暑中お見舞い申し上げます。
モダン・ジャズという '大海' の中で、どこか辺境の海域を彷徨う知られざる '才能' の持ち主がいることが多々あります。このドン・エリスという白人のラッパ吹きもそんなひとりであり、一部、熱狂的なビッグバンドのスコアや編曲などに興味を持っている人たちの支持を得ているものの、一般的にはマイルス・デイビスやジョン・コルトレーンのように広く聴かれることはありません。
現在の視点から眺めるとこのような '異種交配' におけるジャズ、ポップ・ミュージックとシタールの邂逅は奇異に映りますが、当時のカウンター・カルチャーにおいて東洋のエキゾチシズムはザ・ビートルズを始めに憧憬の対象でした。まさにインドの瞑想と共に幻覚の一粒を経口するように 'LSDの教祖' としてその布教活動に勤しんだティモシー・リアリー。これは 'セットイン' と呼ばれるLSD服用の為のリラクゼーション導入を促す一枚で、濃密なインド音楽と電子音で被験者を 'Stone' させる1967年の 'Turn On, Tune In, Drop Out'。そんな '時代の音色' を象徴するシタールを取り入れる一方で、インドの古典音楽の持つ即興演奏の '構造' にアプローチするジャズマンも登場し、パット・マルティーノ、ガボール・ザボ、ビル・プルマー、コリン・ウォルコットにザ・デイヴ・パイク・セットのフォルカー・クリーゲルやマイルス・デイビスなど多岐に渡りました。ジャマイカ出身で米国で活動するサックス奏者ジョー・ハリオットは、早くからインドの古典音楽にアプローチしていた稀有なひとりであり、インド人ヴァイオリニストのジョン・メイヤーと '双頭' による 'Joe Harriot - John Mayer Double Quintet' としてAtlanticから立て続けにアルバムをリリースしました。そしてこのハリオットとメイヤーの試みは大西洋を渡り、ブリティッシュ・ジャズのジャズマンたちを刺激し、1969年にThe Indo-British Ensembleの名義で 'Curried Jazz' というアルバムを制作します。ここでは1965年の 'Indo - Jazz Suite' に続いてラッパのケニー・ウィーラーらも参加しておりますが、この時代、まだ駆け出しの 'セッションマン' であったウィーラーがモダン・ジャズからフリー・ジャズ、ジャズ・ロックに加えてこのような 'インドもの' にまで参加するというのは、その後のECMで打ち立てる様式美を考えると感慨深いものがありまする。続いてスイス人ピアニスト、イレーネ・シュヴァイツァーが後にクラウトロックのバンド、Guru Guruとしてサイケに変貌するウリ・トリプテ、マニ・ノイマイヤーらとサックス奏者ヴァルネ・ウィランやシタール、タンプーラ、タブラでセッションする 'Jazz Meets India'。また、このような従来のジャズに捉われない即興演奏のムーヴメントとか、来ないかな?。
ちなみに施法のラーガと共にインドの変拍子なリズム構造ターラをさらうに当たって便利なのがこちら、タブラマシンですね。ティーンタール(16拍子)、エクタール(12拍子)、ルーパクタール(7拍子)、ジャクタール(10拍子)などなど・・とターラの基礎ビートを学ぶことが可能。ドン・エリスの音楽を楽しむきっかけになるのはもちろん、まさに電気ラッパのお供としても最適でございます。ワウペダルを踏みながら鳴らせば、ちとマイルス・デイビスの 'On The Corner' の気分を味わえるかも(笑)。
"同じ電化楽器でもトランペットの場合は特性面でかなりの相異がある。電化トランペットの使用で話題になったドン・エリスの場合、やはり種々のアンプを使っているが、サックスとちがって片手でできるトランペット演奏では、もうひとつの手でアンプの同時操作が可能になる。読者は、先月号のカラーページに登場したドン・エリスの写真で、彼がトランペット片手にうつむきながらアンプを操作している光景をご覧になっているはずだ。あの場合、ドン・エリスはいったん吹いたフレーズをエコーにしようとしてるのだが、この 'エコー装置' を使うと 'Electric Bath' (CBS)中の 'Open Beauty' にきかれる不思議な音楽が誕生する。装置の中にはテープ・レコーダーが内蔵されており、いったん吹かれた音がいつまでもエコーとなって反復される仕組みになっている。ドン・エリスは、この手法を駆使し谷間でトランペットを吹くような効果を出しているが、彼はまた意識的にノイズを挿入する。これも片手で吹きながら、もう一方の手でレバーを動かしてガリガリッとやるのである。こうした彼のアイデアは、一種のハプニングとみなしていいし、彼が以前、'New Ideas' (New Jazz)で試みた実験と相通じるものだ。"
→Gibson / Maestro W-2 Sound System for Woodwinds
→Gibson / Maestro W-3 Sound System for Woodwinds
"エディ・ハリスのグループがロサンゼルスの〈シェリーズ・マンホール〉に出ていたとき、彼のグループはジョディ・クリスチャン(ピアノ)、メルヴィン・ジャクソン(ベース)、リチャード・スミス(ドラムス)で構成されていたが、ハリスとベースのジャクソンが電化楽器を使っており、ジャクソンがアルコ奏法で発する宇宙的サウンドをバックにハリスが多彩な効果を発揮してみせた。2音、3音のユニゾン・プレイはもちろんのこと、マウスピースにふれないでキーのみをカチカチと動かしてブラジルの楽器クイーカのようなリズミックなサウンドを出し、ボサノヴァ・リズムをサックスから叩き(?)出すのである。この奏法はエディ・ハリスが 'マエストロ' の練習中に偶然出てきた独奏的なもので、同席した評論家のレナード・フェザーとともにアッと驚いたものである。ハリスはあとで、この打楽器的な奏法がサックス奏者に普及すればサックス・セクションでパーカッション・アンサンブルができるだろうと語っていたが、たとえそれが冗談にしろ、不可能ではないのだ。ともあれ、エディ '電化' ハリスのステージは、これまで驚異とされていたローランド・カークのあの演奏に勝るとも劣らない派手さと、不思議なサウンドに満ちていて人気爆発中。しかもカークが盲目ということもあって見る眼に痛々しさがある反面、ハリスは2管や3管吹奏をプッシュ・ボタンひとつの操作で、あとはヴォリューム調整用のフット・ペダルを踏むだけで楽々とやってのけているわけだ。エレクトリック・サックスの利点は、体力の限界に挑むようなこれまでのハードワークにピリオドを打たせることにもなりそうだ。ハイノートをヒットしなくても、ヴァイタルな演奏ができる。つまり、人体を酷使することからも解放されるのだ。この点は、連日ステージに出る当のミュージシャンたちにとって、大きな利点でもあるだろう。エディ・ハリスは電化サックスの演奏中は、体が楽だといった。これを誤解してはいけないと思う。決してなまけているのではなく、そういう状態になると、その分のエネルギーを楽想にまわせることになり、思考の余裕ができて、プラスになるという。さらに、エレクトリック・サックスを使う場合、もし人が普通のサックス通りに演奏したら、ヒドい結果になるという。楽に、自然に吹かないと、オーバーブロウの状態でさまにならないそうだ。新しい楽器は新しいテクニックを要求としているわけだが、それで体力の消耗が少しでもすめば、まことに結構ではないか。"
ちなみにエリスのようなエレクトロニクスとジャズを越境して孤軍奮闘した 'マッド・サイエンティスト' としては、ほかにギル・メレがおりますね。1950年代にBlue Noteで 'ウェストコースト' 風バップをやりながら画家や彫刻家としても活動し、1960年代から現代音楽の影響を受けて自作のエレクトロニクスを製作、ジャズという枠を超えて多彩な実験に勤しみました。そんな '発明家' としての姿を示す画像は上から順に 'Elektor' (1960)、'White-Noise Generator' (1964)、'Tome Ⅳ' (1965)、'The Doomsday Machine' (1965)、'Direktor with Bubble Oscillator' (1966)、'Wireless Synth with Plug-In Module' (1968)といった数々の自作楽器であり、特に1967年にVerveからのリーダー作 'Tome Ⅳ' は、まるでEWIのルーツともいうべきソプラノ・サックス状の自作楽器(世界初!の電子サックス)を開陳したものです。ま、一聴した限りではフツーのサックスと大差ないのですが、彼がコツコツとひとり探求してきたエレクトロニクスの可能性が正式に評価されなかったのは皮肉ですね。そんなメレ独自のアプローチは1971年のSF映画 'The Andromeda Strain' のOSTに到達、難解な初期シンセサイザーにおける金字塔を打ち立てます。ちなみにこの映画は、まさに今の新型コロナウィルスを暗示したような未知のウィルス感染に立ち向かう科学者たちのSF作品でして、その '万博的' レトロ・フューチャーな未来観と70年代的終末思想を煽るギル・メレの電子音楽が見事にハマりました。
→Maestro Ring Modulator RM-1A
→Maestro Ring Modulator RM-1B
ブルガリアの鬼才、ミルチョ・レヴィエフのクレズマー的なアレンジが冴える本アルバム 'Tears of Joy' は、ドラムスのラルフ・ハンフリーが後にフランク・ザッパのバンドに参加するなど、エリスが与える影響はそれまでのジャズという狭い枠の中に収まるものではありません。例えば、吹奏楽などを通ってこれから本格的にジャズでも聴いてみようかな?と思っている若いコたちにこそ、その辺の 'ジャズの教科書' 的小うるさいウンチク本など読まず、このドン・エリスのアルバムを素直に聴いてみて欲しいですね。賑やかなバンド・アンサンブルの妙技と華やかに突き抜けるハイノート、しかしアタマから数えると混乱する変拍子と奇怪な電子音響からダダイズム的実験精神の豊饒さ・・。ドン・エリス、これほどジャズを体現した人はほかに知りません。






















































































