明けましておめでとうございます。
え〜っと、今年は何年でしたっけ?。2020年の新型コロナ感染症と世界的なパンデミック以降、その風景はガラリと一変したままカレンダーをめくってはああ、今年は2023年なんだと改めて確認する次第。いやはや、無為の日々に身体が適応しているというのは恐ろしいことです。そのような中で去年は、色々とここ日本に滞留していた '淀み' のようなものがあちらこちらで噴出していたと思うのですヨ。まさかの安倍元総理銃撃事件は衝撃でしたけど、何か日本からあらゆる '栄光' のようなものがこぼれ落ちていく無力感に襲われているのではないでしょうか?。
さて、ポップミュージックとしてこのFriday Night Plansは久々に良い感じのグルーヴを提供して大きく飛躍、話題になるかと思いきや、相変わらず散発的な活動でじっくりゆっくり世の中の動きとは関係なく自身のペースでやっている模様...。もしかしたら、もうメディアが主導するヒット・チャートなんてものには価値なんか無いのかも知れませんね。というか、やたらメディアが卑近のK-Popなんかと比較、扇動するような記事に踊る 'NIPPONのエンタメ' ってそんなに 'オワコン' なんかな?。あらゆる場所から音楽好きな人たちのフックアップが弱くなり埋れている人がたくさんいると思うのですが...とりあえず、Masumiさんサイコーです!。
さて、こちらは変わらずひとり大量のペダルと共にコツコツとやっているDennis Kyzerさん。いつも 'Effects Database' やネットの前を陣取り世界の片隅にある小さな工房の製品をチェック、収入のほとんどをこーいうガジェットに注ぎ込むマッドな 'ペダル廃人' ではないか?と想像するのですが、できましたら一度、彼の 'お宅拝見' 的にそのマッドな環境を公開して頂きたい(笑)。しかし、新年初めの2022年ベストは大晦日までに来なかったか...残念だなあ(追加来ました!)。
そんなオタクなDennisさんから一転、デンマークから発信するThe Pedal ZoneさんはむしろSNSの恩恵をたっぷりと使ってメーカーと提携、オサレに世界各国のペダルをレビューしている感じがありまする。何か編集など、以前に人気を博していたPro Guitar Shopの動画あたりを参考にしてギタリストが望む情報を上手く掴んでますね。ちなみに同様のスタンスでは、カナダから発信するKnobsさんがエレクトロニカ限定ながらオサレな動画でレビューしているというイメージがあります。そして、これまで一介の 'ペダルレビュワー' だったThe Pedal Zoneはなんとこれから夢だったペダルの小売業、ディストリビューターとしての事業拡大が決まったそうです。これぞ人気インフルエンサーゆえの影響力ですね、おめでとうStefanさん!。
元PGS(Pro Guitar Shop)の名物レビューギタリストであったAndyが担当するReverb.comの '2022年ベストペダル' Top 5。しかし、誰かのコメントで "海外のAndy、日本の村田善行さん(フーチーズ)" と言っていたのを見かけたけどなるほど、なかなか旨い表現です(笑)。そして、Reverb.comのプロデュースで制作されたドキュメンタリー映画 'The Pedal Movie' も挙げておきましょう。これは日陰のようなこの業界に携わる人たち、ペダルの歴史に焦点を当てた素晴らしい内容でしたね。一方、続々と新興の工房が参入している昨今の状況でついつい見落としちゃいますが忘れちゃいけない、マイク・マシューズ御大率いる老舗 'エレハモ' のペダル群がもたらした革命的イノベーションをどーぞ。
さらに昨今は色々なYoutuberによるペダル・レビュー動画が溢れておてどれも追いきれませんけど、こちらのお三方+新たにノルウェーのYoutuber、'Dipswitch Demos' さんの 'ベスト・ペダル' の動画が今年は来ましたヨ。あれこれ '喋り' や弾き手のパフォーマンスがメインになってしまったような動画より、シンプルにペダルの特徴を見せてくれる方がありがたいですね。というか、今はどんなに小さな無名の工房の製品でもあっという間にレビューに載せられちゃうくらい世界は狭くなりました(汗)。おっと、こちらもSpiralCasterPlaysPedalsとPedal of the Dayのお二人方から2022年のベストは届かなかったか...残念なり(追加UP待ち、と思っていたらMoogerfoogerの二部に渡るプラグイン特集かあ...ガッカリ)。
こちらはここ最近、ハープを 'アンプリファイ' にして 'グリッチ系ペダル' ばかりアプローチすることで人気を博しているお姉さん、Emily Hopkinsさんも素敵です。自身のハープに合う 'ペダル50選' とベストな 'Lo-Fiペダル'、そして大量のガジェット的扱いなペダル群のレビューもすでに安定の大人気です。こんな裾野を広げていくアプローチは大歓迎なんで、日本の 'The EffectorBook' 誌も従来のギタリスト感性だけに囚われず面白い人や企画を取り上げて頂きたいですね。
そして今、ここ日本でTS-808のモディファイやPhantom Fxの希少なペダル、BJFEやElectrograveとのコラボなど攻めたラインナップでペダル業界を賑わせているのがPedal Shop Cultを主宰する細川雄一郎氏です。その細川氏が手がけた初のオリジナル・オーバードライヴ、Rayはこれまでの他社プロダクトとは一線を画す画期的なデザインで、解像度の高いハイ・コンポーネントのパーツを用いて製作されております。基本的に管楽器の 'アンプリファイ' と相性の悪い歪み系ペダルはココで取り上げることは無いのですが(汗)、本機の動画で実践するTreble 0、Driveを絞った甘いウーマントーン(11:56〜15:13)は気持ち良くて好き。このセッティングをベースにした管楽器用の 'サチュレーション系ペダル' とかリクエストしたいですねえ。続く第二弾とも言うべきディストーションTempestも用意しながら、しかし、特徴的な超々ジュラルミンの筐体加工に近年の半導体不足やアナログパーツ類の枯渇、生産終了による供給先の変更などにより不定期の少量生産体制になっている模様。そういえば老舗Fulltoneや傑作Geiger Counterからモジュラーシンセの分野にも進出したWMDは、そのような世界情勢の変動に左右されて工房を閉めてしまいましたね...残念なり。世のペダル好きに応えるべく日々希少なパーツ確保しながらオリジナルな製品を提供する誰よりもペダル好きなCultさん、アタマが下がります。そんな細川さんがギターマガジンとのコラボで去年の暮れからスタートしたのがこちらの番組、MVP(Monthly Vintage Pedal)。その名の通り月一で細川さん所有の膨大なヴィンテージペダルから一台セレクトしてあれこれその魅力を紐解いて行こうという、まさに世の 'ペダル廃人' が待ち望んでいた内容です。何よりそれを最高のギターとアンプ、最高のマイクといった録音環境で提供してくれるという大盤振る舞い!。しかし、並行してギタリストの戸高賢史さんとやられているもうひとつの番組、'Buzz Box TV' 同様のスーパーフラットに淡々と低〜いテンションで進行する様がジワジワきますね(笑)。第一回目が新映製のクローンであるSekova Big Muff、二回目は70'sフェイザーの名機にして超貴重なMXR Phase 90の最初期Rev.AとRev.Bというマニア垂涎モノ。最新の第三弾はMarshallのSupa Fuzzというラインナップで初っ端から攻めておりまする。
いわゆる 'サイドチェイン' に特化した音作りでRainger FxのMinor Concussionという珍品を所有しているのですが、この怪しげなガレージ工房の同種製品Planetariumもようやく手に入れました。コンプをベースにステレオ・リヴァーブとコーラス・エコーを組み合わせた複合機、Neon EggのPlanetariumはそのビザールな佇まいから興味をそそられます。ある意味その 'ガレージ丸出し' なアナログシンセ的筐体から生成されるサウンドは、Attack、Release、Ratioに加えて優秀なサイドチェイン・コントロールで 'ダッキング' による音作りを約束。これもV.2で従来のデュアル・モノからリアル・ステレオ仕様となり、DC9VからDC15Vに上げられることでよりヘッドルームの広いコンプレッションを実現します。そして2つのリヴァーブとコーラスから3つの異なるアルゴリズムを選択して、Sizeツマミは2つのリヴァーブ・サイズとホール・リヴァーブを追加。EchoセクションはMix、Time、Feedbackに加えてモジュレーションの部分で正弦波と方形波の選択と共にワウフラッター的不安定な揺れまでカバーします。ちなみに同種の効果では、英国の奇才にして 'マッド・サイエンティスト' であるDavid Rainger主宰の工房、Rainger FxからMinor Concussionがありまする。基本的なトレモロのほか、外部CVや付属のダイナミック・マイクをトリガーにした ' サイドチェイン' でVCAと同期させてReleaseによるエンヴェロープを操作できるなどかなりの '変態具合' です。そんな本機の後継機としては現在、同工房からより小型化したマイナーチェンジ版のDeep Space Pulserが用意されております。こんな奇妙な 'サイドチェイン' にハマるギタリストとか、出てこないかな?(笑)。
そして 'サイドチェイン' の別枠としてその '有終の美' を飾るのが、あの破壊的マルチ・ディストーションGeiger Counterで一斉を風靡したWMD。このProtostarはエンヴェロープ・フィルターをベースにコンプレッションや各種CV、外部エフェクトループを駆使した音作りを推奨する稀有な一台。まさにペダルで 'プチ・モジュラー気分' を味わえる拡張性として筐体上面にズラッと並ぶ9つのCV/Gate端子の凄み。本機内でEnv OutやLFO OutをLFO RateやLFO Amt、Freq、Feedbackなどへパッチングするだけでも色々と楽しめますヨ。しかし、このWMDはモジュラーシンセの分野へとその触手を伸ばしながら去年の暮れ、折からのコロナ禍や戦争による半導体不足、生産体制の不備も重なり惜しまれつつその歴史に幕を閉じました(涙)。これまでユニークな製品開発をありがとうWMD!。ProtostarとGeiger Counterは今でもわたしのコレクションの資産です。
このOnsetは後述するVongon ElectronicsがLand Devicesとコラボしたエンヴェロープ・モディファイアの 'オート・ヴォリューム効果' に特化したもので、通常のラインナップとは一線を画すシンプルなヤツ。とにかくわたしの 'エンヴェロープ大好き!' な気持ちを鷲掴みする逸品なのです。古くはMaestro Envelope Modifier ME-1やBoss SG-1 Slow Gear、Paiaの5730 GatorからDODのSwell Pedal、そして近年ではElectro-HarmonixのリファインしたAttack DecayやVongonからのParagraphs、Dreadbox Epsilon 2などにも備わっております。そんな '日陰モノ' の地味なエンヴェロープ効果ではありますが、それをディレイとヴォリューム・ペダルで組み合わせた空間生成の演出に威力を発揮する 'ヴォリューム・エコー' 技。この効果の再評価を促したのは 'アナログ・モデリング' なデジタル・ディレイで一世を風靡した名機、Line 6 DL4 Delay Modeler搭載のプログラム 'Auto Volume Echo' ですね。
米国はコロラド州デンバーから変態的な '飛び道具' ばかり製品化するManitic Effects。その中でもエンヴェロープを中心とした多目的セレクターPendulumはかなりニッチな機能の一台であり、その4つの機能を示すフットスイッチLEDのモードは以下の通り。
●Blue Mode
フットスイッチ(モメンタリーまたはラッチ式)切り替えはShiftを押したまま、フットスイッチを押す。Attackツマミは駆動時に設定されたMixにどのくらい時間をかけてかかるかの調整。Decayツマミは駆動していない時にどのくらいの時間をかけて戻るかの調整。単にヴォリュームを大きくしたい時はInput 2に接続。
●Green Mode
ゲートスレッショルド、ダイナミックアクチュエーター的なモード。このモードでは入力1の信号が任意のポイントでクロスフェードがかかるように調整。エフェクツを演奏している時にだけかけたい、または音を出さない際のミュートとしても便利。Shiftを押したままMixツマミを回すとミニマムの量を調整可能。
●Yellow Mode
トレモロ/パンニング的な使い方。
●Red Mode
Yellow Modeに近く、タップしたテンポのパターンにトレモロが変化する。
本機は入出力に何を接続するかによって機能が変わり、いわゆる2台のアンプのクロスフェードとスイッチャー的な機能、そして各モード変更ごとの設定の自動保存、3.5mm TRS経由による全てのMIDIコントロールを受けることが可能。さて、こんな地味なエンヴェロープをループ・セレクターに盛り込んだペダルが過去あったよな、と思い返せば、今は無きToadworksが世に送り出した珍品Enveloopeがありました。いわゆる1ループのセレクターにエンヴェロープの機能で各種ペダルををインサートするという謎アイテムで、動画では同社のトレモロPipelineをループにインサートしての地味なエンヴェロープ操作を開陳(笑)。SensitivityとReleaseの2パラメータを軸に2つのトグルスイッチが通常のトゥルーバイパス・モードのほか、'Dyn' モードにすると隣の 'Direction' スイッチの 'Normal' と 'Rev' の2モードに対応します。それぞれ 'Dynamic Forward' と 'Dynamic Backward' からなり、'Forward' では入力信号を複数に分割してエンヴェロープ操作、そして一方の 'Backward' はそれが逆となり(だから 'Rev')、主に基本の信号はループからのものとのことですが・・よくこの機能だけをペダル化しようと思いましたね(苦笑)。さて、そんなEnveloopに組み合わせるトレモロとしては、Perfect Square Electronicsなる工房のHyperslicerをチョイスしました。最近、BossからSL-2 Slicerというデジタルの同種製品が登場しましたが、本機はデジタル制御の4つのモードスイッチとタップテンポ、モメンタリースイッチによるトリガーで踏むと同時に '揺れ' が1回、2回、4回と設定可能。タップテンポを不規則に設定すれば・・おお、この中途半端な 'グリッチ感'!(笑)。結局、これ以降のデジタルによる本格的な 'グリッチ・ペダル' の隆盛でこの手の製品は市場から消えていってしまいましたが、Exotic RobotalkやLightfoot Labs Goatkeeperなどから連綿と続く '時代の徒花' を刻銘する珍品のひとつですね。
そして、フィードバックの機能に特化した 'ローファイ' な質感のデジタル・ディレイたち。わたしがメインで愛用するStrymon Brigadierもスイッチひとつ踏むだけで発振するフィードバックを備えておりますが、こちらは米国サウスカロライナ州のコロンビアに本拠を置くCaroline Guitar CompanyのローファイなディレイKilobyteとリヴァーブMeteore。この手の 'ローファイ' な質感をシミュレートしたデジタル・ディレイに搭載されているのがPT2399というICチップであり、そこに 'Havoc' スイッチを搭載してより攻撃的なサウンドへと志向しております。一方、スライダーのコントロールによるフィードバックではIbanezのEcho Shfterも人気となった一台ですね。ES-2からES-3とモデルチェンジしながら好評を得ておりますが、初代ES-2を設計したのは独立して名古屋から 'ガジェット的ペダル' を製作するElectrograveの主宰、Kaz Koike氏です。また、ありそうでなかったものとして今は無きEye Rock Electronicsのペダル内蔵型ディレイのO.K. Delayも取り上げたい一台。650msという短いディレイタイムながら筐体両側面にある2つの大きなホイールで原音→エフェクツとRepeat、そしてペダル・コントロールがDelay Timeとなりまする。これらはツマミ型のスイッチにより各々機能を入れ替えることが可能で、ここ最近のディレイではあまり製品化されない仕様でもありますね。さて、今やすっかり '曰くつき' (苦笑)のブランドとなってしまいましたがある時期、日本の 'ブティック・ペダル界' で気炎を吐いたHonda Sound Worksが2007年に工房を閉じる最後の製品として送り出したのがこのFab Delay。基本はPT2399チップを用いた 'アナログライク' のデジタル・ディレイなのですが、レトロなスライダーコントロールでFeedbackとTimeをリアルタイムに操作して攻撃的な音作りに特化させたもの。動画は静岡の工房Soul Power Instrumentsでディレイ音を残しながらOn/Offする 'Trail機能' をすべく、ミキサー回路内蔵のモディファイをしております。オリジナルは2つの小ぶりなプラスティック製のスライダーで操作しますが、現在、手許にあるのはゴム製の大ぶりで量感のあるスライダーに換装されているのが格好良し!。一方、その背景が一切謎で2014年頃の製品とされるSmall Grey PedalsのEuropa Reverb。仕様としては最初にご紹介したCaroline Guitar Company Meteoreと同種のフィードバックに特化したリヴァーブであり、そんなロング・サスティンの演出に一役買う 'Swell' ツマミ含め、この無骨なブティック丸出しのルックスがたまりません。最後は残念ながら去年その工房を閉めてしまったShun Nokina主宰のLeqtiqueからデジタル・ディレイ、EDM。基本的に高品質な歪み系中心のラインナップにあって、リヴァーブのStellaclasmと並ぶ初の空間系である本機はその名もズバリのEDMで鳴らされるキックのようなフィードバックが面白い。PT2399チップによる最大500msというショートディレイの限界を最大限に引き出しながら、Linear Technology社のLT1213超高解像度オペアンプによる原音とのミックス回路を組み込むことでハイファイな音像を追求しております。また、ミニノブの 'Ambient' コントロールにより定位のスタビライズ的な効果も得られるなど発想もユニークですが、SNSのプレゼント企画でその 'Ambient' ツマミを省いた世界で一台だけのEDM Beta(画像の緑のもの)はレアものになるでしょうね。以下、Nokina氏の説明ではこう述べております。
"EDM Betaに関しては、あえてAmbientコントロールを無くして、DelayのタイムをTHDが劣化しない範囲に制限し、またそれに合わせて一部の定数、部品の変更で解像度をさらに上げることで超Hi-Fiなショートディレイマシーンを実現しています。"
すでに生産終了とはいえ一台ずつハンドメイドでペイントされた各々 '差異' のある本機は、かなりの生産数から市場で見つけることは可能なのでお好きなペイント柄を手に取って頂きたい。ちなみにわたしは同工房製作による10 Band Graphic EQを愛用しておりまする。昨今、複雑なディレイタイムとプリセットの高品質なデジタル・ディレイが一般的となったことで触手の伸びなくなった製品ではありますが、わたしはこんなシンプルかつある機能に特化したヤツが大好物なのです。
さて、そのエンヴェロープに特化したParagraphsを擁しているのが米国カリフォルニア州オークランドでエンジニア、Ryan McGillの主宰する工房のVongon Electronics。アナログローパス・フィルターのParagraphsや、落ち着いた質感のウォールナット材に黒いコンポーネンツを組み込み1970年代後期のLexiconデジタル・リヴァーブをシミュレートしたUltrasheerで大きな話題を集めました。そんなVongonから去年の暮れに登場したPolyphraseは、Lexicon Prime Timeデジタル・ディレイをシミュレートして金属質なフランジング効果から22秒のループ・サンプラーとMIDIを備えるなど攻めたアプローチでペダル界を賑わせておりまする。
最近のペダルで集め出したのはVongonと並びいま勢いのある英国の工房、Intensive Care Audio。こちらのコーラス/ヴィブラート・ユニットの皮を被った '変態グリッチ' の変わり種、Fideleaterが面白い。'痩せ' と 'デブっちょ' のマークの付いた 'Untie' スイッチを 'デブっちょ' にすると一変、まるでテープを噛み砕いてブチブチと燃やしたようなグリッチ効果を8種のLFOと共に崩壊させます。そしてVena Cava Filterはオート・フィルターとリング・モジュレーション、ディストーショナルなトーンを生成する尖ったVCFの一種。こちらもFideleater同様に8種のLFO波形を選択する 'Wave Funcion' を軸にフリケンシーとリング変調で '飛び道具' へと変貌します。最近、この2種は新作のDeath Drive含め、中身はそのままに 'ブランドマーク' の付いたフットスイッチ・カバーと従来の '横型' 筐体から '縦型' 筐体のV.1へと各々仕様変更されました。そして2つの 'デュアル・フェイズ' を備えたエグいリゾナンス効果のRecovery Phaseもラインナップ。この工房の製品が面白いのは、その名の如く梱包に薬局の紙袋や薬のような取扱説明書、絆創膏という '小道具' まで封入していること(笑)。
'70's鉄板の音作り' である一斉を風靡した 'コンプ+フェイズ' の組み合わせを、まさかの '2 in 1' で商品化してしまったGretschのFreq-Fazeもユニークな一品でした。一般的にコンプレッサーと呼ばれるエフェクターは単体のほか、初期の 'ファズ・サスティナー' を筆頭に歪み系ペダルとの '2 in 1' で製品化される場合が多いですね。その中でもこのFreq-Fazeは唯一無二の 'コンプ+フェイズ' をひとつの製品として組み込んでしまった "なぜそうなる?" が具現化された珍品。'ペダル界の秘境' とも言うべきGretschのペダルといえばExpandafuzz、トレモロのTremofect、管楽器用オクターバーであるTone Divider、またイタリアの老舗Jen ElettronicaがOEMで製作してGretschが 'Playboy' ブランドで販売したシリーズもありましたが、どれも一般的知名度の低い 'レアもの' 扱いとあってこのFreq-Fazeも滅多に市場へ姿を現すことはありません。本機が 'コンプ+フェイズ' 以外でも実に奇妙な仕様となっているのは、まず卓上に乗せるような 'ハーフラック・サイズ' であること。多分、キーボードの上に鎮座して使うことを想定させておきながら、いわゆる '尻尾の生えた' AC電源仕様ではなくまさかのDC9V電池駆動のみなのは・・なぜ?。エフェクツのOn/Offは筐体前面のトグルスイッチで行うのですが、筐体後面に回るとIn/Out端子のほかに蓋がされている。多分、ここにオプションのフットスイッチ繋いでOn/Offさせるつもりだったらしく、これも特に実用化されずに蓋をされてしまったということは色々と頓挫していた模様(苦笑)。この時代ならではのかなりガッツリとかかるコンプがフェイズの倍音を際立たせる効果で、こういう意外な組み合わせは再評価しても面白いでしょうね。いま作るのならCooper FxやOK Custom Designのセレクターにある 'フリップ' するスイッチを組み込み、コンプとフェイザーの前後を各々入れ替えられる仕様で製品化してみたいなあ。例えば'70's CarlinのCompressorとPhase Pedalの '2 in 1' とか、どこかの工房さんやりませんか?(笑)。
フランク・ザッパが異常とも言えるほどギターの 'フィルタリング' に対する偏愛を隠さなかったのは、今やエフェクターを追求する者にとって広く知られた事実でもあります。古くはGibsonのMaestro Rhythm 'n Sound for Guitar G-1内蔵の3種からなる 'Color Tones' とファズトーン、オクターバーをヘッドアンプのAcoustic 260と共に音作りしたことから出発します。ただ、ザッパの機材を詳細に解説しているMick Ekers著の 'Zappa Gear: The Unique Guitars, Amplifiers, Effects Units, Keyboards and Studio Equipment' によれば、同シリーズの姉妹機である管楽器用Sound System for Woodwinds W-2を使用してたとのこと。う〜ん、あえて管楽器用を使いますか??(謎)。そのMaestroのエフェクターを設計したトム・オーバーハイムが自身のブランドでも発売したVCF-200の 'ランダム・アルペジエーター' は、1976年の来日公演のステージから突発的に始まった 'Ship Ahoy' の名ソロとしてその後、1981年のアルバム '黙ってギターを弾いてくれ' に収録することで世界に問いました。
さらにArbiterのレアなAdd-A-Soundを出発点として、その小さなサイズからギターに組み込んでしまったDan Armstrong Green Ringerのアッパー・オクターヴな効果もザッパのギターサウンドに一役買っております。これもMusitronicsによりライセンス生産された米国製と英国のWareham Electronicsにより生産されたものがあり、特にジャズ・ドラマーのアルフォンソ・ムザーンが所有していたとされる 'Waveform Modifier' のBlue Clipperはその初期仕様を伝えます。ムザーンはドラムにピックアップでも装着してオクターヴ上かけてたのかな?(笑)。そんなニッチな倍音を生成するGreen RingerはDan Armstrongから復刻品も用意されておりましたが、今ならLovepedal BelieveやLand DevicesのDominoといった優秀なクローンが用意されておりまする。
そしてMicmixのラック型 'エンヴェロープ・モジュレーション' ともいうべきDynaflangerなども見出して愛用しましたが、そのHarmonic Energeizerからインスパイアされてザッパがギターに組み込んだと思しきフィルター回路をペダル化したとされているのが、Spontaneous Audioという英国の工房の手によるSon of Kong。本機の構成は、ルパート・ニーヴの '質感' に迫ったプリアンプEQ/DIのJHS Pedals Color Boxと類似した 'DI/+20dB' の切り替え可能なEQ、ゲイン・チャンネルV1、V2をベースにしたプリアンプ/DIとなります。特徴的なのはそのEQセクションがVCFに匹敵する 'フィルタリング' からディストーショナルな歪みまでカバーしており、ここに本機が求められている個性が隠されていると言って良いでしょう。ちなみにKeeleyの手がけたBubble Tronは、そのDynaflangerからインスパイアされた多目的エンヴェロープ・モジュレーションの優れた一台となりまする。
そんなザッパのフィルタリングに対する音作りに訴えたペダルとして、このFZ-851は父親の楽曲を再現する上で息子のドゥイージルがザッパと縁の深いPerformance Guitarにオーダーしたマニアックな一台。Boss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-Pass、Band-Pass、Hi-Passを切り替えながらフィルター・スウィープをコントロールするという荒削りさで実際、ペダル裏側には配線がホットボンドで固定されフォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身なんですが・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼べるほどエグい効果から、EQ的な操作をして帯域幅の広いQの設定、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' やワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。また本機はBoss FV-500の筐体を利用したことでタコ糸によるスムースな踏み心地なり。そして、米国の工房Henretta Engineeringから手のひらサイズで 'ツマミ一切無し' シリーズの超小型ペダルがラインナップされております。プリアンプ、コンプレッサー、ファズ、ブースター、トレモロ、アッパーオクターヴの各種ペダルが用意されておりますが、ここで明らかにザッパから影響を受けたと思しきエンヴェロープ・フィルター 'Green Zapper' にご注目。わたしはこのシリーズを展開する前に同工房が製作したと思われる日本未発売のBig Zapperを所有しております。というか、本機は全く別物というくらい豪華な仕様となっており、別名 'Filter Sweeper' から象徴されるように 'Smooth' と 'Chopper' 2つのエンヴェロープを設定してワウからフィルター・スウィープまで幅広い音作りに対応します。
こちらは作曲家の富田勲氏が1971年の 'Moogモジュラーシンセ' 導入直前に入手していたのがドラム・メーカーのLudwig製作による初期ギターシンセ、Phase Ⅱ Synthesizer。まあ、いわゆるVCFをベースにした '擬似ギターシンセ' でして当時、富田氏の下で修行していた松武秀樹氏はその仕事の度に 'ラデシン用意して!' と言われるほど重宝していたとのこと。
"「だいこんの花」とか、テレビ番組を週3本ぐらい持ってました。ハンダごてを使ってパッチコードを作ったりもやってましたね。そのころから、クラビネットD-6というのや、電気ヴァイオリンがカルテット用に4台あった。あとラディック・シンセサイザーという、フタがパカッと開くのがあって、これはワウでした。ギターを通すと変な音がしてた。それと、マエストロの 'Sound System for Woodwinds' というウインドシンセみたいなのと、'Rhythm 'n Sound for Guitar' というトリガーを入れて鳴らす電気パーカッションがあって、これをCMとかの録音に使ってました。こういうのをいじるのは理論がわかっていたんで普通にこなせた。"
このLudwig Phase Ⅱで聴ける '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。そして、俗に 'オシレータの無いモジュラーシンセ' と呼ばれるVCFのバケモノFilterbankは、流石に現在では使われ過ぎて '飽きた' という声もあるもののその潜在能力の全てを引き出してはおりません。個人的には当時の主流であった無闇矢鱈に '発振' させない使い方でこそ、本機の新たなアプローチが光ると思っているんですけどね。そんな強烈なフィルタリングから発振、シンセサイズの歪みとドラムマシン、ギターはもちろん管楽器にまでかけるモノとして、何と100台限定でFilterbankを4機搭載してしまったバケモノ、Quad Modular Filterに挑む挑戦者求む!。その強烈なフィルタリングと発振、歪みからシンセやドラムマシン、ギターはもちろん新たな要素として管楽器にまでかける猛者が現れます。クラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロでquartz-headやrabitooほか、いくつかのユニットで活動するサックス奏者藤原大輔さん。1990年代後半にテクノ界隈で人気を博したフィルターSherman Filterbank 2(現在2台使い!)とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使して、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露。まさに 'オシレータのないモジュラーシンセ' と言っても良い化け物的機器で、どんな音をブチ込んでも予測不能なサウンドに変調してくれますヨ(動画途中の 'Intermission' は長いため第2部は58:33〜スタートします)。
このLudwig Phase Ⅱで聴ける '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。そして、俗に 'オシレータの無いモジュラーシンセ' と呼ばれるVCFのバケモノFilterbankは、流石に現在では使われ過ぎて '飽きた' という声もあるもののその潜在能力の全てを引き出してはおりません。個人的には当時の主流であった無闇矢鱈に '発振' させない使い方でこそ、本機の新たなアプローチが光ると思っているんですけどね。そんな強烈なフィルタリングから発振、シンセサイズの歪みとドラムマシン、ギターはもちろん管楽器にまでかけるモノとして、何と100台限定でFilterbankを4機搭載してしまったバケモノ、Quad Modular Filterに挑む挑戦者求む!。その強烈なフィルタリングと発振、歪みからシンセやドラムマシン、ギターはもちろん新たな要素として管楽器にまでかける猛者が現れます。クラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロでquartz-headやrabitooほか、いくつかのユニットで活動するサックス奏者藤原大輔さん。1990年代後半にテクノ界隈で人気を博したフィルターSherman Filterbank 2(現在2台使い!)とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使して、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露。まさに 'オシレータのないモジュラーシンセ' と言っても良い化け物的機器で、どんな音をブチ込んでも予測不能なサウンドに変調してくれますヨ(動画途中の 'Intermission' は長いため第2部は58:33〜スタートします)。
そしてより本格的なものとして、オクターヴをVCOの トーン・ジェネレーター' によるトリガーの 'Pitch to Voltageコンバータ'。古くはEMSのPitch to Voltage ConverterやKorgのMS-03などがありましたが、今回手に入れたのは英国のeBayで過去40年近くエンジニアとして従事したビルダーが製作しているFogas Pedals Envelope Followerというもの(他にWatkins Copy Catをモデリングしたディレイも製作)。コンパクトペダル型の仕様でOn/OffスイッチやIn/Outの入出力と筐体上部に並ぶCVの入出力は、Envelope、Gate、Triger、別途オーディオ出力と入力が備えられております。その下の3つのツマミはLevelと感度調整のSensitivity、原音とCV出力のMixということで至極シンプルな作りなのですが、ハンド・ワイアードで組み込まれた中身はかなり過密に詰め込まれております。この手の機器はレアな上に高価なプレミアが付いているモノばかりですけど、本機はリーズナブルな受注製作なのですが残念ながらバナナプラグのBuchla Music Easelとそのまま繋ぐことは叶いません。ほかに何かないか?と見回してみればポーランドの工房SonicSmithから2016年に登場したギターシンセ、ConVertorを発見。独自の技術であるACO(Audio Controlled Oscallator)は特別なCV/Gateに寄らずトリガーして鳴らすことが可能ですが、ここではCV/Gateも使ってピックアップマイクによる 'シンセサイズ' に挑戦してみます。このConVertorの入力部はラインレベル、楽器レベル、マイクレベルをクリーンなプリアンプ・ゲインでもって+40dBのレンジで受け持つことが可能。さらにピッチの安定性を捉えるべくHPFと自動調整機能を持った2種の専用フィルターでピッチ検出を行っており、エンヴェロープもメイン入力のエンヴェロープ・フォロワーと 'サイドチェイン' に特化したエンヴェロープ・フォロワーの2段階で構成。用意された波形は短形波とノコギリ波で同時に出力し、Wave Mixツマミで連続的にブレンドしながらピッチを5オクターヴの範囲でコントロールします。さて、これらを搭載するエフェクターボードならぬ 'エフェクタータワー' (笑)は、そのオシャレに玄関先で靴を収納する金属製シェリフに各種ペダルを配置するもので、これは5段ですけどほかに7段もあります(笑)。ただ、あまり高くするとパワーサプライからの電源供給でDCケーブルが届かなくなるのでご注意あれ。下段に配置したEX-Proのパワーサプライ内蔵4ループ・セレクターPSS-10から各種ペダルをセッティングしており、Loop 1は今回の 'CV/Gateコンバータ' として威力を発揮するFogas PedalsのEnvelope Followerとポーランドの工房、SonicsmithのアナログシンセConVertorからその 'マルチアウト' で出力してOld Blood Noise Endeavorsの3チャンネル・ミキサー、Signal Blenderでミックスしております。このFogos Pedalsは英国で40年近くエンジニアとして活動されていた方がeBayで受注製作で請け負っていたもので、いわゆるKorg MS-03 Signal Processorをペダル化させたもの。ほかにWatkins Copy Catをモデリングしたデジタル・ディレイも製作しておりましたが、残念ながらすでにeBayでその名を見つけることは出来ません。
Loop 2は基本的にフィルターセクションであり、サンクトペテルブルグを本拠とするロシアの工房Pribor Pedalsが旧ソビエト時代のアナログシンセの名機PolivoksのVCFを抜き出し ' ワンオフ' でペダル化したもの。本機にはそのVCFを変調する2つのCV入力があり、ConVertorからエンヴェロープやピッチ・モジュレーションを突っ込んでみます。続いて、同じくロシアの老舗工房ながら戦争を避けてラトヴィア共和国に本拠を移したElta Music Devicesからカートリッジ式のマルチエフェクツとして話題を呼んだConsoleを繋ぎあらゆる '効果の実験場' を展開。各々3種のモードを搭載するカートリッジは10種の基本セットとして以下の通り。
⚫︎Cathedral: Reverb and Space Effects
⚫︎Magic: Pitched Delays
⚫︎Time: Classic Mod Delays
⚫︎Vibrotrem: Modulation Effects
⚫︎Filter: Filter and Wah
⚫︎Vibe: Rotary Phase Mods
⚫︎Pitch Shifter: Octave and Pitch
⚫︎Infinity: Big Ambient Effects
⚫︎String Ringer: Audio Rate Modulation
⚫︎Synthex-1: Bass Synth
⚫︎Generator: Signal Generator
⚫︎Digital: Bit Crasher
⚫︎Magic: Pitched Delays
⚫︎Time: Classic Mod Delays
⚫︎Vibrotrem: Modulation Effects
⚫︎Filter: Filter and Wah
⚫︎Vibe: Rotary Phase Mods
⚫︎Pitch Shifter: Octave and Pitch
⚫︎Infinity: Big Ambient Effects
⚫︎String Ringer: Audio Rate Modulation
⚫︎Synthex-1: Bass Synth
⚫︎Generator: Signal Generator
⚫︎Digital: Bit Crasher
⚫︎Ochre: Reverse Delays
その後Consoleは 'ノイズオシレータ' や 'ビットクラッシャー' によるGenerator、Digitalの2種、現状の最新作にあたるOchreはOne-shotのLongとShort、Free-runのLoopによる簡易ルーパーが追加されました。空間系からフィルターにギターシンセ、ビットクラッシャー、オシレータや簡易的なループ・サンプラーなど実に面白い効果が満載なので重宝しております。この中のFilterはPribor PedalsのF-7同様に旧ソビエト製アナログシンセのPolivoksフィルターをモデリングしており、その切れ味鈍いナロウな質感は同工房から単体機としてもラインナップしておりまする。そして最後は、モスクワに本拠を置く工房Ezhi & AkaのPolarized Flutterでズタズタに切り刻むピッチシフトを配置。まるでKorg Kaosspadの如くリアルタイムに感圧パッドを '押す' (擦っちゃダメ)ことでその強弱の押し引きから操作すること。このPolarized Flutterはすでに 'ディスコン' となりましたが、現在は本機を2台分搭載した機能強化版Double Polarized Flutter+Echoに移行しております。ちなみにElta Musicに続いてSoma Laboratoryといった工房が、戦争への忌避から本拠地をポーランドに移したりするなどロシア国内のビルダーも混乱しているようですね...。
Loop 3はその日の気分で手持ちのあらゆるペダルを繋げるようにブランクとし、Loop 4はローファイなノイズ&空間系としてエグ過ぎるEzhi & AkaのFernwehとこれまたモスクワに本拠を置く工房、Lateral PhonicsのSeamark Reverbがスタンバイ。バナナプラグによるその巨大な 'モジュラーシステム' の様相を示すFernweh(フェルンヴェ)の中身は、4種のローファイ・ディレイ&ピッチシフトの変異系、Mr. Nice、Mr. Glitchy、Mr. Clap、Mr. Arcadeとブッ壊れたファズ、モジュレーション、ローファイな20秒のループ・サンプラーのLoopeeで構成されております。とにかく何でも '汚い質感' にしてくれる複合機でして、本機の売り文句である 'テープを噛み砕いて燃やしたようなサウンド' という表現はなかなか的を射ておりまする。そして基板内部はご覧の通りの錯綜した 'スパゲティ状態' の酷い有様(苦笑)。そして、単なる 'バネリバ' にこの価格はちと高いかなー?と思いますけど(汗)、一度鳴らしてみればそれまでの印象とは真逆の独特な響きがありますね。本機の入力部に位置する 'Amount' と 'Impact' を調整してサチュレーション的歪みまでカバーしており、特にアタックを強めに弾いた時の 'ギュワ〜' とした歪み感はたまりません。轟音系な歪みペダルと合わせ、モメンタリー・スイッチの 'Splash' を踏むことで 'シューゲイザー' 的音作りを目指しているようです。最後はこれら '膨大なノイズ' を記録するSingular Soundの '緻密なスタジオ' ともいうべきAeros Loop Studio。本機は同社がすでに発売していたプログラマブルなドラムマシン、Beatbuddyと同期して拡張した音作りを可能とさせるもので、6つのトラック単位で録音、再生出来るループ・サンプラー。モノラル入力で最大3時間、ステレオ入力で最大1.5時間、SDカード使用時は最大48時間の大容量録音を可能とします。1つのソング・トラックに最大36個のループトラック、また各ループトラックへの無制限オーバーダビング、これらを大きな4.3インチのタッチスクリーンで波形を見ながら大きなホイールをスクロールしながらエディット、4つのフットスイッチで作成したソングをセーブ、エクスポートすることでリアルタイムに作業、演奏に反映させることが可能。もちろんWi-Fi/BluetoothやMIDIと連携して外部ネットワークからのファームウェア・アップデート、保存などにも対応します。また、より大型な同種のものとしてはHeadrushというメーカーからLooperboardという巨大なペダルボード・サイズのループ・サンプラーが用意されておりまする。まさに 'DAW' が足下にやって来た、と言っちゃうと大げさですけどね(笑)。
今や管楽器の 'アンプリファイ' においてお手軽にアプローチできる専用の 'インサート' 内蔵マイク・プリアンプRadial Engineering Voco-LocoやZorg Effects Blow !、Eventide Mixinglinkなどが市場に用意されております。これまで複数のPA用機器、ミキサーなどを駆使してインピーダンスを取りながらやっていたことが便利に一台で出来てしまうのは隔世の感がありますが(汗)、しかし、一方でステージ上にコンパクト・ミキサーを持ち込んでセッティングする旧来のやり方もまだまだ健在。管楽器奏者は一度、徹底してマイク/ライン・ミキサーの使い方を覚えておけばPAの現場でまごつくことは無いでしょうね。また、自宅で各種エフェクツのセッティングを研究する際にもミキサーのヘッドフォンと合わせて音作りが出来るので便利です。この 'インサート' 内蔵プリアンプの取説ではマイクをそのままXLR入力する旨が記載されておりますが、実際のステージでこのような接続はあまり一般的ではありません。会場の音場を掌握するPAエンジニアにとって重要なのはトラブルの無いステージ進行であり、その為にステージ上からの各種楽器の音はそのまま欲しい。つまり管楽器からのマイクは直接PAのミキシング・コンソールに繋がれて、別途エフェクツ類の使用においてはコンソールの 'バスアウト' からDIで 'インサート' するかたちでステージ上のペダル類へ提供する 'リアンプ' 的手法を選択するエンジニアがいます。これは例えばペダル類のトラブルが起きた場合、すぐさま 'バスアウト' の回線を切って管楽器の生音に復帰出来るというメリットがあります。また、マイクの突発的なフィードバックに対するハウリング・マージンを稼ぐ場合にもPA側でバランスを取りやすいですね。ここではそんな 'バスアウト' によるセッティングをMackie.の定番コンパクト・ミキサー、1202 VLZ-Proを例に解説してみたいと思います。
まず、ここではメインで使用するPiezoBarrelピックアップとは別にサブで愛用するBarcus-berryの 'マウスピース・ピックアップ' を2種用意してみました。ひとつはピエゾ・トランスデューサー型のModel 1374で、もう一方はエレクトレットコンデンサー型のModel 6001というもの。Model 1374はプリアンプ兼DIの4000XLをミキサーからのファンタム駆動でXLR入力に接続、Model 6001はマイク駆動用プリアンプ3000Aを介してDIのMatchmakerを同じくミキサーからファンタム駆動で各々XLR入力に接続するというセッティング。ここにコンデンサー・マイクを混ぜても構いませんが、ダイナミック・マイク使用の場合はDI一括供給によるファンタム不可の為、その4000XL及びMatchmakerはDC9V電池やDC9Vアダプターでの使用となりまする。また、同じプリアンプの機能ながら6001で使用するModel 3000Aとピエゾ用の4000XLやModel 3500Aとはインピーダンスが違うため互換性はないのでご注意あれ。そして、ここから本稿の目的である1202 VLZ-Proの 'バスアウト' へと向かいます。
Barcus-berryの管楽器用ピックアップとして一時代を築いた 'マウスピース・ピックアップ'。木管楽器用1375-1と金管楽器用1374はピックアップ本体は同一ながら時期によりモデルチェンジしており、初期は中継コネクターを介した2.1mmのミニプラグを楽器のラウンドクルーク部とリードパイプ部にグルッとタイラップで固定する仕様でした。その後3.5mmのミニプラグに仕様変更されて、クリップ式の中継コネクターでリードパイプへ着脱可能なものに変わります。Barcus-berryはこの特許を1968年3月27日に出願、1970年12月1日に創業者Lester M. BarcusとJohn F. Berry両名で 'Electrical Pickup Located in Mouthpiece of Musical Instrument Piezoelectric Transducer' として取得しました。当初、特許の図面ではマウスピースのシャンク部ではなくカップ内に穴を開けてピックアップを接合するという発案でしたが、この装着で鳴らすと 'バズ音' と言うべきバジングしたような不快なノイズが入るので得策ではありません。やはりシャンク部への接合が最適ですね。そして1990年代に入りこれまでのピエゾ式から9V電池で駆動するエレクトレット・コンデンサー式の6001が登場。ピエゾ式1374とは違いスクリューネジで着脱可能となったアダプター上面をポリプロピレンでマイク保護された6001は当時、日本で代理店を務めたパール楽器1997年のカタログを確認すれば同社随一の高価格である65,000円也!。多分、日本で '最後の1つ' をヤマハ銀座店で偶然見つけて '清水の舞台から飛び降りる気持ち' (笑)で購入して以降、そのまま '電化沼' へと人生が狂わされて行きました(コレは酷使してジャンクとなってしまった...その後ネットで2つ確保)。結局、新たな潮流となったワイヤレスとグーズネック式マイクの簡便な流れには勝てず、この6001は少量の製作で同社の 'マウスピース・ピックアップ' における有終の美を飾ることとなります。実はこのエレクトレット・コンデンサー式は金管用の6001とクラリネット用の6200が用意されていたのですが最近、この型番の前モデルにあたる金管用5001とクラリネット用6081を各々手に入れました。比較してみれば、一見同じような仕様ながら何と前モデルのピックアップが6001のアダプターに入らん...互換性がない(汗)。おいおい、こんなしょうもない仕様変更すんなよ、と30年も前の製品にツッコミを入れてしまいました。入手した前モデルは肝心のアダプターが欠品(前オーナーがマウスピースに装着したまま紛失しちゃったと予想)だけに、このまま単なるコレクションとなりそうです(悲)。新大久保のグローバルさんにお願いしてアダプターを特注で作ってもらおうかな?。
さて、この時期のBarcus-berry製品、特にピエゾ式の1374(及び木管用1375-1)を個人的にあれこれ調べてみて分かったのは、1982年以前と1983年製造のものでピエゾの感度がかなり変わってしまったこと。正直、1983年製は 'ハズレ' と言いたいくらいエフェクツのかかりが悪いんですよね...(謎)。また、このピックアップはマウスピースに穴を開けてエポキシ系接着剤で接合することを推奨されているのですが、これで1年くらい使い続けるとある日突然ガクンとピックアップの感度が落ちてしまう...(謎)。想像するにピエゾとはいえ、やはりピックアップ面を猛烈な息で濡らして湿気に晒した状態は良くないということで、個人的には開けた穴にそのまま差し込み使用後は外しておいた方が良いと思います(それほど息漏れの問題は起きなかった)。今でもeBayやReverb.comでデッドストックが不定期に現れる一品であり、これからアプローチしてみたい管楽器奏者へのアドバイスとして受け取っておいて下さいませ。
こちらの1202 VLZ-ProにはMain Outの 'Main Bus' のほか基本的に2種の 'Bus Out' (他にも 'Control Room Out' などあるが割愛)があり、それらは 'Group Bus' と 'Aux Bus' に分けられます。ここで使う 'Group Bus' は 'ALT OUTPUT' とされるステレオの出力で 'ALT3-4' スイッチを押してモノの 'L3' から出力します。TRSフォンのバランス出力にも対応しているので、ここでは 'TRS→XLR' の変換ケーブルで 'Reamp Box' を使ったエフェクツ効果を試してみましょうか。RadialからReamp JCRという製品が市場に用意されておりますけど、その元になったとされる 'リアンプ生みの親' ことJohn Cunibertiさん製作のオリジナルReamp BoxとパッシヴDIのJDIによりReamp→Effects→DIの順序で1202 VLZ-Proの空きチャンネルからモニターします。さらにパッシヴゆえのゲイン低下を補正すべくNeotenicSoundのMagical Forceで音の艶、コシの '底上げ' を担わせます。今では下記に紹介するこのような機能に特化した 'Reamp Box' がいくつかのメーカーから発売されておりますが、ここでは原点に立ち返ったセッティングとなりまする。しかし、RadialのJCRや定番DIであるJDIの現在円安中の価格を知って驚いた...サウンドハウスで1万ちょいで買えたのはいつ頃だったんだろ?。さらにJDIと同じJensenのトランスを搭載したPueblo AudioのOllaに至ってはもはや手が出ない...パッシヴDIも奥が深いですね。ちなみにここでの使用ミキサーは1202 VLZ-Proですが、現行機は1202 VLZ4にモデルチェンジしております。
アクティヴの 'リアンプ' でも試してみました。こちらもRadialからはReamp X-Ampという黄色いアクティヴのボックスが用意されておりわたしも以前所有していたのですが、現在手許にあるのはすでに 'ディスコン' ながら2 Loopの 'A+B' ミックスでTRSフォンのほかXLRのライン入出力にも対応する多目的ライン・セレクターのKeymaster。'Reamp Effects Mixer' の名の通りいわゆる 'リアンプ' のほか、DJ用ミキサーの 'コンパクト化' として 'Parallel' モードにしてエクスプレッション・ペダルでAループとBループをシームレスに切り替えることが出来ます。コレ、例えば両ループにループ・サンプラーを繋いでワンショット的なフレイズをサンプリングして、交互に頭出しするブレイクビーツ的な遊びが出来るかもしれません。と思っていたら、なんとこれまたRadial EngineeringからJ48譲りのアクティヴDIとReamp JCRを一体化させたReamp Stationが新登場。また、パッシヴの新製品としてReamp HPもラインナップ。これまでスタジオにおけるレコーディング・テクニックだったこの手のアプローチが、昨今の '宅録世代' によって求めらているのでしょうか?。とりあえず、あれこれ散財せずに手に入れられる環境が身近になったのは嬉しい限り。ただ、円安の後押しもあってどんどん高価な買い物になってしまっているのは困りものです...。
さて、現在ではこのようなニッチなニーズに応えるべく '+4dB→-20dB' のインピーダンス変換とコンパクトペダルを 'インサート' できる専用機器があり、わざわざパッシブDIを2つ用意したセッティングの必要はありません。まず、この手の '便利小物' ならPA関連機器でお任せの老舗Radial Engineeringから '逆DI' ともいうべきReamp BoxのEXTC-SA。最初の動画は 'ユーロラック500' シリーズのモジュール版ではありますが、本機は独立した2系統による 'Send Return' を備えてXLRとフォンのバランス/アンバランス入出力で多様に 'インピーダンス・マッチング' を揃えていきます。さらに ' フル・ステレオ' にも対応するEXTC-Stereoなども用意されておりますが、現在の円安の影響なのかメチャクチャ高価になりましたねえ(汗)。そして同種の製品では、国産のConisisことコニシス研究所からE-Sir CE-1000というハーフラック・サイズのモノが受注製作品としてあります。わたしも過去DAWによる 'ダブ製作' の折に大量のコンパクト・エフェクターを 'インサート' してお世話になりましたけど、こちらもこの手の機器の先駆としてとても良いモノです。一方、こちらのガレージ的製品なども受注生産のかたちで用意されているのでご紹介。そもそもはギターアンプのプリアンプ出力とパワーアンプ入力の間に設けられる 'Send Return' でラック型エフェクターを用いる為のもので、アンプの修理をメインにされている工房E-C-Aからその名もズバリの '+4dB → -20dB Convert Loop Box' という名で受注製作しております。本機はDC24VのACアダプターで駆動して、各入出力の 'オーバーロード' を監視出来る便利なLEDを備えた2つのツマミでレベル調整が可能。大きな容量の電解コンデンサーで平滑、コンパレータに正常な電圧がかかるために電源後20秒ほど-20dBのLEDが点灯してから使用するという仕様。本機で唯一惜しいのは入出力のIn/Outがアンバランスフォンの仕様の為、ミキサーのライン入出力をバランスで繋げないこと。ただ、この程度の短い距離であればフツーにアンバランス接続で問題ないんですけど、このバランスTRSとアンバランスTSフォンの音量差は随分と変化するということを 'Synthsonic' という方のブログで検証されております。Mackieのミキサーは両対応ですけど一応の見解としては、入力する受け手側がバランスの場合に正しい接続でないと音量差が現れるようですね。また、高級なアウトボード並みの多機能を誇るUmbrella CompanyのSignalform Organizerや、大阪で業務用機器を中心に製作するEva電子さんからもInsert Box IS-1が登場。こちらのIS-1は入力レベルのツマミと出力のPhaseスイッチを装備、+4dBのIn/OutをY型のインサート・ケーブルでミキサーと接続する仕様となりまする。
ただ、今ならよりマルチエフェクツとマルチトラック・レコーダーが一体化したようなデジタル・ミキサー中心のセッティングでやった方がよりコンパクト、多彩な音作りに貢献してくれるでしょう。女性フルート奏者のMiyaさんという方がモジュラーシンセや各種ペダルと共にこの1010 MusicのBluebox中心でアプローチしているので管楽器奏者は必見です。そもそもは同社の 'ユーロラック' モジュールからスタートしており、Miyaさんはモジュール版のBitbox Mk.2をボード内に組み込んでおりますがそれの卓上版としてこのBlueboxやBlackboxなどがラインナップされております。注意事項は多くのパラメータのリアルタイム性でMIDIコントローラーにアサインしてカスタマイズすることと、コンパクトサイズゆえに入出力が3.5mmミニプラグのTRSバランスに対応していること。つまり、管楽器奏者の場合はピックアップマイク用のプリアンプを外部に用意して、そこからXLRキャノン端子と3.5mmミニプラグ端子の変換ケーブルを用いて接続することになります。また、デジタルゆえに多様なルーティンを組める利点を活かして、2つあるOutの1つから6つある入力のひとつに再び入力することでこの項で解説する 'バスアウト' と同様の接続が可能。つまり、Blueboxのデジタル・マルチの中でコンパクトのペダルを加えたセッティングを楽しめるのです。
最近手に入れて感動したのがこのドイツのガレージ工房による小さな4チャンネルミキサー。個人的にコンパクトタイプのミキサーが好きで古くはNobelsのMIX-42C、現行品であればOld Blood Noise EndeavorsのSignal BlenderやLand Devices Mixerなど '便利小物' をついつい集めてしまいます。また、小型ということではBastl InstrumentsのDude、そして多機能なデジタルでスマートにやりたい場合なら上述した1010 Music BlueboxやTeenage EngineeringのTX-6などをポケットに忍ばせて持ち歩くのもクールでしょう。さらに、デスクトップ型エフェクツユニットのBiscuitやBim、Bam、Boumでおなじみフランスの工房、OTO Machinesから6チャンネル・ステレオ入力のBébé Chérieというアナログ・ミキサーもアナウンスされております。+34dBまでの可変ゲインを持つ4チャンネルと0/+10dB選択可の入力ゲイン、非対称クリッピングのチルトEQに2バンドEQ、マスターに3:1の比率を持つコンプレッサーとエンハンサーを備えるという充実した内容。さて、このLumamix Resonant Mixerは手のひらサイズにして至れり尽くせりの充実度でビックリしました。Polymoogシンセサイザーのリゾナントフィルター・セクションをベースにしたミキサーというオーダーから出発して、木製の小さな筐体に4つのミニプラグorフォンの入力(ch1だけミニプラグのみ)、ミニプラグorフォンのセンドリターン、ミニプラグorフォンの出力(ミニプラグのみステレオミニ出力対応)、そしてHP/BP/LPのリゾナントフィルター・セクションとLDRコントロールによりペンライトかざしてリアルタイムのLFOコントロール可能と、いや、このサイズでよく納めたなあと感心しました。またDJプレイなどの際に頻繁に触るであろうCutoffのツマミだけ、ほかのツマミより若干高く配置しているのも芸が細かい...。作りは正直、観光地の土産物屋で売ってるような民芸品レベルなんですけどね(苦笑)。そんな '箱庭的なセッティング' ということで1010 Musicの 'Compact Sampling Studio' であるBlackboxを中心にモバイルな環境を導入してみました。Buchla Music Easelであれこれ作り込んだネタをBastl InstrumentsのThymeやTekson Color Soundを 'サブ・ハーモニックシンセ' にして加工しながらResonant Mixerを介してBlackboxで構築、これ最高かも知れない。
そして、去年からあれこれやり始めていた 'ステレオVer 2.0' とも言うべき管楽器による '擬似ステレオ' の世界。去年手に入れたElectro-Harmonixの 'Mono to Stereo Exciter' であるAmbitronとRT Electronixの多目的バッファー・システムUltimate Buffring System UBS-1の組み合わせから進化、スウェーデンの新興工房であるSurfy Industriesの 'ABY Switch' を兼ねたStereo Makerが登場。その工房名から古臭い大きなスプリング・ユニット、トレモロ、ヴァイブ系の60'sサウンドに焦点を絞った製品作りを展開しておりますが、その中でも一番ニッチで地味なこのStereo Makerの擬似ステレオ効果 'Pseudo Stereo Effect' を生成する 'Width' ツマミを回すことでエンハンス開始。そもそもラッパに取り付けた2つのピックアップ・マイクをモノ出力したものを再びステレオにするという倒錯した流れではあるのですが(苦笑)、しかしピエゾとマイクをそれぞれ 'L-R' に振っただけでは決してバランスの良い定位、音像にはならないのですヨ。また、いわゆるステレオということではMackieのミキサー内で 'バスアウト' からこのStereo Makerを通してステレオのライン・チャンネルに返すセッティングにしても良いのですが、ここではラインレベルの中でコンパクト・エフェクターを使う為にミキサーの出力からこのStereo Makerを接続するかたちとなりまする。そこから愛用するSWRのアコースティック用アンプCalifornia Blondeの 'ステレオ化' に伴い、'Stereo Input' にY型のインサート・ケーブルTRS側を挿し 'Line Out' からもう1つのCalifornia Blondeに接続して 'L-R' で鳴らします。さらに 'Send Return' へVongon Electronicsのステレオ・リヴァーブ、Ultrasheerをフル・ステレオで繋ぐことで完全なる 'ステレオミックス' の音像が可能となりまする。ちなみに 'フーチーズ' の店長にして人気 'ペダル・レビュワー' の村田善行氏は、ステレオ接続による '逆相問題' についての動画を挙げておりました。個人的にはZorg Effectsの 'ステレオ・プリアンプ' であるBlow ! Blow !! Blow !!!を使ったステレオ・システムを構築してみたいんですけどね。
→Empress Effects Zoia ①
→Empress Effects Zoia ②
"DSP4000シリーズって、リヴァーブやピッチ・シフトのサウンドが良いのはもちろんなんですが、自分でエフェクト・アルゴリズムを組めるところがいいんです。モジュールの種類ですが、ありとあらゆるものがあると言ってもいいですね。例えばディレイ・モジュールがありますから、これを使えばフランジャー、フェイザーなどのモジュレーション系が作れますよね。リヴァーブのモジュールもピッチ・チェンジャーも当然あります。普通のエフェクターに入っているものはモジュールとして存在していると考えればいいですね。例えば、ゲート・リヴァーブを作りたければリヴァーブのモジュールとゲートのモジュールを持って来て、ゲートにエンヴェロープ・ジェネレータを組み合わせて・・っていうように、簡単に作れるんですよ。シーケンサー・モジュールとか、関数モジュールのようなものもあります。自分の頭で考えればどうにでもできるんです。例えば、Ureiのアタック感をどういうモジュールの組み合わせで真似しようかな・・なんて考えるのは楽しいですよ。それにシンセとしても使えます。波形が選べるオシレータもフィルターもアンプもあります。サンプリング・セクションを入れればサンプリングが可能ですから、その気になればE-Muのサンプラーだって作れます。E-Muにあるパラメータを自分で思い出して、それをモジュールの組み合わせで再現していくわけです。
以前、ローファイ・プロセッサーのパッチを作ったことがあったのですが、好評だったのでいろいろなところに配ったんです。都内のスタジオで使われているDSPシリーズに幾つか入っていますよ。LFOでサンプリング周波数が動くようになっていたりするんですが、'Info' っていう、文字を表示するモジュールに僕のE-Mailのアドレスがサイン代わりに入っています(笑)。また、マルチバンド・コンプレッサーを作ったこともあります。フィルター・モジュールでクロスオーバーを組んで、コンプのモジュールをつないで・・ってやるわけですね。こうするとTC ElectronicのFinalizerみたいになります(笑)。結局、エフェクターというよりはDSPをどう使うかを自分で設定できるマシンという感じ。単にエフェクターの組み合わせが変えられるのとは次元が違うんです。人が作ったパッチを見るのも面白いですよ。構成を見ていると「こりゃあんまり良いパッチじゃないな」とか思ったりするんです(笑)。"
→Empress Effects Zoia ②
このワイドなステレオ定位でVongon Ultrasheerと並びチョイスしてみたのが、一昨年のペダル市場で大きな話題を集めた 'グラニュラー・シンセシスの奇跡' ともいうべきHologram ElectronicsのMicrocosm。簡単なループ・シーケンスからまさに無尽に湧き出すように生成される即興的なフレイズの数々・・。基本的な構成はピッチシフトとディレイをベースに、ステレオによる最大60秒の 'ループ・サンプラー' から 'Preset Selector' を回して11種×4プリセットの44種からなる音作りを約束します。
【Micro Loop】フレイズの一部分を繰り返すモード
-Mosaic- 様々な速度で繰り返す
-Seq- リズムを再配置して繰り返す
-Glide- 繰り返すごとにピッチが変わる
【Granules】音の断片からドローンを生み出すモード
-Haze- ごく短い音の断片が次々入れ替わる
-Tunnel- 音の断片を周期的に繰り返す
-Strum- 最終入力音を繰り返す
【Glitch】入力音をリアルタイムに再配置するモード
-Blocks- 入力音を一定のパターンで再配置する
-Interrupt- エフェクト音が入力音に割り込む
-Arp- 入力音を分散和音のように散らす
【Multidelay】複雑な鳴らし方が出来るディレイ・モード
-Pattern- 4つの異なるリズムを持つディレイ
-Warp- フィルターとピッチ・シフトがかかるディレイ
そして、去年はこのMicrocosmに影響を受けた同種のアルゴリズムを持つグラニュラーなペダルが市場に開陳されました。戦争を避けてポーランドに工房を移したロシアのSoma Laboratoryから 'Drifting Memory Station' と題したCosmos、ここ最近は独立元のStrymon製品と市場の人気を二分するMerisからLVXというEmpress Effects Zoiaと同種のDSPベースでモジュールをカスタマイズするものなど、実に賑やかです。さあ、そのスペックはいかに...と直感的に触ってすぐ理解できる機器ではまったくないので(汗)どーぞ、メーカーのスペック表やYoutubeなどを色々漁って把握していって下さいませ。しかし、思えばEmpress Effects Zoiaにより開花したDSPでカスタマイズする新たなマルチ・エフェクツ市場の土壌は、1990年代後半に登場したEventide DSP4000から20年以上経ってようやくペダル化した発想であったと言えるでしょうね。当時、エレクトロニカ黎明期を象徴するプラグインCycling 74 Max/Mspのハードウェア的端緒として話題となったDSP4000は、その'Ultra-Harmonizer' をベースとしてあらゆるモジュールを組み合わせ複雑なプロセッシングが可能であったこと。リヴァーブやディレイなどのエフェクトそのものの役割を果たすものから入力信号を '二乗する' や '加える' といった数式モジュール、'この数値以上になれば信号を分岐する' といったメッセージの 'If〜' モジュールなど完全にモジュラーシンセ的発想で自由にパッチを作成することが出来る画期的なものでした。当時で大体80万ほどの高価なこの機器は 'ベッドルーム・テクノ' 世代を中心に人気となり以下、ユーザーであったエンジニア渡部高士氏によるレビューでもこう述べております。
"DSP4000シリーズって、リヴァーブやピッチ・シフトのサウンドが良いのはもちろんなんですが、自分でエフェクト・アルゴリズムを組めるところがいいんです。モジュールの種類ですが、ありとあらゆるものがあると言ってもいいですね。例えばディレイ・モジュールがありますから、これを使えばフランジャー、フェイザーなどのモジュレーション系が作れますよね。リヴァーブのモジュールもピッチ・チェンジャーも当然あります。普通のエフェクターに入っているものはモジュールとして存在していると考えればいいですね。例えば、ゲート・リヴァーブを作りたければリヴァーブのモジュールとゲートのモジュールを持って来て、ゲートにエンヴェロープ・ジェネレータを組み合わせて・・っていうように、簡単に作れるんですよ。シーケンサー・モジュールとか、関数モジュールのようなものもあります。自分の頭で考えればどうにでもできるんです。例えば、Ureiのアタック感をどういうモジュールの組み合わせで真似しようかな・・なんて考えるのは楽しいですよ。それにシンセとしても使えます。波形が選べるオシレータもフィルターもアンプもあります。サンプリング・セクションを入れればサンプリングが可能ですから、その気になればE-Muのサンプラーだって作れます。E-Muにあるパラメータを自分で思い出して、それをモジュールの組み合わせで再現していくわけです。
以前、ローファイ・プロセッサーのパッチを作ったことがあったのですが、好評だったのでいろいろなところに配ったんです。都内のスタジオで使われているDSPシリーズに幾つか入っていますよ。LFOでサンプリング周波数が動くようになっていたりするんですが、'Info' っていう、文字を表示するモジュールに僕のE-Mailのアドレスがサイン代わりに入っています(笑)。また、マルチバンド・コンプレッサーを作ったこともあります。フィルター・モジュールでクロスオーバーを組んで、コンプのモジュールをつないで・・ってやるわけですね。こうするとTC ElectronicのFinalizerみたいになります(笑)。結局、エフェクターというよりはDSPをどう使うかを自分で設定できるマシンという感じ。単にエフェクターの組み合わせが変えられるのとは次元が違うんです。人が作ったパッチを見るのも面白いですよ。構成を見ていると「こりゃあんまり良いパッチじゃないな」とか思ったりするんです(笑)。"
そして、こちらも目下捜索中の超レアな国産初による管楽器用オクターバーAce ToneのMulti-Vox EX-100。本機ををいち早く導入したのがマイルス・デイビスの '電化' に感化されていたトランペットの日野皓正氏とテナーサックスの村岡建氏のふたり。すでに本機発売の翌年、そのデモンストレーションともいうべき管楽器の可能性をいくつかのイベントで披露しております。ちなみに雑誌広告としては1968年の 'スイングジャーナル' 誌10月号で初出後、価格未定のまま11月号、12月号、価格決定した翌69年の5月号、6月号、7月号、8月号でのPRを最後に、当時としては39,000円の高価格品ということから庶民には手の出ないモノだったことが伺えますね。ちなみに当時、日野皓正クインテットの一員として 'Hi-Nology' でも共演するサックス奏者の村岡建さんは、この時期から少し経った1971年に植松孝夫さんとの '2テナー' によるライヴ盤 'Ride and Tie' でファンキーなオクターヴ・トーンを堪能することが出来ます。実はコレ、Ace Tone Multi-Voxなのでは?と思っているのですが、取説での村岡さんの談によればヤマハから '電気サックス' 一式を購入したことが本盤制作のきっかけになったとのこと。これは、その海外事業部を介して手に入れた '海外製品' (Varitone ?Multi-Vider ?)を使用したと理解する方が自然かもしれませんね。
⚫︎1969年3月24日 初の日野皓正クインテット・ワンマン・コンサートを開催する(東京サンケイ・ホール)。'Love More Trane'、'Like Miles'、'So What' などを演奏、それに合わせてあらかじめ撮影された路面電車の 種々のシーンをスクリーンに映写し、クインテットがインプロヴァイズを行う。日野さんのラッパには穴が開けられピックアップを取り付けて初の電化サウンドを披露した。
⚫︎1969年6月27、28日 クインテットによる「日野皓正のジャズとエレクトロ・ヴィジョン 'Hi-Nology'」コンサート開催(草月会館)。写真家の内藤忠行のプロデュースで司会は植草甚一。第一部を全員が 'Like Miles'、'Hi-Nology'、'Electric Zoo' を電化楽器で演奏。第二部は「スクリーン映像との対話」(映画の公開ダビング)。「うたかたの恋」(桂宏平監督)、「POP 1895」(井出情児監督)、「にれの木陰のお花」(桂宏平監督)、「ラブ・モア・トレイン」(内藤忠行監督)の5本、その映像を見ながらクインテットがインプロヴァイズを行い音楽を即興で挿入していった。コンサートの最後にクインテットで 'Time and Place' をやって終了。
⚫︎1969年6月27、28日 クインテットによる「日野皓正のジャズとエレクトロ・ヴィジョン 'Hi-Nology'」コンサート開催(草月会館)。写真家の内藤忠行のプロデュースで司会は植草甚一。第一部を全員が 'Like Miles'、'Hi-Nology'、'Electric Zoo' を電化楽器で演奏。第二部は「スクリーン映像との対話」(映画の公開ダビング)。「うたかたの恋」(桂宏平監督)、「POP 1895」(井出情児監督)、「にれの木陰のお花」(桂宏平監督)、「ラブ・モア・トレイン」(内藤忠行監督)の5本、その映像を見ながらクインテットがインプロヴァイズを行い音楽を即興で挿入していった。コンサートの最後にクインテットで 'Time and Place' をやって終了。
このAce Toneによるサウンド・システムを駆使した直近のイベントが上記した2つのもの。日野さんは別売りのピックアップPU-10(3,000円)を当時愛用のJet Tone 6Bマウスピースに加工することを避けて、Yamahaトランペットのベル横側に自ら穴を開けてピックアップを組み込み当日のステージへ臨んだとのこと。これは当時、ハイノートヒッターを売りにしてすでに同種のアプローチをしていたドン・エリスも同じくベルに穴を開けてピックアップ装着しておりましたね。そのうち、3月24日に東京サンケイホールで行われたコンサート評が 'スイングジャーナル' 誌1969年5月号に掲載されております。ちなみにここで扱われる '都電' について言えば当時、いわゆる 'モータリゼイション' の波に押し寄せられて都市の邪魔モノ扱いの如く東京の風景から消えていく象徴でもありました。
"今月はコンサートずいて、3度も鑑賞する機会を得た。しかしこのコンサートほど充実していて感動的な演奏会は、過去にも数えるほどしかなかったのではないかと思うと俄然嬉しくなったのである。この喜びは日野皓正クインテット<村岡建(ts)、鈴木宏昌(p)、稲葉国光(b)、日野元彦(ds)>でなければ味わえぬものだっただけに尚のこと嬉しかったのである。しかも会場の空席はほとんどなく、若い聴衆が目立ち、そのうえ彼らは真に感動的なものに対してのみ送る心の賛辞を熱狂的にあるいは控え目に与え続けた。彼らは心から感動している。これこそ日野が勝ち取った唯一の宝であり、われわれは今まさにこれを大切に育てねばならぬと痛感したのであった。今までの日本ジャズメンによるコンサートは、大抵有名グループを羅列しただけの客の数を増やそうという無策なものだった。こうした安易な企画に対して、われわれは常に厳しい攻撃を加えてきた。日本のジャズの将来のことを考えれば、聴衆の数よりも質の方を優先すべきは当然の理なのである。2部の最後で試みた映像とジャズの結び付きはわれわれを詩の持つ世界に誘い込み、深い感動を与えたが、これなどは企画とミュージシャンの演奏とが渾然一体となった最良のものだろう。これは 'Love More Trane' と名付けられ、あらかじめ撮影された路面電車(都電)の種々のシーンを舞台上に映写し、これに日野グループがインプロヴィゼーションしたものである。つまり演奏と映写は0から同時スタートするわけであり、プレーヤーは変転する局面に応じてソロを取ることになる。画像と音とがぶつかり合って生まれる新しい体験によって聴衆は快い興奮にしばし酔ったのである。それはまさしく '都電' を抽象化した音の世界であり、それはまた悲しみの象徴でもあった。この日の演奏は 'Like Miles' で始められ、その全てが彼らの実力をフルに発揮した近来まれに見るコンサートだったが、数曲でドラムを除いて全員が電化楽器を操り、この面でも彼らの音楽観を損なわぬ意欲に満ちた立派な出来を示した。これこそリサイタルの本来の意味であり、ジャズの呪縛の力なのである。'So What' に示した稲葉のソロを始め、各人がベスト・プレイを見せたことはこのグループが現在本邦一であることを示した。また村岡の感覚的な世界は、脱皮の苦しさに溢れていて、彼が未だ成長途上にあることを物語り、日野のいつもと変わらぬ美しく刺激的なトーンは、そのイマジネイティヴな楽想とによってますます冴え渡った。そして彼らのグループ・インプロヴィゼーションのスリルある美しさは、日頃の鍛錬と各人の意志の集中があってこその成果であり、それと共に彼らの逞しいソロはジャズ・ゲリラとしての厳しい環境から生まれたホンモノであって、そうした厳しい美しさに終始印象付けられたコンサートであった。聴衆の興奮と満足そうな表情に接して、僕は日本のジャズの夜が開けたことを知ったのである。この機は絶対に逃してはならないし、われわれも意識を参加させ、たまには傍観者の地位をかなぐり捨てねばならない。"
こうした実験的なコンサートを経て '国産初のオクターバー' は人知れず時代の彼方へと消えて行ってしまったAce Tone Multi-Vox。1969年の傑作 'Hi-Nology' に同封されたポスターでは使用中の写真がありますけど、この時期の音源で唯一Multi-Vox EX-100のオクターヴ・トーンを堪能出来るのが 'Super Market' と題された映画 '白昼の襲撃' のOSTに収録されたテーマ曲(3曲目)ですね。ただ、フラワー・トラヴェリン・バンドとの共演による 'Dhoop' 後半のユニゾンは村岡建さんのテナーだったりするので紛らわしい(苦笑)。そんな当時の '日野ブーム' と共に大きく影響を受けた 'エレクトリック・マイルス' 及び '電気ラッパ' に対して後年、日野さん本人はこう述べておりました。
- エレクトリック・トランペットをマイルスが使い始めた当時はどう思いましたか?。
"自然だったね。フレイズとか、あんまり吹いていることは変わってないなと思った。1970年ごろにニューヨークのハーレムのバーでマイルスのライヴを観たんだけど、そのときのメンバーはチック・コリアやアイアート・モレイラで、ドラムはジャック・ディジョネットだった。俺の弟(日野元彦)も一緒に観に行ってたんだけど、弟はディジョネットがすごいって彼に狂って、弟と "あれだよな!そうだよな!" ってことになって(笑)。それで電気トランペットを俺もやり始めたわけ。そのころ大阪万博で僕のバンドがああいうエレクトリックのスタイルで演奏したら、ヨーロッパ・ジャズ・オールスターズで来日中だったダニエル・ユメールに "日野はマイルスの真似しているだけじゃないか" って言われたことがあるんだけどね。"
この 'アンプリファイ' 黎明期を経て再び日野さんが '電気ラッパ' にアプローチするのは1976年、キーボードの菊地雅章氏と双頭による 'Kochi/東風' 名義で制作した 'Wishes' になりますね。前年に活動停止したマイルス・デイビス・グループのメンバーが大挙参加して、エンヴェロープ・フィルターやテープ・エコーを駆使した和風の '電化っぷり' がたまりません。
一方、そんなオクターバーは同時代のエフェクターであるファズの '副産物' 的ヴァリエーションとも言えるものなのですが、そのファズについて後年、梯さんがAce ToneからRolandにかけて手がける流れを述べた 'ギターマガジン' 誌2003年5月号のインタビューをどうぞ。この国産初の管楽器用オクターバーを考える上で、同じく国産初のファズボックスとして有名なFuzz Master FM-1とその 'コピー元' であるGibsonのMaestro Fuzz Tone FM-1のデモ音源に聴ける各種管楽器の模倣という奇妙な関係があります。その音源では 'Sousaphone' 〜 'Tuba' 〜 'Bass Sax' 〜 'Cello' 〜 'Alto Sax' 〜 'Trumpet' という流れとして、後のMaestroのブランドマークが 'ラッパ3本' をシンボライズしたのは決して伊達ではありません。そして、このFZ-1が爆発的なセールスを記録するのはザ・ローリング・ストーンズ1965年の大ヒット 'Satisfaction' 以降であり、キース・リチャーズの頭の中にあったのはスタックスの豪華なホーン・セクションによる 'ブラス・リフ' を再現することでした。そして、すでに欧米ではいくつかのメーカーから 'アタッチメント' と呼ばれるエフェクター黎明期が到来、当時のLSD服用による '意識の拡張' の追体験としてレコーディング技術が飛躍的に進歩しました。その直接的なLSD体験もない高度経済成長期の日本と、ロックにおける '世界同時革命' 的なエレクトロニクスの興奮。まだ日本と欧米にはあらゆる距離が開いていた時代にあって、Ace Toneの挑戦はあらゆる音の発見、可能性が探求されていた一端を垣間見ることが出来るのです。それは梯さんが手探りの中で格闘する '電子管楽器' の可能性、採算度外視でいち早く手がけたMulti-Voxの挑戦からも伺えるでしょう。ちなみにGSブーム真っ只中の1967年にザ・クーガーズのガレージ・サイケな一曲 'Aphrodite' の動画ですが、ちょうど0:25のところで一瞬だけAce Tone FM-1を踏むシーンが抜かれております。
- 梯さんが 'ファズ' と言われて真っ先に連想することは何でしょうか?。
- 梯
あのね、三味線なんですよ。三味線のルーツは中国だけど、日本独特のアイディアが加わったんです。日本の三味線は、一の糸(最も低音の弦、ギターとは数え方が逆)だけが上駒(ギターで言うナットにあたる部分)がなくて指板に触れている。だから、二の糸、三の糸の弦振動は楕円運動で上下左右対称に振動するのに対して、一の糸は非対称の波形で振動して、なおかつ弦が指板に当たることで独特の歪み音を作っていたわけです。それが三味線の演奏上、非常に生きていた。そしてその後、三味線を見習ったわけじゃなく、ギタリストがそういう音を欲しがったんです。耳で見つけ出してね。あとから考えると、昔の人もファズ的な音の必要性を感じたんでしょう。3本の弦のうち1本を犠牲にするほどの意味を持っていたわけですから。
- 1960年代当時は、どうやってあの音を模索したんですか?。
- 梯
プレイヤーの皆さんはいろんなことを試しましたよ。スピーカーのコーン紙を破ってみたりしてね。もちろんどれも結果的には失敗だったんですけど、音としては、弾いたものが非対称に振動して、その時に原音とまったく異なった倍音構成を持つ音をともなって出てくるというのがファズの概念だったんじゃないかな。そもそもファズの定義がありませんでしたし、電気回路として考えたら無着苦茶な回路なんです。でも音楽家の耳がその音を要求したことでそれが生まれた。頭の堅い電気屋にはとうてい出てこない回路ですよ。
- 当時すでにアンプに大入力を入れたオーバードライブ・サウンドは発見されてましたよね?。
- 梯
ありましたよ。ただ、オーバードライブは入力信号が左右対称で、ギターの音っていうのはバーン!と弾いた時が振幅が大きくて、だんだん小さくなっていきますよね。その上下のピークがアンプ側によって削られる、これが技術的に見たオーバードライブの音だった。特にギターは、バーンと弾いた時の振幅が非常に大きいから歪むことが多かったんです。で、当時のアンプはすべて真空管ですよね。真空管はセルフ・バイアスという機能をちゃんと持っていて、大きな信号が入ってくるとバイアス点が変わって歪むポイントも変わるんですよ。そうすると独特の歪みになる。これが、同じ歪みでもトランジスタと比べて真空管の歪みの方が柔らかいとか、耳あたりがいいと感じる理由なんです。まぁ、オーバードライブとかディストーションとか、呼び分けるようになったのはもっとあとの話でね、中でもファズは波形を非対称にするものだから、独立した存在でした。
- 梯
あのね、三味線なんですよ。三味線のルーツは中国だけど、日本独特のアイディアが加わったんです。日本の三味線は、一の糸(最も低音の弦、ギターとは数え方が逆)だけが上駒(ギターで言うナットにあたる部分)がなくて指板に触れている。だから、二の糸、三の糸の弦振動は楕円運動で上下左右対称に振動するのに対して、一の糸は非対称の波形で振動して、なおかつ弦が指板に当たることで独特の歪み音を作っていたわけです。それが三味線の演奏上、非常に生きていた。そしてその後、三味線を見習ったわけじゃなく、ギタリストがそういう音を欲しがったんです。耳で見つけ出してね。あとから考えると、昔の人もファズ的な音の必要性を感じたんでしょう。3本の弦のうち1本を犠牲にするほどの意味を持っていたわけですから。
- 1960年代当時は、どうやってあの音を模索したんですか?。
- 梯
プレイヤーの皆さんはいろんなことを試しましたよ。スピーカーのコーン紙を破ってみたりしてね。もちろんどれも結果的には失敗だったんですけど、音としては、弾いたものが非対称に振動して、その時に原音とまったく異なった倍音構成を持つ音をともなって出てくるというのがファズの概念だったんじゃないかな。そもそもファズの定義がありませんでしたし、電気回路として考えたら無着苦茶な回路なんです。でも音楽家の耳がその音を要求したことでそれが生まれた。頭の堅い電気屋にはとうてい出てこない回路ですよ。
- 当時すでにアンプに大入力を入れたオーバードライブ・サウンドは発見されてましたよね?。
- 梯
ありましたよ。ただ、オーバードライブは入力信号が左右対称で、ギターの音っていうのはバーン!と弾いた時が振幅が大きくて、だんだん小さくなっていきますよね。その上下のピークがアンプ側によって削られる、これが技術的に見たオーバードライブの音だった。特にギターは、バーンと弾いた時の振幅が非常に大きいから歪むことが多かったんです。で、当時のアンプはすべて真空管ですよね。真空管はセルフ・バイアスという機能をちゃんと持っていて、大きな信号が入ってくるとバイアス点が変わって歪むポイントも変わるんですよ。そうすると独特の歪みになる。これが、同じ歪みでもトランジスタと比べて真空管の歪みの方が柔らかいとか、耳あたりがいいと感じる理由なんです。まぁ、オーバードライブとかディストーションとか、呼び分けるようになったのはもっとあとの話でね、中でもファズは波形を非対称にするものだから、独立した存在でした。
- マエストロのファズ・トーンが発売された1962年頃、梯さんはすでにエース電子を設立していますが、その当時日本でファズは話題になったんですか?。
- 梯
ほとんど使われなかったですね。ジミ・ヘンドリクスが出てきてからじゃないかな、バーっと広まったのは。GSの人たちはそんなに使ってなかったですよ。使っていたとしても、使い方がまだ手探りの段階だったと思います。
- 国内ではハニーが早くからファズを製作していましたよね。ハニーはトーンベンダー・マークⅠを参考にしたという説もありますが。
- 梯
いやいや、そんなことはないんですよ。彼ら自身が耳で決めたのだと思います。ハニーを設計した人物はその後にエーストーン、ローランドに入社した人ですからその辺の事情は聞いてますけど、ハニーは歪んだ音にエッジをつけて微分する・・要するに低音部を抑えて、真ん中から上の音を強調する回路になっていて、当時としては新しい種類の音でしたね。
- エーストーンも今や名機とされるファズ・マスターFM-2、そしてFM-3を発売しています。これらは70年代に入った頃に発売されていますが、当時の売れ行きはどうでしたか?。
- 梯
両方ともよく売れてましたよ。よくハニーとの関連について聞かれるんだけど、設計者は別の人です。
- そしてその後にローランドを設立するわけですが、ローランド・ブランドではBeeGeeやBeeBaaといったファズを早々に発表しています。やはり需要はあったということですよね?。
- 梯
ありましたね。鍵盤なんかとは違って店頭で売りやすい商品だったのと、その頃にはファズがどういうものかということをお客さんもわかってきていたから。あと面白い話があって、ローランドのアンプ、JC-120の開発もファズと同時期に進めていたんです。根本に戻るとこのふたつは同時発生的に始まっていて、片一方は歪み、片一方はクリーンという対極的な内容のものを作ろうとしていたんですね。そしてJCのコーラスのエンジン部分を抜き出したのが、単体エフェクターのCE-1なわけです。
- そうだったんですね。また、当時の特徴として、ファズとワウを組み合わせたモデルも多かったですよね?。ローランドだとDouble Beat (AD-50)なんかも出てますし。
- 梯
そうですね。ファズを使うことでサスティンが伸びるでしょ。そのサスティンを任意に加工できるのがワウだったんです。音量を変えたり、アタックを抑えてだんだん音が出るようにしたりできたから。
- 当時を改めて振り返って、思うところはありますか?。
- 梯
ハードとソフト、要するにメーカーとプレイヤーの関係は、ハードが進んでいる場合もあるし、ソフトが進んでいる場合もあるんですけど、ファズに関しては音楽家が一歩先を行っていたということですね。それを実現するのに、たまたま半導体が使えたことでこれだけ普及したんだと思います。
- なるほど。その後70年代後半〜90年頃まで 'ファズ' 自体が消える時代がありますが。
- 梯
いや、消えたんじゃなくて、ハード・ロックが出てきて音質がメタリックなものに変わっただけなんです。当初のファズのようにガンガン音をぶつけるんではなく、メロディを弾くためにああいう音に変わった。メタル・ボックスとか、メタライザーとかって名前をつけてましたけど、あれはファズの次の形というか、ファズがあったからこそ見つかった音なわけです。時代で考えてもそうで、ファズがあれだけ出回ったことで、次にハード・ロックが出てきたという自然な流れがあったんだと思います。
- そして90年代にはグランジ/オルタナの流行によって、ファズが再評価されるようになりますね。
- 梯
それは音楽の幅が広がったからですよ。当初、ファズは激しい音楽の部類にしか使われなかったけど、ギターの奏法面でも向上とともに、最初にあった音が見直された。メタリックに歪むものより、あえて昔のファズであったり、OD-1であったりの音でメロディックに弾こうとしたんでしょうね。
- 今ファズを製作している各メーカー、ガレージ・メーカーに対して、梯さんが思うことは?。
- 梯
新しい人が新しい目標でやられるのはいいことです。でも、特定のプレイヤーの意見だけではダメ。10人中10人に受け入れられる楽器なんてないですけど、10人のうち3人か4人が賛同してくれるなら作る意味があると思います。それに、流行があとからついてくるパターンもたくさんあって、ローランドのCE-1なんてまさにそのパターン。1年半売れなかったのに、ハービー・ハンコックがキーボードに使っている写真が雑誌に出たのがきっかけで爆発的に売れたんです。もともとギタリスト向けに作ったのに(笑)。そういう風に、使い道をミュージシャンが見つけた時に真価が出てくることもありますよ。
- ありがとうございました。最後にファズを使っているギタリストに何かメッセージを。
- 梯
何のためにファズを使うのか、もしくは使おうとしているのか、それをもう一度考えてほしいなぁと思います。そして、演奏技法をクリエイトしてもらえると、楽器を作っている者としては嬉しいですね。
● for amplifying woodwinds and brass
● exciting and dramatic
● new tonal dimensions
More than mere amplification. A convenient transistorized package complete with microphone attachments for saxes. clarinets and brass. Will provide variety of sounds. singly and in unison, octaves up and down, mellow of bright.
しかし 'Inquire for details and prices' と強調されているのを見ると日本から現物が届いておらず、カタログでアナウンスされたものの米国では発売されなかった感じですね。
さて、管楽器の新たな市場を開拓すべくH&A Selmer VaritoneやC.G. Conn Multi-Viderをきっかけに英国からVox / King Ampliphonic Octavoice、GibsonのMaestro Sound System for WoodwindsやHammondのInnovex Condor RSMといった同種製品が出揃った後、国産の後発としてこの分野に挑戦したのがAce Toneことエース電子工業株式会社。ザ・ビートルズをきっかけに起こった 'GSブーム' においてはGuyatoneやElk、Tiesco、Honeyなどと並び 'エレキ' の代名詞的存在となったことは、その製品カタログにおいてオルガン、リズムボックス、エフェクター、アンプなどを総合的に手がけていたことからも分かります。まさに日本の電子楽器の黎明期を支えたメーカーであるAce Toneが迎えた1968年の 'サイケデリック革命'。そして、ここでの数々の革新的製品を経て創業者である梯郁太郎氏は後に独立してRolandを興すこととなります。
- 電化楽器の原理をさぐる -
- 児山
今回の座談会は、去年あたりから市販されて非常に話題になっているエレクトリック・インストゥルメントとしてのサックスやドラムといったようなものが開発されていますが、その電気楽器の原理が一体どうなっているのか、どういう特性をもっているのか、そしてこういったものが近い将来どうなっていくだろうかといったようなことを中心にお話を聞かせていただきたいと思います。そこでまずエース電子の梯さんにメーカーの立場から登場していただき、それからテナー奏者の松本英彦さんには、現在すでにエレクトリック・サックスを時おり演奏していらっしゃるという立場から、菅野沖彦さんには、ジャズを録音していくといった、それぞれの立場から見たいろんなご意見をお伺いしたいと思うんです。
まず日本で最初にこの種の製品を開発市販された梯さんに電化楽器というものの輪郭的なものをお話願いたいと思うんですが。
- 梯
電気的に増幅をして管楽器の音をとらえようというのは、もう相当以前からあったんですが、実際にセルマーとかコーンとかいった管楽器の専門メーカーが商品として試作したのは3年ぐらい前です。それが2年ぐらい前から市販されるようになったわけです。
- 児山
これは結局いままでのエレクトリック・ギターなどとは別であると考えていいわけですか。
- 梯
ええ、全然別なんです。これらの電化管楽器が、ギターなどと一番違うところは、コードのない単音楽器だけができる電気的な冒険というのが一番やりやすいわけです。といいますのは、コードになった時点からの増幅段というのは絶対に忠実でなければならない。ところが単音というのはどんな細工もできるわけです。この単音のままですと、これはまだ電子音なんです。そこに人間のフィーリングが入って初めて楽音になりますが、そういった電気的な波形の冒険というのが、単音楽器の場合いろいろなことができるわけです。その一例として、オクターブ上げたり下げたりということが装置を使うと簡単に実現することができるんです。コードの場合はその一音づつをバラバラにしてオクターブ上げたり下げたりしてまた合接する・・これはちょっと不可能なわけですね。
- 児山
これら電化楽器のメリットというか特性的なことをいまお話し願いましたが、そこでいかにして電気的な音を出しているのかという原理をサックスに例をとってわかりやすくお願いしたいんですが。
- 梯
現在市販されているものを見ますと、まずマイクロフォンを、ネックかマウスピースか朝顔などにとりつける。そのマイクもみんなエア・カップリング・マイク(普通のマイク)とコンタクト・マイク(ギターなどについているマイク)との中間をいくようなそういったマイクです。ですからナマのサックスの音がそのまま拾われてるんじゃなくて、要するに忠実度の高いマイクでスタジオでとらえた音とはまったく違うものなんですよ。むしろ音階をとらえてるような種類のマイクなんです。音色は、そのつかまえた電気のスペースを周波数としてとらえるわけです。それを今度はきれいに波を整えてしまうわけです。サックスの音というのは非常に倍音が多いものですから基本波だけを取り出す回路に入れて今度はそれを1/2とか1/4とか、これは卓上の計算機のほんの一部分に使われている回路ですけど、こういったものを使ってオクターブ違う音をつくったりするわけですよ。これらにも2つのモデルがあって、管楽器にアタッチメントされている物ですと、むしろ奏者が直ちに操作できることを主眼に置いて、コントロール部分を少なくして即時性を求めてるものと、それから複雑な種々の操作ができるということに目標を置いた、据え置き型(ギブソンのサウンド・システム)といったものがあるわけです。
- 児山
これで大体原理的なことはわかりますが。
- 菅野
わかりますね。
- 松本
ところが、これから先がたいへんなんだ(笑)。
- 児山
じゃ、そのたいへんなところを聞かせてください。それに現在松本さんはどんな製品を・・。
- 松本
現在セルマーのヴァリトーンです。しかし、これどうも気に入らないので半年かかっていろいろ改造してみたんだけど、まだまだ・・。サックスは、サックスならではの音色があるんですよ。それがネックの中を通して出る音はまず音色が変わるんですね。それから、音が出てなくてもリードなどが振動していたり、息の音などが拾われて、オクターブ下がバァーッと出るんですよ。
- 梯
それはコンタクト・マイクの特性が出てくるわけなんです。
- 菅野
わずかでもエネルギーがあればこれは音になるわけですね。
- 梯
ですから、マウス・ピースに近いところにマイクをつけるほど、いま松本さんのいわれたような現象が起るわけなんです。かといって朝顔につけるとハウリングの問題などがあるわけなんです。
- 松本
ちっちゃく吹いても、大きなボリュームの音が出るというのは、サックスが持つ表情とか感情というものを何か変えてしまうような気がするねェ。一本調子というのかなあ。それに電気サックスを吹いていると少し吹いても大きな音になるから、変なクセがつくんじゃないかなんて・・。初めオクターブ下を使ってたとき、これはゴキゲンだと思ったけど、何回かやってると飽きちゃうんだね。しかし、やっぱりロックなんかやるとすごいですよ。だれにも音はまけないし、すごい鋭い音がするしね。ただ、ちょっと自分自身が気に入らないだけで、自分のために吹いているとイージーになって力いっぱい吹かないから、なまってしまうような・・。口先だけで吹くようになるからね。
- 児山
それもいいんじゃないですか。
- 松本
いいと思う人もありますね。ただぼくがそう思うだけでね。電気としてはとにかくゴキゲンですよ。
- 児山
いま松本さんが力強く吹かなくても、それが十分なボリュームで強くでるということなんですが、現在エレクトリック・サックスの第一人者といわれるエディ・ハリスに会っていろんな話を聞いたときに、エレクトリック・サックスを吹くときにはいままでのサックスを吹くときとはまったく別のテクニックが必要であるといってました。
- 松本
そうなんですよ。だからそのクセがついてナマのときに今度は困っちゃうわけ。
- 児山
だから、ナマの楽器を吹いているつもりでやると、もうメチャクチャになって特性をこわしてしまうというわけです。結局エレクトリック・サックスにはそれなりの特性があるわけで、ナマと同じことをやるならば必要ないわけですよ。その別のものができるというメリット、そのメリットに対して、まあ新しいものだけにいろんな批判が出てると思うんですよね。いま松本さんが指摘されたように音楽の表情というものが非常に無味乾燥な状態で1本やりになるということですね。
- 松本
ただこの電気サックスだけを吹いていれば、またそれなりの味が出てくるんだろうと思うんですが、長い間ナマのサックスの音を出していたんですからね・・。これに慣れないとね。
- 児山
やっぱりそういったことがメーカーの方にとっても考えていかなきゃならないことなんですかね。
- 梯
ええ。やはり電子楽器というのは、人間のフィーリングの導入できるパートが少ないということがプレイヤーの方から一番いやがられていたわけです。それがひとつずつ改良されて、いま電子楽器が一般に受け入れられるようになった。しかし、このエレクトリック・サックスというのはまだ新しいだけに、そういう感情移入の場所が少ないんですよ。
- 松本
ぼくが思うのは、リードで音を出さないようなサックスにした方がおもしろいと思うな。だって、実際に吹いている音が出てくるから、不自然になるわけですよ。
- 梯
いま松本さんがいわれたようなものも出てきてるわけなんですよ。これは2年前にフランクフルトで初めて出品された電気ピアニカなんですが・・。
- 松本
吹かなくてもいいわけ・・。
- 梯
いや吹くんです。吹くのはフィーリングをつけるためなんです。これは後でわかったのですが、その吹く先に風船がついていて、その吹き方の強弱による風船のふくらみを弁によってボリュームの大小におきかえるという方法なんです。ですから人間のフィーリングどうりにボリュームがコントロールされる。そして鍵盤の方はリードではなく電気の接点なんです。ですからいままでのテクニックが使えて、中身はまったく別のものというものも徐々にできつつあるわけなんです。
- 松本
電気サックスの場合、増幅器の特性をなるべく生かした方が・・いいみたいね。サックスの音はサックスの音として、それだけが増幅されるという・・。
- 菅野
いまのお話から、われわれ録音の方の話に結びつけますと、電子楽器というものは、われわれの録音再生というものと縁があって近いようで、その実、方向はまったく逆なんですよね。電子楽器というのは新しい考え方で、新しい音をクリエートするという方向ですが、録音再生というのは非常に保守的な世界でして、ナマの音をエレクトロニクスや機器の力を使って忠実に出そうという・・。というわけで、われわれの立場からは、ナマの自然な楽器の音を電気くさくなく、電気の力を借りて・・という姿勢(笑)。それといまのお話で非常におもしろく思ったのは、われわれがミキシング・テクニックというものを使っていろいろな音を作るわけですが、電子楽器を録音するというのは、それなりのテクニックがありますが、どちらかというと非常に楽なんです。電子楽器がスタジオなりホールなりでスピーカーからミュージシャンが音を出してくれた場合には、われわれはそれにエフェクトを加える必要は全然ない。ですからある意味ではわれわれのやっていた仕事をミュージシャンがもっていって、プレーをしながらミキシングもやるといった形になりますね。そういうことからもわれわれがナマの音をねらっていた立場からすれば非常に残念なことである・・と思えるんですよ。話は変わりますが、この電化楽器というのは特殊なテクニックは必要としても、いままでの楽器と違うんだと、単にアンプリファイするものじゃないんだということをもっと徹底させる必要があるんじゃないですか。
- 梯
現在うちの製品はマルチボックスというものなんですが、正直な話、採算は全然合ってないんです。しかし、電子楽器をやっているメーカーが何社かありますが、管楽器関係のものが日本にひとつもないというのは寂しいし、ひとつの可能性を見つけていくためにやってるんです。しかし、これは採算が合うようになってからじゃ全然おそいわけですよ。それにつくり出さないことには、ミュージシャンの方からご意見も聞けないわけですね。実際、電子管楽器というのは、まだこれからなんですよ。ですからミュージシャンの方にどんどん吹いていただいて、望まれる音を教えていただきたいですね。私どもはそれを回路に翻訳することはできますので。
- 菅野
松本さん、サックスのナマの音とまったく違った次元の音が出るということがさきほどのお話にありましたね。それが電子楽器のひとつのポイントでもあると思うんですがそういう音に対して、ミュージシャンとしてまた音楽の素材として、どうですか・・。
- 松本
いいですよ。ナマのサックスとは全然違う音ならね。たとえば、サックスの「ド」の音を吹くとオルガンの「ド」がバッと出てくれるんならばね。
- 菅野
そういう可能性というか、いまの電気サックスはまったく新しい音を出すところまでいってませんか。
- 梯
それはいってるんですよ。こちらからの演奏者に対しての説明不十分なんです。要するに、できました渡しました・・そこで切れてしまってるわけなんです。
- 菅野
ただ、私はこの前スイングジャーナルで、いろんな電化楽器の演奏されているレコードを聴いたんですが、あんまり変わらないのが多いんですね。
- 児山
どういったものを聴かれたんですか?。
- 菅野
エディ・ハリスとか、ナット・アダレーのコルネット、スティーブ・マーカス・・エディ・ハリスのサックスは、やっぱりサックスの音でしたよ。
- 梯
あのレコードを何も説明つけずに聴かせたら、電子管楽器ということはわからないです。
- 児山
そうかもしれませんが、さきほど菅野さんがおっしゃったようにいまそういったメーカーの製品のうたい文句に、このアタッチメントをつけることによってミュージシャンは、いままでレコーディング・スタジオで複雑なテクニックを使わなければ創造できなかったようなことをあなた自身ができる、というのがあるんです。
- 菅野
やはりねェ。レコーデットされたような音をプレイできると・・。
- 梯
これはコマーシャルですからそういうぐあいに書いてあると思うんですが、水準以上のミュージシャンは、そういう使い方はされていないですね。だからエディ・ハリスのレコードは、電気サックスのよさを聴いてくださいといって、デモンストレーション用に使用しても全然効果ないわけです。
- 菅野
児山さんにお聞きしたいんですが、エディ・ハリスのプレイは聴く立場から見て、音色の問題ではなく、表現の全体的な問題として電子の力を借りることによって新しい表現というものになっているかどうかということなんですが・・。
- 児山
そもそもこの電気サックスというのは、フランスのセルマーの技師が、3本のサックスを吹く驚異的なローランド・カークの演奏を見てこれをだれにもできるようにはならないものかと考えたことが、サックスのアタッチメントを開発する動機となったといわれてるんですが、これもひとつのメリットですよね。それに実際にエディ・ハリスの演奏を聴いてみると、表情はありますよ。表情のない無味乾燥なものであれば絶対に受けるはずがないですよ。とにかくエディ・ハリスは電気サックスを吹くことによってスターになったんですからね。それにトランペットのドン・エリスの場合なんか、エコーをかけたりさらにそれをダブらせたりして、一口でいうならばなにか宇宙的なニュアンスの従来のトランペットのイメージではない音が彼の楽器プラス装置からでてくるわけなんです。それに音という意味でいうならば、突然ガリガリというようなノイズが入ってきたり、ソロの終わりにピーッと鋭い音を入れてみたり、さらにさきほど松本さんがいわれたように吹かなくても音がでるということから、キーをカチカチならしてパーカッション的なものをやったりで・・。
- 松本
私もやってみましたよ。サックスをたたくとカーンという音が出る。これにエコーでもかけると、もうそれこそものすごいですよ(笑)。
- 児山
エディ・ハリスの演奏の一例ですが、初め1人ででてきてボサ・ノバのリズムをキーによってたたきだし、今度はメロディを吹きはじめるわけなんです。さらに途中からリズム・セクションが入るとフットペダルですぐにナマに切り換えてソフトな演奏をするというぐあいなんですよ。またコルトレーンのような演奏はナマで吹くし、メロディなんかではかなり力強くオクターブでバーッと・・。つまり、彼は電気サックスの持つメリットというものを非常に深く研究してました。
- 菅野
それが電化楽器としてのひとつのまっとうな方法なんじゃないですか。でも、あのレコードはあんまりそういうこと入ってなかったですよね。
- 児山
つまり、エディ・ハリスのレコードは完全にヒットをねらったものでして、実際のステージとは全然別なんです。また彼の話によると、コルトレーンのようなハード・ブローイングを延々20分も吹くと心臓がイカレちゃうというわけです(笑)。そしてなぜ電気サックスを使いだしたかというと、現在あまりにも個性的なプレイヤーが多すぎるために、何か自分独自のものをつくっていくには、演奏なり音なりを研究し工夫しなければならない。たとえば、オーボエのマウス・ピースをサックスにつけたりとかいろんなことをやっていたが、今度開発された電気サックスは、そのようないろいろなことができるので、いままでやってたことを全部やめてこれに飛び込んだというんですよ。
- 菅野
非常によくわかりますね。
今回の座談会は、去年あたりから市販されて非常に話題になっているエレクトリック・インストゥルメントとしてのサックスやドラムといったようなものが開発されていますが、その電気楽器の原理が一体どうなっているのか、どういう特性をもっているのか、そしてこういったものが近い将来どうなっていくだろうかといったようなことを中心にお話を聞かせていただきたいと思います。そこでまずエース電子の梯さんにメーカーの立場から登場していただき、それからテナー奏者の松本英彦さんには、現在すでにエレクトリック・サックスを時おり演奏していらっしゃるという立場から、菅野沖彦さんには、ジャズを録音していくといった、それぞれの立場から見たいろんなご意見をお伺いしたいと思うんです。
まず日本で最初にこの種の製品を開発市販された梯さんに電化楽器というものの輪郭的なものをお話願いたいと思うんですが。
- 梯
電気的に増幅をして管楽器の音をとらえようというのは、もう相当以前からあったんですが、実際にセルマーとかコーンとかいった管楽器の専門メーカーが商品として試作したのは3年ぐらい前です。それが2年ぐらい前から市販されるようになったわけです。
- 児山
これは結局いままでのエレクトリック・ギターなどとは別であると考えていいわけですか。
- 梯
ええ、全然別なんです。これらの電化管楽器が、ギターなどと一番違うところは、コードのない単音楽器だけができる電気的な冒険というのが一番やりやすいわけです。といいますのは、コードになった時点からの増幅段というのは絶対に忠実でなければならない。ところが単音というのはどんな細工もできるわけです。この単音のままですと、これはまだ電子音なんです。そこに人間のフィーリングが入って初めて楽音になりますが、そういった電気的な波形の冒険というのが、単音楽器の場合いろいろなことができるわけです。その一例として、オクターブ上げたり下げたりということが装置を使うと簡単に実現することができるんです。コードの場合はその一音づつをバラバラにしてオクターブ上げたり下げたりしてまた合接する・・これはちょっと不可能なわけですね。
- 児山
これら電化楽器のメリットというか特性的なことをいまお話し願いましたが、そこでいかにして電気的な音を出しているのかという原理をサックスに例をとってわかりやすくお願いしたいんですが。
- 梯
現在市販されているものを見ますと、まずマイクロフォンを、ネックかマウスピースか朝顔などにとりつける。そのマイクもみんなエア・カップリング・マイク(普通のマイク)とコンタクト・マイク(ギターなどについているマイク)との中間をいくようなそういったマイクです。ですからナマのサックスの音がそのまま拾われてるんじゃなくて、要するに忠実度の高いマイクでスタジオでとらえた音とはまったく違うものなんですよ。むしろ音階をとらえてるような種類のマイクなんです。音色は、そのつかまえた電気のスペースを周波数としてとらえるわけです。それを今度はきれいに波を整えてしまうわけです。サックスの音というのは非常に倍音が多いものですから基本波だけを取り出す回路に入れて今度はそれを1/2とか1/4とか、これは卓上の計算機のほんの一部分に使われている回路ですけど、こういったものを使ってオクターブ違う音をつくったりするわけですよ。これらにも2つのモデルがあって、管楽器にアタッチメントされている物ですと、むしろ奏者が直ちに操作できることを主眼に置いて、コントロール部分を少なくして即時性を求めてるものと、それから複雑な種々の操作ができるということに目標を置いた、据え置き型(ギブソンのサウンド・システム)といったものがあるわけです。
- 児山
これで大体原理的なことはわかりますが。
- 菅野
わかりますね。
- 松本
ところが、これから先がたいへんなんだ(笑)。
- 児山
じゃ、そのたいへんなところを聞かせてください。それに現在松本さんはどんな製品を・・。
- 松本
現在セルマーのヴァリトーンです。しかし、これどうも気に入らないので半年かかっていろいろ改造してみたんだけど、まだまだ・・。サックスは、サックスならではの音色があるんですよ。それがネックの中を通して出る音はまず音色が変わるんですね。それから、音が出てなくてもリードなどが振動していたり、息の音などが拾われて、オクターブ下がバァーッと出るんですよ。
- 梯
それはコンタクト・マイクの特性が出てくるわけなんです。
- 菅野
わずかでもエネルギーがあればこれは音になるわけですね。
- 梯
ですから、マウス・ピースに近いところにマイクをつけるほど、いま松本さんのいわれたような現象が起るわけなんです。かといって朝顔につけるとハウリングの問題などがあるわけなんです。
- 松本
ちっちゃく吹いても、大きなボリュームの音が出るというのは、サックスが持つ表情とか感情というものを何か変えてしまうような気がするねェ。一本調子というのかなあ。それに電気サックスを吹いていると少し吹いても大きな音になるから、変なクセがつくんじゃないかなんて・・。初めオクターブ下を使ってたとき、これはゴキゲンだと思ったけど、何回かやってると飽きちゃうんだね。しかし、やっぱりロックなんかやるとすごいですよ。だれにも音はまけないし、すごい鋭い音がするしね。ただ、ちょっと自分自身が気に入らないだけで、自分のために吹いているとイージーになって力いっぱい吹かないから、なまってしまうような・・。口先だけで吹くようになるからね。
- 児山
それもいいんじゃないですか。
- 松本
いいと思う人もありますね。ただぼくがそう思うだけでね。電気としてはとにかくゴキゲンですよ。
- 児山
いま松本さんが力強く吹かなくても、それが十分なボリュームで強くでるということなんですが、現在エレクトリック・サックスの第一人者といわれるエディ・ハリスに会っていろんな話を聞いたときに、エレクトリック・サックスを吹くときにはいままでのサックスを吹くときとはまったく別のテクニックが必要であるといってました。
- 松本
そうなんですよ。だからそのクセがついてナマのときに今度は困っちゃうわけ。
- 児山
だから、ナマの楽器を吹いているつもりでやると、もうメチャクチャになって特性をこわしてしまうというわけです。結局エレクトリック・サックスにはそれなりの特性があるわけで、ナマと同じことをやるならば必要ないわけですよ。その別のものができるというメリット、そのメリットに対して、まあ新しいものだけにいろんな批判が出てると思うんですよね。いま松本さんが指摘されたように音楽の表情というものが非常に無味乾燥な状態で1本やりになるということですね。
- 松本
ただこの電気サックスだけを吹いていれば、またそれなりの味が出てくるんだろうと思うんですが、長い間ナマのサックスの音を出していたんですからね・・。これに慣れないとね。
- 児山
やっぱりそういったことがメーカーの方にとっても考えていかなきゃならないことなんですかね。
- 梯
ええ。やはり電子楽器というのは、人間のフィーリングの導入できるパートが少ないということがプレイヤーの方から一番いやがられていたわけです。それがひとつずつ改良されて、いま電子楽器が一般に受け入れられるようになった。しかし、このエレクトリック・サックスというのはまだ新しいだけに、そういう感情移入の場所が少ないんですよ。
- 松本
ぼくが思うのは、リードで音を出さないようなサックスにした方がおもしろいと思うな。だって、実際に吹いている音が出てくるから、不自然になるわけですよ。
- 梯
いま松本さんがいわれたようなものも出てきてるわけなんですよ。これは2年前にフランクフルトで初めて出品された電気ピアニカなんですが・・。
- 松本
吹かなくてもいいわけ・・。
- 梯
いや吹くんです。吹くのはフィーリングをつけるためなんです。これは後でわかったのですが、その吹く先に風船がついていて、その吹き方の強弱による風船のふくらみを弁によってボリュームの大小におきかえるという方法なんです。ですから人間のフィーリングどうりにボリュームがコントロールされる。そして鍵盤の方はリードではなく電気の接点なんです。ですからいままでのテクニックが使えて、中身はまったく別のものというものも徐々にできつつあるわけなんです。
- 松本
電気サックスの場合、増幅器の特性をなるべく生かした方が・・いいみたいね。サックスの音はサックスの音として、それだけが増幅されるという・・。
- 菅野
いまのお話から、われわれ録音の方の話に結びつけますと、電子楽器というものは、われわれの録音再生というものと縁があって近いようで、その実、方向はまったく逆なんですよね。電子楽器というのは新しい考え方で、新しい音をクリエートするという方向ですが、録音再生というのは非常に保守的な世界でして、ナマの音をエレクトロニクスや機器の力を使って忠実に出そうという・・。というわけで、われわれの立場からは、ナマの自然な楽器の音を電気くさくなく、電気の力を借りて・・という姿勢(笑)。それといまのお話で非常におもしろく思ったのは、われわれがミキシング・テクニックというものを使っていろいろな音を作るわけですが、電子楽器を録音するというのは、それなりのテクニックがありますが、どちらかというと非常に楽なんです。電子楽器がスタジオなりホールなりでスピーカーからミュージシャンが音を出してくれた場合には、われわれはそれにエフェクトを加える必要は全然ない。ですからある意味ではわれわれのやっていた仕事をミュージシャンがもっていって、プレーをしながらミキシングもやるといった形になりますね。そういうことからもわれわれがナマの音をねらっていた立場からすれば非常に残念なことである・・と思えるんですよ。話は変わりますが、この電化楽器というのは特殊なテクニックは必要としても、いままでの楽器と違うんだと、単にアンプリファイするものじゃないんだということをもっと徹底させる必要があるんじゃないですか。
- 梯
現在うちの製品はマルチボックスというものなんですが、正直な話、採算は全然合ってないんです。しかし、電子楽器をやっているメーカーが何社かありますが、管楽器関係のものが日本にひとつもないというのは寂しいし、ひとつの可能性を見つけていくためにやってるんです。しかし、これは採算が合うようになってからじゃ全然おそいわけですよ。それにつくり出さないことには、ミュージシャンの方からご意見も聞けないわけですね。実際、電子管楽器というのは、まだこれからなんですよ。ですからミュージシャンの方にどんどん吹いていただいて、望まれる音を教えていただきたいですね。私どもはそれを回路に翻訳することはできますので。
- 菅野
松本さん、サックスのナマの音とまったく違った次元の音が出るということがさきほどのお話にありましたね。それが電子楽器のひとつのポイントでもあると思うんですがそういう音に対して、ミュージシャンとしてまた音楽の素材として、どうですか・・。
- 松本
いいですよ。ナマのサックスとは全然違う音ならね。たとえば、サックスの「ド」の音を吹くとオルガンの「ド」がバッと出てくれるんならばね。
- 菅野
そういう可能性というか、いまの電気サックスはまったく新しい音を出すところまでいってませんか。
- 梯
それはいってるんですよ。こちらからの演奏者に対しての説明不十分なんです。要するに、できました渡しました・・そこで切れてしまってるわけなんです。
- 菅野
ただ、私はこの前スイングジャーナルで、いろんな電化楽器の演奏されているレコードを聴いたんですが、あんまり変わらないのが多いんですね。
- 児山
どういったものを聴かれたんですか?。
- 菅野
エディ・ハリスとか、ナット・アダレーのコルネット、スティーブ・マーカス・・エディ・ハリスのサックスは、やっぱりサックスの音でしたよ。
- 梯
あのレコードを何も説明つけずに聴かせたら、電子管楽器ということはわからないです。
- 児山
そうかもしれませんが、さきほど菅野さんがおっしゃったようにいまそういったメーカーの製品のうたい文句に、このアタッチメントをつけることによってミュージシャンは、いままでレコーディング・スタジオで複雑なテクニックを使わなければ創造できなかったようなことをあなた自身ができる、というのがあるんです。
- 菅野
やはりねェ。レコーデットされたような音をプレイできると・・。
- 梯
これはコマーシャルですからそういうぐあいに書いてあると思うんですが、水準以上のミュージシャンは、そういう使い方はされていないですね。だからエディ・ハリスのレコードは、電気サックスのよさを聴いてくださいといって、デモンストレーション用に使用しても全然効果ないわけです。
- 菅野
児山さんにお聞きしたいんですが、エディ・ハリスのプレイは聴く立場から見て、音色の問題ではなく、表現の全体的な問題として電子の力を借りることによって新しい表現というものになっているかどうかということなんですが・・。
- 児山
そもそもこの電気サックスというのは、フランスのセルマーの技師が、3本のサックスを吹く驚異的なローランド・カークの演奏を見てこれをだれにもできるようにはならないものかと考えたことが、サックスのアタッチメントを開発する動機となったといわれてるんですが、これもひとつのメリットですよね。それに実際にエディ・ハリスの演奏を聴いてみると、表情はありますよ。表情のない無味乾燥なものであれば絶対に受けるはずがないですよ。とにかくエディ・ハリスは電気サックスを吹くことによってスターになったんですからね。それにトランペットのドン・エリスの場合なんか、エコーをかけたりさらにそれをダブらせたりして、一口でいうならばなにか宇宙的なニュアンスの従来のトランペットのイメージではない音が彼の楽器プラス装置からでてくるわけなんです。それに音という意味でいうならば、突然ガリガリというようなノイズが入ってきたり、ソロの終わりにピーッと鋭い音を入れてみたり、さらにさきほど松本さんがいわれたように吹かなくても音がでるということから、キーをカチカチならしてパーカッション的なものをやったりで・・。
- 松本
私もやってみましたよ。サックスをたたくとカーンという音が出る。これにエコーでもかけると、もうそれこそものすごいですよ(笑)。
- 児山
エディ・ハリスの演奏の一例ですが、初め1人ででてきてボサ・ノバのリズムをキーによってたたきだし、今度はメロディを吹きはじめるわけなんです。さらに途中からリズム・セクションが入るとフットペダルですぐにナマに切り換えてソフトな演奏をするというぐあいなんですよ。またコルトレーンのような演奏はナマで吹くし、メロディなんかではかなり力強くオクターブでバーッと・・。つまり、彼は電気サックスの持つメリットというものを非常に深く研究してました。
- 菅野
それが電化楽器としてのひとつのまっとうな方法なんじゃないですか。でも、あのレコードはあんまりそういうこと入ってなかったですよね。
- 児山
つまり、エディ・ハリスのレコードは完全にヒットをねらったものでして、実際のステージとは全然別なんです。また彼の話によると、コルトレーンのようなハード・ブローイングを延々20分も吹くと心臓がイカレちゃうというわけです(笑)。そしてなぜ電気サックスを使いだしたかというと、現在あまりにも個性的なプレイヤーが多すぎるために、何か自分独自のものをつくっていくには、演奏なり音なりを研究し工夫しなければならない。たとえば、オーボエのマウス・ピースをサックスにつけたりとかいろんなことをやっていたが、今度開発された電気サックスは、そのようないろいろなことができるので、いままでやってたことを全部やめてこれに飛び込んだというんですよ。
- 菅野
非常によくわかりますね。
- ハウリングもノイズも自由自在 -
- 児山
ラディックというドラム・メーカーが今度電化ヴァイブを開発して、ゲーリー・バートンが使うといってましたが、彼の場合は純粋に音楽的に、そのヴァイブがないと自分のやりたいことができないというわけですよ。なぜかというと、自分のグループのギター奏者が、いままでのギター演奏とは別なフィードバックなどをやると、ほかの楽器奏者もいままで使ってなかったようなことをやりだした。そういう時にヴァイブのみがいままでと同じような状態でやっているというのは音楽的にもアンバランスであるし、グループがエレクトリック・サウンズに向かったときには自分もそうもっていきたいというわけなんですよ。もしそれをヴァイブでやることができれば、どういう方向にもっていけるかという可能性も非常に広いものになるわけですよね。
- 梯
それから、いままでの電子楽器というのは、とにかくきれいな音をつくるということだけから音が選ばれた。ところが音の種類には不協和音もあればノイズもある。そのことをもう一度考えてみると、その中に音の素材になりうるものがたくさんあるわけです。たとえばハウリングですが、以前にバンクーバーのゴーゴー・クラブへいったとき、そこでやってたのがフィードバックなんです。スピーカーのまん前にマイクをもってきてそいつを近づけたり離したりして、そこにフィルターを入れてコントロールして、パイプ・オルガンの鍵盤でずっとハーモニーを押さえ続けてるようなものすごく迫力のある音を出すんです。そんなものを見て、これはどうも電子楽器の常識というものをほんとうに捨てないと新しい音がつくれないと思いましたね。
- 児山
そうですね。ですから、いまこういう電子楽器、あるいは楽器とは別なエレクトリックな装置だけを使って、ジャズだといって演奏しているグループもあるわけです。まあそれにはドラムやいろいろなものも使ったりするわけですが、いわゆる発振器をもとに非常に電気的な演奏をしているわけなんですよ。
- 松本
ただ音は結局電子によってでるんだけど、オルガン弾いてもサックス吹いても同じ音が出るかもしれない。弾いてる人の表情は違うけれども、そういうのがあったらおもしろいと思いますね。
- 菅野
それにもうひとつの問題は、発振器をもとにしたプレーは、接点をうごかしていくといった電子楽器と根本的に違うわけだ。電気サックスなどは、松本さんがいわれているようにナマの音が一緒に出てくるという。そこが問題ですね。だからナマの音も積極的に利用して、ナマの音とつくった音を融合して音楽をつくっていくか、それともナマの音はできるだけ消しちゃって電子の音だけでいくか・・。
- 児山
それはミュージシャン自身の問題になってくるんじゃないかな。たとえばリー・コニッツなどのようにだれが聴いてもわかる音色を持っている人は変えないですね。自分の音を忠実に保ちながらオクターブでやるとか・・。
- 梯
しかしその場合、音色は保ち得ないんです。つまりその人その人のフィーリング以外は保ち得ないんですよ。
- 児山
なるほど、そうすると音楽的な内容がその個性どうりにでてくるということなんですね。
- 菅野
一般に音というものはそういうものの総合なんで、物理的な要素だけを取り上げるのは困難なわけです。そういったすべてのものがコンバインされたものをわれわれは聴いているわけですから、その中からフィーリングだけを使っても、リー・コニッツ独特なものが出てくれば、これはやはりリー・コニッツを聴いてるわけですよ。
- 松本
それならいいけどサックスというのはいい音がするわけですよ。それをなまはんかな拡声装置だといけない。それだとよけいイヤになるんですよ。
- 児山
ラディックというドラム・メーカーが今度電化ヴァイブを開発して、ゲーリー・バートンが使うといってましたが、彼の場合は純粋に音楽的に、そのヴァイブがないと自分のやりたいことができないというわけですよ。なぜかというと、自分のグループのギター奏者が、いままでのギター演奏とは別なフィードバックなどをやると、ほかの楽器奏者もいままで使ってなかったようなことをやりだした。そういう時にヴァイブのみがいままでと同じような状態でやっているというのは音楽的にもアンバランスであるし、グループがエレクトリック・サウンズに向かったときには自分もそうもっていきたいというわけなんですよ。もしそれをヴァイブでやることができれば、どういう方向にもっていけるかという可能性も非常に広いものになるわけですよね。
- 梯
それから、いままでの電子楽器というのは、とにかくきれいな音をつくるということだけから音が選ばれた。ところが音の種類には不協和音もあればノイズもある。そのことをもう一度考えてみると、その中に音の素材になりうるものがたくさんあるわけです。たとえばハウリングですが、以前にバンクーバーのゴーゴー・クラブへいったとき、そこでやってたのがフィードバックなんです。スピーカーのまん前にマイクをもってきてそいつを近づけたり離したりして、そこにフィルターを入れてコントロールして、パイプ・オルガンの鍵盤でずっとハーモニーを押さえ続けてるようなものすごく迫力のある音を出すんです。そんなものを見て、これはどうも電子楽器の常識というものをほんとうに捨てないと新しい音がつくれないと思いましたね。
- 児山
そうですね。ですから、いまこういう電子楽器、あるいは楽器とは別なエレクトリックな装置だけを使って、ジャズだといって演奏しているグループもあるわけです。まあそれにはドラムやいろいろなものも使ったりするわけですが、いわゆる発振器をもとに非常に電気的な演奏をしているわけなんですよ。
- 松本
ただ音は結局電子によってでるんだけど、オルガン弾いてもサックス吹いても同じ音が出るかもしれない。弾いてる人の表情は違うけれども、そういうのがあったらおもしろいと思いますね。
- 菅野
それにもうひとつの問題は、発振器をもとにしたプレーは、接点をうごかしていくといった電子楽器と根本的に違うわけだ。電気サックスなどは、松本さんがいわれているようにナマの音が一緒に出てくるという。そこが問題ですね。だからナマの音も積極的に利用して、ナマの音とつくった音を融合して音楽をつくっていくか、それともナマの音はできるだけ消しちゃって電子の音だけでいくか・・。
- 児山
それはミュージシャン自身の問題になってくるんじゃないかな。たとえばリー・コニッツなどのようにだれが聴いてもわかる音色を持っている人は変えないですね。自分の音を忠実に保ちながらオクターブでやるとか・・。
- 梯
しかしその場合、音色は保ち得ないんです。つまりその人その人のフィーリング以外は保ち得ないんですよ。
- 児山
なるほど、そうすると音楽的な内容がその個性どうりにでてくるということなんですね。
- 菅野
一般に音というものはそういうものの総合なんで、物理的な要素だけを取り上げるのは困難なわけです。そういったすべてのものがコンバインされたものをわれわれは聴いているわけですから、その中からフィーリングだけを使っても、リー・コニッツ独特なものが出てくれば、これはやはりリー・コニッツを聴いてるわけですよ。
- 松本
それならいいけどサックスというのはいい音がするわけですよ。それをなまはんかな拡声装置だといけない。それだとよけいイヤになるんですよ。
- ついに出現した電気ドラム -
- 児山
ニューポートに出演したホレス・シルヴァー・クインテットのドラマー、ビリー・コブハムがハリウッド社のトロニック・ドラムという電気ドラムを使用していましたが、あれはなんですか。
- 梯
うちでも実験をやっています。ロックなどの場合、エレキのアンプが1人に対して200W、リードが200Wならベースは400Wくらい。そうなってくるといままで一番ボリュームがあったドラムが小さくなってきたわけですよ。最初はドラムの音量をあげるだけだったのですが、やってみるとマイクのとりつけ方によって全然ちがった効果が出てきたわけですよ。
- 菅野
それは具体的に各ドラム・セットの各ユニットに取り付けるわけですか。
- 梯
最初は単純に胴の中にマイクを取り付けただけでしたが、いまはコンタクト・マイクとエア・カップリング・マイクの共用でやっていますね。
- 菅野
シンバルなんかは・・。
- 梯
バスドラム、スネア、タム・タムにはついていますが、シンバルはちょっとむずかしいのです・・。でもつけてる人もいるようですね。
- 菅野
ではいまの形としては、新しい音色をつくろうとしているわけですね。
- 梯
そうですね。現在ははっきりと音色変化につかってますね。
- 松本
でもやはりこの電気ドラムとてナマの音が混じって出るわけですよね。ナマの音がでないようにするにはできないのですか。
- 梯
それはできるんですよ。市販はしてないんですが、ドラムの練習台のようなものの下にマイクをセッティングするわけなんですよ。いままでのドラム以外の音も十分でますがシンバルだけはどうもね。らしき音はでるんですが。
- 松本
いままでの何か既成があるからでしょう。
- 梯
そうですね。だからシンバルはこういう音なんだと居直ってしまえばいいわけ・・。それぐらいの心臓がなきゃね(笑)。
- 菅野
本物そっくりのにせものをつくるというのはあまりいいことではない。あまり前向きではないですよ。よくできて本物とおなじ、それなら本物でよりいいものを・・。
- 松本
だから電気サックスでも、ナマの音をだそうとしたんじゃだめですね。これじゃ電気サックスにならない。
- 梯
松本さんにそういわれるとぐっとやりやすくなりますよ(笑)。
- 児山
電気サックスというのはだいたいいくらぐらいなんですか?。
- 松本
ぼくのは定価85万円なんですよ。でもね高いというのは輸入したということですからね。そのことから考えると・・。
- 梯
松本さんの電気サックスはニューオータニで初めて聴いたんです。これは迫力がありましたね。
- 松本
すごい迫力です。でも、それに自分がふりまわされるのがいやだから・・。
- 梯
こちらから見たり聴いたりしていると松本さんが振り回しているように見えるから、それは心配いらないですよ(笑)。
- 松本
それに運ぶのがどうもねェ。いままではサックスひとつ持ってまわればよかった。ギターなんかじゃ最初からアンプを持って歩かなければ商売にならないとあきらめがあるんですが、ぼくはなにもこれがなくたってと考えるから・・。そういうつまらないことのほうが自分に影響力が大きい・・(笑)。
- 児山
やはりコンサートなどで、おおいにやっていただかないと、こういった楽器への認識とか普及とかいった方向に発展していかないと思いますので、そういう意味からも責任重大だと思います。ひとつよろしくお願いします。それに、いまアメリカあたりでは電子楽器が非常に普及してきているわけなんですよ。映画の音楽なんかも、エレクトリック・サウンズ、エレクトリック・インスツルメントで演奏するための作曲法なんていうのはどうなるんですかねェ・・。
- 松本
これがまたたいへんな問題ですが、非常にむずかしいですね。
- 児山
それがいまの作曲家にとって一番頭のいたいことになってるんですね。
- 菅野
あらゆる可能性のあるマルチプルな音を出しうる電化楽器が普及すれば、新しい記号をつくるだけでもたいへんですね。
- 松本
そのエレクトリック・インスツルメントのメーカーだって指定しなければならないし・・。作曲家もその楽器も全部こなさなきゃならないですからね。
- 児山
そのように色々な問題もまだあるわけなんですが、現実にはあらゆる分野の音楽に、そしてもちろんジャズの世界にも着々と普及してきつつあるわけなんです。この意味からも電化楽器の肯定否定といった狭い視野ではなく、もっと広い観点から見守っていきたいですね。
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