2000年代半ば、一台の不思議なキーボード・アンプが日本の市場にやってきました。真空管アンプの製作で有名なGroove Tubesが手がけたトランジスタ・アンプ、というだけでも異色でしたが、それは100Wの小型アンプながらL/Rのみならず300度にわたるステレオ音像を再生してしまうのです。その名は 'SFX Spacestation Mk.2'。
→Aspen Pitman Designs Center Point Stereo Spacestation V.3
当時の代理店であったイケベ楽器が少数取り扱ったのみで、手を出してみようかと悩んでいる内にあっという間に市場から姿を消しました。それから5、6年ほど経った後、偶然にもイシバシ楽器で定価より半額ほどの中古で登場、ツマミ類に多少のガリはありましたがようやくGET!とにかく一台のアンプにして、正面の8インチ・コアキシャル・スピーカーと側面90度に配された6.5インチ・フルレンジ・スピーカーの組み合わせでステレオが鳴っているのは不思議でした。
→Portable PA System
→Yamaha Stagepas 400i / 600i
通常、ステレオとはLとRに配された2台のスピーカーを適度な間隔で調整することで生成するものです。上の動画は簡易PAシステムのYamaha Stagepas 600iで、パワード・ミキサーを軸にLとRを離してステレオの環境を構築する一般的なもの(オプションでモニター用の 'ころがし' やサブウーファーを入れ、3Way再生として拡張可)。しかし、スピーカーに対して聴き手が真正面に向かい合い、また少しでもそのポイントからズレるとステレオ効果が半減してしまうのが欠点でもありました。'Spacestation' は、Groove Tubes時代に 'Stereo Field Expansion (SFX)' として、そして '復活' した本機では 'Center Point Stereo' (CPS)という名で、とにかくどこの位置にいてもステレオの音像を崩すことなく体感することができます。これらの音像をVolumeとWidthのたった2つのツマミで行い、また、このWidthを回すことでいわゆるL/Rの間隔を調整する働きをします。わたしはステレオ・ディレイからライン・ミキサーを介して入力してみましたが(基本的にライン・レベルのアンプです)、やはり、この広大なステレオの分離感の中で繰り返すディレイの音像はたまりませんね。しかし、わたしの手に入れたものは中古の時点で相当くたびれており、残念ながら本格的に故障する前に手放してしまいましたが、まさか設計者自ら会社を立ち上げて '復活' させるとは・・きっと、このユニークさを惜しむ声があちこちから上がっていたのでしょうね。ちなみにこの技術は 'SFX' の頃にFenderとライセンス契約を結び、同社のアコースティック用アンプ 'Acoustasonic' へ活かされました。現在は 'Acoustic SFX' という200Wのアンプへと進化しております。
→Fender USA Acoustic SFX
ソロでステレオ・ディレイの音像をたっぷり活かしたギターや、コンピュータからの 'カラオケ' と組み合わせての 'ひとり' アンサンブル、少人数なバンドの簡易PAとしてライン・ミキサーからL/Rの定位に振り分けてまとめるなど、このサイズにして見事な働きをしてくれます。Groove Tubes時代の 'SFX Spacestation'ではLevel(Volume)とWidthの2つのツマミだけだったのが、本機ではMidsとHFQのEQが加わったことで各帯域をスポイルすることがなくなったのは嬉しいですね。
→Roland Jazz Chorus JC 1
→Roland Jazz Chorus JC 2
→Roland JC-120
→Roland JC-40 ①
→Roland JC-40 ②
→Roland FM-186
さて、以前に ''アンプリファイド・ホーン' という音場' でも取り上げましたが、ランディ・ブレッカーが1992年のザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーで試みたギターアンプのRoland Jazz Chorus JC-120をステレオで鳴らす、というやり方もPA的にオススメできます。そもそもは、トランジスタアンプであるJC自体の歪み方が気に入らないことから、JCのプリアンプはスルーして2発のパワーアンプのみ使用、歪みは別個アンプ・シミュレーターなどで作るというところから行われている
‘裏ワザ’ 的手法でもあります。上の動画でも確証できますが、ランディの後ろに傾けて置くJC-120の前面インプットにケーブルが刺さっていないことから、JC-120後方のリターンからステレオで入力していることが分かります。最近発売されたJC-120の '弟分' である40W(20W+20W)のJC-40でもこのリターン入力(-10dBuのインピーダンス固定)ができるのでお試しあれ。また、あくまでJCは2発のスピーカー再生のみ(前面のツマミ無効)なので、アンプ・シミュレーターかライン・ミキサーでラッパ側のヴォリュームを調整することになります。ランディは、Rolandの1Uラック・ミキサーM-120からリターンに繋いでいるので、JC-120のリターン側に付いているインピーダンス・スイッチを '+4dBu' に入れています。現在では、M-120の後継機としてFM-186といったライン・ミキサーがあるのでここからステレオでJCのリターンに入力すると良いでしょう。
ニューヨークで独自の活動を展開する 'Mutantrumpet' のベン・ニール。そしてノルウェーの二大ラッパ吹き、アルヴェ・ヘンリクセンとニルス・ペッター・モルヴェルら、彼らのようにコンピュータを用いてジョン・ハッセル風 'エレクトロニカ室内楽' 的アプローチをする者には最適な音響システムでではないかと思います。また、このような時間軸のない 'ドローン・ミュージック' にぴったりなエフェクターとして以下のものはいかがでしょうか?
→Mid-Fi Electronics Organ Drone ①
→Mid-Fi Electronics Organ Drone ②
最近はギターの音を 'オルガン・トーン' に変えてくれるペダル(Electro-Harmonix B9やC9など)がありますが、こちらは入力する音とは関係なく、バッキングなドローンとして 'オルガン・トーン' を垂れ流してくれるもの。米国のガレージ・メーカーMid-Fi Electronicsの製品で '飛び道具' ながら、内蔵のオシレータをチューニングして厚みのあるアンサンブルを生み出してくれます。特に、ステレオ・ディレイと組み合わせて 'Spacestation' で鳴らすことで、かなり心地よいステレオ空間の演出に一役買うこと間違いなしです。
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