管楽器と ‘歪み’、これは無謀と知りながらも探求すべきテーマかもしれません。ギタリストにとって ‘歪み’ とはエレクトリック・ギターの音色と同義語であり、アンプによる ‘歪み’ からコンパクト・エフェクターに至るまで、究極を求めての ‘長い旅路’ に出ている人が大半でしょう。足元に3つ、4つは当たり前で、スイッチング・システムを用いてはブースター、オーバードライブ、ファズ、ディストーションと踏み分けております。さて、管楽器における ‘アンプリファイ’ を目指すとき、最も鬼門とされているのがこの ‘歪み’ であり、ギターにとって魅力的なスパイスとなるものが、管楽器ではむしろ演奏を妨げる要因として立ちふさがります。轟音とフィードバックはエレクトリック・ギターの専売特許ですが、’歪む=潰れる=ノイズ増える=ゲインアップ=ハウリング’ という公式は、まず管楽器の ‘アンプリファイ’ をする上で肝に命じておきたい言葉です。
こちらは1968年のドン・エリス・オーケストラ。いち早くラッパを ‘アンプリファイ’ にしたのみならず、MaestroのEchoplexやRing Modulatorなどをステージに上げて実験したイノベイターのひとりです。上の動画にあるように、ソロの吹き始めから思い出したようにGibson / Maestroの管楽器用エフェクターSound System for Woodwindsのスイッチを入れ、オクターヴ・ファズによる '濁った' ラッパで疾走します。しかし、イギリス出身のジャズ・ロックなオルガン奏者ブライアン・オーガーとの共演や、Echoplexとトレモロによる 'サイケな' バラッドの 'Open Beauty' など、''電化黎明期' にここまでアプローチしたドン・エリスはもっと評価されてよいと思いますね。
→Maestro Sound System for Woodwinds
そんなエリスがEchoplexと共に用いているのがこちら、もう何度もご紹介している管楽器用エフェクターGibson / Maestro Sound System for Woodwindsです。コレ、実はわたしも所有しており、なかなかにオクターヴ・ファズ的なニュアンスをラッパに加味してくれるものとして重宝しております。ギター用のファズからみるとチープなオモチャっぽい歪みなのですが(ノイズはほとんど無し)しかし、このくらいが管楽器にとってちょうど良いという 'ツボ' をメーカーは心得ていますね。わたしが最初にラッパを 'アンプリファイ' した際、足元に置いたIbanez TS-9 Tube Screamer。これはオーバードライブの名機として、今では俗に 'TS系' などと呼称したガレージ・メーカー製のオーバードライブが雨後の筍の如く乱発される出発点となったものです。その他の歪み系エフェクターに比べ、むしろ歪みの少ないブースター的機種なのですが、ラッパではDriveのツマミを9時〜10時の設定にしてかなりギラ付きます。これでワウペダルでも踏もうものならハウり出すでしょう。確かにラッパで使えばエッジの効いた格好良いトーンになるのですが、やはり非常に扱いの難しいものという印象です(早々に手放しました)。ちなみに、このGibson / Maestro Sound Sytem for Woodwindsから40年以上経った現在、単なる2オクターヴ下までの 'アナログ・オクターバー' はこのような 'デジタル・ハーモナイザー' にまで進化しました。
→Pigtronix Disnortion
→Adler - Yarranton
Blair YarrantonさんによるPigtronix Disnortionの動画。オーバードライブ、ファズ、オクターヴ・ファズの3チャンネル切り替えの歪み系エフェクターですが、ブースター的浅めな設定でエッジを付加する程度に終始しております。ワウを踏むとさすがにハウる寸前ですね。このDisnortionがユニークなのは、管楽器でも扱いやすいローゲインの歪みのほか、通常の出力とは別にスルーでクリーンな原音を出力することにあります。また、シンセサイザーの発想を得意とするこのメーカーらしく、このClean出力は次に繋いでいる同社のEnvelope Phaser EP2のTrigger入力に繋ぐことで、DisnortionからEP2のエンヴェロープをコントロールすることができます。その取説にはこう記載されております。
"本機(Disnortion)をEP2と組み合わせて使用する場合は、必ず本機のClean出力からEP2のTrigger入力に接続してください。そうすることで、常にクリーン信号によってEP2を制御することができます。"
すでに 'ディスコン' 製品ではありますが(まだ現品在庫は残ってます)、このYarrantonさんのセッティングを参考にして管楽器で試してみてはいかがでしょうか?さて、単なるエッジの付加ということなら、むしろ、オクターバーやリング・モジュレーターを浅めにかける方がうまく馴染むと思います。参考に次の動画は、Electro-Harmonix Q-TronとオクターバーのBoss OC-3をループ・サンプラーBoss RC-2で 'ひとりアンサンブル' しているもの。この影のようなオクターヴのエッジに比べれば、いかにオクターヴ・ファズがギラ付くのかが分かります。そのくらい歪み系エフェクターというのは、管楽器ではメリットよりもデメリットの方が多く感じられて扱いにくいんですよね。ちなみにこのYarrantonさん、ギタリストのPercy Nils Adlerさんという方と 'Adler - Yarranton' の名義でアルバム 'Sketchy Behaviour' をCDとデジタル配信でリリースしております(Amazonで購入可)。サウンドはECMのビル・フリゼールっぽい感じでしょうか。
→Kep FX Phase Ⅱ.2
→Electro-Harmonix Nano Bassballs
→Moog Minifooger MF Drive
いわゆる単体の歪み系エフェクターを用いるより、フィルターとの複合機内蔵の '歪み' で用いてみると良い結果となる場合があります。以前にご紹介したElectro-Harmonix Micro Synthesizerと同様なものとして、こちらの日本未発売ものKep FX Phase Ⅱ.2です。本機は、1970年代にドラム・メーカーのLudwigが発売したエフェクターPhase Ⅱ Synthesizerのデッド・コピー品なのですが、ワウにファズやフェイズを混ぜることで 'イヨイヨ' とか 'オイオイ' とか、まるでオッさんが唸っているような感じが面白い!また、エクスプレッション・ペダルを繋いでより多様なニュアンスを表現することも可能です。もしくは、ゲロゲロとカエルの鳴き声のようなワウにしてくれる '歪み内蔵' エンヴェロープ・フィルター、Electro-Harmonix Bassballsもエグい効果としてオススメ。ベース用にしては実に幅広いレンジを持っております。ちなみに、エレハモといえば現行の 'Nano' 以前はこの大柄なブリキケースが特徴的なのですが、初期のチキン型ノブ(動画のもの)とツヤ消し丸型ノブのもので微妙に仕様が変更されております。チキン型ノブは6PIN、DPDTのバッファード・バイパスでツヤ消し丸型ノブは9PIN、3PDTのトゥルーバイパスです。中古で購入される場合はその辺をご注意下さいませ。そして、個人的に管楽器にピッタリな '歪み' なのでは?と思うのが、'Moogerfooger' シリーズでおなじみのMoogよりコンパクト・エフェクターのスタイルで発売した 'Minifooger' シリーズ。その中でもこのMF Driveはローゲイン的歪みを 'シンセ' 的フィルターで変調、エクスプレッション・ペダルを繋いでワウ的にも用いるユニークなものです。決してエグい 'ギターシンセ' 的サウンドではなく、あくまで '歪み+フィルター' として倍音の質を変調させることに特化してあるのが '使える' と思います。
→Natsuki Tamura Quartet / Hada Hada ①
→Natsuki Tamura Quartet / Hada Hada ②
長く、ピアノの藤井郷子さんとパートナーを組んで独自の活動をされている田村夏樹さん(ちょっと横尾忠則氏に似てる)の2003年のソロ・アルバム 'Hada Hada' (Libra 104-008)。iTunesでも購入可能なんですがこれ、メチャクチャ格好良いですねえ。深〜い闇のようなリヴァーブの 'モーリッツ・フォン・オズワルド的' 空間をつん裂く歪みきったラッパ。エグいトーンの好きなラッパ吹きなら必聴ですヨ。まあ、フリー・ジャズ的なアプローチのラッパだとグロウル奏法やファズトーンとか、アコースティックで歪ませる特殊奏法を好んで使う人は多いですけど(以前にご紹介したアクセル・ドーナーしかり)、この 'Hada Hada' での田村さんの歪みっぽいラッパ、どうやって出しているのだろうか?ちなみに動画は、かなりユニークなコラボレーションというべきか、蛍光灯の発光ノイズを 'アンプリファイ' にした創作楽器 'Optron' を軸に活動するノイズ・アーティスト、伊東篤宏さんとのライヴ。
そして、以前に ''飛び道具' という懐刀' でもご紹介した 'ビット・クラッシャー' 的エフェクターWMD Geiger Counterなども、全252種類からなる波形の組み合わせで管楽器に合う歪みを見つけられるかもしれません。単純に歪みといってもいろいろなニュアンスがあり、ブースター、オーバードライブ、ファズ、ディストーションといった 'ジャンル' は、あらゆるメーカーが凌ぎを削る最も競争力の激しい市場なのです。また、近藤等則さんも以前から '歪み' とラッパについて探求しており、以前はCustom Audio Amplifiers 3+ SE Tube Preampというノーマルとクランチとディストーションの3チャンネル真空管プリアンプを用いておりました。現在のフィールドワークの出発点ともいえるイスラエルはネゲブ砂漠での 'Blow The Earth'。ここではBarcus-berry 1374マウスピース・ピックアップひとつで、気持ちの良いチューブ・サウンドを聴かせてくれます。
→Toshinori Kondo 3D Sound Installation
→Fulltone OCD
→Lehle Julian Parametric Boost
現在のコンドーさんの足元はFulltone OCDというディストーションとLehle Julian Parametric Boostを併用。上記リンク内のペダルボードを見るとOCDはVolume11時、Tone1時、Drive0というまさに歪み無しなクリーン・ブースターの設定。そしてJulian Parametric Boostの方は、Gainが12時、Freq.4時、Boost2時、Treble1時という、これまたクリーンな設定でOCDをプッシュする役割でしょうか。想像するにたぶん、マウスピース・ピックアップだけだとオープンホーン(ワウのない状態)のときにゲインが足らず聴こえにくいのではないかな、と。そこでLehleのブースターをパライコ的EQでブーストしつつ 'オープンホーン' の状態を際立たせていくというか。
ちなみにこちらは、ファズでもってエレクトリック・ギターを 'ブラス' の音に変えてしまおうというもの、Maestro Bass Brassmaster BB-1です。その名の如くベースをチューバのようなブラスのトーンに変えてしまおうというもので、現在でも他に代替え機のない唯一無二な存在としてオリジナルは10万〜25万くらいの価格で取引きされております。このメーカーは開発当初からファズと管楽器の関係についてしつこく追及していたような印象があるのですが(Maestroのブランドマークが3本のホーン!)、しかし、'ギターっぽい' サウンドを出したいラッパ吹きと 'ブラスっぽい' サウンドを出したいギター弾き・・面白い関係ですね。
→MXR M-103 Blue Box
そもそも 'Fuzz' の語源とは '毛羽立つ' という意味で、世界最初のファズボックスを開発したGibson / Maestro Fuzz ToneのPR音源を聴いてみると、いわゆるアンプの歪みというよりかは、バリトン・サックスやチューバに代表されるブリブリとしたホーンを模倣するというのが出発点のようです。このファズを有名にしたザ・ローリング・ストーンズ1965年の 'Satisfaction' では、キース・リチャーズのイメージとしてあったスタックスの分厚いホーンセクションのリフを模倣することでした。そして現在、NAMMショウでPasoanaのピックアップを取り付けたバリトン・サックスがデモンストレーションする。この '先祖返り' こそ 'アンプリファイ' な管楽器とエフェクターの関係を象徴していますね。さらに、またまたご紹介の 'Snarky Puppy' のラッパ吹き、Mike 'Maz' MaherさんによるMXR Blue Boxのデモ動画。いや〜、これは格好良いですね!Shure SM58ダイナミック・マイクとFenderのギターアンプにマイクを立てて収音することで、ここまでラッパをエレクトリック・ギターへと '変貌' させてしまうのですから。目を瞑って聴いているとほとんどギターが弾いているようにしか聴こえない!このBlue Boxはオクターヴ・ファズなのですが、単体の '歪み系' エフェクターとして見ると 'ビット・クラッシャー' 的エフェクターに共通するチープなものです。しかしMaherさんは、ワウを踏みつつギターアンプで持ち上げてハウる寸前ながら、ブルージーなフレイズで実にギターっぽくアプローチしているのがグッド!この動画では、ワウやオクターヴ・ファズでは中域を強調するダイナミック・マイク、ディレイでは柔らかな生音を活かしたリボン・マイクで収音を分けているところなども、管楽器の 'アンプリファイ' をする上で参考となるセッティングです。
たまにはアンプから耳を劈くような '倍音' を浴びてみると、面白い発見が生まれるかもしれません(騒音注意!)。
→Toshinori Kondo 3D Sound Installation
→Fulltone OCD
→Lehle Julian Parametric Boost
ちなみにこちらは、ファズでもってエレクトリック・ギターを 'ブラス' の音に変えてしまおうというもの、Maestro Bass Brassmaster BB-1です。その名の如くベースをチューバのようなブラスのトーンに変えてしまおうというもので、現在でも他に代替え機のない唯一無二な存在としてオリジナルは10万〜25万くらいの価格で取引きされております。このメーカーは開発当初からファズと管楽器の関係についてしつこく追及していたような印象があるのですが(Maestroのブランドマークが3本のホーン!)、しかし、'ギターっぽい' サウンドを出したいラッパ吹きと 'ブラスっぽい' サウンドを出したいギター弾き・・面白い関係ですね。
→MXR M-103 Blue Box
そもそも 'Fuzz' の語源とは '毛羽立つ' という意味で、世界最初のファズボックスを開発したGibson / Maestro Fuzz ToneのPR音源を聴いてみると、いわゆるアンプの歪みというよりかは、バリトン・サックスやチューバに代表されるブリブリとしたホーンを模倣するというのが出発点のようです。このファズを有名にしたザ・ローリング・ストーンズ1965年の 'Satisfaction' では、キース・リチャーズのイメージとしてあったスタックスの分厚いホーンセクションのリフを模倣することでした。そして現在、NAMMショウでPasoanaのピックアップを取り付けたバリトン・サックスがデモンストレーションする。この '先祖返り' こそ 'アンプリファイ' な管楽器とエフェクターの関係を象徴していますね。さらに、またまたご紹介の 'Snarky Puppy' のラッパ吹き、Mike 'Maz' MaherさんによるMXR Blue Boxのデモ動画。いや〜、これは格好良いですね!Shure SM58ダイナミック・マイクとFenderのギターアンプにマイクを立てて収音することで、ここまでラッパをエレクトリック・ギターへと '変貌' させてしまうのですから。目を瞑って聴いているとほとんどギターが弾いているようにしか聴こえない!このBlue Boxはオクターヴ・ファズなのですが、単体の '歪み系' エフェクターとして見ると 'ビット・クラッシャー' 的エフェクターに共通するチープなものです。しかしMaherさんは、ワウを踏みつつギターアンプで持ち上げてハウる寸前ながら、ブルージーなフレイズで実にギターっぽくアプローチしているのがグッド!この動画では、ワウやオクターヴ・ファズでは中域を強調するダイナミック・マイク、ディレイでは柔らかな生音を活かしたリボン・マイクで収音を分けているところなども、管楽器の 'アンプリファイ' をする上で参考となるセッティングです。
たまにはアンプから耳を劈くような '倍音' を浴びてみると、面白い発見が生まれるかもしれません(騒音注意!)。
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