かこのあたりのジャズ人脈からインド人脈ってのもジャズとヒッピー文化の '秘史' として掘り下げてみたら面白いかも。続く 'Turkish Bath' はドン・エリスの 'インド化' を象徴する一曲で当時、シングル・カットもされたくらいですから多くのヒッピーたちのBGMとして迎え入れられたことでしょう。

一方、このような欧米の 'シタール・ブーム' に対し、やはり 'ビートルズ・ショック' を受けたであろうインドの文化圏からも上でご紹介したコンピレーション 'Sitar Beat !' を始め、ロックやR&Bの要素を取り入れたグルーヴィなヤツが登場します。





ラヴィ・シャンカールの娘として、今や父と同じくシタール奏者の道を歩むアヌーシュカ・シャンカールや、世界的なポップ・スターとなったノラ・ジョーンズ(このふたりは異母姉妹です)に比べ、甥っ子のアナンダ・シャンカールなどと言われても知らない人がほとんどでしょうね。やはり叔父のラヴィ同様シタール奏者の道を歩みながら、時代の空気がそうさせたのか、師匠の反発を無視してロックにアプローチした時期がありました。1969年に大手レーベルRepriseと契約、ザ・ドアーズの 'Light My Fire' やザ・ローリング・ストーンズの 'Jumping Jack Flash' をカバーしたり、1974年の 'Ananda Shankar and his Music' では、エグいモーグ・シンセサイザーを取り入れたグルーヴィなスタイルを披露しました。





イランのシタール奏者などと言われてもいまいちインドとは結び付きませんが、地図を見ればそこはインド、パキスタン、イランという広大な文化圏が一続きなのです、まだ 'イラン革命' 前のパーレビ国王時代のイランは米国の大衆文化を楽しむ余裕があり、このMehrpouyaというシタール奏者もアルバム 'African Jambo' からの一曲 'Soul Raga' でグルーヴィなR&Bの要素を見せ付けます。

ある種の観念的なイメージ、エキゾな '慰みもの' として東洋は常に西洋圏の眼差しの中で査定され、型作られてきました。その中でもシタールという楽器が持つ '抹香くさい' 響きは、それこそ、米国の通販で売られている 'Zen' などと呼ばれていつでも枯山水の庭園を味わえるミニチュア同様、お手軽な 'アジア' を所有できるアイテムだったのだと思います。これをもって文化的簒奪や新たな植民地主義だ、などと批判することは簡単ですが、しかし、なぜシタールが欧米の価値観を揺るがすほどの魅力を振りまいていたのか、という文化的なパラダイム・シフトの背景に答えることは簡単ではありません。資本主義社会が最初のデッドエンドを迎えた1960年代後半、世界の反乱の狼煙を上げる中で響くシタールの '香り' は、現在の世界の状況に新たな光を投げかけるでしょう。



そんな最後はインドの瞑想と共に幻覚の一粒を経口して・・。'LSDの教祖' としてその布教活動に取り組んだティモシー・リアリー。これは 'セットイン' と呼ばれるLSD服用の為のリラクゼーション導入を促す一枚で、濃密なインド音楽と電子音で被験者を 'Stone' させる1967年の 'Turn On, Tune In, Drop Out'。しかし、こんなものが大手メジャー・レーベルであるCapitrolやMercuryから当時リリースされていたのだから、やっぱりどこか社会全体が壊れていたのかもしれないな。あ〜、カレー食べたくなっちゃった。

2018年5月3日木曜日

5月の '質感' 実験室

いやあ、先月までの花粉症は本当にキツかった・・。そんな過酷な季節からいよいよ風薫る5月の連休真っ只中、バッグひとつでどっかに旅行へ出かけても良いし、ただ、時間を忘れて一日好きなことに没頭するってのも楽しみ方のひとつ。ええ、いくつか箱にしまいっ放しだったペダルを目の前に休みの一日を潰そうという算段です。



そんな、相変わらずチマチマとやっている 'アンプリファイ' の実験なのですが、その中でもフィルターというものの奥深さというか、管楽器で探求するのに最適なエフェクターはないんじゃないかな、と思っております。コレ、単純に入力の感度に応じてワウのかかるエンヴェロープ・フィルターの限定的効果だけじゃなく、いわゆる質感生成においてソロのダイナミズム演出に 'ハマる' とトーン・コントロール以上の効果大!裏を返せば、製品によってはどうやっても管楽器の帯域と合わず大した効果を発揮しない 'ハズレ' もあるので、まさに 'トライ&エラー' で挑むほかありません。エレクトリック・ギターとは違い、管楽器による 'アンプリファイ' って意外に使えるエフェクツは少ないと思うのだけど(特に '歪み系' は厳しい)、その中でもこのフィルター系ってのは各製品ごとの色、クセ、幅などの個性に溢れており、個人的にこれからエフェクターにハマってみたい奏者は真っ先に手を出して頂きたいですね。絶対にひとつだけでは満足しないというか、色々と探求するほど面白いくらいに管楽器のトーンの質感を変えることが出来ますヨ。ここではエンヴェロープ・フィルターほど限定的じゃなく、EQのように地味でもなく、まさに 'フィルタリング' というほかないビミョーな変化に耳を傾けてみたい。そんな '質感生成' に特化したペダルを風薫る5月の陽気に乗ってお届けしましょう。





Filters Collection
Moog Moogerfooger MF-101 Lowpass Filter
Korg VCF Synthepedal FK-1

こういうものに特化した製品というと現在では、コンパクト・エフェクターよりDJ用エフェクターで非常に大きな需要と市場があり、単調な ' 4つ打ち' やブレイクビーツのループによる質感生成と盛り上げの演出でよく使われております。これらは基本的にラインレベルの機器なのでギター用の 'コンパクト' と混ぜて使うとなれば 'インピーダンス・マッチング' を取る必要がありますけど、モーグ博士が '置き土産' として設計したMoogerfooger MF-101 Lowpass Filterの登場でDJ、キーボーディスト、ギタリストやベーシストなど幅広い層へ普及するきっかけとなりました。この手のシンセサイザーにおけるVCFを抜き出した製品としては、1970年代に登場したKorg VCF FK-1あたりがそのルーツと言って良いでしょうね。伝説の名機、Shin-ei Uni-Vibeを設計した現Korg監査役の三枝文夫氏が手掛けた本機は、Korgシンセサイズの原点としてMini Korg 700にも搭載されたフィルター 'Traveller' を抜き出し、Uni-Vibe同様のフット・コントローラーでワウペダルとは一味違う '質感' を生成します。









Moog Three Band Parametric Equalizer
Maestro Parametric Filter MPF-1 ①
Maestro Parametric Filter MPF-1 ②
Moog Minifooger MF-Drive
Stone Deaf Fx

この 'Traveller' に象徴的なフィルターの地味な効果は、当時、Mu-Tron Ⅲに代表される 'オートワウ' に比べていまいちウケは良くなかったんじゃないか、と想像します。しかし、1990年代以降のサンプラーを中心とした 'ベッドルーム・テクノ' の隆盛で、そのビミョーな質感生成の 'うま味' に気付いた人たち、特にDJがそれまでの価値観を引っくり返しました。彼らはレコードだろうがアナログシンセであろうがPCM音源であろうが、1980年代のデジタルが持つ 'ハイファイ' に対し、何がしかの機器を通すことで変化する '汚れ感' をもって 'ローファイ' の美学を提示。そんな中で引っ張り出してきたのがMoog1970年代のラック機器、Three Band Parametric EQ。一応3バンドのEQとなっておりますけど、ほとんどVCF並みのエグい帯域変化とただ通すだけで 'ぶっとい感じ' を生み、Moogシンセは買えないけどMoogの質感が欲しいという層にウケて中古市場でも高騰。また、ステレオの '2ミックス' 音源用に2台購入するも、あまりの個体差で左右のキャリブレーションの違いから揃えるのが難しかったというのはいかにもアナログらしい話です。さて、MaestroのParametric Filterは、同社でエフェクターの設計を担当していたトム・オーバーハイムが去り、CMI(Chicago Musical Instruments)からNorlinの傘下でラインナップを一新、設計の一部をモーグ博士が担当することとなります。このMPF-1もまさにそんなMoogの設計思想がコンパクトに反映された一台で、やはり1990年代以降の '質感世代' に再評価されましたね。とにかく何でも通してみる・・ジャリジャリと荒い感じとなったり、'ハイ落ち' する代わりに太い低域が強調されたりすれば、それはもう四畳半の '秘密兵器' として 'ブラックボックス化' するのです。後にMoogはこれを '歪み系' のエフェクターに特化したMinifooger MF Driveとして蘇らせましたが、英国の工房、Stone Deaf FxからもPDF-2として登場。MPF-1やMF Driveがあくまで '歪み + VCF' の構成なのに対し、PDF-2は 'Clean' と 'Dirty' の2つのチャンネルで切り替えて使うことができます。おお、便利〜。





Oberheim Electronics Ring Modulator (Prototype)
Maestro Ring Modulator RM-1A
Maestro Ring Modulator RM-1B
Eva Denshi Ring Modulator

この辺りの '歪み' 込みの質感生成としては、リング・モジュレーターというのも使い方によっては効果的だったりします。一般的にはフリケンシーをピッチ・シフトして 'ギュイ〜ン' と変調させるのがお馴染みですけど、原音を軸にうっすらと狂った倍音を付加していく感じでスパイス的に 'ふりかけて' みる。原音とエフェクト音をミックスできる 'ループ・ブレンダー' (Xotic X-BlenderやUmbrella Company Fusion Blenderなど)に入れて使うと良いのですが、さらにリヴァーブの後ろに繋いで 'アンビエンス' がビミョーに濁り出すという使い方も面白い。今やリング・モジュレーターは色々な製品がありますけど、個人的には大阪の工房、Eva電子さんが特注オーダーしているというMaestro Ring Modulatorの 'クローン' に興味ありますねえ。







Metasonix
Metasonix TS-21 Hellfire Modulator Review
Metasonix TS-22 Pentode Filterbank Review

そんなリング変調に象徴される '歪みっぽい' 質感の生成というか、完全に元の音を破壊してしまう機器として、ちょうど2000年頃に米国の真空管を得意とする工房、Metasonixから2種のラック型エフェクターが発売されました。当時、破壊的な変調具合でヒットしていたSherman Filterbankに比べるとその荒々しいガレージ臭たっぷりの '面構え' はワクワクさせてくれますが、リンク先レビューにある通りとにかくそのハンドリングに手間取る '想定外' のシロモノ。この機能をよりコンパクトにした廉価版、'Vacuum-Tube' シリーズのTM-1 Waveshaper / Ring ModulatorやTM-2 Dual Bandpass Filterでもその扱いにくい印象は変わりません。現在ではすっかり 'ユーロラック' モジュラーシンセのモジュール製作でその名を知られるMetasonixですが、その会社黎明期にはこんな意味不明なヤツを製作していたのだから面白いものです。



Metasonix KV-100 The Assblaster

そのMetasonixからこれらを統合したような真空管 'ギターシンセ' として登場したのがこちら、KV-100 The AssBlaster。このVCFやVCAを真空管と共に飽和させてしまったような '歪み' 感って、実はシンセとエフェクターの狭間で未だ探求され尽くされていない '分野' じゃないかと思います。過去、シンセとファズを組み合わせた '飛び道具' は結構市場に現れましたけど、やはりCVによる音作りにも対応したファズとかディストーションとかオーバードライブとか、今後 'モジュラーシンセ' の流行に乗っかる感じで流行したりして!?







Korg X-911 Guitar Synthesizer
Boss SY-300 Guitar Synthesizer

いわゆる 'ギターシンセ' ってのは管楽器にとってひとつの挑戦です。まあ、本格的なアプローチはAkai Professional EWIやYamaha SXに代表されるウィンド・シンセサイザーの世界が待ち構えているのですが、個人的にはエンヴェロープ・フィルターからオクターバー、モジュレーションを組み合わせた '擬似シンセ' 的アプローチってのが萌えるポイントだったりします(笑)。ちょっとレゾナンスの効いたワウを軸に、何とな〜くこれシンセっぽくない?って無理してる感じがツボというか。わたしは以前、1970年代後半に発売されたKorg X-911を所有しており、この時代の製品としてはトラッキングもまあまあの精度で結構お気に入りでした(取説には管楽器への使用も推奨!)。しかし、このカラフルなタクト・スイッチの耐久性が低く、いくつか反応が悪くなり始めた時点で泣く泣く手放し・・。このX-911以外では過去、Electro-Harmonix Micro Synthesizerのような '擬似シンセ' を試してみましたけど、一方で、近藤等則さんが現在使用中のBoss SY-300とか触ったら、絶対に音作りで迷い込むこと間違いない・・。しかし、'ギターシンセ' 的トーンの面白さって 'ピッチシフト' 的ハーモニーの合成より、入力のタッチセンスに追従するフィルター・スウィープの '質感' 生成にある気がしております(地味なんで見過ごされがちなんだけど)。









Sherman Filterbank 2
Electro-Harmonix Stereo Talking Machine
Subdecay Vocawah
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ

この辺のフィルタースウィープの '番外編' として、いわゆる 'フォルマント生成' に特化したヴォイス・フィルター、トーキング・ワウといったものをご紹介。このようなエフェクターと 'ヴォイス' の関係を探る上では、そのエフェクター黎明期から存在していた原始的なエフェクター、通称 'マウスワウ'、正式にはトーク・ボックスとかトーキング・モジュレーターと呼ばれるものがあります。その構造はギターやキーボードからの出力がホースを通して口に運ばれ、それを頭蓋骨で骨振動させながら口腔内を開閉することでフィルターの役割を果たすもの。ただ、こういった実際の口腔を用いて 'フィルタリング' させるのは結構大掛かりなセッティングとなってしまうので、ここは疑似的に 'ソレっぽい' 効果の出せるフィルターに登場して頂きましょう。このバンドパス帯域で上下をすっぱりとカットした 'フォルマント' の質感は、あらゆる音源に対してユニークな効果を発揮します。そして、Sherman以前の単体型 'フィルターバンク' としてヒットしたのが英国の工房、Analogue SystemsのFilterbank FB3 Mk.Ⅱ。当時、代理店では '通すだけでMoogの質感' というキャッチコピーが付けられておりましたが、なるほど、確かにどんな音源を通してもぶっとくて粘っこい質感は、どこかMoogと共通するアナログな感じがありますね。本機の特徴はモノラルからNotch、Bandpass、Lopass、Hipassを個別、または1+1、2+1にして取り出せる 'パラアウト' にあり、ミックスダウンなどで位相を操作する空間合成の音作りにも威力を発揮することです。上の動画ではライン入力とマイク入力の切り替え機能を利用して、いわゆる 'ヴォコーダー' 風セッティングにしたもの。残念なのはLFOがブツ切りするほど切れ味鋭くないところですが、そこは外部CVから対応してくれ、ということなのでしょうか?





Triode Pedals Leviathan ①
Triode Pedals Leviathan ②
Dreadbox Epsilon - Distortion Envelope Filter

さて、こちらは米国メリーランド州ボルチモアで製作する工房、Triode Pedalsのリゾナント・フィルターであるLeviathan。アシッド・エッチングした豪華な筐体に緑のLEDとツマミが見事に映えますけど、その中身もハンドメイドならではの '手作り感' あふれるもので期待させてくれます。いわゆるエンヴェロープ・フィルターの大半がリズミックにワウをかけるものばかりで、ゆったりとフィルターがスウィープするような音作りに特化したものというのは、コンパクト・エフェクターとしては案外と多くないですね。そんな中でもこのLeviathanは、実に多彩な音作りに応えてくれるものと踏んで購入、その昔、Lovetone Meatballで渋い音作りしていた頃を思い出しました(MeatballでLFOモジュレーションは出ませんけど)。コンセプトとしてはKorg Mr. Multi FK-2の現代版といった感じで、エンヴェロープ・フィルターからエクスプレッション・ペダルまで対応しているとのことですが、そのちょっと分かりにくいパラメータの数々を取説でちゃんと確認してみると・・。

●Song
コントロールはフィルターのカットオフ周波数を設定します。クラシックなフィルタースウィープを作ることが出来ます。
●Feed
コントロールを調整すれば、レゾナンスフィードバックをコントロールしてエフェクトのかかりを最小から発振まで設定可能。
●↑/↓の3段階切り替えトグルスイッチ
上から順にハイパス、バンドパス、ローパスフィルターの設定です。
LFOセクションはSongコントロールの後に設置されます。ChurnコントロールはLFOスピード、WakeコントロールはLFOの深さを調整します。LFOをフルレンジでオペレートするには、Songを中央に設定し、Feed、Wakeを最大または最小に設定します。
●'Wake' と 'Churn' ツマミ間のトグルスイッチ
LFOの波形を三角波と短形波から選択できます。
●エクスプレッション・ペダル端子とDC端子間にあるトグルスイッチ
LFOのスピードレンジとレンジスイッチです。上側のポジションでFast、下側のポジションでSlowのセッティングとなります。

このようなコンパクト・タイプのフィルターでここまで幅広い音作りに対応したものとしては、ギリシャのDreadbox Epsilonにも共通するのですが、やはり、多彩なLFOの設定に単なる 'オートワウ' とは違うフィルター専用機ならではの特徴がよく現れておりますね。ちなみにこの2機種、いわゆるエンヴェロープ・フィルターのイメージで購入してしまうとかなり残念というか、ほとんどその要求には応えてくれません(苦笑)。フツーに単体の 'オートワウ' として用意されているものを使った方が満足できると思われます。こういうところからもかなりマニアック& '質感' の生成に特化したのがこの 'フィルター・スウィープ' の効果なのです。







Ibanez LF7 Lo Fi
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky ①
Z.vex Effects Instant Lo-Fi Junky ②

楽器や音声などを加工する上で、エフェクターの中でも1990年代以降の新たな価値観に触発された一風変わったものが、Ibanezの 'Tone-Lok' シリーズの一台、LF7 Lo Fiです。その名の如く 'ローファイ' な質感にしてくれるもので、電話ヴォイス、AMラジオ・トーンなどの 'バンドパス' 帯域に特徴のある荒れた質感と言ったらいいでしょうか。そもそもは 'オルタナ・ロック' やヒップ・ホップにおけるロービットなサンプラーの荒れた質感を指す言葉として、1980年代のデジタル中心な 'ハイファイ' に対する価値観として共有されました。それはヴィンテージ・エフェクター再評価などもそうなのですが、むしろ、ターンテーブルからサンプラーなどのデジタル機器に取り込むことで、それまで気にも留めていなかった 'ノイズ' が音楽の重要な要素として、そのまま 'エフェクト' の如く切り取られたことに意味があったワケです。このLF7はギターのほかドラムマシン、ヴォーカルのマイクなど3つのインピーダンスに対応した切り替えスイッチを備えており、Drive、Lo Cut、Hi Cut、Levelの4つのツマミで音作りをしていきます。一応、ギタリストからDJまで幅広く使ってもらうことを想定していたようですが、結局はギタリストにはイマイチその価値観が伝わらず、DJにはそもそもこの製品の存在が知られることがなかったことで、現在でも他の追随を許さない '迷機' としてのポジションに甘んじております。また、このような 'ローファイ' な質感をアナログ・レコードのチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものとして、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junkyは早くからそのユニークな効果を市場に認知させました。特に真ん中の 'Comp ←→Lo-Fi' ツマミがもたらす '質感' はその気持ちの良い 'ツボ' をよく心得ている。しかし、この 'なまり具合' を聴いていると爽やかな5月の風と共に遠い昔の記憶へ思いを馳せたくなりますねえ。







Chase Bliss Audio
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱ ①
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱ ②

そして現在の注目株Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱの登場。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。特にこのWarped Vynal Mk.Ⅱのアナログによる古臭い質感をデジタルでコントロールするという、'ハイブリッド' かつ緻密な音作りに感嘆して頂きたい。Tone、Volume、Mix、RPM、Depth、Warpからなる6つのツマミと3つのトグルスイッチが、背面に備えられた 'Expression or Ramp Parameters' という16個のDIPスイッチでガラリと役割が変化、多彩なコントロールを可能にします。またタップテンポはもちろんプリセット保存とエクスプレッション・ペダル、MIDIクロックとの同期もするなど、まあ、よくこのサイズでこれだけの機能を詰め込みましたねえ。唯一の難点は、この工房の製品はどれもお高いってこと・・。





Penny Pedals Radio Deluxe Lo Fi Filter

こちらのPenny Pedalsから登場したRadio Deluxe Lo Fi Filterもヒジョーに良い感じ。こういった 'ラジオ・ヴォイス' というのはグラフィックEQでも作れるのですが、やはりソレに特化した単体機は音の狙いが分かっていて使いやすそうですね。管楽器の場合だとこの手の 'ローファイ' ものは、前にコンプレッサーなどでダイナミックレンジを抑えておいた方がよりかかりが分かると思います。





JHS Pedals Colour Box
Elektron Analog Heat HFX-1

さて、スタジオ・レコーディングにおけるアウトボードの技術の究極と言えるものが、永らく音響機器界の伝説的存在として語り継がれるRupert Neveのサウンドでしょう。特にNeveの手がけたミキシング・コンソールはその太い '質感' に定評があり、このコンソールをバラしてプリアンプ、EQなどを 'チャンネル・ストリップ' にするエンジニア必携のアイテムとなっております。この '質感' をコンパクト・エフェクター・サイズにしてしまったのが近年その名を聞くことの多いJHS PedalsのColour Box。構成はプリアンプ + EQといった感じながら、その可変具合はクリーンからそれこそファズっぽい歪みに至るまで加工することが可能で、動画でのヴォーカルのエフェクティヴな処理に驚かされます。なお入力はフォンとXLRの兼用なコンボ端子となっており、そのまま管楽器用マイクから入力するプリアンプにもなりますので是非ともお試しあれ。一方、スウェーデンのテクノ専門機器として有名なElektronから単体のマルチ・エフェクツ、Analog Heat HFX-1をヴォイスの '質感' 生成に試してみるという一風変わったもの。動画はElektron始めテクノ・ガジェットのパフォーマンス、レビューで人気のYoutuber、Cuckooさんですが、この適度にサチュレートしながらフィルタリングする感じは管楽器でも効果的ですねえ。このAnalog Heatは現在ElektronがプッシュしているDAWのプラグインと連携した 'Overbridge' にも対応しており、マイク、本機、PCだけで多様なパフォーマンスを可能とします。







Industrialectric
Industrialectric Echo Degrader

そんな 'ローファイ' の質感を異常なまでに突き詰めているのがデジタル・ディレイの分野。いわゆる 'デジカメ' に象徴される、キメの細かい画素数の製品を毎年 'アップデート' している一方で、すでに古びてしまったビットレートの荒い質感から取り出してくるのは、そんなデジタルのエラーする 'なまり方' の心地よさだったりします。エフェクター業界において今や群雄割拠の賑わいを見せるカナダですが、そこから新たに登場した工房、Industrialectricの 'ローファイ・ディレイ' であるEcho Degrader。おお、これはかなりの 'Lo Fi' というか 'Garbage' というか、もはや個性的なひとつの '楽器' と言っていいくらい主張しますねえ。特に本機の名称となっている 'Degrade' ツマミを回すことで、よく 'ローファイ・ディレイ' で用いられる 'テープを燃やしたような' バリバリ、ブチブチというノイズを付加してくれます。ちょっと取説を開いてみれば・・そこには本機ならではのユニークなツマミ、スイッチ類が並んでおり興味津々。

⚫︎Tone / Threshold
サウンド全体のトーンと、オシレーションのスレッショルド、さらに多くのパラメータと合わせて設定することで様々な効果を作れます。
⚫︎Degrade
ディレイに入るシグナルをカットし、壊れたテープマシンのようなトーンやコムフィルターをかけたディレイなどのサウンドを作ります。
⚫︎Tape Stability
テープが揺れるようなモジュレーションをかけたり、より強力な設定ができます。
⚫︎Tape Inputスイッチ
シグナルのインプットッレベルを選択します。Tape Stabilityの設定により違った挙動を示すことがあります。
⚫︎Tape Fidelityスイッチ
ダウンポジションではテープノイズが最大となり、アップポジションではリピートが高周波のみとなり、よりローファイでノイジーなトーンとなります。

なるほど〜。また2つあるフットスイッチのひとつがモメンタリースイッチとなり、キルスタッターやトレイル、オシレーション、モジュレーションのスイッチなど、様々な設定に応じて作動させることできるとのこと。



(Recovery) Hand-Wired Effects
Recovery Effects Viktrolux

こちらもEcho Degrader同様、いわゆる 'ローファイ' に特化したディレイ/ヴィブラートの変異系なのですが、相当にヘンチクリンな効果を生成しますねえ。米国ワシントン州シアトルでGraig Markel氏により手がけるこの工房は、Bad ComradeやCutting Room Floorなどの 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターで一躍市場にその存在を認知させました。この極端な 'ピッチ・ヴィブラート' はMid-Fi ElectronicsのCrari(Not)やDeluxe Pitch Pirateなどを彷彿とさせますが、本機もまた、いくつか他で見かけない独自の表記満載なので取説を見てましょうか。

●Time
ディレイタイムを調整します。
●Blend
エフェクトシグナルとクリーンシグナルのバランスを調整します。
●Volume
全体の音量を調整します。
●Shape
'Flutter' の波形をコントロールします。三角波から短形波まで可変できます。
●Flutter
テープフラッターのスピードを調整します。
●Stabilitty
'Flutter' のOn/Offを切り替えます。
●Repetition
ディレイのリピートをワンショットとマルチプルで切り替えます。

このViktroluxのもうひとつの特徴はディレイタイムに対してCV(電圧制御)でコントロールできることでして、動画ではアナログシンセからのLFOやゲート信号と同期、奇妙なシーケンス的フレイズを生成することができます。おお、この辺りにも 'モジュラーシンセ' を意識した現在のシーンの傾向が伺える、と思っていたら、すでに 'ユーロラック' のモジュール製作も始めておりました。







Seppuku Fx Memory Loss

そしてオーストラリアから最高(最低?)の 'Garbage' な 'ローファイ・ディレイ' であるMemory Loss。縦型から横型になったと思ったらツマミが増えたり減ったり、スイッチやボタンに変更されたりとひとつとして同じものがない・・。シーズンごと、というより毎月製作する度に設計者の気分?でちょいちょい仕様変更されるその姿は、もう、ある種の 'アート作品' というか、ディレイという '既製品' のキャンバスの中でマルセル・デュシャン的 'レディ・メイド' の実践をしているのか?とさえ言いたくなってくる(笑)。どれがオリジナルなのか、どれが完成形なのかどーでもいい、見る人、使う人の五感に訴えかけてくるだけでもう十分でしょう。



Blackout Effectors Whetstone Phaser V2

こちらは、今から10年ほど前に日本でも発売されたBlackout EffectorsのWhetstone Phaser。アナログ回路のフェイザーながらヴィブラート、エンヴェロープをスィープさせるPadからリング・モジュレーション、そしてFMラジオ・トーンともいうべきFixまで実に多彩(変態?)な効果を発揮することで、わたしも当時入手しました。いま、このBlackoutの製品はほとんど日本の市場で見かけなくなり、わたしも金欠で本機を手放してしまったことを未だに後悔しております。ここで特筆すべきはジャリッとした質感が魅力のリング変調からFixモード(動画3:07〜4:20)。わたしもメインのフェイザーよりこのFixモードが気になって購入したくらいですから(苦笑)。





Bastl Instruments Thyme ①
Bastl Instruments Thyme ②

こんなフィルターからディレイ、モジュレーションの効果を統合して、デジタルならではの '質感' 生成に特化してしまったのがこちら、チェコ共和国のBastl Instruments Thyme。いわゆる 'サーキット・ベンディング' 的なガジェットからモジュラーシンセまで幅広く製作してきたBastlの本格的なデスクトップ型マルチ・エフェクツの本機は、明らかに 'ユーロラック' モジュラーシンセからフィードバックしてきた技術を 'エフェクター化' してきたと言って良いでしょう。そんな謎めいた仕様は以下、こんな感じ。

●ラインからギター入力までの幅広い入力ゲイン(〜+20dB)
●Tape Speed、Delay Coarse & Fine、Feedback、Filter、extra heads Spacing and Levels、Dry/Wet Mix and Volumeからなる9つのパラメータ
●各パラメータはRobotモードからモジュレーション可能
●各RobotモードはLFO、エンヴェロープ・フォロワー、外部CVのパワフルなモジュレーション・ソースを持つ
●Freezeボタンはシグナル・フローを再構築してテープループ効果を生成
●タップテンポ
●インターナルまたは外部クロックからディレイを同期
●8プリセット × 8バンク(合計64プリセット)
●32ステップ・シーケンサー&4パターン・シーケンスのプリセット
●モノ&TRSステレオの入力切替
●ステレオ出力&ヘッドフォン出力
●MIDI入出力
●アナログ・クロック入力
●CV入力(0〜5V) V/octでテープ・スピードとディレイタイムを可変
●外部フットスイッチによるOn/Off可能



Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

Bastle Instrumentsはずーっとオモチャっぽい 'ガジェット' ばかり作っている工房だと思っておりましたが・・これはちょっと無視できない豪華さ、ですねえ。そしてStrymon Decoに象徴される多機能なアナログとデジタルの 'ハイブリッド'・・今や '質感' の生成はアナログ回路の専売特許ではなく、プラグイン・エフェクトからもたらされるデジタルのDSPで色々と操作をする時代ですヨ。





Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation ①
Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation ②
Oberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200
Maestro Filter Sample / Hold FSH-1
Systech Harmonic Energizer

さて、Sherman Filterbankは飽きることのない多様性でもの凄いし、わたしが去年の暮れに手に入れたLudwig Phase Ⅱ Synthesizerも最高だった・・しかし、究極の '一品' 的フィルターということならやはりコイツでしょうか。コンパクト・エフェクターというにはあまりにデカイですけど、フランク・ザッパがギターに内蔵してまで愛用したカスタムメイドのフィルターをザッパのギターを手がけたPerformance Guitarが蘇らせてしまったもの。オーダーしたのは息子のドゥイージル・ザッパで動画のデモも彼本人によるものです。エフェクターという市場においてジミ・ヘンドリクスの果たした役割は、まさに現在進行形で大きな存在として君臨しておりますが、フランク・ザッパがフィルターに対して見せていた偏執的 'こだわり' もまた、ひとつの大きな市場を生み出していることは間違いありません。そんなザッパのユニークな '作曲・指揮' に大きな力を与えるフィルター群は、そのままMaestro Filter Sample/Hold FSH-1とOberheim VCF-200、Systech Harmonic Energeizerといったマニアックなペダルに光を当て再評価、数多くの 'クローン' 登場を促します。まあ、こんな珍しい一品もあるということでご紹介。





最近、この手の 'ガジェット' な音作りに少しづつですが '女子力' が湧き出してきたのは嬉しい限り。いや、こういうのってどーしても男性的 'コダワリ' でもってチマチマやっているイメージ強いですから、ね(苦笑)。このLAで活動するSasami Ashworthさんのような複数ペダルの組み合わせでシンプルにエグい効果を得るやり方から、一気に 'ユーロラック' モジュラーシンセのセットを組んでパッチングするKaitlyn Aurelia-Smithさんの凝った音作りに至るまで、そのアプローチは千差万別。とにかく興奮させ、奇妙に面白いサウンドが生成できるのならすべて 'アリ' なのです。








Bruno Spoerri Interview

話は変わり、こんな実験好きの 'マッドサイエンティスト' 的存在のひとりとして、スイスのジャズ・サックス奏者にして同地のエレクトロニクス・ミュージックの御大ともいうべきブルーノ・スポエリさんをご紹介。わたしがこの人の存在を知ったのは1970年、プログレに積極的だったレーベルDeramからジャズ・ロック・エクスペリエンスの一員として同郷のラッパ吹き、ハンス・ケネルと参加した '企画もの' 的ジャズ・ロック盤 'J.R.E.' を聴いたことでした。フロントのホーン2人はConn Multi-Viderで 'アンプリファイ' しているのですが、同時期には日本の大阪万博でスイス館のためにThe Metronome Quintetとして来日、日本コロンビアでこの7インチ 'EXPO Blues' を吹き込んでおります。おお、Multi-Viderのネロ〜ンとした電気サックスの音色がたまらない・・。そんな頃の思い出を '5つの質問' としてネット上のインタビューでこう答えております。

- また、1970年代にあなたは電化したサックスで実験されましたよね。あなたのサックスを電化するにあたり用いたプロセスはどのようなものでしょう?

- ブルーノ
サックス奏者でありジャズのインプロヴァイザーでもあるわたしは、いつもキーボード以外のやり方で演奏することを探していました。1967年にわたしはSelmer Varitoneを試す機会を得たのですが、しかし(それはあまりに高価だった為)、わたしはConn multi-Viderを、その後にはHammondのCondorへ切り替えて使いました。特にわたしは多くのコンサートでMulti-Viderを使いましたね(1969年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルで私たちのジャズ・ロック・グループが使用し、そこでエディ・ハリスにも会いました)。1972年にわたしは、EMSのPitch to Voltageコンバーターをサックスと共に用いてコンサートをしました(VCS 3による3パートのハーモニーやカウンター・メロディと一緒に)。そして、1975年にわたしはLyriconの広告を見て直ちにそれを注文したのです。



EMS Pitch to Voltage Converter ①
EMS Pitch to Voltage Converter ②
Korg MS-03 Signal Processor
Moog MP-201 Multi-Pedal

ここでスポエリさんが述べるPitch-to Voltageコンバーターとは、アナログ・シンセサイザーでお馴染みの 'CV/Gate' による電圧制御を外部のギター、管楽器などから音程(ピッチ)による変換をしてくれるもの。 このEMSの1Uラック型のほか、KorgからもアナログシンセMS-20に内蔵されていたものを単体機したMS-03がありました。現行機ではMoogから 'Moogerfooger' シリーズとの組み合わせで用いるCV/Gate、MIDI対応のMP-201がありますが、Rolandのギターシンセ、SY-300内蔵のコンバーターなどはかなりの精度、低レイテンシーによる追従性を実現しており・・もはや 'ギターシンセ' の発音については過去のものとなりつつあるのかもしれません。







そんな 'マッド・サイエンティスト' のスポエリさんは、現在もゆる〜い感じのままモダン・ジャズから前衛的なライヴ・エレクトロニクスに至るまでツマミやスイッチを触り、元気にサックスを吹いているという・・憧れるなあ、こういう幅の広い生き方。ちなみに最後の動画冒頭、これ、Lyliconからの出力をElectro-Harmonixのトークボックス、Golden Throatからトランペットのリードパイプを共鳴管にして鳴らしているのでは!?ワウワウ・ミュートと電化したトーンとの折衷的アプローチが面白いですねえ。そして・・やっぱり究極の 'エフェクツ' はEMSだよなあ(羨)。

さあ、5月の 'ゴールデンウィーク' もいよいよ後半。これから本格的な夏へと向かっていくこの時期は、まさに '永遠の休日' であり '5月病' という名のドロップアウトへと多くの若者を誘います(笑)。いや、皆さま、気持ちだけは 'ドロップアウト' させて何かに没頭しながら、この眩しい季節の '誘惑' を乗り越えて下さいませ。

2018年5月2日水曜日

フェイズの源流 - その黎明期

ロックとエレクトロニクスの加熱した1960年代後半。すでに欧米ではいくつかのメーカーから 'アタッチメント' と呼ばれるエフェクター黎明期が到来、当時のLSD服用による '意識の拡張' と相まってレコーディング技術が飛躍的に進歩しました。そんな 'パラダイム・シフト' の中、日本が世界に誇る作曲家、富田勲氏の音作りは音楽の発想を鍛える上でとても重要な示唆を与えてくれます。







いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクター登場前夜は、まだこの手の位相を操作して効果を生成するにはレスリー社のロータリー・スピーカーに通す、2台のオープンリール・デッキを人力で操作して、その位相差を利用する 'テープ・フランジング' に頼らなければなりませんでした。富田氏はこのような特殊効果に並々ならぬ情熱を持っており、いわゆる 'Moogシンセサイザー' 導入前の仕事でもいろいろ試しては劇伴、CM曲などで実験的な意欲を垣間見せていたのです。

"これは同じ演奏の入ったテープ・レコーダー2台を同時に回して、2つがピッタリ合ったところで 'シュワーッ' って変な感じになる効果を使ったんです。原始的な方法なんだけど、リールをハンカチで押さえるんです。そしたら抵抗がかかって回転が遅くなるでしょ。'シュワーッ' ってのが一回あって、今度は反対のやつをハンカチで押さえると、また 'シュワーッ' ってのが一回なる。それを僕自身が交互にやったんです。キレイに効果が出てるでしょ。"







Danelectro Back Talk
Red Panda Tensor

ちなみに、このようなテープ操作によるエフェクトの代表的なものとしては 'Tape Reverse' ことテープの逆再生効果が有名ですね。昔はわざわざオープンリール・テープを反対にセットして行っておりましたが、現在では簡易的なループ・サンプラーでお手軽に生成することができます。しかし、単体でこの効果に特化した製品というのが現在までほぼないのは不思議でした。まあ、一部のデジタル・ディレイにおける '付加機能' として備えているものがあるので、わざわざこんな 'ニッチな' 効果をラインナップする必要性はないのかもしれませんが、しかし、そんな 'ニッチな' 需要に応えてしまったのがDanelectro。このBack Talkは、そんな 'ループ・サンプラー' ブーム初期の頃に発売されたこともあって人気拡大、あっという間に廃盤となったことで現在ではかなりのプレミアが付いております。そして2018年、新たな 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターのスタンダードと呼ぶに相応しいRed PandaのTensor。特にエクスプレッション・ペダルによる逆再生効果はあっという間に '使われてしまう' 予感・・。







Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
EMS Synthi Hi-Fli

1971年の新製品である初期の 'ギター・シンセサイザー' Ludwig Phase Ⅱ Synthesizerは当時手がけていた劇伴、特にTVドラマ「だいこんの花」などのファズワウな効果で威力を発揮しました。また、シンセサイザーを製作するEMSからも同時期、'万博世代' が喜びそうな近未来的デザインと共にSynthi Hi-Fliが登場、この時期の技術革新とエフェクツによる '中毒性' はスタジオのエンジニアからプログレに代表される音作りに至るまで広く普及します。

"あれは主に、スタジオに持っていって楽器と調整卓の間に挟んで奇妙な音を出していました。まあ、エフェクターのはしりですね。チャカポコも出来るし、ワウも出来るし。"

後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏も当時、富田氏に師事しており、サントラやCM音楽などの仕事の度に "ラデシン用意して" とよく要請されていたことから、いかに本機が '富田サウンド' を構成する重要なものであったのかが分かります。このLudwig Phase Ⅱに象徴される '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。さて、冒頭の1969年のNHKによるSF人形劇「空中都市008」では、まだ電子的な 'モジュレーション' 機器を入手できないことから当時、飛行場で体感していた 'ジェット音' の再現をヒントに出発します。

"その時、ジェット音的な音が欲しくてね。そのころ国際空港は羽田にあったんだけど、ジェット機が飛び立つ時に 'シュワーン' っていう、ジェット機そのものとは別の音が聞こえてきたんです。それはたぶん、直接ジェット機から聞こえる音と、もうひとつ滑走路に反射してくる音の、ふたつが関係して出る音だと思った。飛行機が離陸すれば、滑走路との距離が広がっていくから音が変化する。あれを、同じ音を録音した2台のテープ・レコーダーで人工的にやれば、同じ効果が出せると思った。家でやってみたら、うまく 'シュワーン' って音になってね。NHKのミキサーも最初は信じなくてね。そんなバカなって言うの。だけどやってみたら、これは凄い効果だなって驚いてた。これはNHKの電子音楽スタジオからは出てこなかったみたい。やったーって思ったね(笑)。"

まだ、日本と欧米には距離が開いていた時代。直接的なLSD体験もなければザ・ビートルズが用いたADT (Artificial Double Tracking)の存在も知られていなかったのです。つまり、世界の誰かが同時多発的に似たようなアプローチで探求していた後、いくつかのメーカーから電子的にシミュレートした機器、エフェクターが発売される流れとなっていたのがこの黎明期の風景でした。







Foxx Guitar Synthesizer Ⅰ Studio Model 9
Maestro FP-1 Fuzz Phazzer
Maestro FP-2 Fuzz Phazzer

こちらはFoxxの 'ギター・シンセサイザー' ペダル。基本的に黎明期の製品はエンヴェロープ・フィルター、ファズワウ、フェイザー、フランジャー、LFOといった重複する機能が混交した状況であり、後にカテゴリー化される名前より先に話題となっていたもの、一部、類似的な効果を強調して付けるというのが習慣化しておりました。Shin-ei Uni-Vibeの 'Chorus' (当初は 'Duet')も後のBoss Chorus Ensemble CE-1とは別物ですし、LudwigやFoxx、Maestroから登場した 'Synthesizer' というのもRoland GR-500以降の 'ギターシンセ' とは合成、発音方式などで別物です。富田氏によれば、このような 'モジュレーション' 系エフェクターはMoogシンセサイザーの単純な波形に揺らぎを与え、'なまらせる' 為に用いており、そこには機器自体から発する 'ノイズ' がとても有効であることを力説します。

"最近(の機器)はいかにノイズを減らすかということが重要視されていますが、僕が今でもMoogシンセサイザーを使っている理由は、何か音に力があるからなんですね。低音部など、サンプリングにも近いような音が出る。それはノイズっぽさが原因のひとつだと思うんです。どこか波形が歪んでいて、それとヴォリュームの加減で迫力が出る。だから僕はノイズをなるべく気にしないようにしているんです。デジタル・シンセサイザーが普及してノイズが減り、レコーディングもデジタルで行われるようになると、音が透明過ぎてしまう。ファズやディストーションもノイズ効果の一種だし、オーケストラで ff にあるとシンバルや打楽器を入れるというのも騒音効果です。弦楽器自体も ff になるとすごくノイズが出る。そうしたノイズは大切ですし、結果的にはエフェクターで出たノイズも利用していることになるんだと思います。"





Honey Psychedelic Machine
Honey Vibra Chorus

その「空中都市008」における 'テープ・フランジング' の効果は、当時、すでに製品化されていたHoneyのVibra Chorus、Psychedelic Machineなど伺い知らぬ状況の中で、物理的な法則と手持ちの機器や録音環境を応用、組み合わせながら富田氏の飽くなき実験精神を呼び起こすきっかけとなりました。なければ作る・・そんな 'DIY' 精神はそのまま未知の楽器、'Moogシンセサイザー' の膨大なパッチングによる音作りへと直結します。また、1970年代後半には 'レスリー・スピーカー' の効果を即席で生成すべく、スピーカーをターンテーブルに乗せて屏風で囲い、マイクで集音するという '荒技' に挑みます。今なら同じセッティングをBluetoothのスピーカーをワイヤレスで飛ばすことで簡単に再現することが出来ますが、当時はかなり苦労したとのこと。

"レスリー・スピーカーというのがハモンド・オルガンに付いているでしょ。ただコードを押さえるだけで、うねるようなドップラー効果が起こる。ブラッド・スウェット&ティアーズとかレッド・ツェッペリンがさんざん使ってたんですが、その回転スピーカーというのが日本ではなかなか手に入らなくてね。それにものすごく高かった。それで '惑星' や 'ダフニスとクロエ' で使った方法なんだけど、FとSというスピードが可変できる古いレコード・プレイヤーがあったんです。その上にスピーカーを置いて、向こうに屏風を立てて回したら、レスリーのいい感じがするんですよ。じゃあ、スピーカーにどうやって音を送るかってことで、1本はエナメル線を吊るして、それで回したんです。このやり方だと、3分ぐらいでエナメル線はブチッて切れるんだけど、その間に仕事をしちゃうんですよ。このやり方はレスリーよりも効果があったと思いますよ。レスリーはあれ、回っているのは高音部だけだからね。"





Inside The Fender Vibratone
Maestro RO-1 Rover

こちらは、そんな超重量級の 'レスリー・スピーカー' をいわゆる 'ロータリー' 部のキャビネットとして、ギターアンプをパワーアンプにして駆動させるFender Vibratone。その '銀パネ' のグリルを外すとスピーカー本体の前に回転する風車を配置するものでして、これは当時、Fenderの親会社であるCBSがLeslieのパテントを所有していたことから実現しました。そしてMaestroからはドラムロール状のロータリー・スピーカーとしてRoverが製品化されます。しかし、こんな 'ドップラー' 効果を大きなアンプとしてFenderやMaestroが製作していた当時、日本のHoneyから電子的シミュレートで(当時としては)可搬性のよい '卓上型' 及び 'フットボックス' の製品として開発していたのですから、その世界的な技術力とセンス、恐るべし。





Tel-Ray / Morley RWV Rotating Wah
Tel-Ray / Morley EVO-1 Echo Volume

こちらは、そんなレスリー・スピーカーの効果を、Tel-Ray / Morleyによる 'オイル缶' を用いた独特な構造の 'RWV Rotating Wah' とディレイの 'EVO-1 Echo Volume' という巨大なペダルで結実したもの。このMorleyのペダルというのは昔からどれも巨大な 'アメリカン・サイズ' なのですが、そのペダル前部に備えられた巨大な箱に秘密があり、オイルの入ったユニットを機械的に揺することでモジュレーションやエコーの遅れなどを生成するという、何ともアナログかつ手の込んだギミックで作動します。



Binson Echorec

このエコーにおける富田氏の好奇心、想像力は群を抜いており、まだ、オーケストラを相手とした駆け出しの作曲家時代、エンジニア的視点からその擬似的な '空間合成' に対して注意深く耳を澄ませていました。

"(映画の効果として)不気味な忍び寄る恐怖みたいなものを出すのにどうしてもエコーが欲しかった。その時、外を歩いていたら水槽があったんだよ。重い木の蓋を開けて、石ころを拾って放ってみたら「ポチャーン」って、かなり伸びのいい音がするわけ。好奇心旺盛なミキサーさんと共にそこへスピーカーとマイクを吊るしてやろうってことになった。スタジオの楽団の前にエコー用のマイクを立てておいて、その音を水槽に流して、その残響をマイクで拾ってミキサーの開いているチャンネルに戻す。そのエコー用マイクというのをストリングスに近づけるとブラスにエコーがかかる。両方にかけたいときは中間に置けばいい。"

その後、エフェクターとして出回った磁気ディスク式エコーのBinson Echorecも '富田サウンド' の重要なアイテムとなり、その '秘密' ともいうべき物理的 'エラー' から生成される 'モジュレーション' について富田氏は以下のように語っております。

"Binsonは鉄製の円盤に鋼鉄線が巻いてあって、それを磁化して音を記録するという原理のものでした。消去ヘッドは、単に強力な磁石を使っているんです。支柱は鉄の太い軸で、その周りにグリスが塗ってあるんですが、回転が割といい加減なところが良かったんです。そのグリスはけっこうな粘着力があったので、微妙な回転ムラによっては周期的ではない、レスリーにも似た '揺らぎ' が生まれるんです。4つある再生ヘッドも、それぞれのヘッドで拾うピッチが微妙に違う。修理に出すと回転が正確になってしまうんで、そこには手を入れないようにしてもらっていました。2台使ってステレオにすると微妙なコーラス効果になって、さらにAKGのスプリング・リヴァーブをかけるのが僕のサウンドの特徴にもなっていましたね。当時、これは秘密のテクニックで取材でも言わなかった(笑)。Binsonは「惑星」の頃までは使っていましたね。"

さて、日本のエフェクター黎明期を支えたHoney / Shin-ei Companion。当時、ファズとワウがその市場の大半を占めていた中でいち早く 'モジュレーション' 系エフェクターの開発に成功したことで、現在までその技術力と先見性は高く評価されております。1968年のPsychedelic MachineとHoney Vibra ChorusをきっかけにUnicordへのOEM製品であるUni-Vibe、Shin-eiのOEMブランドCompanionによるVibra Chorus VC-15(SVC-1)、Resly Tone RT-18(Phase Tone PT-18)、最終型のPedal Phase Shifter PS-33などが会社の倒産する1970年代半ばまで用意されました。





Shin-ei Resly Tone RT-18
Shin-ei Phase Tone PT-18
Shin-ei Pedal Phase Shifter PS-33

途中、自社のResly Tone RT-18の名称がPhase Tone PT-18に変更されたことからも象徴されるように1971年、トム・オーバーハイムが手がけたPhase Shifter PS-1をきっかけにして起こった 'フェイザー・ブーム' は、Honey / Shin-eiの先駆的な存在を闇に葬るきっかけとなってしまったのが悔やまれます。これは、そもそも先駆的製品であったこの 'Maid in Japan' が、まだまだ海外では安価なOEM製品以上の評価を受けていなかったことの証左と言ってよいでしょうね。少量生産していた 'アタッチメント' と呼ばれる機器は、ロック全盛とエレクトロニクスの革新により市場が拡大、より生産体制を拡大すべくアジアなどの下請け企業へ発注し、大量生産と共にビギナー層への安価な製品供給を拡充してその裾野を広げていく・・。まさにHoney / Shin-ei Companionはそんな時代の真っ只中で興隆し、消え去ってしまった幾多ある会社のひとつだったのです。





Shin-ei Resly Machine RM-29 ①
Shin-ei Resly Machine RM-29 ②
Rands Resly Machine RM-29

そんな '屈辱的' な先見性と 'フェイザー・ブーム' の狭間で産み落とされたと思しき珍品のひとつがコレ、Resly Machine RM-29です。そもそも1968年にHoneyから三枝文夫氏によって開発された本機の '源流' に当たるVibra Chorusの製品コンセプトは、レスリー社のロータリー・スピーカーを電子的にシミュレートすることでした。それがShin-ei以降もずっと製品名として生き残ってきたワケなんですが、時代が一気に 'フェイザー' という新たな名称と共に普及したことで、Shin-eiはそのきっかけとなったMaestro Phase Shifter PS-1のデザインをそのままパクるという暴挙に出ます。しかし中身は従来の '源流' としたヴィブラート色濃い独特な効果ながら、Uni-Vibeに代表される渦巻くようなサイケデリック的強烈な揺れ感は薄められた廉価版として、何とも折衷的なモジュレーション系エフェクターの範囲に留まってしまいました。







Maestro PS-1A Phase Shifter + PSFW-2 Foot Switch
MXR Phase 90

そんなMaestro PS-1も数年後にはMXRからPhase 90という手のひらサイズのカラフルな一品の登場で旧態然な製品となり、いよいよShin-eiという会社も次なる一手を打ち出さなければならない状況へと追い込まれます。Resly ToneからPhase Toneへ、さらにはペダルに内蔵してリアルタイム性に寄ったPedal Phase Shifterへとバリエーションを展開してみたものの、多分、その中身は古くさい 'Vibra Chorus' の資産を手を替え品を替えの状態だったのだろうなあ、ということで、ほとんど製品開発の資金を捻出できなかったのだろうと想像します。

ちょっと前の中国製エフェクターではないけれど、この時代の日本製エフェクターもオリジナル性よりは海外製品のほとんど模倣から始まっており、多分当時、海外の店頭ではMaestroはちょっと高くて手が出ないというユーザーたちが 'セール品' 的に手を出していたと思われます。日本製エフェクターの評価が高くなるのはMaxonがIbanezの名でOEM製品の市場を拡大させ、Bossによって一気にその勢力が塗り替えられた1970年代後半まで待たねばなりません。また、Maestroと共にフェイザー市場拡大に貢献したMXR Phase 90自体、そもそもがMXR創業者であるテリー・シェアウッドとキース・バーのふたりが経営していた修理会社に持ち込まれたMaestro PS-1を見て一念発起、MXR起業へのきっかけとなりましたからね。これは、ロジャー・メイヤーがジミ・ヘンドリクスの為にカスタムで製作していたOctavioを修理する機会のあったTycobraheがデッドコピー、新たにOctaviaとして製品化したというエピソードにも通じることで、どこまでがコピー、どこからが影響なのかというのはヒジョーに線引きの難しい話でもあります。





Carlin Phaser
Moody Sounds Carlin Phaser Clone

Maestroからより小型化となったMXR Phase 90をきっかけにして広まった 'フェイザー・ブーム' は、一方で、そのフェイズの深さ、効き具合をフット・コントロールする 'ペダル・フェイザー' という形態への需要も高まります。ある意味、Shin-ei Uni-Vibeがもたらした '資産' のひとつでもあり、それは、元々がギタリストではなくキーボーディストを対象とした製品の名残りと言ってもよいでしょうね。1970年代にスウェーデンのエンジニア、Nils Olof Carlinが手がけたフェイザーとそれを同地の工房、Moody Soundsが本人監修の元に '復刻' させた 'クローン' モデル。こういう隠れた一品の存在からも当時、世界を駆け巡った 'フェイザー・ブーム' の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。







Keio Electronic Lab Synthesizer Traveller F-1
Korg VCF Synthepedal FK-1
Korg Mr. Multi FK-2

そんな国産フェイズの '源流' に当たるVibra Chorusを設計した三枝文夫氏が、Korgこと京王技研工業へ入社後に手がけたペダル3種。国産初のシンセサイザーKorg 700に搭載された 'Traveller' フィルターは、-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成されたもので、FK-1のツマミで分かりやすいようにそれぞれ動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという、三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。この3種はそんな 'Traveller' を単体で抜き出したものであり、ファズワウからオシレーター発振、VCFコントロール、ワウとフェイザーのハイブリッドに到るまで、Korgという会社の立ち位置を実に象徴する製品と言ってよいですね。その端緒とされるSynthesizer Travellerは、ジャズ・ピアニストの佐藤允彦氏が製品開発にも携わっており、そんな当時のプロトタイプについてこう述べております。

"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"







Arp Odyssey Module
Arp Avatar

このようなVCFの 'スィープ' からモジュレーションを生成するやり方としては、現在、Korgから復刻されているアナログシンセの名機、Arp Odysseyの外部入力から突っ込んでワウともフェイズとも違う、独特なモジュレーションの効果を堪能することにも繋がります。ここ近年、それまでコンパクト・エフェクターを製作していた工房が続々と 'ユーロラック' モジュラーシンセの分野へ参入、モジュール開発に勤しんでおりますが、一方では、そのモジュールの集合体をひとつの巨大な 'エフェクツ・ユニット' として、エレクトリック・ギターを始め、あらゆる楽器を通した音作りの流れが加速、'合成' だけではないシンセの持つ '変調' のセオリーが広がりました。とりあえず、手持ちのシンセサイザーに外部入力を確認したら、自分の声でも録音した音源でも何でも通してみて下さいませ!Odysseyの 'Module' は鍵盤がない分、外部からMIDIやCV/Gateでコントロールすることになるのですが、簡易シーケンサーのSQ-1と繋ぐことでさらに幅広い変調を行うことも可能・・ここまでくると本格的な 'モジュラー地獄' に足を突っ込むかもしれません(笑)。さて、このような 'シンセサイズ' のテクニックはそのままレコーディングにも応用され、特に、右往左往する強烈なフェイズの効いたパンニングと共にジャズ・ピアニスト、三保敬太郎の手がける狂気の 'サイケデリック' 作品、'聞か猿' にも現れます(ヘッドフォン推奨!)。ちなみに当時、このOdysseyを 'ギターシンセ' に特化させたものとしてAvatarというのを開発したのですが、コレのセールス失敗がそのままArp倒産に繋がってしまったのは何とも時代の皮肉(苦笑)。







Chicago Iron Tycobrahe Pedal Flanger
Musitronics Mu-Tron Pedal Flanger
Musitronics Mu-Tron Bi-Phase

そして、このような黎明期を経ながら同じ位相を操作する効果を 'フェイザー' と 'フランジャー' としてカテゴリー分けされることで、ようやくエフェクターの市場に数多くの製品が登場します。TycobraheとMusitronics Mu-Tronからはそれぞれペダル・フランジャー2種。2台分のフェイザーを装備したMusitronics最大の 'フェイズ・ユニット'、Mu-Tron Bi-Phaseは、まるで '亜熱帯のサイケデリア' を象徴するマリワナの煙と共にたゆたうリー・ペリーに力を与えます。その姿は、ほとんどギタリストがアプローチするのと同じ意識でミキサー、フェイザーを '演奏' している!





Mu-Fx Phasor 2X
Mode Machines KRP-1 Krautrock Phaser

そんなMu-Tron Bi-Phase直系ともいうべき、2台分のフェイズの片側であるPhasor Ⅱをオリジナル設計者のマイク・ビーゲルが現代的にリメイク、復刻したのがこちらMu-Fx Phasor 2X。一般的なフェイザーでおなじみ4ステージからPhasor 2〜Bi-Phase同様の6ステージのフェイズ切り替え、外部エクスプレッション・ペダルによるスウィープ・コントロールと多様な音作りに対応します。そして、Bi-Phaseと同じく強烈なフェイズ・サウンドで時代を席巻したのがドイツ産Gerd Schulte Compact Phasing A。クラウス・シュルツェやディープ・パープルのリッチー・ブラックモアらが愛用したことで大変なプレミアものですね。このCompact Phasing AもMode Machinesからその名もずばり 'Krautrock Phaser' として生まれ変わりました。しかしその筐体はあまりにもデカイ・・。




Irmin Schmidt's Alpha 77 Effects Unit.

このようなエフェクター黎明期から全盛期を迎える1970年代、個別にカテゴリー化される流れからすべてを統合し、'マルチ・エフェクツ' 化する方向へも加速します。ここではクラウト・ロックの雄として有名なCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案の創作サウンド・システム、Alpha 77も述べておきたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、こちらはダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴなスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。イルミン・シュミットが右手はFarfisa Organとエレピ、左手は黒い壁のようなモジュールを操作するのがそのAlpha 77でして、それを数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたジョノ・パドモア氏はこう述べます(上のリンク先にAlpha 77の写真と記事があります)。

"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。"

"シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"



またシュミット本人もこう述べております。

"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"







Koma Elektronik BD101 Analog Gate / Delay
Marshall Electronics Time Modulator Model 5002 'A'
Roland SBF-325 Stereo Flanger

個人的にはモジュレーション、特にフランジャーというのはあまり縁がないのですが、その中でかなり興味を引く効果なのがKoma Elektronik BD101 Gate / Delayでショート・ディレイのセッティングにして、フィードバックに当たるCycleツマミを回していくと現れる "intergalactic sounds" と題されたセッティング。この、まるで土管の中に頭を突っ込んでしまった時に体感できる 'コォ〜ッ' とした金属的変調感は、なかなかコンパクト・エフェクターのフランジャーで再現しているのがないんですよねえ。大体、フィードバック上げていくと同時にモジュレーションの '揺れ' も付加されて違う感じになっちゃうし、エグいフランジャーの代名詞として有名なRolandのラック型ユニット、SBF-325 Stereo FlangerでもちょっとこのBD101のような 'エイリアン' 感とは違う・・。また、こんなエグいフランジング効果を求めてMarshallの(ギターアンプのMarshallとは別の会社)Time Modulatorを今だに探している人もいます。1Uラック型ながら 'CV/Gate' を備えることでモジュレーションからLFOのオシレータ発振まで、モジュラーシンセ的にコントロールすることが可能。しかし、ラックの世界もコンパクトとは別の意味で '掘っていく' ともの凄い機材がありまする。





Electro-Harmonix Deluxe Electric Mistress XO
Pigtronix Envelope Phaser EP-2

あまり縁のないフランジャー体験ではありますが、そんな中でも数少ないお気に入りのひとつだったのがElectro-Harmonix Deluxe Electric Mistress。わたしが購入したのは現在の小型化した 'XO' ではなく、1990年代半ばの 'エレハモ' 復刻第一弾の中のひとつでして、後のACアダプター仕様じゃなくトランス内蔵の本体から 'シッポ' の生えたヤツだった。コレ、設計はあのデイヴィッド・コッカレルだそうで、元々はEMSで設計を担当し、上で紹介したSynthi Hi-Fliも彼の作品です。そんな彼が 'エレハモ' に移籍してどんなぶっ飛んだフランジャーを作ったのか?と思えば、コレがいい意味で裏切られたというか、フツ〜に '使える' モジュレーションの名機と言っていいですね。個人的に気に入っていたのがもうひとつの機能、Filter Matrixでして、この揺れないフランジ、浅めのリング変調というか、このビミョーな変調具合がなかなかにツボだった。できたらこれをエクスプレッション・ペダルでコントロールしたいですねえ。そして、フェイザーのスウィープを入力の感度によって変調できないか?じゃ、やってみようとエンヴェロープ・フォロワーとフェイザーの '2 in 1' でやってしまったのがエンヴェロープ・フェイザー。古くはRoland Phsse Five AP-5、ちょっと前ならAkai Proffesional Intelliphase P1、そして現行機ではElectro-Harmonix Stereo Poly Phaseとこちら、PigtronixのEnvelope Phaser EP-2です。その効き方によっては、いわゆるフェイズの効いたエンヴェロープ・フィルターといったエグい趣きがあります。



そして強烈な 'フェイジング&フランジング' の極北と言ったら、コレ。ギリシャ人にしてフランス現代音楽の巨匠、ヤニス・クセナキスが1971年にイランの第5回シラズ国際芸術祭の委託により8トラック・テープで制作した大作 'Persepolis'。日没後のペルセポリス遺跡を舞台にレーザーを用いた光の照明と100台ものマルチ・スピーカーから放たれる暴力的な轟音ノイズは、その強力な 'ジェット機音' と相まってこの世の果てに吹き飛ばされていくようです。





並み居る 'Pedal Geek' の上位を占めるほどYoutuberとして常連となった、Dennis Kayzerさんのおなじみ現行 'フランジャー' & 'フェイザー' のベスト10。まだまだ知らない製品が世界にはいっぱい存在している・・っていうのを教えてくれますね(笑)。

2018年5月1日火曜日

差異と反復 - ループを極める(再掲)

管楽器でエフェクターを駆使しての演奏、しかし流れていく時間は儚く待ってはくれません。そう、エリック・ドルフィーのあの有名な即興演奏に対する言葉がわたしたちを待ち構えているのです。

"When You Hear Music, After It's Over, It's Gone In The Air, You Can Never Capture It Again."

しかし、この21世紀においては便利な 'フット・レコーダー' ともいうべきループ・サンプラーという文明の利器があります。それは2小節単位のフレイズをループして、上下2オクターヴ程度のピッチとテンポ可変、オーバーダブや逆再生ができるまさにデジタル世代ならではのアイテムでしょう。また、より高度なものはMIDIによりシーケンサーと同期させることも可能で、'ベッドルーム・テクノ' 世代にはおなじみデスクトップ型のワークステーション、E-Mu SP-1200やAkai ProfessionalのMPCシリーズになればほとんどシンセサイザーと同等のエディットが可能です。実際のライヴ演奏などでは、生のバンドのグルーヴに機械のループを同期させるとなると大変な労力を伴いますが、俗に 'YouTuber' なる動画を主なパフォーマンスの場とする 'ひとり演奏会' のお供としては、なくてはならない便利な機器だと言えますね。ここでちょっとサンプラーの特徴を上げておけば、主な機能は大体以下の5つになるだろうと思います。







①タイム・ストレッチ
②ループ/リヴァース
③キー・マッピング/ピッチ
④フィルタリング/エンヴェロープ
⑤ワンショット

①は、いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' 黎明期においてサンプラーを触ったことのある方ならその苦労が分かるのではないでしょうか?昔は取り込んだサンプルのピッチとテンポを同時に調整するのが難しかった・・。ピッチを上げればテンポも早くなり、テンポを下げればピッチが下がる。そんな時代に登場したドラムンベースって実はこういう苦労を乗り越えた上で体現したジャンルであり、Steinberg ReCycleという編集ソフトで細かくスライスして思いっきりテンポを上げながらピッチシフトしてやると・・あの緻密な高速ブレイクビーツが出来上がってしまうという・・。それも今では、自在にオーディオをタイム・ストレッチしていろんなサンプルをPC内でくっ付けられるのだから良い時代になったもんです。

②はサンプラーの基本、2小節なり4小節のサンプルをループ(反復)させたり、いわゆる逆再生させたりってヤツ。まあ、これも初期のサンプラーはとにかくメモリーがバカ高かったことから、少ないサンプルとループをベースにしたブレイクビーツ的手法として結実したんですけどね。

③は、そもそもサンプラーは取り込んだサンプルを楽器のように演奏できる、ってのが初期の '売り' だったのもあり(メロトロンのデジタル版ということ)、同時期に登場したMIDIでキーボードへ 'マルチ・サンプリング' して音程を付けて割り振ってくれます。

④は、実はサンプラーが現在でも生き残る理由のひとつであり、逆に言えばサンプラーを誤解させる要因のひとつとも言えるシンセサイズの機能のこと。そう、サンプラーの 'エディット' はほぼシンセサイザーのVCF、VCA、LFOと同義であり、外部から取り込むサンプルをVCO(オシレータ)の代わりにすることでいろんな音作りに対応します。いわゆるPCMシンセサイザーというのもコレ。

⑤はいわゆる 'ポン出し' というヤツで、今なら舞台音楽のSEなどでシーンに合わせてジャン!と鳴らすのが一般的でしょうか。ヒップ・ホップの連中に人気のあるBoss SP-303などが有名ですけど、ここで紹介するループ・サンプラーというのも基本的にはこの範疇に入ります。







MXR Model 113 Digital Delay
Electro-Harmonix Instant Replay - Digital Recorder
Electro-Harmonix Super Replay - 4-Second Digital Sampler

このような 'ループ' による制作手法としては、古くはミニマル・ミュージックの大家であるテリー・ライリーの 'テープ・ミュージック' の音作りがあり、ここではジャズ・トランペット奏者、チェット・ベイカーの演奏するテープを元にいろいろな音響操作を試みて聴き手の固定観念を揺さぶります。その後、このような編集技法はスタジオからライヴの現場へと持ち込まれて1970年代後半、ジャコ・パストリアスが2台のラック型MXR M113 Digital Delayに内蔵されたホールド機能を用いて、ひとりベースのフレイズを繰り返す '余興' のようなステージを記憶している方も多いのではないでしょうか?この傾向は1981年にElectro-Harmonixから16 Second Digital Delayと2 Second Digital Delayを発売したことで、当時のYMOやアート・オブ・ノイズに代表されるサンプリング・エディットから 'メガミックス' ブームと相まってループ・サンプラーの原点となります。さらに 'エレハモ' は、その姉妹機としてワンショットのトリガー機能を持つドラムパッドを繋いで鳴らすInstant ReplayとSuper Replayも用意するなど積極的に展開しましたが、その無理な開発費が祟って会社は倒産へと追い込まれることに・・(その技術の一部はAkai Professionalへと売却)。すでにヒップ・ホップ、ハウスの黎明期ではありましたが、まだまだ 'ループ' という概念から新たな音楽を創造するには時期尚早だったのでしょうね。







Boomerang Ⅲ Phrase Sampler

しかし、このリアルタイム性の 'エディット' がDJやクラブ・ミュージック全盛となった1990年代後半、レオ・ミュージックという会社が輸入販売していたBoomerang Pharase Samplerをきっかけにここ日本で俄かに話題となります。つまり、'ベッドルーム・テクノ' の占有物であったサンプラーがギタリストら 'ソリスト' の小道具としてエフェクターの市場へと舞い戻ってきたのです。そして2000年発売の 'アナログ・モデリング' なデジタル・ディレイLine 6 DL-4 Delay Modelerで人気爆発、その14秒のサンプリング・タイムを持つループ・サンプリング機能は、そのまま 'ループ・サンプラー' というカテゴリーを築き上げました。また、それに触発されたのか、元祖 'エレハモ'  も2004年に16 Second Digital Delayを限定復刻してこのブームにおけるオリジネイターの気概を見せ付けるなど、現在のループ・サンプラー市場の '過熱ぶり' へ火を付けます。







Pigtronix SPL Infinity Looper
Pigtronix Infinity Remote

当初は単一トラックにオーバーダブするシンプルな機能であったループ・サンプラーは、現在、このPigtronix Infinityに代表される2トラックのループ・サンプラーでより小型化、高機能のスペックを誇る仕様へとアップグレード。ステレオ入出力で24ビット48kHzのループ・サンプリング、メモリー・カード保存、USBを通じてPCでサンプルの管理も可能と至れり尽くせりな仕様ですね。2つのトラックを備え、MIDIの他に 'Multi' SyncでLoop 2の長さをLoop 1の2倍、3倍、4倍、6倍に設定して最初のループの長さを気にすることなくリフ、ハーモニーの生成を可能とするなど、単なる 'ループ再生機' 以上のパフォーマンスを展開することが可能。また、わざわざしゃがんで操作せずともフットスイッチでサンプリングの 'Undo'、'Redo'、逆再生の 'Reverse' を可能とするRemoteも用意されております。







Boss RC-2 Loop Station
Boss RC-300 Loop Station
Boss RC-505 Loop Station

ヨーロッパらしい耽美的な雰囲気を盛り上げるような、Boss RC-2 Loop StationとディレイのTC Electronic Nova Delayによるリリシズム溢れる 'ループわざ' ですね。ECMでのニルス・ペッター・モルヴェルっぽいというか。後半はほとんどドローンによるアンビエントの構築に向かうのは、この手のYoutubeで披露するループ・サンプラー派に共通するスタイルです。ちなみに、これら機器はその機能と比例して比較的高価なものが多いのですが、Roland / Boss製品はかなりリーズナブルながらスペック的にも満足できるものが多いので最初の一歩としてもオススメ。さすが安定の 'Maid in Japan'!







Boss VE-20 Vocal Processor

ループ・サンプラー派によるひとりVE-20三連発!直接マイクを入力して、DIでライン出力、ハーモニーからディレイ、リヴァーブ、ループ・サンプラーと一台で賄える本機は、これから管楽器の 'アンプリファイ' をやってみたい、と思った人に是非堪能して頂きたいですね!モノラルで最大38秒の録音が可能ですので、管楽器ならアドリヴの 'トランスクリプション' をする上でもメモ的に便利なのではないでしょうか。







Digitech JamMan Delay Looper / Phrase Sampler
Electro-Harmonix Superego

あらかじめ仕込んだ 'ハーモニー' と絡めて 'ループ・サンプラー' によるひとり多重奏では、やはりアンプ2台を用いた方がオーバーダブする上でも分離良く聴けて効果的ですねえ。その次の方はSD Systems LCM89コンデンサー・マイクを用い、Electro-Harmonix Superegoでループさせながら、深いアンビエンスの中でDigitech Whammy WP-Ⅱをうまく使って構築しております。その他エフェクターは、Line 6 Echo Park DelayとDonner Jet Convolution Flanger、BiyangのTri ReverbとオーヴァードライブのOD-8、Joyo TremoloにアンプはTrace ElliottのGP7とのこと。そしてトロンボーンによるSuperegoを用いた 'エレハモ' のデモ動画。これはループはループでも短いフレイズをHold(Freeze)状態にしてシームレスで重ねていくもの。ピッチ・シフターなどと一緒に用いればドローン系のアンビエント・ミュージックを生成することができます。しかしElectro-HarmonixやPigtronix、MXRなどがギタリストのみならず管楽器奏者にも機材を提供して新しいユーザー層を開拓しているのは嬉しい限り。









そんなSuperegoに見る 'シームレス' なループによるドローンの音作りは、そのまま管楽器奏者自身も楽器片手に足下のペダル類と格闘しながら新たなハーモニー、即興演奏とエレクトロニクスの関係性について大きく見直すこととなります。まあ、ある種の自己満足ではあるのだけど、コードの縦のライン、スケールの横のラインから逃れた '響き' に耳をそばだてるキッカケとなるでしょう。





Elektron Octatrack Mk.Ⅱ

さて、リアルタイム・サンプリングといえば、究極のコイツに挑んでみるというのもアリでしょう。とにかく '難易度の高い' 機器のトップに位置するElektron Octatrack。8トラックを備えたループ・メイン、ストレッチ可能のループ・サンプラーながら、そのサンプルの多彩な加工、複数の機能をそれぞれのパラメータで共用する為に、とにかく把握しずらい構造から非常に挫折率の高いマシーンでございます。モジュラーシンセなどの連中がリアルタイムでシーケンスに反映させやすい為に愛用しているようですけど、この動画ではそのループ・サンプラーの機能を用いてレコードのネタ、スクラッチをMIDIコントローラーでどんどんオーバーダブしてはさらにグラニュラー・シンセシスで弄るなど、使いこなせたら素晴らしいパフォーマンスを展開できるでしょうね。





こういうループのパフォーマンスは、特に '4つ打ち' の正確無比なビート感と親和性が高いと思います。テクノ系のドラムマシンやサンプラー、シンセサイザーなどとMIDIで同期させてミキサーでリアルタイムに '抜き差し' するダブ的手法は今や一般的なものとなりました。しかし、2つ目の動画がマイルス・デイビスの 'Black Satin' とは渋い!これ、オケはそのまんまCDから抜いてループさせてるのかな?



ちなみに、ここではコンパクトなハードウェアによる 'ループ・サンプラー' を中心にご紹介しておりますが、最近の主流はDAWソフトの定番として今や多くのユーザーを抱えるAblton Liveのリアルタイム・ルーピング機能をそのままライヴに持ち込み、単純なオーバーダブからグラニュラーシンセシスの変調に到るまで便利にやってくれます。ノルウェーのニルス・ペッター・モルヴェルとか、まさにその環境を駆使した第一人者と言って良いでしょうね。







TC Helicon Ditto Mic Looper
Electro-Harmonix 22500 Dual Stereo Looper

Boss VE-20のように直接マイクから入力したい場合、もしくは以前ご紹介したAudio-Technica Slick Fly VP-01やRadial Engineering Voco Locoのような、プリアンプと同時にコンパクト・エフェクターを使用できる機器などと併用するにあたり、TC Helicon Ditto Mic Looperのようなマイク入出力を備えたループ・サンプラーを選ぶのも良いでしょう。管楽器の生音を遜色なくPAへ送る場合、プリアンプからコンパクト・エフェクターへ入出力すべく 'アンバランス接続' に変換してケーブルを長く這わせると外部のノイズを拾い劣化します。極力、マイクからの信号はXLR端子による 'バランス接続' でPAやアンプに出力するのが基本です。もちろん、単にマイク入力のみ備えたElectro-Harmonix 22500の後ろにコンパクト・エフェクターを繋ぎ、そこからDIを介してPAへと引き回すやり方もあります。しかしエレハモは、ループ・サンプラーの元祖である1983年発売の16 Second Digital Delayを2004年に復刻して以来、マルチ・トラック・レコーダーを応用したような2880 Super Multi-Track Looperと45000 Multi-Track Looping Recorder、コンパクト・サイズの22500 Dual Stereo Looper、360 Nano Looper、720 Stereo Looperといった製品を目地白押しでラインナップしていて、どれを選んだら良いのか迷うほどですねえ。





Electro-Harmonix 16 Second Digital Delay

こちらはわたしが愛用しているElectro-Harmonix 16 Second Digital Delay。16秒のサンプリング・タイムを持つループ・サンプラーとショート・ディレイ、モジュレーションの複合機です。小節数を設定してピッチとテンポ、逆再生でそれぞれ可変させることができ、外部シーケンサーやドラムマシンをスレーヴにして、MIDIクロックで同期させることもできます。ループ・サンプラーは各社それぞれに使い勝手があり、その設計思想のクセを体得できるか否かで評価は大きく異なります。例えば、現在でも足元に置くユーザーの多いLine 6 DL4 Delay Modelerなどは、いかに本機でその使い勝手を体得してしまったユーザーが多いのかを如実に示しているのではないでしょうか。しかし、16 Second Digital Dlayは発売時の価格もとんでもないものでしたが、現在の中古市場でも変わらずとんでもないですね(汗)。一時、他社からこぞって新機能かつコンパクトな 'ループ・サンプラー' が市場を賑わせていた頃、本機の市場価格が落ちたときに無理して購入したのは正しかった(笑)。





Electro-Harmonix 45000 Multi-Track Looping Recorder

このループ・サンプラーという 'カテゴリー' において、Roland / Bossと並んで積極的にこの分野へ参入しているのが 'エレハモ' ことElectro-Harmonix。いわゆる '初代' の16 Second Digital Delayからほとんどマルチトラック・レコーダー然とした '22500'、'45000' と確実に機能は進化し、ギタリストやキーボーディストからDAWの制作環境に到るまで幅広いユーザーを獲得してきました。





Electro-Harmonix 95000 Performance Loop Laboratory

そんな16 Second Digital Delayから '22500'、'45000' と進化をしてきた 'エレハモ' の 'ループ・サンプラー' もいよいよここまで到達 '95000'・・'元祖' の威厳とはこういうことを言うのでしょうか。ほとんどリアルタイム操作のMTRというか、それでもあえてペダルという形態に拘っているというのが 'エレハモ' らしい。コレ、間違いなく 'ひとりダブ野郎' になれますよね?というか、そういうYoutuberがドッと増えますよね?(笑)最長375分、最大100個のループをmicroSDカードと共に扱うことが可能で、ステレオ・トラック1つ、モノの6トラックと1つのミックスダウントラック搭載。もちろんクォンタイズのOn/Off、タップテンポによるBPM入力、2オクターヴの範囲でのピッチ調整、オーバーダブ、パンチイン、アウト録音・・ふぅ、とりあえず 'ループ・サンプラー' の決定版であることは間違いなさそうです。



そして 'ループ・サンプラー' を効果的に用いる上で地味に重宝するのがヴォリューム・ペダル!本当は 'エレアコ' の音量調整をする為には必須的アイテムではあるのですが、ここではベタッと録音、オーバーダブする上でフレイズが飽和し、抜けが悪くなったり平坦なダイナミズムの改善はもちろん、フワッとしたアンビエントっぽいパッド風シーケンスの生成などに威力を発揮します。そんなヴォリューム・ペダルにおいて評価されているのが、'踏み心地' とバッファーの兼ね合いからくる音質の変化。単に音量の 'On/Off' だけならミュート・スイッチで十分なワケでして、あくまで操作性と立ち上がり 'カーブ' の最適な踏み心地を提供すべく、ペダルをギアポットから紐によって可動させ、安定して足を乗せられる踏み板とピッキングに対する追従性が問われます。バッファーに関してはそれぞれの '好み' に左右されますが、これもロー・インピーダンス仕様の製品であれば、上質なバッファーで一旦下げてしまった後の変化はそれほど気になるものではないようです。

正直わたしも、以前はそれほどヴォリューム・コントロールに対して気にかけておりませんでしたが、この 'ループ・サンプラー' 導入に対するダイナミズムの演出でヴォリューム・ペダルほど大げさじゃないもので何かないかと探しておりました。このヴォリューム・ペダルの使用に当たって考慮したいのは、最初にベストな音量の設定をした状態から可動させた後、瞬時に元の設定位置へ戻すのが大変なこと。




OK Custom Design VPLM
Bambasic Effectribe Volume Indicator

このようなニッチな不満に応えようと現れたのが、そんなヴォリュームの状態を視認できる '便利グッズ' と呼ぶべきレベル・インジケーター。音量の増減に合わせてググッとLEDが上がったり下がったり・・その視認性の高さ以外に見た目としても華やかで楽しく、チューアウトもしくはエクスプレッション・アウトの端子を持つヴォリューム・ペダルに対応しております。またOK Custom Designのものは、接続する製品によって極性を合わせる為に裏面のトリマーを調整してレベル・マッチングを図ることが出来ます(現行品は筐体上面にトリマー装備)。同様の製品としてはもうひとつ、名古屋でスイッチャーを中心に事細かなオーダーから対応して製作するガレージ工房、Bambasic EffectribeのVolume Indicatorがあります。

Neotenic Sound Purepad ①
Neotenic Sound Purepad ②

さて、残念ながら動画はありませんが、わたしの足元にはお馴染みNeotenic SoundのPurepadがスタンバイ。これは2つに設定された 'プリセット・ヴォリューム' をスイッチ1つで切り替えるもので、ひとつは通常の状態(赤いLEDのSolo)、もうひとつが若干ヴォリュームの下がった状態(緑のLEDのBacking)となっており、Padで音量を抑えながら全体のバランスを崩すことなく音量を上下できる優れもの。確かに音質の変化はありますが、音量を下げても引っ込みながらシャープなエッジは失われずまとまりやすい定位となります。そんなメーカーの '取説' は以下の通り。

"ピュアパッドは珍しいタイプのマシンなので使用には少し慣れとコツが必要かもしれませんので、音作りまでの手順をご紹介します。アコースティックの場合は図のように楽器、プリアンプ、ピュアパッド、アンプの順に接続します。エレキギターなどの場合は歪みペダルなど、メインになっているエフェクターの次に繋ぐとよいでしょう。楽器単体でお一人で演奏される場合は、初めにピュアパッドをソロ(赤ランプ)にしておいて、いつものようにプリアンプやアンプを調整していただければ大丈夫です。ピュアパッドのスイッチを踏んで、緑色のランプになったら伴奏用の少し下がった音になります。複数の人とアンサンブルをする場合には、初めにピュアパッドをバッキング(緑のランプ)の方にして、他の人とのバランスがちょうどいいようにプリアンプやアンプで調整します。そしてソロの時になったらピュアパッドのスイッチを踏めば、今までより少し張りのある元気な音になってくれます。また、ピュアパッドを繋ぐと今までより少し音が小さくなると思いますが、プリアンプよりもアンプの方で音量を上げていただく方が豊かな音色になりやすいです。もしそれでアンプがポワーンとした感じとなったり、音がハッキリクッキリし過ぎると感じたら、アンプの音量を下げて、その分プリアンプのレベルを下げてみてください。ツマミを回すときに、弾きながら少しずつ調整するとよいでしょう。"

わたしの環境では 'ループ・サンプラー' でのオーバーダブする際、フレイズが飽和することを避ける為の導入のほか、宅録の際にもアンプのヴォリュームはそのままに全体の音像を一歩下げる、もしくは歪み系やディレイ、ワウのピーク時のハウリング誘発直前でグッと下げる使い方でとても有効でした。ここでの接続順は 'ループ・サンプラー' の直前です。

もひとつ、話は変わって補足というか、先々月前の 'ミキサーを考える' でダイナミック・マイクとピエゾ・ピックアップの '2ミックス' を取り上げましたけど、そこでひとつ重要な機器を忘れておりました。ていうか、実は手頃な中古を見つけて購入しましたのでご紹介。






Radial Engineering Tonebone Pz-Pre ①
Radial Engineering Tonebone Pz-Pre ②
Crews Maniac Sound CMX-3 3ch. Foot Mixer ①
Crews Maniac Sound CMX-3 3ch. Foot Mixer ②

カナダのRadial Engineeringといえば管楽器ではVoco-Locoが定番ではありますが、この2つのピックアップ・マイクをミックス、エフェクツを統合してDI出力できるプリアンプ、Tonebone Pz-Preです。いやあ、さすがにこの手の機器を積極的に手がけているだけに至れり尽くせりの仕様ですね!難点といえば高価であまり市場に出回らないところくらいですが、本機の2つの入力部はドライバーで調整するゲインつまみを備え、あらゆるタイプのピックアップに対応。そしてブースターと3バンドのパラメトリックEQ、フィードバック防止のノッチフィルター、不要なレゾナンスやノイズをカットするローカットフィルター搭載、エフェクトループ、チューナーアウト、EQに対して 'プリEQ' (EQ前の信号)、'ポストEQ' (EQ、エフェクトループ後の信号)それぞれのXLR出力とフォンのアンバランス出力に対応したセッティングという・・コレ、ちょっとしたPAシステムと言っていいくらいの豊富さですね。他に、わたしが所有する 'フット・ミキサー' としてはCrews Maniac SoundのDMA-3.2 Discrete Mixerがあるのですが、コレの唯一の欠点なのがエフェクトループが 'センド・リターン' 形式で原音に対しエフェクト音をミックスするもの。なので、基本は空間系でしか機能しないのが残念で、それは後継機のCMX-3 3ch Foot Mixerでも同様の仕様なんですね。ちなみにそんな万能に見えるPz-Preではありますが、わたしの管楽器によるセッティング、特にPiezoBarrelのアクティヴなピエゾ・ピックアップでは、本機のDI出力はどちらも歪んでしまって使えません・・。その為、本機からはアンバランスのフォンで出力してパッシヴのDI、同じRadial EngineeringのJDIでインピーダンス変換してからAshlyのライン・ミキサー、LX-308Bに入力します。こういうところで本当に 'エレアコ' ってヤツはピックアップ、プリアンプ、ミキサーなどとの兼ね合いで '散財&メンドくさい' んですよねえ・・。こういうDI搭載のプリアンプでDI出力をアクティヴ、パッシヴと切り替えられる機能とかあったら良いのですが、とりあえず、2つのピックアップ・マイクの '2ミックス' とEQ、エフェクツ用インサートからDIの統合的サウンド・システムを所望されている方は是非とも手に入れて下さいませ。

Piezo Barrel on eBay
Piezo Barrel Wind Instrument Pickups

そして、これも 'ニッチな' 追加情報ではありますけど、現在eBayで販売されているPiezo Barrelピックアップのマウスピース本体が、従来の '無印' 中国製3C、5C、7Cから少々コストアップながら品質の良い 'Faxx' 製マウスピース3C、5C、7Cに変更されているとのこと。また、付属するソケット部のパーツがマウスピースの湾曲面に合わせて抉られていたりと、地味にマイナーチェンジしているのは頼もしい。本当はドリル片手に持ち、自分でお気に入りのマウスピースへ穴を開けて装着したいんですけどねえ・・ハードル高いですねえ(汗)。