2017年7月1日土曜日

コンデンサー 'DIY' ピックアップ

長らくBarcus-berry のマウスピース・ピックアップを用いてきた近藤等則さんは2007年、DPAのミニチュア・マイクロフォンを流用して、オリジナルのマウスピース・ピックアップに換装しました。直径5.5ミリからなるDPAの無指向性超小型コンデンサーマイク。





Toshinori Kondo Equipments
DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063
DPA SC4060、4061 Review
Phoenix Audio DRS-Q4M Mk.2

"今年を振り返ってみると、いくつかよかったことの一つが、トランペットのマウスピースの中に埋めるマイクをオリジナルに作ったんだ。それが良かったな。ずっとバーカスベリーってメーカーのヤツを使ってたんだけど、それはもう何年も前から製造中止になってて、二つ持ってるからまだまだ大丈夫だと思ってたんだけど、今年の4月頃だったかな、ふと「やべえな」と、この二つとも壊れたらどうするんだ、と思って。なおかつ、バーカスベリーのをずっと使ってても、なんか気に入らないんだよ。自分で多少の改良は加えてたんだけど、それでも、これ以上いくらオレががんばっても電気トランペットの音質は変えられないな、と。ピックアップのマイクを変えるしかない、と。それで、まずエンジニアのエンドウ君に電話して、「エンちゃん、最近、コンデンサーマイクで、小さくて高性能なヤツ出てない?」って訊いたら、「コンドーさん、最近いいの出てますよ。デンマークのDPAってメーカーが、直径5.5ミリのコンデンサーマイクを作ってて、すごくいいですよ」って言うんで、すぐそれをゲットして。"

"それをマウスピースに埋めるにしても、水を防ぐことと、息の風を防ぐ仕掛けが要るわけだ。今度は、新大久保にあるグローバルって楽器屋の金管楽器の技術者のウエダ君に連絡して、「このソケットを旋盤で作ってくれないかな」ってお願いして、旋盤で何種類も削らして。4ヶ月ぐらいかけてね。で、ソケットが出来ても、今言ったように防水と風防として、何か幕を張ってシールドしないといけないわけだ。それをプラスチックでやるのか、セロファンでやるのか、ポリプロピレンでやるのか。自分で接着剤と6ミリのポンチ買ってきて、ここ(スタジオ)で切って、接着剤で貼り付けて、プーッと吹いてみて、「ダメだ」また貼り付けて、また「良くねーなぁ」って延々やってね(笑)。で、ポリプロピレンのあるヤツが一番良かったんだ。そうすると今度は、ポリプロピレンを接着できる接着剤って少ないんだよ。だから東急ハンズに行って、2種類買ってきたら一つは役に立たなくて、もう一つの方がなんとかくっつきが良くてね。その新しいピックアップのチューニングが良くなってきたのは、ごく最近なんだけどね。音質もだいぶ変わってきた。音質が変わると、自分も吹きやすくなるからね。"

こういうトライ&エラーな '苦労話' にはそうそうと頷きたくなるのですが(笑)、これは2007年にそのピックアップへ換装した頃のインタビューから抜粋しました。そもそも、このオリジナルへ換装する前にコンドーさんが10年ほど愛用してきたBarcus-berryのコンデンサー・ピックアップ、6001はわたしもそのセッティングにかなり手を焼いたものです。大体、感度の良いコンデンサーマイクを最も振動の拾う口元、マウスピースに穴を開けて接合するというのが考えられなかった・・。実はコンドーさんがオリジナルで製作したというマウスピース・ピックアップの構造は、そのままこのBarcus-berry 6001を踏襲したものなんですよね。ピックアップ本体のマウスピースとの着脱、防水、風防としてソケット部にポリプロピレンでシールドするなど、まんま流用しておりますね。これで大体想像がつくと思いますけど、このままプーッと吹けばまさに 'バジング' 練習の時に出るあの音が飛び出してきます。ギザギザとラッパらしからぬノイズ音で '鳴り' もなければ音程も定まらない代物・・。Barcus-berry 6001は専用のプリアンプ3500AでEQするのですが、これはほとんど音質補正としては意味がなく、わたしは、このプリアンプの後にコンプレッサーやコーラスなどを繋いで何とか凌ぎましたね。コンドーさんはNeveのプリアンプをイメージした4バンドEQ、DI及びラインアウト搭載のPhoenix Audio DRS-Q4M Mk.2でピックアップの補正を行っており、一聴した限りでは近接効果によるローの膨らみや不要なノイズをうまく処理しているようです。しかし、当初はソケット部にシールドを施しながら "ダメだ、良くねーなぁ" と何度も試行錯誤していただけに、プリアンプの4バンドEQ及び120Hzでカットするハイパス・フィルターだけでこれら不要なノイズを均せるのかは疑問。たぶんDPAのミニチュア・マイクが無指向性というところに秘密があるのかも・・。



さて、DPAのコンデンサー型マウスピース・ピックアップ。確かにピエゾ型のマウスピース・ピックアップと比べて、アコースティック楽器の持つ '鳴り' の空気感、豊かな倍音の再生などはよく捉えていると思います。しかし一方で鋭くなった感度の分、余計なノイズの増幅やハウリングの誘発にシビアとなることは覚えておいた方が良いでしょうね。楽器を握ったり触ったりするだけで 'ギュッ、サワサワ、カチャカチャ' とBarcus-berryのヤツは結構耳障りに '増幅'・・。基本的にこれらはアコースティック用アンプなどの再生には向かず、DIからPAミキサーへラインで引き回してパワード・モニターで再生するのがベターです。

実はこのDPAやBarcus-berry 6001のほか、マウスピース・ピックアップにコンデンサーマイクを採用したものとしてドイツのRumberger Sound Products K1Xというのがあります。eBayからも購入することが可能ですが、さすがにコンデンサーマイクだけに価格は5万弱と結構しますねえ。

Rumberger Sound Products K1X ①
Rumberger Sound Products K1X ②

DPAのもそうですが、このRumberger K1Xもワイヤレス・システムに組み込み使うことが可能なので、ステージ上を電気楽器のアンサンブルの中で派手に動き回りたい場合、ベルに取り付けるグーズネック式のコンデンサーマイクに比べてある程度のハウリングに威力を発揮するかもしれませんね。真ん中のRumberger K1X、スタンドにセットしたダイナミック・マイクSM58、ビデオカメラ内蔵のマイクによる収音での比較では、K1Xの近接ながらピエゾよりエアー感ある音色なのが分かります。コンドーさんが本製品の情報を知っていたら、たぶんオリジナルで試行錯誤せずこっちを使っていたかも。

Barcus-berry C5600①
Barcus-berry C5600②

こちらは厳密にはコンデンサーマイクではなく、9V電池で駆動するエレクトレット・コンデンサー・ピックアップ。'エレアコ' 用ピックアップやプリアンプ製作の老舗であるBarcus-berryは、このベルクロで管楽器のベル内に取り付けるピックアップを唯一現行製品としてハーモニカ用はC5600、サックス/クラリネット用はC5200の型番でラインナップしております。ただし、ピックアップと9V電池内蔵のバッファー・プリアンプ3000Aの接続にRCA端子を使うなど、頻繁に抜き差しする箇所で 'ヤワな作り' (RCAは耐久性が低い)となっており、ホント、結構な価格設定のくせにここだけがこの会社の製品に共通する不満ですねえ。





PiezoBarrel on eBay

そして、わたしも現在愛用中のオーストラリア在住Steve Fransisさんのブランド、PiezoBarrelから、いよいよMonette型(Monette製ではない)のヘヴィタイプに装着されたマウスピース・ピックアップ登場です!従来のBach型(Bach製ではない)マウスピースへのソケット加工では、どうしてもサックス用マウスピースのような肉厚に穴を開けてマウントすることができず、マウスピースのシャンク部分を平らに削り、その上から半田で '乗せて' 固定するしかありませんでした(実際、わたしのは一度半田が取れた)。この肉厚なMonette型であれば、もう少しシャンク部分を削ることが可能だと思うのですが・・ムム。気になった方は是非eBayから注文して試してみて下さいませ。また、PiezoBarrelを用いた管楽器奏者による動画も僅かながらYoutubeに上り始めておりますが、このヴァルブ・トロンボーンの方は興味深いですねえ。マウスピースのシャンク部分のスペースが取れなかったのか、カップ部分に穴を開けて装着した為、当然ながらプシャ〜っと息の混じったトーンで拾っております。'アコギ' でもそうなんですがピエゾ・ピックアップは取り付ける位置により収音が激変するんですよね。このカップ部分への穴を開けた取り付けは、実はBarcus-berryのマウスピース・ピックアップでも推奨されていた取り付け方でして、創業者のLester M. BarcusとJohn F. Berryのふたりの名で1968年出願、1970年に公開された図面でもこのかたちで特許を取っておりました。う〜ん、こういう 'サブトーン' ぎみなサウンドを狙うのでなければ、個人的には、やはりシャンク部分に穴を開けて取り付けた方が扱いやすいですヨ。

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