2015年11月5日木曜日

続・'電化' 黎明期

今日はWoodwinds満載でお送りいたします。

1960年代後半、日本で流行したGS(グループ・サウンズ)の影響は各地で 'エレキ禁止令' なる状況を生み出したそうです。冷蔵庫のようなアンプを背にしてギター、ベース、キーボードがドラムスと一緒になって爆音を巻き起こしたとき、それまでの花形であった管楽器奏者は身の置き所がなかったに違いありません。そんな中で現れた管楽器用 'アタッチメント' がSelmer Varitone。いよいよ管楽器の分野にも 'エレキ' が持ち込まれることとなります。さて、そんな '熱病' の如く多くの木管奏者たちは、こぞってマウスピースやネックにドリルで穴を開けてピエゾ・ピックアップを装着しました。では、そんな混迷する時代の空気の移り変わりをどうぞ。



まずは大御所ソニー・スティット。この時期Rouletteから立て続けにSelmer Varitoneを用いたスタンダード・アルバムをリリースしており、ほとんどイージー・リスニング風体裁で時代の荒波に耐えていたのでしょうね。



ジャズの名門Prestigeもこの時代、相当に時代を意識した '意匠' を凝らして従来のジャズ愛好家以外の客層を掴む努力をしていました。一聴、古典的なブルーズながらエレクトリック・ピアノとSelmer Varitoneを取り付けた "バディ" テリーのテナー・サックスが '電化魂' を聴かせます。



さて、こちらトム・スコットの世代になると、ある種の '電化アレルギー' もなく思いっきりヒッピーの風体でファズっぽいサックスを奏でます。それは8ビートのロック的なグルーヴにも現れており、Gibson / Maestro Sound System for Woodwindsを駆使して積極的に音色を変化させます。スコットは1970年代には、'ウィンド・シンセサイザー' の原点ともいえるComputone社のLyliconにもアプローチするので、この手のものへの興味が強いのでしょう。





そんな若者世代が世を謳歌している間、長く塀の向こうにいたラスティ・ブライアントが久々にPrestigeへ吹き込んだのがその名も 'Returns !'。しかし、ラスティさんはそんな時代の変化を当惑するより楽しんじゃおうと '若作り' して、Conn Multividerを取り付けたアルト・サックス持って8ビートのグルーヴィーなブーガルーに挑戦します。







そして 'アンプリファイ' なサックスのイノベイター、エディ・ハリスの存在は大きいでしょうね。ブーガルーやファンク一色の真っ黒いサウンドが時代の空気を支配しており、ハリスも当時最新の管楽器用 'アタッチメント' であるSelmer VaritoneからGibson / MaestroのSound System for Woodwinds、盟友であるレス・マッキャンと活動する頃にはHammond / Inovex Condor RSMなどに換装、さらにはトランペットにサックスのリードを取り付けた 'リード・トランペット' なる創作楽器まで披露するなど、マイルス・デイビスとは別の意味で管楽器の可能性に挑んでおりました。ホントは個別で取り上げたいくらい重要な人なのですが、残念ながら 'アンプリファイ' で貼り付けられる動画がほんの僅か・・。ここ最近、ハリスのアルバムがほぼ日本でCD化されたからなのか、'電化' 全盛期の音源がYoutube以外での視聴制限にかけられているんです・・まったく(泣)。

と、そんな 'アンプリファイ' 黎明期の時代から45年以上の時間が経った現在・・。



オクターバーから豊富に 'ハモらせ' てアンサンブルを構築できるピッチ・シフターが当たり前の時代になりました。Geoff Countrymanという人によるElectro-Harmonix HOG 2のデモ動画。Gibson / Maestroのピエゾ・ピックアップとRolandのキーボード用アンプである120WのKC-350を用いて、豊富に提供されたエレハモ製品を試しています。

Electro-Harmonix HOG 2



以前にクラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロでquartz-headやrabitooほか、いくつかのユニットで活動するサックス奏者藤原大輔さん。1990年代後半にテクノ界隈で人気を博したフィルターSherman Filterbank 2とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000Rを駆使して、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露します。これはわたしも以前に所有していましたが、ほとんどオシレータのないモジュラーシンセといっていい '化け物' 的機器で、どんな音をブチ込んでも予測不能なサウンドに変調してくれます。

Sherman Filterbank 2 ①
Sherman Filterbank 2 ②

2015年11月4日水曜日

ボントロで '電化' ビリビリ

トロンボーンというのも不思議な楽器です。あのスライドによるポジションというのを耳で聴きながら '当てていく' ワケで、コントラバスにおけるフレットレスと同じくらい不安定な構造を持っていると思いますね。また、一説には上達の遅い楽器と言われているらしく、幼少期と大人では楽器のサイズが違うために、身体の成長とともにスライドの長さが変化していくため大変なのだとか。そして、アコースティックにおけるエフェクトという意味でいえば、ドイツ・フリーの大御所、アルバート・マンゲルスドルフの 'ひとり最大7音' という驚異のマルチ・フォニックス奏法が有名ですが、サックスと違ってオーヴァートーンの出しにくい金管楽器でよくぞ、と拍手を送りたくなります。これも、ラッパに比べて口径やカップの大きいマウスピースが生み出す倍音のおかげ、なのでしょうか?



Conn Multivierを用いてオクターヴでハモらせながら、後半はほとんどブリブリしたファズって感じです。この1960年代後半に製作された一連の管楽器用オクターバーは、どこかチリチリとしたファズっぽい質感があるのが共通した印象ですね。

Conn Multivider 1
Conn Multivider 2



こちらはループ・サンプラーやファズ、ワウペダルを駆使して、荒削りながら量感たっぷり重厚なソロを披露しています。ベルの中からケーブルが出ているところを見ると、ベル内にベルクロで取り付けるエレクトレット・コンデンサー・ピックアップBarcus-berry C5600(C5200)でしょうか。その他の 'アンプリファイ' なトロンボーン吹きのアプローチを見ると、Yamahaの電子式消音ミュートであるSilent Brassピックアップ・システムを用いている方が多いですね。

Barcus-berry C5600①
Barcus-berry C5600②



こちらはSnarky Puppyというグループのトロンボーン吹きによるBoss GT-10のループわざ、マルチ・エフェクター使用で上記動画よりも洗練されています。トロンボーンのトーンを多彩に変化させながらオーバーダブしていくのが、このループ・サンプラーを使いこなすキモですね。





最後は、フランク・ザッパの 'ジャズ・ロック・バンド' としての最盛期である1973年のザ・マザーズ・オブ・インヴェンションから、トロンボーンのBruce Fowlerの妙技を聴きましょう。ピエゾ・ピックアップのBarcus-berry 1374をマウスピースに接合しておりますが、Barcus-berryはこの時期から管楽器の 'アンプリファイ' における市場で普及し始めたのだと思います。


2015年11月3日火曜日

'電気うなぎ' で感電する

なんとなくキャノンボールアダレイのアルバムを買うともれなく付いてくるといった印象の弟、ナット・アダレイ。ジャズのラッパ吹きをいろいろ聴き始めたとき、リー・モーガンやドナルド・バード、ブルー・ミッチェルといったファンキー・ジャズの名手たちに手は出しても、ナット?ああ ’Work Song’ の人か、といった程度の認識でした。またトランペットに比べ、どこかモッサリとした音色のコルネットをメインとしているのもイマイチ。ずーっとわたしの中ではクローズアップされることはなかったのです。それが ‘Jazz Life’ 20154月号で取り上げられていたのを読み、急にわたしの中でナットに対するマイブームが起こりました。日本を代表するラッパ吹き、岡崎好朗さんが分析と採譜を行っており、そもそもコルネットは二種類あり、アメリカン・スタイルの管の曲がりが少ないロング・コルネットと、ブリティシュ・スタイルのブラス・バンドなどで常用されるショート・コルネットのうち、ナットはロング・タイプを好んで使っていたそうです。初期はGetzen、兄と一緒にやっていた全盛期はKing Super 20のシルヴァー・ソニック・モデル(純銀ベル)で、1970年代以降はConn Constellationにスイッチしたそうです。マウスピースはOldsNo.3Rudy Muckが多かったとのこと。ナットの音色がトランペットに近かったのも、このロング・コルネットによるところが大きいのではと締め括られていました。ノリとしてはとにかく兄のキャノンボール同様に跳ねた印象が強く、それが逆にコルネットという楽器においてはトゥー・マッチ過ぎたのではないか、と。これってフリューゲルホーンでラッパ的なアプローチをしている人の評価が分かれるのと似た傾向、なのでしょうか?奏法については特別難しいことをやっているわけではないが、音域は広くテクニックもあり、やはりここでも兄のキャノンボールと似たラインを吹いているようです。なるほど、確かに昔から兄弟で一緒に育った環境にいれば自然となぞってしまうのでしょうね。そして、マイルス・デイビスの強い影響が感じられると書かれていますが、これは確かにその通り!シンプルなリズム・フィギュアで中低域から一気にハイ・レンジヘ跳躍するところなど、例えばクリフォード・ブラウン的メカニカルな構成力から比べると、デイビスっぽい匂いがプンプンしますね。ここで岡崎さんが採譜されているのはナットの代表曲 ‘Work Song’、それもキャノンボールの名義でリリースされた1960年の ‘Them Dirty Blues’ (Capitol)からのものです。


Work Song (Riverside 1960)
Naturally (Riverside 1961)

とにかくナットをなぞりたければ、特徴ある彼のバウンスする跳ねたリズム感を体得して欲しいとのこと。とりあえず、わたしは彼のワンホーンを堪能したくて上記①②を買ってしまいました。この二作、どちらも兄のキャノンボールがいないことでナットの嗜好が色濃く反映され、またナットのコルネットを堪能する上でもワンホーンゆえに集中できます。しかし、この泥臭い感じは当時のハード・バップから見ると好き嫌いが分かれるでしょうね。わたしのようにR&Bから入ったリスナーには好物ですが、この洗練されない感じ、ブルーズとかゴスペル・ライクなフィーリングは ‘クサの一言。代表作の①ではボビー・ティモンズやウェス・モンゴメリーがそんな空気をさらに盛り立てます。また本作で特筆したいのはチェロの効果的な使用ですね。これが意外に効いているというか、このチェロとギターを軸としたファンキーなスタイルをナットにはもっと突き詰めて欲しかったなあ。②ではカップ・ミュートなども多用し、ふたつのリズム・セクション(そのうちのひとつは当時のデイビスのリズム・セクション!)を使い分けながらナット流 'ワンホーン' の極致を堪能することができます。そして、これら二作品に共通するマイルス・デイビス流リリシズムが全編に溢れており、ハーモン・ミュートを使えばさらに孤独感がアップ!案外、兄貴のハッピーな感じに対して弟はちと根暗なところがあるのかも。この辺がクラーク・テリーなどとは違うナットの持ち味かもしれません。





Selmer Varitone

そんなナットも1968年、これまでのRiversideAtlanticで培った泥臭いイメージを払拭するようにA&Mと契約し、その傘下でクリード・テイラーが主宰するCTIからアンプリファイなアルバム ‘You, Baby’ を発表します。ビル・フィシャーの編曲、指揮によるストリングスを配し、コルネットのリードパイプには穴が開けられピエゾ・ピックアップを接合、専用のアンプで鳴らすSelmer Varitoneが用意されました。たぶん、前年に同様のシステムでアプローチしたクラーク・テリーの ‘It’s What’s Happnin’’ (Impulse !)辺りに触発されたのでしょう。う〜ん、ただでさえ丸い音色のコルネットにオクターバーがかけられることで、どこかモコモコした抜けきらない感じのトーンが全編にわたり奏でられます。ジャケットの仏像を眺めながら本作を聴いていると、ナットもサマー・オブ・ラヴの季節にいろいろ迷いながら兄貴の影響から脱皮したかったんだろうな〜、という思いにかられます。

2015年11月2日月曜日

エコーの中に神を見た

さて、とディレイですねえ。早い話が谷山で叫ぶ 'こだま' の効果を機械的に再現するものでございます。1969年のマイルス・デイビスによる 'Bitches Brew' でのタップ・ディレイの効果が最も分かりやすいでしょうか。



ジェレミー・ペルトとランディ・ブレッカーによる 'Bitches Brew' のトリビュート・コンサートでしょうか。やっぱりこのタップ・ディレイの効果は再現しないと雰囲気でませんよね。ランディのオクターヴかけた感じはベニー・モウピンのバスクラ役!?

エフェクターの世界ではリヴァーブと並んで '空間系' というジャンルに括られており、同時に用いることによってそれこそ狭い四畳半のお部屋が広大な空間へと早変わりします。なんというか、荘厳な雰囲気の中でちと上手くなった気分というか。基本的にこのディレイというエフェクターはデジタルで設計されているものがほとんどです。もちろん、どうしても古臭い効果が欲しいのであれば、テープ式の真空管エコーであるFulltone Tube Tape Echoや、元Binson社でエンジニアをやっていたマルセロ・パトゥルノ氏がNOSパーツを使ってリビルドするEchorec 2 Special EVOといった磁気ディスク式エコーを購入することもできます。





まさに超アナログ!Maestro Echoplex EP-2をモデルにFulltoneのマイク・フラーが設計した真空管式テープ・エコーで、単に通すだけでも太い質感にしてくれるプリアンプとしての評価も高い逸品です。姉妹機としてトランジスタによるソリッドステート式のテープ・エコーもあります。下の動画は、マルセロ・パトゥルノが手がけるNOSパーツを用いたリビルド・モデルのEchorecでして、つまりBinson社閉鎖の際に、残されたパーツや工作機械の一部などを買い取り、現在のパーツと組み合わせてリビルドする '再生品' ということになります。特にEchorecの心臓部である磁気ディスク部分は当時のストック品をそのまま使っているので、ストック切れ次第リビルド終了ということでしょうね。

また、1970年代後半に現れたBBDチップによる電子式エコーのアナログ・ディレイなども未だ市場に用意されています。それでも使い勝手や可搬性、多機能という点ではデジタル・ディレイに勝るものはありません。最近の傾向としては、複数のディレイのパターンをプログラムし、スイッチング・システムと組み合わせてMIDIで呼び出して用いる多機能型が主流です。Eventide TimefactorやStrymon  Timeline、Free The Tone FT-1Y Flight TimeにBoss Digital Delay DD-500、Korg SDD-3000 Pedalといったものが代表的ですね。ディレイ・タイムに数値が必要ないならTC Electronic Flashback X4というヤツもあります。共通しているのはとにかく高品位なディレイのトーン。デジタル・ディレイというのは皆どれもクリアーでキラキラとした空間を生成してくれるのですが、ここで上げたものはもうコンパクト・タイプにおいては最高峰と言っていいでしょう。



わたしが最初に購入したのがアナログ・ディレイの名機、Electro-Harmonix Deluxe Memory Manでした。太く荒い質感は最高ではありましたが、さすがに多彩なディレイの効果も欲しくなり続けて購入したのが、ちょうどKorgが 'Tone Works' シリーズの名で発売したデジタル・ディレイ、301 dl Dynamic Echo。コンパクトのサイズにして2つのディレイ・プログラムが組めるのと 'Hi-Fi / Lo-Fi' のディレイの質感を選択できるのは、当時の製品としてはかなり先取りしたものでした。何より、当時のコンパクト・タイプでは珍しい 'Ducking Delay' の機能(弾いたフレイズが終わると同時にディレイがかかるもの)は重宝しましたね。しかし、このサイズで行う2つのプラグラム設定が少々難しかった・・。

さて、それでも管楽器でここまで大げさなものが必要となる場面は少なく、単にタップ・テンポが付いていれば十分に力を発揮してくれます。Boss Digital Delay DD-7やTC Electronic Flashback Delay、Strymon Dual Digital Delay DIGなどはとても使いやすいと思いますね。また、'アナログ' 的質感が欲しいという方なら、Rolandのテープ式エコーの名機RE-201 Space Echoをまんま再現したRE-20 Space Echoを始め、Strymonによるテープの質感をシミュレートしたdTape Echo El Capistanや、BBDチップのアナログ・ディレイの質感をシミュレートしたdBucket Delay Brigadierなどがオススメ。そう、このBrigadierこそわたしが現在愛用しているものです。



このStrymonに行き着くまでのわたしの変遷は、一番最初に買ったElectro-Harmonixのアナログ・ディレイであるDeluxe Memory Man。ちょうどエレハモの復刻と合わせてヴィンテージ・エフェクターの人気が盛り上がり始めた頃で、たぶん雑誌のレビューを元に買ったと思います。その後、デジタル・ディレイが欲しくなりBoss DD-20 GigadelayやDigitechが新たにHardwireのブランドで出したDL-8 Delay / Looper、そしてSIB ! Mr. Echoという、デジタルながら 'アナログ・モデリング' の 'はしり' のような機種が足元を飾りました。このMr. Echoにも採用されているPT2399というデジタルICは、ほぼアナログ・ライクな質感を再現するチップとして、ここ最近の 'アナログ' や 'テープ' を '売り' にしたデジタル・ディレイの大半で使われるくらいポピュラーなものとなっています。BrigadierにはStrymon独自の技術であるDSPのテクノロジー 'dBucket' を用いて、BBDチップのアナログ・ディレイの質感をリアルに再現しています。おおよそデジタル・ディレイらしからぬ丸いくぐもったトーンを持ちながら、決して埋もれないデジタル的エッジを併せ持った 'ハイブリッドさ' は絶妙だと思いますね。約5秒ものロング・ディレイ、モジュレーション、スイッチひとつで発振する太いフィードバック、4分音符、付点8分音符、3連符からなるタップ・テンポ、アナログ・ディレイの特徴であるエイリアシング・ノイズを再現するBucket Lossというツマミ、エフェクトOn時のブーストレベルを+/-3dBの範囲で調整可、AD/DAを通らない原音の確保、トゥルーバイパス及びバッファードバイパスの選択可と至り尽くせりな作りです。



こちらはOoh La La Quicksilver Delayという、'アナログ・モデリング' ではなく本物のBBDチップを用いたアナログ・ディレイによるラッパのソロです。このくらいのショート・ディレイのテンポに合わせて吹くのがラッパにはピッタリですね。





前述のOoh La La Quicksilver Delayのようなショート・ディレイの効果というのは、ある意味ではリヴァーブ的な使い方とも言えます。このような単なるエコーをお手軽にペダルのみで全てのパラメータを担い、ディレイ・タイムからフィードバックまで足だけで賄おうという発想に特化してしまったのがこちら、Eye Rock Electronics O.K. Delayですね。タップ・テンポの機能はないですが、650msという短いディレイ・タイムはむしろソロには絶妙なタイム感覚で、自在にフィードバックやタイムを操作しながら '演奏' に組み込むという点でラッパ向き、かも。おっと、もちろんどうしても高品質かつ多機能なディレイが欲し〜という方は、こちらFree The Tone FT-1Y Flight Timeはいかがでしょうか?数値でディレイ・タイムの表示をしてくれるのでMIDIでシーケンサーとの正確な同期はもちろん、生ドラムとのズレてしまったテンポを自動で修正してくれるBPMアナライザーの搭載など、管楽器ではもったいないくらいの豊富なテクノロジーを備えております。ツマミ類がないので使いにくい印象はありますが、予め決まっている楽曲のどのパートで使うかなどが決まっている場合、各々プログラムして順次スイッチで呼び出して使う 'マルチ・エフェクト' 的使い方を身に付けると便利でしょう。





さて、それでは 'Pedal Geek' でおなじみDennis Kayzerさんの新旧デジタル&アナログ・ディレイ総勢25台レビューをどうぞ。しかしもの凄い数のコレクションというか、いかに現在 'ペダル業界' が活況を見せているかということを垣間見せてくれますね(その分、熾烈な競争と淘汰も多いのでしょうケド)。



そして、ディレイといえばダブなのですが、なんとニルス・ペッター・モルヴェルがジャマイカ最強のリズム・セクション、スライ&ロビーと共演してしまう時代なんですね。モルヴェルのみならず、バンド全体がタップ・ディレイとフィードバックに '飛ばされ' てダビーな空間の渦にズブズブ・・たまりません。

2015年11月1日日曜日

パコパコで '先祖返り'

ワウワウというよりパコパコ・・。



上記の動画はラッパにPigtronix Envelope Phaser EP-2をかけたサウンドです。本機はエンヴェロープ・フィルターとフェイザーの複合機で、ワウがかかりながらシュワ〜としたモジュレーションが追従します。結構タッチに対する感度も高く正確ですね。



こちらはSolid Gold FXのFunkzillaというエンヴェロープ・フィルター。たぶん日本には入荷していないものだと思います。'Gozilla' にかけて 'Funkzilla' というネーミングがアメリカっぽいんですが、これまた細かくピャウピャウと追従する反応の良さですね。

このようにエンヴェロープ・フィルターは、ワウペダルと一味違う感じが分かると思いますが、ペダル以上に早いパッセージのフレイズにも有効など、ある意味管楽器奏者向けのエフェクターですね。ただし、シビアな入力感度と周波数帯域の広さでワウペダル以上に設定は繊細です。全体的に 'コンパクトな鳴らし方' で、ブレスをコントロールしながら吹かないときれいにパコパコと鳴ってくれません。そのため本機の前段または後段にコンプレッサーを繋ぎ、入力のダイナミズムを一定にした方がかかりは良いと思います。これも思いっきり圧縮して潰してしまうようなDyna Comp的ものより(上のYarrantonさんは使っておりますが)、原音に対してナチュラルにピークその他を揃えてくれるような機種が望ましいですね。わたしも愛用しているNeotenic Soundの製作者の方が、自らのメーカーの設計理念を司る 'リニア・コンプレッサー' の概念とワウのかかり方について考察されているのが参考になるのでぜひお読み下さい。

Magical Force and Wah Wah
Neotenic Sound Magical Force 2

さて、わたしもいくつかの機種を試してきましたが、残念ながら今は足元にワウペダルしか使用していません。そういう意味ではあまり説得力はないのですが、過去わたしが試してきたエンヴェロープ・フィルターについて簡単にレビューしたいと思います。



Boss T Wah TW-1
'Jazz Life' 誌のザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーにおける機材写真を見て、最初に購入したのが本機です。実にオーソドックスなフィルター効果で、設定の幅としては狭いと感じました。エフェクト全体もどこかコンパクトな鳴りというか、ちょっと物足りない感じがあります。ラッパでのサウンドは、'復活' ツアーにおけるランディ・ブレッカーのプレイを少し前の 'ランディ・ブレッカーの追求' で上げてあるのでご覧下さい。ちなみに本機は生産時期により 'Touch Wah TW-1' という表記のものもありますが中身は同じです。



HAZ Laboratories Mu-tron Ⅲ+
元Musitronicsのエンジニアであったハンク・ザイジャック氏を中心に復刻された '元祖' エンヴェロープ・フィルター。もう、これは素晴らしい!の一言です。エンヴェロープ・フィルターの基本を一通り備えているのはもちろん、何と言ってもその '太さ' は特筆したい。大体、フィルターというのは原音を削っていくことでその効果を現す反面、音痩せしてしまうものが多いのですが、これは基本としての原音を確保した上でキチンとフィルターとしての仕事をしてくれます。たまに、もう少しエグくかかって欲しいなあ、などと他メーカーのものに浮気したくなる衝動が起こりますが、本機のベーシックな設定が絶妙であることを思い出し必ず戻ってくるのです。難点はその大きな筐体ですが、Mu-tron特有のポップで格好良いデザインがすべてを帳消しにしてくれます。大き過ぎるということで結構中古で出回ることも多いですが、是非試して頂きたい本命ですね。



Electro-Harmonix Q-tron
そんなオリジナルMu-tron Ⅲの設計を担当したマイク・ビーゲル氏をエレハモが招聘し、新たにデザインしたのが本機Q-tronです。ビーゲル氏は復刻版のMu-tron Ⅲ+をまったくオリジナルには及ばないとして、本機こそMu-tronの血統を受け継いだベストであると豪語していました。正直、わたしの評価は悪くはないけど特別 'コレだ!' というオリジナルを凌駕するものが見当たらず、その印象は非常に薄いです。動画で久々に見ると効きは良い反面、全体的に音痩せする感じもあるかな?ブースト・スイッチはその為のゲインアップなのだろうけど、ラッパで使うとノイズが増えます。ちなみに現行機はこの動画のような大きなものではなく、MXRサイズのコンパクトなものに変更されています。



DOD FX-25 Envelope Filter
俗に 'エフェクターに弾かされて' しまうという言い方があり、弾き手がその強烈な個性に四苦八苦している姿を目にするのですが、本機こそまさにその最右翼!これは完全に '飛び道具' 系エフェクターのジャンルに入れられるものです。フィルターというよりも完全にゲートと言っていいくらい、エンヴェロープ・フォロワーが極端に設定されており、もう演奏するそばからピャウピャウと '持っていかれ' ます。そう、完全に暴れ馬を調教しているといった感じ。動画はループ・サンプラーで録音したと思しきコード・カッティングが邪魔ですが、もの凄い速さでフィルターが開閉しているのが分かると思います。ちなみに、後継機としてFX-25Bという原音を個別に調整できるものもありました。話の種として中古で見つけたらぜひ挑んでみて頂きたい。



Xotic Robo Talk
1970年代のユニークな名機Maestro Filter Sample/Hold FSH-1をデッドコピーしたもの。エンヴェロープ・フィルターの機能に加えて、当時はSample/Hold、本機ではRandom Arpegiatorという表記で、いわゆるエレクトロニカ的にフレイズをチャカポコと変調する '飛び道具' の機能が付いています。オリジナルを設計したのはオーバーハイム・シンセサイザーで有名なトム・オーバーハイムということから、このようなシンセ的発想が持ち込まれているんですね。本機が絶妙なのはRangeとVolume(動画の後継機ではDecayという名称に変わっています)というたった2つのツマミで実に幅広い周波数帯域をカバーしていること。ほとんどピャウピャウという発振すれすれなフィルター効果を持ちながら、ここまでタッチセンスの感度調整における追従性の良さを発揮したものは他にないでしょう。わたしが所有していたのは、DC9Vをふたつ利用してDC18Vで駆動させるヴァージョンのものなのですが、こちらはDC9Vヴァージョンとしてリファインされた現行機のRobo Talk RIを上げておきます。また、Random Arpegiator不要という方にはその機能を省き、エンヴェロープ・フィルターの機能を強化したRobo Talk 2という機種も用意されています。ともかくMu-tron Ⅲ+と並んで管楽器奏者にオススメしたい一台です。

比較的高価なものばかりになってしまいましたが、最近は安価で高品質なMooer Funky MonkeyやBehringer FM600 Filter Machineといった中国製エンヴェロープ・フィルターもあるので、気軽に試すことも可能です。もしくは、このエンヴェロープ・フィルターとワウペダルをそれぞれ切り替えられる '一台二役' の便利なものもあるので、これを選んで見るというのも手ですね。



ワウ・ペダルとエンヴェロープ・フィルターに加え、ヴォリューム・ペダルとステレオ・イン&アウトの機能まで備えた独特なデザインによる変わり種ワウ、Gig-FX Mega Wahのデモ動画。



ワウペダル、エンヴェロープ・フィルター、そしてXotic Robo Talkにも内蔵されているランダム・アルペジエイターも装備の '一台三役'、Voodoo Lab. Wahzooのデモ動画。



Akai Professional Vari Wah W1
Chupaconcha

すでに 'ディスコン' ではありますが、会社が傾き始めていた赤井電機がコンパクト・エフェクターの業界へと足を踏み入れた迷走的一台のVari Wah、こちらもワウペダルとエンヴェロープ・フィルター、トレモロと切り替えることのできる複合機です。現在も中古市場では6000〜1万弱で購入できるので手軽に試しすことが可能。ラッパではスペインでデュオとしての活動を行っているChupaconchaのGiullano Gius Cobelliが用いております。このVari Wahはいくつかネット上にあるレビューを拾ってみると、ローノイズで基本的なワウながら、トゥルーバイパスをうたっている割にバイパス音は硬めの音質になるという意見が多いですね。こだわる人なら、モディファイとしてトゥルーバイパスにはせず、良質なバッファーを入れた方が良いかもしれません。


ペダルかフィルターか・・ワウもいろいろ、選ぶのに迷います。