2017年1月5日木曜日

フィルター '変態' の掟

これまで 'ワウワウで '先祖返り'' や 'パコパコで '先祖返り''などと取り上げてきたワウペダル、エンヴェロープ・フィルターですけど、それらを包括的にまとめた 'フィルター' という分野は、いわばコンパクト・エフェクター製作 '最後の砦' ではないか、という気がしております。それは、単なるエフェクターという '箱' にこだわらず、いわゆるアナログ・シンセサイザーの外部入力から突っ込みVCF、VCA、LFOで強烈に変調させてやることさえ厭わない '無法地帯'。要は、ぶっ飛んでいて面白ければ良いのであってルールは無用なのです。たぶん、ほとんどの演奏者が返り討ちに遭って記憶の隅に忘れられていくだけの宿命を背負う '変態' フィルターではありますが、ここでドバッと開陳致します。さあ、挑戦者よ来れ!

この手の製品ではMasf Pedals始め、日本は陰ながら健闘しており、現在はオーストラリア在住で製品作りをしている 'LAL' ことLastgasp Art Laboratoriesのエフェクターもぶっ飛んだものばかり。'ニッチな' ジャンルとはいえ少量生産で欠品の多いのが玉に瑕ですけど・・。





Lastgasp Art Laboratories
Mission Engineering Expressionator

その 'LAL' のカタログの中でもぶっ飛んだ一台なのが、2基搭載した 'Parametric Oscillo Filter' の名前通りほとんどオシレータの塊ともいえるCyber Psychic。エクスプレッション・ペダルを繋いでそのフリケンシーをリアルタイムで操作することもできます。そういえば、レッド・ホット・チリ・ペパーズのギタリスト、ジョシュ・クリングホッファーの足元にもコイツは一時期ありました。動画ではMission EngineeringのExpressionatorを用いて、Moogerfooger MF-101を始め、一台のエクスプレッション・ペダルで複数機とのCV兼用を行っているようですね。





Dwarfcraft Devices Happiness

ここも常識外れの '飛び道具' ばかり製作する狂った工房なのですが、オーソドックスな構成を持つLow-pass、Band-pass、High-passのマルチモード・フィルターHappinessはいかがでしょうか。一般的なエンヴェロープ・フィルターなのかと思いきや、Scrambleなるスイッチを入れることで 'ランダム・アルペジエイター' 風の効果を生成。そしてエクスプレッション・ペダルでFilter CVとScramble CV、LFOを出力できるなどミニプラグで外部との同期を行えるということで、これは 'ユーロラック・モジュラーシンセ' との互換性を備えているのが面白いですね。



Mantic Effects Flex Pro

こちらは昨日取り上げた疑似シンセ系 '歪み' の類いで、やはりブチブチとロービット・サウンドを生成します。ケースが通常のものを引っくり返して用いているのがユニークなら、6つあるツマミもそれぞれLVL(マスター・ヴォリューム)、Focus(VCOのアタック・コントロールをPumpノブとリンクして調整)、Pump(Focusノブとリンクしてエンヴェロープの範囲と時間を調整)、Mix(エフェクト音と原音のミックス)、Filter(6種のVCO切り替え)、Rate(フットスイッチ右側でLFOの周波数を調整)、$スイッチ(フィルターで選択されたVCOのディケイを2種から切り替え)、&スイッチ(フィルターで選択されたVCOの範囲を2種から切り替え)と・・ふぅ、取説がないと追い切れないですがかな〜り狂ったサウンドを生成してくれますねえ。



Source Audio Soundblox 2 SA224 Stingray Multi-Filter
Source Audio

指に嵌めたSA115 Hot Hand 3という 'モーション・センサー' でエフェクトのパラメータをリアルタイムで動かしたりと、なかなかに独創的な発想を盛り込むSource Audioのエフェクターなんですが、今いちその 'サイバーな' デザインは好き嫌いの分かれるところでユーザーが少ない。しかしこのStingrayなる本機、音作りとしてはローパスからハイパスのフィルター 、'ヒューマン・ワウ'にフェイザーや 'ランダム・アルペジエイター' など、かなり幅広いサウンドへと対応しており、これは '隠れた名機' と言えるかも。大体、この手の '飛び道具' はニッチな層を対象としているだけに高価というのが一般的なのですが、おお、リンク先を見るとほとんど投げ売り状態の価格ですヨ、これは!手っ取り早く 'ぶっ飛びたい' ヤツ、急げ!









Korg MS-20 mini Monophonic Synthesizer
Korg MS-20M Kit + SQ-1 Monophonic Synthesizer Module Kit
Pigtronix Mothership Analog Guitar Synthesizer
Arp Odyssey Module

アナログ・シンセ及びモジュラー・シンセの敷居を低くした存在として、Korg MS-20の存在はもっと褒め称えても良いと思いますね。それは、KorgがMS-20 miniとして '復刻' したことでさらに多くのユーザーを獲得したことにも現れております。MS-20の外部入力から音の出るものなら何でも突っ込んでみていろいろと 'シンセサイズ' してみる・・。下の動画では、Pigtronixが自社の 'ギターシンセ' であるMothershipとCV(電圧制御)で組み合わせることでさらに面白いことに。そしてKorgは往年の名機、Arp Odysseyのモジュール版を発売してしまいました。コイツにも外部入力はあるので・・さあ、いろいろと '突っ込んで' みるなら今です!



Hammond / Innovex Condor RSM (Reed Sound Modulator)

あ、'温故知新' で世界最初の 'ギター・シンセサイザー' として1969年に製品化されたHammondのInnovex Condor GSMも追加でどーぞ。他にステレオ音源の入出力対応SSM、サックスやトランペットに対応した管楽器用RSMがそれぞれ用意され、エディ・ハリス、ランディ・ブレッカーは愛用、マイルス・デイビスは 'Fuck!' のひと言で付属のShure製ピエゾ・ピックアップのみ愛用しましたね。





WMD Protostar ①
WMD Protostar ②

そのようなモジュラーシンセの発想を今度はコンパクト・エフェクターに導入した一例として、破壊的なディストーションのGeiger Counterで一躍エフェクター界にその名を刻んだWMDの新たなぶっ飛びフィルター、Protostar。こちらも上でご紹介したSource Audioのヤツ同様に幅広い効果を持ち、4モードのフィルターをLFOとエンヴェロープでコントロールすることでワウからフェイザー風の効果を生成し、またコンプレッサーも内蔵します。下の動画では、WMDが 'Coming Soon' とするGeiger Counter Proとモジュラーシンセ的にパッチングをして・・ムム、とても説明するには複雑なのでリンク先をご参照下さいませ。







Oberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200
Xotic Effects Robo Talk-RI
Z.Vex Effects
Subdecay Proteus
Masf Pedals Possessed

さて 'ぶっ飛んだフィルター' 再評価?のブームのきっかけとなったのが、こちらXotic GuitarsのRobo Talkでございます。いわゆるエンヴェロープ・フィルターに 'チャカポコ' と不規則なシーケンスを鳴らす 'ランダム・アルペジエイター' を搭載することで、それまでのワウという概念から 'シンセ的発想' でギターを捉えることを可能にしました。といっても新しい機能ではなく、1970年代にトム・オーバーハイムが設計したMaestro Filter/Sample Hold FSH-1をデッドコピーしたもので、オーバーハイム自身も自社からVoltage Controlled Filter VCF-200として発売しました。本機をきっかけにZ.VexのSeek WahやOoh Wah、さらに16ステップのシーケンスを内蔵した 'Super Seekers' シリーズ、Subdecay Proteusなどが後に続きます。下の動画は、そのFSH-1の 'ランダム・アルペジエイター' の 'チャカポコ具合' をさらに予測不能なMasf Pedals Possessedの 'グリッチ効果' でブツ切れにするという・・。ちなみにオリジナルの本機を用いた名演としては、フランク・ザッパの 'Ship Ahoy' でしょう!



Copilot FX Gyroscope
Copilot FX Broadcast BC-2

こちらは中南米のドミニカ共和国で製作をするAdam RomeoさんのCopilot FX。エンヴェロープ・フィルターからモジュレーションからディストーションからと 'てんこ盛り' ながら、ピコパコと 'ランダム・アルペジエイター' でシーケンスするGyroscope。ここもヘンテコな '飛び道具' ばかりラインアップする奇妙な工房ですね。またSpeed/Ratioのパラメータは外部に 'エクスプレッション・ボックス' ともいうべき同社のBroadcast BC-2を繋ぐことでさらにエグい変調へと操作することが可能です。





Maestro Universal Synthesizer System USS-1

さて、そんなFilter/Sample Hold FSH-1を含め、Maestroの代表的エフェクターを '詰め込んで' みたマルチ・エフェクター的構成のUniversal Synthesizer System USS-1。ファズ(Waveform)、フェイザー(Phase)、エンヴェロープ・モディファイア(Envelope)、Sub-Harmonic(オクターバー)と 'てんこ盛り'。当然、'ランダム・アルペジエイター' のFilter/Sample Holdがシンセっぽさを醸し出しておりますが、どうも名称だけシンセっぽく改称してそれっぽく見せているだけのようなチープさ・・の香りはありますが存在感は凄い。ちなみにこちらもトム・オーバーハイム製作の一品となります。





Koma Elektronik

そんな 'ランダム・アルペジエイター' の機能を10ステップのシーケンサーにして、さらに 'モジュラーシンセ' 的パッチングでより凝った音作りを可能としたのがこのKoma ElektronikのFT201。姉妹機のゲート/ロービット・ディレイBD101と組み合わせることでかなりエグいですねえ。フットスイッチ横のセンサーにパッチングすることで、ツマミの可変では表現できないテルミン的な操作がイマジネーションを刺激してくれます。







EMS Synthi Hi-Fli
EMS Synthi Hi-Fli on eBay
Digitana Electronics Synthi Hi-Fli

さてさて、こちらは '温故知新' ということで、ジェネシスのスティーヴ・ハケットやピンク・フロイドのデイヴィッド・ギルモアらが用いたことで半ば伝説化している幻のギター・シンセサイザー、EMS Synthi Hi-Fli。設計はEMSシンセサイザーはもちろん、1970年代後半にはエレクトロ・ハーモニクスのエフェクターにも携わったDavid Cockerellが担当し、そのぶっ飛んだサウンドはもちろん、この 'スペースエイジ' 風のデザインは目を見張ります!今ならApple Macintoshがデザインしたエフェクターだ、と言われても信じてしまうかも。いわゆるフェイズの効いた 'ヒューマン・ワウ' の効果も出るという意味では、同時期のLudwig Phase Ⅱ Synthesizerをかなり意識して設計したのかもしれません。しかし、オリジナルはもちろん、数年前に 'リビルド' というかたちで蘇ったDigitana Electronicsのヤツも一体どれくらい出回ったのか、コイツだけは市場で滅多に見かけない・・と思っていたら、何とeBayで状態良好のヤツが約90万!を筆頭にいくつか出品されております・・ムムム。





Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
Kep FX Phase Ⅱ.2

'温故知新' パート3。以前にもご紹介しましたが、再びLudwig Phase Ⅱ SynthesizerとそのデッドコピーであるKep FXのPhase Ⅱ.2。このフェイズの効いた 'ヒューマン・ワウ' というのも機種ごとの微妙な違いがあって探求したくなりますね。日本ではMoogシンセ導入前の故・富田勲氏が 'ラデシン' のあだ名でよく用いていたという本機、これまで過去のエフェクターはかなりの数が '復刻' 及びデッドコピーが進みましたが、この '大物' はまだまだ歴史の陰に隠れている '知られざる名機' の一台です。ドラム・メーカーであるLudwigが重い腰を上げて '復刻' しませんかねえ。







Sherman Filterbank 2

単体の '化け物' フィルターとして長いことその座を守ってきたのが、ベルギー産のHerman Gillisさんの手がけるSherman Filterbank 2。さすがにテクノ界隈で使われまくっただけあって '賞味期限切れ' かな、とも思うのですが、本機の 'モジュラーシンセ' 並みの機能を持つ音作りは、まだまだ挑発的な唯一無二の出音として健在です。また、Filterbank 2のラック版の動画ではノコギリ波をVCFに送り、エンヴェロープ・フォロワーに対してLFOでコントロールすることで 'ヒューマン・ワウ' の如く '喋らせる' ことも可能。何せ耳を塞ぐヤツを会社のトレードマークとしているだけに、どうぞ耳を痛めてアンプを飛ばさないようにご注意あれ。





Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation

コンパクト・エフェクター(というにはあまりにデカイですが)としては最も凄そうなのがこちら、フランク・ザッパが生前に愛用していたカスタムメイドのフィルターをザッパのギターを手がけていたPerformance Guitarが蘇らせてしまったもの。オーダーしたのは息子のドゥイージル・ザッパで動画のデモも彼本人によるものです。価格帯に応じて3種類用意されておりますが、いずれにしろコンパクト・エフェクターの '判断基準' を超えた高価格ということで、熱狂的な 'ザッパファン' 以外、一体誰が買うのやら・・。






そしてこちらは、'ペダル・ジャンキー' でお馴染みDennis Kayzerさんの 'フィルター・ペダル' ベスト10&恒例である2016年(去年)のベスト・ペダルTop 20!もう毎年やっているワケなんですが、2016年(去年)の選考は空間系やモジュレーション系のセレクトが多いですね。しかしこのKayzerさん、その年に現れるコンパクト・エフェクターは全て購入しているんじゃないか?ってくらい、あらゆる '新製品' を網羅しております。勝手な想像だけど、倉庫のような部屋にラックが置かれて大量のペダル類が箱入りで山積みされているんじゃないか、と。一度、拝見して圧倒されたいものです・・。



1960年代後半から始まった管楽器の電化ともいうべき 'アンプリファイ'。その中でもターニングポイントともいうべき 'アンプリファイ' したトランペットの重要作として、ドン・エリス1970年の 'Don Ellis At Fillmore' とマイルス・デイビス1972年の 'On The Corner'、ザ・ブレッカー・ブラザーズ1978年の 'Heavy Metal Be-Bop' と並び、ジョン・ハッセル1977年の 'Vernal Equinox' もその先駆作として挙げねばならないでしょう。この人工的な '電脳の楽園' ともいうべき架空のエキゾチシズムを醸し出すジョン・ハッセルの世界・・たまりませんね。

2017年1月4日水曜日

改稿: ホーンを毛羽立たせろ!

管楽器とはほとんど '犬猿の仲' ともいうべき '歪み系' のエフェクター。過去、わたしが初めてワウペダルと共に購入したのもIbanez TS-9 Tube Screamerだったのですが、この、ほとんどクランチなブースターともいうべき軽めな '歪み' でさえ難儀したものでした。ここ最近の傾向としては、いわゆるシンセサイザーを製作するメーカー、もしくはシンセ的発想で製作する独特なヤツが増えてきたことです。飽和する、歪む、潰れる、音量が増大する、ノイジーになる・・この '副産物' をいかに手懐けることができるのか。以前のゴチャゴチャした内容だった 'ホーンを毛羽立たせろ!' を再構成して、再びご紹介します。





Moog Minifooger MF Drive
Elektron Analog Drive PFX-1

シンセサイザーのメーカーながら 'Moogerfooger' シリーズでこの市場に認知させたMoog。その 'Minifooger' シリーズとして発売したMF Driveは、Moog初のローゲインな '歪み' として重要でしょう。エクスプレッション・ペダルを繋ぐことでワウ的なフィルターに変わるところがMoogらしいですね。そして、後発で遅ればせながら参入してきたのがスウェーデンのElektronによるAnalog Drive。もともと自社シンセに内蔵するエフェクターのプログラムには定評があり、ひと足お先にAnalog Heatという 'シンセ用' の歪みエフェクターを発売しましたが、まさかギター用の完全アナログな単体機まで発売するとは思わなかった。8つの '歪み' のプログラムを持ち、Clean Boost、Mid Boost、Dirty Drive、Big Dist.、Focussed Dist.、Harmonic Fuzz、High Gain、Thick Gainから3バンドのEQで音作りをしてプリセット、100個まで保存することが可能でMIDIにも対応しております。



Joemeek gb Q Guitar / Bass Processor

英国の伝統、アラン・ブラッドフォードの手により製作される数々のアウトボード機器で有名なJoemeekは、わたしも 'チャンネル・ストリップ' のThree Qを愛用しておりますが、ギター、ベース用の '歪み' としてこのgb Qを用意。ディストーションとお馴染み5バンドEQの 'Meequalize' を個別に組み合わせることで、独特なエンハンスともいうべき倍音生成が可能となります。インサート機能やDI、ヘッドフォン端子などライヴからレコーディングなどの環境にも幅広く対応しております。まだちゃんとしたデモ動画はありませんが、このローゲインな仕様は管楽器向きと言えるかも。







Dreadbox Square Tides - Square Wave Micro Synth
Dreadbox Kappa - 8 Step Sequencer + LFO
Electro-Harmonix Micro Synthesizer

こちらも同じく 'モジュラーシンセ' を得意とするギリシャのメーカー、Dreadboxですが、いわゆる 'ギターシンセ' な発想からオクターヴ・ファズ+フィルターのSquare Tides。別売りの8ステップ・シーケンサー+LFOのKappaと組み合わせることで歪んだリズム・シーケンスを不気味に奏でます。その本機のルーツ的存在なのがElectro-Harmonix Micro Synthesizer。上下のオクターヴにフィルターとエンヴェロープ・モディファイア、Square Waveなる '歪み' を混ぜることで擬似シンセへと変貌!わたしも過去、オリジナル同様の '復刻版' を使っていたことがあるのですが、さすが 'エレハモ' というべきエグいサウンドは健在です。個人的に深く探究する前に金欠で手放してしまったのが悔やまれますけど、その有名な存在の割に使いこなしているユーザーの少ない本機、挑んでみてはいかがでしょうか?



Beetronics
Beetronics Whoctahell
Beetronics Custom

さて、このようなオクターヴ下の出る 'オクターバー+ファズ'、今風の言い方をするなら 'ファミコン' の8ビット音源に由来する 'ロービット系ファズ' なのですが、Beetronicsなる新たなブランドから登場するWhoctahellは管楽器向きのかなり面白そうなヤツです。こちらはMXR Blue Boxあたりを 'ブラッシュアップ' して、オクターヴ・ファズのみならず単体のオクターバーとしても使える優れもの。もうひとつはOctavia系アッパー・オクターヴ・ファズのOctahive。面白いのは、エレクトリック・ギターの世界で一部のマニアに求められている 'レリック加工' というワザと使い古したような仕上げの新品があるのですが、それをエフェクターでやってしまっております。また、'Beetnics Custom' というシリーズでは1人1台の '一期一会' な完全カスタム仕上げでやってしまったこと。もちろん、そのこだわりは外観のみならず、中身の回路も社名の 'Bee' (蜂)にかけた蜂の巣状の基盤で仕上げております。米国の工房ですがその中身はイタリア人、外観はブラジル人が担当しているということで、明らかに日本の環境からは出てこないアーティスティックな仕上げですね!





Studio Electronics Wolftone Helium / Chaos
Malekko Wolftone Helium / chaos

こちらもシンセサイザーのメーカーとして有名なStudio Electronicsが 'Wolftone' の名で手がけた '飛び道具' 的歪みもの。設計者のTodd Wolfgramから取られた 'Wolftone' は、独特な 'シンセ・ファズ' ともいうべきHeliumとChaosの2機種を展開しましたが、特に名前通りのぶっ飛んだChaosは他では聴いたことのない感じですね。このユニークな2機種をそのままコンパクトなサイズにして '再発' したのがMalekko 'Wolftone' のもの。











Pigtronix Disnortion
Keeley Blue Box Stabilizer Mod.

とりあえず管楽器で使うとこんな感じ。やはりローゲインなオクターヴ系 '歪み' を用いるか、いわゆるギターシンセ風アプローチになってしまうか、という感じですね。歪ませたフィルターということならワウファズも有効ですがハウリングにはご注意を。しかし究極の '歪み' ってやっぱりアンプだよなあ、などとギタリストと同じ答えでスミマセンっ。さすがにAmpegのスタックアンプでここまで鳴らしまくるとマイクでは対応できず、やはりマウスピース・ピックアップの出番となります。ちなみにPigtronix Disnortionはすでに 'ディスコン' ではありますが、中古でもよく見かけるので手に取ってみてはいかがでしょうか?





Radial Engineering EXTC-SA
Pigtronix Keymaster

また、マイクからの出力をそのままエフェクターに突っ込んで上手くいかないのもこの '歪み系' の悩み。音が潰れしまうのはもちろん、一気にゲインレベルが上がってハウリングを誘発します。きちんとしたインピーダンス・マッチングとレベル合わせをするべく、マイクからの出力はそのままライン・ミキサーへ入力してバスアウトから再び出力、ここでラインレベルの中でコンパクト・エフェクターをインサートできる '逆DI' ともいうべき 'Reamp Box'、Radial Engineering EXTC-SAやPigtronix Keymasterらを用いて '歪み' をかけるとバランスを取ることができます。本機はTRSフォン及びXLRキャノン端子のバランス入出力を備えたアッテネーターで、ライン・ミキサーのバスアウトとチャンネルインの間に接続して下さい。





One Control Mosquite Blender
Moog Moogerfooger

さて、上記のラインレベルにおいて用いるほか、そのままでは '潰れてしまう' 原音と '歪み系' のバランスを取るべくループ・ブレンダーでミックスするのもコツですね。こちらはそのループ・ブレンダー、One Control Mosquite Blenderを用いてオーバードライヴ&リヴァーブとのミックスを試してみた動画。原音を確保した上で、エクスプレッション・ペダルを繋ぎミックス具合をコントロールすることができます。そのMosquite Blenderを用いたバリトン・サックスの動画の方は、Moog Moogerfooger MF-107のブレンド具合が見事ですね。ちなみに、このループ・ブレンダーでバランスを取ることを前提とするなら、金属質にピッチを狂わせるリング・モジュレーターを '歪み' として応用してみるのも面白いと思います。







Moody Sounds / Carlin Pedals
Moody Sounds Carlin Ring Modulator Clone
Electro-Harmonix Ring Thing
''飛び道具' の王様リング変調器'

そんなリング・モジュレーター、一昔前は完全に '過去の遺物' としてヴィンテージにありえないほどのプレミアが付けられておりましたが、現在は大手からガレージ工房に至るまでいろいろな選択肢が揃えられております。ここで注目したいのが1970年代にスウェーデンでニルスオロフ・カーリンが手がけた幻のメーカー、Carlin Pedalsのリング・モジュレーターをMoody Soundsの手により本人監修で復刻したことです。今やNordからElektron、ビヨルン・ヨールのBJFEなどで電子音楽機器のメッカとなったスウェーデンですけど、このリング・モジュレーターも世界でたった3台のみ製作された超レアもの。動画は '復刻版' ながらVol.ツマミ1つのヴィンテージ同様のもので、本機がユニークなのは2器のリング変調をミックスすべくMix AとMix Bの入出力が付いていること。コレ、実はリング変調の原点でして、ふたつの入力の和と差をマルチプライヤー(乗算器)という回路で掛け合わせることで、まったく別のトーンへと作り変えてくれるのです。本機での使用ならCarrier入力から別のオシレータを混ぜて出力、もしくはステレオ音源をそのまま入出力して変調、そして一番手っ取り早いのは、Mix Aの出力をCarrierにパッチングしてMix Bと変調させるという、コンパクト・エフェクターにして 'モジュラーシンセ' 風の使い方まで出来てしまうのです。逆に、通常のリング・モジュレーターに特徴的なフリケンシー・コントロールやトレモロなどは苦手ですね。現在の '復刻版' の仕様は、新たにMix AとMix Bの調整用ツマミが付けられてさらに使い勝手が良くなりました。いやあ、地味に面白い。ちなみに過去の記事ですが、上述リンク先の ''飛び道具' の王様リング変調器' も合わせてご参照下さいませ。







WMD Geiger Counter
WMD Geiger Counter Civilian Issue

さてさて、そんなローゲイン系 '歪み' からリング・モジュレーター的ハードなヤツ、擬似ギターシンセ風のぶっ飛んだ効果まで網羅したいというならもう、危険極まりないこれしかないでしょう、WMD Geiger Counter。マルチ・エフェクターの如く252種の波形を用意して、ツマミやスイッチの組み合わせからあらゆる '歪み' を生成するもの。いや、さすがに音作りは難しいという方には、波形を16種にして扱いやすくしたGeiger Counter Civilian Issueをご用意。そして開発者のWilliam Mathewsonにより 'Coming Soon' と期待させてくれるプロトタイプ機、Geiger Counter Proがアナウンスされているようです・・凄い。





Rainger FX Dr. Freakenstein Fuzz DrFF-3

音はもちろん、見た目の凄さという点ではこのRainger FXも負けていません。この英国のメーカーも奇妙な '飛び道具' ばかり製作しているのですが、フランケンシュタインならぬフリーケンシュタインということで、まさに電気ショックで目覚めよ!とばかりのカフ・スイッチが期待を裏切りませんね。音色的にはファズ+リング・モジュレーターといったブチブチする感じ。また、付属の小さな感圧センサー 'Igor' を踏むことでモジュレーションとフリケンシーをコントロールすることもできるという、かなりシンセ的発想に寄った一台。





Koma Elektronik BD-101 Analog Gate / Delay

こちらもリング・モジュレーターの変異系?いや、基本はアナログ・ディレイとゲートの複合機ながら、短いディレイタイムでもってフランジャーからリング・モジュレーター、ロービット系 '歪み' の効いたディレイまでパッチングして音作りのできる変わり種。Koma Elektronikは、ドイツでMoogerfooger同様に 'モジュラーセンセ' 的な発想をコンパクト・エフェクターに盛り込んだ新興メーカーで、10ステップの 'ランダム・アルペジエイター' を備えるフィルターFT-201と本機をメインとしております。足元のセンサーでロービット的ザラザラとするディレイタイムを変調できるのがユニーク。





Strymon Deco

また、ここまではローゲインなオクターヴ・ファズ、'ファミコン' 的なロービット・ファズ、オクターバー+ファズ、エンヴェロープ・フィルターを組み合わせた初期ギターシンセ、リング・モジュレーターとの複合機などを管楽器用の '歪み' としてセレクトしてみましたが、いわゆる '歪み' の原点として過大入力による飽和した歪み方、最近ではサチュレーションとかテープ・エミュレーターといった '滲む' 感じを好む層が増えております。これはStrymonがDSPテクノロジーとして 'アナログ・モデリング' したDecoを始め、今や、単なる '歪み系' エフェクターとは違う二次、三次倍音を付加して音色を太くする効果として見直されているのです。'アンプリファイ' なラッパの先駆者であるドン・エリスが、テープ・エコーの名機Maestro Echoplexでフィードバックさせて音色がサチュレーションする様子。上下の帯域が狭くなる代わりにざらついた '滲み' でミッドが持ち上がり、いわゆる 'テープ・コンプ' 的にもっちりした張り付いてくる質感となりますね。





世界最初のファズボックスが開発された当時、サックスの奏法に 'ファズトーン' というのがあるように、その音色の模倣としてあったのがチューバやホルン、サックスなどの管楽器でした。ワウペダルはトランペットのミュートに源を発しており、エフェクターの発想が管楽器から強くインスパイアを受けていたというのは興味深いところです。しかし、それは1960年代後半にロックという新たな革命を担う '音色' として、アンプを 'オーバードライブ' させると同時に飽和する '歪み' という志向へと一転します。そこでは、今度は逆に管楽器がピックアップとアンプを用いて、エレクトリック・ギターの模倣ともいうべき 'アンプリファイ' の可能性へと挑むことになるのだから面白いもの。是非ともホーンをビリビリとシビレさせて下さいませ!

2017年1月3日火曜日

Honey 〜 Shin-eiの伝説

電気楽器、エフェクターの黎明期において日本のある先駆的なメーカーの存在は、もっと大きく評価されても良いと思います。1970年代以降、海外に進出して世界的なメーカーへとのし上がっていったYamaha、Korg、Rolandを先取りしたこの小さな会社、Honey / Shin-ei Companionの商品開発と技術力は現在でも多くの 'ペダル・ジャンキー' たちを惹きつけます。





時はザ・ビートルズの来日公演に揺れ、その影響で全国に 'GSブーム' の巻き起こった1967年2月、東京都新宿で設立されたHoney。元Teiscoのスタッフにより独立したこの小さな会社は、エレクトリック・ギター、ベース、アンプ、マイクやPAシステムなどと共にエフェクター(当時はアタッチメントという呼称が一般的でした)の製造にも乗り出します。当時のロックを代表する 'アタッチメント' として話題となっていたファズは、Baby Cryingの名前で製品化、海外へもOEMのかたちで輸出されて '流行の東洋の神秘、Honeyの効果装置' のキャッチコピーで好評を得たそうです。他にもAce Tone、Royal、Guyatone、Voiceなどから登場し、1970年代に入ってからはMiranoやElkが後に続くようにファズを製作しました。上の動画は中尾ミエさんの 'GS歌謡' ともいうべき '恋のシャロック'で、Maestro FZ-1Aを 'パクッた' 国産ファズ第1号のAce Tone Fuzz Master FM-1でジ〜ジ〜と歪みまくり!また、当時の 'アングラ' を代表するバンド、ジャックスがGSバンドのザ・カーナビーツをカバーするとこんなガレージなアレンジに変身。ファズは瞬く間にこのようなポップスの市場にまで流行したのです。








高度経済成長期の真っ只中、多くの日本の会社は欧米の下請け企業としてOEMの輸出に勤しみ、Honeyも英国のRose-Morrisや米国の大手Unicordと提携、そこからさらに細かなブランドとして店頭に並びました。Shaftesbury、Uni-Vox、Appolo、National、Elektra、Jax、L.R.E.、Cromwell、Sam Ash、Sekova etc..。また、輸出のみならず国内では独立元のTeiscoやGrecoへも納入し、Idolという別ブランドでも販売するなど、とにかく 'GSブーム' と呼応するようにフル生産の状況であったことが伺えます。上の動画ではHoneyからShin-eiにかけてのファズやワウファズ、そして同時期のRoyal RF-1やGuyatone FS-3などと一緒に歪みまくっておりますが、実は中身がほとんど同じ回路基板ということで、これは新映電気がOEMで供給していたのかどうか、その謎は尽きません。またBaby Cryingは当時、Roger Mayerの手により開発され、ジミ・ヘンドリクスの使用で有名となったOctavioに先駆けたアッパー・オクターヴの効果を持っており、それはサイケデリックの時代、どこかシタールの音色にも例えられるほどユニークなものでした。1968年にはそのカタログも一挙に拡大、ファズに加えワウペダルのCrierはもちろん、テープやスプリング式ではないEcho Reverb ER-1P、ファズとオートワウ!を一緒にまとめてしまったようなSpecial Fuzz、ワウペダルとヴォリューム・ペダルに波(Surf)と風(Tornado)とサイレンの効果音!を発生させる '飛び道具'、Super Effect HA-9P、そして、いよいよ同社を世界的な名声へと押し上げる名機、Vibra ChorusとHoneyの集大成的 'マルチ・エフェクター' の元祖、Psychedelic Machineが登場します。



Honeyの持つ 'モジュレーション' 系エフェクトの技術とファズが '2 in 1'で合わさった文字通りのSpecial Fuzz。1970年代に入って一世を風靡することとなる 'ジェット・フェイザー' の元祖的存在ながら、そのモジュレーションはフェイズとも一味違うエンヴェロープ・フィルター的エグみのある独特なもの。当時、米国で起こっていたサイケデリックの洗礼を直接受けずにここまで麻薬的な効果を生み出す日本の好奇心、恐るべし。





Honeyの経営は当時の 'GSブーム' とほぼ比例しており、世間の 'エレキ禁止令' やそのブームの下火とリンクするように影響して、翌69年3月に会社はあっけなく倒産。それはHoneyだけに留まらず独立元のTeiscoやGuyatoneなども連なるように潰れてしまったことで、日本の電気楽器の興隆はここでひとつの幕を下ろしました。しかし、そのHoneyの開発、製造を請け負っていた新映電気がすべての業務を引き継ぎ、そのまま 'Shin-ei' として1970年代半ばまで続けることとなります。OEM業務もそのまま引き継ぎますが、新たに 'Companion' の名でも自社ブランドとして輸出し、また、Honey時代には無かったワウファズ、オクターバー、エンヴェロープ・フィルター、フェイズ・シフターもラインナップするなど、その旺盛な製品開発の勢いは特筆して良いと思いますね。1970年代初めといえば、海外ではElectro-HarmonixやMaestro、Colorsoundなどがようやく総合的な製品開発を始めた頃で、まだまだ世間的にはエフェクターといえばファズかワウ、という時代でした。上の動画は国産では珍しいエンヴェロープ・フィルター、MB-27 Mute Box。国産のRoland AG-5 Funny Cat、海外では1972年のMusitronics Mu-Tron Ⅲがエンヴェロープ・フィルター普及のきっかけと言われておりますが、早くも新映電気から単体の製品が発売されていたというのはただただ驚くばかり。完全にMu-Tron Ⅲを意識したと思しきMute Boxですが、さらにOEMのUni-Voxブランドでは見た目もまんま、Uni-Tron 5を製作。下の動画はMu-Tron Ⅲの '復刻版' との比較ですが、音痩せするとはいえ '本家' よりエグい効き方でイイですねえ。ともかくそのような状況で、当時、極東の小さな島国から上述するメーカーと比べても遜色ない製品が海外の市場に並んでいたという事実は、その後のYamahaやKorg、Rolandに見る '優秀な日本製品' の先鞭を付けたものと見てよいと思います。






さて、そんなHoney / Shin-ei Companionの製品群の中で同社を神格的な存在に押し上げたのがコーラス/ヴィブラート・ユニット、Vibra Chorusでしょう。1968年のカタログに17,900円の価格で載せられたこの '新製品' は、翌69年の倒産後から本格的な生産がフル稼動します。すでに全般的な業務は新映電気へと移っており、Unicord社への輸出用には 'Uni-Vibe' の名前が与えられて、それまでのVibra Chorusにはない新たな機能、モジュレーションのスピードをコントロールできるフット・ペダルが追加されておりました。そしてこの米国に輸出された最初期の一台を手にしたのが、あのジミ・ヘンドリクス。それまでのバンド、エクスペリエンスを解散して、新たな仲間と共に立ったウッドストックのステージで奏でるその独特なサイケデリックの効果は、世界に強烈な印象を刻み付けることに成功します。



Korg Nuvibe 1
Korg Nuvibe 2

開発、設計を担当したのは現Korgの監査役である三枝文夫氏。当時、フリーの技術者としてこの製品に携わっていたそうですが、この頃はまだ各社間の製品競争のようなものもなく、いろいろな技術者が交流しながら業界を盛り上げていたという '緩い' 時代だったそうです。三枝氏は翌70年に京王技研(Korg)に入社し、その後は国産初のシンセサイザーMini Korg 700を始め、現在も第一線で現場に立っておられる偉大なエンジニアでもあります。もちろん、三枝氏が携わったのは基本的な設計段階の部分においてであり、当時、この 'Uni-Vibe' がヘンドリクスに使われたことも知らなければ、Honeyや新映電気の '製品開発' の裏話などもほとんど記憶にないそうです。ただ、あの独特な筐体は秋葉原で買ってきた 'あり物' を流用したとか、'Uni-Vibe' の心臓部といえるフォトカプラー(CDS)は医療用の精度の高いもので、本郷の問屋でオーダーしてきた、という断片的なお話は最近開陳されておりました。そもそもこの、レスリー・スピーカーを電子的にシミュレートするという 'Vibra Chorus' の出発点となっているのは、実は日本で傍受できるモスクワ放送の 'フェーズ現象' をなんとか電気楽器として応用することはできないか?というところから始まっているそうです。現在、この 'Uni-Vibe' の効果は各社から多くの 'デッドコピー' が出回るくらい盛況なのですが、しかし、この心臓部であるフォトカプラー(CDS)は硫化カドミウムによる環境汚染対策として、電気製品に組み込むことが禁止されております。三枝氏が若いエンジニアと共に新たに設計した 'Nuvibe' は、デジタルではないトランジスタによるアナログ回路で起こした '新製品' として、まさに 'Vibra Chorus〜Uni-Vibe' の血統を受け継ぐものです。







こちらはHoneyの時代に製品化された 'マルチ・エフェクター' の元祖、Psychedelic Machine。その時代を先取ったネーミングのセンスもさることながら、当時のHoney / Shin-eiの技術力を結集したアッパー・オクターヴ・ファズ、コーラス&ヴィブラート、トレモロを堪能することができます。本機もまた海外へ輸出され、下の動画は、ちょうど69年のHoney倒産直後から新映電気により 'Companion' のブランドで輸出され始めた過渡期の貴重なもの。しかしこの本機の登場した1968年、エレクトリック・ギターに強烈なフェイズをかけるにはレスリー・スピーカーに通すか、スタジオのオープンリール・デッキを用いて、ADTと呼ばれる2台のテープの位相差から生じる 'テープ・フランジング' の加工に頼るしかなかったのですから、それを(当時としては)持ち運べる機器として開発してしまった日本の発想力と技術力は並大抵のことではありませんヨ。さて、Flash & The Dynamicsの 'Electric Latin Soul' は、いわゆるブーガルーのバンドとしてTicoからデビューし、サンタナに触発されたと思しきこのビリビリと感電したようなラテン・ロックを聴かせます。これはわたしの勝手な判断なのですが、たぶんPsychedelic Machineを使っているのではないかな、と。本作は1970年の作品で、Maestroが最初のフェイザーを発売するのは翌年であることを考えると、この強烈なフェイズのかかったファズはもう間違いないでしょう。





そして1970年代のShin-ei Companionの時代にはPM-14としてデザインを一新。また本機からコーラス(Duet)&ヴィブラート、トレモロの機能を抜き出して同じくデザインを一新したVibra Chorus SVC-1もJaxやCompanionのブランドで輸出、最終的にはResly Tone RT-18に行き着きます。もちろん、新たに登場したフェイザーの時代にも呼応すべく、ほとんどMaestro PS-1Aの 'パクり' といえるRM-29 Resly Machineやペダル・フェイザーのPS-33 Pedal Phase Shifterなどもラインナップ・・なのですが、会社の底力もここまでが限界。



1975年頃、これだけの製品開発、技術力を持ちながらまるで '神隠し' にでもあったように市場から消えてしまった新映電気。現在、この時代の詳しい事情を聞きたくてもその関係者含め一切現れず、三枝氏以外で倒産後、その他楽器会社に転職したであろう名乗りを上げる人も皆無です。小さいながらも日本の高度経済成長期を支えてきたこの昭和の謎、謎、謎・・興味深いですねえ。







Shin-ei
Jim Klacik Unique-Vibe
Heaven's Vibe
Watson Electronics Fuzz FY-2
Watson Electronics Fuzz FY-6

ちなみにこの 'Shin-ei'。なんと米国でRobert N. Feldmanという人物により、'Uni-Vibe' の 'デッドコピー' であるVibe-Broとそのロゴや当時の製品を入れる箱!まで含め、完全に?蘇りました。というか、コレって商標などの特許権とかどうなっているのかな?何でもこのFeldmanさんの 'ハニー&新映Love' な設立目的として "Honey / Shin-ei / Companionの歴史に敬意を払い、過去の名機を忠実に復刻することでブランドを守る" とのことで、これは過去のカタログを一挙に '復刻' するつもりなのでしょうか。そしてJim Klacikさんのは・・もうまんま過ぎ。ラック型など派生したレプリカも製作しているようです。さて 'Maid in Japan' からはマニアの手により完成したこれまた 'まんま' なヤツ、Heaven's Vibe。何でもオリジナル設計者の三枝文夫氏にも手渡し "よく出来てますねえ" とのお墨付きをもらったのだとか。この他、他社からもBaby Crying FuzzやCompanion FY-2 Fuzzなどがそのまま '復刻' されていたりするので、米国でも 'Uni-Vibe' 以外の同社製品は評価が高くなっているのかもしれません。しかしマニアの '熱量' って凄いですね。

2017年1月2日月曜日

'チャカポコ' とリズムボックス

1960年代後半、当時Gibsonのエフェクター・ブランドであったMaestroから奇妙なエフェクターが発売されました。Rhythm 'n Sound for Guitarと名付けられたそれは、いわゆる現在でいうところの 'マルチ・エフェクター+ドラム・マシーン' のはしりのような機種といえます。また、見た目からも分かる通り、これは管楽器用エフェクターSound System for Woodwindsの姉妹機でもあります。



こちらは初期のG-1でBass Drum、Bongo、Brush、Tam-bourine、Claveの5つのパーカッションを搭載。ドラム・マシーンというのはちょっと言い過ぎかもしれませんが、本機はギターの入力でトリガーするパーカッションの音源が内蔵された風変わりなものです。







こちらはG-1の後継機でG-2というモデル。G-2はG-1の5つのパーカッションから 'Bass Drum' を除いた4種類を搭載し、オクターバーとファズ、トレブル・ブースターを整理しております。そして、新たにエンヴェロープ・フィルターの 'Wow Wow' と 'Echo Repeat' なるトレモロを加え、より 'マルチ・エフェクター' 的色彩の濃いものとなりました。



音源自体は当時、Maestroが発売していたRhythm Kingというリズムボックスからのものが流用されており、現在の基準で見ればおおよそリアルな音源とは程遠いチープなものです。ちなみにこのRhythm Kingは、あのスライ・ストーンの名盤 '暴動' (There's A Riot Goin' On)で全面的にフィーチュアされるリズムボックスでもあります。単にホテルのラウンジ・バンドとして、オルガン奏者が伴奏に用いていたリズムボックスをこのようなかたちでファンクに応用するとは設計者はもちろん、誰も想像すらしなかったことでしょう。スライ本人はスタジオの片隅に捨て置かれていたコイツを見つけて、ひとりデモ用として都合が良いことから使い出したらしいですけどね。



I'm Just Like You: Sly's Stone Flower 1969 - 1970

スライ・ストーンが立ち上げたレーベル、Stone Flowerは1年のうちで僅か5枚のシングルをリリースして潰れてしまいましたが、そこにはスライの傑作 'Stand !' 〜 '暴動' に至るプリ・プロダクションの興味深い雛形を垣間見ることができます。2014年にその5枚のシングル盤と同レーベルに残された未発表デモ10曲をまとめたコンピレーション 'I'm Just Like You: Sly's Stone Flower 1969 - 1970' はまさに必聴!6ix、Joe Hicks、Little Sisterという若手を使いながら、このクールな 'リズムボックス・ファンク' をたっぷりと堪能して頂きたいですね。

話を戻して、Rhythm 'n Sound for Guitarの 'マルチ・エフェクター' の部分を見てみると、G-1はオクターバーにあたる 'String Bass'、'Fuzz Bass' にトーン・コントロールを司る 'Color Tone 1、2、3'の3種、そしてバッファー兼原音の役目となる 'Natural Amp' のスイッチが整然と並びます。一方、後継機G-2はこの部分がガラリと変わり、オクターバーは 'Fuzz Bass' が廃され 'String Bass' のみとなり、'Natural Amp' と 'Fuzz Tone'、そしてトーン・コントロールも 'Color Tone 1、2' の2種となった分、新たに 'Wow Wow' と 'Echo Repeat' が装備されました。特筆したいのは、1970年代初めの時点で 'Wow Wow' というエンヴェロープ・フィルターが早くも登場したこと。Wow Wow Speedのツマミ1つで設定するものですが、ちゃんとピッキングに追従してワウがかかります。'Echo Repeat' はその名前だけ聞くとエコーの効果を付加してくれるように思いますが、これはVoxのRepeat Percussion同様のトレモロでして、Echo Repeat Speedのツマミを遅くすることで 'ドッドッドッ' とエコー風に繰り返している印象を与えるものです。パーカッションやオクターバーはピッキングへの反応が鋭い分、うまく鳴らすにはコンプレッサーなどで入力を一定に抑えておいた方が良いでしょう。



Funky Skull / Melvin Jackson (Limelight)

これら音源は単にユニゾンで鳴るだけなので、現在の基準で効果的に用いるのはループ・サンプラーなどでオーバーダブしながら、多彩なサウンドを構築していく使い方がより効果的かもしれません、と思っていたら、やはりそのアイデアで巧みに操るユーザーが現れました。本機は晩年のジミ・ヘンドリクスも入手していろいろ試していたようで、またダブの巨匠、リー・ペリーのスタジオ 'Black Ark' にも本機が置かれている写真を見たことがあります。変わったところでは、エディ・ハリスのバンド・メンバーであるベーシスト、メルヴィン・ジャクソンのソロ作 'Funky Skull' (Limelight)で全編、ウッドベースへEchoplexと共に使用しております(ジャケットにも堂々登場)。このビヨ〜ンと伸びきったような 'Wow Wow' のかかるファズベースのとぼけた感じや、ベース・ランニングの後ろでチャカポコと鳴りまくるパーカッションのビザールな扱い方は、まさに本機ならではの効果・・なのですが、こちらも '視聴制限' がかけられているのでYoutubeの方でご視聴下さいませ。ちなみに作曲家の故・富田勲氏もMoogシンセサイザー直前のお仕事で、姉妹機のSound System for WoodwindsやLudwig Phase Ⅱ Synthesizerと共に本機をよく活用されていたそうです。











Shin-ei Companion 4 in the Floor

こちらは未だに謎というか、1960年代後半から70年代半ばにかけて、あの伝説の名機Uni-Vibeの開発、製造に携わった新映電気が(たぶん)輸出用に製造していた電気パーカッション、4 In The Floor Percussion Combo。たぶん、オルガン奏者が足で踏んで伴奏する為のものだったと想像しますが、その音色はほとんど 'シンセドラム'。後者の動画ではテルミン風のセンサーやエコー切り替えスイッチの 'モディファイ' を施しておりますが、まだまだ電気楽器やエフェクターの黎明期において、これほどの発想力と技術力を持った会社が日本に存在したという事実はもっと声高に叫んでも良いと思いますね。しかしこの時代、Korg初のアナログシンセMini Korg 700もそうだけど '木目調' ってのが流行していましたねえ。





Digitech Trio+

いまの時代、'Youtuber' のようなひとりでいろいろとパフォーマンスしてみようという人にはピッタリなアイテムではないでしょうか?入力する楽器の演奏からベースラインとドラム・パターンを生成してくれるという点で、まさに隔世の感がありますね。'リズム' に特化したマイナスワンというか、自在にテンポを合わせてくれる 'バックトラック' と、さらにループ・サンプラーを加えて独自にオーバーダブで構築できるなど、ホント良い時代になったものです。





Digitech SDrum - Strummable Drums
Digitech SDrum - Strummable Drums Review

こちらはそのTrio +をさらに進化させた 'インテリジェント・ドラムマシン' とでも言うべきもので、単なるカラオケからギターやベースの入力でリズム・パターンとソングを組み鳴らすことが出来る、リズムに特化した '簡易DAW' (言い過ぎ?)。おお、コレってまさにMaestro Rhythm 'n Sound for Guitarの進化系に当たる存在ではないでしょうか。本体上面には 'Kick' と 'Snarre' のパッドも備えており手で叩いて入力することも可能ですが、ギターやベースの低音弦をキック、高音弦をスネアに割り振って打ち込むことの可能な 'Beat Scratch' 機能も搭載。またJam Syncを用いて同社のループ・サンプラーであるJamMan Delayとの同期も可能です。これでますます '一人遊び' というか、バンドなくても作曲からパフォーマンスまで可能ですね。





Taal Tarang Digital Tabla Machine
Radel Taalmala digi-100 Plus

ちなみにリズムボックスは何も欧米の音楽シーンばかりが全てではないということで、インドの民俗楽器タブラを機械的に奏でるタブラ・マシーンの登場です。そもそもはシタールの伴奏及び練習用として製品化されたもので、MIDI同期もできるRadel社のものが有名ですね。ここでは最近デザインを一新したコンパクトなTaal Tarang Digitalをどーぞ(動画は旧製品だけど)。ターラというインドの複雑な変拍子をカウントする表示があるのは便利。また本機のプログラム機能をメチャクチャに設定することで、わざと機械の暴走した 'バグらせる' 感じから 'グリッチ' 風エレクトロニカな効果を生成。伝統的なラーガの勉強も良いですが、こういう 'ガジェット' を無国籍的に使ってみるのも面白い。

もう、バンドのメンバー募集もいらなければ、音楽性の違いなどメンバー間で揉めることもない・・ただ、ひたすら文句も言わずあなたのお傍に仕えてくれるリズムボックス。コンピュータを持ち込んでオケを流しながら演奏するのも良いですが、こんな一風変わった 'リズム・セクション' と管楽器だけでステージに立つというのも面白いかもしれません。

2017年1月1日日曜日

あけまして 'モーグ'

2017年、あけましておめでとうございます。

とある世代、そのまたとある世代にとってこの大仰な '箪笥' 状の物体は羨望の眼差しにより神棚へと祭り上げられております。ただし、その頃から変わらないのは、Moogがこの '前世紀的遺物' を今も変わらず手の届かない価格で55台の限定販売したことです。日本で最初に輸入した作曲家、故・富田勲氏のMoog Ⅲ-P、それを富田氏の弟子で後に独立、YMOのマニピュレータとして名を馳せた松武秀樹氏所有のMoog Ⅲ-Cは '木枠' の入ったコンソール・タイプで、オシレータの精度が向上したもの。そしてこのSystem 55は1974年に三度目の改良を施された 'Moogモジュラーシンセ' の完成型といえるものです。



Moog System 55 Modular Analog Synthesizer

いわゆる 'EXPO大阪万博' の世代とプログレッシヴ・ロックの洗礼、故・富田勲氏による 'Tomita Sound' のオーケストレイションから1970年代後半に日本で爆発的人気となったYMOことイエロー・マジック・オーケストラに至る一連の流れは、Moogに高い地位と評価を現在まで与え続けてきました。現代音楽家に愛されたBuchla、ジャズの即興演奏家に愛されたArp、'プログレ' に愛されたEMS・・これらを統合するかたちで直感的な操作性と音作りの幅広さの頂点にあったのがMoogシンセサイザーではないかと思います。







やはり、エドガー・フローゼを中心とするタンジェリン・ドリームの登場は 'プログレ' とMoogシンセ、その後のテクノ興隆の出発点として重要だったのではないでしょうか。このヒプノティックな反復するシーケンスの魔力は、タンジェリン・ドリームを脱退してソロとなったクラウス・シュルツェにまで連綿と受け継がれております。しかし、アナログシンセのマニアにはたまらないMoog、Arp、EMS・・圧倒的な物量の山!





1960年代後半、意外にもMoogシンセサイザーに食い付いたのはエミル・リチャーズやディック・ハイマンといったジャズの奏者たちでした。いわゆる 'コマーシャル・ミュージック' の体裁を借りながら、当時、最も先端的なかたちでエレクトロニクスと格闘していたという事実は、単にエレクトロニク・ミュージックや 'モンド・ミュージック' 的視点でのみ、語られているのは惜しいと思います。これは、彼らよりシリアスな視点に立ち、アネット・ピーコックとArpシンセサイザーを用いて前衛的表現を追求したポール・ブレイにしても同様でしょう。マイルス・デイビスが 'Bitches Brew' で '転向' したと大騒ぎになった当時のジャズ界にあって、むしろ、もっとその先を行っていた彼らの仕事は未だ 'キワモノ' の領域から出ないままです。





これら初期のMoogシンセサイザーのマニピュレーターとして活躍したのがポール・ビーヴァーとバーナード・クラウゼのコンビ。上記のエミル・リチャーズや映画 '白昼の幻想' のサウンドトラック、ザ・ビートルズのジョージ・ハリスンが自ら買い上げたMoogシンセを用いてAppleに吹き込んだソロ作 '電子音楽の世界' などに携わり、また、現代音楽専門のレーベル、LimelightからはMoogシンセのガイド的アルバム 'The Nonesuch Guide to Electronic Music' を発表して、得体の知れなかったシンセサイザー普及に一役買いました。ちなみに、上記ディック・ハイマンのアルバムには当時、Moog相談所の所長であったウォルター・シーアが携わっております。



Moog Mother-32 Semi-Modular Analog Synthesizer

そんなクソ高いMoogなんか買えるかよ!って声は当然にあるでしょうから、そのモジュラーシンセに憧れる層へアピールするのがこのMother-32。こちらは現在盛り上がっている 'ユーロラック・モジュラー' の世代と互換性を持った拡張性を有しており、しかも実売7万ちょっとで買えちゃうんですヨ、この '木枠' が!しかし、部屋にあったらいつでも触りたくなるような魅力がこのモジュラーシンセにはありますねえ。





Moog Moogerfooger

え、わたしですか?・・ええ、今は 'Moogerfooger' シリーズが精一杯でございます。ハマったら散財だ、という気持ちで常に恐ろしいのがこのモジュラーシンセの世界。まあ個人的には、その日によって 'ご機嫌斜め' になったり定期的にメンテの必要なアナログシンセは、いろいろと手間暇かかりそうで買うのをためらっちゃうんですケドね。それでも究極の趣味にして究極の 'ガジェット'、その頂点にあるのがMoogモジュラーシンセサイザーであることは間違いないでしょう。





ああ、壁一面にこの巨大な '箪笥' を敷き詰めて、真冬でも暖房要らずの '機材熱' で常夏の気分を味わってみたいなあ。その電子的な亜熱帯サウンドの先鞭といえるエキゾティック・サウンドの大家、マーティン・デニーの 'Exotic Moog' は、そのままYMOの 'Firecracker' へと見事に引き継がれていくのでした。