2000年を境に音楽を巡る環境は大きく変化し、CDにとって代わるようにAppleのデジタル音楽配信 ‘iTunes Music Store’ が登場して、事実上の音楽流通における市場は ‘終焉’。コンドーさんも、ビル・ラズウェルを中心としたユニットの ‘Method of Defiance’ や、フリー・ジャズの重鎮ペーター・ブロッツマンとの ‘Die Like A Dog Quartet’ との活動を ‘自家発電’ の合間に行いながら、そのような音楽シーンの変化を虎視眈々と睨んでいた節があります。それは、’ベッドルーム・テクノ’ の勢いが2000年以降、特別新たなシーンなりムーヴメントを起こしてはいないこととも関係し、世界的な ‘音楽不況’ と言われる2000年以降に制作した音源がかなりの量を貯めていたことからも伺えます。つまりそれは、今までにあった ‘シーン’ という現場と呼応する市場原理が成り立たなくなった2000年代の10年間を象徴しており、インターネットを中心に価値観が分散化した集落のように個別の共有圏だけを囲い込み、‘共通体験’ として得る知識に対しては閉ざす方向へ向かっている現在の状況を的確に示しています。コンドーさんは、音楽業界がジリ貧になっている今だからこそ、今後はひとりひとりの ‘自営業化’ が進むことで、どのように自分の音楽をプレゼンテーションするかが重要だと力説しています。2015年に久しぶりの新作 ‘You Don’t Know What Love Is’ で、それまでのコンドーさんのイメージから180度転向したような ‘ジャズ・スタンダード’ 集という体裁を取りながら、しかし、本質としては20世紀の古典ともいうべきメロディの髄をいかにテクノロジーで乗り越えていくかをテーマとしています。コンドーさん曰く "今回のアルバムでも俺は闘っているよ" とのことで、決して聴きやすいイージー・リスニング的アプローチにはなっていません。’Charged’ に続いてコラボレーションをするエラルド・ベルノッチも、バラッドというロマンティックな ‘色気’ に対するイタリア人の感性を期待して招集したそうです。さらに、過去15年ほどの間に溜まっていた音源の数々は ‘Toshinori Kondo Recordings’ という会員制のデジタル配信で随時Upしています。そして、長らく活動の拠点であったアムステルダムのスタジオを引き払い、川崎市登戸で ‘近藤音体研究所’ なるプライベート・スタジオを開いて ‘自家発電’ に勤しむコンドーさん。すでに還暦を過ぎながらも、そこから発信する情報はまだまだアグレッシヴで尖っています。
コンドーさんといえば、やはり ‘アンプリファイ’ したトランペットのサウンド・システムですね。"家一軒立つほどの投資をした" という言葉もあながちウソではなく、とにかく頻繁に機材を入れ替えては組み合わせを研究しているようです。最近の足元としては、Digitech Whammy WH-1、Fulltone OCD、Maxon AF-9 Auto Filter、Lehle Julian
Parametric Boost、RMC 4 Picture Wahが飾っています。Whammyはコンドーさんのトレードマークともいうべきサウンドで、歴代のシリーズをヴァージョンアップごとに使い続けながら、最近は初代のWH-1に戻ったりしています。OCDはディストーションですが面白いチョイスですね。昔からコンドーさんはクランチなトーンをトランペットで試みており、1990年代初めにはCustom Audio Amplifiers 3+SE Tube Preampというノーマルとクランチとディストーションの3チャンネル真空管プリアンプをラックに入れていました。このOCDのツマミをみると、やはり歪み量は少ないクランチな設定にしてあるのが分かります。そしてエンヴェロープ・フィルターもこだわっており、このAF-9のほかに、Emma DiscumBOBlatorやMenatone The Mail Bombなどのハンドメイド系も試していた時期があります。また新たなデバイスとして、3バンドのパラメトリックEQを備えたLehleのブースターを置いているのは興味深いです。ワウペダルはRMCのPicture Wahで、ネーミングからも分かる通りあのVox The Clyde McCoyを現代的に再現したもの。以前はFulltone Clyde Wahという同種のものを試していましたが、一方でスイッチレスの光学式や紐でペダルを動かすワウを使っていた時期もあり、Morley Bad Horsie 2やMusician Sound
Design Silver Machineなども使用。モジュレーション系は珍しく手を出さないのかと思いきや、一時Fulltone Chorulflangeが置いてありましたね。
さて、空間系の方は一貫して高品位なラック・タイプを使うのがコンドーさんの好みのようです。すべてがCustom Audio Japan Custom Mixerにパラレルで接続され、ステレオで出力できるようになっています。以前は1UサイズのCustom Audio Electronics Dual / Stereo Line Mixerを、Lexicon PCM42やTC Electronic G Forceなどのディレイやリヴァーブで用いていましたが、最近は3Uのラックで持ち運びしやすくなっています。他に、コンパクト・タイプのLine 6 DL4 Delay ModelerやEventide Timefactor、Hardwire RV-7 Reverbなどの空間系、そしてハーモニー系のマルチであるEventide
Pitchfactorをミキサーに繋いで試していた時期もありましたが、現在ではLine 6 Echo ProとEventide Spaceでほぼ固まっています。と思ったら、最近の近況を写した画像や動画を見ると、Boss SY-300やKorg Delay Labなど頻繁に入れ替えて試しているようです。この他、ピックアップ・マイク用のプリアンプとカラオケ再生用のDSDレコーダーKorg MR-2000Sがラックに入っています。マイク・プリアンプもコンドーさんにとってこだわりのデバイスであり、長いこと2チャンネルの真空管プリアンプAlembic F-2Bを、マウスピース・ピックアップとベル側のコンデンサー・マイクでミックスする使い方をしていました。その後、マウスピース・ピックアップを変更すると同時にルパート・ニーヴがデザインしたPortico 5032やAPI のChannel Stripなどを経て、現在はPhoenix Audio DRS Q4M Mk.Ⅱに落ち着いています。どうやらコンドーさんはNeveの持つプリアンプの質感が好みのようですね。
→DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063
そして、近藤さんこだわりのマウスピース・ピックアップ。1979年のニューヨークで必要に迫られてマウスピースに穴を開けたようですが、1990年代後半まではBarcus-berry 1374を用いて、その後から2007年頃まで同社のエレクトレット・コンデンサー・ピックアップ6001に変更、そして、DPAの無指向性ミニチュア・マイクロフォンSC4060が現在のマウスピースに収まっています。代理店の説明では4種類の感度を持つマイクが揃えられており、コンドーさんが採用しているのはこちら 'SC4062(超低感度 : 154dB SPL ドラムやトランペットなど音量・音圧の大きい楽器などに最適)' ではないかと思われます。製作にあたっての 'レシピ' として、この2007年のインタビュー記事を抜粋してみましょう。
"今年を振り返ってみると、いくつかよかったことの一つが、トランペットのマウスピースの中に埋めるマイクをオリジナルに作ったんだ。それが良かったな。ずっとバーカスベリーってメーカーのヤツを使ってたんだけど、それはもう何年も前から製造中止になってて、二つ持ってるからまだまだ大丈夫だと思ってたんだけど、今年の4月頃だったかな、ふと「ヤベえな」と、この二つとも壊れたらどうするんだ、と思って。なおかつ、バーカスのをずっと使ってても、なんか気に入らないんだよ。自分で多少の改良は加えてたんだけど、それでも、これ以上いくらオレががんばっても電気トランペットの音質は変えられないな、と。ピックアップのマイクを変えるしかない、と。それで、まずエンジニアのエンドウ君に電話して、「エンちゃん、最近、コンデンサーマイクで、小さくて高性能なヤツ出てない?」って訊いたら、「コンドーさん、最近いいの出てますよ。デンマークのDPAってメーカーが、直径5.5ミリのコンデンサーマイクを作ってて、すごくいいですよ」って言うんで、すぐそれをゲットして。
それをマウスピースに埋めるにしても、水を防ぐことと、息の風を防ぐ仕掛けが要るわけだ。今度は、新大久保にあるグローバルって楽器屋の金管楽器の技術者のウエダ君に連絡して、「このソケットを旋盤で作ってくれないかな」ってお願いして、旋盤で何種類も削らして。4ヶ月ぐらいかけてね。で、ソケットができても、今言ったように防水と風防として、何か幕を張ってシールドしないといけないわけだ。それをプラスチックでやるのか、セロファンでやるのか、ポリプロピレンでやるのか。自分で接着剤と6ミリのポンチ買ってきて、ここ(スタジオ)で切って、接着剤で貼り付けて、プーッと吹いてみて、「ダメだ」また貼り付けて、また「良くねーなぁ」って延々やってね(笑)。で、ポリプロピレンのあるヤツが一番良かったんだ。そうすると今度は、ポリプロピレンを接着できる接着剤って少ないんだよ。だから東急ハンズに行って、2種類買ってきたら一つは役に立たなくて、もう一つの方がなんとかくっつきが良くてね。その新しいピックアップのチューニングが良くなってきたのは、ごく最近なんだけどね。音質もだいぶ変わってきた。音質が変わると、自分も吹きやすくなるからね。"
ポリプロピレンのスクリーンに着脱式のマイクなど、Barcus-berry 6001の構造をそのまま踏襲しているようですね。コンドー・プロデュースでコレ、発売しませんか?
→DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063
そして、近藤さんこだわりのマウスピース・ピックアップ。1979年のニューヨークで必要に迫られてマウスピースに穴を開けたようですが、1990年代後半まではBarcus-berry 1374を用いて、その後から2007年頃まで同社のエレクトレット・コンデンサー・ピックアップ6001に変更、そして、DPAの無指向性ミニチュア・マイクロフォンSC4060が現在のマウスピースに収まっています。代理店の説明では4種類の感度を持つマイクが揃えられており、コンドーさんが採用しているのはこちら 'SC4062(超低感度 : 154dB SPL ドラムやトランペットなど音量・音圧の大きい楽器などに最適)' ではないかと思われます。製作にあたっての 'レシピ' として、この2007年のインタビュー記事を抜粋してみましょう。
"今年を振り返ってみると、いくつかよかったことの一つが、トランペットのマウスピースの中に埋めるマイクをオリジナルに作ったんだ。それが良かったな。ずっとバーカスベリーってメーカーのヤツを使ってたんだけど、それはもう何年も前から製造中止になってて、二つ持ってるからまだまだ大丈夫だと思ってたんだけど、今年の4月頃だったかな、ふと「ヤベえな」と、この二つとも壊れたらどうするんだ、と思って。なおかつ、バーカスのをずっと使ってても、なんか気に入らないんだよ。自分で多少の改良は加えてたんだけど、それでも、これ以上いくらオレががんばっても電気トランペットの音質は変えられないな、と。ピックアップのマイクを変えるしかない、と。それで、まずエンジニアのエンドウ君に電話して、「エンちゃん、最近、コンデンサーマイクで、小さくて高性能なヤツ出てない?」って訊いたら、「コンドーさん、最近いいの出てますよ。デンマークのDPAってメーカーが、直径5.5ミリのコンデンサーマイクを作ってて、すごくいいですよ」って言うんで、すぐそれをゲットして。
それをマウスピースに埋めるにしても、水を防ぐことと、息の風を防ぐ仕掛けが要るわけだ。今度は、新大久保にあるグローバルって楽器屋の金管楽器の技術者のウエダ君に連絡して、「このソケットを旋盤で作ってくれないかな」ってお願いして、旋盤で何種類も削らして。4ヶ月ぐらいかけてね。で、ソケットができても、今言ったように防水と風防として、何か幕を張ってシールドしないといけないわけだ。それをプラスチックでやるのか、セロファンでやるのか、ポリプロピレンでやるのか。自分で接着剤と6ミリのポンチ買ってきて、ここ(スタジオ)で切って、接着剤で貼り付けて、プーッと吹いてみて、「ダメだ」また貼り付けて、また「良くねーなぁ」って延々やってね(笑)。で、ポリプロピレンのあるヤツが一番良かったんだ。そうすると今度は、ポリプロピレンを接着できる接着剤って少ないんだよ。だから東急ハンズに行って、2種類買ってきたら一つは役に立たなくて、もう一つの方がなんとかくっつきが良くてね。その新しいピックアップのチューニングが良くなってきたのは、ごく最近なんだけどね。音質もだいぶ変わってきた。音質が変わると、自分も吹きやすくなるからね。"
ポリプロピレンのスクリーンに着脱式のマイクなど、Barcus-berry 6001の構造をそのまま踏襲しているようですね。コンドー・プロデュースでコレ、発売しませんか?
↑22:50から動画が始まります。
ふぅ〜、その存在も物量にかける情熱ももの凄い人だ。
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