なんとなく “キャノンボール” アダレイのアルバムを買うともれなく付いてくるといった印象の弟、ナット・アダレイ。ジャズのラッパ吹きをいろいろ聴き始めたとき、リー・モーガンやドナルド・バード、ブルー・ミッチェルといったファンキー・ジャズの名手たちに手は出しても、ナット?ああ ’Work Song’ の人か、といった程度の認識でした。またトランペットに比べ、どこかモッサリとした音色のコルネットをメインとしているのもイマイチ。ずーっとわたしの中ではクローズアップされることはなかったのです。それが ‘Jazz Life’ 誌2015年4月号で取り上げられていたのを読み、急にわたしの中でナットに対する ‘マイブーム’ が起こりました。日本を代表するラッパ吹き、岡崎好朗さんが分析と採譜を行っており、そもそもコルネットは二種類あり、アメリカン・スタイルの管の曲がりが少ないロング・コルネットと、ブリティシュ・スタイルのブラス・バンドなどで常用されるショート・コルネットのうち、ナットはロング・タイプを好んで使っていたそうです。初期はGetzen、兄と一緒にやっていた全盛期はKing Super 20のシルヴァー・ソニック・モデル(純銀ベル)で、1970年代以降はConn Constellationにスイッチしたそうです。マウスピースはOldsのNo.3かRudy Muckが多かったとのこと。ナットの音色がトランペットに近かったのも、このロング・コルネットによるところが大きいのではと締め括られていました。ノリとしてはとにかく兄の “キャノンボール” 同様に跳ねた印象が強く、それが逆にコルネットという楽器においてはトゥー・マッチ過ぎたのではないか、と。これってフリューゲルホーンでラッパ的なアプローチをしている人の評価が分かれるのと似た傾向、なのでしょうか?奏法については特別難しいことをやっているわけではないが、音域は広くテクニックもあり、やはりここでも兄の “キャノンボール” と似たラインを吹いているようです。なるほど、確かに昔から兄弟で一緒に育った環境にいれば自然となぞってしまうのでしょうね。そして、マイルス・デイビスの強い影響が感じられると書かれていますが、これは確かにその通り!シンプルなリズム・フィギュアで中低域から一気にハイ・レンジヘ跳躍するところなど、例えばクリフォード・ブラウン的メカニカルな構成力から比べると、デイビスっぽい匂いがプンプンしますね。ここで岡崎さんが採譜されているのはナットの代表曲 ‘Work Song’、それも “キャノンボール” の名義でリリースされた1960年の ‘Them Dirty Blues’ (Capitol)からのものです。
①Work Song (Riverside 1960)
②Naturally (Riverside 1961)
とにかくナットをなぞりたければ、特徴ある彼のバウンスする跳ねたリズム感を体得して欲しいとのこと。とりあえず、わたしは彼の ‘ワンホーン’ を堪能したくて上記①②を買ってしまいました。この二作、どちらも兄の “キャノンボール” がいないことでナットの嗜好が色濃く反映され、またナットのコルネットを堪能する上でも ‘ワンホーン’ ゆえに集中できます。しかし、この泥臭い感じは当時のハード・バップから見ると好き嫌いが分かれるでしょうね。わたしのようにR&Bから入ったリスナーには好物ですが、この洗練されない感じ、ブルーズとかゴスペル・ライクなフィーリングは ‘クサい’ の一言。代表作の①ではボビー・ティモンズやウェス・モンゴメリーがそんな空気をさらに盛り立てます。また本作で特筆したいのはチェロの効果的な使用ですね。これが意外に効いているというか、このチェロとギターを軸としたファンキーなスタイルをナットにはもっと突き詰めて欲しかったなあ。②ではカップ・ミュートなども多用し、ふたつのリズム・セクション(そのうちのひとつは当時のデイビスのリズム・セクション!)を使い分けながらナット流 'ワンホーン' の極致を堪能することができます。そして、これら二作品に共通するマイルス・デイビス流リリシズムが全編に溢れており、ハーモン・ミュートを使えばさらに孤独感がアップ!案外、兄貴のハッピーな感じに対して弟はちと ‘根暗’ なところがあるのかも。この辺がクラーク・テリーなどとは違うナットの ‘持ち味’ かもしれません。→Selmer Varitone
そんなナットも1968年、これまでのRiversideやAtlanticで培った泥臭いイメージを ‘払拭’ するようにA&Mと契約し、その傘下でクリード・テイラーが主宰するCTIから ‘アンプリファイな’ アルバム ‘You, Baby’ を発表します。ビル・フィシャーの編曲、指揮によるストリングスを配し、コルネットのリードパイプには穴が開けられピエゾ・ピックアップを接合、専用のアンプで鳴らすSelmer Varitoneが用意されました。たぶん、前年に同様のシステムでアプローチしたクラーク・テリーの ‘It’s What’s Happnin’’ (Impulse !)辺りに触発されたのでしょう。う〜ん、ただでさえ丸い音色のコルネットにオクターバーがかけられることで、どこかモコモコした抜けきらない感じのトーンが全編にわたり奏でられます。ジャケットの ‘仏像’ を眺めながら本作を聴いていると、ナットも ‘サマー・オブ・ラヴ’ の季節にいろいろ迷いながら兄貴の影響から脱皮したかったんだろうな〜、という思いにかられます。
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