こんな新年の三が日、ひんやりと張り詰めた東京の空気には '歌う' 吟遊詩人、アート・リンゼイの新作 'Cuidado Madame' が良く似合います。
このひとの持つコード感がもの凄く好きだ。自分の 'こえ' の最も波長の合うところを分かっているというか、良い意味でずっとそれはソロ1作目から変わらない。まったくの 'ノー・チューニング' によるDanelectroの11弦を掻き鳴らし、一切の音楽的楽理から距離を置いたところでその個性を獲得したアート・リンゼイは、しかし、ジョアン・ジルベルト、ロバート・ワイアットと並び世界で最も美しい 'うた' を呟いている。
ああ、まるで宇宙遊泳をしているようなこの無重力感。アートが盟友ともいえるボサノヴァのギタリスト、ヴィニシウス・カントゥアリアと共作した1曲に 'Astronauts' という曲や、またバーデン・パウエルの 'O Astronauta' などがあるのだけど、まるで宇宙の果てへたゆたうように飛ばされながら一切の真空の中、耳元で囁かれている宇宙飛行士のような気分だ。このボサノヴァの持つ '余白' とコードの魔力、首都ブラジリアを設計したオスカー・ニーマイヤーの持つ近未来的デザインと宇宙飛行士がボサノヴァと融合する・・分かるかなあ?この感覚。
アート・リンゼイのもうひとつの 'こえ' ともいうべきノイズギターではありますが、例えば、膨大なエフェクツとあらゆる異物により変形させる 'プリペアード・ギター' のフレッド・フリス(元ヘンリーカウ)やマーク・リボー、ユージン・チャドボーンにヘンリー・カイザーといったニューヨークの実験派、そして彼らのルーツ的存在であるAMMのキース・ロウとは違う立ち位置にいる孤高の存在ですね。やはりその精神はアカデミズムとは真逆のパンクというか。足元の歪みはほとんどProco Ratだけで、そこから実に多彩なノイズを放出できるのはひとつの '匠' の域と言ってよいでしょう。
また、この手の元祖であるソニー・シャーロックやデレク・ベイリーとも違い、個人的には、ブラジルの弦楽器にして打楽器でもあるビリンバウからの影響をもの凄く感じます。実際、そのビリンバウの名手であったナナ・バスコンセロスとはよく自身の作品で共演、共作していたし、何より、その幼少期をブラジルで過ごしたアート自身の 'コスモポリタン' な立ち位置と強く結びついていると思いますね。ちなみにアート自身は自分の10代の '2大インフルエンス' としてジミ・ヘンドリクスと 'エレクトリック・マイルス' を挙げていたから、その怪人ギタリストとして異彩を放ったピート・コージーへの憧憬も強い。ふたりのルックスは '巨漢' と '痩せっぽち' と対照的ながら、実は案外似た者同士なんじゃないだろうか?いわゆる 'ヘンドリクス・マナー' でギターを弾きながらEMSシンセサイザーでノイズ垂れ流すというのが、まさにピート・コージーの特異性なワケでして・・。
ある意味でこの異邦人のセンスは、完璧な空調の効いた '不快指数0%' のリビングで遠くアマゾンやリオのゲットーから聴こえてくるカーニバルの喧騒に意識を飛ばす 'エキゾティカ' の視線とぶっ壊れたパンクの精神、それをヒップ・ホップやテクノの包装紙で包む同居した面白さがあります。キレイに包装されたプレゼントが届けられて開封したら、醜悪なXXXが溢れ出してくるような(イイ年した)こどもの悪戯というか嫌がらせというか。こういう毒のあるポップって最近聴きませんね・・。奇抜なことやるとかラウドに絶叫するとかじゃなく、こう、綺麗にポップな 'フリ' して醜悪な匂いを放つってのがたまらないのですヨ。
2018年もすでに後363日。地球を周回する人工衛星は一周を1時間半で世界を巡る・・あっという間。そんな青い惑星から今日もまた誰かがどこかの片隅で呟きます。世界の醜悪さと美しさと愛を口にして。
さて、そんなアート・リンゼイの 'こえ' は唯一無二のものなのだけど、ヴォーカル含めて楽器の持つ 'ヴォイス' を加工する上で、その質感を操作するエフェクターというのも見逃せません。トーク・ボックスやヴォコーダー、Autotuneによる 'ケロッた' 人工的なものまで行かなくとも '電話ヴォイス'、'AMラジオ・ヴォイス' を始めとしたザラついた質感は管楽器にも応用できるはず。いわゆるフィルターのシンセサイズやEQに加え、コンプに代表される 'ギュッ' と滲んだ '圧縮感' へ飽和する 'テープ・コンプ' とサチュレーション。ここからは番外編、そんな 'ローファイな' 質感生成に特化したものを見ていきましょう。
→Ibanez LF7 Lo Fi
→Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky ①
→Z.vex Effects Instant Lo-Fi Junky ②
→Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱ ①
→Chase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱ ②
楽器や音声などを加工する上で、エフェクターの中でも1990年代以降の新たな価値観に触発された一風変わったものが、Ibanezの 'Tone-Lok' シリーズの一台、LF7 Lo Fiです。その名の如く 'ローファイ' な質感にしてくれるもので、電話ヴォイス、AMラジオ・トーンなどの 'バンドパス' 帯域に特徴のある荒れた質感と言ったらいいでしょうか。そもそもは 'オルタナ・ロック' やヒップ・ホップにおけるロービットなサンプラーの荒れた質感を指す言葉として、1980年代のデジタル中心な 'ハイファイ' に対する価値観として共有されました。それはヴィンテージ・エフェクター再評価などもそうなのですが、むしろ、ターンテーブルからサンプラーなどのデジタル機器に取り込むことで、それまで気にも留めていなかった 'ノイズ' が音楽の重要な要素として際立ったことが、そのままある種の 'エフェクト' として切り取られたことに意味があったワケです。このLF7はギターのほかドラムマシン、ヴォーカルのマイクなど3つのインピーダンスに対応した切り替えスイッチを備えており、Drive、Lo Cut、Hi Cut、Levelの4つのツマミで音作りをしていきます。一応、ギタリストからDJまで幅広く使ってもらうことを想定していたようですが、結局はギタリストにはイマイチその価値観が伝わらず、DJにはそもそもこの製品の存在が知られることがなかったことで、現在でも他の追随を許さない '迷機' としてのポジションに甘んじております。また、このような 'ローファイ' な質感をアナログ・レコードのチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものとして、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi JunkyやChase Bliss Audio Warped Vinyl Mk.Ⅱなどが登場しました。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。特にこのWarped Vynal Mk.Ⅱのアナログによる古臭い質感、背面に備えられた8 x 2のDIPスイッチによる多彩なコントロール(多彩過ぎてリンク先参照)の 'ハイブリッド' な設計の緻密さに感服して頂きたい・・。個人的には派手にかかるエフェクツより、こういうビミョーな質感をチマチマいじれるヤツで自分のラッパの 'ヴォイス' を生成したいですねえ。
→Penny Pedals Radio Deluxe Lo Fi Filter
→Placid Audio Copperphone
そして、いわゆる 'ラジオ・ヴォイス'、'電話ヴォイス' に特化したPenney PedalsのRadio Deluxe Lo Fi FilterやPlacid Audioのダイナミック・マイク、Copperphoneなどのニッチかつユニークな製品はもっと広く 'エフェクツ派' に普及していって欲しいですねえ。リンク先にはトランペットでの音源もありますが、まさに1940年代の古臭いラジオからビ・バップが流れてきたようなトーンになってる!
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