2019年1月4日金曜日

フェイズの源流 - その黎明期 (再掲)

ロックとエレクトロニクスの加熱した1960年代後半。すでに欧米ではいくつかのメーカーから 'アタッチメント' と呼ばれるエフェクター黎明期が到来、当時のLSD服用による '意識の拡張' と相まってレコーディング技術が飛躍的に進歩しました。そんな 'パラダイム・シフト' の中、日本が世界に誇る作曲家、富田勲氏の音作りは音楽の発想を鍛える上でとても重要な示唆を与えてくれます。







いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクター登場前夜は、まだこの手の位相を操作して効果を生成するにはレスリー社のロータリー・スピーカーに通す、2台のオープンリール・デッキを人力で操作して、その位相差を利用する 'テープ・フランジング' に頼らなければなりませんでした。富田氏はこのような特殊効果に並々ならぬ情熱を持っており、いわゆる 'Moogシンセサイザー' 導入前の仕事でもいろいろ試しては劇伴、CM曲などで実験的な意欲を垣間見せていたのです。

"これは同じ演奏の入ったテープ・レコーダー2台を同時に回して、2つがピッタリ合ったところで 'シュワーッ' って変な感じになる効果を使ったんです。原始的な方法なんだけど、リールをハンカチで押さえるんです。そしたら抵抗がかかって回転が遅くなるでしょ。'シュワーッ' ってのが一回あって、今度は反対のやつをハンカチで押さえると、また 'シュワーッ' ってのが一回なる。それを僕自身が交互にやったんです。キレイに効果が出てるでしょ。"







Danelectro Back Talk
Red Panda Tensor

ちなみに、このようなテープ操作によるエフェクトの代表的なものとしては 'Tape Reverse' ことテープの逆再生効果が有名ですね。昔はわざわざオープンリール・テープを反対にセットして行っておりましたが、現在では簡易的なループ・サンプラーでお手軽に生成することができます。しかし、単体でこの効果に特化した製品というのが現在までほぼないのは不思議でした。まあ、一部のデジタル・ディレイにおける '付加機能' として備えているものがあるので、わざわざこんな 'ニッチな' 効果をラインナップする必要性はないのかもしれませんが、しかし、そんな 'ニッチな' 需要に応えてしまったのがDanelectro。このBack Talkは、そんな 'ループ・サンプラー' ブーム初期の頃に発売されたこともあって人気拡大、あっという間に廃盤となったことで現在ではかなりのプレミアが付いております。そして2018年、新たな 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターのスタンダードと呼ぶに相応しいRed PandaのTensor。特にエクスプレッション・ペダルによる逆再生効果はあっという間に '使われてしまう' 予感・・。







Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
EMS Synthi Hi-Fli

1970年の新製品である初期の 'ギター・シンセサイザー' Ludwig Phase Ⅱ Synthesizerは当時手がけていた劇伴、特にTVドラマ「だいこんの花」などのファズワウな効果で威力を発揮しました。また、シンセサイザーを製作するEMSからも同時期、'万博世代' が喜びそうな近未来的デザインと共にSynthi Hi-Fliが登場、この時期の技術革新とエフェクツによる '中毒性' はスタジオのエンジニアからプログレに代表される音作りに至るまで広く普及します。

"あれは主に、スタジオに持っていって楽器と調整卓の間に挟んで奇妙な音を出していました。まあ、エフェクターのはしりですね。チャカポコも出来るし、ワウも出来るし。"

後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏も当時、富田氏に師事しており、サントラやCM音楽などの仕事の度に "ラデシン用意して" とよく要請されていたことから、いかに本機が '富田サウンド' を構成する重要なものであったのかが分かります。また、この時期の 'Moogシンセ' 導入前の富田氏の制作環境について松武氏はこう述懐しております。

"「だいこんの花」とか、テレビ番組を週3本ぐらい持ってました。ハンダごてを使ってパッチコードを作ったりもやってましたね。そのころから、クラビネットD-6というのや、電気ヴァイオリンがカルテット用に4台あった。あとラディック・シンセサイザーという、フタがパカッと開くのがあって、これはワウでした。ギターを通すと変な音がしてた。それと、マエストロの 'Sound System for Woodwinds' というウインドシンセみたいなのと、'Rhythm 'n Sound for Guitar' というトリガーを入れて鳴らす電気パーカッションがあって、これをCMとかの録音に使ってました。こういうのをいじるのは理論がわかっていたんで普通にこなせた。"

さて、このLudwig Phase Ⅱに象徴される '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。さて、冒頭の1969年のNHKによるSF人形劇「空中都市008」では、まだ電子的な 'モジュレーション' 機器を入手できないことから当時、飛行場で体感していた 'ジェット音' の再現をヒントに出発します。

"その時、ジェット音的な音が欲しくてね。そのころ国際空港は羽田にあったんだけど、ジェット機が飛び立つ時に 'シュワーン' っていう、ジェット機そのものとは別の音が聞こえてきたんです。それはたぶん、直接ジェット機から聞こえる音と、もうひとつ滑走路に反射してくる音の、ふたつが関係して出る音だと思った。飛行機が離陸すれば、滑走路との距離が広がっていくから音が変化する。あれを、同じ音を録音した2台のテープ・レコーダーで人工的にやれば、同じ効果が出せると思った。家でやってみたら、うまく 'シュワーン' って音になってね。NHKのミキサーも最初は信じなくてね。そんなバカなって言うの。だけどやってみたら、これは凄い効果だなって驚いてた。これはNHKの電子音楽スタジオからは出てこなかったみたい。やったーって思ったね(笑)。"

まだ、日本と欧米には距離が開いていた時代。直接的なLSD体験もなければザ・ビートルズが用いたADT (Artificial Double Tracking)の存在も知られていなかったのです。つまり、世界の誰かが同時多発的に似たようなアプローチで探求していた後、いくつかのメーカーから電子的にシミュレートした機器、エフェクターが発売される流れとなっていたのがこの黎明期の風景でした。ちなみにそのADTについてザ・ビートルズのプロデューサーでもあるジョージ・マーティンはこう述べております。興味深いのは、三枝文夫氏がHoneyのPsychedelic MachineやVibra Chorusを開発するにあたりインスパイアされた 'フェーディング' と呼ばれる電波現象にも言及していることです。

"アーティフィシャル・ダブル・トラッキング(ADT)は、音像をわずかに遅らせたり速めたりして、2つの音が鳴っているような効果を得るものだ。写真で考えるといい。ネガが2枚あって、片方のネガをもう片方のネガにぴったり重ねれば1枚の写真でしかない。そのように、ある1つのサウンド・イメージをもう1つのイメージにぴったり重ねれば、1つのイメージしか出てこない。だがそれをわずか数msecだけズラす、8〜9msecくらいズラすことによって、電話で話してるような特徴ある音質になる。それ以下だと、使っている電波によってはフェイジング効果が得られる。昔オーストラリアから届いた電波のような・・一種の "ついたり消えたり" するような音だ。さらにこのイメージをズラしていき、27msecくらいまで離すと、われわれがアーティフィシャル・ダブル・トラッキングと呼ぶ効果になる・・完全に分かれた2つの声が生まれるんだ。"









Foxx Guitar Synthesizer Ⅰ Studi当時o Model 9
Maestro FP-1 Fuzz Phazzer
Maestro FP-2 Fuzz Phazzer
Maestro USS-1 Universal Synthesizer System

こちらはFoxxの 'ギター・シンセサイザー' ペダル。基本的に黎明期の製品はエンヴェロープ・フィルター、ファズワウ、フェイザー、フランジャー、LFOといった重複する機能が混交した状況であり、後にカテゴリー化される名前より先に話題となっていたもの、一部、類似的な効果を強調して付けるというのが習慣化しておりました。Shin-ei Uni-Vibeの 'Chorus' (当初は 'Duet')も後のBoss Chorus Ensemble CE-1とは別物ですし、LudwigやFoxx、Maestroから登場した 'Synthesizer' というのもRoland GR-500以降の 'ギターシンセ' とは合成、発音方式などで別物。それはMaestroのFuzz Phazzerからその集大成的 'エセ・ギターシンセ' なUSS-1に到るまでこの時代を象徴しました。 さて、富田氏によれば、このような 'モジュレーション' 系エフェクターはMoogシンセサイザーの単純な波形に揺らぎを与えて 'なまらせる' 為に用いており、そこには機器自体から発する 'ノイズ' がとても有効であることを力説します。

"最近(の機器)はいかにノイズを減らすかということが重要視されていますが、僕が今でもMoogシンセサイザーを使っている理由は、何か音に力があるからなんですね。低音部など、サンプリングにも近いような音が出る。それはノイズっぽさが原因のひとつだと思うんです。どこか波形が歪んでいて、それとヴォリュームの加減で迫力が出る。だから僕はノイズをなるべく気にしないようにしているんです。デジタル・シンセサイザーが普及してノイズが減り、レコーディングもデジタルで行われるようになると、音が透明過ぎてしまう。ファズやディストーションもノイズ効果の一種だし、オーケストラで ff にあるとシンバルや打楽器を入れるというのも騒音効果です。弦楽器自体も ff になるとすごくノイズが出る。そうしたノイズは大切ですし、結果的にはエフェクターで出たノイズも利用していることになるんだと思います。"









Honey Psychedelic Machine
Honey Vibra Chorus
Honey Special Fuzz

その「空中都市008」における 'テープ・フランジング' の効果は、当時、すでに製品化されていたHoneyのVibra Chorus、Psychedelic Machineなど伺い知らぬ状況の中で、物理的な法則と手持ちの機器や録音環境を応用、組み合わせながら富田氏の飽くなき実験精神を呼び起こすきっかけとなりました。なければ作る・・そんな 'DIY' 精神はそのまま未知の楽器、'Moogシンセサイザー' の膨大なパッチングによる音作りへと直結します。また、1970年代後半には 'レスリー・スピーカー' の効果を即席で生成すべく、スピーカーをターンテーブルに乗せて屏風で囲い、マイクで集音するという '荒技' に挑みます。今なら同じセッティングをBluetoothのスピーカーをワイヤレスで飛ばすことで簡単に再現することが出来ますが、当時はかなり苦労したとのこと。

"レスリー・スピーカーというのがハモンド・オルガンに付いているでしょ。ただコードを押さえるだけで、うねるようなドップラー効果が起こる。ブラッド・スウェット&ティアーズとかレッド・ツェッペリンがさんざん使ってたんですが、その回転スピーカーというのが日本ではなかなか手に入らなくてね。それにものすごく高かった。それで '惑星' や 'ダフニスとクロエ' で使った方法なんだけど、FとSというスピードが可変できる古いレコード・プレイヤーがあったんです。その上にスピーカーを置いて、向こうに屏風を立てて回したら、レスリーのいい感じがするんですよ。じゃあ、スピーカーにどうやって音を送るかってことで、1本はエナメル線を吊るして、それで回したんです。このやり方だと、3分ぐらいでエナメル線はブチッて切れるんだけど、その間に仕事をしちゃうんですよ。このやり方はレスリーよりも効果があったと思いますよ。レスリーはあれ、回っているのは高音部だけだからね。"





Inside The Fender Vibratone
Maestro RO-1 Rover

こちらは、そんな超重量級の 'レスリー・スピーカー' をいわゆる 'ロータリー' 部のキャビネットとして、ギターアンプをパワーアンプにして駆動させるFender Vibratone。その '銀パネ' のグリルを外すとスピーカー本体の前に回転する風車を配置するものでして、これは当時、Fenderの親会社であるCBSがLeslieのパテントを所有していたことから実現しました。そしてMaestroからはドラムロール状のロータリー・スピーカーとしてRoverが製品化されます。しかし、こんな 'ドップラー' 効果を大きなアンプとしてFenderやMaestroが製作していた当時、日本のHoneyから電子的シミュレートで(当時としては)可搬性のよい '卓上型' 及び 'フットボックス' の製品として開発していたのですから、その世界的な技術力とセンス、恐るべし。





Tel-Ray / Morley RWV Rotating Wah
Tel-Ray / Morley EVO-1 Echo Volume

一方、そんなレスリー・スピーカーの効果を、Tel-Ray / Morleyによる 'オイル缶' を用いた独特な構造の 'RWV Rotating Wah' とディレイの 'EVO-1 Echo Volume' という巨大なペダルで結実したもの。このMorleyのペダルというのは昔からどれも巨大な 'アメリカン・サイズ' なのですが、そのペダル前部に備えられた巨大な箱に秘密があり、オイルの入ったユニットを機械的に揺することでモジュレーションやエコーの遅れなどを生成するという、何ともアナログかつ手の込んだギミックで作動します。







Farfisa Sfearsound
Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ①
Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ②
Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ③

また、こちらもHoneyの製品群とほぼ同時期ではないかと思われる 'レスリー・シミュレーター' というべきFarfisa Sferasound。コンボ・オルガンなどを手がけていたFarfisaがその可搬性から開発した思しき本機は、オルガンはもちろんギターにも使用可能でVibra Chorusに比べるとかなりヴィブラート色濃いものですね。本機のちょっと古臭く'滲むように' 揺れるレトロな雰囲気で思い出すのは、米国ニューハンプシャー州で製作するMid-Fi ElectronicsのElectric Yggdrasil(エレクトリック・ユグドラシル)。設計は 'MMOSS' というバンドのギタリスト、Doug Tuttle氏で、いわゆる '現場の発想' から奇妙な '飛び道具' エフェクターをひとり製作しております。Mid-Fi Electronicsといえば、'変態ヴィブラート' ともいうべきPitch PirateやClari (Not)のぶっ飛んだ効果で一躍このブランドを有名にしましたが、本機は位相回路による 'フェイズ・キャンセル' の原理を応用し、このFarfisa風フェイズの効いたヴィブラートでサイケデリックな匂いを撒き散らします。






Binson Echorec
Arbiter Soundimension

このエコーにおける富田氏の好奇心、想像力は群を抜いており、まだ、オーケストラを相手とした駆け出しの作曲家時代、エンジニア的視点からその擬似的な '空間合成' に対して注意深く耳を澄ませていました。

"(映画の効果として)不気味な忍び寄る恐怖みたいなものを出すのにどうしてもエコーが欲しかった。その時、外を歩いていたら水槽があったんだよ。重い木の蓋を開けて、石ころを拾って放ってみたら「ポチャーン」って、かなり伸びのいい音がするわけ。好奇心旺盛なミキサーさんと共にそこへスピーカーとマイクを吊るしてやろうってことになった。スタジオの楽団の前にエコー用のマイクを立てておいて、その音を水槽に流して、その残響をマイクで拾ってミキサーの開いているチャンネルに戻す。そのエコー用マイクというのをストリングスに近づけるとブラスにエコーがかかる。両方にかけたいときは中間に置けばいい。"

その後、エフェクターとして出回った磁気ディスク式エコーのBinson Echorecも '富田サウンド' の重要なアイテムとなり、その '秘密' ともいうべき物理的 'エラー' から生成される 'モジュレーション' について富田氏は以下のように語っております。

"Binsonは鉄製の円盤に鋼鉄線が巻いてあって、それを磁化して音を記録するという原理のものでした。消去ヘッドは、単に強力な磁石を使っているんです。支柱は鉄の太い軸で、その周りにグリスが塗ってあるんですが、回転が割といい加減なところが良かったんです。そのグリスはけっこうな粘着力があったので、微妙な回転ムラによっては周期的ではない、レスリーにも似た '揺らぎ' が生まれるんです。4つある再生ヘッドも、それぞれのヘッドで拾うピッチが微妙に違う。修理に出すと回転が正確になってしまうんで、そこには手を入れないようにしてもらっていました。2台使ってステレオにすると微妙なコーラス効果になって、さらにAKGのスプリング・リヴァーブをかけるのが僕のサウンドの特徴にもなっていましたね。当時、これは秘密のテクニックで取材でも言わなかった(笑)。Binsonは「惑星」の頃までは使っていましたね。"

一方、Arbiterから登場したSoundimensionとSoundetteもBinson Echorecと同様の磁気ディスク式エコーであり、この会社はジミ・ヘンドリクスが愛用したファズ・ボックス、Fuzz Faceを製作していた英国のメーカーとしても有名です。本機はジャマイカのレゲエ、ダブ創成期に多大な影響を与えたプロデューサー、コクソン・ドッドが愛した機器で、ドッドはよほどこの機器が気に入ったのか、自らが集めるセッション・バンドに対してわざわざ 'Sound Dimension' と名付けるほどでした。そんな彼のスタジオ、Studio Oneでエンジニアを務めたシルヴァン・モリスはこう説明します。

"当時わたしは、ほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聴けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これが、あのスタジオ・ワン独特の音になった。それからコクソンがサウンドディメンションっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45センチぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、サウンディメンションはヘッドが動かせるから、それぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"










Shin-ei / Uni-Vox Uni-Vibe
Companion SVC-1 Vibra Chorus
Shin-ei Companion Amplifier Psychedelic Machine PM-14
Korg Nuvibe ①
Korg Nuvibe ②

さて、日本のエフェクター黎明期を支えたHoney / Shin-ei Companion。当時、ファズとワウがその市場の大半を占めていた中でいち早く 'モジュレーション' 系エフェクターの開発に成功したことで、現在までその技術力と先見性は高く評価されております。1968年のPsychedelic MachineとVibra Chorus、Special FuzzをきっかけにしてHoney倒産後、引き継いだShin-eiの時代になってからはUnicordへのOEM製品であるUni-Vibe、Shin-eiのOEMブランドCompanionのVibra Chorus VC-15(SVC-1)、Resly Tone RT-18(Phase Tone PT-18)、最終型のPedal Phase Shifter PS-33などが会社の倒産する1970年代半ばまで用意されました。





Shin-ei Resly Tone RT-18
Shin-ei Phase Tone PT-18
Shin-ei Pedal Phase Shifter PS-33

途中、自社のResly Tone RT-18の名称がPhase Tone PT-18に変更されたことからも象徴されるように1971年、トム・オーバーハイムが手がけたPhase Shifter PS-1をきっかけにして起こった 'フェイザー・ブーム' は、Honey / Shin-eiの先駆的な存在を闇に葬るきっかけとなってしまったのが悔やまれます。これは、そもそも先駆的製品であったこの 'Maid in Japan' が、まだまだ海外では安価なOEM製品以上の評価を受けていなかったことの証左と言ってよいでしょうね。少量生産していた 'アタッチメント' と呼ばれる機器は、ロック全盛とエレクトロニクスの革新により市場が拡大、より生産体制を拡大すべくアジアなどの下請け企業へ発注し、大量生産と共にビギナー層への安価な製品供給を拡充してその裾野を広げていく・・。まさにHoney / Shin-ei Companionはそんな時代の真っ只中で興隆し、消え去ってしまった幾多ある会社のひとつだったのです。





Shin-ei Resly Machine RM-29 ①
Shin-ei Resly Machine RM-29 ②
Rands Resly Machine RM-29

そんな '屈辱的' な先見性と 'フェイザー・ブーム' の狭間で産み落とされたと思しき珍品のひとつがコレ、Resly Machine RM-29です。そもそも1968年にHoneyから三枝文夫氏によって開発された本機の '源流' に当たるVibra Chorusの製品コンセプトは、レスリー社のロータリー・スピーカーを電子的にシミュレートすることでした。それがShin-ei以降もずっと製品名として生き残ってきたワケなんですが、時代が一気に 'フェイザー' という新たな名称と共に普及したことで、Shin-eiはそのきっかけとなったMaestro Phase Shifter PS-1のデザインをそのままパクるという暴挙に出ます。しかし中身は従来の '源流' としたヴィブラート色濃い独特な効果ながら、Uni-Vibeに代表される渦巻くようなサイケデリック的強烈な揺れ感は薄められた廉価版として、何とも折衷的なモジュレーション系エフェクターの範囲に留まってしまいました。







Maestro PS-1A Phase Shifter 1976
MXR Phase 90
Shin-ei MB-27 Mute Box

そんなMaestro PS-1も数年後にはMXRからPhase 90という手のひらサイズのカラフルな一品の登場で旧態然な製品となり、一部、オクターバーのOB-28やエンヴェロープ・フィルターのMB-27といった新たな製品開発に着手するものの、いよいよShin-eiという会社も次なる一手を打ち出さなければならない状況へと追い込まれます。Resly ToneからPhase Toneへ、さらにはペダルに内蔵してリアルタイム性に寄ったPedal Phase Shifterへとバリエーションを展開してみましたが、多分、その中身は古くさい 'Vibra Chorus' の資産を手を替え品を替えの状態だったのだろうなあ、ということで、ほとんど製品開発の資金を捻出できなかったのだろうと想像します。





Heptode Virtuoso Phase Shifter

ちょっと前の中国製エフェクターではないけれど、この時代の日本製エフェクターもオリジナル性よりは海外製品のほとんど模倣から始まっており、多分当時、海外の店頭ではMaestroはちょっと高くて手が出ないというユーザーたちが 'セール品' 的に手を出していたと思われます。日本製エフェクターの評価が高くなるのはMaxonがIbanezの名でOEM製品の市場を拡大させ、Bossによって一気にその勢力が塗り替えられた1970年代後半まで待たねばなりません。また、Maestroと共にフェイザー市場拡大に貢献したMXR Phase 90自体、そもそもがMXR創業者であるテリー・シェアウッドとキース・バーのふたりが経営していた修理会社に持ち込まれたMaestro PS-1を見て一念発起、MXR起業へのきっかけとなりましたからね。これは、ロジャー・メイヤーがジミ・ヘンドリクスの為にカスタムで製作していたOctavioを修理する機会のあったTycobraheがデッドコピー、新たにOctaviaとして製品化したというエピソードにも通じることで、どこまでがコピー、どこからが影響なのかというのはヒジョーに線引きの難しい話でもあります。ちなみにMaestro PS-1シリーズは当時の 'フェイザー・ブーム' の出発点となるべく大ヒットし、未だに状態良好な中古があちこちで散見されます。本機の 'デッドコピー' としてはフランスの工房、Heptodeから見た目そのままで小型化したVirtuoso Phase Shifterとしても登場しておりまする。








Carlin Phaser
Moody Sounds Carlin Phaser Clone
Moody Sounds / Carlin Pedals

Maestroからより小型化となったMXR Phase 90をきっかけにして広まった 'フェイザー・ブーム' は、一方で、そのフェイズの深さ、効き具合をフット・コントロールする 'ペダル・フェイザー' という形態への需要も高まります。ある意味、Shin-ei Uni-Vibeがもたらした '資産' のひとつでもあり、それは、元々がギタリストではなくキーボーディストを対象とした製品の名残りと言ってもよいでしょうね。1970年代にスウェーデンのエンジニア、Nils Olof Carlinが手がけたフェイザーとそれを同地の工房、Moody Soundsが本人監修の元に '復刻' させた 'クローン' モデル。その他、GrecoのPedal Phaser、Foxx Foot Phaserに 'エレハモ' からもBad Stoneのペダル版が発売されるなど、いわゆるUni-Vibeに端を発した 'ペダル・フェイザー' の流れが根付きます。このCarlinの隠れた一品の存在からも当時、世界を駆け巡った 'フェイザー・ブーム' の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。









U.S.S.R. - Elektronika
U.S.S.R. Spektr Phaser
U.S.S.R. 'Effekt 1' Fuzz / Vibrato / Wah

そうそう、こういったニッチかつ '秘境' のペダル収集熱はかつての '鉄のカーテン' の向こう側、ロシアの地へと拡大します。この旧共産圏の 'ペダル' に横溢するビザールな機能美は、ここ最近、eBayやReverb.comなどでゾロゾロと怪しげなキリル文字によるレトロかつ無機質、どこか '学研の教材っぽい' デザイン・センスで 'レトロ・フューチュアリズム' の極致と言って良いでしょう。当然、西側のエフェクターと規格が違う為か、端子類などに独自のものを採用していて使いづらいのですが、しかし、そのチープかつ昔のSFっぽい雰囲気はある意味とても新鮮!ファズワウからトレモロ、フェイザーやフランジャーにマルチ・エフェクターのようなものまで揃えられていることに驚きますけど、しかしこれらはかつて '国の所有物' として厳重に管理されていたワケですよね。何か、ロシアになってゴミとなった '不良債権' が巡り巡ってネットの競売に掛けられるという、時代の過酷な流れを感じますねえ。ちなみにかなりの珍品だからなのか、リンク先の日本の楽器店でもの凄い値段が付けられております・・。







U.S.S.R. Formanta
U.S.S.R. Formanta Esko-100

そんな旧ソビエト製ペダルの集大成?的 'マルチ・エフェクツ' ユニットなのがこちら、Formanta Esko-100。1970年代のビザールなアナログシンセ、Polivoksの設計、製造を担当したFormantaによる本機は、その異様な '業務用機器' 的ルックスの中にファズ、オクターバー、フランジャー、リヴァーブ、トレモロ、ディレイ、そして付属のエクスプレッション・ペダルをつなぐことでワウにもなるという素晴らしいもの。ちなみにそんな空間系のプログラムの内、初期のVer.1ではテープ・エコーが搭載されておりましたが、Ver.2からはICチップによるデジタル・ディレイへと変更されました。





Vermona Engineering Phaser 80

こちらは今や 'ユーロラック・モジュラーシンセ' の分野でも老舗のVermona Engineering。しかし元々は東ドイツの国営企業であり、そんな '共産圏' 真っ只中の1980年に登場した '据え置き型' であるPhaser 80。Phase ShiftのOn/OffスイッチとSpeed、Feedback、背面にIntensityとSensibilityツマミという至極シンプルな設計ながら、これがその後のVermona製品の出発点なのかと思うと感慨深い。







Keio Electronic Lab Synthesizer Traveller F-1
Korg VCF Synthepedal FK-1
Korg Mr. Multi FK-2

そんな国産フェイズの '源流' に当たるVibra Chorusを設計した三枝文夫氏が、Korgこと京王技研工業へ入社後に手がけたペダル3種。国産初のシンセサイザーKorg 700に搭載された 'Traveller' フィルターは、-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成されたもので、FK-1のツマミで分かりやすいようにそれぞれ動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという、三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。この3種はそんな 'Traveller' を単体で抜き出したものであり、ファズワウからオシレーター発振、VCFコントロール、ワウとフェイザーのハイブリッドに到るまで、Korgという会社の立ち位置を実に象徴する製品と言ってよいですね。









Chicago Iron Tycobrahe Pedal Flanger
Musitronics Mu-Tron Pedal Flanger
Musitronics Mu-Tron Bi-Phase
Moog MKPH 12 Stage Phaser

そして、このような黎明期を経ながら同じ位相を操作する効果を 'フェイザー' と 'フランジャー' としてカテゴリー分けされることで、ようやくエフェクターの市場に数多くの製品が登場します。TycobraheとMusitronics Mu-Tronからはそれぞれペダル・フランジャー2種。2台分のフェイザーを装備したMusitronics最大の 'フェイズ・ユニット'、Mu-Tron Bi-Phaseは、まるで '亜熱帯のサイケデリア' を象徴するマリワナの煙と共にたゆたうリー・ペリーに力を与えます。その姿は、ほとんどギタリストがアプローチするのと同じ意識でミキサー、フェイザーを '演奏' している!そして後に 'Moogerfooger' シリーズでも復活したMoog博士の12 Satage Phaserのラック版。エグいフェイズはもちろんですが、ステレオの音響生成において '3Dディメンジョン' 的定位にミックスで用いてやると効果てき面!その昔、怪しげな中目黒のマンションの一室にあった楽器店で、外人オーナー相手に本機の値段交渉したことが懐かしい。









Moog Moogerfooger
Mu-Fx Phasor 2X
Mode Machines KRP-1 Krautrock Phaser
Gerd Schulte Audio Electronik Compact Phasing 'A'

そんなラック版もMoogならではの '木枠' な家具調で蘇ったものの、残念ながら再び生産終了という悲しい 'Moogerfooger' シリーズ。そしてMu-Tron Bi-Phase直系ともいうべき、2台分のフェイズの片側であるPhasor Ⅱをオリジナル設計者のマイク・ビーゲルが現代的にリメイク、復刻したのがこちらMu-Fx Phasor 2X。一般的なフェイザーでおなじみ4ステージからPhasor 2〜Bi-Phase同様の6ステージのフェイズ切り替え、外部エクスプレッション・ペダルによるスウィープ・コントロールと多様な音作りに対応します。そして、Bi-Phaseと同じく強烈なフェイズ・サウンドで時代を席巻したのがドイツ産Gerd Schulte Compact Phasing A。クラウス・シュルツェやディープ・パープルのリッチー・ブラックモアらが愛用したことで大変なプレミアものですね。こんなCompact Phasing AもMode Machinesからその名もずばり 'Krautrock Phaser' として生まれ変わりました。しかしその筐体はあまりにもデカイ・・。




Irmin Schmidt's Alpha 77 Effects Unit.

このようなエフェクター黎明期から全盛期を迎える1970年代、個別にカテゴリー化される流れからすべてを統合し、'マルチ・エフェクツ' 化する方向へも加速します。ここではクラウト・ロックの雄として有名なCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案の創作サウンド・システム、Alpha 77も述べておきたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、こちらはダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴなスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。イルミン・シュミットが右手はFarfisa Organとエレピ、左手は黒い壁のようなモジュールを操作するのがそのAlpha 77でして、それを数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたジョノ・パドモア氏はこう述べます(上のリンク先にAlpha 77の写真と記事があります)。

"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。"

"シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"





またシュミット本人もこう述べております。

"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"







Bob Williams: The Analogue Systems Story
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ①
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ②
EMS 8-Octave Filterbank
Filters Collection

いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクターと並び、現在ではDJを中心に一般的となったフィルター専用機。1970年代にはUrei 565T Filter SetやMoogのMKPE-3 Three Band Parametric EQといったマニアックなヤツくらいのイメージだったものが1990年代の 'ベッドルーム・テクノ' 全盛期に再燃、英国のAnalogue Systemsから登場したのがFilterbank FB3です。創業者であるボブ・ウィリアムズはこの製品第一号であるFB3開発にあたり、あのEMSでデイヴィッド・コッカレルと共に設計、開発を手がけていたスティーヴ・ゲイを迎えて大きな成功を収めました。1995年に1Uラックの黒いパネルで登場したFB3はすぐにLineのほか、マイク入力に対応した切り替えスイッチと銀パネルに換装したFB3 Mk.Ⅱとして 'ベッドルーム・テクノ' 世代の要望を掴みます。当時、まるでMoogのような '質感' という '売り文句' も冗談ではないくらい太く粘っこいその '質感' は、本機の '売り' である3つのVCFとNotch、Bandpass、Lowpass、Highpassの 'マルチアウト'、LFOとCV入力で様々な音響合成、空間定位の演出を生成することが出来ます。そんな本機の設計の元となったのはスティーヴ・ゲイがEMS時代に手がけた8オクターヴのFilterbankですね。








Marshall Electronics Time Modulator Model 5402
Keeley Electronics Bubble Tron

そんなラック型モジュレーションの究極なのがこちら、Marshall ElectronicsのTime Modulatorをご存知ですか?。1970年代後半にMarshall(ギターアンプのMarshallとは別の会社)から登場したこの1Uラックの本機は、まるで土管の中に頭を突っ込んでしまった時に体感できる 'コォ〜ッ' とした金属的変調感を体感することが可能。また 'CV/Gate' を備えることでモジュレーションからLFOのオシレータ発振まで、モジュラーシンセ的にコントロールする機能を備えるなど、コンパクトなフランジャーでは再現出来ない強烈なフランジングがたまりません。しかし、このラックの世界もRoland SBF-325 Stereo Flangerやフランク・ザッパが愛用したMicMix Dynaflangerを始め、コンパクトとは別の意味で '掘っていく' ともの凄い機材がありまする。そして、そんなMicMixのフランジ効果をシミュレートしたとされるKeeleyの新作、Bubble Tron。



そして強烈な 'フェイジング&フランジング' の極北と言ったら、コレ。ギリシャ人にしてフランス現代音楽の巨匠、ヤニス・クセナキスが1971年にイランの第5回シラズ国際芸術祭の委託により8トラック・テープで制作した大作 'Persepolis'。日没後のペルセポリス遺跡を舞台にレーザーを用いた光の照明と100台ものマルチ・スピーカーから放たれる暴力的な轟音ノイズは、その強力な 'ジェット機音' と相まってこの世の果てに吹き飛ばされていくようです。









並み居る 'Pedal Geek' の上位を占めるほどYoutuberとして常連となったDennis Kayzerさんのお馴染み、現行 'フランジャー' & 'フェイザー' のベスト10。そしていつも賑やかに笑い合ってるThat Pedal Showのレビュー。まだまだ知らない製品が世界にはたくさん存在している・・っていうのを教えてくれますね(笑)。

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