管楽器を ‘アンプリファイ’ する上で、エレクトリック・ギター用のエフェクターを流用するのは必須ですが、その中でもオクターバーほど管楽器と縁の深いエフェクターはないと思います。そもそも管楽器が ‘アンプリファイ’ された1960年代後半、メーカーから最初に管楽器用エフェクターとして発売されたのがオクターバーなのです。基本、単音楽器である管楽器にとって、ひとりで二重奏のできる効果はとても便利なものでした。
●Selmer (Electro Voice) Varitone
●Conn (Jordan Electronics) Multivider
●King (Vox) Ampliphonic
●Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds
●Hammond / Innovex Condor RSM
このような 'アンプリファイ' 化とエフェクターの多用は大体、1970年代初めにはひとつの市場を形成し、それはフュージョンやR&B、プログレッシヴ・ロックの分野でアンプを用いる管楽器奏者に重宝されるところからも明らかです。どれも、現在の基準から見ると ‘装置’ と呼ぶに相応しい大柄なものながら、そのサイズに比して機能は単調なものでした。そういえば、日本のAce ToneからもVaritoneをまんまパクったようなMultivoxという管楽器用エフェクターが発売され、日野皓正さんも1969年3月の東京サンケイ・ホールでのワンマン・コンサート、同年6月の内藤忠行プロデュースによる "日野皓正のジャズとエレクトロ・ヴィジョン Hi-Nolosy" というイベントによる映像とのコラボレーションや70年万博のステージで用いていましたね。それからはや40年以上経った現在、手のひらに乗るサイズの機器から、単音のみならず和音で、下はもちろん上の音域を3オクターヴ近くまで、または指定したコードに合わせて ‘ハモって’ くれるピッチ・シフターが当たり前の時代となりました。それでもアナログ回路によるオクターバーの、どこか不器用で ‘肉食的な’ ブワッとしたかかり方は唯一無二で恋しくなります。それでは以下、特別参考にはなりませんが、これまで試してきた 'アナログ' オクターバーについて記憶を辿りながらレビューしてみたいと思います。
●Boss OC-2 Octave
オクターバーといえば、必ずといっていいほど挙がる定番機。ソツなく、ちゃんとオクターバーとしての仕事を果たしてくれる安心の一台。だたし、2オクターヴ下は使う用途・・ほとんどないな。ちなみに、基本はDC9VによるPSA電源ですが、初期のものにACA電源の仕様があるので注意されたし。イケベ楽器や石橋楽器、デジマート、ハードオフなどの中古で探してみれば安価で程度の良いものが見つかると思います。
●Pearl Octave OC-07
Bossの ‘定番’ に満足できなくなり、へそ曲がり的にマニアックなヤツを探すと出てくるのがこのPearl。某有名ギタリストが使っていたことで一時高騰したこともありましたが、何よりユニークなのは、アッパー・オクターヴも出せることです。実際、何となくかすかに出ているかな〜?くらいの感じですが、コレはコレとしての個性があります。音色としては、個人的にちょっとコンプっぽい詰まった感じが気になりました。
●Musitronics Mu-tron Octave Divider
ヴィンテージ・エフェクターです。実用的ながら、そもそもコレクターズ・アイテム色の強いMu-tronですが、コイツは機能的にもとても優秀なオクターバーなのだ。まず、何と言っても下品にならず、どこまでも音楽的に ‘ちょうどいい’ 具合でかかってくれます。実は、わたしが現在使用しているKorgのOctaver OCT-1は、ちょっとコイツと似たかかり具合だな、と感じましたね。また、コイツには謎のスイッチ ‘Stabilize’ というのがありますが、オンにしたからといって特別何かが起きるワケではありません。たぶん、オクターバーのかかりを安定させるコンプ的機能ではないでしょうか。そして ‘Ringer’ スイッチは、ちょっとアッパー・オクターヴっぽい感じ?ともかく今なら6万超え確実の ‘レアな’ 逸品です。ちなみに、オリジナル設計者のマイク・ビーゲル氏が若干の現代風リメイクによる '復刻版'を自らの会社Mu-FXから発売しました。
●Korg Octaver OCT-1
現在わたしの足元で使用中。そもそもはYamahaが1980年代初めに発売したエフェクターボード・システムのモジュールOctaver OC-01というヤツを、KorgがOEMで製造していたことが出発点になります。自動追従コンパレータという機能を有し、当時のオクターバーとしてはBossと並び高性能で、このOCT-1は後にKorgから発売されたもの。OC-01が専用のモジュールに組み込んで電源を供給する仕様だったのに対し、このOCT-1は通常のDC9Vアダプターで供給できるのが便利です。ピックアップとの極性を合わせてオクターヴのかかり方を調整するPolarityスイッチもありますが、イマイチその効果のほどは分かりません。
●Shin-ei Octave Box OB-28
幻の国産メーカー、新映電気のオクターバーです。一時期、どういうルートなのかは不明でしたが、市場にコイツのデッドストック品がかなりの数出回ったことがありました。わたしもその流れで2回ほど買い直しましたが、まあ、基本的には下品なかかりのオクターバーですね。Maestro辺りの製品をコピーしたのかと思いきや、当時の国産品に共通するエグい個性があります。この時代の製品にしては珍しく、原音+エフェクト音、エフェクト音のみをスイッチで切り替えることができ、またノイズもほとんど気にならないレベルでした。しかし、2オクターヴ上くらいの音域になると追従性がかなり落ちてくるのが悲しい(まあ、コレはアナログ・オクターバー全般に言えるんですが)。
●Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds W-2
1960年代後半、GibsonがMaestroのブランドで発売した管楽器用のオクターバーです。とにかくこの重量級のカラフルなデザイン、バツッと手で操作する整然と並んだ大きいスイッチと ’レトロ・フューチャー’ な気分が味わえるだけで満足。機能的にはプリアンプとトレブル・トーン、そして各種管楽器の音色を ‘模倣’ できるオクターヴ・トーンにファズ、トレモロを装備しています。ちなみにW-3になると専用のフット・スイッチで切り替える仕様が付加します。わたしは一時2台所有していましたが、コイツの素晴らしいところにプリアンプの音質があり、一時は管楽器だけでなくサンプラーやシンセなど、ステレオで何にでもコイツに通していたほど極上のトーンを備えていました。たぶん、ヴィンテージ故の内蔵されているトランスの設計が良いのでしょう。
●Guyatone MOm5 Micro Octaver
今は無きグヤトーンが最後に ‘頑張ってみた’ Mighty Microシリーズのオクターバー。独自設計のスイッチ含め、それまでの安価なイメージから脱しようと本格的にラインナップしたエフェクターでしたが、残念ながらコイツは全然ダメでした。入力の感度調整を個別にいじれるツマミがあるのにもかかわらず、まったくオクターバーとしてコントロール不能!壊れていたのかな?それともラッパでは不向きなヤツだったのかな?
●MXR M103 Blue Box
正確にはオクターヴ・ファズです。そのためクリーンなオクターヴ音ではなく、ファミコンっぽいブチブチする安っぽいオクターヴ・ファズで、完全に ‘飛び道具’ としての用途専用機ですね。アウトプットのレベルが低いので、わたしはガレージ・メーカーのRoot 20に依頼して、ブースターの機能とトゥルーバイパス、青色LEDのモディファイをして頂きました。
現在、市場でオクターバーと呼ばれている製品はBoss OC-3 Super Octaveを始めとして、いわゆるデジタル回路により ‘アナログ・モデリング’ しているものが主流です。アナログでの現行品はElectro-Harmonix Octave Multiplexerや、復刻したMu-FX Octave Dividerくらいだと思います。また、オクターバーとピッチ・シフターの '美味しい' ところを狙ってヒットしたElectro-Harmonix
Micro POGやPOG 2などは、結構足下に置いているユーザーも多いのではないでしょうか。'アナログ・モデリング' のオクターバーは和音にも対応し、上下のオクターヴも問題なく出力することができる賢いヤツです。また、ヴォーカル用のマルチ・エフェクターながら管楽器奏者にもウケたBoss VE-20などは、手軽にマイクを繋いでハモら せることを可能としました。一方、ピッチ・シフターでやるオクターバーはどこか味気のない音色で、微妙にレイテンシーのある発音の遅れからストレスも大きかったりします。このオクターバーを管楽器で鳴らした場合に共通するのは、ピッチの 'ツボ' が広いことからくる追従性のエラーによる不安定さ、音域によりまったくオクターヴ音が鳴ってくれなかったりという演奏上の難しさがありますね。
→Electro-Harmonix Pitch Fork
それでも最近のピッチ・シフターは性能も良いようで、こういう動画を見せられてしまうと簡単に揺らいでしまうのも新しもの好きなラッパ吹きの性です。これはElectro-HarmonixのPitch Forkなんですが、面白いくらいに追従してくれますねえ。この方、なんとSelmer Varitoneのマウスピース・ピックアップを所有されているようで、さらにエフェクトのかかりが良いです。ちなみにエクスプレッション・ペダルを接続できるので、"Whammyがデカ過ぎて邪魔なんだけど・・" っていう人は十分乗り換え可能な優れものですヨ。そんなDigitech Whammyも今や管楽器奏者に定番な‘飛び道具’ 的ピッチ・シフターであり、単純にアナログVSデジタルと分けて優劣をつけることはできません。そして、この辺の派生型としていわゆる ‘ギター・シンセサイザー’ と呼ばれるものもあり、古くはKorg X-911やElectro-Harmonix Micro Synthsizer、最近ではBoss SY-300やElectro-Harmonix HOG 2、Pigtronix Mothershipなど、より多彩なオクターバーとして試してみるのもアリでしょう。もちろん、基本はマイクの入力感度に対してシビアに反応するエフェクターなので、例えば以前ご紹介したRadial Engineering Voco Locoを用いてキチンとインピーダンスを取る、マイク入力に適したオクターヴ機能の持つヴォーカル用エフェクターを使ってみる、マイクの周波数帯域のどのあたりで '美味しく' 拾ってくれるかなど、いろいろ楽器との相性をチェックして初めて使えるものだと思います。
→Electro-Harmonix Pitch Fork
それでも最近のピッチ・シフターは性能も良いようで、こういう動画を見せられてしまうと簡単に揺らいでしまうのも新しもの好きなラッパ吹きの性です。これはElectro-HarmonixのPitch Forkなんですが、面白いくらいに追従してくれますねえ。この方、なんとSelmer Varitoneのマウスピース・ピックアップを所有されているようで、さらにエフェクトのかかりが良いです。ちなみにエクスプレッション・ペダルを接続できるので、"Whammyがデカ過ぎて邪魔なんだけど・・" っていう人は十分乗り換え可能な優れものですヨ。そんなDigitech Whammyも今や管楽器奏者に定番な‘飛び道具’ 的ピッチ・シフターであり、単純にアナログVSデジタルと分けて優劣をつけることはできません。そして、この辺の派生型としていわゆる ‘ギター・シンセサイザー’ と呼ばれるものもあり、古くはKorg X-911やElectro-Harmonix Micro Synthsizer、最近ではBoss SY-300やElectro-Harmonix HOG 2、Pigtronix Mothershipなど、より多彩なオクターバーとして試してみるのもアリでしょう。もちろん、基本はマイクの入力感度に対してシビアに反応するエフェクターなので、例えば以前ご紹介したRadial Engineering Voco Locoを用いてキチンとインピーダンスを取る、マイク入力に適したオクターヴ機能の持つヴォーカル用エフェクターを使ってみる、マイクの周波数帯域のどのあたりで '美味しく' 拾ってくれるかなど、いろいろ楽器との相性をチェックして初めて使えるものだと思います。
→Conn Multivider 1
→Conn Multivider 2
→King Ampliphonic
→King Ampliphonic Octa-Voice
→King Ampliphonic Stereo Multi-Voice
ConnがJordan Electronicsと共同開発したMultividerは、リー・コニッツやトム・スコット、ラスティ・ブライアント、ドン・エリスらが使用しました。そしてKing / VoxによるAmpliphonicのOcta-Voiceとその最高級機Stereo Multi-Voice。なんだか一気にレトロな気分になってきたので '温故知新' ついでに、古の 'オクターヴ発生器' である 'アンプリファイ' 黎明期のエフェクター・システムによるデモ動画をどうぞ。
→Maestro Sound System for Woodwinds
当時、このようなアイテムに飛び付いたのはR&B志向のサックス奏者が多かったのですが、最も意外だったのは、クール・ジャズにしてトリスターノ派の高弟、リー・コニッツが時代の熱気に押されてアプローチしたことでした。この人のMultividerの使い方はわたしのオクターバーに対するひとつの '理想' であり、1969年のアルバム 'Peacemeal' は是非皆さんにも聴いて頂きたいですね。そして、Gibson / Maestro Sound System for Woodwindsはこの手の製品としては豊富な音色と可搬性の良さで(専用のアタッシュケースが付きます)、当時かなりヒットしたエフェクターのひとつでもあります。1967年のW1からバリトンのファズが付加したW2、そして、専用フットスイッチの付いたW3に至るまで仕様変更されながら長く市場を席巻しました。'Woodwinds' とある通り、基本はサックスとクラリネットで使うことをメーカーは推奨していました。
これぞ 'アンプリファイ' の元祖Selmer Varitoneの完動品です。動画のものは新大久保にある大久保管楽器店さん所有の 'Not for Sale' 品で、試奏は無理でしょうが現物が店頭に飾ってあるので拝みたい方は是非足を運んでみて下さい。そして、1969年にギター奏者ビリー・バトラーのアルバム 'Guitar Soul !' へ参加したサックス奏者、セルダン・パウエルによるSelmer Varitoneにおけるヒプノティックなソロは特筆したいです。まさに 'サイケデリック・トレイン' の如く汽笛のSEと呼応するように暑苦しくネロ〜ンとした音色こそ、このエフェクターの本領発揮と言っていいでしょう。 ちなみに、'アンプリファイ' によるトランペットで最初にアプローチしたのは、全編このVaritoneによるアルバム 'It's What's Happnin'' を1967年に吹き込んだクラーク・テリーなのです。
これは1970年代後半に登場したその名もギター・シンセサイザーKorg X-911。Rolandの同種の製品が専用のピックアップでCV(Control Voltage)/Gateによるトリガーで鳴らすのに対し、こちらは普通のエフェクター感覚で使える便利なものでした。ウニョ〜ンとフィルターがスウィープする感じがシンセっぽく、また、取説には管楽器での使用も推奨してありましたね。
う〜ん、なんだかこの手のデバイスに昔から関心を持っていたのはWoodwindsの人たちばかりですね・・Brassの人たちはやっぱり保守的!?
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