2017年9月1日金曜日

夏の終わりにミニマル・ダブ

残暑から一転、長かった夏も終わり・・というか、毎年のことながら夏大好きのわたしにとっては8月ってあっという間なんですよね。そもそも今年の8月はずーっと雨ばかりで早々と夏は終わってしまったという印象だし(悲)、これから短い秋を経てツライ冬がまたやってくるのかと思うと憂鬱だ。しかし、沖縄や台湾の高雄辺りなんかだとこのまま気候は変わらず、ポカポカした陽気のまま年を迎えるのだろうか?自分に今の環境を変える力があるのならばホントに移住したい毎年9月の心境でございます・・。





以前に '秋の夜長に耽る' でもご紹介しましたが、フランスで活動するVOSNEのミニマル・ダブ・セッション。この 'サウンドスケイプ' ともいうべき深〜いリヴァーブ&エコーの音像から滲み出す '4つ打ち' の美学は、まさにジャマイカで育まれたダブの世界観がそのまま、暗く冷たく閉ざされたヨーロッパの地で隔世遺伝した稀有な例と言っていいでしょうね。1996年、ドイツでダブとデトロイト・テクノという真逆なスタイルから強い影響を受けたモーリッツ・フォン・オズワルドとマーク・アーネスタスは、自らBasic Channelというレーベルを設立してシリアスな 'ミニマル・ダブ' を展開するリズム&サウンドと、1970年代後半からニューヨークでダブを積極的に展開させたロイド "ブルワッキー" バーンズの作品を再発させるという、特異な形態でダブを新たな段階へと引き上げることに成功しました。





当時、世界的に興隆したドラムンベースやエレクトロニカの手法の中心にはダブが色濃く漂っており、それをミニマルなテクノの様式で 'ヴァージョニング' させたこのミニマル・ダブは、Basic Channelのサブ・レーベル、Chain Reactionから登場したロバート・ヘンケと彼のプロジェクトのモノレイク、ステファン・ベトケのプロジェクトであるポール、そのベトケが設立したレーベルScapeから登場したキット・クレイトンらが続くことで、ひとつの様式美を打ち立てます。そしてBasic Channelの '心臓部' ともいうべきスタジオ 'Dubplates & Mastering' と敏腕エンジニア、ラシャド・ベッカー(ベトケもカッティング・エンジニアとして関わってます)が彼らの空間生成に寄与するという万全の体制、やはりダブにとってスタジオは創造の源泉と深く結び付く重要な '聖地' なのです。




彼ら 'Basic Channel' と 'Dubplates & Mastering' の協同体制は、特にモーリッツとマークのふたりからなるRhythm & Soundの 'ルーツ志向' から、ジャマイカの歌手であるJennifer Lalaを迎えた 'Queen In My Empire' や、1998年の 'イルビエント' 末期、ニューヨークのアンダーグラウンドでひっそりとカセットでリリースされたSpectreなるヒップ・ホップ・ユニットの作品も 'Dubplates & Masterring' で 'ワッキーズ' 同様にリマスタリングされて再発されるなど、その原点への配慮も忘れてはおりません。やはりこの硬質なダブの質感は、当然、亜熱帯の緩〜い気候と共に育まれたジャマイカ産の 'ルーツ・ダブ' とも、ニューウェイヴと共にメタリックな質感を持った 'UKダブ' とも違う、テクノを経過したドイツ産の 'Dubplates & Masterring' 特有のものでしょうね。





またミニマル・ダブの流れは、ヴラディスラヴ・ディレイやこのヤン・イェリネックなどに聴けるエレクトロニカ寄りというか、Mille Plateauxレーベルのクリック・テクノっぽい質感を持ちながら、やはりダブとテクノをコンピュータを媒介して '換骨奪胎' させる方向へと波及します。古いジャズのレコードのスクラッチを採取して生成したグリッチは別にして、低域の処理などで典型的ダブっぽさとは一味違う感じ?ミニマル・ダブと比較する意味でこの名盤を置いてみました。





DAWと並行して、ここ最近のガジェット的なテクノ機器の隆盛と平準化は、上述したVOSNEやこちらドイツのMartin Sturtzerなどにより 'Youtuber' 的なパフォーマンスで 'ミニマル・ダブ' の音作りを開陳致します。すべては誰もが手に入れられる環境にあって、いかに音作りと編集、ミックスにおいてそのクオリティーに差を付けられるのか。センスはもちろんですが、いかに飽きさせずに反復するための '展開' を描いていけるかがカギでしょうね。







肝心のモーリッツさんは現在Moritz Von Oswald Trioとして活動しており、最新作ではフェラ・クティのアフロビートを支えた伝説的ドラマー、トニー・アレンとの共演を果たしております。しかし、このライヴ動画を見る限りモーリッツさん、ほとんど残業でメール・チェックしている部長にしか見えないな(笑)。最初の動画はBasic Channelの質感、ミックスなどを伝えるべく50分近くのノンストップ・ミックスでまとめた優れた動画。うん、これだけでミニマル・ダブの構造がよく分かりますね。そして、これまたミニマル・ダブの重鎮、Rob ModellとStephen Hitchellのふたりからなるユニット、CV313の 'Infinit 1' のSTLによるヒプノティックなリミックス。う〜ん、サイケデリックだ。







しかしミニマルという言葉もずいぶんと使われ過ぎたというか、そもそもは1960年代、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーらの音の動きを最小限に抑え、その最小の単位から積み上げて反復させるミニマル・ミュージックに原点があります。ここは一応 '管楽器' を取り扱うということで(笑)、トランペットをフィーチュアしたMoritz Von Oswald Trioの曲と、テリー・ライリーがチェット・ベイカーの音源を元にテープ操作で 'ダブ' にしていくという珍曲をそれぞれご紹介。ライリーのはキング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップがやっていたFrippertronicsのルーツ的演奏にも聴こえますね。そしてもうひとつオマケ、こちらはトランペットのドン・エリスによる1961年のアルバム 'New Ideas' から、当時のジョン・ケージの影響と 'Fluxus' でやっていたダダイズム的パフォーマンスに影響を受けて '作曲' した 'Despair To Hope'。ジョージ・ラッセルの 'リディアン・クロマティック・コンセプト' に共鳴していた一方で、こんなオモチャ箱を引っくり返してしまったような怪しい感じ、これもわたしなりの 'ミニマル' です。

さあ、暑かった夏も終わり。こんなミニマル・ダブでこれからやってくる秋を前に火照った肌を冷ますべく 'Chillout' して下さいませ。

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