1996年、エイフェクス・ツインことリチャードDジェイムズ主宰のレーベル、Rephlexから現れた一枚のアルバム 'Feed Me Weird Things' はジャンルを超えて世界を熱狂させました。
すでにUKのアンダーグラウンドから火が付いたジャングルという高速ブレイクビーツは、この時期、テクノやジャズのクールな世界観と結び付き、新たにドラムンベースとして '再生' します。いわゆるジャズの 'サンプル' を乗せたトラックが蘇生乱造される中、ひとりジャコ・パストリアスばりにエレクトリック・ベースを手に持ち、BPM170前後の 'ドリルンベース' と呼ばれる緻密かつ縦横に掘り尽くすビーツのスタイルは、ある種、'打ち込み' 音楽の極北を提示しました。その名はスクエアプッシャーことトム・ジェンキンソン。もちろん、現在も旺盛な創作力で作品をリリースしておりますが、すでにこの頃からは相当違う世界観に行っておりますね。
そんなスクエアプッシャーが 'ドリルンベース' の嚆矢のイメージから最初に脱却を始めたのが1998年、デビュー作から4作目(初期発掘作やカオスAD名義除く)にあたる 'Music Is Rotted One Note' にここでは注目。コレ、従来の 'ドリルンベース' を期待していたファンを一挙に引かせ、たぶん、これ以前と以後のファン(さらに最近のファンとはまた別の線引きがあるのですが)に分かれるきっかけとして、何故か現在まで宙に浮いた印象のある一枚なんですよね。
→Squarepusher Interview ①
→Squarepusher Interview ②
当時の心境は、上記の 'サウンド&レコーディング' 誌1997年7月号及び98年11月号のインタビュー記事を読んでもらうとして、98年の本作に関するインタビューでトム・ジェンキンソンが強調するのは、それまでスクエアプッシャーの音作りを象徴するシーケンサーとサンプラーは一切使わず、すべての生楽器(ドラムス、ベース、Fender Rodes、各種パーカッション、アナログシンセなど)を一人多重で演奏しながら昔ながらに組み立てていったことです。狭い四畳半の一室で、各楽器に安物のマイクをセットしてMTRに録音するスタイルは、本作のジャケットに登場する本人手作りのプレート・リヴァーブにまで 'DIY' 精神を発揮。しかし、昔ながらといってもそこに現れるのは、いわゆるジャズでもなければロック回帰でもない、まぎれもなくテクノを通過した者だけが手に入れられるアブストラクトなもの。
ちょうど時代的にクラブ・ミュージック界隈で 'エレクトリック・マイルス' 再評価の動きが騒がしかったこともあり、本作にもそこからの影響を受けたと思しき '質感' が横溢しております。こういうの、ジャズ上がりのミュージシャンだとアレンジ過多とソロ寄りの即興演奏になりすぎてつまらないものになっちゃうんだケド、本作のゴリゴリとした荒削りな感じはいかにも '宅録' っぽい匂いがして格好良いですねえ。
ちなみにこちらは2005年のライヴ。彼の 'ドリルンベース' もかな〜り進化しているというか、もう、唯一無二のスタイルで攻めてますねえ。これは盛り上がらない方がおかしいってくらいの熱狂的なノリ!スラップのアップダウンが激し過ぎる・・。
う〜ん、かなりクールというか、別の言い方をすれば耳にひっかる楽曲としてのフックのない、実にアブストラクトな展開のものばかり。上記のインタビューでも、スクエアプッシャーがフリー・ジャズを意識する、みたいなことが記事に書かれておりますね。しかし、このポップさ加減の少なさが時代の空気を超越して、いま聴いてみてもまったく古臭く感じない要因でもあります。何より、生楽器演奏であっても一発録りの勢いであるとか即興の精神性みたいなものだけを有り難がらず、最終的な編集と加工によって完成形にもっていこうというスタンスは、明らかに 'テクノの耳' から音楽を捉えていることを如実に反映します。この人が強調する 'インプロ' の精神性というのは、技術的な向上や高尚な複雑さというよりも、ひとり機材と向き合うことで '発見' することのプロセスに重きを置いているという印象が強いですね。
そんなスクエアプッシャーが2016年、再び1996年の 'Squarepusher Theme' を再演します。というか、出で立ちがほとんどDaft Pankみたいになっとる・・。しかし、'いま' の彼はダブステップ以降のウォブルベースで完全なるEDM路線を突っ走っております。いや、2015年の最新作である 'Damogen Furies' では、さらにそこのところを突っ込んだサウンドになっているようで・・もうわたしはついていけてません。
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