トランペットにワウ。いや、ワウワウ・ミュートのことではなく 'アンプリファイ' で用いるワウペダル、エンヴェロープ・フィルターのことなんですが、ある意味、ホーンの最も '電化した' イメージであり、パッと聴きではエレクトリック・ギターと混同するようにも聴こえますね。市場にある製品の大半が元祖であるVoxやCrybaby、Mu-Tron Ⅲのトーンを模倣したものが多く、また、現在ではシンセサイザーからVCFを抜き出してきたようなエグいものもあり、一概にワウと言っても実に多用で幅広いイメージがあります。そして、踏めばそのまま音の変わるエフェクターという 'ジャンル' の中でこの 'ワウ/フィルター' は、奏者のプレイヤビリティがそのまま奏法、効果と直結する面白さ、難しさがあり飽きないんですよね。ここでは個人的にトランペットで試してみてヨカッタもの、面白そうなものをエンヴェロープ・フィルター中心にいくつかご紹介しましょう。
→Akai Professional Vari Wah W1
スペインでドラムスとのデュオ、Chupaconchaで活動するGiuliano Gius CobelliさんがDigitech Whammyやループ・サンプラーRoland RC-50と共に使っているのがAkai Professional Vari Wah W1。サンプラーやドラムマシンなどDTM製品が主の赤井電機だけに、このコンパクト・エフェクターのシリーズは一部、ベースシンセのDeep Impact SB1やディレイ/ループ・サンプラーHead Rush E1/E2を残して話題になることなく消えていった印象があります。しかし、意外にもワウペダル、エンヴェロープ・フィルター、スウィープ・ワウの3種を一台に内蔵した本機のようなものってないんですよね。筐体は大きめですが幅広な代わりに縦は短く、ペダルの広い足乗せ感も悪くありません。本機でよく言われるのが、トゥルーバイパスをうたっておきながらスルー状態で硬めの音質変化に変わってしまうこと。わたしの試奏した感想としては、とりあえず、多機能な音作りと引き換えにしてもそれほど気にはなりませんでした。すでに廃盤ながら、比較的状態の良い中古が1万以下でデジマートやイシバシ楽器でゴロゴロしているので、ワウでいろいろな音作りをやってみたい方、'狙い目品' としてオススメです。
→Jacques Trinity 2 -Filter Auto & Classic Wah-
もう1台はフランスのJacquesというメーカーによる 'Filter Auto & Classic Wah' のTrinity。こちらもVari Wah同様、エンヴェロープ・フィルターとモジュレーション系のスウィープ・ワウ、伝統のVoxやCrybayのワウトーンをイメージしたクラシック・ワウ搭載の '三位一体' なヤツです。ユニークなのが付属するエクスプレッション・ペダルにポンプ式の '踏み踏みするヤツ' が付いていること。コレ、たぶんこのメーカー独自のアイデアなんじゃないかと思いますが、感触としては少々固めで 'グリグリ' っとポンプの奥の方にスイッチがある感じ。もうちょいパフパフっとしてもいいかなと思いましたが、そんなに強く踏まなくてもちゃんとワウとして機能しますヨ。
→Maxon AF-9 Auto Filter
→Emma DiscumBOBulator
→Mu-Fx Tru-Tron 3X LTD
我らが '電気ラッパ' の師、コンドーさんは長らくMaxon AF-9 Auto Filterを愛用しており、時と場合によってはベーシストからの評価の高いEmma DiscumBOBulatorなどを入れ替えて用いておりますね。わたしの方は、これまで復刻版Mu-Tron Ⅲ+、Q-Tron、Robotalkといろいろなエンヴェロープ・フィルターを使ってきており、やはりラッパで選ぶコツとしては、VCFを動かすエンヴェロープ・フォロワーの開閉速度がちゃんとブレスからピックアップ・マイクの感度と連動して追従してくるかどうか、です。つまり感度調整の 'Sensitivity' ツマミを回しながらフィルターの反応速度をチェックしてみて下さい。また、入出力のダイナミズムを一定にすべくコンプレッサーをエンヴェロープ・フィルターの前後どちらかに繋ぐことで、より安定したかかり方になるのもコツですね。Farnell Newtonなるラッパ吹きが使っているのは、元祖Mu-Tron ⅢやQ-Tronの設計者であるマイク・ビーゲルが新たにデザインしたTru-Tron 3Xで、ダイナミズムを一定に潰しながらピャウピャウとまとわりつくようにかかります。
→Lovetone Meatball
なぜか海外のミュージシャン、エンジニア辺りからの評価が高い英国の工房、Lovetoneのエンヴェロープ・フィルターであるMeatball。実はわたしも一時期所有してまして、確かに普通のエンヴェロープ・フィルターでは見かけない一風変わったパラメータが独立してあります。リズムマシンなどと同期させてトリガーするのに便利なエンヴェロープ・フォロワー3段切り替えや、LP、BP、HPとは別にVCFのフィルター帯域4段切り替え、本体内部に外部エフェクト用のインサートを設けるなど、かなり幅広い音作りに対応しているのがユニークですね。音色的には少々軽い感じでこもり気味、効きもオーソドックスなんですけど妙なプレミア感が付いてますねえ。
→Dreadbox Epsilon - Distortion Envelope Filter
ユニークついでにもうひとつ、ギリシャでエフェクターからモジュラーシンセに至るまで幅広く製作する工房、Dreadbox。そこのフラッグシップ的エンヴェロープ・フィルターなのがこのEpsilonであり、通常のフィルターに加えて専用のディストーションを内蔵しております。下でご紹介する 'エレハモ' のRiddleも同様機種ではありますが、本機の '歪み' はいわゆるギター、ベース用のみならずDAWの環境に置いても使える感じなんですよね。実際、上の動画ではRolandのドラムマシンにかけてダブステップ風のトラックへと '変身' しております。また、ゲート・スイッチを別個に設けてフレイズに合わせてザクザクとシーケンス的に切るなど、発想がDJ用エフェクターに近いですね。
→Pigtronix Envelope Phaser EP2
→Electro-Harmonix Riddle
エンヴェロープ・フィルター的モジュレーションということでは、このPigtronixのエグいフェイザーであるEnvelope Phaser EP2は 'スウィープ・ワウ' に特化した機種と言えるでしょう。コントロールするパラメータは多いですが、エンヴェロープ・フィルターの宿命ともいうべき '音痩せ' がなく太さを残した音色なのは素晴らしい!そしてエンヴェロープ・フィルターの豊富なラインナップを誇る 'エレハモ' ことElectro-Harmonixですけど、このディストーションをブレンドできるマイク・ビーゲル設計のRiddleは多機能そうで試してみたいなあ。
→Source Audio Soundblox Pro SA143 Bass Envelope Filter
→Source Audio SA126 Bass Envelope Filter
→Source Audio Soundblox 2 SA223 Manta Bass Filter
Youtuber的に '電気ラッパ' を積極的に普及させようと頑張るJohn Bescupさんは、ワウペダルからエンヴェロープ・フィルターを始め、エフェクター満載な音作りで楽しませてくれる稀有なひとり。そんなBescupさんの新たな一台がこちら、なぜかベース用エンヴェロープ・フィルターであるSource Audio SA143 Bass Envelope Filterをご紹介します。あえてベース帯域に特化したものを選んだのは、エンヴェロープ・フィルターに付きもののエグい効果がもたらす '音痩せ' 対策なのでしょうか?現在、日本ではひとつ前のモデルであるSA126やSA143同様に多機能なSA223が入手できるようですが、このメーカーはその独特なデザインでいまいち人気がないことからすぐディスカウントされる一方、実は、エグい効果満載の '隠れ名機' がラインナップされていて狙い目ですね。複数のプログラムにも対応し、通常のエンヴェロープ・フィルターからスウィープ・ワウ、Xotic Robotalkで有名となったランダム・アルペジエイターまで実に多機能です。
→Umbrella Company Fusion Blender
→DOD Envelope Filter 440
さて、そんなエンヴェロープ・フィルター使用による '音痩せ' 対策として '裏ワザ' とも言うべき、こんな一風変わったパラレル・スプリッターによるフィルターの '帯域分割' が可能です。ここではDOD Envelope Filter 440を用いて、エフェクト音に対し原音の 'ローパス' 成分のみを取り出してそれぞれ '分割 = ミックス' しております。
→Moog Moogerfooger MF-101 Lowpass Filter
→Sherman Filterbank 2 ①
→Sherman Filterbank 2 ②
→Arp Odyssey Module
→Korg MS-20M Kit + SQ-1
→Korg SQ-1 Step Sequencer
このフィルターはシンセサイザーにおけるVCFと同義語という点で、いわゆるDTMで用いる単体のアナログ・フィルターを管楽器で試してみるというのも面白いですね。この手の製品で有名なのはMoogerfooger MF-101 Lowpass FilterやSherman Filterbank 2などがありますが、やはりKorgから満を持して復刻されたアナログシンセの名機、Arp Odysseyのモジュール版を試さないワケにはまいりません。本機には外部入力があり、ここへラッパからの音を入力してVCF、VCA、LFOなどで加工していきます。もちろん、CV(電圧制御)で外部機器からコントロールすることも可能なので、Korgのステップ・シーケンサーSQ-1でアルペジエイターの効果を付加することもできます。上の動画では外部入力からギターを入力してフィルタリングする動画がありますが、いわゆるコンパクトのエンヴェロープ・フィルターで行うのとは一味違う効果なのがお分かり頂けたでしょうか。同様のものではこれまたアナログシンセの名機、Korg MS-20Mでも外部入力から加工することができますね。
→Filters Collection
→Korg X-911 Guitar Synthesizer
→Boss SY-300 Guitar Synthesizer
ちなみに上のリンクは海外の 'フィルター単体機マニア' のコレクション。いやあ、海外は広いというか知らないメーカー、工房の製品もあるというか、現在もそのコレクションは増えていっているようです・・凄い。まあ、本音を言えばBoss SY-300のような 'ギターシンセ' とがっぷり向き合って音作りするのが '本道' だと思うのだけど(コンドーさんも現在使用中)、そういうことじゃないっていうか、やっぱりわたしは単にVCF抜き出してLFO付けました、みたいなこういう 'エフェクター然' とした不器用なヤツが好きだなあ。1970年代の 'ギターシンセ' であるKorg X-911などは、Boss SY-300に比べればトラッキングの精度が低く、音作りの幅も狭いのだけどやはり魅力的な出音として聴こえますねえ。また一方では、上述したKorg MS-20MやArp Odyssey Moduleなどの外部入力から突っ込んで、VCFやLFOなどで変調させるシンセの 'エフェクター的' 使い方など、実に多様な機器が安価になったと同時に使い手のアイデアでオリジナルなサウンドを探求できる余地が広がったのは嬉しい傾向。ホント、良い時代になったものです。
→Plutoneium Chi Wah Wah
→Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation
さて、わたしの現在の愛機は手のひらサイズの超小型ワウ、Plutoneium Chi Wah Wah。十分満足しているのですが、ホントはこんな分不相応なヤツをラッパで試してみたい!父フランク・ザッパの楽曲をステージで再現すべく、父親の好んだフィルター帯域を切り替えられる特殊なペダルを息子ドゥイージルがPerformance Guitarsにオーダー。Chi Wah Wahのウン十倍はあろうかという、こんなとんでもなく巨大なペダルが出来上がってしまいました。格好良い〜!
→Catalinbread Csidman
あ、そうそう、最近このグリッチ/スタッター系のエフェクターを自分のエフェクターボードに追加しました。Catalinbread Csidmanは、いわゆるCDウォークマンの携帯時の振動による '針飛び' の不具合を再現したというヤツ('Discman' がエラーして引っくり返っちゃったから 'Csidman'!)で、これがなかなかに面白い。パラメータは最大725msまでのディレイタイムを設定するTime、ドライとウェットのバランスを取るMix、フィードバック・コントロールのFeed、Latchと連動してバッファメモリの長さを調整するCuts、グリッチ・エラー時のサイクルを調整するLatchの6つのツマミで操作します。構成としてはショート・ディレイ時のHold機能をランダムに動かすことに特化したものなのですが、以前、同様の機能で話題となったMasf Pedals Possessedのコントロール不能な 'ムチャクチャさ' に比べ、本機は入力するラッパの音はちゃんと保持しながら適度に '飛ばして' くれます。少々、リヴァーブっぽさが強いのは気になりますけど、ループ・サンプラーで繰り返すフレイズに対しグリグリとツマミを触ればもうカオスに刺激されますねえ。
まあこういう効果は、ニルス・ペッター・モルヴェルあたりならPCを持ち込み、Ableton Live内のプラグイン 'Max for Live' によるグラニュラー・シンセシスでリアルタイム処理するのがスマートなんでしょうけど、ね。また、これら 'グリッチ/スタッター' 系からピッチシフト、フィルターやディレイの効果を複数のマイクを使い分けながら '吹き分けて' いるところにも('電気ラッパ' 好きは)注目です。
2017年5月5日金曜日
2017年5月4日木曜日
夏が来れば思い出す・・
深緑の5月はもう初夏の香り・・。
久しぶりにフェネス2014年作 'Becs' (ベーチェ)を聴いてみる。というか個人的に 'エレクトロニカ' 食傷気味な頃のリリースだっただけに記憶も薄く、ようやく手に取ったというべきか。オーストリア出身のエレクトロニカ職人、クリスチャン・フェネスは1997年の 'Hotel Paral.lel' から一貫して独自の音響世界を築いてきた人です。そのデビュー作は、未だテクノのうねりと折合いをつけながらユニークなエレクトロニカ胎動の一歩を示しました。
大きくブレイクした2001年の傑作 'Endress Summer' では、そのフォーキーなアコースティックの響きと真っ向から覆い尽くすようなノイズの壁が不思議な心地良さを演出し、特に夏に対してセンチメンタルな感情を抱きやすい日本人のツボにハマった一枚でしたね。たぶん、毎夏訪れる度にこの作品の情景描写が有り有りと眼前に現れる人たち、多いのではないでしょうか。ジリジリとした肌に差す夏の陽気、照り付ける陽射しを避けて木陰からジッと遠い陽炎を眺める眼差し・・。ああ、夏が来たなあと感じます。
続く2004年の 'Venice' も 'Endress Summer' の延長線上にありながらよりノイジーとなり、デイヴィッド・シルヴィアンがゲスト参加したのも話題となりました。そして2007年の坂本龍一 '教授' とのコラボレーション 'Cendre' から翌年の 'Black Sea' と続き・・んで、冒頭の 'Becs' に戻るワケですが、この頃、オヴァル2010年の 'O' を聴いて 'これじゃない感' を引きずりながら、エレクトロニカ全般に食傷気味だったことも影響して 'Becs' も特に期待してなかったんだけど、おお、久しぶりに 'Endress Summer' の雰囲気を纏ったような感じでやはり素晴らしいことを再認識!
思い返せば、1990年代後半のエレクトロニカ興隆には世紀末の空気と相まって興奮したものです。それまで現代音楽の一部である電子音楽の世界がテクノとぶつかってしまったような '化学反応' は、当時のサンプラーやシンセサイザーに対するアプローチを一新させました。それまで 'ローファイ' などとアナログの価値観に引きづられていた多くのユーザーは、CDの盤面に傷を付けて意図的に引き起こす 'デジタル・エラー' の不快さがそのまま、Cycling 74 Max/Mspに代表される、グラニュラー・シンセシスの 'グリッチ' な痙攣するリズムへと摩り替えていく快感を体験してしまったのだから。
またやってきます、真夏という名の狂気の季節が。いや、もう気持ちは年中真夏で良いと思いますヨ。汗かいて陽に焼けて蝉は精一杯鳴き続ける・・ビールは美味い。昼間の照り付けた熱気の残るアスファルトを散歩する真夜中・・その渇いた独特の匂い。これから夏本番を迎えて街中がソワソワし出す初夏の雰囲気、いいなあ。ホント今のこの季節が一番好きだ。
さて、話はガラリと変わって、いきなり大上段から語り出すこと濃厚ではありますが、ここはシンプルにいきたいと思います。25年ほど前だったか、NHK教育TVでYMOの特番が放映されておりました。その中で坂本龍一さんが述べられていたことがずっと心の中に残っていて、それは最近、ますます自分にとって重要な要素になりつつあることを実感しているんですよね。その特番はちょうどインターネット黎明期の頃の番組ということもあり、当時、インターネットの環境に興味津々であった坂本さんがクリエイティヴであることについて、今後、洪水のように溢れ出てくる情報を前にクリエイターは、情報を取り過ぎることが障害になる、そしてもっと情報に対して禁欲主義でいかなければならないと言うのです。
まあ、正確な文言は上の動画(5:31〜)を確認して頂くとして、結局は坂本さんの予想通り、現代の生活はインターネットがその主流を占め、人々は常に何かと接続することを余儀なくされております。つまり、あらゆる情報と生活がネットの中にはあって、常にその取捨選択の判断が求められ、物事の本質はアクセスする行動の中においてのみ顕在化し、それ以外のことはノイズとして処理されていってる、まさにこれこそ今の時代を消費するサイクルではないでしょうか。
わたしは特別プロのクリエイターではないし、この発言を過敏に受け取る立場でもなんでもないんだけど、しかし、何かに没頭することと発想のきっかけを考えることについてはいろいろと参考になると思うのです。冒頭のクリエイティヴなことについて言えば、あらゆるリファレンスが蔓延り、オリジナルがそのまま '見つける' ことと同義語として、自分の中から湧き上がってくる欲求のようなものには向き合わなくなっているのではないかな、と。これはドイツの音響作家として現在も活動するオヴァルのマーカス・ポップが、テクノのクリエイターを指して "彼らのやっていることは楽器メーカーのデモ演奏と同じだ。想定内の組み合わせだけで知的詐欺を働いているに過ぎない" と極論を吐いたこととも関係しております。この発言の是非は置いておくとして、しかし、自らのメソッドを '発見' したポップにとっては当たり前に起こる疑問であったことは理解できますね。1970年代にジャマイカの劣悪な環境の中、限定的な機材を乱暴に扱うことで見出したダブの手法、それはいま、世界の音楽の先端で未だ有効な手法として再利用されており、また、ニューヨークのDJは2台のターンテーブルとレコード盤を持ち出し、本来楽器ではないものから '剽窃と誤用' により何がしかのものをでっち上げた。それを人は現在、ヒップ・ホップやブレイクビーツと呼ぶわけだけど、果たして情報過多の現代に取捨選択することと、貧しく限定的な環境の中で '間違っている' ことをやるのではどちらがクリエイティヴなのか、ここでその答えを出すことはできません。どちらにしろ '未分化なもの' は情報として処理され共有されていくワケで、単純に二分法で論じるべきものではないのだけど、しかし、それでも冒頭の坂本さんの発言というのはずっと引っかかっている・・。
→Elektron Digitakt
もちろん、オヴァルの発言は極端な 'ガジェット偏重' の過熱ぶりに対する揶揄(高騰するRoland TR-808やE-Mu SP-1200、モジュラーシンセへの偏愛など)含め、ある種 '戦略的' (今風な言い方なら '炎上商法的'?)に同業者を焚き付けていた部分もあり、実際はオヴァルを始め、皆テクノロジーの恩恵を受けた中から見出された '美学' の中で評価されていることは否定できません。つまり、いかにテクノロジーと付き合うかというのが問題なのですが、そんな彼らの 'メソッド' を反映するように今月、スウェーデンからハードウェア中心に展開するElektronの新製品、Digitaktが発売されます。8トラックのサンプラー兼ドラムマシンの体裁を取りながら、同社が強く推し進めるOverbridgeを用いてDAW環境との完全統合を目指し、スタジオでの制作からライヴまで幅広く対応することが可能です。まあ、典型的な 'ガジェット' 紹介ではありますが(苦笑)、しかし、大切なのはこのような '環境' の構築と自らの 'メソッド' をどう擦り合わせ、モチベーションを発奮させるかではないかと思うのです。
それでも、'YMO特番' がまだチャートという '生きた場' の動いていた最後の時代であった1990年代後半であることを考えると、今はもうその場がないという点でもっと悲観的なのかもしれません。つまり、そこで活性化する上での '共通言語' がないんだから、各々を語る上での '物語性' は希薄になっていくしかない。まあ、それなりに共有するものはあるのかもしれませんが、それは '上書き保存' で読む刹那的なものなのは間違いないでしょうね。つまり、個人の閉じられた '楽しみ' がそのまま無名の才能として '見つけられる' か '埋もれていくか' は加速するワケで、ジャンルは違いますが、美術の分野におけるヘンリー・ダーガーやミンガリング・マイクらの 'アウトサイダー・アート' のようなあり方は、今後 'スタンダード' の生まれにくい時代においてますます増えてくるのではないかと思いますヨ。う〜ん、こういう時代の中でいったい何をクリエイトすることができるのか?上でご紹介した 'YMO特番' の中では、ドリス・デイとスヌープ・ドッグを並べて 'ポップスはいかにメロディを失ったのか' という新聞記事も紹介してましたけど、今後、わたしたちが '語るべきもの' を見つけられるのかは誰にも分かりません。
'教授' とフェネス2007年、奇跡のコラボレーションともいうべき 'Cendre'。2010年にもう一作、このコラボによる2枚組 'Flumina' も作りますけど、粗製乱造されたよくある 'ピアノ+エレクトロニカ' のECM的世界に陥らない素晴らしい音像。そして '宅録' の出発点のひとつであり、コンピュータで制御するRoland MC-8との出会いがもたらした傑作 '千のナイフ' がいま目の前にある・・さて、もう一度立ち戻ってみましょうか。
久しぶりにフェネス2014年作 'Becs' (ベーチェ)を聴いてみる。というか個人的に 'エレクトロニカ' 食傷気味な頃のリリースだっただけに記憶も薄く、ようやく手に取ったというべきか。オーストリア出身のエレクトロニカ職人、クリスチャン・フェネスは1997年の 'Hotel Paral.lel' から一貫して独自の音響世界を築いてきた人です。そのデビュー作は、未だテクノのうねりと折合いをつけながらユニークなエレクトロニカ胎動の一歩を示しました。
大きくブレイクした2001年の傑作 'Endress Summer' では、そのフォーキーなアコースティックの響きと真っ向から覆い尽くすようなノイズの壁が不思議な心地良さを演出し、特に夏に対してセンチメンタルな感情を抱きやすい日本人のツボにハマった一枚でしたね。たぶん、毎夏訪れる度にこの作品の情景描写が有り有りと眼前に現れる人たち、多いのではないでしょうか。ジリジリとした肌に差す夏の陽気、照り付ける陽射しを避けて木陰からジッと遠い陽炎を眺める眼差し・・。ああ、夏が来たなあと感じます。
続く2004年の 'Venice' も 'Endress Summer' の延長線上にありながらよりノイジーとなり、デイヴィッド・シルヴィアンがゲスト参加したのも話題となりました。そして2007年の坂本龍一 '教授' とのコラボレーション 'Cendre' から翌年の 'Black Sea' と続き・・んで、冒頭の 'Becs' に戻るワケですが、この頃、オヴァル2010年の 'O' を聴いて 'これじゃない感' を引きずりながら、エレクトロニカ全般に食傷気味だったことも影響して 'Becs' も特に期待してなかったんだけど、おお、久しぶりに 'Endress Summer' の雰囲気を纏ったような感じでやはり素晴らしいことを再認識!
思い返せば、1990年代後半のエレクトロニカ興隆には世紀末の空気と相まって興奮したものです。それまで現代音楽の一部である電子音楽の世界がテクノとぶつかってしまったような '化学反応' は、当時のサンプラーやシンセサイザーに対するアプローチを一新させました。それまで 'ローファイ' などとアナログの価値観に引きづられていた多くのユーザーは、CDの盤面に傷を付けて意図的に引き起こす 'デジタル・エラー' の不快さがそのまま、Cycling 74 Max/Mspに代表される、グラニュラー・シンセシスの 'グリッチ' な痙攣するリズムへと摩り替えていく快感を体験してしまったのだから。
またやってきます、真夏という名の狂気の季節が。いや、もう気持ちは年中真夏で良いと思いますヨ。汗かいて陽に焼けて蝉は精一杯鳴き続ける・・ビールは美味い。昼間の照り付けた熱気の残るアスファルトを散歩する真夜中・・その渇いた独特の匂い。これから夏本番を迎えて街中がソワソワし出す初夏の雰囲気、いいなあ。ホント今のこの季節が一番好きだ。
さて、話はガラリと変わって、いきなり大上段から語り出すこと濃厚ではありますが、ここはシンプルにいきたいと思います。25年ほど前だったか、NHK教育TVでYMOの特番が放映されておりました。その中で坂本龍一さんが述べられていたことがずっと心の中に残っていて、それは最近、ますます自分にとって重要な要素になりつつあることを実感しているんですよね。その特番はちょうどインターネット黎明期の頃の番組ということもあり、当時、インターネットの環境に興味津々であった坂本さんがクリエイティヴであることについて、今後、洪水のように溢れ出てくる情報を前にクリエイターは、情報を取り過ぎることが障害になる、そしてもっと情報に対して禁欲主義でいかなければならないと言うのです。
まあ、正確な文言は上の動画(5:31〜)を確認して頂くとして、結局は坂本さんの予想通り、現代の生活はインターネットがその主流を占め、人々は常に何かと接続することを余儀なくされております。つまり、あらゆる情報と生活がネットの中にはあって、常にその取捨選択の判断が求められ、物事の本質はアクセスする行動の中においてのみ顕在化し、それ以外のことはノイズとして処理されていってる、まさにこれこそ今の時代を消費するサイクルではないでしょうか。
わたしは特別プロのクリエイターではないし、この発言を過敏に受け取る立場でもなんでもないんだけど、しかし、何かに没頭することと発想のきっかけを考えることについてはいろいろと参考になると思うのです。冒頭のクリエイティヴなことについて言えば、あらゆるリファレンスが蔓延り、オリジナルがそのまま '見つける' ことと同義語として、自分の中から湧き上がってくる欲求のようなものには向き合わなくなっているのではないかな、と。これはドイツの音響作家として現在も活動するオヴァルのマーカス・ポップが、テクノのクリエイターを指して "彼らのやっていることは楽器メーカーのデモ演奏と同じだ。想定内の組み合わせだけで知的詐欺を働いているに過ぎない" と極論を吐いたこととも関係しております。この発言の是非は置いておくとして、しかし、自らのメソッドを '発見' したポップにとっては当たり前に起こる疑問であったことは理解できますね。1970年代にジャマイカの劣悪な環境の中、限定的な機材を乱暴に扱うことで見出したダブの手法、それはいま、世界の音楽の先端で未だ有効な手法として再利用されており、また、ニューヨークのDJは2台のターンテーブルとレコード盤を持ち出し、本来楽器ではないものから '剽窃と誤用' により何がしかのものをでっち上げた。それを人は現在、ヒップ・ホップやブレイクビーツと呼ぶわけだけど、果たして情報過多の現代に取捨選択することと、貧しく限定的な環境の中で '間違っている' ことをやるのではどちらがクリエイティヴなのか、ここでその答えを出すことはできません。どちらにしろ '未分化なもの' は情報として処理され共有されていくワケで、単純に二分法で論じるべきものではないのだけど、しかし、それでも冒頭の坂本さんの発言というのはずっと引っかかっている・・。
→Elektron Digitakt
もちろん、オヴァルの発言は極端な 'ガジェット偏重' の過熱ぶりに対する揶揄(高騰するRoland TR-808やE-Mu SP-1200、モジュラーシンセへの偏愛など)含め、ある種 '戦略的' (今風な言い方なら '炎上商法的'?)に同業者を焚き付けていた部分もあり、実際はオヴァルを始め、皆テクノロジーの恩恵を受けた中から見出された '美学' の中で評価されていることは否定できません。つまり、いかにテクノロジーと付き合うかというのが問題なのですが、そんな彼らの 'メソッド' を反映するように今月、スウェーデンからハードウェア中心に展開するElektronの新製品、Digitaktが発売されます。8トラックのサンプラー兼ドラムマシンの体裁を取りながら、同社が強く推し進めるOverbridgeを用いてDAW環境との完全統合を目指し、スタジオでの制作からライヴまで幅広く対応することが可能です。まあ、典型的な 'ガジェット' 紹介ではありますが(苦笑)、しかし、大切なのはこのような '環境' の構築と自らの 'メソッド' をどう擦り合わせ、モチベーションを発奮させるかではないかと思うのです。
それでも、'YMO特番' がまだチャートという '生きた場' の動いていた最後の時代であった1990年代後半であることを考えると、今はもうその場がないという点でもっと悲観的なのかもしれません。つまり、そこで活性化する上での '共通言語' がないんだから、各々を語る上での '物語性' は希薄になっていくしかない。まあ、それなりに共有するものはあるのかもしれませんが、それは '上書き保存' で読む刹那的なものなのは間違いないでしょうね。つまり、個人の閉じられた '楽しみ' がそのまま無名の才能として '見つけられる' か '埋もれていくか' は加速するワケで、ジャンルは違いますが、美術の分野におけるヘンリー・ダーガーやミンガリング・マイクらの 'アウトサイダー・アート' のようなあり方は、今後 'スタンダード' の生まれにくい時代においてますます増えてくるのではないかと思いますヨ。う〜ん、こういう時代の中でいったい何をクリエイトすることができるのか?上でご紹介した 'YMO特番' の中では、ドリス・デイとスヌープ・ドッグを並べて 'ポップスはいかにメロディを失ったのか' という新聞記事も紹介してましたけど、今後、わたしたちが '語るべきもの' を見つけられるのかは誰にも分かりません。
'教授' とフェネス2007年、奇跡のコラボレーションともいうべき 'Cendre'。2010年にもう一作、このコラボによる2枚組 'Flumina' も作りますけど、粗製乱造されたよくある 'ピアノ+エレクトロニカ' のECM的世界に陥らない素晴らしい音像。そして '宅録' の出発点のひとつであり、コンピュータで制御するRoland MC-8との出会いがもたらした傑作 '千のナイフ' がいま目の前にある・・さて、もう一度立ち戻ってみましょうか。
2017年5月3日水曜日
チェットの 'サマー・オブ・ラヴ'
1950年代初め、鮮烈なイメージで米国西海岸に現れたラッパ吹き、チェット・ベイカー。最近、そんな彼を題材に取り上げた映画 'ブルーに生まれついて' なども公開されましたけど、マイルス・デイビスとは違う意味でラッパ吹きの格好良さを体現した人ではないかと思います。
暗く紫煙漂うジャズクラブの片隅から物悲しいミュートで緊張を走らせるのがデイビスなら、突き抜ける青い海岸線をコンバーチブルで疾走しながら、鼻歌を歌うようにラッパを吹くのがチェット、という感じ。こう書くと思わず '陰と陽' のイメージを付与してしまいそうになるのですが、共通するのはどちらも沈み込んだような 'ブルー' を湛えていること。血の通っていない '青白い' 感じで、体温低くひんやりとした 'Cool' でいることを美徳とする。これってルイ・アームストロング以降、ディジー・ガレスピーからクリフォード・ブラウン、フレディ・ハバードにまで受け継がれる '陽のラッパ吹き' の真逆を行くもので、そんなスタイルの創始者であるデイビスはチェットにとってのアイドル的存在だったのは納得しますね。
さて、そんなチェットにとっての全盛期といえば 'ウェストコースト・ジャズ' の寵児として脚光を浴びた1950年代の 'Pacific Jazz' 時代と、クスリによって 'Cool' なルックスからテクニックの全てを失い、再びシーンへと復帰して耽美的なまでに 'ブルー' な絶望感を体現した1970年代半ばから80年代の '晩年' が、やはりこのチェット・ベイカーという人の '凄み' を描き出しているでしょうね。ではその間を取り持つべき1960年代は?この時代、ジャズの世界を始めとした米国のエンターテイメントすべてが引っくり返る10年であり、チェットのイメージも絶頂から奈落の底へと落ちていった10年でもあります。それまでデイビスに憧れて愛用していたMartin Committeeをパリで盗まれ、知人から '借り物' として使い出したSelmerのK-Modifiedフリューゲルホーンがこの頃のイメージですね。
→The Mariachi Brass - feat. Chet Baker
スターダムへと押し上げられていったもののジャズの時代的変化に付いていけず、1950年代後半には自分への賞賛がまだ残るヨーロッパへ活動の拠点を移すチェット。しかし、度重なる麻薬癖の不祥事により1960年代半ばに再び米国の地を踏むこととなります。この時期、ジャズに変わって若者を虜にしていたのがロックであり、チェットらのスタンダードを中心としたジャズは古臭いものへと成り果てておりました。そんな仕事の急減を見かねて手を差し伸べたのが、かつてチェットのスターダムを仕掛けた 'Pacific Jazz' の社長、リチャード・ボック。ただし、そんなボックのレーベルも大手Libertyの傘下で 'World Pacific' と名を変えて、ジャズよりラヴィ・シャンカールのインド音楽やイージー・リスニングを手がけるなどすっかり様変わりし、チェットはジャズの奏者ではなく、当時A&Mでヒットを飛ばしていたハープ・アルバート率いるティファナブラスの向こうを張ったマリアッチブラスの 'ソリスト' としての起用でした。チェットのキャリアとしては最も '不毛' な時期とされ、当面の収入は増えたもののジャズ的な価値は一切なしとされているのが現状です。ちなみに当時、同じくウェストコースト・ジャズのスターであったバド・シャンクも同様の再雇用となり、ザ・ビートルズの 'マジカル・ミステリー・ツアー' やママス&パパスの '夢のカリフォルニア' などをやらされていたっけ・・。この後、チェットの麻薬癖はますます酷いものとなり、売人たちとの支払いによるトラブルからこの時期、彼にとって大事な前歯を暴行により負傷してしばらく生活保護を受けるまでに転落・・。彼はこれ以降のインタビューでこの事件をことさら最悪なものとして語り出すのですが、しかし、そもそも彼の前歯の1本はデビューの頃から欠けて無かったんですよね。どうやら、チェットには憐れみを誘って同情を引く性向があり、この時のケガで仕事ができないということを理由に生活保護を申請して、不正受給でクスリを買っていたというのが真相のよう・・。
そんな失意のベイカーが1970年、久しぶりに大手Verveで吹き込んだのがこの 'Blood, Chet and Tears'。なんとチェットにブラスロック・バンド、ブラッド・スウェット&ティアーズのカバーをやらせる!というものですが、おお、この時期の 'ダメダメぶり' という世評に対してかなりラッパ吹きとして復調しているのではないでしょうか!?というか、そもそも調子は崩していなかったのでは?1970年代以降の復活で入れ歯による奏法へとスウィッチしたのは、むしろクスリのやり過ぎで歯がすべてダメになった、という風に解釈した方が腑に落ちますね。とりあえず本作は、ただジャズではないというだけで、むしろ、昨今の 'ソフトロック' 再評価の流れで見ればなかなかの佳作だと思います。なぜ今に至るまで再発しないのだろう?
この力強くもメロウな感じ。確かにボサノヴァなどに比べればチェットのイメージとはちょっとズレるかもしれないけれど、しかし、彼のソリストとしての '歌心' はどんなスタイルであろうとも全くスポイルしていないと思うんですよね。汲めども尽きぬ鼻歌のようなメロディ・・彼が終生クスリと共に手放さなかったものでもあります。
ジェリー・マリガンとの双頭カルテットでヒットした 'ロマンティックじゃない' と言いながら、ここではジャック・ペルツァー(終生チェットのヤク仲間)を相手にまるで昼下がりのカフェで一服するようにスラスラと歌うチェット。彼の自叙伝を読むととてもまともに付き合え切れる人物ではないことが暴露されておりますが、しかし、彼のラッパはいつでも甘い囁きと共に多くの人を魅了するのでした。
暗く紫煙漂うジャズクラブの片隅から物悲しいミュートで緊張を走らせるのがデイビスなら、突き抜ける青い海岸線をコンバーチブルで疾走しながら、鼻歌を歌うようにラッパを吹くのがチェット、という感じ。こう書くと思わず '陰と陽' のイメージを付与してしまいそうになるのですが、共通するのはどちらも沈み込んだような 'ブルー' を湛えていること。血の通っていない '青白い' 感じで、体温低くひんやりとした 'Cool' でいることを美徳とする。これってルイ・アームストロング以降、ディジー・ガレスピーからクリフォード・ブラウン、フレディ・ハバードにまで受け継がれる '陽のラッパ吹き' の真逆を行くもので、そんなスタイルの創始者であるデイビスはチェットにとってのアイドル的存在だったのは納得しますね。
さて、そんなチェットにとっての全盛期といえば 'ウェストコースト・ジャズ' の寵児として脚光を浴びた1950年代の 'Pacific Jazz' 時代と、クスリによって 'Cool' なルックスからテクニックの全てを失い、再びシーンへと復帰して耽美的なまでに 'ブルー' な絶望感を体現した1970年代半ばから80年代の '晩年' が、やはりこのチェット・ベイカーという人の '凄み' を描き出しているでしょうね。ではその間を取り持つべき1960年代は?この時代、ジャズの世界を始めとした米国のエンターテイメントすべてが引っくり返る10年であり、チェットのイメージも絶頂から奈落の底へと落ちていった10年でもあります。それまでデイビスに憧れて愛用していたMartin Committeeをパリで盗まれ、知人から '借り物' として使い出したSelmerのK-Modifiedフリューゲルホーンがこの頃のイメージですね。
→The Mariachi Brass - feat. Chet Baker
スターダムへと押し上げられていったもののジャズの時代的変化に付いていけず、1950年代後半には自分への賞賛がまだ残るヨーロッパへ活動の拠点を移すチェット。しかし、度重なる麻薬癖の不祥事により1960年代半ばに再び米国の地を踏むこととなります。この時期、ジャズに変わって若者を虜にしていたのがロックであり、チェットらのスタンダードを中心としたジャズは古臭いものへと成り果てておりました。そんな仕事の急減を見かねて手を差し伸べたのが、かつてチェットのスターダムを仕掛けた 'Pacific Jazz' の社長、リチャード・ボック。ただし、そんなボックのレーベルも大手Libertyの傘下で 'World Pacific' と名を変えて、ジャズよりラヴィ・シャンカールのインド音楽やイージー・リスニングを手がけるなどすっかり様変わりし、チェットはジャズの奏者ではなく、当時A&Mでヒットを飛ばしていたハープ・アルバート率いるティファナブラスの向こうを張ったマリアッチブラスの 'ソリスト' としての起用でした。チェットのキャリアとしては最も '不毛' な時期とされ、当面の収入は増えたもののジャズ的な価値は一切なしとされているのが現状です。ちなみに当時、同じくウェストコースト・ジャズのスターであったバド・シャンクも同様の再雇用となり、ザ・ビートルズの 'マジカル・ミステリー・ツアー' やママス&パパスの '夢のカリフォルニア' などをやらされていたっけ・・。この後、チェットの麻薬癖はますます酷いものとなり、売人たちとの支払いによるトラブルからこの時期、彼にとって大事な前歯を暴行により負傷してしばらく生活保護を受けるまでに転落・・。彼はこれ以降のインタビューでこの事件をことさら最悪なものとして語り出すのですが、しかし、そもそも彼の前歯の1本はデビューの頃から欠けて無かったんですよね。どうやら、チェットには憐れみを誘って同情を引く性向があり、この時のケガで仕事ができないということを理由に生活保護を申請して、不正受給でクスリを買っていたというのが真相のよう・・。
そんな失意のベイカーが1970年、久しぶりに大手Verveで吹き込んだのがこの 'Blood, Chet and Tears'。なんとチェットにブラスロック・バンド、ブラッド・スウェット&ティアーズのカバーをやらせる!というものですが、おお、この時期の 'ダメダメぶり' という世評に対してかなりラッパ吹きとして復調しているのではないでしょうか!?というか、そもそも調子は崩していなかったのでは?1970年代以降の復活で入れ歯による奏法へとスウィッチしたのは、むしろクスリのやり過ぎで歯がすべてダメになった、という風に解釈した方が腑に落ちますね。とりあえず本作は、ただジャズではないというだけで、むしろ、昨今の 'ソフトロック' 再評価の流れで見ればなかなかの佳作だと思います。なぜ今に至るまで再発しないのだろう?
この力強くもメロウな感じ。確かにボサノヴァなどに比べればチェットのイメージとはちょっとズレるかもしれないけれど、しかし、彼のソリストとしての '歌心' はどんなスタイルであろうとも全くスポイルしていないと思うんですよね。汲めども尽きぬ鼻歌のようなメロディ・・彼が終生クスリと共に手放さなかったものでもあります。
ジェリー・マリガンとの双頭カルテットでヒットした 'ロマンティックじゃない' と言いながら、ここではジャック・ペルツァー(終生チェットのヤク仲間)を相手にまるで昼下がりのカフェで一服するようにスラスラと歌うチェット。彼の自叙伝を読むととてもまともに付き合え切れる人物ではないことが暴露されておりますが、しかし、彼のラッパはいつでも甘い囁きと共に多くの人を魅了するのでした。
2017年5月2日火曜日
'ハーモロディクス' 反教養講座
オーネット・コールマンにとっての 'ハーモロディック・ファンク' とはいったい何だったのだろうか。まるで突然変異の如く後に 'Prime Time' と呼称するエレクトリック・バンドの活動を開始したコールマンは、それまでの和声から自由になろうと 'ピアノレス' な編成でフリーに突っ走ってきたスタイルを捨て、バーン・ニクス&チャールズ・エラービーの '2ギター' でリズミックなアプローチに可能性を見出しました。
それはちょうど活動停止をしたマイルス・デイビス・バンドのピート・コージー&レジー・ルーカスの '2ギター' から、コールマンなりに受け継いだ 'On The Cornerへの遅い返答' のようでもあり、実際、そのレジー・ルーカスの紹介で同郷のベーシスト、ルディ・マクダニエルことジャマラディン・タクーマを獲得、'Dancing In Your Head' と 'Body Meta' という衝撃の2作品を世に問います。そして 'ハーモロディクスの愛弟子' としてもうひとり、ジェイムズ "ブラッド" ウルマーがコールマンの元にやってきました。
"ギターは広い範囲のオーバートーン(倍音)を出せることに気づいた。音の強さの範囲に関して言えば、1本のギターがヴァイオリン10丁に相当するのではないだろうか。例えば交響楽団の場合、トランペット2本がヴァイオリン24丁に匹敵する。この点に気づいてから、私はその時やっている音楽をオーケストレーションできるかどうか、もっと大きな音を出せるかどうか、試してみることにした。やってみると、果たしてその通りにできた。1975年頃から、そのころ演奏していた曲や書き溜めていた曲を私が使っている楽器の編成でアレンジし始めた。"
これはジョン・リトワイラー著 'オーネット・コールマン: ジャズを変えた男' (ファラオ企画)に載っていたものですが、このようなコールマンの提唱する 'ザ・ハーモロディクス・セオリー' の言説は、彼の '薫陶' を受けた共演者(ドン・チェリーやチャーリー・ヘイデンなど)、愛弟子らの 'かたちのない' アフォリズムとして '再解釈' されていきます。
"ハーモロディック理論では、結局、どの音も主音のように聴こえるという境地に達する"、"技術面で言えば、即興で演奏しながら、常に(音の高さや音程を)変えていく。譜面や、ミュージシャンの内面から湧き上がってくるものに従い、お互いの音を聴き合っていく・・"、"調和した2つ以上の音の結合、または組み合わせ。一致した同じ内容を唱和すること。・・同時に、または一緒に聞こえ・・多くの人間が揃って音を発すること。完全に調和すること。一致した、調和した、協和した、ハーモニーのバランスが取れた" などなど・・。
コールマン本人は "秘伝でもなんでもなく、誰にでもできるはず" としながら、'ユニゾン' という言葉を西洋の器楽表現の枠からかなり拡大解釈して使っていることですね。'不協和' であることがそのまま個々の '内なるピッチ' を要請し、ハーモロディック流のトーナリティを構成する実に奇妙なファンク。
コールマンによってその才能を見出されたウルマーは、ほとんど初めからその 'ハーモロディックな' トーナリティと見事な調和を見せました。以下はウルマーの解釈する 'ハーモロディクス' の弁。
"この理論は、わたしの音楽の方向を完全に変えたというより、わたしの中に潜んでいるものを引き出してくれた。(中略)オーネットが音楽を通してわたしに示したのは、ある特殊な自由だった。つまり、経験したことや自分が感じたことをはっきりと伝える自由で・・その為にわたしは、即座に転調やオーケストレーションのアレンジをすることを習わなければならなかったが、これらは今や、わたしの音楽概念の中で重要な要素となっている。"
"彼はわたしが加わる以前には、バンドにギターを使ったことは一度もなかった。オーネットがアドリブを吹き、わたしがオーケストレーションしていく。わたしの方から彼の為に音を出すのではなく、彼の目指すところへわたしがついて行く。コード変化のパターンに従うのではない。オーネットの場合、フレイズを出した後でコードが変わる。だからソリストが、自分が本当にやりたいフレイズを出していける。(中略)わたしにもソロのチャンスがあった。オーネットと一緒に演奏すると他の誰とやるよりもギターがよく合う。"
'Prime Time' としてのアルバム制作では一貫していたメンツは、ライヴではいろいろと流動的でオーネットの息子デナード、ロナルド・シャノン・ジャクスン、ウルマー、タクーマらはその '出入り' を繰り返していたそうです。フュージョン全盛、ニューウェイヴ到来の1970年代後半にこのコンセプションを理解させるのは相当大変だったのではないでしょうか。
ウルマーがコールマンの自主制作レーベル、アーティスツ・ハウスから1978年にリリースしたデビュー・アルバム 'Tales of Captain Black' は、ウルマー、タクーマ、デナード、そしてオーネットらミニマルな編成による、ソリッドで硬質な 'ハーモロディック・ファンク' 最良のスタイルを聴かせてくれる傑作です。そしてウルマーに次いでコールマンと '共鳴' したのが時代の寵児、パット・メセニーでしょう。チャーリー・ヘイデンから共演するよう強く勧められていたようで、1986年にECMから 'Pat Metheny / Ornette Coleman: Song X' としてアルバムを完成させました。上の動画はそのメセニーとコールマンとのライヴ(メセニーは35:11から登場)ですけど、ここでは息子デナードのドラムスがたまりませんねえ。しかしコールマンはタブラのバダル・ロイが結構お気に入りだったんですね。1995年、久々の復帰作となった 'Tone Dialing' にも大きくフィーチュアしておりましたが、これも一種の 'On The Corner' 効果だったりして・・。
それはちょうど活動停止をしたマイルス・デイビス・バンドのピート・コージー&レジー・ルーカスの '2ギター' から、コールマンなりに受け継いだ 'On The Cornerへの遅い返答' のようでもあり、実際、そのレジー・ルーカスの紹介で同郷のベーシスト、ルディ・マクダニエルことジャマラディン・タクーマを獲得、'Dancing In Your Head' と 'Body Meta' という衝撃の2作品を世に問います。そして 'ハーモロディクスの愛弟子' としてもうひとり、ジェイムズ "ブラッド" ウルマーがコールマンの元にやってきました。
"ギターは広い範囲のオーバートーン(倍音)を出せることに気づいた。音の強さの範囲に関して言えば、1本のギターがヴァイオリン10丁に相当するのではないだろうか。例えば交響楽団の場合、トランペット2本がヴァイオリン24丁に匹敵する。この点に気づいてから、私はその時やっている音楽をオーケストレーションできるかどうか、もっと大きな音を出せるかどうか、試してみることにした。やってみると、果たしてその通りにできた。1975年頃から、そのころ演奏していた曲や書き溜めていた曲を私が使っている楽器の編成でアレンジし始めた。"
これはジョン・リトワイラー著 'オーネット・コールマン: ジャズを変えた男' (ファラオ企画)に載っていたものですが、このようなコールマンの提唱する 'ザ・ハーモロディクス・セオリー' の言説は、彼の '薫陶' を受けた共演者(ドン・チェリーやチャーリー・ヘイデンなど)、愛弟子らの 'かたちのない' アフォリズムとして '再解釈' されていきます。
"ハーモロディック理論では、結局、どの音も主音のように聴こえるという境地に達する"、"技術面で言えば、即興で演奏しながら、常に(音の高さや音程を)変えていく。譜面や、ミュージシャンの内面から湧き上がってくるものに従い、お互いの音を聴き合っていく・・"、"調和した2つ以上の音の結合、または組み合わせ。一致した同じ内容を唱和すること。・・同時に、または一緒に聞こえ・・多くの人間が揃って音を発すること。完全に調和すること。一致した、調和した、協和した、ハーモニーのバランスが取れた" などなど・・。
コールマン本人は "秘伝でもなんでもなく、誰にでもできるはず" としながら、'ユニゾン' という言葉を西洋の器楽表現の枠からかなり拡大解釈して使っていることですね。'不協和' であることがそのまま個々の '内なるピッチ' を要請し、ハーモロディック流のトーナリティを構成する実に奇妙なファンク。
コールマンによってその才能を見出されたウルマーは、ほとんど初めからその 'ハーモロディックな' トーナリティと見事な調和を見せました。以下はウルマーの解釈する 'ハーモロディクス' の弁。
"この理論は、わたしの音楽の方向を完全に変えたというより、わたしの中に潜んでいるものを引き出してくれた。(中略)オーネットが音楽を通してわたしに示したのは、ある特殊な自由だった。つまり、経験したことや自分が感じたことをはっきりと伝える自由で・・その為にわたしは、即座に転調やオーケストレーションのアレンジをすることを習わなければならなかったが、これらは今や、わたしの音楽概念の中で重要な要素となっている。"
"彼はわたしが加わる以前には、バンドにギターを使ったことは一度もなかった。オーネットがアドリブを吹き、わたしがオーケストレーションしていく。わたしの方から彼の為に音を出すのではなく、彼の目指すところへわたしがついて行く。コード変化のパターンに従うのではない。オーネットの場合、フレイズを出した後でコードが変わる。だからソリストが、自分が本当にやりたいフレイズを出していける。(中略)わたしにもソロのチャンスがあった。オーネットと一緒に演奏すると他の誰とやるよりもギターがよく合う。"
'Prime Time' としてのアルバム制作では一貫していたメンツは、ライヴではいろいろと流動的でオーネットの息子デナード、ロナルド・シャノン・ジャクスン、ウルマー、タクーマらはその '出入り' を繰り返していたそうです。フュージョン全盛、ニューウェイヴ到来の1970年代後半にこのコンセプションを理解させるのは相当大変だったのではないでしょうか。
ウルマーがコールマンの自主制作レーベル、アーティスツ・ハウスから1978年にリリースしたデビュー・アルバム 'Tales of Captain Black' は、ウルマー、タクーマ、デナード、そしてオーネットらミニマルな編成による、ソリッドで硬質な 'ハーモロディック・ファンク' 最良のスタイルを聴かせてくれる傑作です。そしてウルマーに次いでコールマンと '共鳴' したのが時代の寵児、パット・メセニーでしょう。チャーリー・ヘイデンから共演するよう強く勧められていたようで、1986年にECMから 'Pat Metheny / Ornette Coleman: Song X' としてアルバムを完成させました。上の動画はそのメセニーとコールマンとのライヴ(メセニーは35:11から登場)ですけど、ここでは息子デナードのドラムスがたまりませんねえ。しかしコールマンはタブラのバダル・ロイが結構お気に入りだったんですね。1995年、久々の復帰作となった 'Tone Dialing' にも大きくフィーチュアしておりましたが、これも一種の 'On The Corner' 効果だったりして・・。
2017年5月1日月曜日
初めての 'アンプリファイ' 入門
⚫︎限られた予算で多機能なヤツが欲しい。
管楽器でエフェクターを使ってみたい!という '初めの一歩' としては、やはりBoss VE-20 Vocal Processorが良いのではないでしょうか。マイク(コンデンサー及びダイナミック)を本体に繋ぐだけで、オクターバーからハーモナイザー、モジュレーション、ディストーション、ディレイ、リヴァーブにループ・サンプラーといった機能が一台で楽しめちゃいます。また本機にはヘッドフォン端子も備えられているので、とりあえずマイクと本機さえあればそのまま自宅でヘッドフォンによるモニターができ、アンプや簡易PA一式は必要ありません。
→Boss VE-20 Vocal Processor
とかくマイクからプリアンプ、ミキサーやパワーアンプなどの '初期投資' で散財しやすい管楽器の 'アンプリファイ' ですが、コイツは自宅からライヴ、レコーディングにまで一台で多方面に活躍してくれますヨ。難点としてはいわゆるマルチ・エフェクターの仕様なので、音作りからプログラムの手間を小さなLED画面や取説と睨めっこしながらやらなければならないこと。まず、自分の使いやすいようにセッティングをして、初めてその機能の真価を発揮する機材ですね。実売価格は25,000円ほどではありますが、ネットで中古良品を検索すれば16,000円〜19,000円前後で見つかると思います。
⚫︎少々の '豊かな予算' があり音質も落としたくない。
→Radial Engineering EXTC-SA
→Radial Engineering Voco-Loco
→Audio-Technica VP-01 Slick Fly
→Eventide Mixing Link
マイク入力の備えた機器を用いるのならいざ知らず、マイクからアンバランス・フォンで直接エフェクターへと接続する場合、インピーダンス・マッチングの面で不具合が出てくるものです。管楽器の 'アンプリファイ' にはいくつかの接続法があり、PAの観点から一般的なのは、まずマイクの音声をそのままPAミキサーへ入力、ミキサーのバスアウトからステージ上へDIを用いて出力してコンパクト・エフェクター、そして再びDIを介してミキサーに戻して各種モニターに振り分けていくやり方が多いです。この際に用いるDIとしては、Radial Engineering EXTC-SAのようなライン・レベルと楽器レベルの信号をインサートでやり取りできるもの、もしくは同社のVoco-Loco、Eventide Mixing Linkなど特化したものが便利ですね。いやあ、Radial製品はさすがに高いよ・・という方には、Audio-Technica VP-01が安価ながら日本製の堅実な作りでオススメします。PAの考え方としてはまず管楽器からの原音を確保しておくということで、間に挟むエフェクター類の不備などがあった場合、すぐに原音を確保してステージ上の進行を妨げないことにあります。また、一度ライン・レベルにインピーダンス・マッチングをした上で楽器レベルやマイク・レベルの各種信号とやり取りをすることは、モニターからのハウリング・マージン確保の意味合いもあるでしょう。マイクはファンタム電源の必要なコンデンサー・マイクが一般的です。
⚫︎最も '安価' かつ気軽にやってみたい。
インピーダンスの説明はあまりに専門的で手に余る為(汗)、ここでは 'ロー出しハイ受け' の公式を覚えておくだけで十分。これは '低いインピーダンスで出力して高いインピーダンスで受ける' というもので、マイクやラインなどの 'ロー・インピーダンス' は、直接ギターを接続できるよう設計されたコンパクト・エフェクターなどの 'ハイ・インピーダンス' 入力で受ける限り、基本的に問題はないということです。もちろん、'基本的に' という言葉の通り、何事もセオリーはそうだということであって、実際は各機器の条件や設計思想によりこのインピーダンス・マッチングには微妙な 'バラツキ' があります。ものによっては歪んでしまったり、一応使えるけどゲインは低かったりという場合が往々にして現れるんですよね・・。以下は、電源不要のダイナミック・マイクからアンバランスでエフェクターに出力する場合、そのインピーダンス・マッチングを図る個人的なやり方3選。
①インピーダンス・トランスフォーマーを使う。
②プリアンプを使う。
③ 'Board Master' を使う。
→Sennheiser Evolution e608
→Hosa MIT176
→Classic Pro ZXP212T
→Classic Pro APP211L
わたしの '対処法' は以上の通り。①は最もお手軽かつ安価に済ませられる方法で、サウンドハウス・プロデュースのClassic ProやHosaのインピーダンス・トランスフォーマーを用いるものです。電源を必要としないダイナミック・マイク限定ではありますが、マイクのXLR(オス)端子からこのインピーダンス・トランスフォーマーに繋ぎ、そのままコンパクト・エフェクターへ入力して下さい。それぞれHosa XLR(メス)200Ω - TSフォン(オス)50kΩ、Classic Pro XLR(メス)600Ω - TSフォン(オス)50kΩの値となりますが、単なる 'インピーダンス変換' なので音色的には可もなく不可もなし。ちなみにClassic Pro APP211LはフォンとXLR(オス)の変換アダプターなのですが、これはPiezo Barrelの出力の高いアクティヴ・ピックアップでインピーダンス・トランスフォーマーを用いる場合に使います。
→TDC-You
→TDC by Studio-You Mic Option
→Neotenic Sound Buff-Cannon
また、このようなインピーダンス・マッチングをパッシヴのエフェクター型ボックスにしたのがTDC by Studio-YouのMic Option。以前にNeotenic Soundからも同様のコンセプトの製品が発売されておりましたが(というか、試作されていた管楽器用プリアンプPure Windの発売はまだでしょうか?)、このTDC-Youは、関西でハンドメイドにより各種エフェクターやライン・セレクター、DIなどを高品位に少量生産している工房で、エフェクターボードなどに固定させるインピーダンス・トランスフォーマーとして便利に使えますね(ファンタム電源対応のコンデンサー・マイクは不可)。すでにBuff-Cannonが手に入れられない者にとって有難い一品。
→Joemeek Three Q
→Neotenic Sound Board Master
そして、もう少し自分好みの音色に補正できないか、ということではやはり②が便利。マイクプリは正直、価格帯によってそれぞれの製品によるキャラクターの違いがあり、こだわるほど高価となるのですが、仕様としてはXLR入力でフォンのライン出力を備えた機種が条件となり、わたしとしてはJoemeek Three Qが使いやすいですね。本機はマイクプリ、オプティカル式のコンプレッサー、3バンドEQを備えた 'チャンネル・ストリップ' で、特に-10dBvと+4dBuのPad切り替えの付いたライン出力が重宝します。ここでは-10dBvにしてコンパクト・エフェクターへ接続して下さい。③はすでに廃盤製品なのが残念なものの、この①②を統合してやってくれる便利なものです。'困った時のNeotenic頼み' というワケではありませんが、ホントに '痒いところへ手の届く' ブツをいろいろ製作してくれる有難い工房でございます。このようなマイクから直列でコンパクト・エフェクターに繋ぐやり方の場合、別個にDIを最終段に置いてPAのミキサーへと送ります。
⚫︎気軽だけど音質はそこそこ確保したい。
→Pigtronix Keymaster
単純にダイナミック・マイクでコンパクト・エフェクターも一緒に使えて、そのままDIとしても機能できるライン・セレクターはないの?という場合、このPigtronix Keymasterはいかがでしょう?上で紹介したVP-01 Slick FlyやVoco Loco、Mixing Linkなども同種製品ではあるのですが、特別ファンタム電源は必要ないな、というのならこのKeymasterが便利。マイクからインピーダンス・トランスフォーマー及びマイクプリを直列で繋いでも音は出ますが、このようなライン・セレクターを用いれば不要なエフェクターは一発でOn/Offして、そのまま劣化させることなく原音をPAへ送ることが可能なのです。また入出力にBoost機能を有しており、これがそのまま 'プリアンプ' としてあらゆるインピーダンスの機器に対応します。またXLR入出力のほか、フォンの入出力はアンバランスのTSフォン及びバランスのTRSフォンにそれぞれ対応します(同時使用は出来ません)。
とりあえず、ピックアップ・マイクを買ってみたけどどう組んでみればよいか分からない皆さま、それぞれの予算に応じて参考にして頂ければ幸いです。
管楽器でエフェクターを使ってみたい!という '初めの一歩' としては、やはりBoss VE-20 Vocal Processorが良いのではないでしょうか。マイク(コンデンサー及びダイナミック)を本体に繋ぐだけで、オクターバーからハーモナイザー、モジュレーション、ディストーション、ディレイ、リヴァーブにループ・サンプラーといった機能が一台で楽しめちゃいます。また本機にはヘッドフォン端子も備えられているので、とりあえずマイクと本機さえあればそのまま自宅でヘッドフォンによるモニターができ、アンプや簡易PA一式は必要ありません。
→Boss VE-20 Vocal Processor
とかくマイクからプリアンプ、ミキサーやパワーアンプなどの '初期投資' で散財しやすい管楽器の 'アンプリファイ' ですが、コイツは自宅からライヴ、レコーディングにまで一台で多方面に活躍してくれますヨ。難点としてはいわゆるマルチ・エフェクターの仕様なので、音作りからプログラムの手間を小さなLED画面や取説と睨めっこしながらやらなければならないこと。まず、自分の使いやすいようにセッティングをして、初めてその機能の真価を発揮する機材ですね。実売価格は25,000円ほどではありますが、ネットで中古良品を検索すれば16,000円〜19,000円前後で見つかると思います。
⚫︎少々の '豊かな予算' があり音質も落としたくない。
→Radial Engineering EXTC-SA
→Radial Engineering Voco-Loco
→Audio-Technica VP-01 Slick Fly
→Eventide Mixing Link
マイク入力の備えた機器を用いるのならいざ知らず、マイクからアンバランス・フォンで直接エフェクターへと接続する場合、インピーダンス・マッチングの面で不具合が出てくるものです。管楽器の 'アンプリファイ' にはいくつかの接続法があり、PAの観点から一般的なのは、まずマイクの音声をそのままPAミキサーへ入力、ミキサーのバスアウトからステージ上へDIを用いて出力してコンパクト・エフェクター、そして再びDIを介してミキサーに戻して各種モニターに振り分けていくやり方が多いです。この際に用いるDIとしては、Radial Engineering EXTC-SAのようなライン・レベルと楽器レベルの信号をインサートでやり取りできるもの、もしくは同社のVoco-Loco、Eventide Mixing Linkなど特化したものが便利ですね。いやあ、Radial製品はさすがに高いよ・・という方には、Audio-Technica VP-01が安価ながら日本製の堅実な作りでオススメします。PAの考え方としてはまず管楽器からの原音を確保しておくということで、間に挟むエフェクター類の不備などがあった場合、すぐに原音を確保してステージ上の進行を妨げないことにあります。また、一度ライン・レベルにインピーダンス・マッチングをした上で楽器レベルやマイク・レベルの各種信号とやり取りをすることは、モニターからのハウリング・マージン確保の意味合いもあるでしょう。マイクはファンタム電源の必要なコンデンサー・マイクが一般的です。
⚫︎最も '安価' かつ気軽にやってみたい。
インピーダンスの説明はあまりに専門的で手に余る為(汗)、ここでは 'ロー出しハイ受け' の公式を覚えておくだけで十分。これは '低いインピーダンスで出力して高いインピーダンスで受ける' というもので、マイクやラインなどの 'ロー・インピーダンス' は、直接ギターを接続できるよう設計されたコンパクト・エフェクターなどの 'ハイ・インピーダンス' 入力で受ける限り、基本的に問題はないということです。もちろん、'基本的に' という言葉の通り、何事もセオリーはそうだということであって、実際は各機器の条件や設計思想によりこのインピーダンス・マッチングには微妙な 'バラツキ' があります。ものによっては歪んでしまったり、一応使えるけどゲインは低かったりという場合が往々にして現れるんですよね・・。以下は、電源不要のダイナミック・マイクからアンバランスでエフェクターに出力する場合、そのインピーダンス・マッチングを図る個人的なやり方3選。
①インピーダンス・トランスフォーマーを使う。
②プリアンプを使う。
③ 'Board Master' を使う。
→Sennheiser Evolution e608
→Hosa MIT176
→Classic Pro ZXP212T
→Classic Pro APP211L
わたしの '対処法' は以上の通り。①は最もお手軽かつ安価に済ませられる方法で、サウンドハウス・プロデュースのClassic ProやHosaのインピーダンス・トランスフォーマーを用いるものです。電源を必要としないダイナミック・マイク限定ではありますが、マイクのXLR(オス)端子からこのインピーダンス・トランスフォーマーに繋ぎ、そのままコンパクト・エフェクターへ入力して下さい。それぞれHosa XLR(メス)200Ω - TSフォン(オス)50kΩ、Classic Pro XLR(メス)600Ω - TSフォン(オス)50kΩの値となりますが、単なる 'インピーダンス変換' なので音色的には可もなく不可もなし。ちなみにClassic Pro APP211LはフォンとXLR(オス)の変換アダプターなのですが、これはPiezo Barrelの出力の高いアクティヴ・ピックアップでインピーダンス・トランスフォーマーを用いる場合に使います。
→TDC-You
→TDC by Studio-You Mic Option
→Neotenic Sound Buff-Cannon
また、このようなインピーダンス・マッチングをパッシヴのエフェクター型ボックスにしたのがTDC by Studio-YouのMic Option。以前にNeotenic Soundからも同様のコンセプトの製品が発売されておりましたが(というか、試作されていた管楽器用プリアンプPure Windの発売はまだでしょうか?)、このTDC-Youは、関西でハンドメイドにより各種エフェクターやライン・セレクター、DIなどを高品位に少量生産している工房で、エフェクターボードなどに固定させるインピーダンス・トランスフォーマーとして便利に使えますね(ファンタム電源対応のコンデンサー・マイクは不可)。すでにBuff-Cannonが手に入れられない者にとって有難い一品。
→Joemeek Three Q
→Neotenic Sound Board Master
そして、もう少し自分好みの音色に補正できないか、ということではやはり②が便利。マイクプリは正直、価格帯によってそれぞれの製品によるキャラクターの違いがあり、こだわるほど高価となるのですが、仕様としてはXLR入力でフォンのライン出力を備えた機種が条件となり、わたしとしてはJoemeek Three Qが使いやすいですね。本機はマイクプリ、オプティカル式のコンプレッサー、3バンドEQを備えた 'チャンネル・ストリップ' で、特に-10dBvと+4dBuのPad切り替えの付いたライン出力が重宝します。ここでは-10dBvにしてコンパクト・エフェクターへ接続して下さい。③はすでに廃盤製品なのが残念なものの、この①②を統合してやってくれる便利なものです。'困った時のNeotenic頼み' というワケではありませんが、ホントに '痒いところへ手の届く' ブツをいろいろ製作してくれる有難い工房でございます。このようなマイクから直列でコンパクト・エフェクターに繋ぐやり方の場合、別個にDIを最終段に置いてPAのミキサーへと送ります。
⚫︎気軽だけど音質はそこそこ確保したい。
→Pigtronix Keymaster
単純にダイナミック・マイクでコンパクト・エフェクターも一緒に使えて、そのままDIとしても機能できるライン・セレクターはないの?という場合、このPigtronix Keymasterはいかがでしょう?上で紹介したVP-01 Slick FlyやVoco Loco、Mixing Linkなども同種製品ではあるのですが、特別ファンタム電源は必要ないな、というのならこのKeymasterが便利。マイクからインピーダンス・トランスフォーマー及びマイクプリを直列で繋いでも音は出ますが、このようなライン・セレクターを用いれば不要なエフェクターは一発でOn/Offして、そのまま劣化させることなく原音をPAへ送ることが可能なのです。また入出力にBoost機能を有しており、これがそのまま 'プリアンプ' としてあらゆるインピーダンスの機器に対応します。またXLR入出力のほか、フォンの入出力はアンバランスのTSフォン及びバランスのTRSフォンにそれぞれ対応します(同時使用は出来ません)。
とりあえず、ピックアップ・マイクを買ってみたけどどう組んでみればよいか分からない皆さま、それぞれの予算に応じて参考にして頂ければ幸いです。
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