2024年6月1日土曜日

コンプが先か?フェイズが先か?

ある時期、ある時代に流行したペダルの組み合わせから提案される '革命' というのがあります。MXRはそのカラフルな筐体と手のひらサイズのスタイリッシュなデザインにより、それまで高価で大仰な '装置' と呼ぶに相応しい1970年代のエフェクター市場に大きな衝撃を起こしました。そのMXRを代表するペダルが真っ赤なコンプレッサーDyna CompとオレンジのフェイザーPhase 90の2つであり、その後の各社カタログの先鞭を付けた '70年代鉄板の音作り'。つまり、それまで '縁の下の力持ち' の如くレコーディング・スタジオのテクニックのひとつであったものを、当時の '新兵器' であるフェイザーと共に奏者へ投げ付けてきた技術者からの '挑戦状' とも言えるのです。 






さて、この 'コンプ+フェイズ' の提案としてはそのMXR以前、Maestroの手によりThe Sustainer SS-1とPhase Shifter PS-1の組み合わせがあり、これをコピーしたと思しき9V電池2つの18V駆動による国産Roland AS-1 Sustainer、Electro-HarmonixのBlack Fingerなどが市場に開陳されておりました。後述するコンプ使いの名手、鈴木茂氏の動画内でもいわゆる 'ペダル・コンプレッサー' 回路の出発点としてそのMaestro The Sustainerをベースに各社開発しているとしながら、当初はその入力インピーダンスがロー・インピーダンスだったことからよりギター向けの改良が施されていったとのこと(SS-1後端のInput Lo/Hi切り替えスイッチはベース、ギターの帯域別と思われます)。ちなみに、あくまでピークを抑えてサスティンを伸ばすだけが目的だった 'サスティナー' が歪みのヴァリエーションである 'ファズ・サスティナー' と両義で用意されていたのに対し、MXRのDyna Compは明確に 'コンプレッサー' という圧縮に焦点を絞った '質感生成' を目的としたものであったところに特徴があります。それまでの先入観としてあった踏めば明確に音が変わってこそ 'エフェクツ' であるという価値観は、このサスティナー/コンプレッサーと呼ばれる製品が市場に投入されることで奏者自身のタッチ、レスポンスといった奏法とセットで音作りする意識へと変わるエポックメイキングの出来事だと言えますね。もはや、わざわざ筐体に 'Distortion - Free' などと注意書きをする黎明期は終わったことを告げたのがMXRの赤い小箱、Dyna Compの功績なのです。















ちなみにファズとワウの熱狂で狂乱の 'サマー・オブ・ラヴ' の時代を駆け抜けたエフェクター黎明期。その転換点ともいうべき 'フェイザーの時代' 到来を告げる1971年のMaestro Phase Shifterはエポック・メイキングな出来事でした。後に 'オーバーハイム・シンセサイザー' で一躍時の人となる設計者トム・オーバーハイムの手がけたこのペダルと呼ぶにはあまりに大きな '装置' は、ほぼ同時期にドラム・メーカーのLudwigによるPhase Ⅱ Synthesizerやスタジオ用レコーディング機器の名門、Eventide ClockworksからInstant Phaserが登場してそのカテゴリーが定着します。また、そこから遡ること1967年!にスタジオ用レコーディング機器として最古のフェイザーとされるCountrymanのType 967/968 Phase Shifterが確認されております。他には世界初の 'ギターシンセ' の触れ込みでいち早く市場に開陳されたHammondがInnovexのブランドで手がけるCondorのシリーズから、ステレオ入出力を持つCondor SSM(Sound System Modular)にスプリング・リヴァーブやヴィブラートと共に早くも青い 'Phaser' スイッチが1969年の時点で搭載。そして、我が国日本からは天才エンジニア、三枝文夫氏の手がけるPsychedelic MachineとVibra Chorusが各々Honeyのブランドで1968年のカタログに登場し、ちょうど時代がレスリー・スピーカーからよりサイケデリックな 'フェイズ' の変調を追体験する先駆としてジミ・ヘンドリクスと共に '伝説' となりました。そもそも三枝氏はこの先駆的な変調効果をレスリー・スピーカーではなく、当時ソビエトから短波などあらゆる周波数で飛ばされて来たモスクワ放送の電離層でもたらされる 'フェーディング' 現象(フェイズじゃない!)から着想します。まだ、日本と欧米には距離が開いていた時代。直接的なLSD体験もなければザ・ビートルズが用いたADT (Artificial Double Tracking)の存在も知られていなかったのです。つまり、世界の誰かが同時多発的に似たようなアプローチで探求していた後、いくつかのメーカーから電子的にシミュレートした機器、エフェクターが発売される流れとなっていたのがこの黎明期の風景でした。ちなみにその 'フェーディング' 現象については、電圧により 'Vari Speed' の変調から効果を生み出すADTの話と交えてザ・ビートルズのプロデューサーであるジョージ・マーティンもこう述べております。

"アーティフィシャル・ダブル・トラッキング(ADT)は音像をわずかに遅らせたり速めたりして、2つの音が鳴っているような効果を得るものだ。写真で考えるといい。ネガが2枚あって、片方のネガをもう片方のネガにぴったり重ねれば1枚の写真でしかない。そのようにある1つのサウンド・イメージをもう1つのイメージにぴったり重ねれば、1つのイメージしか出てこない。だがそれをわずか数msecだけズラす、8〜9msecくらいズラすことによって、電話で話してるような特徴ある音質になる。それ以下だと使っている電波によってはフェーディング効果が得られる。昔、オーストラリアから届いた電波のような...一種の "点いたり消えたり" するような音だ。さらにこのイメージをズラしていき27msecくらいまで離すと、われわれがアーティフィシャル・ダブル・トラッキングと呼ぶ効果になる...完全に分かれた2つの声が生まれるんだ。"

また、いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクター登場前夜の試みのひとつとして、まだこの手の位相を操作して効果を生成するにはレスリー社のロータリー・スピーカーに通す、2台のオープンリール・デッキを人力で操作して、その位相差を利用する 'テープ・フランジング' などに頼らなければなりませんでした。日本を代表する先駆的な作曲家、富田勲氏はこのような特殊効果に並々ならぬ関心を持っており、いわゆる 'Moogシンセサイザー' 導入前の仕事でもいろいろ試しては劇伴、CM曲などで実験的な意欲を垣間見せていたのです。1969年制作のNHKによるSF人形劇 '空中都市008' では、まだ電子的な 'モジュレーション' 機器を入手できないことから当時、飛行場で体感していた 'ジェット音' の再現をヒントに出発します。

"その時、ジェット音的な音が欲しくてね。そのころ国際空港は羽田にあったんだけど、ジェット機が飛び立つ時に 'シュワーン' っていうジェット機そのものとは別の音が聞こえてきたんです。それは多分、直接ジェット機から聞こえる音ともうひとつ滑走路に反射してくる音の、ふたつが関係して出る音だと思った。飛行機が離陸すれば、滑走路との距離が広がっていくから音が変化する。あれを同じ音を録音した2台のテープ・レコーダーで人工的にやれば同じ効果が出せると思った。家でやってみたらうまく 'シュワーン' って音になってね。NHKのミキサーも最初は信じなくてね。そんなバカなって言うの。だけどやってみたらこれは凄い効果だなって驚いてた。これはNHKの電子音楽スタジオからは出てこなかったみたい。やったーって思ったね(笑)。('空中都市008' では)同じ演奏の入ったテープ・レコーダー2台を同時に回して、2つがピッタリ合ったところで 'シュワーッ' って変な感じになる効果を使ったんです。原始的な方法なんだけど、リールをハンカチで押さえるんです。そしたら抵抗がかかって回転が遅くなるでしょ。'シュワーッ' ってのが一回あって、今度は反対のやつをハンカチで押さえると、また 'シュワーッ' ってのが一回なる。それを僕自身が交互にやったんです。キレイに効果が出てるでしょ。"






わたしの所有するDyna Compはヴィンテージではなく、MXRが 'Custom Shop' の限定品として2008年に発売した'76 Vintage Dyna Comp CSP-028となります。中古で購入した時点でどっかの工房がモディファイしたと思しきLEDとDC端子が増設されておりましたが、こういった往年の 'ヴィンテージトーン' が現代のシーンに復刻される意味を考えましたね。特に現代のエフェクターにおいて '原音重視' やナチュラル・コンプレッションなどが持て囃される昨今、いかにもダイナミズムをギュッと均すコンプは、時に演奏の細かなニュアンスを潰す '悪役' として敬遠されてしまうのも事実...。そのDyna Compと並び1970年代を代表する 'ペダルコンプ' として殿堂入り、現在に至るまで定番として新たなユーザーを獲得しているのがRossの 'グレーボックス' とも言うべきCompressor。創業者Bud Rossの意志を継いだ孫らにより2019年に 'Ross Audibles' として復活させたものが 'Gray' Compressorでその後、JHS Pedalsに継承されて現在の市場へと供給されております。ちなみにそのRossとDyna Compは回路的にはほぼ '従兄弟' のような関係ということで(笑)、ここでは日本を代表するギタリスト鈴木茂氏と佐橋佳幸氏による 'コンプ動画' をどーぞ(やっぱヴィンテージのRoss良い音だなあ)。そんな1970年代には当たり前であったコンプレッサーでしか出来ない圧縮を演出の '滲み' として捉えるとき、そのDyna Compが現在の市場でも変わらず製造されている意味とは何なのであろうか?。昨今はスタジオの定番アウトボードであるUrei 1176やTeletronix LA-2Aを設計ベースとしたペダル類のナチュラルなコンプレッションが好まれる中、そのヒントとして現在でもDyna Compの愛用者であるギタリストの土屋昌巳氏はこう述べております。

"ダイナコンプは大好きなんでいくつも持ってます。筆記体ロゴ、ブロック体ロゴ、インジケーター付きを持ってます。壊れてしまったものもあるし、5台以上は買ったんじゃないかな。やっぱり全然違いますしね。個人的にはインジケーターなしのブロック体という中期のモデルが好きですね。ダイナコンプを使うことで、ギターのボリュームのカーブがきれいになるんですよ。フル・ボリュームの時と、7〜8ぐらいにした時の差がすごくいい感じになる。ライブでも、レコーディングでも、ダイナコンプは必ずかけっぱなしにしています。コンプレッション効果よりも、ギターのボリュームのカーブをきれいにするために使うんですけどね。(中略)けっこう雑に設定してあるというか、変にハイファイに作っていない分、ツマミをほんの1ミリ調整するぐらいで音が全然変わってくるところとか僕は好きですね。特にダイナコンプは、ちょっとツマミを動かすだけでアタックがかなり変わってくる。本当、ダイナコンプは、完全に僕のスタイルに欠かせないものになっていますよね。あれがないと自分のギターの音が出せないと思う。"

一方、いわゆるフェイザー普及の時代を牽引したMXR Phase 90。こちらはそれまでのブームを生んだ '装置' のようなデカさのMaestro PS-1から一転、機能はそのままに手のひらサイズのカラフルな筐体で 'エフェクターペダル' のコンパクト化を推進するきっかけとなりました。そもそもはMXR創業者であるテリー・シェアウッドとキース・バールのふたりが経営していた修理会社に持ち込まれたMaestro PS-1を見て一念発起、MXR起業へのきっかけとなったことは有名な話。これは、ロジャー・メイヤーがジミ・ヘンドリクスの為にカスタムで製作していたOctavioを修理する機会のあったTycobraheがデッドコピー、新たにOctaviaとして製品化した(パクった)というエピソードにも通じます。MXRは4ステージのPhase 90、その廉価版の2ステージなPhase 45、フォトカプラー搭載の6ステージによるデラックス版Phase 100の3種を用意しました。Pedal Shop Cult主宰の細川雄一郎氏は、そのMXR起業初期に夜のライヴハウスなどで '手売り' されていた頃の超初期型のPhase 90を所有されております。小さなMXR表記のスクリプトロゴ、回路の定数設定に起因される電源投入後の '暖気' 安定までのタイムラグ、本機唯一の機能を司る 'Speed' ツマミが反時計回りの効き方を示すなど、初期型ならではのプロトタイプ的仕様を提示しており実に興味深いですね。ちなみにわたしの所有品は1974年のPhase 90をMXR Custom Shopで復刻したCSP-026で、現行品のM-101に比べるとよりマイルドな効き方です。












1970年代初めにスウェーデン初のビルダー、ニルス・オロフ・カーリンの手がけたブティックペダルは各々100台前後製作されたPhase PedalとCompressor。これだけでも超レアものですけど当時、オーダーによりわずか3台しか製作されなかったRing Modulatorなど珍しいラインナップで辺境なスウェーデンのロック・シーンを支えました。このCarlin Compressorの特徴はコンプと銘打たれていながら 'Dist.' のツマミを備えてファズ的な 'サチュレーション' を付加するところに特徴があり、そのユニークな発想からCarlinは今でいうBJFEに象徴されるスウェーデン産 'ブティック・ペダル' のルーツ的存在として同地で称えられております(カーリン本人は天体望遠鏡のバロードレーザーという光軸調整の手法を考案したことで、本業の天文学ではもの凄い人らしい)。そんな1960年代後半から70年代初めにかけてキャリアをスタートさせたCarlinのペダルは、電球を用いた独自設計による8ステージのフェイザーPhase Pedalのほか、持ち込まれた既成の製品(多分MXRのDyna Comp)をベースにしたCompressor、そして、わずか3台のみのオーダー品で大半の同製品が2つの入力の和と差をマルチプライヤー(乗算器)という回路で非整数倍音生成の掛け合わせにキャリア内蔵が一般的のリング・モジュレーターにあって、Carlinのものはリング変調の原点に則りA、Bふたつの入出力を掛け合わせて音作りをする原初的な仕様で製作されました。さすがに当時製作されたヴィンテージの3台を見つけることは無理ですが、復刻に際して当時のパーツでカーリン本人の手により2013年に 'リビルド' されたものが確認できます(Moody Soundsは1,850クローネでこれを販売済)。また、製品化はされませんでしたが、CMOSフリップフロップ回路によるCD4013チップを用いたオクターバーの試作もしていたとのこと。上の回路図は1970年代にカーリン本人により手書きされたもので、後の復刻時に 'Carlin Octav' の名でラインナップする予定だったそうですが残念ながら実現しませんでしたね...。これら3種のCarlinペダル類は2016年に同地の工房Moody Soundsから製作者本人の監修のもと復刻、現代風の仕様にブラッシュアップされて現在の市場へ供給されております。左右逆のIn/Out入出力、LED、DC供給などが主な変更箇所であり、Phase Pedalは当時の電球とCDSが使用不可となったことから白色LEDをベースに再設計、新たな筐体へ組み込んだCarlin Phaserとして再デザインされました。Ring Modulatorも当初はオリジナル通りのレイアウトで復刻されましたが、こちらもすぐにA、B各々でレベル調整出来る仕様へと変更されて使い勝手が向上します。さて、そのCarlin Compressorをカーリン本人により当時の設計、製品化のエピソードについてこう述べております(かなり専門的なお話です...汗)。

"もう随分と昔のことなんだけど楽器店ディーラーがわたしにコンプレッサーペダル(ブランドは言うまでもないでしょう)を見せてくれて、もっと良いものが作れないか?と尋ねてきたんだ。その回路を見てやってみようと思い、試行錯誤の末に思い付いたのがCarlin Compressorです。自作してみたい人たちの為にわたしが考案した方法を説明します。コンプレッサーはアタックとディケイを補正する為にゲインを調整する必要がある。こうすることでトーンの 'ホールド' もしくは 'サスティン' が他の方法よりもずっと長くなる。これを除けば音のキャラクターが変わることはありません。これはまた歪みが少ないことを意味します(実際に測定された量の歪みを加えたい場合は除く!)。トーンの立ち上がりが即座に反応しないとギターのキャラクターが完全に失われてしまうのです。もうひとつ、ギターが静かな時はゲインが高いので固有のノイズはできるだけ低く抑える必要があります。また消費電流が少なくなければならない。わたしが見たユニットにはこれらの特徴がほとんど無かったけど、わたしはJFETを電圧制御抵抗器として使うという基本的なアイデアを設計に取り入れました。

最初のBC548b(または低ノイズのNPNトランジスタ - 適切なタイプはたくさんある。一番左の2つのトランジスタは低ノイズであることを重視して選びました!)。エミッター・フォロワー・ステージとしてハイ・インピーダンスのギター・ピックアップに負荷をかける為ではありません。4.7k+2.2Fは入力のフィルターとして機能します。JFETの2N5457と47kの抵抗は電圧制御のシグナル・アッテネータとして機能します。JFETは信号がない状態では抵抗値が高くなるように設定されていますが、バイアスが上がると抵抗値が下がり信号が減衰します。この信号は2段アンプ(次の2つのBC548b)に送られ、出力ボリューム・コントロールに供給されます。サスティン・ポットはこのアンプのゲインを約500〜17までコントロールするのです。この出力は位相インバータBC307(PNPタイプなら何でもよい)に供給され、アクティヴ整流器(BC548bの左のペア)に送られます。このペアはアタックが来るとすぐに4.7uFのコンデンサーを充電するように出来ています(小さな信号でも整流を開始する為にトランジスタが 'オン' にバイアスされていることに気付くでしょう!)。この電圧はJFETのゲートに供給される制御電圧でトータル・ゲインを下げます - JFETの特性上、圧縮は約1:3になります。しかし、JFETはかなりノンリニアなのでかなりの第2高調波歪みが発生します。これをキャンセルする為に信号電圧の半分をJFETのゲートに加えます(サスティン・ポット、1.5kと1.1Mの抵抗の接合部では電圧は入力電圧の1.97/0.47=4.19倍となり、1.1Mと150kの抵抗 -後者はFuzzポットに接続されている- で1250/150=1/8.33倍で分圧されます)。これで僅かな第3高調波歪みが残るだけです。しかし、もっと歪ませたい場合は2つ目のペアのBC548も整流しますがコンデンサーは付けません。ギターのコンプレッション・エンヴェロープのままです。Fuzzポットを回すことで電圧をミックスすることが出来て、他のユニットとは異なり好みの歪みを得ることが可能です。22kトリマーはJFETのカットオフ付近のバイアス電圧を設定します(わたしの記憶が正しければ約1.5〜1.8V)。入力がない状態でサスティン・ポットを最大に設定し、出力ノイズを聞いてちょうど減少し始めるところにトリマーを設定します。2つ目のBC548bのトランジスタのベース・エミッタ電圧を基準電圧として設定されており、バッテリー電圧の何分の1というわけではありません。

もうひとつの特徴: JFETを横切る2.2nFのコンデンサーはローパスフィルターを形成し、無信号時に1500Hz以上をカットする。しかし、信号が強くJFETを導通するとカットオフ周波数は非常に高くなります。従ってトーンが強い時はオーディオ・スペクトルをすべて通過させるが、トーンが減衰するにつれて(いずれにせよ高周波数は消滅する)高周波ノイズは大幅に減衰します。オリジナルの回路基板をスキャンしてみました(確か300ピクセル/インチ - 取り付け穴の中心間64ミリ)。回路基板をそのままコピーする必要はありません。もしわたしが今プロトタイプを作るとしたらバーフ基板を使うでしょう...。"

2007年1月 ニルス・オロフ・カーリン






Spectra 1964 Model V610 Complimiter
Spectra Sonics Model 610 Complimiter Custom
Spectra Sonics Model 610 Complimiter 'Sequential Stereo Pair'

そんなCarlin Compressorに見る '歪むコンプ' の系譜は、いわゆる 'ファズ+サスティン' とは別にスタジオで使用するアウトボード機器で珍重された '飛び道具コンプ'、Spectra SonicsのModel 610 Complimiter がございます。1969年に発売以降、なんと現在まで同スペックのまま一貫したヴィンテージの姿で生産される本機は、-40dBm固定のスレッショルドでインプットによりかかり方を調整、その入力レベルによりコンプからリミッターへと対応してアタック、リリース・タイムがそれぞれ変化します(本機はそのアタックタイムの早い動作としても有名)。クリーントーンはもちろんですが、本機最大の特徴はアウトプットを回し切ることで 'サチュレーション' を超えた倍音としての '歪み' を獲得出来ること。上のドラムの動画にも顕著ですけど一時期、ブレイクビーツなどでパンパンに潰しまくったような '質感' で重宝されたことがありました。オリジナル通りの仕様で復刻となったModel C610が終了し、現行品はModel V610としてリファインしながらその個性は変わらず市場に供給されておりまする。こんな個性的に潰すコンプの味はAPIやNeveのモジュール、Urei 1176やTeletronix LA-2Aなどの流れに続き、ぜひともSpectra 1964からこのユニークなラック・ユニットの 'ペダル化' 実現で新たなブームを期待したいですね。







そんなCarlin復刻を手がけたMoody Soundsは現在、BJFEのBjorn Juhlがデザインしたペダルのキット販売も加えてスウェーデンの 'ブティック・エフェクター市場' における中心地の役割も果たしております。そのナチュラルな効果で唯一無二のスウェーデン産BJF ElectronicsのPale Green Compressorは、Bjorn Juhlの名を知らしめた代表的製品のひとつです。ザ・ビートルズが当時のアビーロード・スタジオで用いたコンプレッサー、RS-124(Altec436BのEMIモディファイ)が本機製作のきっかけとのこと。最近のナチュラルなコンプレスの潮流に倣ったトーンから真ん中のツマミ 'Body' を回すことで空間的な幅の調整がイジれます。このBJFEの音は世界に認められてお隣フィンランドのブランド、Mad ProfessorからForest Green Compressor、さらに米国のブランドのBearfoot FxからPale Green Compressorとしてそれぞれライセンス生産による 'Re-Product' モデルが登場。動画はそのPale Greenの後継機に当たるPine Green CompressorとBear Footのものですが、本家BJFEとしては2002年の登場以降、淡いグリーンのニトロセルロースラッカーから深いグリーンへの変更と共にPine Green Compressorへ変わります。ここでフォトセルと 'Body' を司る単軸二連ポットが変更されて3ノブ、4ノブ、5ノブの仕様と共に現在に至ります。わたしのチョイスは不定期にPedal Shop Cultがオーダーする初期Pale Green Compressorの '2020復刻ヴァージョン'。








ちなみにその 'コンプ+フェイズ' の音作りとしては謎多き一台というか、1970年代の数多あるエフェクター・ブランドの中で未だ '発掘調査' の進んでいないGretschのFreq-Fazeをご紹介しましょう。一般的にコンプレッサーと呼ばれるエフェクターは単体のほか、冒頭の 'ファズ・サスティナー' を筆頭に歪み系ペダルとの '2 in 1' で製品化される場合が多いですね。その中でもこのFreq-Fazeは唯一無二の 'コンプ+フェイズ' をひとつの製品として組み込んでしまった "なぜそうなる?" が具現化された珍品。このGretschのペダルといえばExpandafuzz、レスリーのTremofect、管楽器用オクターバーであるTone Divider、またイタリアのJen ElettronicaのOEMでGretschが 'Playboy' ブランドで販売したものがありましたけど、どれも一般的知名度の低い 'レアもの' 扱いとあってこのFreq-Fazeも滅多に市場へ姿を現すことはありません。本機が実に奇妙な仕様となっているのは、まず卓上に乗せるような 'ハーフラック・サイズ' であること。多分、キーボードの上に鎮座して使うことを想定させておきながら、いわゆる '尻尾の生えた' AC電源仕様ではなくまさかのDC9V電池駆動のみなのは・・なぜ?。エフェクツのOn/Offは筐体前面のトグルスイッチで行うのですが、筐体後面に回るとIn/Out端子のほかに蓋がされている。多分、ここにオプションのフットスイッチ繋いでOn/Offさせるつもりだったらしく、これも特に実用化されずに蓋をされてしまったということは色々と頓挫していた模様(苦笑)。この時代ならではのかなりガッツリとかかるコンプがフェイズの倍音を際立たせる効果で、こういう意外な組み合わせは再評価しても面白いでしょうね。いま復刻するのなら、OK Custom Design Change BoxやCooper FxのSignal Path Selectorのような 'フリップ' するスイッチを組み込みフェイザーの前後をコンプが各々入れ替えられる 'コンプ⇆フェイズ' の仕様で製品化してみたい。そもそもこのFreq-Faze入手をきっかけに今回の内容を書き出したので需要があるのか知らんけど(苦笑)、いわゆるセオリーと思われてる接続順を飛び越えた '提案' から新たな音作りを目指して欲しいのですヨ。






ということで 'コンプ⇆フェイズ' の実験をやってみた(笑)。

単なるエンハンサーやコンプレッサーではない、というピックアップアップ・マイクからの '質感生成' を向上させるのに適したペダルが数多市場へと投入されている昨今、その原点ともいうべき '忘れられたモノたち' による温故知新はバカにできません。過去、この手の地味な '音質補正' というか、ある時代の価値観として広まった解像度を上げる効果で '栄枯盛衰' を体現するエキサイターというものがありました。そもそもこの名称はAphexという会社により製品化された商品名の 'Aural Exciter' であり、続くBBEからは 'Sonic Maximizer' など独自の技術で商品化された後、一般的には 'エンハンサー' というカテゴリーで他社が続々と追随します。共通するのは各社それぞれの回路により 'スパイス' 的に高域成分を原音へ混ぜるというもので、その混ぜ方にどこか '化学調味料' 的不自然なギラ付きがあること含め、今や 'DAW' のプラグインにオーディオやTVの音響効果に備えられた 'EQ的処理' の大半で耳にするのみです。1980年代にはPearl TH-20 Thrillerやラック中心のBBEから珍しいペダル版のModel 601 Stinger、そしてBossのEH-2 EnhancerやDODからFX85 Harmonic Enhancer、そして同社の 'Psycho Acoustic Processor' ことFX87 Edgeというワンノブのヤツなど、いかにも 'ハイファイ' 志向の時代を象徴する製品が市場に用意されておりました。まさに原音重視のエフェクターが跋扈する現代では完全に '過去の遺物' と化しておりますけど、実はEQのセッティングなどであれこれ悩んでいる方にはコイツを 'スパイス' 的に振りかけてやれば解決する場合も多いのです。何かエキサイターの解説って 'ドーピング' でも勧めているようなネガティヴなものが多いですね(苦笑)。ここではそんな国産エキサイターとして初期に登場したTokai TXC-1 Exciterをチョイス。さらに高域のシャリシャリ感を落ち着かせるリミッター的効果として同社のTCO-1 Compressorと同じくTPH-1 Phaserを各々組み合わせてみました。ちょっとレアなのがこれら3つのペダルのツマミがどれも最初期仕様のモノでして、これがツマミ上面が剥がれたり壊れやすいというトラブル多発により急遽2ndロットから別のツマミに変更されたことで半年ほどしか店頭に存在しなかったもの(だから何だ、という話ではあります)。しかし、Tokaiのシブい質実剛健な筐体のデザインはカッコイイ...と思いながら、当時店頭で派手なBossのペダルと並べられていたらBossの方を手に取っちゃうだろうな、というユーザーの気持ちも良く分かる(苦笑)。ちなみに 'エキサイター+コンプ' を一台にまとめた効果のペダルとしては、過去に布袋寅泰氏がBoowy時代に愛用していたことで妙なプレミアの付くGuyatoneの 'Double Effect' シリーズで登場したGuitar Exciter & Comp PS-021がありまする。あ、残念ながらTokaiのフェイザーTPH-1 Phaserの動画はありません...(涙)しかし、硬質かつリゾナンスも程よく効いた良い80'sフェイザーでオススメですヨ。












ちなみにここでの基本セッティングは、その '2チャンネル' のミックスによるエレアコ用プリアンプPreSonusのAcousti-Qを使用。本機はハーフラックサイズに12AX7真空管を1本搭載、3バンドEQとノッチフィルターに外部エフェクツ用センド・リターンを備えた今となっては使い勝手の良いのか悪いのか分からない(苦笑)仕様となります。別売りでミュートとCut/Boostの切り替えられるフットスイッチが用意されており、さらに鉄板を 'くの字' に折り曲げただけの安易なスタンドに本体設置するのが面白い。ちなみに所有しているのは日本語取説付きなのにAC18Vの120V仕様ACアダプターであり、そこは真空管使用ということから東栄変成器のステップアップ・トランスで適正に昇圧しております。正直、今ならHeadway Music Audioのファンタム電源も兼ねたXLR入力とDI、センド・リターンを備えるエレアコ用プリアンプEDB-2 H.E.といった高品質なものもあるのですが、この少々型落ちの古いプリアンプなどを見つけて管楽器の 'アンプリファイ' に活用してみるのも面白いと思いますヨ。このクラスの真空管モノは単に出力部で通してソレっぽくしてるだけなのですが、その 'エフェクター臭さ' もちょっとした味として楽しめる機材です。あ、そうそう、今回は 'コンプの音作り' に焦点を当てているのでピエゾ側の音色を司るNeotenicSound AcoFlavorの 'Limit' ツマミはオフにしとかないとね...。また、このAcousti-Qの 'センド・リターン' はラインレベルということで、'+4dB→-20dB' のインピーダンス変換とコンパクトペダルを 'インサート' できる専用機器のお世話となりまする。あこの手の '便利小物' ならPA関連機器でお任せの老舗Radial Engineeringから '逆DI' ともいうべきReamp BoxのEXTC-SA。最初の動画は 'ユーロラック500' シリーズのモジュール版ではありますが、本機は独立した2系統による 'Send Return' を備えてXLRとフォンのバランス/アンバランス入出力で多様に 'インピーダンス・マッチング' を揃えていきます。さらに ' フル・ステレオ' の接続にも対応するEXTC-Stereoなども用意されておりますが、現在の円安の影響なのかメチャクチャ高価になりましたね(汗)。そして同種の製品では、国産のConisisことコニシス研究所からE-Sir CE-1000というハーフラック・サイズのモノが受注製作品としてあります。わたしも過去DAWによる 'ダブ制作' の折に大量のコンパクト・エフェクターを 'インサート' してお世話になりましたけど、こちらもこの手の機器の先駆としてとても良いモノです。さて、わたしの環境ではこちらの受注生産で用意されているガレージ的製品を愛用しているのでご紹介。そもそもはギターアンプのプリアンプ出力とパワーアンプ入力の間に設けられる 'センド・リターン' でラック型エフェクターを用いる為のもので、アンプの修理をメインに請け負う工房E-C-Aからその名もズバリの '+4dB → -20dB Convert Loop Box' という名で受注製作しております。本機はDC24VのACアダプターにより駆動して、各入出力の 'オーバーロード' を監視出来る便利なLEDを備えた2つのツマミでレベル調整が可能。大きな容量の電解コンデンサーで平滑、コンパレータに正常な電圧がかかるために電源後20秒ほど-20dBのLEDが点灯してから使用するという仕様。また、高級なアウトボード並みの多機能なインピーダンス変換を誇るUmbrella CompanyのSignalform Organizerや、大阪で業務用を中心に各種 '縁の下の力持ち' 機器を製作するEva電子さんからもInsert Box IS-1が登場。こちらのIS-1は入力レベルのツマミと出力のPhaseスイッチを装備、+4dBのIn/OutをY型のインサート・ケーブルでミキサーと接続します。まあ、こんな '煩雑なセッティング' で悩むより素直にこの手の 'インサート機能' に特化したマイク・プリアンプEventide MixinglinkやZorg Effects Blow !、Radial Engineering Voco- Locoなどを使えばサラッと解決する話なんですけどね(苦笑)。







OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit

そしてラインレベルによるテクノやヒップ・ホップなどの '質感マシン' として、ステレオ入出力にも対応しているのがフランスOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、デジタル・ディレイのBimとデジタル・リヴァーブなど各々Bamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが可能。この手の '質感アナログマルチ' としては好評を得たElktron Analog Heatとの比較動画もありまする。







そして衝撃のデビューから7年、コロナ禍と戦争による半導体不足により一昨年 'ディスコン' となったものの高騰する中古市場と一部のマニアたちによる熱いエール?がチェコの天才たちに届いたのか今月、いよいよ 'Thyme+' として復活します!。基本的な機能はそのまま?によりスタイリッシュなデザインとして洗練されました。大きなツマミに初代のTRSフォン1つによるステレオ入力もちゃんとデュアルのステレオ仕様に変更、しかしMIDIがTRSミニプラグのスレーヴ入力のみで本機の特徴でもあった木製サイドパネルは廃止されちゃったのが残念なり...(Thymeをマスターで走らせるユーザーが少なかったんだと思う)。Thymeの大ファンであるわたしも触ってみたいけど、実は初代を2台所有しているんですよね...(悩)。






そして、久々にCDショップへと足を運んでみてMaya Dread1975年の 'Kaya Dub' を見つけたので購入。本盤はあのJah Lloydの傑作ダブ・アルバム 'Herb Dub' の米国仕様として曲名、収録順が変更になったモノとのことで...なんだ、'Herb Dub' は持ってたな、と(苦笑)。ちなみにミックスはキング・タビー本人の手によるもの。そんな 'Kaya Dub' といえばやはりバニー・リーのプロデュースによりお抱えバンドThe Aggrovatorsの名義で1977年にリリースされた傑作ダブ・アルバムが有名ですね。ミックスはキング・タビーのスタジオTubby's Hometown Hi-Fiということで、プリンス・ジャミーが手がけたミックスとされております。(このド派手なダブは確かにそうかも)。こっちの内容はボブ・マーリィの楽曲目白押しによるダブ化ということで、スライ&ロビーや実際にマーリィのレコーディングにも参加するカールトン&アストンのバレット兄弟参加と超強力メンツの 'フライング・シンバル' 状態!。その一曲目はマーリィの 'Sun is Shaining' をもじった 'Dub is Shining'。そもそもメジャーのIslandレーベルと契約し、いち早く世界の市場でスターダムにのし上がったボブ・マーリィはキングストンのゲットー感覚丸出しなダブの音作りと距離を置いており、そういう意味でも間接的に 'マーリィのダブ' を味わえる稀有な一枚と言えますね。さて、そんなタビーのスタジオは若手エンジニアの登竜門的存在として多くの弟子を育成しており、その'首領' であるタビー本人はミックスより島の電気屋としてトランスを巻いたり修理の出張など本業で忙しかったのです...。この 'ルーツ・ダブ' の全盛期に最も多くのミックスを手がけて一躍その名を有名にし、後に独立してジャマイカ随一のプロデューサーとなったのがプリンス・ジャミー(キング・ジャミー)。ここではその師匠と弟子2人のダブ・ミックスによる '換骨奪胎' の違いをどーぞ。ただ、やっぱタビー御大のミニマルにして '一刀両断' 的な音の細分化こそダブのオリジネイターなんだと毎度感嘆してしまう...。

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