2020年9月5日土曜日

コンドーさん '2020'

日本には近藤等則さんがいる。

いや、ここはもっと気軽に 'コンドーさん' と呼んでみましょうか。やっぱりこの人の存在というか、ここまでラッパを '感電' させることに拘った人がいたことでこういう 'やり方' の市民権を得たとも言えますね。まさにマイルス・デイビス、ランディ・ブレッカーと並ぶ '電気ラッパ' のレジェンドでございます。もう御年71歳ですか・・しかし、その過激な音は全く枯れていないというか、まだまだ世界にこの '唯一無二' な存在を放っているのは素晴らしい。












Phoenix Audio DRS-Q4M Mk.2
Custom Audio Japan (CAJ) Custom Mixer (discontinued) ①
Custom Audio Japan (CAJ) Custom Mixer (discontinued) ②
Boss Digital Delay DD-500
Source Audio Ventris Dual Reverb
Digitech Whammy (5th Gen)
Boss Synthesizer SY-1
Maxon AF9 Auto Filter (discontinued)
Musician Sound Design (MSD) Silver Machine
Spiri Da Carbo Vario B♭ Trumpet Review

やっぱりコンドーさんの音作りに欠かせないのが広大な空間生成をもたらすリヴァーブ、ディレイの世界観ですよね。その '拘り' はキャリアの出発点であるフリージャズ の '雑音探求' から一貫して金管と呼吸の領域を広げることであり、これまで探求してきたラッパの進化とエフェクターの関係性について2006年頃にRolandから受けたインタビューの中でもこう述べておりました。まだピックアップはBarcus-berry 6001とオールドBengeのラッパを吹いていた時期のものですが、以下一部抜粋。

- トランペット自体をエレクトリック化しようとは思わないんですか?

K - 実は以前に考えたことがあるんだ。京大の後輩が楽器メーカーに就職してたから相談してみたんだけど、僕の求める音の気持ちよさが彼にちっとも伝わらなくてね(笑)。マウスピースのところに付けているマイクはバーカスベリー っていうメーカーが作ったものを使っているんだけど、もう何年も前に製造中止になってね。あとは別の観点からなんだけど、流体力学。1m44cmの管をどういう形状にすれば、より空気の流れがスムーズになるか。パソコン上でできるはずなんだよね。楽器メーカーなどでは多少計算して考えてるのかもしれないけど、職人の勘で作ってた頃と大して形状は変わってないよね。それを流体力学を使って考えてみたら、かなり面白いところまで行くんじゃないかと思うんだよ。見た目も変わってファンキーになるだろうしね。電気トランペットとして、トランペットの再開発がされたら面白いんじゃないかと思う。実は僕自体、20年くらいトランペット買ってないんだけどさ(笑)。

- どういったところで楽器を探されるんですか?

K - 今、持っているのはニューヨーク時代にジャルディネリっていう店で買ったんだ。当時では世界最大の管楽器小売店でね、あらゆるメーカーが一番いい品質のものを送ってくるような店だった。今はもうなくなっちゃったけどね。この20年間、デジタル機材ばっかり買ってるよ。まぁ、三分の二は捨てちゃったけど、僕のラッパなんて10万もしないのに、機材は何百万もしてる(笑)。

- ご自身でエフェクターを作ってみようと思われたことはないんですか?

K - イメージはあるよ。例えばディレイなんかでも、ステレオ・ディレイまではできるんだけど、本当にいい空間性を出したいと考えると大変。自然の中ってのはもっと音が反響してるでしょう。だから、ディレイを5種類くらい組み合わせて、割り切れないもののほうが自然に近い。リバーブも悩んでるんだよね。なかなかトランペットに引っかかるものがない。リバーブってもの自体がもともと室内用だから、僕は自然の響きのリバーブが欲しいんだよ。ルーム・リバーブでもホール・リバーブでもなく、コンボリューション・リバーブ(実際の空間でサンプリングした残響音のデータ -インパルス・レスポンス-と、疑似的にシミュレートしたパラメータを組み合わせて演算を行うリバーブの一種)でそういう設定があったら面白いよね。あと、300種類くらい設定があっても実際に使うのは数種類だけなんだよね。たくさん女の子がいても可愛いのは5〜6人みたいな(笑)。だから、使い勝手のいい組み合わせのものがあったらいいなと思う。コンピュータを使えば設定できるんだろうけど、さすがに自然の中でコンピュータを持ち歩きたくないもんなぁ(笑)。

- 近藤さんから電気を取り上げたらどうなんるんでしょうね。

K - 僕はアコースティックはやり尽くしたからね。30歳の時に冗談で「雑音探求30年、ついに純音を超えた」ってキャッチコピーをつけたんだけどさ。地球上で鳴っている音のうち、音楽として使われているのはたった数%なんだよね。残りの90%以上はまだまだ開かれているってこと。だから、電気だろうがアコースティックだろうが、イマジネーションのない奴がやったらどちらでも一緒。面白くない。













DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063
DPA SC4060、4061 Review
Toshinori Kondo Equipments

現在でも珍しいくらいにマウスピース・ピックアップの信奉者のコンドーさん。1979年にニューヨークで必要に迫られて購入したBarcus-berryピックアップから25年ほど経ち、新たにDPAの無指向性ミニチュア・マイクロフォンを流用してオリジナルのピックアップを製作致します。スクリューネジによるピックアップ本体の着脱、ポリプロピレンによる水滴と息の風を防ぐ構造などはBarcus-berry 6001をほぼ踏襲しておりますが以下、2007年にその苦労の顛末をこう述べておりました。個人的に最後の 'ひと言' が実に心に沁み入りますヨ(涙)。人生、飽きることなく足掻いてるっていうのが面白いんだよなあ。

"今年を振り返ってみると、いくつかよかったことの一つが、トランペットのマウスピースの中に埋めるマイクをオリジナルに作ったんだ。それが良かったな。ずっとバーカスベリー ってメーカーのヤツを使ってたんだけど、それはもう何年も前から製造中止になってて、二つ持ってるからまだまだ大丈夫だと思ってたんだけど、今年の4月頃だったかな、ふと「ヤベえな」と、この二つとも壊れたらどうするんだ、と思って。なおかつ、バーカスベリー のをずっと使ってても、なんか気に入らないんだよ。自分で多少の改良は加えてたんだけど、それでも、これ以上いくらオレががんばっても電気トランペットの音質は変えられないな、と。ピックアップのマイクを変えるしかない、と。それで、まずエンジニアのエンドウ君に電話して、「エンちゃん、最近、コンデンサーマイクで、小さくて高性能なヤツ出てない?」って訊いたら、「コンドーさん、最近いいの出てますよ。デンマークのDPAってメーカーが、直径5.5ミリのコンデンサーマイクを作ってて、すごくいいですよ」って言うんで、すぐそれをゲットして。

それをマウスピースに埋めるにしても、水を防ぐことと、息の風を防ぐ仕掛けが要るわけだ。今度は、新大久保にあるグローバルって楽器屋の金管楽器の技術者のウエダ君に連絡して、「このソケットを旋盤で作ってくれないかな」ってお願いして、旋盤で何種類も削らして。4ヶ月ぐらいかけてね。で、ソケットができても、今言ったように防水と風防として、何か幕を張ってシールドしないといけないわけだ。それをプラスチックでやるのか、セロファンでやるのか、ポリプロピレンでやるのか。自分で接着剤と6ミリのポンチ買ってきて、ここ(スタジオ)で切って、接着剤で貼り付けて、プーッと吹いてみて、「ダメだ」また貼り付けて、また「良くねーなぁ」って延々やってね(笑)。で、ポリプロピレンのあるヤツが一番良かったんだ。そうすると今度は、ポリプロピレンを接着できる接着剤って少ないんだよ。だから東急ハンズに行って、2種類買ってきたら一つは役に立たなくて、もう一つの方がなんとかくっつきが良くてね。その新しいピックアップのチューニングが良くなってきたのは、ごく最近なんだけどね。音質もだいぶ変わってきた。音質が変わると、自分も吹きやすくなるからね。それが、今年はすごくよかったな。

電気機材も、1Uっていうフォーマットで、あれは第一次世界大戦の頃にできた工業規格のはずなんだよ。第二次世界大戦前の、そのままの規格なんだ。だから、大きいんだよな、重いし。これからやるためには、さらに軽量化・小型化したい。今は5Uで使ってたんだけど、3Uぐらいにはできそうなんだ。最近も、なんていうメーカーだったかな。小さくていいディレイが出てね。1U分のディレイ外して、それに換えてみたり。あがきはいつまでも続くね(笑)。





ちなみにこのDPAミニチュア・マイクロフォンを使用する以前、コンドーさんが長きに渡って愛用していたのがピックアップの老舗、Barcus-berryの 'マウスピース・ピックアップ' でした。金管楽器用1374はいくつかのモデルチェンジがあり、1979年にGiardinelliのお店に駆け込んで穴を開けてからIMAバンド始動の頃まで、中継コネクターを介した2.1mmのミニプラグを楽器のラウンドクルーク部とリードパイプ部にグルッとタイラップで固定する仕様でした。そこから1990年代半ばまでは、3.5mmのミニプラグに仕様変更されてクリップ式の中継コネクターでリードパイプに着脱出来るものに換装します。Barcus-berryはこの製品特許を1968年3月27日に出願、1970年12月1日に創業者Lester M. BarcusとJohn F. Berryの両名で 'Electrical Pickup Located in Mouthpiece of Musical Instrument Piezoelectric Transducer' として取得しております。特許の図面ではマウスピースのシャンク部ではなく、カップ内に穴を開けてピックアップを接合するという初期の発案が興味深いですね。そして1990年代後半から2007年頃まで、これまでのピエゾ式から9V電池で駆動するエレクトレット・コンデンサー式の6001が登場。当時、日本で代理店を務めたパール楽器1997年のカタログを確認すれば堂々の65,000円也!。結局、当時の潮流となったワイヤレスとグーズネック式マイクの流れに勝てず、少量の製作で同社の 'マウスピース・ピックアップ' における有終の美を飾りました。この6001の特徴的な仕様であるソケット部とピックアップ本体のスクリューネジの着脱、ソケット部上面に貼り付けた防水や '吹かれ' 防止の為のポリプロピレンによるスクリーンなど、そのままコンドーさんのDPAピックアップ製作に流用されておりまする。













コンドーさんといえば1979年からニューヨークに移住、同地や欧州のアンダーグラウンドな即興演奏家たちとセッションを繰り広げながらビル・ラズウェルとの交流を経てハービー・ハンコック1984年の作品 'Sound System' に参加します。しかしそこから一転、東京発世界に向けて自己のサウンドをぶちかまそうと1985年に結成したのがご存知IMA (International Music Activities)。プロトタイプ的作品 '空中浮遊' を経て 'Metal Position' はその一発目ということで、いかにも同時代的 'エレクトロ' な匂いが懐かしくも一周回って新鮮ですね。そしてIMA解散後の1994年にNHKの番組 '我が心の旅' でイスラエルに行った旅行記も面白かったな。その直後に 'イズラエル' と題したオーディオCD付きブックも購入してコンドーさんの開陳された世界観、ユダヤとイズラムの憎しみのど真ん中に大仏を置いてやれ、イエス・キリストの大ファンで彼こそ '処女懐胎' の元祖 'マザーXXXX' だ、っていう危ないジョークを連発するなど、そのシリアスな向こう側へいかにして突き抜けようかというスタンスこそコンドーさんらしかった。この頃の電気ラッパのセッティングとしては 'イズラエル' で以下のように記されており、どうやらCAA (Custom Audio Amplifiers)の3チャンネル真空管プリアンプ3+SE Tube Preampでの音作りが 'キモ' のようです(この後にAlembicの2チャンネル真空管プリアンプF-2Bを使用)。

"アコースティック・トランペットと電気トランペットの違いは、アコースティック・ギターと電気ギターの違いと同じと思ってもらえばいい。マウスピースの横に穴を開け、そこにバーカスベリー 社製のマイクを差し込み、これで音をピックアップする。現在はもう2つピックアップを差し込み、3つの音を混ぜて使っているが、イズラエルではマウスピース1つだった。そこから、ハーモナイザー・オクターヴグリッサンド機能などを持つワーミーとワウのペダルを通してプリアンプへ。カスタム・オーディオ社製のエレキギター用のヤツで、ノーマルとクランチとディストーションの三種類の音色のチャンネルを持っている。そこから2台のディレイでステレオ化し、パワー・アンプの後、2台のスピーカーで音を鳴らす。現在はマルチ・エフェクター、ハーモナイザーなども使い複雑化している。電気ラッパの特性は、生ラッパでは出せない音色を作れること。様々なエフェクターを、それもステレオで使うことによって(近い将来4チャンネル化したい)、トランペットの音のイメージのワクを飛躍・拡大させてくれること。生ラッパで出来ることは、100年のジャズの歴史の中でほとんどやってしまった。オレもフリーインプロヴィゼイションの世界で少しは広げたつもりだったけど、その先をやるには電気化するしかなかった。電気化をはじめてもう10年になるだろうか。"








ここで少し余談ですが、コンドーさんが京都大学在学中にジャズ研でフリージャズに触発されていた当時、まさに日野皓正さんと並んで日本の 'ニュージャズ' を牽引する存在として注目を集めていたのが沖至さんでした。残念ながらほんの少し前に亡くなられたとのことでご冥福をお祈り致します。自身のトリオによるデビュー盤 '殺人教室' の一曲目 '水との対話' を聴いた時にはビックリしました。当時、ジャズ/オーディオ評論家として有名な寺島靖国氏が店主を務める吉祥寺のジャズ喫茶 'MEG' は一時期ジャズバンドのステージをやっていたことがあり、そこに出演したのが寺島氏と真逆な志向の沖至トリオ。水の張ったバケツにベル突っ込んでいわゆる '水中ミュート' の即興演奏を展開したのがこの '水との対話' であり、ステージ上がビシャビシャになっていくのを横から雑巾持って拭いて回ったというエピソードが可笑しかった(笑)。また、1974年に渡仏するべく最後の日本ツアーを記録したのが 'しらさぎ' というライヴ盤なのですが、ここでは新映電気のワウペダルとAce Toneのテープエコー、大きなギターアンプを背にして日野さんに次ぐ '電気ラッパ' の可能性に賭しておりました。そんな沖さんのワウペダルへの関心は渡仏直後に参加したサックス奏者、ノエル・マギーの作品 'Noel McGhie & Space Spies' でもほぼ全編で展開、ここではいつものフリージャズから一転してクールなジャズ・ファンクで迫ります。ある意味、コンドーさんにとって '先輩' ともいうべき存在の方でしたけどどう感じているのかな?。

 




そういえば最近、コンドーさんがデザイナーの佐藤卓氏と対談した '空の気 - 自然と空とデザインと' を読んだのだけど、やはりこの(愛着を込めて)オッサンの話は面白い。まあ、以前から同じようなこと言っているだけなんだけど、しかし、それがちゃんとその時代その時代の '波' をキャッチして '変奏' し、時代のコトバとして見事にハマっているのだからコンドーさんのアンテナは錆び付いていない。理屈じゃなく動くこと、それによって生じる '波動' を大事にされているというか、日本の四季を(あえて) 'デザイン的' に捉えてはその移ろいやすい '色即是空' こそ日本なのだと 'ホラを吹ける' のはコンドーさんくらいでしょうね。決して、'和' や '禅' などという抹香臭い説話や教条的な '癒し' のスピリチュアリズムにならず、そういう日本が忘れていたものをサイバーパンクとして遊んでみろよ、と促されているようで・・コンドーさんの視点はいつもずっとどデカイのです。







そんなコンドーさんの代表作といえば何だろ?と問えば、これまたいろんな意見が出てくるでしょうね。1980年代の熱狂的なIMAバンドのファンもいればコンドーさんのルーツであるゴリゴリのフリージャズからハマった人は、ペーター・ブロッツマンらとの 'Die Like A Dog' クァルテットによる '60分即興一本勝負' に魅了されてしまう。また、フェスティバルを通じてビル・ラズウェル主宰の多国籍ユニット、'Method of Difiance' での活動から近年のコンドーさんを知った人も多いと思います。しかし、コンドーさんの追求する '個の革命' と世界的潮流として現れた 'ベッドルーム・テクノ' の手法がリアルタイムで見事にハマったのが1996年のDJクラッシュとの 'コラボ' による傑作 'Ki-Oku: 記憶'。まさにマイルス・デイビス亡き後の混迷の時代に、そのままヒップ・ホップと 'プレ・エレクトロニカ' の端緒としてトランペットの新たな可能性を提示しました。以下、その 'Ki-Oku: 記憶' のライナーノーツでコンドーさん自身による全13曲の 'ことば' を記します。この 'コンドー節' こそ次の時代へと飛び込んで行くヒントとなるでしょう。

1】透睡 - Toh-Sui
人間の本来の記憶を呼び戻すためには、まず爽やかな眠りに入るしかない。それでまず1曲目が、透き通った眠りという意味の「透睡」。例えば夏にビーチに行き、彼女と彼が砂浜に寝そべっているとこの曲が聞こえてくる。そして波やアンビエントな音とミックスされながら、透き通った眠りに入っていく。
2】扉1 - Tobira 1
そうすると2曲目 - 1番最初の扉が開く。
3】無月 - Mu-Getsu
そして3曲目の「無月」。これは暗くて月が見えないといった3次元的なイメージではない。音楽あるいは表現とは、人間が日常的に使っている五感を超えたある種の感覚器官が呼び出された時に気持ち良くなる。そういった、通常の次元を超えた中での俺たちの心の風景が「無月」。
4】破動 - Ha-Doh
4曲目は「破動」。強烈でハードなベースラインが出ることによって、動き - ムーヴメントが始まる。
5】Sun Is Shining
5曲目は俺が尊敬しているボブ・マーレィの曲をカバーした。クラッシュとやる時、1曲は自分たちの曲でないカバーをやってみたかった。そして彼が作業をしている姿を見たりいろいろ考えている内に "そうだ、バラード系の曲をやってみよう" と思った。それで俺の好きな 'Sun Is Shining' をクラッシュに聞いてもらい、ビートを作っていった。
6】夢宙 - Mu-Chu
本当の記憶を呼び覚ますためには日常的な意識の中では限界がある。俺たちは '宇宙' をある意味で3次元的な空間性として捉えているが、3次元を超えた宇宙は '夢宙' と呼ぶのではないか。
7】扉2 - Tobira 2
五感や3次元を超えた空間が3〜6曲目、ここであるスペーシーな感覚を取り戻し、その記憶を呼び戻したところで第2の扉が開く。
8】浮遊 - Fu-Yu
この曲はクラッシュと "ドライブしている時にラジオでかかっていると気持ち良いのを作ってみよう" と作り始めた。テーマを吹く時も、なるべく甘くしてみようかなと・・。第2の扉が開き、新たなアナザーワールドに浮遊しながら入っていく。
9】帰幻 - Ki-Gen
街を歩いている時ふと全く違う記憶が蘇ったりする。そんな幻に帰るデジャヴー感覚がこの「帰幻」。
10】孤空 - Ko-Ku
9曲目で幻に帰ったときの自分たちのメンタリティーはどうか・・それが孤独な空「孤空」。人間の生は、本当は表も裏も発展もなく、生きていること自体が一休み。その前後は全部真っ暗な空間 - そんな日本人の考えも含めて作った。
11】昇花 - Shoh-Ka
「孤空」で表した虚無で生も死もない世界は、余りにも寂しい。そこで11曲目「昇花」で色を添えた。日本人は花を一種、異次元との交流のシンボルとして捉えている。そんな花が天に昇ることで1つの救いが現れる。
12】舞石 - Bu-Seki
11曲目で成就した記憶。ただ俺たちには日常生活に戻っていかなければならないという非常に苦しい現実がある。そこでもう一度アクションを起こし、ポジティヴに前進しようという意味を込めて作ったのが「舞石」。日本人には、石というのも次元の違ったものとして捉える感覚があるし・・。
13】扉3 - Tobira 3
こうしたアクションを起こしたとき、どういう扉が開くのだろうか?。この曲以降は、聴いている人たちのイマジネーションや生き方にまかせたい。

●2020年10月18日追記。

つい数日前まで嬉々として動画を上げていたのに・・信じられません。
R.I.P. 近藤等則さん、あなたがいなければここまでのめり込めませんでした。合掌。

2020年9月4日金曜日

9月のワウ選び (再掲)

エフェクターってひとつひとつは小さいですが、これがいくつか溜まってくるとスペースを占拠して生活を圧迫する(苦笑)。そんな '圧迫' の最たるものがワウペダルでして、これが床に置きっ放しのまま不意に躓くと突き指するくらい痛かったりするんですよね・・。しかし、管楽器の 'アンプリファイ' でディレイと並び最も満足度が高いのもこのワウペダル。





単純に分ければワウペダル、エンヴェロープ・フィルター、VCFという種類があり、そこからワウワウ、ピャウピャウ、ギュイ〜ンとブレスと共に踏んだり入力感度によりベンドしてリアルタイムな反応に繋がる。数あるエフェクターの中でもその効果と 'プレイヤビリティ' がダイレクトにもたらすものってコレしかないんですよね。鈍らせる、尖らせる、歪む、変調する・・そして発振。コレ、すべて 'フィルタリング' としての仕事であり、それを体感した者はその刻々と変化する音の '質感' に身悶え、まるで何物にも例えられないもうひとつの 'こえ' が生成する瞬間に慄きます。嗚呼、これぞ 'ワウワウ' の快感なり。


わたしの現在の足元に収まっている '手のひら' ワウの先駆、シンガポールのガレージ工房が手がけたPlutoneium Chi Wah Wah。光学式センサーによる板バネを用いたワウペダルで通常のワウとは真逆の踵側をつま先で 'フミフミ' して操作します。専用のバッファーを内蔵して0.5秒のタイムラグでエフェクトのOn/Off、そして何より便利なのがワウの効果をLevel、Contour、Gainの3つのツマミで調整できるところ。特別、本機にしか出てこない優れたトーンを持っているとは思いませんが、基本的なワウのすべてをこのサイズで実現してしまったものとして重宝しております。ワウの周波数レンジは広いものの、ペダルの踏み切る直前でクワッと効き始めるちょっとクセのあるタイプ。また、2010年の初回生産分のみエフェクトOn/Offのタイムラグが1.1秒かかる仕様だったので、中古で購入される方はご注意下さいませ(2010年10月以降は0.5秒仕様)。本機はペダルボードの固定必須で使うことが安定する条件となり、普通に床へおいて使うと段々と前へズレていきます。個人的にはその踵側を踏む姿勢から、立って踏むより座って踏んだ方が操作しやすいですね。ちなみに上記のリンク先にあるPlutoneiumのHP、ええ、アジア色全開の怪しいサイトではございません(笑)。





G-Lab Wowee-Wah WW-1 ①
G-Lab Wowee-Wah WW-1 ②

Chi Wah Wahが超小型ならこちらはスイッチのOn/Offを '足乗せ' な感圧式センサーにしたポーランドG-Lab製ワウペダル、Wowee-Wah WW-1。実際、このような機械式スイッチの '踏み外し' によるOn/Offの不具合はよくあるのですが、それを単にペダル面に足を乗せるだけでセンサーが感知してOn/Offしてくれるという有り難い逸品。もちろん、通常の機械式スイッチとの切り替え可能でさらにトーン調整用としてQ-Factor、Bass、Deep、Volumeの各スイッチも備えて多様な音作りに対応します。また本機にはウォーレン・ヘインズのシグネチュア・モデルWH-1も用意され、WW-1に比べてQ-Factorスイッチのみの特化したワウとなっております。











Crybaby Mini CBM95 VS. Crybaby GCB95

こちらはわたしが一番最初に購入したワウペダル。時代はちょうど1990年代半ばの 'ヴィンテージ・エフェクター' 再評価と復刻が始まっていた頃でして、それまで管楽器店しか知らなかったわたしにとりエレクトリック・ギターのお店は完全に未知の世界。全くの門外漢から見ればズラッと並んだ楽器の違いなど分かるハズもないのだけど、それは管楽器店にズラッと並ぶ金色や銀色のラッパを見てどれも同じじゃん、という感想と一緒ですね(笑)。このワウペダルというヤツも皆一様に黒いペダル状の物体が並んでおり、どれを選んだら良いのか分からなかったのですが、一応頭の中にあったのはマイルス・デイビスが使用したVoxのもの。しかしここで、そもそもギター用の機器を管楽器で使うにあたって大丈夫なのか?かかる帯域によってハズレもあるのでは?という '警報' が鳴り出します。もちろん試奏なんて出来ない環境でいくら悩んだって答えは出ないのだけど、そんな黒い物体の中で一台だけ 'スペシャル' なヤツを発見!見た目はCrybabyながら、中身はRoger Mayerという会社の 'ワウキット' をお店で組み込んで販売しているとのこと。価格もそこに並んである中でかなり高いものだったことから悩みましたが、購入の決め手は横に付いている3段階切り替えスイッチ(動画のものは7段階切り替え式)。今でこそこういうワウペダルは珍しくないですが、当時はこのRoger Mayer以外で見たことのない仕様でして、これならギター以外の楽器でもいけるんじゃないか、と・・。音色的には 'ドンシャリ' ながらラッパでもかなりエグい効き方で満足したことが昨日のことのように懐かしい。まあ、残念ながらこのRoger Mayerのものは今では入手できないものの、いわゆるノーマルのCrybabyでも十分に管楽器で威力を発揮してくれます。色々なモデルを展開しており、On/Offスイッチを省いて板バネで踏めばそのままOn、離せばOffになるGCB95Qなどは便利なのですが、その中でも '手のひら' サイズのCBM95 Crybaby Mini Wahはサイズ感と機能で申し分ないのでは?ちなみに過去には英国の 'マイルス・デイビス・フォロワー' のひとりであったニュークリアス率いるイアン・カーが、イタリアのJen Elettronicaで製作していた頃のCrybabyを踏んでおりますね。











Vox Clyde McCoy Wah Wah Pedal

'エレクトリック・マイルス' のアイコンであり、いわゆる管楽器の 'アンプリファイ' の象徴として踏んだのがマイルス・デイビスのVoxワウペダル。そもそもはVoxのエンジニアがトレブル・ブースターの開発中に偶然発見した効果であり、それを 'ワウワウ・ミュート' の名手であったクライド・マッコイに肖って名付けたのが 'Clyde McCoy' ワウペダルなのです。これはあくまで噂話の域ではありますが、バンド・オブ・ジプシーズ大晦日公演のバックステージで再会したジミ・ヘンドリクスからデイビスの元に送られてきたのがこちらの 'Clyde McCoy' ワウペダル。これを1970年から71年にかけて自身のステージで踏んでおりましたが、バンド・メンバーを一新した1972年以降、活動停止する75年にかけて足元にあったのが続く 'King Vox Wah' というもの。本機は、それまでイタリアEME社での生産をしていたVoxが米国カリフォルニア州のThomas Organ社の工場に移して生産した当時の新製品です。わたしがラッパを 'アンプリファイ' にしたいと思う原風景こそまさにコレ。ベルを真下に向けて屈み込むようにワウペダルを踏み、咆哮する歪んだトーンを吐き出すマイルス・デイビスの姿にヤラれてしまいました。












Chicago Iron / Tycobrahe Parapedal
Tycobrahe Engineering Parapedal (Vintage) ①
Tycobrahe Engineering Parapedal (Vintage) ②
Tycobrahe Engineering Parapedal w/ PS-9 Type (Vintage) ③
Farfisa Sferasound
Electro-Harmonix Bad Stone Phase Shifter Pedal
Greco PT-950 Pedal Phaser
Foxx Studio Model 7 Foot Phaser
Maestro FP-1 Fuzz Phazzer
Maestro FP-2 Fuzz Phazzer
Korg FK-2 Mr. Multi
MXR Custom Shop Variphase CSP-001 on Reverb.com
Moody Sounds Carlin Phaser Clone
Carlin Electronics Phase Pedal

一風変わった 'ヴィンテージトーン' を持つワウペダルとしてはこちら、Chicago Ironがお届けするTycobrahe Parapedalはいかがでしょうか。幻の70'sブランドとして君臨するTycobraheの完全復刻はChicago Ironにとってひとつの大きなチャレンジでした。Octavia、Pedal Flangerと共にラインナップされたこのParapedalは、まだTycobraheのブランド名を買い戻すまでは正式の名称が使えず 'Parachute' なるパロディ名で我慢し、現在ではようやく正規の 'Parapedal' としてそのモジュレーションの掛かった独特の 'フェイズワウ' を市場に開陳します。こちらはDC9Vながらオリジナル同様の 'ポジティヴ・グラウンド' の極性を持っているので、一般的な 'ネガティヴ・グラウンド' のペダルと同一のパワーサプライから電源供給する場合は注意が必要です。ちなみにこの手の 'フェイズワウ' という効果は、より大きい括りとして 'ペダル・フェイザー' という市場が席巻した時代でもあります。その元祖的製品である 'Maid in Japan' のShin-ei Uni-Vibe以降、そもそも位相シフト回路(オールパス・フィルター)により変調するフェイザーはワウと類縁性のある効果として、オルガンの老舗FarfisaのSferasound、MaxonのOEMであるGreco PT-950 Pedal Phaser、クイーンのブライアン・メイも愛用したFoxx Studio Model 7 Foot Phaser、Electro-Harmonix Bad StoneのペダルタイプからMaestro Fuzz Phazzer FP-1/FP-2、そして 'エンヴェロープ・フェイザー' の元祖であるKorg FK-2 Mr. Multiなどがありました。まさに1970年代に流行したと思われるこの効果、現行製品としてはMXRのVariphase CSP-001というのがありまする。足を乗せて踏み込むだけでかかる便利モノですけど、何故かこの 'Custom Shop' モノは日米共に正規の製品ページが無いんですよね・・(謎)。ちなみにわたしの所有するCarlin Electronics Phase Pedalはそんな 'ペダル・フェイザー' ブームが当時の北欧にまで波及した一例として、スウェーデン最初の 'ペダル・デザイナー' であるNils Olof Carlinが設計したもの。現在は同地のMoody Soundsからクローンも製作されておりますがオリジナルは超レアです。














Moog Moogerfooger (discontinued)
Source Audio SA143 Bass Envelope Filter (discontinued)
Source Audio SA224 Stingray Multi-Filter (discontinued)
Electro-Harmonix Micro Q-Tron
Zoom A1 Four / A1X Four Multi-Effects Processors ①
Zoom A1 Four / A1X Four Multi-Effects Processors ②

そんな管楽器にワウをかけること。ちなみに、ワウと言えば大半の製品はVoxやCrybabyに代表される 'ヴィンテージ・ワウ' のトーンを意識したものが多いのですが、一方では音量の感度調整によりかかるエンヴェロープ・フィルターなども用意されております。これらは '似て非なるもの' ではありますが、製品によってはエクスプレッション・ペダルを用いての両立した操作性、一聴しただけではワウペダルと判別をしにくいものがあります。どうしてもペダル操作が煩わしい、苦手だという方はこのエンヴェロープ・フィルターを選んで見るというのも一考です。管楽器の 'アンプリファイ' 広報に精を出すJohn Bescupさんは色々なワウを試されておりますけど、現在 '手元' に置いているSouce Audio SA143は新たに追加した多機能な一台。どうもそのサイバーな(オモチャっぽい?)デザインからここ日本ではイマイチ人気に乏しく、最近そのラインナップを一新してStrymonのようなアルミ筐体にヘアラインを施したものに変更されました。このSA143はデジタルならではの多彩な効果と扱いやすさ、安価な中古市場において狙い目。また後継機的機種として 'Soundblox' シリーズの一台SA224 Stingray Multi-Filterもありますね。そして管楽器に関係した2019年の新製品では、多機能かつリーズナブルなマルチ・エフェクターを製作するZoomからA1 Four/A1X Fourという 'アコースティック' 用マルチが登場。本機が画期的なのはその 'アコースティック' 楽器の中でトランペットやサックスなど管楽器に特化したプリセットを備えていること!いや、この手の機器として '管楽器専用' を謳ったものは初めてじゃないですかね?2つの図はそれぞれギター、管楽器で使用した際のワウの帯域変化を示したもので、管楽器ではより幅広い帯域に対してローパスとバンドパスを組み合わせてナチュラルなピークポイントでワウ効果を付加、コントロールさせていることが分かります。もちろん、その他のプリセットも幅広いアコースティック楽器に特化したものとして開発されておりまする。そんなメーカーの意気込みは、管楽器に必須のダイナミックマイクやコンデンサーマイクからフォンへと変換する 'アッテネータ' 内蔵(Gain調整、単3電池2本使用)の変換アダプター、MAA-1を付属させていることからも分かるでしょう。しかし、あれこれいろんな機器の流用による 'トライ&エラー' で散財していた頃を知っている自分からしたら良い時代になったもんですね。









Pigtronix Resotron ①
Pigtronix Resotron ②
Solidgold Fx Funkzilla
Solidgold Fx Apollo Ⅱ Phaser

さて、足でリアルタイムに踏むワウペダルに対してギターならピッキングの強弱、管楽器ならブレスの強弱によりエンヴェロープ・フォロワーを作動させるのが俗に 'オートワウ' と呼ばれたエンヴェロープ・フィルター。本機はあのアナログシンセの名機、Sequencial Circuit Prophet 5に搭載されたVCFのチップCurtis製SSM2040をベースに設計されており、過激に発振させたオシレーティングな効果から、この手の製品によくある '音痩せ' とは無縁の太さやトラッキングの向上を獲得。またエクスプレッション・ペダルによりワウペダルとして使用することも可能です。そしてカナダの工房Solidgold Fxの多目的なエンヴェロープ・フィルターFunkzilla。'電気ラッパ' の伝道師としてYoutubeでその啓蒙に頑張るJohn Bescupさん推薦の動画まであり、本機は基本的なエンヴェロープ・フィルターの機能を押さえつつここ最近のトレンド、タップテンポを装備してフィルター・スウィープからランダマイズのリズミックな効果に威力を発揮します。また同社からは 'エンヴェロープ・フェイザー' としてより複合的な効果を生成出来るAppolo Phaser(現在のカタログではAppolo Ⅱに変更)も用意されておりまする。









Xotic Custom Shop Robotalk-RI ①
Xotic Custom Shop Robotalk-RI ②
Xotic Custom Shop Robotalk-RI ③
Xotic Custom Shop Robotalk-RI ④
Pigtronix Envelope Phaser EP-2
Glou Glou Rendez-Vous
BJF Electronics VCF - Voltage Controlled Filter ①
BJF Electronics VCF - Voltage Controlled Filter ② 
BJF Electronics VCF - Voltage Controlled Filter ③

1990年代後半、突如市場に現れたXotic Guitars Robo Talkはそれまでのエンヴェロープ・フィルターとは一味違う '隠し味' で瞬く間に席巻しました。その一風変わった効果を持つ本機の出所は、1970年代にトム・オーバーハイムによりデザインされたMaestro Filter Sample/Hold FSH-1。特にフランク・ザッパがSystech Harmonic Energizerと共に愛用したことで現在まで大きな付加価値が付いております。また、本機の評価は単なる '懐古趣味' に留まらず、同時代の新たな 'ジャンル' ともいうべきエレクトロニカの 'グリッチ' と本機の 'ランダム・アルペジエイター' の見事な呼応性にありました。初代及び2代目までは2つの個別供給であるDC18V仕様でしたが、現在のRobotalk-RIは一般的なDC9V仕様として使いやすくなったのは便利。特筆したいのは本機のエンヴェロープ・フォロワーの追従性が非常に優れており、Rangeの 'ワンノブ' ひとつで見事にワウとしての仕事をこなしてくれる 'シンプル・イズ・ベスト' !。そしてPigtronixやGlou Glouからはフェイザーやリング・モジュレーターとエンヴェロープ・フィルターを組み合わせた多目的モジュレーション、Envelope Phaser EP-2やRandez-Vousなどが面白い。ちなみに個人的に試してみたいのがスウェーデンの奇才、Bjorn Juhlの手掛けるBJFEのVCFこと 'Voltage Controlled Filter'。この完全なるハンドメイドは世界で広く認められて隣国フィンランドのMad Professor、米国Bearfootへのライセンス生産による 'Re-Peoduct' モデル、そして日本のOne Controlへの製品協力とそのユニークな設計思想がもたらす影響力は計り知れません。








Seamoon Funk Machine (Vintage)
Seamoon Funk Machine V1 (Vintage)
Seamoon Fx Funk Machine

そしてエンヴェロープ・フィルターの使い方ならこの人に聞け!と言っても過言ではないくらいの達人、ランディ・ブレッカー。ラッパを 'アンプリファイ' した初期はCrybabyなどを使っておりましたが、その後のザ・ブレッカー・ブラザーズや現在に至るソロ活動ではBoss T-Wah TW-1やDynamic Wah AW-3などを愛用。しかしその全盛期である1970年代後半から80年代初めにかけて愛用していたのが知る人ぞ知る名機、Seamoon Funk Machineなのだ。ランディが使っていたのは無骨なデザインのVer.1の方ですが、何とこの隠れた名機が現在の市場にリファインされて再登場したというのだからビックリ。今回製作するSeamoon Fxを主宰するのはセッション・ベーシストとして過去に 'Heavy Metal Be-Bop' や動画の 'Some Skunk Funk' にも参加したニール・ジェイソンだそうで、そりゃ本機の愛用者であったランディの意見は聞くでしょ!という短い動画も公開しておりまする。










Mu-Tron: Mike Beagel
Mu-Fx Tru-Tron 3X by Mike Beagel (discontinued)
Electro-Harmonix Riddle: Qballs for Guitar
HAZ Laboratories Mu-Tron Ⅲ+

最後は '70'sオートワウ' の代表格、Mu-Tronがオリジナル設計者マイク・ビーゲルの手により復刻されました。これは最初にMu-FxブランドからTru-Tron 3Xの名で蘇ったものなのですが、現在はMu-Tronブランドの名も復活し、さらにコンパクトなMicro-Tron Ⅲとして使いやすくなっております。ちなみにビーゲルは自身のブランドのほか、あの 'エレハモ' へも設計者として協力してこれまで多くの 'Q-Tronシリーズ' はもちろん、このRiddle: Qballsなども手掛けておりまする。そして、どうしてもあのカラフルなデザインじゃないと盛り上がらない!という御仁には元Musitronicsのエンジニアであったハンク・ザイジャック氏が手掛けるHAZ Laboratories Mu-Tron Ⅲ+がありまする。














EMS Synthi Hi-Fli
Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
Colorsound Dipthonizer
Electro-Harmonix Talking Pedal - A Speech Synthesizer
Electro-Harmonix Stereo Talking Machine
Glou Glou Pralines / Moutarde
Glou Glou Pralines
Subdecay Vocawah
Moody Sounds Way
Sherman

EMS Synthi Hi-FliやLudwig Phase Ⅱ Synthesizerに象徴される '喋るような' フィルタリング。これは原初的なエフェクツとも言えるトークボックス(マウスワウ)のことではなく、VCFにおけるバンドパス帯域を複合的に組み合わせることで 'A、I、E、O、U' といった母音のフォルマントを強調、まるで喋っているようなワウの効果を生成するものです。例えば日本を代表する作曲家、富田勲氏は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いが強かったようです。Moog導入前から愛用していたLudwig Phase Ⅱを出発点に当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。さすがにその巨大な 'シンセサイズの壁' を手に入れることは叶いませんけど、EMSやLudwigの大きなシステムからColorsoundのDipthonizerやElectro-Harmonix Talking Pedalなどが1970年代にはありました、そして、現在はそのアップデート版のStereo Talking Machine、フランスの工房Glou Glouのリゾナント・フィルターPralines、米国の工房SubdecayのVocawahやスウェーデンの工房Moody SoundsのWay、ベルギーからHarman Gillisさんがお届けするSherman Filterbankに到るまで機器を '喋らせる' ことへの興味は尽きることを知りません。









ワウペダルやエンヴェロープ・フィルターなどのリアルタイムな可変、変調からさらに一歩踏み込んでいわゆるフィルタリングによる '質感生成' に興味はありませんか?。プリアンプやブースターの機能も持ち合わせながら、その '質感' を過剰にさせることでファズっぽく、ドライブっぽく歪ませたトーンを作り出すことも可能。'サチュレーション' の飽和感を管楽器でそのギリギリのところまで 'クリーン' に太くする、荒くするというのが設定の 'キモ' であり、慌てず騒がずハウらせず、ジックリとその倍音の変化に耳を傾けてみるとフィルターの面白さがさらに広がります。







Elektron Analog Heat HFX-1 Review
Dr. Lake KP-Adapter

そんなBrownmanの音作りに肉迫出来るんじゃないか?と思わせるのがDJ用マルチバンド・フィルターとして人気の機器Analog Heat。このElektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。是非ともDr. Lakeの 'インピーダンス・マッチング' を取ってくれる便利アイテムKP-Adapterに 'インサート' して挑戦して頂きたいですね。この辺りを突き詰めていくと例えば、ニルス・ペッター・モルヴェルの音作りなどに興味が湧いて来るかと思われます。








Korg MS-04 Modulation Pedal
Korg SDD-3000 Pedal - Programmable Digital Delay
vimeo.com/160406148
Moog Moogerfooger (discontinued)
Seymour Duncan Fooz Analog Fuzz Synthesizer ①
Seymour Duncan Fooz Analog Fuzz Synthesizer ②

このような 'シンセサイズ' のアプローチとしてはずっと以前からあった 'ギターシンセ' を用いる方法もあり、最近ではBoss Synthesizer SY-1、ちょっと古いものとしてKorgのGuitar Synthesizer X-911による管楽器のアプローチがありましたね。このX-911をサックスで吹いているRian ZoidisさんはどうやらKorg製品大好きなようで(笑)、X-911のほかレアなLFOのCVペダルMS-04やSDD-3000 Pedalなども愛用中。もちろん、この手の機器ではおなじみ 'Moogerfoogerシリーズ' をズラッと足下に並べて同様のアプローチをするのもアリ、ですヨ。メイシオ・パーカーの "ドヤッ" なポーズが気持ち良い(笑)。そして、ピックアップでお馴染みSymour Duncanが本格的にエフェクター市場へ参入!。そのフラッグシップ機ともいうべき 'ギターシンセ' のFoozを送り込んで来ました。構成的にはLudwig Phase Ⅱと良く似ておりますが、あれほどエグい 'ヴォイス感' なワウの効果に特化しておらず、Pigtronix Mothership 2やEarthquaker Devices Data Corupterの好敵手といった感じ。しかしChase Bliss Audioなどもそうだけど側面のDipスイッチが最近のトレンドなのかな?。









Sonuus Wahoo ①
Sonuus Wahoo ②

さて、多目的にデジタルの機能を備えたものとしては英国の新興メーカー、Sonuus Wahooというのもあります。とにかくデジタル・フィルターとして出来ないことはないくらい充実した機能を誇り、単純な 'オートワウ' からフィルタースウィープ、ピコパコとランダマイズするランダム・アルペジエイターやLFO、そして '喋るような' フィルタリングに至るまでおおよそフィルターとして出来ることはこれ一台で賄えます。細かな調整は本体のほかPCと繋ぐ専用エディターソフトでも操作出来るのですが、まあ、裏を返せばあまりに多機能過ぎて '迷子' になる可能性が無きにしもあらず(苦笑)。シンプルにハマる単純なワウを中心に複数の効果のペダルをズラッと並べるか、このような多目的に音作り出来るものを買って好みのセッティングを追求するかは、いつも悩むところなんですよねえ・・。

2020年9月3日木曜日

ペダル 'お助け' アイテム

コンパクト・エフェクターをペダルボードに配置する、そもそもこれのメリットは何でしょうか?それを考えて見ます。まずは何と言っても利便性、これに尽きるでしょうね。エフェクターの1つや2つではそれほどメリットはないですが、これが5つ6つとなるとそれぞれを結線して足元に並べるだけでも手間がかかってしまいます。そこで、すべてをボードという場所に設置して予め結線しておけば、後は楽器とアンプをそのボードの入出力に繋いで出力・・音出しまでのセッティングと時間が実に早い。









Electro-Harmonix 45000 Multi-Track Looping Recorder
Earthquaker Devices Organizer
Earthquaker Devices Pitch Bay (discontinued)
Earthquaker Devices Space Spiral

そして、この結線にはもうひとつの利点、エフェクターに一括して電源を供給出来ることにあります。エフェクターは各製品に見合った電源供給を持ち、それに対応したACアダプターが必要になることからその煩雑さを解消したパワーサプライが活躍。一般的なセンターマイナスのDC9Vはもちろん、その他DC12VやDC18Vに厄介なセンタープラス、AC仕様のものはそのままACアダプターを差す為の電源タップとパッチ供給が一緒になったパワーサプライ、デジタルとアナログ機器を一括に電源供給する際に起こるノイズ問題を避けたアイソレート仕様のパワーサプライなど、使用するエフェクターに合わせて実に多岐に渡ります。







Meris Enzo
Meris Hedra
Meris Polymoon

なかなかの '物量' で整然とブチ込んでおりますが(笑)、Meris、Chase Bliss Audio、Strymonと高品質かつMIDIによる同期に対応した仕様を備えるこれらの製品では、さらに統合したシステムを構築することが可能ですね。これまでこのような同期やプログラムに対応したものはラックやマルチ・エフェクターに特化した分野でしたが、ここ最近はコンパクト・エフェクターの分野でも充実したシステムで組めるようになりました。とりあえず、大仰に足元へズラッとペダル類を並べずともそれぞれの組み合わせの前後に使ってみれば便利、効果的、面白い 'お助け' アイテムなものがいくつかあるのでご紹介しましょう。



いわゆるアコースティック楽器を 'アンプリファイ' するに当たり、本来奏者がコントロールすべきダイナミズムの演出として必須なのがヴォリューム・ペダル。古くは1970年代の 'エレクトリック・マイルス' の時代、マイルス・デイビスもより繊細な音量コントロールを求めて1972年からヴォリューム・ペダルの老舗、DeArmondにトランペットの音量カーブに合わせたパッシヴ '610' の特注品をオーダーしました。そんな 'ダイナミクス' の恩恵と音楽の新しい '聴こえ方' についてこう述べております。

"ああやって前かがみになってプレイすると耳に入ってくる音が全く別の状態で聴きとれるんだ。スタンディング・ポジションで吹くのとは、別の音場なんだ。それにかがんで低い位置になると、すべての音がベスト・サウンドで聴こえるんだ。うんと低い位置になると床からはねかえってくる音だって聴こえる。耳の位置を変えながら吹くっていうのは、いろんな風に聴こえるバンドの音と対決しているみたいなものだ。特にリズムがゆるやかに流れているような状態の時に、かがみ込んで囁くようにプレイするっていうのは素晴らしいよ。プレイしている自分にとっても驚きだよ。高い位置と低いところとでは、音が違うんだから。立っている時にはやれないことがかがんでいる時にはやれたり、逆にかがんでいる時にやれないことが立っている時にはやれる。こんな風にして吹けるようになったのは、ヴォリューム・ペダルとワウワウ・ペダルの両方が出来てからだよ。ヴォリューム・ペダルを注文して作らせたんだ。これだと、ソフトに吹いていて、途中で音量を倍増させることもできる。試してみたらとても良かったんで使い始めたわけだ。ま、あの格好はあまり良くないけど、格好が問題じゃなく要はサウンドだからね。"

さて、そんなヴォリューム・ペダルで評価の基準とされているのが、'踏み心地' とバッファーの兼ね合いからくる音質の変化。単に音量の 'On/Off' だけならミュート・スイッチで十分なワケでして、あくまで操作性と立ち上がり 'カーブ' の最適な踏み心地を提供すべく、ペダルをギアポットから紐によって可動させ、安定して足を乗せられる踏み板とピッキングに対する追従性が問われます。バッファーに関してはそれぞれの '好み' に左右されますが、これもロー・インピーダンス仕様の製品であれば、上質なバッファーで一旦下げてしまった後の変化はそれほど気になるものではないようです。




OK Custom Design VPLM

正直わたしも、以前はそれほどヴォリューム・コントロールに対して気にかけておりませんでしたが、自らの足元へ 'ループ・サンプラー' 導入に対するダイナミズムの演出でヴォリューム・ペダルほど大げさじゃないもので何かないかと探しておりました。そんなヴォリューム・ペダルの使用に当たって注意したいのは、最初にベストな音量の設定をした状態から可動させた後、瞬時に元の設定位置へ戻すのが大変なこと。このようなニッチな不満に応えようと現れたのが、そんなヴォリュームの状態を視認できる '便利グッズ' と呼ぶべきレベル・インジケーター。音量の増減に合わせてググッとLEDが上がったり下がったり・・その視認性の高さ以外に見た目としても華やかで楽しく、チューナーアウトもしくはエクスプレッション・アウトの端子を持つヴォリューム・ペダルに対応しております。このOK Custom Designのものは、接続する製品によって極性を合わせる為に裏面のトリマーを調整してレベル・マッチングを図ることが出来るのも便利(現行品は筐体上面にトリマー装備)。


Neotenic Sound Purepad ①
Neotenic Sound Purepad ②

さて、残念ながら動画はありませんが、わたしの足元にはお馴染みNeotenic SoundのPurepadがスタンバイ。これは2つに設定された 'プリセット・ヴォリューム' をスイッチ1つで切り替えるもので、ひとつは通常の状態(赤いLEDのSolo)、もうひとつが若干ヴォリュームの下がった状態(緑のLEDのBacking)となっており、Padで音量を抑えながら全体のバランスを崩すことなく音量を上下できる優れもの。この切り替えによる音質の変化はありますが、音量を下げても引っ込みながらシャープなエッジは失われずまとまりやすい定位となります。そんなメーカーの '取説' は以下の通り。

"ピュアパッドは珍しいタイプのマシンなので使用には少し慣れとコツが必要かもしれませんので、音作りまでの手順をご紹介します。アコースティックの場合は図のように楽器、プリアンプ、ピュアパッド、アンプの順に接続します。エレキギターなどの場合は歪みペダルなど、メインになっているエフェクターの次に繋ぐとよいでしょう。楽器単体でお一人で演奏される場合は、初めにピュアパッドをソロ(赤ランプ)にしておいて、いつものようにプリアンプやアンプを調整していただければ大丈夫です。ピュアパッドのスイッチを踏んで、緑色のランプになったら伴奏用の少し下がった音になります。複数の人とアンサンブルをする場合には、初めにピュアパッドをバッキング(緑のランプ)の方にして、他の人とのバランスがちょうどいいようにプリアンプやアンプで調整します。そしてソロの時になったらピュアパッドのスイッチを踏めば、今までより少し張りのある元気な音になってくれます。また、ピュアパッドを繋ぐと今までより少し音が小さくなると思いますが、プリアンプよりもアンプの方で音量を上げていただく方が豊かな音色になりやすいです。もしそれでアンプがポワーンとした感じとなったり、音がハッキリクッキリし過ぎると感じたら、アンプの音量を下げて、その分プリアンプのレベルを下げてみてください。ツマミを回すときに、弾きながら少しずつ調整するとよいでしょう。"

そんなPurepadは従来パッシヴの仕様として発売されておりましたが、現在は新たにバッファー内蔵のアクティヴ版Purepadがそのカタログを飾っております。従来のパッシヴ版ではプリアンプや '歪み系' の後ろに繋いでマスタープリセット的に使用することを想定していたようですが、アクティヴ版は各種スイッチャーのチャンネルや楽器の先頭に繋いでブースターの補助的アイテムとするなど '使い勝手' が向上しました。








One Control Minimal Series Mosquito Blender Trail with BJF Buffer
Dreadbox Cocktail ①
Dreadbox Cocktail ②
Dr. Lake KP-Adapter

単なる '1 Loop' のセレクターなんてよくあるじゃん・・と思いきや、ギリシャの工房Dreadboxが製作するCocktailはこのサイズでかなりの多目的な仕事をしてくれます。大きなツマミは接続するエフェクツのミックス具合をブレンドしてくれるもので、フルでそのままのセレクター、ミックス具合を調整することで原音とエフェクツ音をパラレルに掛ける 'ループ・ブレンダー' に早変わり。製品としてはOne ControlからMosquite Blenderというのがありましたが、こちらはさらにクリーンの音量を稼いでくれる 'Boost' ツマミが秀逸で、特に古い製品に顕著な 'ゲイン落ち' するペダルのレベルをグイッと補正するのに威力を発揮します。こんな 'クリーン・ブースト' でレベル補正してくれる '1 Loop' セレクターと言えば、せいぜいBoot-LegのBuff & Loopぐらいしか見つからないんじゃないでしょうか?。また、こういった '変わり種1ループ' のものとしては、いわゆるコンパクト・エフェクターのセッティングの中にラインレベルのアウトボードをミックスするやり方もあります。特にステレオ入出力を備えた機器に有効なのが新潟の楽器店あぽろんプロデュースのDr. Lake KP-Adapter。そもそもはKorgのDJ用エフェクターであるKaosspadをギターで用いる為に製作されたものですが、あらゆるラインレベルの機器に対してキチンとした 'インピーダンス・マッチング' が可能。同様の機能でモノラル使用前提では後述するUmbrella Companyの多目的ループ・ブレンダー、Fusion BlenderやBoardbrain Music Transmutronも基板内部のジャンパ差し替え、内部DIPスイッチ切り替えによりインピーダンス対応します。









Umbrella Company Fusion Blender
Dwarfcraft Devices Paraloop (discontinued)

そしてさらに凝った音作りへの挑戦、すでに 'タンスの肥やし' となり使わなくなったペダルをリサイクルすべく組み合わせるUmbrella Companyの多目的セレクター、Fusion Blenderも面白い。通常のA/Bセレクターのほか、AとBのループをフィルターによる帯域分割で '同時がけ' を可能とするなど、コンパクト・エフェクターの使い方にいろいろなアイデアを提供する素敵な一品。また、本機は基盤上の内部ジャンパを差し替えて 'Hi or Loインピーダンス' を切り替えることで、ライン・レベルのエフェクターをギターなどでそのまま使うことが出来ます。そんな本機の特徴であるフィルターの上下帯域分割による '同時がけ' をもっと簡易に出来るものとして、すでに工房を畳んでしまったDwarfcraft DevicesのParaloopも中古で見かけたら手に取って欲しい一品。








BoardbrainのTransmutronは、パラレルで個別、同時にミックス出来るほか 'Fission'、'Fusion'、Fallout' の3種モードにより、2つのLoopの機能を変更することが可能なコンパクト・エフェクターとエクスプレッションCV、'ユーロラック' モジュラーシンセのCVによる統合したスイッチング・システム。今後、ペダルと共にモジュラーシンセにおけるCV/Gateなどと同期する統合システムを見越した一台として、このBoardbrain Musicの挑戦はもっと注目されることになるでしょう。

●Fission
このモードでは、入力された信号の周波数帯を分割し、それぞれを2つのLoopにスプリットして再びミックスして出力出来ます。Umbrella Company Fusion BlenderやVocuのMagic Blend Roomなどと同種の機能ですね。またエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。

●Fusion
このモードでは、2つのLoopのバランスを調整してブレンドすることが出来ます。これらミックスのバランスは筐体真ん中にあるSplitpointツマミ、またはエクスプレッション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。これはDwarfcraft Devices Paraloopと同種の機能に当たりますね。

●Fallout
このモードでは、2つのLoopの前にワイドノッチ・フィルターを適用して、Splitpointツマミやエクスプレション・ペダル及びモジュラーCVでのコントロールにも対応。ペダル・コントロールすることでワウのような操作を付加することが出来ます。また本機には、これとは別にHicut、Locutのフィルターを搭載して音作りに適用することが出来ます。

ちなみに本機搭載のフィルターは12dB、24dB、48dB/Octのスロープ角度を選択出来、それぞれFission、Falloutモードのワイドノッチ・フィルターにも適用されます。もちろん、Ch.2のLoopでフェイズアウトが起こった際の位相反転にも対応出来るのは素晴らしい。そして2つのLoopからなる 'Send/Return' にはフォンと 'ユーロラック' モジュラーでお馴染み3.5mmミニプラグが同時対応し、さらにこの3.5mmのLoopには内部DIPスイッチにより楽器レベルとラインレベルで 'インピーダンス' を切り替えて使用することが出来ます。







まさに 'オシレータのないアナログシンセ' ともいうべき変態フィルターとして、ベルギーでひとりHerman Gillisさんが手がけるSherman Filterbank 2なども発想としては モジュラーシンセ' と同義なもの。 クラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロとしてquartz-headやrabitooほか、この動画のユニット 'びびび' で活動するサックス奏者の藤原大輔さんはそんな 'Filterbank使い' の代表格。Sherman Filterbank 2とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使し、どんな音をブチ込んでもまったく予測不能なサウンドに変調しながら、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露します(動画途中の 'Intermission' は長く第2部は58:33〜スタート)。そしてサックスによる刻々とパーカッシヴなフレイズでリアルタイム操作するミニマルダブの反復、そして 'スムースジャズ' の進化系?とばかりにリリシズム溢れるフレイズの反復で夜明け前を '離陸' するサックスのWarren Walkerさん。皆、どれもモジュラーシンセから触発された '変調' こそ作曲と即興を越境する可能性に賭しているようです。







Vox Model V251 Guitar Organ ①
Vox Model V251 Guitar Organ ②

ちなみにこのような器楽演奏の 'シンセサイズ' は古くから探求されており、例えばギター・シンセサイザーのような分野ではピッキングのトリガーで巨大なモジュラーシンセと同期、発音させることに技術者、一部奏者らがご執心しておりましたね。しかし、この手の機器の元祖に当たるVox Guitar Organの当時のデモンストレーション番組を見ても明らかなように、結局は今弾いているのがオルガンなのか?ギターなのか?という、何とも '色モノ' 的ブラインドフィールド・テストの域を出なかったことが露呈しちゃってる(苦笑)。こーいうのはサンプラー登場時に猫の鳴き声で鍵盤弾けます、みたいな頃まで伝統的にひきづっていて(笑)、ま、分かりやすいんですけどね。













Drolo Fx Molecular Disruptor
Pladask Elektrisk Fabrikat
Red Panda Tensor

そんなモジュラーシンセとの組み合わせではCV/Gateからの同期によりフレイズのランダマイズ、いわゆる 'グリッチ/スタッター' の効果へのアプローチが楽しいのですが、最近はDSPを駆使してお手軽に 'グラニュラー・シンセシス' な効果を生成するペダルも用意されております。ベルギーの工房Drolo FxのMolecular Disruporやノルウェーの工房Pladask ElektriskのFabrikat、この手の機器としては今や老舗感すらあるWMDのTensorなどなど・・。とにかくセンス一発が問われてしまう '飛び道具' なので上手く付き合えるかどーかは貴方次第。








Bastl Instruments Thyme - Robot Operated Digital Tape Machine ①
Bastl Instruments Thyme - Robot Operated Digital Tape Machine ②

そしてわたしの環境では現在探求中の一台として2017年にチェコ共和国からやってきた謎の機器、Thyme。一応本機には 'Robot Operated Digital Tape Machine' と名付けられておりますが、その多種多様な機能はいわゆるデジタル・ディレイの変異系として片付けられるものではありません。わたしも購入してチョロチョロ思い出したように使ってはしばし放置・・だって日本語取説が50ページ近くもあるのだ(汗)。ElektronやBastlの 'デジタル・ガジェット' でお馴染みCuckooの動画解説だって36分もあるんですヨ、まったく(汗)。とりあえず、本機筐体の真ん中辺りに並ぶDelayセクション3つのツマミCoarse、Fine、Spacingをテープの 'バリピッチ' の如く操作し、それをTape SpeedとFeedback、Filterで変調させながらフレイズが破壊されていくというのが基本なんですが・・なかなかの難物なり。基本はステレオ入出力ながらモノラルもOK、またラインレベルから楽器レベルに至るまで幅広い入力インピーダンスに対応しております。







そしてもうひとつのRobotセクションではFM変調の如く金属質なトーンへと変調し、それを真下にズラッと並ぶ6つの波形とエンヴェロープ、外部CVやMIDIからの操作と同期・・もちろんこれらのサウンドを8つのプリセットとして保存と、ここでは説明しきれないほどの機能満載。とにかくやることがいっぱいあって(苦笑)、各ボタンやツマミに複数パラメータが割り当てられることからその '同時押し'、'長押し' といったマルチに付きものの大嫌いな操作満載で大変なのです・・。とりあえず、足元にズラッと機材を並べてあれこれ繋ぎ変えては足りない機能があればネット漁ってポチッ、翌日には真新しいガジェットがその狭い部屋のスペースを占拠するという日常に終止符を打つべく?現在、わたしはほぼこの一台と格闘してそこから発奮する効果に驚きたいのですヨ。まさにユーザーがどう向き合い、発見してどう使いこなしていくのかの道程でもありまする。







Toadworks Enveloope (discontinued)

さて、そんな 'シンセサイズ' によるエンヴェロープの機能を 'ループ・セレクター' に特化したペダルとして先鞭を付けたのは、今ではすっかりその名前を聞くことも無くなった工房、ToadworksのEnveloope。コレ、いわゆる単体機というより1ループのセレクターにエンヴェロープの機能を内蔵して、そのインサート内のペダルを攻撃的に遊んでみようというもの。発想としてはDeath by AudioのTotal Sonic Annihilationや2ループをミックスするUmbrella Company Fusion Blenderなどと近い製品ですね。 動画では同社のトレモロPipelineをループにインサートしてのエンヴェロープ操作、なんですが・・地味だなあ。本機はSensitivityとReleaseの2パラメータを軸にして、実は5通りほどの操作が楽しめるとのことでどれどれ・・取説を見てみよう。2つのトグルスイッチがそれぞれのモードに対応しており、通常のトゥルーバイパス・モードと 'Dyn' バイパス・モードがあり、'Dyn' モードにすると隣の 'Direction' スイッチの 'Normal' と 'Rev' の2モードに対応します。それぞれ 'Dynamic Forward' と 'Dynamic Backward' からなり、'Forward' では入力信号を複数に分割してエンヴェロープ操作、そして一方の 'Backward' はそれが逆となり(だから 'Rev')、主に基本の信号はループからのものとのことですが段々と書いていてワケわからん状態になっとります(汗)。ま、'ディスコン' になったのも納得というか、これが 'お助け' になる人がどのくらいいるのか・・謎アイテム(汗)。





Earthquaker Devices Swiss Things

そしてエフェクター本体ではありませんが、それらを複数組み合わせることで効果的な '便利アイテム' としてお馴染みライン・セレクター。あのEarthquaker Devicesからも多目的なライン・セレクター、Swiss Thingsが登場です。本機は '2 Loop'を基本にしたトゥルーバイパス仕様でA/B-Y出力、バッファー搭載のチューナー出力、最大20dBまでのクリーン・ブーストとヘッドルームの高いバッファー出力、外部エクスプレッション・ペダルによるヴォリューム・コントロール、同社開発のフレキシスイッチは電子リレー式のトゥルーバイパスを元に踏み方の違いで通常のラッチスイッチ、アンラッチスイッチへの切り替えが可能。





Old Blood Noise Endeavors Maw ②
Radial Engineering Voco-Loco
Eventide Mixinglink Micpre w/ Fx Loop
Zorg Effects Blow !

そんなPigtronixとOld Blood Noise EndeavorsからそれぞれXLRマイク入力&DIに 'マルチ・エフェクツ' を搭載した管楽器奏者垂涎の逸品、KeymasterとMawが登場。Keymasterの方は残念ながら 'ディスコン' となりましたが、このMawの構成はChannel Aにオクターバーとモジュレーション、空間系、Channel Bにモジュレーションと空間系をそれぞれ10種配置、このA、B間にその他コンパクト・エフェクター(例えばワウペダルなど)を組み合わせるべく 'センド・リターン' を搭載して、さらにToneツマミからSaturationまで個別に用意するなど至れり尽くせりな作りが嬉しい。ちなみに両機共にXLR入力はファンタム電源には対応しておりません(ダイナミックマイク使用に適しています)。しかし、あれこれいろんな機器の流用による 'トライ&エラー' で散財していた頃を知っている自分からしたら良い時代になったもんだ。もちろん、この手の機器でファンタム電源を備えた 'インサート付き' マイク・プリアンプとしては管楽器奏者の定番、Radial Engineering Voco-LocoやEventide Mixinglink、Zorg EffectsのBlow !が控えておりまする。










Horn-FX

ここからより大仰なものとしてスイッチング・システムがあり、そのまま直列で繋いでいたものをトラブル含めて個別の 'ループ' に分けることで2つ、3つくらいのペダルをA/Bそれぞれのループで切り替えるA/Bライン・セレクターや、'A or B' のみならず 'A+B' の流れで並列にミックス出来るもの、さらにMIDIと統合してディレイやピッチ・シフターなどと連動した大掛かりなものに至るまで用意しております。個人的にはエレクトリック・ギターのようなソロとバッキングの使い分けしないので管楽器でここまで緻密にプログラムするものは必要はないけど・・色々試してみるとペダルへの理解がグッと深まること間違いなし。ちなみにこういった管楽器の 'アンプリファイ' を積極的に発信するAaron Janikさん主宰の 'Horn-FX' ではあらゆるペダルのレビュー、管楽器とPAに関するフォーラムなどで賑わっておりますが、その最初のところで悩む 'セッティング' の基礎をまとめた 'HornFX: A Getting Started Guide' をDouglas Levin氏との共著で執筆しております。とりあえず管楽器の '電化' は邪道であるとか、これまでの固定観念を捨てて楽しみましょう。

2020年9月2日水曜日

バーカスベリーの時代

いわゆるグーズネック式のマイクをベルに装着する以前、管楽器の 'アンプリファイ' として一般的だったのがマウスピースに穴を開けてピエゾ・ピックアップを装着するやり方でした。いくつかのメーカーからその手の製品が登場しましたけど最も普及したと思われるのがピックアップの老舗、Barcus-berryのもの。俗にマウスピース・ピックアップにおける収音方法を指して 'バーカスベリー・ピックアップ' と呼ばれるくらい、その小さな金属製のピン状本体と短いコードが一緒になったそれは、安価な単製品として市場に '捨て置かれて' いたのです。





なぜ、ここで '捨て置かれて' などと表現したのかといえば、いわゆるアコースティックギターにおける 'エレアコ' のPA的知識に比べて、ほぼ管楽器奏者に対する基本的な知識、セッティングなどの具体的な説明がなされていないこと。メーカーもピックアップ本体と薄っぺらな最低限の仕様書一枚のみ封入で、とにかくマウスピースのシャンク部に穴を開けて接合した後は別売りのプリアンプ、その後はほぼPAのエンジニアに '丸投げ' して下さい、という程度の扱いなのです。それは、この手の製品が市場のどこのコーナーに陳列されていたのかを見てもよく分かり、後年わたしも管楽器店の 'デッドストック' としていくつか発見しましたが、店員もさっぱり分からなければそれをチェックする基本的なPAシステムを備えた場所もナシ。多分、奏者はステージの現場に持って行って初めてそれと '対面' することになっていたんじゃないかと想像します。ここで以下、そんなBarcus-berryピックアップの愛用者であったラッパ吹き、近藤等則さんのエピソードをご紹介。米国で突然のエレクトリック・バンド結成と相まって、コンドーさんもこのピックアップと '遭遇' した当惑感をその後の '散財' のきっかけと共に語ります。

- 近藤さんの電気トランペットは、レコードですと「Metal Position」から正式にクレジットされてますけど、その前から色々と研究されていたと思うんですが、その最初の頃に組み上げたところから、今の電気トランペットのシステムまで、かなり色々と改良を加えてると思いますが、そのあたりの大きな違いとか、近藤さんが開発してきたところとかは何かありますか?

K - 電気トランペットにしようとしたのは1979年だったかな。ビル・ラズウェル達とWorld Mad Musicってバンドを作ったんだ。フレッド・フリス、ヘンリー・カイザー、ビル・ラズウェル、フレッド・マー、オレって言う、このメンツでね。あいつらは完全にフリー・ロックやろうってことで、ニューヨークでやり始めたらとにかくあいつらは音がデカい。ヘンリーもデカいギターアンプ鳴らしてるわ、フレッド・フリスもあんなヤツだし、ビルもこんなデカいベースアンプでブウゥン!って弾くし、フレッド・マーも元気だったからね。スクリッティ・ポリッティの前で。で、オレがどんなにトランペットをマイクにぶっ込んでも、全然音がないんで頭にきて、「もうこれは電気だ」って次の日に40何丁目行ってピックアップ買ってきてブチ込んでやり始めたんだ。「必要は発明の母」っていう(笑)。

やり始めたら、そこから悩みの始まりでね。電気ラッパ用の機材なんて誰も売ってないわけだから。ピックアップだけ売っててね。だからどうやってチューニングするのか分からないし、えらい試行錯誤があったよ。すでにマイルスは70年代前半にそれをやってて、マイルスなりのその電気のやり方を参考にはしたけど、あれじゃ気に入らないからもうちょっとオレなりの、ってことをやりだすとね。

- マイルスもあんまりやらなくて、ちょっとで止めちゃったようなイメージがあります。

K - でも、あの3年間ぐらいはマイルスは素晴らしい探求をしたわけだけどね。

- 期間的には短いですよね。

K - ピックアップを入れて、マイルスは基本的にワウを使った。ディレイとか複雑なものは使わなかった。基本的にワウの発想だった。ちょっと話は変わるけど、ワウこそ、あれはトランペットだからね。ギターがワウを作ったのは、トランペットでワウをやってたのを真似したんだから。アコースティック・トランペットに、トイレを掃除するゴムの丸いヤツあるだろ?あれをアメリカの黒人達がトランペットに当てて、ワォンワォンってやり出したんだ。それをギターに応用した。基本的にはトランペットからワウはスタートしたんだ。サックスじゃできないんだから。(電気トランペットの開発には)家一軒建つぐらいの金は使ったね。 






1965年のH&A Selmer Varitoneをきっかけに始まった管楽器の 'アンプリファイ' は、後続するC.G. Conn Multi-Vider、Vox / King Ampliphonic、Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds、そしてHammond / Innovex Condorという流れの中、ピックアップの老舗Barcus-berryによりこの製品の特許を1968年3月27日に出願、1970年12月1日に創業者のLester M. BarcusとJohn F. Berryの両名で 'Electrical Pickup Located in Mouthpiece of Musical Instrument Piezoelectric Transducer' として取得しております。特許の図面ではマウスピースのシャンク部ではなく、カップ内に穴を開けてピックアップを接合するのにビックリ。しかし、カップ内で音をピックアップするとプシャ〜とした息の掠れる音が入り、最初の動画はPiezoBarrelピックアップのものですが、こんな独特な音色となってイマイチ扱いにくいのでシャンク部に穴を開けた方が使いやすいと思います。多分この奏者は、トロンボーンのギャップの関係でピックアップを装着出来るスペースが無かったが故の苦肉の策なのかも知れませんね。一方、微細な振動をトリガーして鳴らすということからMIDIノートに変換して、譜面ソフトと同期するのに利用したいかにも 'マイコン' 黎明期のデモ動画。こっちはリムの方に穴を開けています。








ユーザーとしては、ラリー・コリエルのバンド、The Eleventh Houseにランディ・ブレッカーの後釜で加入したマイケル・ローレンス、フランク・ザッパのバンドのホーン陣を仕切るイアン・アンダーウッドやトロンボーンのブルース・ファウラーらが使うことでこの製品普及に大きく貢献したと思われます。当時、Barcus-berryはマウスピースに穴を開ける金管楽器用1374、木管楽器用1375-1のほか、単純にリードの下側に貼り付けて 'アンプリファイ' する廉価版1375も用意しており、その他、後述するジャコ・パストリアス・バンドのボブ・ミンツァーらはバス・クラリネットに用いて吹いておりました。





金管用マウスピース・ピックアップ変遷。最初の写真のものは1970年代初めに製品化された金管楽器用1374で、中継コネクターを介して2.1mmのミニプラグでフォンへと接続します。中継コネクターにぶら下がるタイラップはラウンドクルーク部とリードパイプ部分をグルッと引っ掛けておくという仕様でして、この会社の製品はその '作り' という点でも結構荒っぽいんですよね。これ以後、1970年代後半には3.5mmのミニプラグに仕様変更され、金管楽器用は中継コネクターを専用のクリップでリードパイプに着脱できるようになったのが真ん中の写真のもの。この時期の製品を個人的に調べてみて分かったのは、1982年製造と1983年製造のものでピエゾの感度がかなり変わってしまったことでして、正直、1983年製は 'ハズレ' と言いたいくらいエフェクツのかかりが悪いですねえ(謎)。そして1990年代半ばに発売されるも少量で生産終了した 'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001が同社 '有終の美' を飾りました。スクリューネジによるピックアップ本体の着脱とソケット内部にポリプロピレンのスクリーンで防水するなど、当時愛用していたラッパ吹き、近藤等則さんは後の自作マウスピース・ピックアップ製作においてほぼ踏襲しております。そんなBarcus-berryが社運を賭けて開発したと思しき6001は同社で最も高価な製品となり、当時代理店であったパール楽器発行の1997年のカタログを見ると堂々の65,000円也!しかし、すでにグーズネック式のマイクがワイヤレスと共に普及する時代の変化には太刀打ちできませんでした。








さて、決定的にこの製品の市場拡大で貢献したのはザ・ブレッカー・ブラザーズのランディ・ブレッカーでしょう。それまでHammond / Innovex Condorの付属品として用意されていたShureのCA20Bからスイッチ、より小型化されたBarcus-berryピックアップはこの収音方法をやめる1994年頃までトレードマーク的に装着されておりました(なぜか当時、弟マイケルの方は旧態然なピックアップのほか貼り付け型の1335を使用)。ちなみに面白いのは、1982年のジャコ・パストリアス・グループ参加時の 'マウスピース周り' の中継コネクターで、ここではラウンドクルーク部とリードパイプ括り付けの 'タイラップ' から専用のクリップでマウントする方式に変更。しかし動画のランディは、そのマウントするパーツが未だ従来のタイラップも付けたまま状態という、いかにも過渡期の勇姿を拝むことができます。そんな当時の 'アンプリファイ' について近年、ランディは今のステージと昔話を交えながらこう述べておりました。

- ステージを見せてもらいましたが、ほとんどずっとエフェクトを使っていましたね。

R - 今回のバンドのようにギターの音が大きい場合には、エフェクトを使うことで私の音が観客に聴こえるようになるんだ。大音量の他の楽器が鳴る中でもトランペットの音を目立たせる比較的楽な方法と言えるね。トランペットとギターの音域は似ているので、エフェクターを使い始める以前のライヴでは常にトラブルを抱えていた。特に音の大きいバンドでの演奏の場合にね。それがエフェクターを使い始めた一番の理由でもあるんだよ。ピッチ・シフターで1オクターヴ上を重ねるのが好きだね。そうするとギターサウンドにも負けない音になるんだ。もし音が正しく聴こえていれば、アコースティックな音ともマッチしているはずだしね。

- ライヴではその音を聴いていて、エッジが増すような感じがしました。

R - うん、だからしっかりと聴こえるんだ。それに他の楽器には全部エレクトリックな何かが使われているから、自分もエレクトリックな状況の一部になっているのがいい感じだね。

- そのピッチ・シフトにはBossのギター用マルチ・エフェクター、ME-70を使っていましたね?

R - うん、そうだ。ディレイなどにもME-70を使っている。ただ使うエフェクターの数は少なくしているんだ。というのもエフェクターの数が多すぎるとハウリングの可能性も増えるからね。ME-70は小型なのも気に入っている。大きな機材を持ち運ぶのは大変だし、たくさんケーブルを繋ぐ必要もないからね。

- そのほかのエフェクターは?

R - BossのオートワウAW-3とイコライザーのGE-7、ほかにはErnie Ballのヴォリューム・ペダルだよ。本当はもっとエフェクツを増やしたい気持ちもあるんだけど、飛行機で移動するときに重量オーバーしてしまうから無理なのさ。もっとエフェクトが欲しいときにはラップトップ・コンピュータに入っているデジタル・エフェクツを使うようにしているね。

- マイクはどんなものを?

R - デンマークのメーカーDPA製の4099というコンデンサー・マイクだ。このマイクだと高域を出すときが特に楽なんだ。ファンタム電源はPA卓から送ってもらっている。

- 昔はコンタクト・ピックアップを使っていましたよね?

R - うん、エフェクツを使い始めた頃はBarcus-berryのピックアップを使っていたし、マウスピースに穴を開けて取り付けていた。ラッキーなことに今ではそんなことをしなくてもいい。ただ、あのやり方もかなり調子良かったから、悪い方法ではなかったと思うよ。

- ちなみにお使いのトランペットは?

R - メインはYamahaのXeno YTR-8335だ。マウスピースは・・いつも違うものを試しているけど、基本的にはBach 2 1/2Cメガトーンだね。

- 弟のマイケルさんとあなたは、ホーンでエフェクツを使い始めた先駆者として知られていますが、なぜ使い出したのでしょうか?

R -  それは必要に迫られてのことだった。つまり大音量でプレイするバンドでホーンの音を際立たせることが困難だったというのが一番の理由なんだ。最初は自分たちの音が自分たち自身にちゃんと聴こえるようにするのが目的だったんだよ。みんなが私たちを先駆者と呼ぶけど、実際はそうせざるを得ない状況から生まれたのさ。

- あなたがエフェクターを使い始めた当時の印象的なエピソードなどはありますか?

R - 1970年当時、私たちはDreamsというバンドをやっていた。一緒にやっていたジョン・アバークロンビーはジャズ・プレイヤーなんだけど、常にワウペダルを持って来てたんだよ。彼はワウペダルを使うともっとロックな音になると思っていたらしい。ある日、リハーサルをやっていたときにジョンは来られなかったけど、彼のワウペダルだけは床に置いてあった。そこで私は使っていたコンタクト・ピックアップをワウペダルにつなげてみたら、本当に良い音だったんだ。それがワウを使い始めたきっかけだよ。それで私が "トランペットとワウって相性が良いんだよ" とマイケルに教えたら、彼もいろいろなエフェクターを使い始めたというわけだ。それからしばらくして、私たちのライヴを見に来たマイルス・デイビスまでもがエフェクターを使い出してしまった、みんなワウ・クレイジーさ(笑)。

- マイケルさんとは "こっちのエフェクターが面白いぞ" と情報交換をしていたのですか?

R - うん、よくやっていたよ。彼の方が私よりもエフェクツにハマっていたから、時には彼がやっていることを理解できないこともあったもの。でも私たちはよく音楽に関する情報を交換していたね。特に作曲に関してや、バンドの全体的なサウンドに関していつも話をしていたよ。それにお互いに異なるエフェクツを試すことも多かった。サックスに合うエフェクトとトランペットに合うエフェクトは若干違うんだよ。ワウは彼のサックスには合わなかったよ(笑)。







Shure CA20B Transducer Pick-Up

ちなみにこちらは 'Barcus-berry前夜' とも言うべき、ランディが愛用していたHammond製作のInnovex Condor RSMとShureのマウスピース・ピックアップCA20Bの頃のもの。1971年と72年にMainstreamから立て続けにリリースされたキーボーディスト、ハル・ギャルパーの 'The Guerilla Band' と 'Wild Bird' でその '電化ぶり' を開陳、さらにラリー・コリエル率いるThe Eleventh Houseやビリー・コブハムのグループへの参加で特に初期ランディ・ブレッカーのイメージを決定付けました。このCA20Bは、スクリューネジでピックアップ本体を着脱してピックアップ台座とシャンク部を繋ぐアダプターはゴムOリングで嵌め込む仕様。その為、ステージ上で派手なアクションと共に楽器を振り回すとゴムOリングの劣化に伴い外れてしまうので、同時期の愛用者であるマイルス・デイビスのステージ動画を見ると、アダプターとピックアップ本体をビニールテープでグルグル巻きにする荒技で凌いでおりますね。たまにピックアップの反応が鈍いのか、ステージ後ろからロード・マネージャーのクリス・マーフィーがフラフラと出て来てギュッとピックアップをマウスピースに押し付ける '応急処置' を確認することが出来まする(笑)。そんなピックアップは以下、ShureのHPから質問コーナーに寄せられたこのピックアップに対する回答。

"Q - わたしはShurre CA20Bというトランペットのマウスピースに取り付けるピックアップを見つけました。それについて教えてください。"

"A - CA20Bは1968年から70年までShureにより製造されました。CA20BはSPL/1パスカル、-73dbから94dbの出力レベルを持つセラミックトランスデューサーの圧電素子です。それはHammond Organ社のInnovex部門でのみ販売されていました。CA20BはShureのディーラーでは売られておりませんでした。

CA20Bは(トランペット、クラリネットまたはサクソフォンのような)管楽器のマウスピースに取り付けます。穴はマウスピースの横に開けられて、真鍮のアダプターと共にゴムOリングで埋め込みます。CA20Bはこのアダプターとスクリューネジで繋がっており、CA20Bからアンバランスによるハイ・インピーダンスの出力を60'ケーブルと1/8フォンプラグにより、InnovexのCondor RSMウィンド・インストゥルメンツ・シンセサイザーに接続されます。Condor RSMは、管楽器の入力をトリガーとして多様なエフェクツを生み出すHammond Organ社の電子機器です。Condorのセッティングの一例として、Bass Sax、Fuzz、Cello、Oboe、Tremolo、Vibrato、Bassoonなどの音色をアコースティックな楽器で用いるプレイヤーは得ることができます。またCA20Bは、マウスピースの横に取り付けられている真鍮製アダプターを取り外して交換することができます。

Condorはセールス的に失敗し、ShureはいくつかのCA20Bを生産したのみで終わりました。しかし、いく人かのプレイヤーたちがCA20Bを管楽器用のピックアップとしてギターアンプに繋いで使用しました。その他のモデルのナンバーと関連した他の型番はCA20、CA20A、RD7458及び98A132Bがあります。"





こちらはCecil Gullicksonという人が当時Hammondの代理店業として、自分で製作した10ページほどの 'Innovex Condor GSM/RSM' のカタログからこのShure CA20Bのバリエーション一覧。こちらでは 'Innovex' ブランドを象徴する緑のマークではなく本家 'Shure' のマークとなっておりますね。ちなみにこのピックアップはCondor RSMのユーザーの為にShureが付属品として用意したもので一般には手の入りにくい貴重なもの。このカタログの本家 'Shure' ブランドや緑のマークの付いた 'Innovex' ブランド以外では、他に 'ISC Audio' ブランドのものが存在します。







動画はギター用GSMのものですが、基本的構成はGSMと管楽器用RSMにそれほどの違いは無いのでほぼこのような出音となります。この世界初の 'ギターシンセ' と呼ばれるCondorはHammondがOvationと協業して開発したもので、その初期のユーザーでもあるジミ・ヘンドリクスはニューヨークの馴染みの店Manny,sで購入しております。こちらはManny'sの領収書が残っており、ヘンドリクスは1969年11月7日にシリアル・ナンバー1145のCondor GSMを480ドルでMaestro Echoplexと共に購入。使用楽曲として(今のところ)唯一確認出来るのはヘンドリクス没後に発売された未発表曲集 'Rainbow Bridge' の中に 'アメリカ国家' のスタジオ録音版が収録されており、これの 'シンセライク' にキラキラしたトレモロのギターによるオーバーダビングで本機が使われているのでは?という噂があるのですヨ。この曲のベーシックトラックは1969年3月18日にニューヨークのレコード・プラント・スタジオで収録され、同年11月7日にヘンドリクスがManny,sで本機Condor GSMを購入、さらにオーバーダブの作業を経て完成させた、というのが今のところわたしの '見立て' なのですが・・。
















1965年のH&A Selmer Inc. Varitoneを出発点に登場した管楽器用マウスピース・ピックアップの数々。そもそもはローランド・カークの 'ひとり四重奏' な奏法にヒントを得て製品化されたこれら初期サウンド・システムは、C.G. Conn Multi-Vider、Robert Brilhart Co. R-B Electronic Pick-Up、Vox / King Ampliphonic、Gibson / Maestro Sound System for Woodwindsといったピックアップ単品での販売というより、専用コントローラーの付属品として用意されていたのが基本でした。エディ・ハリス、ソニー・スティット、クラーク・テリー、ナット・アダレイ、リー・コニッツ、ドン・エリス、ルー・ドナルドソン、キャノンボール・アダレイ、ポール・ジェフリー、アービー・グリーンといった旧来のジャズメンからこの時代の変化と呼応するように彷徨い出て来たトム・スコット、ラスティ・ブライアント、ソフト・マシーンのエルトン・ディーンとリン・ドブソン、ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションのイアン・アンダーウッドとバンク・ガードナー、もちろんランディとマイケルのブレッカー兄弟も早いアプローチでこの黎明期に注目を集めました。








閑話休題。そして我らが '電気ラッパの伝道師' である近藤等則さんもこのニッチなBarcus-berryのマウスピース・ピックアップを印象付けたひとり。特に1980年代のIMAバンドにおける勇姿は記憶に残っているお方も多いのでは?。ここでの自作による 'スピーカー・スクラッチ' は参加したハービー・ハンコックの作品 'Sound System' でも披露しておりましたね。この時代のコンドーさんのラッパは、いかにもBarcus-berryならではの痩せた硬い音質、プシャ〜としたノイズと共に量感の無い音色で後年のマイクを併用してのトーンと比較するとピエゾ特有の '困った感じ' がよく分かります。そんなIMA時代に愛用した 'ピエゾ' 型1374からソロ後の 'エレクトレット・コンデンサー' 型6001を経て2007年、意を決してDPAのミニチュア・マイクロフォンを流用してのオリジナル・ピックアップ製作に動いたのも納得。





Barcus-berry 1330 Standard Preamp
Barcus-berry 1330-S Standard Pre-Amplifier
Barcus-berry 1332 Studio Pre-Amplifier
Barcus-berry 1332-1 Studio Pre-Amplifier
Barcus-berry 1333 Super Boost
Barcus-berry 1335 Pre-Amp Equalizer
Barcus-berry Hot Dot Box

そんなBarcus-berryの 'ピエゾ型' マウスピース・ピックアップはパッシヴなので、メーカーから別に汎用のプリアンプが用意されておりました。これも時代ごとのモデルチェンジが激しく、初期の1330S High Impedance 'Standard' Preamplifier、Super Boostの1333や1433-1、1980年代からは3Vのボタン型リチウム電池のプリアンプがピックアップと同梱して販売され、その後の1990年代頃からはUniversal Interface 3500Aなどが登場しました。ちなみに、'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001に対応したBuffer Preamp/EQ 3000Aはこれらとインピーダンスが違うので共用することはできません。写真のものは1970年代後半の1430 Standard Pre-Ampと1432 Studio Pre-AmpというDI出力の付いたもので、9V電池のみならずDC9V電源の駆動も可能とします。ちなみに、このようなマウスピース・ピックアップとステージなどその環境においては、1970年代まではピックアップからの出力をステージ上のアンプで鳴らしたものをマイク録りしていたのに対し、1980年代以降はPAのサウンド・システム全体のクオリティーが向上したことと相まってラインによる音作りが一般化、ほぼDIからPAへと送るやり方に変化しました。ただ大きな音を鳴らせればよかった時代から 'アンサンブル' における 'エレアコ' とPAの関係、それは小型化されたグーズネック式のワイヤレス・マイク登場の舞台を用意したのだと思うのです。







Barcus-berry C5200 (C5600) Electret Condenser Pick-Up ①
Barcus-berry C5200 (C5600) Electret Condenser Pick-Up ②

現在、その他の製品としては元々フルートの 'アンプリファイ' に力を入れていた同社らしく頭管部に差し込む6100、サックス/クラリネット用としてベル内側にベルクロで貼り付ける(荒っぽい!) 'エレクトレット・コンデンサー' 式のC5200 (C5600)などの一風変わったピックアップを供給するなど、相変わらず '斜め上' のセンスで細々と展開しておりまする。また、一風変わったものとしては 'エレクトレット・コンデンサー' 式ピックアップとして一時期、金管楽器用の5300というのがラインナップされておりました。これはラッパのベルのリム縁にネジ止めしてマウントするもので、1981年に復帰したマイルス・デイビスもメーカーは違いますが同種のピックアップをステージで使用しておりましたね。当時、もの凄いお金のかけたワイヤレス・システムだったそうですが、このBarcus-berryの方はすでに '廉価版' としてリーズナブルなお求めやすい価格で提供されました。こんな構造ですけどオープンホーンはもちろんミュートもちゃんと拾うナチュラルな収音であるものの、ワウなどのエフェクツをかけると簡単にハウってしまいます。基本的にはリヴァーブやディレイ程度で '生音' の収音に適したピックアップなのですが、これもグーズネック式マイクの登場であっという間に '過去の遺物' に・・(デイビスもあの '傘の柄' のようなワイヤレス・マイクに変えちゃいましたしね)。





Piezo Barrel on eBay
Piezo Barrel Wind Instrument Pickups
Piezo Barrel Instructions

さて、そんなわたしも長らく 'Barcus-berryユーザー' を経て現在はオーストラリアでひとりSteve Fransisさんの製作するマウスピース・ピックアップ、PiezoBarrelに切り替えて愛用しておりまする。コイツを使ってしまうとピエゾひとつとはいえ、やはり相応の技術の進歩というのはありますね。とりあえず、これまでありがとうBarcus-berry!の気持ちでございます。多謝。