しかし斜陽化する音楽産業の影で、こんな '電気仕掛けの小箱' の市場がこれほどまでに活況を呈するなんてことが過去あったでしょうか?名機の誉れ高い最高の一台からどう使ってよいのかワカラン最低の迷機・・それらは日本や米国、西欧のみならず中華圏からロシアや東欧、北欧、豪州、南米に至るまで広く世界を駆け巡る勢いなのですヨ。また、ここ最近の '往年の名機' 発掘ブームのみならず、これまで謎に包まれていた '鉄のカーテン' の向こう側である旧共産圏はソビエト製ペダルの発掘がeBayやReverb.comを賑わせておりまする。
→Copilot Fx ②
→Dedalo Effect Pedals ①
→Dedalo Effect Pedals ②
→Manecolooper Sweet 16 Digital Delay Looper
→Maneco Labs Minilooper
→Dedalo Effect Pedals ①
→Dedalo Effect Pedals ②
→Manecolooper Sweet 16 Digital Delay Looper
→Maneco Labs Minilooper
偏見ではありますが、特にこういった電子機器と無縁そうな中南米はドミニカのCopilot Fx、アルゼンチンのDedaloとSonomatic、ブラジルのStomp Audio LabsやMG Musicといった工房から続々登場する新製品にも驚かされます。この南米大陸からの '新作' としてはウルグアイから新興の工房、Maneco Labsによる 'エレハモ' の16 Second Digital Delayにインスパイアされたと思しきループ・サンプラー、Sweet 16 Digital Delay Looperがかなり面白そうですね。また、さらに小型で使いやすくなったMinilooperもラインナップ中なり。何より積極的にデジタルへと挑むその情熱は凄く、亜熱帯のジャマイカで育まれたダブの '飛び道具' 的エコーの酩酊感が南米で '異種交配' したのかもしれません。そんな電子工学のスペシャリストからITのベンチャー企業による参入、SNSを中心に昨日、半田ごて持った 'シロウト' に至るまでまさにペダル界は群雄割拠の '玉石混交' な状況でございます。
→Adventure Audio Again
→Dwarfcraft Devices Twin Stags
Juan AldereteさんとNick Reinhartさんのコンビによる彼らの '秘密基地' からのペダルショウ。こーいうズラッと並べた棚からあれこれペダルを物色して結線、いろいろ実験してみるというのが正しい 'ペダル道' なんじゃないかと思うのですがいかがでしょうか。このふたりでギターとベースという役割分担があるのも見事だし、ここにゲストでキーボードやノイズ系、エフェクター製作に従事するビルダーたちが直々に顔をのぞかせるのも楽しいですね。ここ数年は 'ベストペダル' のUPする日が遅くなっているのだけど(汗)、そんな2019年にレビューしたペダルの中で興味深いのが 'ゴミのように' 歪むペダルとしてChase Bliss Audio Brothers、Jam Pedals Lucy Dreamer Supreme、Spiral Electric Fx Black Spiral Fuzz、Death by Audio Intersteller Overdriver DXのニッチ過ぎる4機種をラインナップ。そしてAdventure AudioのAgain。こちらは 'ユーロラック・モジュラーシンセ' のモジュールを 'ペダル化' したもののようで、おとといの項にご紹介した「新年の 'CVペダル始め'」で取り上げるべきものです。Depth、Rate、Feedback、Delay Time、Blendの5つのパラメータをCVでグニャグニャするということで、ここではDwarfcraft Devicesから2つのトレモロを搭載したTwin StagsでLFOを出力して同期、あれこれ変調の素材作りなきっかけとしておりまする。
-2020年1月8日追記-
ふぅ、やっときました 'Pedals And Effects Best of 2019'。遅いよ〜。他の 'ベスト・ペダル' とそう大差ないランキングだけどRainger FxのDrone Raingerはマニアックですな。
この手の 'ペダル・レビュー' なYoutuberとしては早くからマニアックにやっていたDennis Kyzerさん。たぶん収入のほとんどをこーいうガジェットに注ぎ込む 'ペダル廃人' で、決してメーカーから支援されて '提灯レビュー' なんかしないゾ!という、こちらが勝手な人物像を思い描くくらいストイックな印象がありまする(笑)。実際、本人は動画に姿を現さないし、そんなことよりいつも 'Effects Database' やネットの前を陣取って、世界の片隅にある小さな工房の製品を真っ先に試すことに快感を覚えてるんじゃないだろうか?
そんなマニアックなDennisさんから一転、デンマークから発信するThe Pedal ZoneさんはむしろSNSの恩恵をたっぷりと使ってメーカーと提携、オサレに世界各国のペダルをレビューしている感じがありまする。何か編集など、以前に人気を博していたPro Guitar Shopの動画あたりを参考にしてギタリストが望む情報を上手く掴んでますね。ちなみに同様のスタンスでは、Knobsさんがエレクトロニカ限定ながらオサレな動画でレビューしているというイメージがあります。
さらにJHS Pedals主宰の 'ペダル・ジャンキー' ともいうべきJosh Scottさんの動画も上げておきましょうか。とにかくペダルにまつわるテーマやジャンルを個別にまとめて動画にする 'オタクっぽい' 見た目もツボなJoshさんなんだけど(笑)、ここでは2018年の 'ベストペダルTop 10' ('2019年版' は無し?)と 'Modern Modulation' の6種、'Weirdな' ペダルTop 10の特集をどーぞ。そして、今は無きPGS(Pro Guitar Shop)の名物レビューギタリストであったAndyが担当するご存知Reverb.comからの '2019ベストペダルTop 5'。
→Seymour Duncan Fooz - Analog Fuzz Synthesizer ①
→Seymour Duncan Fooz - Analog Fuzz Synthesizer ②
→Seymour Duncan Fooz - Analog Fuzz Synthesizer ③
→Keeley Electronics Synth-1 - Reverse Attack Fuzz Wave Generator
→Elta Music Devices PLL-4046 Analog Harmonic Synthesizer ①
→Elta Music Devices PLL-4046 Analog Harmonic Synthesizer ②
→Parashit Studio The Multiwave Mega Guitar Synthesizer
こちらはいつもニコニコゲラゲラ、画面の向こうから楽しい雰囲気が伝わってくるDanielとMickのコンビによるThat Pedal Showによるわたしも大好きな 'ギターシンセ' をどーぞ。これに便乗して、エフェクター市場へ参入したピックアップの老舗Seymour Duncanが手がけながらあまり話題になってない(苦笑) 'ギターシンセ'、Foozをここでもう一度 'テコ入れ' しておきましょうか。またKeeleyから去年の '新作' は一昨年のBubble Tronに続いて 'ギターシンセ' のSynth-1が登場しました。そして現在ロシアで気炎を吐いているElta Music Devicesのハーモニック・シンセサイザーPLL-4046。PLLとは 'Phased Locked Loop' (位相同期回路)という入力信号からフィードバックで制御したものを短形波に変換、その周波数をマルチプルまたは分割して元のピッチから倍音を生成するというシンセライクなもの。あ、そうそう2019年の暮れに 'ガジェットフェチ' の心を鷲掴みにしたスウェーデンの新興工房、Parashit StudioからMultiwave Mega Guitar Synthesizerも面白い。Korg Monologueシンセサイザーに触発されたようなオシロスコープ的波形のLEDの怪しげな魅力はもちろん、アナログとデジタルの 'ハイブリッド' による2つのVCOを 'Wavetable' 的に掛け合わせた 'サブ・ハーモニック' からローパス・フィルターによる変調、LFOやEGでトリガーさせてやることで奇妙に 'シンセサイズ' されたトーンを放ちます。
→Source Audio SA249 C4 Synth
→Source Audio SA143 Bass Envelope Filter (discontinued)
そしてSource Audioからも飛び込んできたその名もズバリ、C4 Synthという 'ギターシンセ' に特化したマルチ・エフェクター。独立した4ボイスによりモノ/ポリフォニック・ピッチシフトからインテリジェント・ハーモナイズ、ディストーションからトレモロ、フィルターまで個別にアサインすることが可能。その 'エンジン' ともいうべきオシレータはサイン波、スクエア波、ノコギリ波の波形3種をそれぞれ組み合わせて合成します。ADSRトリガーを備えたエンヴェロープ・フォロワーも11種から選択可能、VCFとLFOはそれぞれ25種と14種から選択、変調させることが可能でその揺れをサイン波、スクエア波、ノコギリ波、サンプル&ホールドによりランダムにアルペジオを走らせます。そして、エクスプレッション・ペダルから同時使用可能な2つのプログラマブルな16ステップ・シーケンサーを備えるなど至れり尽くせり。またデジタルらしく6つのユーザー・プリセットとUSB端子により、MIDIで128のファクトリー・プリセットへとアクセス可能。さらにその膨大なプログラムをPC上で管理、エディットすべくメーカーから 'Neuro Desktop Editor & Neuro Mobile App' というフリーソフトが用意されており、さらに細かなパラメータをしつこく弄るという・・ええ、ペダル派の皆さんはここまでやりますかね?(笑)。ちなみにSource Audioのフィルターの感じはすでに 'ディスコン' ですが、そのサイバーなデザインで同社を象徴したベース用エンヴェロープ・フィルターSA143を管楽器の 'アンプリファイ' 広報に精を出すJohn Bescupさんが試されておりまする。
→Mastro Valvola
そして年末ギリギリの滑り込みセーフ。'ギターシンセ' ではないけれど、それらと組み合わせて使うにはピッタリのマルチ・ディレイ&ピッチシフトによる変異系として、いわゆる 'グリッチ/スタッター' なイタリア産Mastro Valvolaの 'Lysergic Emotions Module' ことLEM。8種のリヴァーブ/ディレイ、モジュレーションを軸に 'グラニュラーシンセシス' を生成するその姿は、Red PandaのParticleやRaster、Tensorを想起させますが、新製品として日本に入って来るのはこれからでしょうね。こーいうニッチな効果のペダルを挟み '擬似シンセ' 風なアプローチでガチャガチャいろんなペダルを繋いでみるのも楽しいのだ。
→Alexander Pedals Syntax Error
さて、肝心の 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターといえば、MalekkoやMr.Blackと並びエフェクター界で大きな存在感を誇るCatalinbreadから登場のCoriolis Effect。こちらはピッチシフトとテープ逆再生からターンテーブルの '電源落とし' 風効果、エクスプレッション・ペダルによるワウやフィルタリングからグリッチのランダマイズに至るまで奇妙な '飛び道具' を生成する面白いもの。この工房で同種の '飛び道具' としてはCsidmanが結構面白かったのだけど、本機の多機能ぶりもなかなかのもの・・う〜ん、まだまだこの手のペダルの勢いを止めることは出来ませんね。そしてノルウェーからの新たな '刺客' ともいうべきPladask Elektrisk Fabrikat。もう、ここまでくると正確な読み方が分かりませんけど(苦笑)、本機もRed Panda ParticleやThe Montreal Assembly Count to Fiveなどと同様のディレイ、ピッチシフトによる 'グラニュラー' 応用系のひとつですね。そろそろどこかのお店が代理店となって取り扱いそうな予感。もうひとつ、米国のガレージ工房からAlexander PedalsのSyntax Error。'ガジェット' 的ポップな面構えからは想像もつかないくらい、実に多彩な音色を備えており、グリッチ/スタッターからディレイはもちろん、ロービット系、リング・モジュレーター、モジュレーション、ピッチ・シフトと・・ちょっとRed PandaのParticleをもう少し荒くしたような魅力に溢れておりますねえ。
→Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ①
→Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ②
→Monster Mutilators: Vintage Guitar Synth Pedals
さて、何も新製品ばかりが '新作' ということではなく、過去の遺産から '温故知新' 的に学んでみるということでこちら、日本が誇る偉大なエンジニア、三枝文夫氏が手がけた京王技研(Korg)の '珍品' Synthesizer Traveller F-1。本機は-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成された 'Traveller' を単体で搭載したもので、それぞれの動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。三枝氏といえば日本のエフェクター黎明期を象徴する2種、Honey Psychedelic Machine、Vibra Chorusの設計者としてすでに 'レジェンド' の立場におり、本機はちょうど京王技研からKorgへと移行する過渡期に設計者からユーザーへの '挑戦状' として遊び心いっぱいに提供されながら、結局は現在まで '発見' されることなく 'コレクターズ・アイテム' として捨て置かれております。出でよ、挑戦者!。そんな本機の製品開発にはジャズ・ピアニストの佐藤允彦氏も携わっており、当時のプロトタイプについてこう述べております。なんと当初はペダルの縦方向のみならず、横にもスライドさせてコントロールする仕様だったというのは面白い。
"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"
余談ですが、佐藤氏がバークリー音楽大学から帰国した1968年、当時開発していた電気楽器のモニターとしてアプローチしてきたのが京王技研でした。面白いのは佐藤氏が目の前にした同社初のシンセサイザー 'Korgue' のプロトタイプに対して、'世界同時革命' 的(笑)に似たようなテクノロジーの進化のエピソードとしてこう述べております。
"8月に帰ってきた同じ年、京王技研(Korg)の社長さんから電話がかかってきたんです。アメリカに行く前からエレピやクラヴィネットを使っていたのを知っていて、「うちで今度、新しい電子オルガンを作ってみたんだけど、見に来て、ちょっと意見を聞かせてくれないか」っていうんですよ。それで行ったらば、ヤマハのコンボオルガンとかみたいなんだけど、音色を作れるようになっていたわけ。ここをこうすると音が変わるよ、というふうな。それで「これ、オルガンっていうより、シンセサイザーなんじゃないの?」って言ったら、シンセサイザーという言葉を誰も知らなかったの、その場にいる人が(笑)。
「なんだ、それは?」って言うんで、発振器からいろんな音が作れるっていうものを、シンセサイザーっていうらしいよって答えたら、「へえ、じゃあ、シンセサイザーっていうんだ、これは。そういう方に入るんだね」って。"
→Earthquaker Devices Swiss Things
そしてエフェクター本体ではありませんが、それらを複数組み合わせることで効果的な '便利アイテム' としてお馴染みライン・セレクター。あのEarthquaker Devicesからも多目的なライン・セレクター、Swiss Thingsが登場です。本機は '2 Loop'を基本にしたトゥルーバイパス仕様でA/B-Y出力、バッファー搭載のチューナー出力、最大20dBまでのクリーン・ブーストとヘッドルームの高いバッファー出力、外部エクスプレッション・ペダルによるヴォリューム・コントロール、同社開発のフレキシスイッチは電子リレー式のトゥルーバイパスを元に踏み方の違いで通常のラッチスイッチ、アンラッチスイッチへの切り替えが可能。
→Zoom A1 Four / A1X Four Multi-Effects Processors ①
→Zoom A1 Four / A1X Four Multi-Effects Processors ②
→Old Blood Noise Endeavors Maw
あ、そうそう、管楽器に関係した2019年の新製品では、多機能かつリーズナブルなマルチ・エフェクターを製作するZoomからA1 Four/A1X Fourという 'アコースティック' 用マルチが登場。本機が画期的なのはその 'アコースティック' 楽器の中でトランペットやサックスなど管楽器に特化したプリセットを備えていること!いや、この手の機器として '管楽器専用' を謳ったものは初めてじゃないですかね?2つの図はそれぞれギター、管楽器で使用した際のワウの帯域変化を示したもので、管楽器ではより幅広い帯域に対してローパスとバンドパスを組み合わせてナチュラルなピークポイントでワウ効果を付加、コントロールさせていることが分かります。もちろん、その他のプリセットも幅広いアコースティック楽器に特化したものとして開発されておりまする。そんなメーカーの意気込みは、管楽器に必須のダイナミックマイクやコンデンサーマイクからフォンへと変換する 'アッテネータ' 内蔵(Gain調整、単3電池2本使用)の変換アダプター、MAA-1を付属させていることからも分かるでしょう。そしてOld Blood Noise EndeavorsからXLRマイク入力(コンボタイプ)&DIに 'マルチ・エフェクツ' を搭載した管楽器奏者垂涎の逸品、Mawが登場。本機の構成はChannel Aにオクターバーとモジュレーション、空間系、Channel Bにモジュレーションと空間系をそれぞれ10種配置、このA、B間にその他コンパクト・エフェクター(例えばワウペダルなど)を組み合わせるべく 'センド・リターン' を搭載して、さらにToneツマミからSaturationまで個別に用意するなど至れり尽くせりな作りが嬉しい。しかし、あれこれいろんな機器の流用による 'トライ&エラー' で散財していた頃を知っている自分からしたら良い時代になったもんですね。
→Zorg Effects
→Zorg Effects Blow !
→Flux Effects Liquid Ambience
→Electro-Harmonix Micro Synthesizer
→Anasounds Utopia
→Retro Mechanical Labs 432k Distortion Box
→Meris Ottobit Jr.
→Death by Audio Reverberation Machine
→Digitech FreqOut
→Glou-Glou Pralines
→Electro-Harmonix Synth 9
そんなOld Blood Noise Endeavors Mawのような市場を開拓して見せたのがこちら、フランス新興の工房、Zorg Effectsの 'インサート' 付きマイク・プリアンプBlow !。すでにAudio-Technica VP-01 Slick FlyやRadial Engineering Voco-Loco、Eventide Mixing Linkなど同等製品が市場に現れておりますが、こーいう機器がある程度出揃っているかでそのアプローチする敷居の高さは変わりますヨ。そういえば、この動画ではZorg EffectsのみならずAnasoundsのディレイUtopia、フィルターの変異系ともいうべきGlou Glou Pralinesも皆フランスの製品・・。今後この手のアプローチはフランスを中心に世界を駆け巡るかもしれませんね。
さて、2020年ということで後半は以前の記事 'フェイズの源流 - その黎明期 (再掲)' を一部抜粋、再編集してお送りしたいと思います。やはり1960年代後半〜70年代にかけてのエレクトロニクスがもたらした '熱気'・・もの凄いものがありましたね。それは欧米でいくつかのメーカーから 'アタッチメント' と呼ばれるエフェクター黎明期が到来、当時のLSD服用による '意識の拡張' と相まってレコーディング技術が飛躍的に進歩したことの証左となりました。そんな 'パラダイム・シフト' の中、日本が世界に誇る作曲家、富田勲氏の音作りは音楽の発想を鍛える上でとても重要な示唆を与えてくれます。
いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクター登場前夜は、まだこの手の位相を操作して効果を生成するにはレスリー社のロータリー・スピーカーに通す、2台のオープンリール・デッキを人力で操作して、その位相差を利用する 'テープ・フランジング' に頼らなければなりませんでした。富田氏はこのような特殊効果に並々ならぬ情熱を持っており、いわゆる 'Moogシンセサイザー' 導入前の仕事でもいろいろ試しては劇伴、CM曲などで実験的な意欲を垣間見せていたのです。
"これは同じ演奏の入ったテープ・レコーダー2台を同時に回して、2つがピッタリ合ったところで 'シュワーッ' って変な感じになる効果を使ったんです。原始的な方法なんだけど、リールをハンカチで押さえるんです。そしたら抵抗がかかって回転が遅くなるでしょ。'シュワーッ' ってのが一回あって、今度は反対のやつをハンカチで押さえると、また 'シュワーッ' ってのが一回なる。それを僕自身が交互にやったんです。キレイに効果が出てるでしょ。"
→Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
→Colorsound Dipthonizer
1970年の新製品である初期の 'ギター・シンセサイザー' Ludwig Phase Ⅱ Synthesizerは当時、富田氏が手がけていた劇伴、特にTVドラマ「だいこんの花」などのファズワウな効果で威力を発揮しました。また、シンセサイザーを製作するEMSからも同時期、'万博世代' が喜びそうな近未来的デザインと共にSynthi Hi-Fliが登場、この時期の技術革新とエフェクツによる '中毒性' はスタジオのエンジニアからプログレに代表される音作りに至るまで広く普及します。
"あれは主に、スタジオに持っていって楽器と調整卓の間に挟んで奇妙な音を出していました。まあ、エフェクターのはしりですね。チャカポコも出来るし、ワウも出来るし。"
後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏も当時、富田氏に師事しており、映画のサントラやCM音楽などの仕事の度に "ラデシン用意して" とよく要請されていたことから、いかに本機が '富田サウンド' を構成する重要なものであったのかが分かります。また、この時期から1971年の 'Moogシンセ' 導入前の富田氏の制作環境について松武氏はこう述懐しております。
"「だいこんの花」とか、テレビ番組を週3本ぐらい持ってました。ハンダごてを使ってパッチコードを作ったりもやってましたね。そのころから、クラビネットD-6というのや、電気ヴァイオリンがカルテット用に4台あった。あとラディック・シンセサイザーという、フタがパカッと開くのがあって、これはワウでした。ギターを通すと変な音がしてた。それと、マエストロの 'Sound System for Woodwinds' というウインドシンセみたいなのと、'Rhythm 'n Sound for Guitar' というトリガーを入れて鳴らす電気パーカッションがあって、これをCMとかの録音に使ってました。こういうのをいじるのは理論がわかっていたんで普通にこなせた。"
そんなLudwigやColorsound Dipthonizerに象徴される '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。さて、冒頭の1969年のNHKによるSF人形劇「空中都市008」では、まだ電子的な 'モジュレーション' 機器を入手できないことから当時、飛行場で体感していた 'ジェット音' の再現をヒントに出発します。
"その時、ジェット音的な音が欲しくてね。そのころ国際空港は羽田にあったんだけど、ジェット機が飛び立つ時に 'シュワーン' っていう、ジェット機そのものとは別の音が聞こえてきたんです。それはたぶん、直接ジェット機から聞こえる音と、もうひとつ滑走路に反射してくる音の、ふたつが関係して出る音だと思った。飛行機が離陸すれば、滑走路との距離が広がっていくから音が変化する。あれを、同じ音を録音した2台のテープ・レコーダーで人工的にやれば、同じ効果が出せると思った。家でやってみたら、うまく 'シュワーン' って音になってね。NHKのミキサーも最初は信じなくてね。そんなバカなって言うの。だけどやってみたら、これは凄い効果だなって驚いてた。これはNHKの電子音楽スタジオからは出てこなかったみたい。やったーって思ったね(笑)。"
まだ、日本と欧米には距離が開いていた時代。直接的なLSD体験もなければザ・ビートルズが用いたADT (Artificial Double Tracking)の存在も知られていなかったのです。つまり、世界の誰かが同時多発的に似たようなアプローチで探求していた後、いくつかのメーカーから電子的にシミュレートした機器、エフェクターが発売される流れとなっていたのがこの黎明期の風景でした。ちなみにそのADTについてザ・ビートルズのプロデューサーでもあるジョージ・マーティンはこう述べております。興味深いのは、三枝文夫氏がHoneyのPsychedelic MachineやVibra Chorusを開発するにあたりインスパイアされた 'フェーディング' と呼ばれる電波現象にも言及していることです。
"アーティフィシャル・ダブル・トラッキング(ADT)は、音像をわずかに遅らせたり速めたりして、2つの音が鳴っているような効果を得るものだ。写真で考えるといい。ネガが2枚あって、片方のネガをもう片方のネガにぴったり重ねれば1枚の写真でしかない。そのように、ある1つのサウンド・イメージをもう1つのイメージにぴったり重ねれば、1つのイメージしか出てこない。だがそれをわずか数msecだけズラす、8〜9msecくらいズラすことによって、電話で話してるような特徴ある音質になる。それ以下だと、使っている電波によってはフェイジング効果が得られる。昔オーストラリアから届いた電波のような・・一種の "ついたり消えたり" するような音だ。さらにこのイメージをズラしていき、27msecくらいまで離すと、われわれがアーティフィシャル・ダブル・トラッキングと呼ぶ効果になる・・完全に分かれた2つの声が生まれるんだ。"
→EMS Synthi Hi-Fli
→EMS Synthi Hi-Fli - Prototype
さて、そんないわゆる '人間の声' を模したような効果に特化したフィルター効果。いや、これは原初的なエフェクツとも言えるトークボックス(マウスワウ)のことではなく、シンセサイズにおけるバンドパス帯域を複合的に組み合わせることで 'A、I、E、O、U' といった母音のフォルマントを強調、まるで喋っているようなワウの効果を生成するものです。古くは 'ギターシンセ' の元祖であるLudwig Phase Ⅱ SynthesizerやEMS Synthi Hi-Fliなど高級なサウンド・システムの一環として登場し、後によりコンパクトなペダル・タイプでColorsoundのDipthonizerや 'エレハモ' のTalking Pedalなどが市場に現れます。まあ、大抵は上述したバンドパス・フィルターとファズを組み合わせて 'ソレっぽく' (笑)聴かせているような印象に終始するんですけど、ね。しかし、何度見てもたまらない '楽器界のロールスロイス' とも言うべきEMS。いわゆる '万博世代' やAppleの製品にゾクゾクする人なら喉から手が出るほど欲しいはず。このEMSは過去製品の 'リビルド' を中心に現在でも会社は存続しているのだからAppleが買収、電源Onと共に光る '🍏' マークを付けた復刻とかやってくんないかな〜?個人的に 'エフェクター・デザイン・コンテスト' が開催されたら三本の指に入る美しさだと思います。
→Foxx Guitar Synthesizer Ⅰ Studio Model 9
→Korg VCF FK-1 'Synthpedal'
→Maestro FP-1 Fuzz Phazzer
→Maestro FP-2 Fuzz Phazzer
→Maestro USS-1 Universal Synthesizer System
毛羽立った筐体が特徴のFoxxの 'ギター・シンセサイザー' ペダルとKorgの 'Traveller' フィルターを搭載したVCF FK-1 'Synthpedal'。基本的に黎明期の製品はエンヴェロープ・フィルター、ファズワウ、フェイザー、フランジャー、LFOといった重複する機能が混交した状況であり、後にカテゴリー化される名前より先に話題となっていたもの、一部、類似的な効果を強調して付けるというのが習慣化しておりました。Shin-ei Uni-Vibeの 'Chorus' (当初は 'Duet')も後のBoss Chorus Ensemble CE-1とは別物ですし、LudwigやFoxx、Maestroから登場した 'Synthesizer' というのもRoland GR-500以降の 'ギターシンセ' とは合成、発音方式などで別物。それはMaestroのその名もずばりFuzz Phazzerから集大成的 'エセ・ギターシンセ' なUSS-1に到るまでこの時代を象徴しました。 さて、富田氏によれば、このような 'モジュレーション' 系エフェクターはMoogシンセサイザーの単純な波形に揺らぎを与えて 'なまらせる' 為に用いており、そこには機器自体から発する 'ノイズ' がとても有効であることを力説します。
"最近(の機器)はいかにノイズを減らすかということが重要視されていますが、僕が今でもMoogシンセサイザーを使っている理由は、何か音に力があるからなんですね。低音部など、サンプリングにも近いような音が出る。それはノイズっぽさが原因のひとつだと思うんです。どこか波形が歪んでいて、それとヴォリュームの加減で迫力が出る。だから僕はノイズをなるべく気にしないようにしているんです。デジタル・シンセサイザーが普及してノイズが減り、レコーディングもデジタルで行われるようになると、音が透明過ぎてしまう。ファズやディストーションもノイズ効果の一種だし、オーケストラで ff にあるとシンバルや打楽器を入れるというのも騒音効果です。弦楽器自体も ff になるとすごくノイズが出る。そうしたノイズは大切ですし、結果的にはエフェクターで出たノイズも利用していることになるんだと思います。"
→Inside The Fender Vibratone
→Maestro RO-1 Rover
こちらは、そんな超重量級の 'レスリー・スピーカー' をいわゆる 'ロータリー' 部のキャビネットとして、ギターアンプをパワーアンプにして駆動させるFender Vibratone。その '銀パネ' のグリルを外すとスピーカー本体の前に回転する風車を配置するものでして、これは当時、Fenderの親会社であるCBSがLeslieのパテントを所有していたことから実現しました。そしてMaestroからはドラムロール状のロータリー・スピーカーとしてRoverが製品化されます。しかし、こんな 'ドップラー' 効果を大きなアンプとしてFenderやMaestroが製作していた当時、日本のHoneyから電子的シミュレートで(当時としては)可搬性のよい '卓上型' 及び 'フットボックス' の製品として開発していたのですから、その世界的な技術力とセンス、恐るべし。このような黎明期における状況の中で「空中都市008」における 'テープ・フランジング' の効果は、当時、すでに製品化されていたHoneyのVibra Chorus、Psychedelic Machineなど伺い知らぬまま物理的な法則と手持ちの機器や録音環境を応用、組み合わせながら富田氏の飽くなき実験精神を呼び起こすきっかけとなりました。なければ作る・・この 'DIY' 精神はそのまま未知の楽器、'Moogシンセサイザー' の膨大なパッチングによる音作りへと直結します。また、1970年代後半には 'レスリー・スピーカー' の効果を即席で生成すべく、スピーカーをターンテーブルに乗せて屏風で囲い、マイクで集音するという '荒技' に挑みます。今なら同じセッティングをBluetoothのスピーカーをワイヤレスで飛ばすことで簡単に再現することが出来ますが、当時はかなり苦労したとのこと。
"レスリー・スピーカーというのがハモンド・オルガンに付いているでしょ。ただコードを押さえるだけで、うねるようなドップラー効果が起こる。ブラッド・スウェット&ティアーズとかレッド・ツェッペリンがさんざん使ってたんですが、その回転スピーカーというのが日本ではなかなか手に入らなくてね。それにものすごく高かった。それで '惑星' や 'ダフニスとクロエ' で使った方法なんだけど、FとSというスピードが可変できる古いレコード・プレイヤーがあったんです。その上にスピーカーを置いて、向こうに屏風を立てて回したら、レスリーのいい感じがするんですよ。じゃあ、スピーカーにどうやって音を送るかってことで、1本はエナメル線を吊るして、それで回したんです。このやり方だと、3分ぐらいでエナメル線はブチッて切れるんだけど、その間に仕事をしちゃうんですよ。このやり方はレスリーよりも効果があったと思いますよ。レスリーはあれ、回っているのは高音部だけだからね。"
→Tel-Ray / Morley RWV Rotating Wah
→Tel-Ray / Morley EVO-1 Echo Volume
→De-Armond Model 800 Trem-Trol
→De-Armond Model 601 Tremolo Control
一方、そんなレスリー・スピーカーの効果を、Tel-Ray / Morleyによる 'オイル缶' を用いた独特な構造の 'RWV Rotating Wah' とディレイの 'EVO-1 Echo Volume' という巨大なペダルで結実したもの。このMorleyのペダルというのは昔からどれも巨大な 'アメリカン・サイズ' なのですが、そのペダル前部に備えられた巨大な箱に秘密があり、オイルの入ったユニットを機械的に揺することでモジュレーションやエコーの遅れなどを生成するという、何ともアナログかつ手の込んだギミックで作動します。また、このような 'オイル缶' を揺するモジュレーション機構は既に1950年代から存在しており、その中でもユニークな一品として有名なのが、ヴォリューム・ペダルの製作で有名なDe-ArmondのTrem-Trol。なんとペダル内部に組み込まれた電解液で満たした筒を、発動機により一定間隔で揺らして筒の壁に触れる面積の変化から音量を上下させるという・・なんとも原始的で、手の込んだ構造のトレモロですね。その下の動画は前身機にあたるModel 601の内部構造でこんな感じに揺らしております。今じゃその製作コストがかかり過ぎて大変だろうけど、エフェクター黎明期にはいろんな発想から電気的操作として取り出すという面白い時代でした。この丸くて暖かいレトロな雰囲気こそトレモロの真骨頂・・'ツイン・ピークス' のテーマとか弾きたくなりませんか?
→Vintage Fender Effects from The 1950's - 1980's
さて、今や主流であるデジタル・ディレイではありますが、一方では相も変わらず '往年の名機' 再現に挑む為のDSPによる 'アナログ・モデリング' 探求が盛んです。まだまだ人間の耳はアナログの曖昧さを求めているワケですけど、磁気テープ・エコー、磁気ディスク・エコーに続いてやってきたTel-Ray 'オイル缶エコー' の世界。オイルで満たされた 'Adineko' と呼ばれる缶を電気的に回転させることでエコーの効果を生成するものなのですが、このオイルが今では有害指定されていることで物理的に再現することが不可能。このオイルの雫のイメージそのままドロッとした揺れ方というか、懐かしくも 'オルガンライク' に沈み込む '質感' というか・・たまらんなあ。
Gamechanger Audio Motor Synth -A New Method of Analog Audio Synthesis-
●8 Motors
●4 Note Polyphony with 2 Voices Per Key (with Separate Envelope and Portamento)
●4 Analog Filters with Envelope and Distortion
●4 Optical and Inductive Waveshapes with Cross-Modulation
●Arpeggiator, Sequencer and Loop Modes
●Performance Mode with Built-In Keys
●Full MIDI Control
●9 CV Ins and Outs
→Z.VexEffects The Candela Vibrophase
→Gamechanger Audio
ちなみにこのような原初的な物理現象によるエフェクツということでは近年、エフェクター界の奇才Zachary Vex主宰のZ.Vex Effectsからロウソクの炎によるフェイズの '揺らぎ' を生成したThe Candela Vibrophaseがありましたね。まさに古のレスリー・スピーカーやトークボックス、オイル缶のトレモロ、エコーの時代に舞い戻った音作りは、エフェクターの原点においてその発想を鍛える重要な示唆となりますヨ。そしてバルト三国のひとつラトビア共和国からいま世界で最も挑戦的な工房であるGamechanger Audioは、ピアノのダンパーペダルを模して 'Freeze' させるPlus Pedal、キセノン管をスパークさせる異色のディストーションPlasma PedalとPlasma Coil、そして8つのモーターを駆動させて '電磁誘導' により 'シンセサイズ' するMotor Synthとその 'エフェクツ版' ともいうべきMotor Pedalを準備しております。仕組みとしてはエレクトリック・ギターのピックアップと電動ドリルの回転を例にしているところから 'E-Bow' っぽい匂いも感じるのですが、単純にこのワクワクする 'ハッタリ感' がスゲー!。
→Binson Echorec
→Arbiter Soundimension
さて、そんなエコーにおける富田氏の好奇心、想像力は群を抜いており、まだ、オーケストラを相手とした駆け出しの作曲家時代、エンジニア的視点からその擬似的な '空間合成' に対して注意深く耳を澄ませていました。
"(映画の効果として)不気味な忍び寄る恐怖みたいなものを出すのにどうしてもエコーが欲しかった。その時、外を歩いていたら水槽があったんだよ。重い木の蓋を開けて、石ころを拾って放ってみたら「ポチャーン」って、かなり伸びのいい音がするわけ。好奇心旺盛なミキサーさんと共にそこへスピーカーとマイクを吊るしてやろうってことになった。スタジオの楽団の前にエコー用のマイクを立てておいて、その音を水槽に流して、その残響をマイクで拾ってミキサーの開いているチャンネルに戻す。そのエコー用マイクというのをストリングスに近づけるとブラスにエコーがかかる。両方にかけたいときは中間に置けばいい。"
その後、エフェクターとして出回った磁気ディスク式エコーのBinson Echorecも '富田サウンド' の重要なアイテムとなり、その '秘密' ともいうべき物理的 'エラー' から生成される 'モジュレーション' について富田氏は以下のように語っております。
"Binsonは鉄製の円盤に鋼鉄線が巻いてあって、それを磁化して音を記録するという原理のものでした。消去ヘッドは、単に強力な磁石を使っているんです。支柱は鉄の太い軸で、その周りにグリスが塗ってあるんですが、回転が割といい加減なところが良かったんです。そのグリスはけっこうな粘着力があったので、微妙な回転ムラによっては周期的ではない、レスリーにも似た '揺らぎ' が生まれるんです。4つある再生ヘッドも、それぞれのヘッドで拾うピッチが微妙に違う。修理に出すと回転が正確になってしまうんで、そこには手を入れないようにしてもらっていました。2台使ってステレオにすると微妙なコーラス効果になって、さらにAKGのスプリング・リヴァーブをかけるのが僕のサウンドの特徴にもなっていましたね。当時、これは秘密のテクニックで取材でも言わなかった(笑)。Binsonは「惑星」の頃までは使っていましたね。"
一方、Arbiterから登場したSoundimensionとSoundetteもBinson Echorecと同様の磁気ディスク式エコーであり、この会社はジミ・ヘンドリクスが愛用したファズ・ボックス、Fuzz Faceを製作していた英国のメーカーとしても有名です。本機はジャマイカのレゲエ、ダブ創成期に多大な影響を与えたプロデューサー、コクソン・ドッドが愛した機器で、ドッドはよほどこの機器が気に入ったのか、自らが集めるセッション・バンドに対してわざわざ 'Sound Dimension' と名付けるほどでした。そんな彼のスタジオ、Studio Oneでエンジニアを務めたシルヴァン・モリスはこう説明します。
"当時わたしは、ほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聴けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これが、あのスタジオ・ワン独特の音になった。それからコクソンがサウンドディメンションっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45センチぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、サウンディメンションはヘッドが動かせるから、それぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"
→Honey Special Fuzz
時はザ・ビートルズの来日公演に揺れ、その影響で全国に 'GSブーム' の巻き起こった1967年2月に東京都新宿で設立されたHoney。元Teiscoのスタッフにより独立したこの小さな会社は、エレクトリック・ギター、ベース、アンプ、マイクやPAシステムなどと共にエフェクター(当時はアタッチメントという呼称が一般的でした)の製造にも乗り出します。当時のロックを代表する 'アタッチメント' として話題となっていたファズは、Baby Cryingの名前で製品化、海外へもOEMのかたちで輸出されて '流行の東洋の神秘、Honeyの効果装置' のキャッチコピーで好評を得たそうです。他にもAce Tone、Royal、Guyatone、Voiceなどから登場し、1970年代に入ってからはMiranoやElkが後に続くようにファズを製作しました。そんな高度経済成長期の真っ只中、このHoneyを筆頭に多くの日本の会社は欧米の下請け企業としてOEMの輸出に勤しみ英国のRose-Morrisや米国の大手Unicordと提携、そこからさらに細かなブランドとして店頭に並びました。Shaftesbury、Uni-Vox、Appolo、National、Elektra、Jax、L.R.E.、Cromwell、Sam Ash、Sekova etc..。また、輸出のみならず国内では独立元のTeiscoやGrecoへも納入し、Idolという別ブランドでも販売するなど、とにかく 'GSブーム' と呼応するようにフル生産の状況であったことが伺えます。
このBaby Cryingは当時、英国のRoger Mayerの手により開発され、ジミ・ヘンドリクスの使用で有名となったOctavioに先駆けたアッパー・オクターヴの効果を持っており、それはサイケデリックの時代、どこかシタールの音色にも例えられるほどユニークなものでした。ちなみに同時期、Ace Toneで楽器製作に従事していた梯郁太郎氏はそんなHoneyの進取性に着目しており、彼ら自身が英国のTone Bender Mark Ⅰを参考にしてBaby Cryingを製作していたことを打ち消してこう述べております。
"いやいや、そんなことはないんですよ。彼ら自身が耳で決めたのだと思います。ハニーを設計した人物はその後にエーストーン、ローランドに入社した人ですからその辺の事情は聞いてますけど、ハニーは歪んだ音にエッジをつけて微分する・・要するに低音部を抑えて、真ん中から上の音を強調する回路になっていて、当時としては新しい種類の音でしたね。"
→Honey Psychedelic Machine
→Honey Vibra Chorus
1968年にはそんなHoneyのカタログも一挙に拡大、ファズに加えワウペダルのCrierはもちろん、テープやスプリング式ではないトランジスタ7石、ダイオード1個、CDS2個からなるソリッドステート式のEcho Reverb ER-1P、ファズとオートワウ!を一緒にまとめてしまったようなSpecial Fuzz、ワウペダルとヴォリューム・ペダルに波(Surf)と風(Tornado)とサイレンの効果音!を発生させる '飛び道具' のSuper Effect HA-9P、そして、いよいよ同社を世界的な名声へと押し上げる名機、Vibra ChorusとHoneyの集大成的 'マルチ・エフェクター' の元祖、Psychedelic Machineが登場します。特筆したいのはここまでのラインナップを誇るのはこの時点で世界においてHoneyだけ、だったのです。
このBaby Cryingは当時、英国のRoger Mayerの手により開発され、ジミ・ヘンドリクスの使用で有名となったOctavioに先駆けたアッパー・オクターヴの効果を持っており、それはサイケデリックの時代、どこかシタールの音色にも例えられるほどユニークなものでした。ちなみに同時期、Ace Toneで楽器製作に従事していた梯郁太郎氏はそんなHoneyの進取性に着目しており、彼ら自身が英国のTone Bender Mark Ⅰを参考にしてBaby Cryingを製作していたことを打ち消してこう述べております。
"いやいや、そんなことはないんですよ。彼ら自身が耳で決めたのだと思います。ハニーを設計した人物はその後にエーストーン、ローランドに入社した人ですからその辺の事情は聞いてますけど、ハニーは歪んだ音にエッジをつけて微分する・・要するに低音部を抑えて、真ん中から上の音を強調する回路になっていて、当時としては新しい種類の音でしたね。"
→Honey Psychedelic Machine
→Honey Vibra Chorus
→Shin-ei Companion / Uni-Vox Uni-Vibe Pt.1
→Shin-ei Companion / Uni-Vox Uni-Vibe pt.2
→Shin-ei Companion SVC-1 Vibra Chorus
→Korg Nuvibe ①
→Korg Nuvibe ②
そんな日本のエフェクター黎明期を支えたHoney / Shin-ei Companion。当時、ファズとワウがその市場の大半を占めていた中でいち早く 'モジュレーション' 系エフェクターの開発に成功したことで、現在までその技術力と先見性は高く評価されております。1968年のPsychedelic MachineとVibra Chorus、Special Fuzzをきっかけにして翌年3月のHoney倒産後、引き継いだShin-eiの時代になってからはUnicordへのOEM製品として本格的に生産されたUni-Vibe、Shin-eiのOEMブランドCompanionのVibra Chorus VC-15(SVC-1)、Resly Tone RT-18(Phase Tone PT-18)、最終型となったPedal Phase Shifter PS-33などが会社の倒産する1970年代半ばまで用意されました。
→Shin-ei Companion Resly Tone RT-18
→Shin-ei Companion Phase Tone PT-18
→Shin-ei Companion Pedal Phase Shifter PS-33
→Shin-ei Companion Resly Machine RM-29 ①
→Shin-ei Companion Resly Machine RM-29 ②
→Blackfield Orchester Elektronik Flying Sound (Rotor Effekt) ①
→Blackfield Orchester Elektronik Flying Sound (Rotor Effekt) ②
途中、自社のResly Tone RT-18の名称がPhase Tone PT-18に変更されたことからも象徴されるように1971年、トム・オーバーハイムが手がけたPhase Shifter PS-1をきっかけにして起こった 'フェイザー・ブーム' は、Honey / Shin-eiの先駆的な存在を闇に葬るきっかけとなってしまったのが悔やまれます。これはそもそも先駆的製品であったこの 'Maid in Japan' が、まだまだ海外では安価なOEM製品以上の評価を受けていなかったことの証左と言ってよいでしょうね。少量生産していた 'アタッチメント' と呼ばれる機器は、ロック全盛とエレクトロニクスの革新により市場が活況、より生産体制を拡大すべくアジアなどの下請け企業へ発注し、大量生産と共にビギナー層への安価な製品供給を拡充してその裾野を広げていく・・。まさにHoney / Shin-ei Companionはそんな時代の真っ只中で興隆し、消え去ってしまった幾多ある会社のひとつだったのです。そんな '屈辱的' な先見性と 'フェイザー・ブーム' の狭間で産み落とされたと思しき珍品のひとつがコレ、Resly Machine RM-29。そもそも1968年にHoneyから三枝文夫氏によって開発された本機の '源流' に当たるVibra Chorusの製品コンセプトは、レスリー社のロータリー・スピーカーを電子的にシミュレートすることでした。それがShin-ei以降もずっと製品名として生き残ってきたワケなんですが、時代が一気に 'フェイザー' という新たな名称と共に普及したことで、Shin-eiはそのきっかけとなったMaestro Phase Shifter PS-1のデザインをそのままパクるという暴挙に出ます。しかし中身は従来の '源流' としたヴィブラート色濃い独特な効果ながら、Uni-Vibeに代表される渦巻くようなサイケデリック的強烈な揺れ感は薄められた廉価版として、何とも折衷的なモジュレーション系エフェクターの範囲に留まってしまいました。ちなみに最後の動画は西ドイツ製ファズワウ+フェイザーと謳いながら 'ダブルラバー' のペダルからShin-eiのOEMではないか?と睨んでいる実に怪しげな一品、Flying Sound (Rotor Effekt)。
そんなResly Machineに象徴される 'フェイザー・ブーム' からオクターバーやMusitronics Mu-Tronをきっかけに普及した 'オートワウ・ブーム' に何とか食らい付いたShin-eiはオクターバーのOB-28やエンヴェロープ・フィルターのMB-27といった新たな製品開発に着手しましたが、いよいよ会社として次なる一手を打ち出さなければならない状況へと追い込まれます。Resly ToneからPhase Toneへ、さらにはペダルに内蔵してリアルタイム性に寄ったPedal Phase Shifterへとバリエーションを展開してみたものの、多分、その中身は古くさい 'Vibra Chorus' の資産を手を替え品を替えの状態だったのだろうなあ、ということで、ほとんど製品開発の資金を捻出できなかったのだろうと想像します。ちなみにそのShin-eiをOEMで抱えていたUnicord社はKorgにも下請けを出しており、そんな '国産フェイズ' としてこんな怪しげな '据え置き型' も輸出しておりました。米国上陸後はUnicord社からUni-Vox PHZ-1のほかMonacor PZ-100、Melos PS-1000、BST LM-200といったブランドで販売されており、それぞれのブランド名を表示するLED('Video Counter' って何だ?)がフェイズの揺れに合わせて点滅する仕様が素敵です。そして、Shin-ei MB-27に先駆けて国産初のエンヴェロープ・フィルターとして登場したRoland AG-5 Funny Cat。弱めの 'ソフト・ディストーション(SDS)' と3段階切り替えの 'ハーモニック・ムーヴァー' を組み合わせて、まさに猫のような '鳴き声' を生成する・・のかな?この1970年代初めの実験精神にはただただひれ伏すばかり。
→Maestro Phase Shifter PS-1A
→Maestro Phase Shifter PS-1B
→Maestro MP-1 Phaser
→MXR Phase 90 '75
→MXR CSP026 '74 Vintage Phase 90
デカイMaestro PS-1も数年後にはMXRからPhase 90というカラフルな一品の登場で旧態然な製品となり、ここにきてそれまでの '大型なアタッチメント' という形態から '手のひらサイズ' のコンパクト化が始まります。このMaestroと共にフェイザー市場拡大に貢献したMXR Phase 90自体、そもそもがMXR創業者であるテリー・シェアウッドとキース・バーのふたりが経営していた修理会社に持ち込まれたMaestro PS-1を見て一念発起、MXR起業へのきっかけとなったことは有名な話。これは、ロジャー・メイヤーがジミ・ヘンドリクスの為にカスタムで製作していたOctavioを修理する機会のあったTycobraheがデッドコピー、新たにOctaviaとして製品化したというエピソードにも通じることで、どこまでがコピー、どこからが影響なのかというのはヒジョーに線引きの難しい話でもありますね。ちなみにMaestro PS-1シリーズは当時の 'フェイザー・ブーム' の出発点となるべく大ヒット、未だに状態良好な中古があちこちで散見されておりますが、1970年代後半にはそれまで中心となって携わっていたC.M.I.からNorlinへと移譲、俗に 'Tankシリーズ' とも呼ばれる筐体で新たにモーグ博士がデザインしたMP-1 Phaser、MSP Stage Phaserへと変貌します。
→Schaller Electronic
こちらもほぼ 'Uni-Vibe' と同時期の初期フェイザー、というかロータリー・シミュレーターと呼ぶべきでしょうかドイツのSchaller Rotor Sound。このSchallerといえば '文鎮' のような筐体にハンマートーン仕上げのファズやトレモロ、'Yoy Yoy/Bow Wow' という謎な2つのトーン切り替えを持つワウペダルが有名ですが、こちらはキーボードの上に鎮座させて緑のLEDを光らせながら付属フットスイッチで切り替えさせる業務用機器的ルックスがシブい。
→Farfisa Sferasound
→Montarbo PB-2 Phase Shifter / Buzzer ①
→Montarbo PB-2 Phase Shifter / Buzzer ②
→Jen Elettronica Variospectra ①
→Jen Elettronica Variospectra ②
また、こちらもHoneyの製品とほぼ同時期ではないかと思われる 'レスリー・シミュレーター' というべきFarfisa Sferasound。コンボ・オルガンなどを手がけていたFarfisaがその可搬性から開発したと思しき本機は、オルガンはもちろんギターにも使用可能でVibra Chorusに比べるとかなりヴィブラート色濃いものですね。こんな古臭いイタリア産による 'ペダル・フェイズ' の原初的な方向性は、Maestro PS-1やMXR Phase 90をきっかけにして広まった 'フェイザー・ブーム' によりそのフェイズの深さ、効き具合をフット・コントロールする 'ペダル・フェイザー' という形態への需要に繋がります。ある意味これはUni-Vibeがもたらした '資産' のひとつでもあり、Greco Pedal PhaserやFoxx Foot Phaser、'エレハモ' からもBad Stoneのペダル版が発売されるなど、元々がギタリストではなくキーボーディストを対象とした製品の名残りと言ってもよいでしょうね。そんなイタリアでもFarfisaからフェイザーの時代となりMontarboからファズ内蔵の 'Buzzer' とミックス出来るPB-2やJenのVariospectraなどの製品が市場に現れます。しかしどれも '装置' と呼ぶに相応しいくらいのデカさですね。
→Carlin Electronics Phase Pedal
→Moody Sounds Carlin Phase Pedal Clone
→Moody Sounds / Carlin Pedals
→Carlin Electronics Kompressor & Phase Pedal Original
そして、こちらは1970年代にスウェーデンのエンジニア、Nils Olof Carlinが手がけたペダル・フェイザーとそれを同地の工房、Moody Soundsが本人監修の元に '復刻' させた 'クローン' モデル。オリジナルはUni-Vibe同様に電球の点滅から生成していた '揺らぎ' が、現在ではLEDによってシュワシュワと再現されております。このCarlin Electronicsによる隠れた逸品の存在からも当時、世界を駆け巡った 'フェイザー・ブーム' の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。今やシンセサイザーの世界でその存在感を示すNordやElektron、ペダル界の革命児としてBJFEの遺伝子を世界にばら撒くBjorn Juhlを輩出するスウェーデンですが、そんな同国最初の 'ペダル・デザイナー' にして天文学にも造詣が深かったCarlin本人は惜しくも2017年に亡くなられたそうです。そのNils Olof Carlinとの出会いについてMoody Soundsからは以下の如く述べられております。
"I got to know him when a customer sent a schematic and asked if I could clone a Swedish pedal classic, the carlin compressor. The schematic also had an email address to the designer so I contacted Nils Olof and checked if ok.
We met and it lead to much interesting talks about electronics. He used to come by every august when an annual meeting for astronomers is held here. Was he the first Swedish pedal designer, history and so... not sure if I can tell so much about it. We did not talk so much about the past but more new circuits. I saw that Peps Person has a thank you line to Nils Olof Carlin on the Hög
Standard LP from 1975.
He also designed a 4013 octave down pedal long ago that he didn't make a commercial product. The ring modulator, also 70's, is a cool circuit. He did that one too only a few copies, back then, but we upgraded the circuit and the kit is appreciated by many. The only two pedals that he made "many of" were the compressor and the phaser. He gave me a number of how many that were made, and I think he said about 100 compressors and almost as many phasers."
→Arp Avatar
→Arp Odyssey Module
→Korg SQ-1 Step Sequencer
そして強烈なフィルタリングで外部機器とあんなこと、こんなことという '妄想' が止まらないという場合はアナログシンセ使っちゃいましょうヨ!1970年代半ば以降、Roland GR-500を始めに各社がアプローチし始めた 'ギター・シンセサイザー' ですが、その中でも珍しい一台として登場したのがアナログシンセの名機、Odysseyを 'ギターシンセ' へと特化させたAvatar。残念ながらコレのセールス失敗がそのままArp倒産へと繋がってしまった 'いわくつきの一台' ではあるのだけど、そのOdysseyが現在Korgの手により '復刻' されて気軽に楽しむことが出来るのは嬉しいですね。とりあえず、Korgの1万弱で発売されている8ステップ・シーケンサーSQ-1とOdysseyから鍵盤を省いてモジュール化したヤツを手にしてちょっとその雰囲気を味わってみる。オリジナルは 'Hexaphonic Pick-Up' というアタッチメントを装着してトリガーするものでしたが、このOdyssey Moduleには外部オーディオ入力(Ext Audio Input)があるので 'ペダル的' に楽器を突っ込んでみましょうか。オシレータ(VCO)の代わりにVCF、LFO、エンヴェロープ・ジェネレーター(EG)などでいろいろ加工、さらにSQ-1もCVで繋いでいろんなシーケンスの変調まで任せられるのはシンセでしか出来ない芸当です。
→Sherman
→Sherman Filterbank 2 Compact ①
→Sherman Filterbank 2 Compact ②
→Sherman Filterbank Prototype - 1996: S/N 31
まさに 'オシレータのないアナログシンセ' ともいうべき変態フィルターとして、ベルギーでひとりHerman Gillisさんが手がけるSherman Filterbank 2などもお手軽に 'シンセサイズ' 出来る発想でアプローチすべきもの。クラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロとしてquartz-headやrabitooほか、この動画のユニット 'びびび' で活動するサックス奏者の藤原大輔さんはそんな 'Filterbank使い' の代表格。Sherman Filterbank 2とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使して、どんな音をブチ込んでもまったく予測不能なサウンドに変調しながら、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露します(動画途中の 'Intermission' は長く第2部は58:33〜スタート)。
→Moog MKPH 12 Stage Phaser
→Gerd Schulte Audio Electronik Compact Phasing 'A'
→Mode Machines KRP-1 Krautrock Phaser
このような黎明期を経ながら同じ位相を操作する効果を 'フェイザー' と 'フランジャー' としてカテゴリー分けされることで、ようやくエフェクターの市場に数多くの製品が登場します。その中でも特筆したいのが2台分のフェイザーを装備したMusitronics最大の 'フェイズ・ユニット'、Mu-Tron Bi-Phase。まるで '亜熱帯のサイケデリア' を象徴するマリワナの煙と共にたゆたうリー・ペリーに力を与えたその姿は、ほとんどギタリストがアプローチするのと同じ意識でミキサー、フェイザーを '演奏' している!一方、後に 'Moogerfooger' シリーズでも復活したMoog博士が手がけたラック版の12 Satage Phaser。エグいフェイズはもちろんですが、ステレオの音響生成において '3Dディメンジョン' 的定位にミックスで用いてやると効果てき面!ダブを作ることに熱中していたその昔、コイツが本当に欲しくて怪しげな中目黒のマンションの一室にあった楽器店で、外人オーナーとその彼女らしい通訳相手に本機の値段交渉をしたことが実に懐かしい(笑)。そして、Bi-Phaseと同じく強烈な '卓上' フェイズ・サウンドで時代を席巻したのがドイツ産Gerd Schulte Compact Phasing A。クラウス・シュルツェやディープ・パープルのリッチー・ブラックモアらが愛用したことで大変なプレミアものですね。こんなCompact Phasing AもMode Machinesからその名もずばり 'Krautrock Phaser' として生まれ変わりました。しかしその筐体は '本家' に負けず劣らずあまりにもデカイ・・。
→Vermona Engineering PH-16 Dual Analog Phaser
→U.S.S.R. Formanta Esko-100
→U.S.S.R. Elektronika PE-05 Flanger
→U.S.S.R. Elektronika PE-11 Flanger
→Vermona Engineering PH-16 Dual Analog Phaser
→Chicago Iron Tycobrahe Parapedal
→Chicago Iron Tycobrahe Pedal Flanger
→Musitronics Mu-Tron Flanger
こちらは今や 'ユーロラック・モジュラーシンセ' の分野でも老舗のVermona Engineering。しかし元々は東ドイツの国営企業であり、そんな '共産圏' 真っ只中の1980年に登場した '据え置き型' であるPhaser 80。Phase ShiftのOn/OffスイッチとSpeed、Feedback、背面にIntensityとSensibilityツマミという至極シンプルな設計ながら、これがその後のVermona製品の出発点なのかと思うと感慨深い。そして1970年代を代表するTychobraheとMusitronics Mu-Tronの 'ペダル・フランジャー' 2種。ちなみにヒジョーにレアだったTychobraheの各製品は現在、Chicago Ironによる忠実な '復刻' でそのPedal Flangerと 'フェイズワウ' ともいうべき独特なトーンを持つParapedalはお手軽に試すことが出来まする。
→Chicago Iron Tycobrahe Pedal Flanger
→Musitronics Mu-Tron Flanger
こちらは今や 'ユーロラック・モジュラーシンセ' の分野でも老舗のVermona Engineering。しかし元々は東ドイツの国営企業であり、そんな '共産圏' 真っ只中の1980年に登場した '据え置き型' であるPhaser 80。Phase ShiftのOn/OffスイッチとSpeed、Feedback、背面にIntensityとSensibilityツマミという至極シンプルな設計ながら、これがその後のVermona製品の出発点なのかと思うと感慨深い。そして1970年代を代表するTychobraheとMusitronics Mu-Tronの 'ペダル・フランジャー' 2種。ちなみにヒジョーにレアだったTychobraheの各製品は現在、Chicago Ironによる忠実な '復刻' でそのPedal Flangerと 'フェイズワウ' ともいうべき独特なトーンを持つParapedalはお手軽に試すことが出来まする。
→U.S.S.R. Formanta Esko-100
→U.S.S.R. Elektronika PE-05 Flanger
→U.S.S.R. Elektronika PE-11 Flanger
ちなみにこの手の効果はロシアも負けておりません。旧ソビエトの時代に 'ギターシンセ' 含めてマルチ・エフェクツ' に集大成させたのがこちら、Formanta Esko-100。1970年代のビザールなアナログシンセ、Polivoksの設計、製造を担当したFormantaによる本機は、その無骨な '業務用機器' 的ルックスの中にファズ、オクターバー、フランジャー、リヴァーブ、トレモロ、ディレイ、そして付属のエクスプレッション・ペダルをつなぐことでワウにもなるという素晴らしいもの。これら空間系のプログラムの内、初期のVer.1ではテープ・エコーを搭載、Ver.2からはICチップによるデジタル・ディレイへと変更されたのですがこれが 'メモ用ICレコーダー' 的チープかつ 'ローファイ' な質感なのです。また、簡単なHold機能によるピッチシフト風 '飛び道具' まで対応するなどその潜在能力は侮れません。そんなフランジャーって何でか '共産主義者' たちの興味を惹いていたようで(笑)、最近eBayやReverb.comなどにゾロゾロと現れている旧ソビエト時代の '遺物たち' からはやたらとフランジャー多し(謎)。
さて、このエフェクター黎明期から全盛期を迎える1970年代、個別にカテゴリー化される流れからすべてを統合し、'マルチ・エフェクツ' 化する方向へも加速します。ここではクラウト・ロックの雄として有名なCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案の創作サウンド・システム、Alpha 77も述べておきたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、こちらはダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴなスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。イルミン・シュミットが右手はFarfisa Organとエレピ、左手は黒い壁のようなモジュールを操作するのがそのAlpha 77でして、それを数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたジョノ・パドモア氏はこう述べます(上のリンク先にAlpha 77の写真と記事があります)。
"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。
シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"
またシュミット本人もこう述べております。
"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"
→Marshall Electronics Time Modulator Model 5402
→Keeley Electronics Bubble Tron
珍しいラック型モジュレーションの究極なのがこちら、Marshall ElectronicsのTime Modulatorをご存知ですか?。1970年代後半にMarshall(ギターアンプのMarshallとは別の会社)から登場したこの1Uラックの本機は、まるで土管の中に頭を突っ込んでしまった時に体感できる 'コォ〜ッ' とした金属的変調感を体感することが可能。また 'CV/Gate' を備えることでモジュレーションからLFOのオシレータ発振まで、モジュラーシンセ的にコントロールする機能を備えるなど、コンパクトなフランジャーでは再現出来ない強烈なフランジングがたまりません。こんなラック・エフェクターの世界もRoland SBF-325 Stereo FlangerやMXRのFlanger / Doubler、フランク・ザッパが愛用したMicMix Dynaflangerを始め、コンパクトとは別の意味で '掘っていく' ともの凄い機材がありまする。そして、そんなMicMixのフランジ効果をシミュレートしたとされるKeeleyのBubble Tronもなかなかにエグいのだ。しかしこーいうの、どういう層に求められているんだろうなあ?(笑)。
→MXR / ART M-129 Pitch Transposer
そしてラック・エフェクターの '番外編'。ピッチ・シフターの 'インサート' へディレイを挟んで風変わりな '飛び道具' としたのがUKダブの巨匠、マッド・プロフェッサー。そんな彼が愛したMXR Ptch Transposerによるこの 'インサート' 技は、80's的なキラキラと階段状にピッチが変わっていくのが面白い。現在の高品質なピッチ・シフターに比べると決して精度は高くありませんが、この 'ハイ落ち' が独特な初期デジタル特有の '太さ' に繋がっていることからギタリストに愛されたのも分かります。ピッチ・チェンジの量をメモリーすることが出来て、それをフット・スイッチで呼び出すことも可能なのですが、格好良いのがツマミがタッチ・センスのセンサーとなっており、それを回さずともトントンと叩くだけでピッチ・チェンジが変わるのです!おお、ハイテクだ(笑)。
→Glou Glou Moutrade
→Glou Glou Rendez-Vouz
→Glou Glou Pralines
そんなKeeley Bubble Tron同様、ゲコ〜っと '喋る' ようなリゾナント・フィルターの変異系ばかりラインナップしているのがフランスはリヨンの新興工房、Glou Glou。PLLこと 'Phased Locked Loop' (位相同期回路)という入力信号からフィードバックで制御したものを短形波に変換、その周波数をマルチプルまたは分割して元のピッチから倍音を生成するMoutrade、リング・モジュレーションをベースにしてマルチモード・フィルターで変調させるRendez-Vouz、そして真っ赤なリゾナント・フィルターのPlalinesをそれぞれラインナップしております。しかし、扱いやすく定番であるHammondのケースや省スペースによる 'ミニ化' された筐体ばかりが席巻するペダル界の中、まるで1970年代の 'エフェクター全盛期' が蘇ったようなデカイ筐体はもちろん、Glou Glouの製品はその出音まで共通した匂いを感じますね。
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