2019年5月5日日曜日

ピックアップあれこれ (再掲)

昨日取り上げたオーストラリアでスティーヴ・フランシスさんが手がけるピックアップの工房、PiezoBarrel。管楽器用のピックアップ・マイクとしては完全に '過去の遺物' となったマウスピース・ピックアップですけど、まだまだホーンでエフェクターを使いたい人には 'ニッチな' 需要があるのです。個人的に驚いたのがオスマン・トルコの軍楽隊の伝統なのか、バルカン半島一帯からトルコ、ギリシャにかけてクラリネットを中心に小さな工房が頑張っていること。とりあえず、ここでは管楽器の 'アンプリファイ' が始まった1960年代後半から70年代、そして最近の製品のいくつかを取り上げてみたいと思います。








H&A.Selmer Inc. Varitone ①
H&A.Selmer Inc. Varitone ②
H&A Selmer Inc. Varitone "Full Set"

1965年に管楽器メーカーとしてお馴染みH&A.Selmer Inc.が手がけた元祖 'アンプリファイ' サウンド・システム、Varitone。Selmerブランドのほか、管楽器への市場拡大を狙ってなのかBuesherブランドでも販売されておりましたが、製作自体は現在でもPAの分野で大手のElectro Voiceが担当したようです。振動を感知して電気信号に変換するピエゾ・トランスデューサー方式のピックアップは、音源に対して理想的な取り付け位置を見つけるのが難しく、マウスピース部分はもちろん、金管楽器のリードパイプやベルの真横などいろいろ試しながら完成に漕ぎ着けたとのこと。ちなみにVaritoneは通常の '3300 Auditorium Model' のほか、上の動画にある '3100 Club Model' の2種がラインナップされておりました。この 'Club Model' はライヴなどの汎用性を高めた '若干' 小ぶりな仕様で、'Auditorium Model' のアンプ正面に備えられていたTremoloの 'Speed' と 'Depth' コントロールは外部からのコントロールに移されております。



またSelmerはVaritone専用のほか、サックス用ネックと共に 'Cellule Microphonique' の名で単品でも販売しており、これは当時日本の管楽器店も輸入販売しておりましたが・・いやあ、ピックアップ本体で2万円、取り付け用器具込みのサックス用ネックが1万円と、そのまま現在の価格にしても半端ではない高価なものだったようです。これは売れなかっただろうなあ。ちなみにVaritoneのピックアップは真鍮製の台座をネックやリードパイプに接合し、ピックアップ本体は台座とスクリューネジで着脱することができます。










C.G. Conn Multi-Vider
C.G. Conn Model 914 Multi-Vider

続いて登場したのが管楽器の名門、C.G.ConnのMulti-Viderであり、Selmer Varitoneに比べると他社の製品、ギター用のエフェクター(当時は 'アタッチメント' という呼称が一般的)などとの互換が可能な汎用性に優れておりました。また、ピックアップ自体も後発のGibson /MaestroやAce Tone Multivox専用のピックアップと互換性のある2つのピンでピックアップ本体に差し込むもので、その普及という点ではVaritone以上の成功を納めます。こちらの設計はファズやワウなどの製作をするJodan Electronicsが担当し、それまでのVaritoneにあった不自由さから一転、後発のVox / King AmpliphonicやGibson / Maestroの製品にも採用される、マウスピース側に接合するソケット部とピックアップ本体をゴムパッキンで嵌め込む方式をMulti-Viderが最初に始めました。またメーカーからはカールコードと通常のケーブルの2種が用意されて、ピックアップを外した後は真鍮の蓋で覆い通常のマウスピースとして使用することが可能です。







ちなみにConnは自社製品のほか、Robert Brilhartさんという方が手がけるデンマーク製マウスピース・ピックアップ、'R-B Electronic Pick-Up' なども純正品として推奨していたようです。こちらはピックアップとアンプの間にパッシヴのヴォリューム・コントロールを用意して、奏者の腰に装着するかたちとなりますね。この 'R-B Electronic Pick-Up' は当時、サックスやトランペットはもちろん、フルートへの使用などかなり普及しておりました。




さて、この 'R-B Electronic Pick-Up' とよく似たものとしては英国でジミ・ヘンドリクスも愛したファズ・ボックスの名品、Fuzz Faceを製作したIvor Arbiter氏による管楽器用マウスピース・ピックアップを発見!クラリネット用でパッシヴのヴォリューム・コントロール装備の 'The Bug' とサックス用の 'Brilhart' の2種が用意されているのですが、これらは多分Robert Brilhartさんが手がけたOEM品だと思いますね。このような付属ケーブルにおいてカールコードと通常のストレートのほか、標準フォンとミニプラグの2種が用意されているのは、これが管楽器用ユニットから足元のギター用ペダルなどへそのまま 'プラグイン' 出来る汎用性に対応したものですね。










Gibson / Maestro W-1 Sound System for Woodwinds
Gibson / Maestro W-2 Sound System for Woodwinds
Gibson / Maestro W-3 Sound System for Woodwinds

一方でGibson / Maestroのものは、ピックアップの本体部分はサックスのリード、クラリネットのバレルに一体成型されており、そこへ2つのピンを差し込んで使用するかたちとなります。このMaestro Woodwindsは1967年のW-1から1971年のW-3に至るまでこの分野における最高のヒット作となり、エディ・ハリス、トム・スコット、ポール・ジェフリー、ジョン・クレマー、ドン・エリス、マザーズ・オブ・インベンションのイアン・アンダーウッドやバンク・ガードナーなど多くのユーザーを獲得、変わったところでは作曲家の富田勲氏も '姉妹機' にあたるG-2 Rhythm n Sound for Guitarと共に愛用しておりましたね。この錚々たる名前からも分かるように、それは現在でも状態良好の中古がeBayやReverb.comなど定期的に出品されていることからも裏付けるでしょう。



Gretsch Tone Divider Model 2850 ①
Gretsch Tone Divider Model 2850 ②
Gretsch Tone Divider Model 2850 ③
Gretsch Effects

そんな 'お宝探し' も楽しいReverb.comでGretschのTone Divider Model 2850がオリジナル・ケース付きで出品されました!GretschってExpanderfuzzや 'Play Boy' シリーズなどのエフェクターが中古で現れることがあるのですが、妙なデザイン含めイマイチその全貌が掴めないのですヨ。このTone DividerはC.G.Conn Multi-ViderやVox Ampliphonicと同時期の1967年に発売されたもので、4つのツマミにClarinetとSaxophoneの入力切り替えやSound On/Off (Effect On/Off)のスイッチ、そしてNatural、English Horn、Oboe、Mute、Bassoon、Bass Clarinet、Saxophone、Cello、Contra Bass、String、Tubaの11音色からなるパラメータはMaestro Woodwinds辺りを参考にしたっぽい感じ。ここにTremolo、Reverb、Jazzというエフェクツをミックス(外部フットスイッチでコントロール可)するという、まあ、同時代の管楽器用エフェクターで定番の仕様となっております。この金属筐体に描かれた木目調のダサい感じがたまりませんねえ(笑)。ちなみにeBay出品①のものはその価格もさることながら、'A Product of Sound Research' の名で 'Telexピックアップ' (多分Conn Multi-ViderのOEM品)も付属しているのでかなりのお得ですヨ!。









Vox / King Ampliphonic
Vox / King Ampliphonic Pick-Up

このMulti-Viderとほぼ同時期に登場したのが英国の名門ブランド、Voxが手がける 'Ampliphonic' のシリーズです。これまでのピックアップがパッシヴだったのに対してこの 'Ampliphonic' ピックアップは、'A〜B〜C' と可変するヴォリュームの付いたアクティヴの仕様が特徴。基本的な作りはSelmer Varitone同様スクリューネジの着脱(互換性はない)となりますが、一部、Multi-ViderやGibson /Maestroとの互換性に合わせてゴムパッキンのソケット部を持つ製品もラインナップされました。また、管楽器市場への拡大を狙ってか当時、Voxと同じく傘下であったKingのブランドでも販売して総合的なPA製品含め展開しました。






Vox 'Ampliphonic' Woodwind and Brass Instruments
Piezo Barrel on eBay
Piezo Barrel Wind Instrument Pickups
Piezo Barrel Instructions
vimeo.com/160406148

そして、こちらはVoxが 'Ampliphonic' シリーズのひとつとして展開した管楽器群。すでにクラリネットのバレルやコルネット、トランペットのベル横に穴開け加工を施し、そのままピックアップ装着してステージに直行できます。このコルネットなどは同じく傘下のKingのOEMじゃないかな、と思うのですけど、ベル横に開けられた穴はまず小さなピンで塞ぎ(失くしそう)、それからネジ式の蓋で閉じるという構造となっております。ドン・エリスなどもそうなのですけど、管楽器奏者にとってマウスピースというのは音色を司るものから加工を嫌がる人も一定数おり、このような場合にラッパのリードパイプ上やベル横に穴を開けて装着する場合があります。PiezoBarrelとエンドース契約していると思しき?ユーザーのひとり、Tony Dimitrioskiさんなるラッパ吹きもがっつりベル横に穴を開けて装着。

さて冒頭でも触れましたが、このような旧態依然なマウスピース・ピックアップも一部、エフェクツを愛する管楽器奏者たちには需要があるようで(わたしです)、何故か古くはオスマン・トルコの軍楽隊に由来するのか、バルカン半島から地中海一帯において小さな工房が頑張っております。その中からブルガリアのNalbantov Electronics、ギリシャのTap ElectronicsなどがオーストラリアのPiezoBarrelのライバルとして今後注目されるかもしれません。というか、ワイヤレス・システムに対応していたり、オクターバー内蔵のピックアップを製作したりと製品開発の力の入れようはこちらの方が上かも・・。







Nalbantov Electronics
Nalbantov Electronics on eBay

PiezoBarrelのライバルその1。ブルガリアの工房Nalbantov Electronicsです。ガレージ臭たっぷりのPiezoBarrelに比べて、製品としてよりハイクオリティなパッケージとなっており、専用のオクターバーからDIYキット、ワイヤレス・システムに至るまで幅広く対応しております。動画は穴開け用のドリルなどがピックアップと共に梱包された 'DIY' キットの作り方ですが、いやあ、サックスのネックを万力などで固定せずそのままドリル貫通・・振動でブレて穴がズレたり抑えている指いっちゃいそうで怖い(苦笑)。





TAP Electronics
TAP Electronics Pick-Ups

PiezoBarrelのライバルその2。ギリシャのTAP Electronicsです。こちらもNalbantov同様に幅広いラインナップを揃えており、PiezoBarrelに比べ製品としてよりこなれた設計となっておりますね。昨日の項でも紹介しましたがピックアップ本体にオクターバーを内蔵させるとか、なかなかメンドくさがりな管楽器ユーザーの心理をよく読んでいる(笑)。この 'Octa' はオクターヴトーンのほか、1バンドEQ、ヴォリュームの3つのパラメータを持ち、USBによる90秒の急速充電により8時間ほどのパフォーマンスが可能。そろそろPiezoBarrel、Nalbantovに続いて本格的にeBayへ 'お店' を構えて頂きたいなあ。









The Little Jake ①
The Little Jake ②

こちらは '番外編' というか、バスーンの 'アンプリファイ' として唯一無二な存在のピックアップ、The Little Jake。どちらといえばアンサンブルの楽器で即興演奏とは無縁のバスーンは、ポール・ハンソンさんの演奏と共にその鈍重なイメージをマイケル・ブレッカーばりに刷新しました。細いパイプに穴を開けて装着するピックアップとガムの空き缶を利用したプリアンプがセット。その下のJim Dunlopのデモ動画としてバリトン・サックスのマウスピースに接合されているのは、2010年前後に英国で製作していた工房、Pasoanaのマウスピース・ピックアップ。Nalbantov ElectronicsのNCM600との比較動画なども残されておりますが(ロシア語なんでサッパリ・・)、このグルグル渦巻き柄のPasoanaピックアップはワイヤレス・システムなど幅広く手がけていたものの残念ながら消滅・・。ああ、この 'ニッチな' 分野で生き残るのは生半可なことではないようです。











Gibson / MaestroのSound System for Woodwinds用ピックアップはほとんどConnと大差ないので割愛して、管楽器用 'アンプリファイ' システムの最後発、Hammondが開発したInnovex Condor RSMのマウスピース・ピックアップをご紹介。と言ってもこちらはマイクの名門、Shureに外注として用意させた付属品で一般には手の入らない貴重なもの。つまり、Condor RSMのユーザーだけが手にすることができたもので、1971年のデイビスの動画及び上の写真にある緑のマークの付いたものがInnovexブランド専用、下のリンク先の写真が本家Shureのものでその他、上の写真にあるISC Musicのブランドのものが存在します。また、ピックアップ本体はスクリューによる着脱可能でSelmer Varitoneピックアップとの互換性があり、金管楽器への接合にはさらにソケット部の土台をゴムOリングにしてConn Multi-Viderとの互換性も発揮するなど、後発らしい他社製品との連携が考慮されておりました。Hammondは当時、エディ・ハリスや駆け出しの頃のランディ・ブレッカー、そして御大マイルス・デイビスへ本機の '売り込み' を兼ねた大々的なプロモーションを展開。そんなデイビスとHammondの関係は、1970年の 'Downbeat' 誌によるダン・モーゲンスターンのインタビュー記事から抜粋します。

"そこにあったのはイノヴェックス社の機器だった。「連中が送ってきたんだ」。マイルスはそう言いながら電源を入れ、トランペットを手にした。「ちょっと聴いてくれ」。機器にはフットペダルがつながっていて、マイルスは吹きながら足で操作する。出てきた音は、カップの前で手を動かしているのと(この場合、ハーモンミュートと)たいして変わらない。マイルスはこのサウンドが気に入っている様子だ。これまでワウワウを使ったことはなかった。これを使うとベンドもわずかにかけられるらしい。音量を上げてスピーカー・システムのパワーを見せつけると、それから彼はホーンを置いた。機器の前面についているいろんなつまみを眺めながら、他のエフェクトは使わないのか彼に訊いてみた。「まさか」と軽蔑したように肩をいからせる。自分だけのオリジナル・サウンドを確立しているミュージシャンなら誰でも、それを変にしたいとは思っていない。マイルスはエフェクト・ペダルとアンプは好きだが、そこまでなのだ。"




残念ながら本機自体はデイビスのお眼鏡に叶わなかったものの、このShureのマウスピース・ピックアップはデイビスの愛用品、Giardinelliのマウスピースに穴を開けて接合されて1975年の活動停止まで突っ走ります。以下、リンク先のShureのHPから質問コーナーに寄せられたピックアップに対する回答。

Shure CA20B Transducer Pick-Up

"Q - わたしはShurre CA20Bというトランペットのマウスピースに取り付けるピックアップを見つけました。それについて教えてください。"

"A - CA20Bは1968年から70年までShureにより製造されました。CA20BはSPL/1パスカル、-73dbから94dbの出力レベルを持つセラミックトランスデューサーの圧電素子です。それはHammond Organ社のInnovex部門でのみ販売されていました。CA20BはShureのディーラーでは売られておりませんでした。

CA20Bは(トランペット、クラリネットまたはサクソフォンのような)管楽器のマウスピースに取り付けます。穴はマウスピースの横に開けられて、真鍮のアダプターと共にゴムOリングで埋め込みます。CA20Bはこのアダプターとスクリューネジで繋がっており、CA20Bからアンバランスによるハイ・インピーダンスの出力を60'ケーブルと1/8フォンプラグにより、InnovexのCondor RSMウィンド・インストゥルメンツ・シンセサイザーに接続されます。Condor RSMは、管楽器の入力をトリガーとして多様なエフェクツを生み出すHammond Organ社の電子機器です。Condorのセッティングの一例として、Bass Sax、Fuzz、Cello、Oboe、Tremolo、Vibrato、Bassoonなどの音色をアコースティックな楽器で用いるプレイヤーは得ることができます。またCA20Bは、マウスピースの横に取り付けられている真鍮製アダプターを取り外して交換することができます。

Condorはセールス的に失敗し、ShureはいくつかのCA20Bを生産したのみで終わりました。しかし、いく人かのプレイヤーたちがCA20Bを管楽器用のピックアップとしてギターアンプに繋いで使用しました。その他のモデルのナンバーと関連した他の型番はCA20、CA20A、RD7458及び98A132Bがあります。"





Giardinelli Miles Davis 'Special' Model

そんなShure CA20Bも6年近い '沈黙' を経て再びステージに立った頃には、すでに '時代遅れの代物' と化したのか、ピックアップ本体は外されて蓋で閉じられた 'アコースティック・マウスピース' としてミュートと共に奏でます。こういう変化からすでに 'ワウの時代' ではなくなったことを象徴する一コマと映るのですが、それは復帰作 'The Man with The Horn' の中でタイトル曲のみワウペダルを使用していたことにも現れました。すっかりラッパの練習を怠っていたデイビスはワウペダルを使う気満々だったのだけど、そんな '時代遅れ' の雰囲気を伝えるべくテオ・マセロらがワウペダルを隠してしまったことから仕方なくアコースティックで開始、あのヘロヘロした病み上がりのトーンへと結実するのです。当然、こりゃヤバイ!とデイビスが体調改善と共にラッパを必死に練習したことは言うまでもない・・。






さて、ここまではいわゆる管楽器用エフェクターの付属品として用意されていたマウスピース・ピックアップを見てきましたが、1970年代に入るとピックアップ単品として発売されて気軽にアプローチすることが可能となります。そのきっかけとなったのがピックアップの老舗、Barcus-berry。この会社の製品が革新的だったのはピックアップ本体の小型化であり、マウスピースという限られたスペースの邪魔にならない取り付けを実現したこと。しかし、個人的には製品の耐久性という点でイマイチな部分が多く、わたしの環境ではマウスピースに接合して一年ほど過ぎるとガクッと感度が落ちてエフェクツのかかりが悪くなります・・(2つダメにしました)。そもそもピエゾ・トランスデューサー式はマイク同様に湿気に弱く、定期的なピックアップ本体の着脱を通して製品の寿命へ貢献すると考えております。実際、猛烈な息の出入りにより熱気から急速に冷えた結露としてピックアップに対する負担は相当なもの・・結局、現在はカタログ落ちしているのを見ると製品としての設計に無理があったのでしょう。




ちなみにBarcus-berryはこの製品の特許を1968年3月27日に出願、1970年12月1日に創業者のLester M. BarcusとJohn F. Berryの両名で 'Electrical Pickup Located in Mouthpiece of Musical Instrument Piezoelectric Transducer' として取得しております。特許の図面ではマウスピースのシャンク部ではなく、カップ内に穴を開けてピックアップを接合しているんですねえ。しかし、カップ内で音をピックアップするとプシャ〜とした息の掠れる音が入り、動画はPiezoBarrelのものですが、こんな独特な音色となってイマイチ扱いにくいのでシャンク部に穴を開けた方が使いやすいと思います。





1982年のジャコ・パストリアス・グループ参加の頃はそんな '転換期' であり、モデルチェンジしたピックアップと共に中継コネクターをマウントする部分が、ベルとリードパイプ括り付けの 'タイラップ仕様' から専用のクリップでマウントする方式に変更。しかし動画のランディ・ブレッカーは、マウントするパーツが未だ従来のタイラップも付けたまま状態という、いかにも過渡期の勇姿を拝むことができます。また、ボブ・ミンツァーが吹くバス・クラリネットもBarcus-berryの1375-1で 'アンプリファイ'。後年、ランディ自身はこの頃のセッティングを振り返ってこう述べております。

"エフェクトを使い始めたころはバーカスベリーのピックアップを使っていたし、マウスピースに穴を開けて取り付けていた。ラッキなーことに今ではそんなことをしなくてもいい。ただ、あのやり方もかなり調子良かったから、悪い方法ではなかったと思うよ。"





最初の写真のものは1970年代初めに製品化された金管楽器用1374で、中継コネクターを介して2.1mmのミニプラグでフォンへと接続します。中継コネクターにぶら下がるタイラップはベルとリードパイプ部分をグルッと引っ掛けておくという仕様でして、この会社の製品はその '作り' という点でも結構荒っぽいんですよね。これ以後、1970年代後半には3.5mmのミニプラグに仕様変更され、金管楽器用は中継コネクターを専用のクリップでリードパイプに着脱できるようになったのが真ん中の写真のもの。この時期の製品を個人的に調べてみて分かったのは、1982年製造と1983年製造のものでピエゾの感度がかなり変わってしまったことでして、正直、1983年製は 'ハズレ' と言いたいくらいエフェクツのかかりが悪いですねえ(謎)。そして1990年代半ばに発売されるも少量で生産終了した 'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001が同社 '有終の美' を飾ります。Barcus-berryが社運を賭けて開発したと思しき本品は同社で最も高価な製品となり、当時代理店であったパール楽器発行の1997年のカタログを見ると堂々の65,000円也!しかし、すでにグーズネック式のマイクがワイヤレスと共に普及する時代の変化には太刀打ちできませんでした。



この6001の代表的なユーザーとしては、近藤等則さんが1990年代終わり頃から 'DPA' 流用によるオリジナルなマウスピース・ピックアップへ換装する2007年頃まで使用しておりましたが、今や、同社を象徴していたマウスピース・ピックアップはカタログからその姿を消し、この老舗の '栄枯盛衰' と共にすっかり寂しいものとなったのは残念至極。やはり他社がやらないところで、この会社ならでの発想を活かす製品作りを継続してやって頂きたいですねえ。ちなみにこの6001使用時の近藤さんは、ベル側のマイクとマウスピース・ピックアップを2チャンネル真空管プリアンプの名機、Alembic F-2Bで 'モノ・ミックス' して出力しておりました。




珍しいBarcus-berryの 'エレクトレット・コンデンサー' 式ピックアップとしては、一時期、金管用の5300というのがラインナップされておりました。これはラッパのベルのリム縁にネジ止めしてマウントするもので、1981年に復帰したマイルス・デイビスもメーカーは違いますが同種のピックアップをステージで使用しておりましたね。当時、もの凄いお金のかけたワイヤレス・システムだったそうですが、このBarcus-berryの方はすでに '廉価版' としてリーズナブルなお求めやすい価格で提供されました。こんな構造ですけどオープンホーンはもちろんミュートもちゃんと拾うナチュラルな収音であるものの、ワウなどのエフェクツをかけると簡単にハウってしまいます。基本的にはリヴァーブやディレイ程度で '生音' の収音に適したピックアップなのですが、これもグーズネック式マイクの登場であっという間に '過去の遺物' に・・(デイビスもあの '傘の柄' のようなワイヤレス・マイクに変えちゃいましたしね)。






Barcus-berry 1375 Piezo Transducer Pick-Up
Barcus-berry C5200 (C5600) Electret Condenser Pick-Up ①
Barcus-berry C5200 (C5600) Electret Condenser Pick-Up ②

その他の製品は、木管楽器用1375-1、穴は開けずにリード部分へ貼り付ける仕様の廉価版1375などがあり、現在では、元々フルートの 'アンプリファイ' に力を入れていた同社らしく頭管部に差し込む6100、サックス/クラリネット用としてベル内側にベルクロで貼り付ける(荒っぽい!) 'エレクトレット・コンデンサー' 式のC5200 (C5600)などの一風変わったピックアップを供給するなど、相変わらず '斜め上' のセンスで細々と展開しておりまする。動画はジャン・リュック・ポンティ、ジョージ・デュークらを擁したフランク・ザッパ1973年の全盛期のものですが、イアン・アンダーウッドのバス・クラリネットに貼り付け型1375を用いてエフェクティヴなソロを披露。しかしネック部にConn Multi-Vider用ピックアップのための穴も開けられて蓋で閉じられております。この '貼り付け型ピエゾ' は穴を開けて接合するピエゾに比べてハウりやすいイメージが強いのですが、Eventide H9による 'ハーモナイズ' なサックスのトリガーとしてちゃんと使えます。どうしても楽器に穴を開けたくない・・って方はこちらをお試しあれ。







フルートの 'アンプリファイ' として頭管部に差し込み、まだ 'プログレ' 期のクラフトワークで吹くフローリアン・シュナイダー。1970年代初頭の市場に現れたBarcus-berryはあらゆるアコースティック楽器のピックアップを総合的にラインナップし、Gibson / MaestroのSound System for Woodwindsや初期シンセサイザーのトリガーとしてこの手の機器は大きく貢献しました。



Barcus-berry 1333 Super Boost

ちなみにBarcus-berryの 'ピエゾ式' マウスピース・ピックアップはパッシヴなので、メーカーから別に汎用のプリアンプが用意されておりました。これも時代ごとのモデルチェンジが激しく、初期の1330S High Impedance 'Standard' Preamplifier、Super Boostの1333や1433-1、1980年代からは3Vのボタン型リチウム電池のプリアンプがピックアップと同梱して販売され、その後の1990年代頃からはUniversal Interface 3500Aなどが登場しました。また、'エレクトレット・コンデンサー' 式の6001に対応したBuffer Preamp/EQ 3000Aはこれらとインピーダンスが違うので共用することはできません。写真のものは1970年代後半の1430 Standard Pre-Ampと1432 Studio Pre-AmpというDI出力の付いたもので、9V電池のみならずDC9V電源の駆動も可能とします。









Toshinori Kondo Equipments
DPA SC4060、4061 Review
Phoenix Audio DRS-Q4M Mk.2
Rumberger Sound Products K1X ①
Rumberger Sound Products K1X ②

そんな我らが '電気ラッパ' の伝道師、近藤等則さんなのですが、永らく愛用したBarcus-berryからファンタム電源の供給可能なDPAの直径5.5mmな 'ミニチュア・マイロフォン' で一新!ピックアップ本体の着脱から防水としてポリプロピレンのシールドをソケット部に貼るなど、その構造はBarcus-berry 6001をほぼ踏襲しており、これを音響機器の世界で伝説化されているNeveの質感を再現したマイク・プリアンプPheonex Audio DRS-Q4M Mk.2と共に使用。また、ピックアップをマウスピースに装着するソケット部は新大久保のグローバルにオーダーして製作してもらったとのこと。このようなファンタム電源に対応しているマウスピース・ピックアップは、数は少ないですが他にドイツのRumberger Sound Productsのものがありますね。以前にこのK1XのフルセットをeBayで見つけたものの約6万・・なかなかの高級品ではありまする。








NeotenicSound AcoFlavor ①
NeotenicSound AcoFlavor ②

このような管楽器の 'アンプリファイ' においてはラインによる音作りが重要なのですが、その '無味乾燥' な環境に一味加える特別なスパイスをご紹介しましょう。ピエゾ特有の硬くシャリッとした '質感' を補正してくれる唯一無二の便利アイテム、NeotenicSound AcoFlavorが結構売れているそうですヨ。わたしも微力ながら本機モニターとしてお手伝いさせて頂いたので、こういうアイテムが楽器は違えど同種のニーズを求められているのは嬉しい限りです。そんな本機は 'Acoustic-Pickup Signal Conditioner' と呼ばれており、その後ろに 'ダイナミック・プロセッサー' のMagical ForceとHeadway Music AudioのEDB-2でダイナミック・マイクのSennheiser e608とミックスさせて愛用中。PiezoBarrelピックアップひとつでも高音域をカバーしている為に十分なのですが、ここにマイクを混ぜることでより '空気感' が加わりますね。また、このAcoFlavorは単なる 'インピーダンス・マッチング' のみならず音に密度が増しており、ピックアップからの感度調整を司るFitとは別にLimitツマミを回すことで '暴れ感' を抑えることができます。現在のセッティングはMaster 1時、Fit 10時、Limitを9時にセット・・。以前はLimitは0だったのですが、少し上げてやると格段に演奏がしやすくなりまする。そんなAcoFlavor、プリアンプと勘違いする方も多いと思いますけど、奏者にとって演奏時に感じるレスポンスの '暴れ' をピックアップのクセ含めて補正してくれるもの、と思って頂けると分かりやすいでしょうね。


そして、これらピックアップで取り出す信号に対してダイナミズムの演出に欠かせないのがヴォリューム・ペダル。過去にVox AmpliphonicやギリシャのTAP Electronicsのピックアップに代表されるパッシヴのヴォリューム・コントロール内蔵はありましたが、基本的に音量調整を持たない 'エレアコ' においてはヴォリューム・ペダルを用いるのが必須ですね。1970年代の 'エレクトリック・マイルス' の時代、マイルス・デイビスもより繊細な音量コントロールを求めて1972年からヴォリューム・ペダルの老舗、DeArmondにトランペットの音量カーブに合わせたパッシヴ '610' の特注品をオーダーしました。そんな 'ダイナミクス' の恩恵と音楽の新しい '聴こえ方' についてこう述べております。

"ああやって前かがみになってプレイすると耳に入ってくる音が全く別の状態で聴きとれるんだ。スタンディング・ポジションで吹くのとは、別の音場なんだ。それにかがんで低い位置になると、すべての音がベスト・サウンドで聴こえるんだ。うんと低い位置になると床からはねかえってくる音だって聴こえる。耳の位置を変えながら吹くっていうのは、いろんな風に聴こえるバンドの音と対決しているみたいなものだ。特にリズムがゆるやかに流れているような状態の時に、かがみ込んで囁くようにプレイするっていうのは素晴らしいよ。プレイしている自分にとっても驚きだよ。高い位置と低いところとでは、音が違うんだから。立っている時にはやれないことがかがんでいる時にはやれたり、逆にかがんでいる時にやれないことが立っている時にはやれる。こんな風にして吹けるようになったのは、ヴォリューム・ペダルとワウワウ・ペダルの両方が出来てからだよ。ヴォリューム・ペダルを注文して作らせたんだ。これだと、ソフトに吹いていて、途中で音量を倍増させることもできる。試してみたらとても良かったんで使い始めたわけだ。ま、あの格好はあまり良くないけど、格好が問題じゃなく要はサウンドだからね。"

さて、そんなヴォリューム・ペダルで評価の基準とされているのが、'踏み心地' とバッファーの兼ね合いからくる音質の変化。単に音量の 'On/Off' だけならミュート・スイッチで十分なワケでして、あくまで操作性と立ち上がり 'カーブ' の最適な踏み心地を提供すべく、ペダルをギアポットから紐によって可動させ、安定して足を乗せられる踏み板とピッキングに対する追従性が問われます。バッファーに関してはそれぞれの '好み' に左右されますが、これもロー・インピーダンス仕様の製品であれば、上質なバッファーで一旦下げてしまった後の変化はそれほど気になるものではないようです。

正直わたしも、以前はそれほどヴォリューム・コントロールに対して気にかけておりませんでしたが、自らの足元へ 'ループ・サンプラー' 導入に対するダイナミズムの演出でヴォリューム・ペダルほど大げさじゃないもので何かないかと探しておりました。そんなヴォリューム・ペダルの使用に当たって注意したいのは、最初にベストな音量の設定をした状態から可動させた後、瞬時に元の設定位置へ戻すのが大変なこと。




OK Custom Design VPLM

このようなニッチな不満に応えようと現れたのが、そんなヴォリュームの状態を視認できる '便利グッズ' と呼ぶべきレベル・インジケーター。音量の増減に合わせてググッとLEDが上がったり下がったり・・その視認性の高さ以外に見た目としても華やかで楽しく、チューナーアウトもしくはエクスプレッション・アウトの端子を持つヴォリューム・ペダルに対応しております。このOK Custom Designのものは、接続する製品によって極性を合わせる為に裏面のトリマーを調整してレベル・マッチングを図ることが出来るのも便利(現行品は筐体上面にトリマー装備)。


Neotenic Sound Purepad ①
Neotenic Sound Purepad ②

さて、残念ながら動画はありませんが、わたしの足元にはお馴染みNeotenic SoundのPurepadがスタンバイ。これは2つに設定された 'プリセット・ヴォリューム' をスイッチ1つで切り替えるもので、ひとつは通常の状態(赤いLEDのSolo)、もうひとつが若干ヴォリュームの下がった状態(緑のLEDのBacking)となっており、Padで音量を抑えながら全体のバランスを崩すことなく音量を上下できる優れもの。この切り替えによる音質の変化はありますが、音量を下げても引っ込みながらシャープなエッジは失われずまとまりやすい定位となります。そんなメーカーの '取説' は以下の通り。

"ピュアパッドは珍しいタイプのマシンなので使用には少し慣れとコツが必要かもしれませんので、音作りまでの手順をご紹介します。アコースティックの場合は図のように楽器、プリアンプ、ピュアパッド、アンプの順に接続します。エレキギターなどの場合は歪みペダルなど、メインになっているエフェクターの次に繋ぐとよいでしょう。楽器単体でお一人で演奏される場合は、初めにピュアパッドをソロ(赤ランプ)にしておいて、いつものようにプリアンプやアンプを調整していただければ大丈夫です。ピュアパッドのスイッチを踏んで、緑色のランプになったら伴奏用の少し下がった音になります。複数の人とアンサンブルをする場合には、初めにピュアパッドをバッキング(緑のランプ)の方にして、他の人とのバランスがちょうどいいようにプリアンプやアンプで調整します。そしてソロの時になったらピュアパッドのスイッチを踏めば、今までより少し張りのある元気な音になってくれます。また、ピュアパッドを繋ぐと今までより少し音が小さくなると思いますが、プリアンプよりもアンプの方で音量を上げていただく方が豊かな音色になりやすいです。もしそれでアンプがポワーンとした感じとなったり、音がハッキリクッキリし過ぎると感じたら、アンプの音量を下げて、その分プリアンプのレベルを下げてみてください。ツマミを回すときに、弾きながら少しずつ調整するとよいでしょう。"

わたしの環境では 'ループ・サンプラー' でのオーバーダブする際、フレイズが飽和することを避ける為の導入のほか、宅録の際にもアンプのヴォリュームはそのままに全体の音像を一歩下げる、もしくは歪み系やディレイ、ワウのピーク時のハウリング誘発直前でグッと下げる使い方でとても有効でした。


そんなPurepadはLED視認の為の電源以外はパッシヴの仕様なのですが、NeotenicSoundさんによれば新たにバッファー内蔵のアクティヴ版Purepadを近々発売するとのこと!従来のパッシヴ版ではプリアンプや '歪み系' エフェクターの後ろに繋いでマスタープリセット的に使用することを想定していたようですが、このアクティヴ版は各種スイッチャーのチャンネルに組み込んだり、楽器の先頭に繋いでブースターの補助的アイテムとして用いたりとその '使い勝手' の幅が広がりました。堂々と 'Dynamics Processor' の名と共にDC9Vアダプターのほか9V電池による駆動可。

最後は日本を代表する楽器メーカーのひとつ、Roland。その創業者である故・梯郁太郎氏が1960年代からRolandとして独立するまで携わっていたのがAce Toneです。いわゆる 'GSブーム' においてはGuyatoneやElk、Tiesco、Honeyなどと並び 'エレキ' の代名詞的存在となったことは、その製品カタログにおいてオルガン、リズムボックス、エフェクター、アンプなどを総合的に手がけていたことからも分かります。そんな世界の新たな動きに呼応しようと奮闘した日本の 'Ace Tone' ことエース電子工業株式会社。まさに日本の電子楽器の黎明期を支えたメーカーと言って良いでしょう。


Ace Toneが鍵盤奏者やギター奏者のみならず、管楽器の 'アンプリファイ' にもアプローチしていたことはほとんど知られておりません。そもそも '電化アレルギー' の多い保守的なジャズの世界でこの手の機器にアプローチすることは '堕落' したことと同義であり、実際の効果はもちろん、それをステージ上で積極的に探求しようとした奏者もほぼ皆無であったと推測されます。しかしこれは、それまでバンド・アンサンブルの '主役' であった管楽器が '退場' する瞬間でもありました。ビッグバンドにおける4ブラスを始めとした豪華な '音量' は、些細なピッキングの振動がそのまま、ピックアップとアンプを通して巨大なスタジアム級のホールを震わせるほどの '音圧' に達する 'エレキ' に簡単に負けてしまったのですから。









Vox / King Ampliphonic Octavoice Ⅰ and Ⅱ
Vox / King Ampliphonic Stereo Multi-Voice

このあたりは海外でもほぼ同じ状況ではありましたが、しかし巨大なスタックアンプの爆音によるアンサンブルの中で埋もれない為や、ジャズよりもプログレやR&Bのスタイルでの需要など、消極性と可能性の狭間で愛用の管楽器に穴を開けざるを得ませんでした。いわゆる 'ジャズの帝王' マイルス・デイビスですら、それまでのモダン・ジャズのキャリアを捨ててロックに色目を使った、ポップの軍門に降ったなどと頑固なジャズ・クリティクから罵詈雑言を浴びせられていたのにも関わらず、自らの新たな音楽の探求の為に 'アンプリファイ' の可能性に賭けたのです。Ace Toneがこういう海外の事情にいち早く飛び付き、例えコピーと言えどもひとつの製品として市場に送り出すのはHoneyと双璧の存在と言って良いでしょう。



1968年、当時としてはかなり高価な管楽器用 'アンプリファイ' サウンド・システムであったMulti-Vox。各種オクターヴを操作するコントローラー・ボックスEX-100は39,000円、マウスピースに穴を開けて接合するピックアップPU-10は3,000円と、その 'ニッチな' 需要と相まってなかなか手の出るものではなかっただろうと推測されます。当初の広告では、コレでジョン・コルトレーンのタッチやソニー・ロリンズの音色が再現出来るとのキャッチコピーが泣かせますね(笑)。またAce Toneは1968年にHammondと業務提携をして、本機もOEMのかたちで米国に輸出する旨がアナウンスされていたことを1969年のカタログで確認することが可能。しかし 'Inquire for details and prices' と強調されているのを見ると日本から現物が届いておらず、カタログでアナウンスされたものの米国では発売されなかった感じですね。実際、今までeBayやReverb.comなどに流れてきた記憶がないので、世界最大のエフェクター・サイトである 'Disco Freq's Effects Database' にもこれまで本機が掲載されることはありませんでした。どなたか本製品の現物をお持ちの方、情報お持ちしております!





さて、このMulti-Vox EX-100。サックス用にはコントローラーをVaritone同様にキー・ボタンの側、ラッパでは奏者の腰に装着して用いるもので、日野皓正さんなどは同社のギターアンプSolid Ace SA-10にテープ・エコーEC-1 Echo Chemberの組み合わせをアルバム 'Hi-Nology' 見開きジャケットで拝むことが出来ます。当時、このようなスタックアンプといえばTeiscoやElkと並び総合的にPAを手がけていたAce Toneの土壇場だったのですが、海外製のギターアンプと比べると圧倒的に歪まなかった・・。しかし、それがこのような管楽器用アンプとしては十分に威力を発揮したのだと思います。



Terumasa Hino Quintet 1968 - 69

このMulti-Voxをいち早く導入したのがマイルス・デイビスの '電化' に感化されていたトランペットの日野皓正氏とテナーサックスの村岡建氏のふたり。すでに本機発売の翌年、そのデモンストレーションともいうべき管楽器の可能性をいくつかのイベントで披露しております。

⚫︎1969年3月24日 初の日野皓正クインテット・ワンマン・コンサートを開催する(東京サンケイ・ホール)。'Love More Train'、'Like Miles'、'So What' などを演奏、それに合わせてあらかじめ撮影された路面電車の 種々のシーンをスクリーンに映写し、クインテットがインプロヴァイズを行う。日野さんのラッパには穴が開けられピックアップを取り付けて初の電化サウンドを披露した。

⚫︎1969年6月27、28日 クインテットによる「日野皓正のジャズとエレクトロ・ヴィジョン 'Hi-Nology'」コンサート開催(草月会館)。写真家の内藤忠行のプロデュースで司会は植草甚一。第一部を全員が 'Like Miles'、'Hi-Nology'、'Electric Zoo' を電化楽器で演奏。第二部は「スクリーン映像との対話」(映画の公開ダビング)。「うたかたの恋」(桂宏平監督)、「POP 1895」(井出情児監督)、「にれの木陰のお花」(桂宏平監督)、「ラブ・モア・トレイン」(内藤忠行監督)の5本、その映像を見ながらクインテットがインプロヴァイズを行い音楽を即興で挿入していった。コンサートの最後にクインテットで 'Time and Place' をやって終了。





Ride and Tie / Takeru Muraoka & Takao Uematsu

日野皓正さん1969年の傑作 'Hi-Nology' の内ジャケットでは使用中の写真がありますけど音源には入っていない模様。本作で共演するサックス奏者、村岡建さんは、この時期から少し経って1971年の植松孝夫さんとの '2テナー' によるライヴ盤 'Ride and Tie' で全編、'アンプリファイ' なオクターヴ・トーンを堪能することが出来ます。実はコレ、Ace Tone Multi-Voxなのでは?と思っているのですが、取説での村岡さんの談によればヤマハから '電気サックス' 一式を購入したことが本盤制作のきっかけとなったそうで、その海外事業部を介して手に入れた '海外製品' (Varitone ?Multi-Vider ?)を使用したと理解する方が自然かもしれません。ちなみに日野さんは、この時期の '日野ブーム' と共に大きく影響を受けた 'エレクトリック・マイルス' 及び '電気ラッパ' に対してこう述べております。

- エレクトリック・トランペットをマイルスが使い始めた当時はどう思いましたか?

"自然だったね。フレイズとか、あんまり吹いていることは変わってないなと思った。1970年ごろにニューヨークのハーレムのバーでマイルスのライヴを観たんだけど、そのときのメンバーはチック・コリアやアイアート・モレイラで、ドラムはジャック・ディジョネットだった。俺の弟(日野元彦)も一緒に観に行ってたんだけど、弟はディジョネットがすごいって彼に狂って、弟と "あれだよな!そうだよな!" ってことになって(笑)。それで電気トランペットを俺もやり始めたわけ。そのころ大阪万博で僕のバンドがああいうエレクトリックのスタイルで演奏したら、ヨーロッパ・ジャズ・オールスターズで来日中だったダニエル・ユメールに "日野はマイルスの真似しているだけじゃないか" って言われたことがあるんだけどね。"








Nalbantov Electronics OC-2 eXtreme with Preamplifier
Nalbantov Electronics

肝心の日野さんによるMulti-Voxを用いた音源は未だ聴けていないのですが、そんなMulti-Voxの血脈を受け継いだ '末裔' じゃないか?と思わせるのがこちら、BigJamのSE-4 Octave。Ace Toneは1970年代に創業者の故・梯郁太郎氏が独立、Rolandを創業した後も存続し、その親会社の日本ハモンドが展開したエフェクターブランドがこのBigJam。SE-4の筐体の色からMXR Blue Box辺りの影響を感じさせますが、これは典型的な '極悪' オクターバーでございます。1オクターヴ下、2オクターヴ下、5度下!などという3種モードが意味ないほど、全くトラッキング無視の '飛び道具'。さて、同じ大阪万博のステージでC.G. Conn Multi-Viderを引っ提げてやって来たのがスイス出身のサックス奏者、ブルーノ・スポエリ。これは万博スイス館のためにThe Metronome Quintetとして来日したもので、それを記念して日本コロンビアから7インチ 'EXPO Blues' を吹き込んでおります。この、Multi-Viderのネロ〜ンとした電気サックスの音色がたまらない・・。ちなみにこのような奏者の腰に装着する管楽器用オクターバーは、古のVox Ampliphonic OctavoiceやC.G. Conn Multi-Vider、Ace Tone Muli-Voxなどがありましたが、現在ではほぼ見かけることのない懐かしいスタイル。そんな中でブルガリアの工房、Nalbantov ElectronicsのBoss OC-2をベースにしたと思しきOctaver OC-2 eXtremeは貴重な一台としてeBayから購入出来まする。

2019年5月4日土曜日

PiezoBarrelは 'アンプリファイ' を変える

管楽器用のマウスピース・ピックアップとして今、そのユーザーを続々と増やしているのは間違いなくこのPiezoBarrel。スティーヴ・フランシスさんがオーストラリアの工房でひとり改良、ヴァリエーションを増やしながらeBayで販売しており、何よりその価格の安さやマウスピースと同梱した製品パッケージがその敷居を下げていると思うのです。








Piezo Barrel on eBay
Piezo Barrel Wind Instrument Pickups
vimeo.com/160406148

ラインナップはサクソフォン、クラリネット、トランペット、トロンボーン、リコーダー、バスーンなど多様な管楽器奏者のニーズを満たしており、一時期のBarcus-berryのような '老舗感' さえすでに漂っているのは凄い。この手の製品としては最近、eBayに 'お店' を出しているブルガリアのNalbantov ElectronicsやギリシャのTAP Electronicsなどがありますけど、このPiezoBarrelの '売れ行き' に比べてまだその知名度は低いでしょうね。







こちらは 'PiezoBarrel広報大使' (笑)と呼んでも差し支えないくらいに楽しいパフォーマンスを披露するLinsey Pollakさん。一見、大道芸的展開ながら実はかなりのテクニックと表現力で聴かせますねえ。今でも少ないPiezoBarrelの動画ですが、その初期においてほぼ皆無だった頃にわたしが初めて見たのもこのLinseyさんの動画。すぐ購入に向けてあれこれ調べ始めたのは言うまでもありません(笑)。




●eBayで販売を開始した初期のもの。まだサックス/クラリネットの木管楽器用のみの商品展開で、金管楽器用のものに比べると高域を落として中低域に振ったチューニングがなされております。基本的なPiezoBarrelのパッケージの中身としてはケーブル、自分でお気に入りのマウスピースに装着する 'DIY派' の為に複数のソケット部と蓋にゴムパッキン、ピックアップ本体のLevelツマミを回す為の小さなドライバーが付属します。



●続いて金管楽器用として登場したのがこちらの 'P6シリーズ'。これまでピックアップ単体での販売からマウスピースを同梱してのパッケージが追加され飛躍的にユーザーが増えました。トランペット用マウスピースは 'Bachタイプ' のもので7C、5C、3Cの3種。また、一時 'Monetteタイプ' のヘヴィなマウスピースもラインナップされておりましたが、ソケット加工に当たって手間がかかることから現在はヤメてしまいましたね。





●現在、新たに展開するのは木管楽器用 'P7シリーズ' と金管楽器用 'P9シリーズ' のもので、ピックアップ本体底部にはメーカー名の刻印、全体の金や黒、青いアルマイト塗装が眩しいですね。さらに同梱するマウスピースがそれまでの中国製 '無印' からFaxxの 'ショートシャンク'とサイズに1Cが追加。また付属するケーブルも金属製プラグとなり、ピックアップを着脱するソケットがマウスピースのカーブに合わせた波形の加工が施されるなどグレードアップしております。このカーブ状に加工されたソケット部は大変ありがたく、以前は 'DIY' するに当たってマウスピースのシャンク部を平らに削り取っていた手間が不要になったこと。製品としては、ピックアップ本体を封入するフィルムケースをさらにデザインされたパッケージで包装し、PDFによる取扱説明書などを用意してきちんとした印象になりました。本機の開発に当たってはスティーヴさんによればバークリー音楽大学のDarren Barrett氏とのテスト、助言を得てデザインしたとのこと。その中身について以下の回答を頂きました。

"The P9 is different internally and has alot of upper harmonics. The P6 (which was the old PiezoBarrel 'Brass') was based on the same design as the 'Wood' but with more upper harmonics and a lower resonant frequency so they do not sound the same."

なるほど〜。実際、以前の 'P6' と比較して高音域がバランス良く出ているなあと感じていたのですが、かなり金管楽器用としてチューニングしてきたことが分かります。一方で以前の 'P6' は木管楽器用との差異は無いとのこと。





Trumpet PiezoBarrel P9 Pickup microphone, Faxx 5C Mouthpiece and 4m Cable
Trumpet PiezoBarrel P9 Pickup microphone, Bach Style 5C Mouthpiece and 4m Cable

画像は右が '無印' の 'P6シリーズ'、左が 'P7シリーズ' のFaxxなのだけど・・え〜、このFaxxのマウスピースなんですが、わたしのMartin Committeeでは 'P7' のソケットの位置からシャンク部が '底付き' してしまいます(悲)。つまり、細いシャンクと短い位置にソケットを接合している為に深く入り過ぎちゃうんですヨ(きちんと嵌らずブラブラするのです)。これは現在ラインナップされている 'Faxx' のほか、'Bach Style' のマウスピースも同じ仕様なので、いわゆる 'ショートシャンク' 派以外の方はこのギャップに注意してお買い求め下さいませ。









Piezo Barrel Instructions

ちなみにスティーヴさんにもこの辺の事情をメールでやり取りして、無料で新たな位置にソケットを付け直したマウスピースを送るヨ、と言ってもらえたのですが、スティーヴさんによれば多分、バックボアとの関係からショートシャンクなマウスピースのステップ(カップとシャンクを繋ぐ境界線)を跨いでソケットを取り付けることには懐疑的で、こんな専門的な回答を頂きました。

"38mm is difficult as it will not suit most mouthpieces and I am trying to get the mouthpiece hole further down the backbone where the throat is wider to minimise the effect of the hole in the bore.  The larger cross sectional area will lower the pressure and the movement of air into and out of the pickup.  It will also reduce the air noise as the air velocity is lower and there is less noise from the cup."

例えば以前に用いていたBarcus-berryのピックアップなど、平気でこのステップを跨いだり挙句にカップ内へピックアップを接合するといったものがありましたけど、ね(苦笑)。上の動画のバルブ・トロンボーンの人などかなり特殊な効果を狙っている、感じ(汗)。ま、そういういろんなニーズに応える?為に複数のカーブ状に加工されたソケットが同梱されているので、ここは自分の好みのマウスピースに半田でソケットを接合、ドリルで2.5mmの穴を開けてチャレンジしてみましょうか。



今回、新たにスティーヴさんによって公開された動画では、バーナーでちんちんに熱したところへ取り付ける 'ロウ付け半田' による加工で以前のものとはその強度が違います。以前のものはソケット部を半田の上にそのまま乗っけただけなので、ちょっと強めにネジ止めするとポロッとソケット部が外れてしまうくらい弱かった・・。この動画の中から3:27〜4:09のところで最初のドリルによる加工がありますが、これは半田で盛られたソケットの付け根内を浅く円錐状に切削するもので、その後に小さいドリルで2.5mmの穴を開けて貫通します。う〜ん、個人の 'DIY' としては少々ハードルが高いかも・・。ちなみにスティーヴさんによれば動画後半はマウスピースを磨く作業だけなので、実際の取り付け部分の中身は最初の5分弱に集約されているとのこと。以下はPiezoBarrelのpdfでトランペットのマウスピース加工に関する説明文(英文ママ)です。

"First, the brass fitting should be heated with a soldering iron and the bottom surface 'tinned' with solder prior to attaching to the mouthpiece.

The Type E fittings provided are designed to fit around the stem of the trumpet mouthpiece to provide a good solder connection. Note that the fitting placement will depend on how far the stem of the mouthpiece fits into the lead pipe or receiver and the shape of the mouthpiece. It is advised to mark the desired position of the brass attachment with mouthpiece attached to the instrument to ensure the attachment will not prevent the mouthpiece from fitting the instrument correctly.

To attach the brass fitting to the mouthpiece you need to secure the mouthpiece so you can work on it without it moving. The mouthpiece will also need to be heated to approximately 300 degrees C depending on the solder, so it will need to be clamped in some material that can withstand this heat.

The mouthpiece needs to be heated until hot enough to melt the solder. Solder should be applied to a small area where the fitting will be attached. Once the solder has formed a smooth blob on the area and has adhered to the mouthpiece stem, you can carefully (and quickly) wipe the solder off with a clean damp cotton cloth. A little more solder should be carefully applied to wet the area and the fitting placed on the mouthpiece stem and kept hot until a good solder joint has been formed. Heat can them be withdrawn and the fitting and mouthpiece allowed to cool. Using a flux (either rosin or acid) during soldering is required to remove oxides and to get a smooth strong joint. The joint should be washed after cooling to remove any flux that may cause corrosion.

The last step is to drill a 2mm or 2.5mm hole into the mouthpiece to allow the sound from the instrument into the pickup. PiezoBarrel pickups work by sound pressure produced by the standing wave inside the instrument - not like a contact mic."



www.instagram.com/mikemazmaher/

そして余談ですけど、最近新たにあの人気バンド、Snarky Puppyのラッパ吹きであるMike 'Maz' MaherさんがPiezoBarrelユーザーとして加わりました!現在、Snakky Puppyのツアー中であるMaherさんが入手してその結果に満足しており、ディストーショナルに歪んだソロを彼のインスタグラムの動画で披露しておりまする。いやあ、こういう話題の奏者のアプローチから裾野へとどんどん広まっていったら良いなあ。その内、高校生の吹奏楽部などでホーン・セクション全員がPiezoBarrelで 'アンプリファイ' する、なんてことも夢ではないのかも。今の若いコたちの柔軟な捉え方に期待したいですね。










NeotenicSound AcoFlavor ①
NeotenicSound AcoFlavor ②

そしてこのマウスピース・ピックアップに無くてはならない唯一無二なアイテム、NeotenicSoundのAcoFlavor怒涛の4連発。ホント、こういうエフェクターって今まで無かったんじゃないでしょうか。というか、いわゆる ' エレアコ' のピックアップの持つクセ、機器間の 'インピーダンス・マッチング' がもたらす不均衡感に悩まされてきた者にとって、まさに喉から手が出るほど欲しかった機材がコレなんですヨ。そもそもは、過去に同工房が製作したBoard Masterを手にしたことで管楽器に取り付けるピックアップの問題点が解消したことから始まりました。コイツに備わったMasterというツマミ1つを回すことでピックアップの出力をコントロールすることが出来たのですが、それをさらにLimitとFitという感度調整の機能を強化した専用機に仕上げたのだから素晴らしい!しかし、去年の暮れから今年の始めにかけてその 'プロト機' の調整は本当に大変でした。多分、多くの 'エレアコ' のピックアップ自体が持つ仕様の違いから、こちらは良いけどあちらはイマイチという感じでどこを '中心' にするかで悩んでいたんじゃないかな?と思うのです。当初送られてきたものはMaster、Fit共に10時以降回すと歪んでしまって(わたしの環境では)使えませんでした。何回かのやり取りの後、ようやく満足できるカタチに仕上がったのが今の製品版で、現在のセッティングはLimit 9時、Master 1時、Fit 10時の位置にしてあります。ちなみに本機はプリアンプではなく、奏者が演奏時に感じるレスポンスの '暴れ' をピックアップのクセ含めて補正してくれるもの、と思って頂けると分かりやすいでしょうね。管楽器でPiezoBarrelなどのマウスピース・ピックアップ使用の方は絶対に試して頂きたい逸品です!そういえばスティーヴさんにもオススメしたのですが、スティーヴさん曰く、わたしのピックアップはSSL(スタジオにあるでっかいミキサー)のEQセッティングを参考にしながら特別 'インピーダンス・マッチング' を取らなくてもギターペダルは使えるけど、しかしこういう個別に調整できるヤツはイイね!と言ってもらえました(大雑把ですが勝手に解釈)。ま、こういう機器は実際に使ってもらわないとその便利さがなかなか把握できないでしょうけど、ね。







さて、このようなマウスピース・ピックアップ、現在のグーズネック式マイクに比べるとすでにほぼ '化石状態' のシロモノです。それは何故か?と問えば、このブログの初期に 'マウスピース・ピックアップの誘惑' の項でこう箇条書きしていたことを再び抜粋します。

①ピックアップの音質
②マウスピースへの加工
③煩雑なセッティング

①は、いわゆるピエゾ・トランスデューサーの持つ根本的な問題です。反応が早く、芯のある中域を捉える反面、低域はもちろん高音域が乏しく、硬くシャリシャリとした音質は '生音' へのこだわりを示す奏者にとって、決して満足のいくものではありません。ある程度プリアンプやEQで補正出来るものの、基本的にはスタンドマイクを立てて、ベルからの生音とピックアップの音色をPAのミキサーで混ぜて出力するのが昔からの方法です。その代わりマウスピース・ピックアップは構造上、ある程度のハウリングには効果を示し、エフェクターの効きが良いです。また、現在のグーズネック式マイクがラインからPAで出力されるのに対してマウスピース・ピックアップは、アンプで再生したものをマイクを立てて収音するのが一般的でした。

②は、マウスピースにドリルで穴を開け、ハンダでピックアップを接合するという方法に、貴重なマウスピースへの加工を嫌がる奏者が一定以上いたということです。また、一度取り付けてしまうとマウスピースのサイズを変更できないのもマイナス。ピエゾは、取り付け位置によってもサウンドが激変してしまうことから、マウスピースの他にサックスのネック部分、トランペットのリードパイプ部分、ベルの横側に穴を開けて取り付けるなど、いろいろな方法が取られました。まだお手軽なグーズネック式マイクの無かった頃の煩雑さは、そのまま1970年代のフュージョン・ブーム過ぎ去りし後、管楽器のリペア工房で穴の空いた楽器が再びハンダで埋められるべく列を成していたという話からも伺えます。これは自分の話として、前述したPiezoBarrelの 'P9' ピックアップに見るシャンク部のトラブルにも現れておりますね。

③は、このマウスピース・ピックアップが、そもそもは 'アンプリファイ' によりエフェクターを積極的に用いる為のアイテムだということです。これは①でも触れましたが、ベル側の '生音' とのミックスでPAに出力する為に、管楽器に対して2回線がステージ上からPAへと引き回されるわけです。PAとしては極力トラブルにならぬように煩雑なセッティングは避けたいのが本音です。そしてもうひとつ補足すれば、現在はコンサートの現場におけるPAシステム全体の再生クオリティが向上したことも大きいでしょうね。



話を戻せば、このPiezoBarrelピックアップ使用の注意点として、スティーヴさんとやり取りしたメールの中でこう説明されました。

"Please note that if the pickup is upside down, moisture will flow into the pickup. This will cause problems with salt "

上の画像は、スティーヴさんにより塩水の溶かしたビーカーに穴を開けてピックアップを取り付け実験してみたもの。しばし放置後のピックアップ内に付着した塩分の塊が下のもので・・おお、怖い。つまり、ピックアップをマウスピースの下側に向けて装着すると水分がピックアップ本体に流れ込み、これが唾液から分泌される塩分として結晶化して音質に悪影響を及ぼすらしいですね。このピックアップ使用時は沈殿しないようにマウスピースに対して上、もしくは横側にピックアップを向けて下さいませ。




そして最近のスティーヴさんの関心はこちら。トランペットのあちこちにピックアップがいっぱいですけど(笑)、これは理想となるべきピエゾの最適な感度とステレオの為に実験してみたものとのこと。複数ピックアップ・マイクの同時使用は取り付け位置により、いわゆるフェイズ干渉が起こって打ち消し合う問題が起こるのですが、ステレオの定位としてその存在感が変われば 'アンプリファイ' の未来を期待させてくれますね!






この画像のような下向きでピックアップを装着してはダメですよ〜(笑)。それはともかく、まだまだYoutubeにはPiezoBarrelの動画が少ないですけど、やっぱりLinsayさんの一連の動画が個人的に大好き(笑)。これまで必死にBarcus-berryのデッドストック品を探していた徒労がeBayでポチッとするだけでお手元にやってきます。そして、いろいろなプリアンプからエフェクターに至るまであれこれ 'トライ&エラー' をしながらその 'アンプリファイ沼' にハマっていくのだ(恐)。

2019年5月3日金曜日

5月はドルフィーの季節

そういえばエリック・ドルフィーの未発表セッション3枚組ボックスセット 'Musical Prophet: The Expanded 1963 New York Studio Sessions' というのが発売されたようですね。1963年にアラン・ダグラスのプロデュースによりニューヨークで行われたもので、当初その一部を 'Conversations' としてリリースし、ドルフィーの死後、時代を跨いで 'Iron Man' や 'Other Aspects' などのタイトルで断片的に発表されてきましたが、この3枚組でさらに7時間半ほどの未発表テープが見つかったことから集大成的に纏められました。



Eric Dolphy Musical Prophet: The Expanded 1963 New York Studio Sessions

ドルフィーの人気盤として誉れ高いBlue Noteからの 'Out To Lounch' 録音の6日前とあって、そのモーダルにクールな色彩は格好よかったのだけど、やはりどこかフィットしないというか、エリック・ドルフィーって決して安住の地を見つけられない '越境者' として動き続ける運命だったんだろうなあ、と思うのうです。オーネット・コールマンやジョン・コルトレーンとの '共演' も心ここに在らずというか、ドルフィーが吹き始めるとそこは一面 'ドルフィーの世界' がただ開陳されるばかりで、決して 'コラボ' した相手と合一することがない・・。そういう意味では相対するようにスピーカーの 'L-R' からコールマン、ドルフィーそれぞれの演奏が同時に飛び出してくる 'Free Juzz' の意図ってそういうことなのかも。ここでかなり曲解した言い方をすればドルフィーって元祖 '宅録' の人だったんじゃないでしょうか。つまり、全てに彼のアルト・サックス、バス・クラリネット、フルートからなるマルチ・プレイヤー的奏法によって他者が入り込めない '完結した世界' を具現化する人だった。





ドルフィーのキャリアにおいて出発点ともいうべきドラマー、チコ・ハミルトンとの出会いは、その後の行く末を占う上で重要な出会いだったと言って良いでしょう。いわゆる 'ウェスト・コースト' で活動する黒人ジャズマンはバップの本拠地 'イースト・コースト' に比べて不当に低い扱いをされている気がするのですが、裏を返せば伝統的なブルーズの下地に囚われず独自のアプローチを開陳し、ハミルトンの 'Far East' 志向と室内楽的アプローチに結実します。そして個人的にドルフィーの傑作である 'Out There'。ロン・カーターの無粋に '頓珍漢な' (笑)チェロもここではドルフィーの不条理な世界を盛り上げるスパイスとして奇妙に作用し、ほぼ彼の 'ワンホーン' 作品としてダリの絵画の如く捻れた世界を描き上げます。









チコ・ハミルトンに続き重要な出会いとなったのが、ドルフィーの世界観と最も親和性の高かったチャールズ・ミンガス。ドルフィーってそのキャリアの始めからずーっと自身のバンドに恵まれなかった人だったと思うのだけど、それはオーネット・コールマンやセロニアス・モンク、マイルス・デイビスのようにバンドで自らの音楽を構築していくタイプではなく、すでにドルフィーの身体がそのまま各種木管と一体となった時に現れる '異物なアンサンブル' として完結していた。そんな '居場所' を放浪するドルフィーの音楽性と親和性を保っていたのがチャールズ・ミンガスのグループ在籍時であり、そこにはエレクトロニカに共通する '顕微鏡のオーケストラ' ともいうべき微細な破片を拾い集めるような静寂と統率力を垣間見るんですよね。つまり、ミンガスの指揮がドルフィーを自由に羽ばたかせる為の '土台' として絶妙に機能しているのです。







ドルフィーの '課外活動' の中でユニークな位置付けをされているのがこちら、ラテン・ジャズ・クインテットとの '共演' でしょう。ゴリゴリの 'フリージャズ' 一派のように目されていたドルフィーにとってこの意外過ぎる 'バイト' は、そのままモダン・ジャズの '解説本' ではまず間違いなく取り上げられることのないもの。ま、確かに 'ミスマッチ' なんだけど(笑)、実はこの後に 'インド的' な第三世界のリズムへとアプローチする端緒として、この苦み走ったドルフィーの '馬の嘶き' 的ソロが軽やかなラテン・リズムとの出会いは興味深いですね。ちなみにこのザ・ラテン・ジャズ・クインテット(LJQ)、なかなかに謎で 'いわく付き' のバンドのようで、パーカッションのジュアン・アマルベルトをリーダーにPrestigeからオルガンのシャーリー・スコットとの 'コラボ' でデビューします。しかし、その直後にグループ内で '内紛' が起こりヴァイブ奏者のフィル・ディアズが脱退、新たに同名バンド!を結成して大手UAから再デビューするというからややこしい。そこで起用されたのがドルフィーなのですが、実はディアズ脱退後の '本家LJQ' はPrestigeからリリースした 'Caribe' ですでにドルフィーと共演しているんですよね。つまり、脱退したディアズが当て付け?的にUAからの再デビュー盤でも起用したということから、この 'ケンカ別れ' した2つのバンドを掛け持ちしたドルフィーの心境たるやいかばかりか(苦笑)。この一連の顛末、1960年の7月から9月にかけてのおよそ3ヶ月間の出来事だったのだから濃いよなあ。結局、ディアズの '分家LJQ' はこのUA盤一枚のみで終わり、その後はラテン・グループ、ジョー・クーバ・セクステットに加入してクーバ後期のサウンドを担う存在として活躍します。



一方のアマルベルト率いる '本家LJQ' はPrestigeからその傍系レーベルのTru-Soundへ移り、最終的にはヴァイブの代わりにファラオ・サンダースをゲストに迎えた作品 'Oh ! Pharoah Speak' をマイナー・レーベルTripに残すという不思議な終わり方を迎えます。







そんな孤高なドルフィーの志はフランク・ザッパの 'The Eric Dolphy Memorial Barbecue' はもちろん、ミンガスのグループで共演したテッド・カーソンによりドルフィー客死のわずか1ヶ月後、真夏の1964年8月1日に捧げられた '葬送曲' に至るまで、時代を超えて厳かに '真夏の狂気' を体現します。ちなみにこの 'ドルフィーの涙' は、ピエロ・パゾリーニ監督の映画「テオラマ」やヴィンセント・ギャロ監督・主演の映画「ブラウン・バニー」でそれぞれテーマ曲として使われているんですよね。ドルフィーに対するオマージュ曲ではありますけど、映像に携わる者にとってインスパイアされやすい '何か' があるんでしょうか?あ、そうそう、そういえばマイルス・デイビスはエリック・ドルフィーの音が大嫌いだったな。誰かの足を踏んづけたような・・と揶揄していたデイビスに対し、ジョージ・コールマンを気に入らなかったトニー・ウィリアムズご推薦の '後釜' がドルフィーだった、らしい。しかし、そんなヤツを入れるならと一時的に自身のグループへ加入させたのがフリーに足を突っ込んだトレーン・スタイルのサム・リヴァースだったのだから、同じ '水と油' でもデイビスはコルトレーンから離れられなかったのだ。

個人的にはドルフィーとの '水と油' な両巨頭の共演を聴いてみたかったなあ。実際、ちょっとスタイルは違うけど、テナーとフルート、バス・クラリネットを操るベニー・モウピンをこの後の 'Bitches Brew' で起用するのだからそれほど相性悪いとは思わないけど、ね。ここで大所帯なバンド・アンサンブルと電気楽器に対する '通奏低音' として、コントラバスとエレクトリック・ベース、そしてバス・クラリネットによる低域の強化こそその出番だったのだろうけど、しかし、もしこのバスクラがドルフィーだったら・・そんな妄想を逞しくします。

2019年5月2日木曜日

再び '質感生成' の旅に出る (再掲)

わたしのペダルボードをジッと眺めているとその大半のペダルがトランペットのトーン、電気的に増幅した際の '質感' に関わるもので占有していることに気付きます。2チャンネルのプリアンプHeadway Music Audio EDB-2やNeotenicSound AcoFlavorはもちろん、Magical ForceにPurepadからTerry Audio The White Rabbit Deluxeに至るまで単にスイッチをOnにしただけでは一聴して効果の分からないヤツら・・。


こういう '周辺機器' を揃えないと管楽器の 'アンプリファイ' が物足りないのは歯痒いですけど、派手に変調させる各種エフェクツを活かすも殺すもこれら '周辺機器' の調整、補正に掛かっているのだから無視出来ません。ともかく、管楽器の 'アンプリファイ' においてこの '質感' というやつを個人的に追求してみたい欲求があるんですよね。目的はアンプやPAを用いる環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。つまり、ピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生ではなく、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音を作る' という試みなのです。





Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ
Urei / Universal Audio 565T Filter Set

以下、個人的にそういう発想のきっかけとなった 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' の全盛期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。

- そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?

S - 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

- それはだれかが先にやってたんですか?

W - 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S - 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W - 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

- しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?

S - 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W - それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S - で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W - 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S - ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W - フィディリティって '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

- 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?

W - それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

- フィルターとEQの違いは何ですか?

S - 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W - 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S - エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

- そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?

W - お手軽にいい音になるというかね。

S - 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

- しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?

W - それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

- 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?

W - 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S - それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W - よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

- 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W - ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S - 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W - System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S - 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W - 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

- 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?

W - それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

- トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?

W - 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S - それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W - 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S - Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

- エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?

W - エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S - 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W - 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S - 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

- 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?

S - それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスは知っていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W - 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

- ジャックがあったら挿し込んでみたい?

S - 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W - ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

- 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?

S - デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W - それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S - 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W - それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S - どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。






Bob Williams: The Analogue Systems Story
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ①
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ②
EMS 8-Octave Filterbank
Filters Collection

いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクターと並び、現在ではDJを中心に一般的となったフィルター専用機。1970年代にはUrei 565T Filter SetやMoogのMKPE-3 Three Band Parametric EQといったマニアックなヤツくらいのイメージだったものが1990年代の 'ベッドルーム・テクノ' 全盛期に再燃、英国のAnalogue Systemsから登場したのがFilterbank FB3です。創業者であるボブ・ウィリアムズはこの製品第一号であるFB3開発にあたり、あのEMSでデイヴィッド・コッカレルと共に設計、開発を手がけていたスティーヴ・ゲイを迎えて大きな成功を収めました。1995年に1Uラックの黒いパネルで登場したFB3はすぐにLineのほか、マイク入力に対応した切り替えスイッチと銀パネルに換装したFB3 Mk.Ⅱとして 'ベッドルーム・テクノ' 世代の要望を掴みます。当時、まるで 'Moogのような質感' という '売り文句' も冗談ではないくらい太く粘っこいその '質感' は、本機の '売り' である3つのVCFとNotch、Bandpass、Lowpass、Highpassの 'マルチアウト'、LFOとCV入力で様々な音響合成、空間定位の演出を生成することが出来ます。そんな本機の設計の元となったのはスティーヴ・ゲイがEMS時代に手がけた8オクターヴのFilterbankですね。





さて、ここでご紹介するのはいわゆる 'シンセサイズ' によるフィルタリングとは違い、一聴して直ぐにその効果を把握できるものではないのだから悩ましい・・。面白そうだと慌てて購入して、何だよコレ、変わんねーじゃねーかよ!と直ぐに投げ出してしまいたくなるものばかりですが(苦笑)、ずーっと使ってみて突然 'Off' にした時、実はその恩恵を受けていたことを強く実感するもの。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムとしてここにお届けします。









JHS Pedals Colour Box

そんな '質感生成' においてここ最近の製品の中では話題となったJHS Pedals Colour Box。音響機器において伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴのEQ/プリアンプを目指して設計された本機は、そのXLR入出力からも分かる通り、管楽器奏者がプリアンプ的に使うケースが多くなっております。本機の構成は上段の赤い3つのツマミ、ゲイン・セクションと下段の青い3つのツマミ、トーンコントロール・セクションからなっており、ゲイン段のPre VolumeはオーバードライブのDriveツマミと同等の感覚でPre Volumeの2つのゲインステージの間に配置、2段目のゲインステージへ送られる信号の量を決定します。Stepは各プリアンプステージのゲインを5段階で切り替え、1=18dB、2=23dB、3=28dB、4=33dB、5=39dBへと増幅されます。そして最終的なMaster Gainツマミでトータルの音量を調整。一方のトーンコントロール段は、Bass、Middle、Trebleの典型的な3バンドEQを備えており、Bass=120Hz、Middle=1kHz、Treble=10kHzの範囲で調整することが可能。そして黄色い囲み内のグレーのツマミは60〜800Hzの間で1オクターヴごとに6dB変化させ、高周波帯域だけを通過させるハイパス・フィルターとなっております(トグルスイッチはそのOn/Off)。上の動画だけ見ても管楽器奏者の認知度は上がっておりますね。



API TranZformer GT
API TranZformer LX

今やNeveと並び、定評ある音響機器メーカーの老舗として有名なAPIが 'ストンプ・ボックス' サイズ(というにはデカイ)として高品質なプリアンプ/EQ、コンプレッサーで参入してきました。ギター用のTranZformer GTとベース用のTranZformer LXの2機種で、共にプリアンプ部と1970年代の名機API 553EQにインスパイアされた3バンドEQ、API525にインスパイアされたコンプレッサーと2520/2510ディスクリート・オペアンプと2503トランスを通ったDIで構成されております。ここまでくればマイク入力を備えていてもおかしくないですが、あえて、ギターやベースなどの楽器に特化した 'アウトボード' として '質感' に寄った音作りが可能ですね。





Roger Mayer 456 Single
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

DSPの 'アナログ・モデリング' 以後、長らくエフェクター界の '質感生成' において探求されてきたのがアナログ・テープの '質感' であり、いわゆるテープ・エコーやオープンリール・テープの訛る感じ、そのバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションは、そのままこのRoger Mayer 456やStrymon Decoのような 'テープ・エミュレーター' の登場を促しました。Studer A-80というマルチトラック・レコーダーの '質感' を再現した456 Singleは、大きなInputツマミに特徴があり、これを回していくとまさにテープの飽和する 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整していきます。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。一方のDecoは、その名も 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleをブレンドすることで 'テープ・フランジング' のモジュレーションにも対応しており、地味な '質感生成' からエフェクティヴな効果まで堪能できます。また、このStrymonの製品は楽器レベルのみならずラインレベルで使うことも可能なので、ライン・ミキサーの 'センド・リターン' に接続して原音とミックスしながらサチュレートさせるのもアリ(使いやすい)。とりあえず、Decoはこれから試してみたい '初めの一歩' としては投げ出さずに(笑)楽しめるのではないでしょうか?





Pettyjohn Electronics Filter ①
Pettyjohn Electronics Filter ②

こちらはPettyjohn Electronicsのその名もFilter。と言っても 'シンセサイズ' のフィルターではなくEQ的発想からギターの '質感' を整えていくもの。中身を覗くとなかなかにレアなオペアンプ、コンデンサーなど豪華なパーツがずらりと並びこだわりが感じられます。本機もまた、JHS Pedals Colour Box同様にアナログ・コンソールのEQ回路(たぶんNeveでしょう)をベースに設計されたようで、ギターの帯域に向けながら、あえて 'EQ' ではなく 'Filter' と称して極端な '位相乱れ' を廃し、あくまで '質感' の生成に特化したものだということが分かります。







Terry Audio The White Rabbit Deluxe

そんなPettyjohnとは真逆なガレージ臭プンプンのTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の '解説' を読んでみるとNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。何だかMagical ForceのPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様ですね。本機はわたしのセッティングでも愛用しているのですが、まさに効果てき面!'ハイ上がり' なトーンと共に一枚覆っていたような膜がなくなって音抜けが良くなり、確かに 'マスタリング・プロセッサー' で整えたような '魔法' をかけてくれます・・素晴らしい。







NeotenicSound Magical Force - Column
NeotenicSound Magical Force ②
NeotenicSound Magical Force ③

さて、わたしが愛用するNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Forceもまさにそんな '質感生成' の一台でして、いわゆる 'クリーンの音作り' というのをライヴやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。つまり、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを引き出してやるというか、EQのようなものとは別にただ何らかの機器を通してやるだけで '付加' する '質感' こそ、実際の空気振動から '触れる' アコースティックでは得られない 'トーン' がそこにはあるのです。

本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、プリアンプの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味、Punchで張り出すような '質感生成' してみるのも面白いかも。とりあえず、各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。




Hatena ? The Spice ①
Hatena ? The Spice ②

この 'えふぇくたぁ工房' はNeotenicSoundの前にHatena?というブランドを展開、Magical Forceの源流ともいうべきActive Spiceという製品で一躍その名を築きました。このThe Spiceはその最終進化形であり、すでに廃盤ではありますがダイナミクスのコントロールと '質感生成' で威力を発揮してくれます。Magical Forceも独特でしたがこのThe Spiceのパラメータも全体を調整する音量のVolumeの他はかなり異色なもの。音圧を調整するSencitivity、Gainは歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンとなる。さらにブースト機能とEQ感を強調するようなSolo !、そしてTightスイッチはその名の通り締まったトーンとなり、On/Offスイッチはエフェクトの効果ではなくSolo !のOn/Offとのことで基本的にバッファー的接続となります。




ちなみにそのオリジナルのAcitive Spiceは2005年頃に市場へ登場し、個人工房ゆえの少量生産とインターネット黎明期の '口コミ' でベーシストを中心に絶賛、その 'クリーンの音を作り込む' という他にないコンセプトで今に至る '国産ハンドメイド・エフェクター' の嚆矢となりました。派生型のSpice Landを始め、2009年、2011年、2012年と限定カラー版なども登場しながら現在でも中古市場を中心にその古びないコンセプトは健在。エレアコ用プリアンプの代用としても評価が高く、わたしの分野である管楽器の 'アンプリファイ' でも十分機能しますヨ(今はNeotenicSound Magical Forceに任せているけど)。



エフェクターの世界においていろいろな '売り文句' を謳って製品化、その需要があれば一気にひとつの市場として波及するものが定期的に現れます。例えばスタジオでのFETコンプレッサーの定番、Urei 1176LNの 'コンパクト化' やNeveのプリアンプ、EQの 'コンパクト化' などはここ近年のトレンドでした。そして遊び心という点では、こんな珍品こそ 'エフェクター好き' がワクワクして手を伸ばしたくなる感じがありまする。繋ぐだけで 'モータウンの質感' を付与してくれるというMoSound・・何すか、コレ?(笑)。まず 'モータウンの質感' という、およそ一般的とは言い難い価値観を共有しないといけないのだけど(汗)、う〜ん、あのモータウン全盛期であった1960年代のコンプレスされたレコードの音のことなのだろうか?こういうのは、ザ・ビートルズのレコードから聴こえてくるガッツリとかかったリミッター・サウンドなんかと近い感じかもしれないですねえ。初代の小さいヤツと筐体を大きくした2代目があり、初代では基板内部にあったゲインを司る 'Deep' トリムを2代目では 'Oldies' ツマミとして外部に出し調整しやすくなりました。わたしも本機を所有しているのですが・・う〜ん、何だろ?(苦笑)。いや、確かにスイッチをOnにすると変わるんですヨ。上の帯域がフィルタリングされて丸くなる感じ・・それもビミョーな感じでして、内部の 'Deep' トリムも・・う〜ん、変わったような変わらないような感じ(苦笑)。しかし、いい感じにトーンの '耳に痛い感じ' が緩和されるのでわたしの 'ヴィンテージ・セット' で愛用しておりまする。



Acme Audio Motown D.I. WB-3 ①
Acme Audio Motown D.I. WB-3 ②
Acme Audio Motown D.I. WB-3 ③

ちなみにこんな '伝説のモータウン・サウンド' を '売り' にしている機器としては、Acme AudioのパッシヴDIであるWB-3というヤツもありますヨ。う〜ん、分かったようでその筋のマニア以外にはいまいちピンとこない 'モータウンの質感' というヤツ。単なる 'ローファイ' というワケではなさそーではありますが、確かにグッとミドルに寄りコンプレスした感じが 'モータウンっぽい' ってこと?。DI本来の仕事は 'インピーダンス・マッチング' の変換であり、それ以外の要素はアクティヴ、パッシヴを除けばほぼ考慮する必要はないのだけど、それでもこんな独特の '質感' にこだわったヤツが登場するのだから機材の世界は面白いのだ。









Lovetone Meatball ①
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Hi Fi
Chase Bliss Audio

さて、ここからはもう少し 'エフェクターライク' なペダルを取り上げます。エンヴェロープ・フィルターの機能を中心に地味な 'フィルタリング' の効果を発揮するもので1990年代後半に欧米のギタリストやベーシストはもちろん、DJやエンジニアにも好まれた英国の名機、Lovetone Meatballがありまする。とにかく豊富なパラメータを有しており、いわゆる 'オートワウ' からフィルタースィープによるローパスからハイパスへの '質感生成'、フィルター内部への 'センド・リターン' による攻撃的 'インサート'、2つのエクスプレッション・ペダル・コントロールと至れり尽せりな音作りでハマれます。また、このようなフィルタリングを 'ローファイ' の価値観で新しいモジュレーションのかたちとして提示したのがこちら、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky。さすがエフェクター界の奇才、Zachary Vexが手がけたその着眼点は、いわゆるアナログ・レコードの持つチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものというから面白い。特に真ん中の 'Comp ←→Lo-Fi' ツマミがもたらす '質感' はその気持ちの良い 'ツボ' をよく心得ている。しかし、この 'なまり具合' を聴いていると爽やかな陽気と共に遠い昔の記憶へ思いを馳せたくなりますねえ。そして現在の注目株Chase Bliss Audio Warped Vinylの登場。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。特にこのWarped Vynal Hi Fiは従来のモデルに 'Hi Fi' 的抜けの良さを加味したもので、アナログでありながらデジタルでコントロールする 'ハイブリッド' な音作りに感嘆して頂きたい。Tone、Volume、Mix、RPM、Depth、Warpからなる6つのツマミと3つのトグルスイッチが、背面に備えられた 'Expression or Ramp Parameters' という16個のDIPスイッチでガラリと役割が変化、多彩なコントロールを可能にします。タップテンポはもちろんプリセット保存とエクスプレッション・ペダル、MIDIクロックとの同期もするなど、まあ、よくこのMXRサイズでこれだけの機能を詰め込みましたねえ。






Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation
Performance Guitar F.Zappa Filter Modulation
Guitar Rig - Dweezil Zappa

ザッパのフィルタリングに対する音作りの研究に訴えた超絶 'ニッチな' ペダルとして、本機は父親の楽曲を再現する上で息子ドゥィージルがザッパと縁の深いPerformance Guitarにオーダーしたマニアックな一台。Boss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-pass、Band-pass、Hi-passを切り替えながらフィルター・スィープをコントロールするという荒削りさで実際、ペダル裏側には配線がホットボンドとマスキングテープで固定してレーシング用フォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身なんですが・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼べるほどエグい効果から、EQ的な操作をして域幅の広いQの設定、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' やワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。また本機はBoss FV-500の筐体を利用したことでタコ糸によるスムースな踏み心地なり。









Holowon Industries Tape Soup
Holowon Industries
Cooper Fx Generation Loss
Cooper Fx ①
Cooper Fx ②

そんな 'ローファイ' かつテープの伸び切った、鈍ったような '質感' ということでは、こんなアナログテープの 'ワウフラッター' に特化したエフェターもありまする。ニューヨーク州ロチェスターに構えるこの小さな工房で製作する本機は、Volume、Fidelity、Saturation、Speed、Biasというまるでオープンリール・デッキの 'バリピッチ' 的ツマミの構成から何でもグニャグニャとピッチ・シフティングしてしまいます。最近はCooper FxのGeneration Lossのようなデジタルによるものも登場しましたが本機の '飛び道具' ぶりもなかなかのもの。




Elektron Analog Heat HFX-1 Review
OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit
Dr. Lake KP-Adapter

そしてKP-Adapterを用いて是非とも繋いでみたいのがElektronとOTO MachinesのDJ用マルチバンド・フィルター、と言ったらいいのだろうか、素晴らしいAnalog HeatとBoumをご紹介。Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。Elektronのデモでお馴染みCuckooさんの動画でもマイクに対する効果はバッチリでして、管楽器のマイクで理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメです。一方のフランスOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。





Pigtronix Disnortion Micro

Youtubeでも積極的にラッパの 'アンプリファイ' を推奨するカナダのラッパ吹き、Blair YarrantonさんがPigtronixのアッパー・オクターヴなディストーション、Disnortionでのデモ動画。しかし、さすがにコンデンサー・マイクのセッティングではほとんど歪ませることが出来ず、ほぼサチュレーション的倍音の '質感生成' に終始した音作りですね。ワウも踏んでおりますがかなりコンプでピークを潰しながらハウる寸前・・。すでにこの 'でっかいヴァージョン' は廃盤ですが、現在はより小型なDisnortion Microとしてラインナップ。ちなみに一見、管楽器とは '真逆' な志向に見える '歪み系' ペダルですけど、そもそもファズの元祖として1962年にGibsonから登場したファズ・ボックス、Fuzz Tone FZ-1のデモ音源ではその後のギターアンプを 'オーバードライブ' させたものではなく、'Sousaphone' 〜 'Tuba' 〜 'Bass Sax' 〜 'Cello' 〜 'Alto Sax' 〜 'Trumpet' という流れで各種管楽器の模倣から始まっているのは興味深いですね。Maestroのブランドマークが 'ラッパ3本' をシンボライズしたのは決して伊達ではないのです。



Musitronics / Dan Armstrong Green Ringer -Frequency Multiplier-

そして、このような '歪みもの' と倍音成分ということではリング・モジュレーターも有効なのですが、そこでガッツリと 'シンセライク' に変調させてはダメ!。そんな地味な倍音生成としてMu-Tronでお馴染みMusitronicsが製作した 'アタッチメント' の一台、Dan Armstrong Green Ringerにご登場頂きましょうか。そもそもは英国のWereham Electronicsが手がけたものをMusitronicsで生産したことで人気爆発、その後日本や韓国製のコピーが出回るほどポピュラーになりました。直接ギターの入力ジャック、または配線を変更してアンプの入力にそのまま 'プラグイン' する独特な仕様で、元々はMu-Tronの傑作オクターバー、Octave Dividerに内蔵されていたものを単体の 'アタッチメント' として仕上げたもの。わたしはオリジナルの1970年代製を所有しているのですが、このビミョーに 'アッパーオクターヴ' 的なトーンが付加されるのは地味に面白い。さて、そんなリング・モジュレーターの 'ギュイ〜ン' とさせる 'シンセライク' な変調ワザではなく、地味に非整数倍音が生み出す '箱鳴り' に興味を持ったのは、ギタリストの土屋昌巳さんによる雑誌のインタビュー記事がきっかけ。こーいうお話もちょっとした '質感生成' のヒントとして刺激されるのではないでしょうか?。

"ギターもエレキは自宅でVoxのAC-50というアンプからのアウトをGroove Tubeに通して、そこからダイレクトに録りますね。まあ、これはスピーカー・シミュレーターと言うよりは、独特の新しいエフェクターというつもりで使っています。どんなにスピーカー・ユニットから出る音をシミュレートしても、スピーカー・ボックスが鳴っている感じ、ある種の唸りというか、非音楽的な倍音が出ているあの箱鳴りの感じは出せませんからね。そこで、僕はGroove Tubeからの出力にさらにリング・モジュレーターをうす〜くかけて、全然音楽と関係ない倍音を少しずつ加えていって、それらしさを出しているんですよ。僕が使っているリング・モジュレーターは、電子工学の会社に勤めている日本の方が作ってくれたハンドメイドもの。今回使ったのはモノラル・タイプなんですけれど、ステレオ・タイプもつい1週間くらい前に出来上がったので、次のアルバムではステレオのエフェクターからの出力は全部そのリング・モジュレーターを通そうかなと思っています。アバンギャルドなモジュレーション・サウンドに行くのではなくて、よりナチュラルな倍音を作るためにね。例えば、実際のルーム・エコーがどういうものか知っていると、どんなに良いデジタル・リバーブのルーム・エコーを聴かされても、'何だかなあ' となっちゃう。でもリング・モジュレーターを通すとその '何だかなあ' がある程度補正できるんですよ。"





Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ①
Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ②

完全に '飛び道具' でありながらリング・モジュレーターとファズ、オシレータ発振と 'Traveller' フィルターを組み合わせた本機の魅力は未だ '発見' されておりません。こういうペダルはついつい派手にギュイ〜ンとやりがちで飽きてしまうのですが、地味に原音に対してほんの少しスパイス的に振りかける '質感生成' として耳を傾けてみませんか?日本が誇る偉大なエンジニア、三枝文夫氏が手がけた京王技研(Korg)のSynthesizer Traveller F-1は、-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成された 'Traveller' を単体で搭載したもので、それぞれの動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。本機の製品開発にはジャズ・ピアニストの佐藤允彦氏が携わっており、そんな当時のプロトタイプについてこう述べております。なんと当初はペダルの縦方向のみならず、横にもスライドさせてコントロールする仕様だったとは・・。

"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"





Empress Effects Zoia ①
Empress Effects Zoia ②

さて、上の 'フィルター対談' の中でエンジニアの渡部氏が最後にEventide DSP-4000というラック型マルチ・エフェクターで自由にサンプル・レートやビット数を落とすパッチを組めるモジュールが面白いという話をしておりますが、コレ、まさに当時の 'エレクトロニカ' 黎明期を象徴するプラグインCycling 74 Max/Mspのハードウェア的端緒として話題となりました。このDSP-4000は 'Ultra-Harmonizer' の名称から基本はインテリジェント・ピッチシフトを得意とする機器なのですが、色々なモジュールをパッチ供給することで複雑なプロセッシングが可能なこと。リヴァーブやディレイなどのエフェクトそのものの役割を果たすものから入力信号を '二乗する'、'加える' といった数式モジュール、'この数値以上になれば信号を分岐する' といったメッセージの 'If〜' モジュールといった完全にモジュラーシンセ的発想で自由にパッチを作成することが出来るのです。当時で大体80万くらいの高級機器ではありましたが 'ベッドルーム・テクノ' 世代を中心に人気となりましたねえ。

そんなユーザーの好みに合わせて自由にモジュールの組めるシステムから20年後、いよいよそれのコンパクト版ともいうべきペダルがカナダの工房、Empress Effectsから登場です。各モジュールはカラフルにズラッと並んだ8×5のボタングリッド上に配置し、そこから複数のパラメータへとアクセスします。これらパラメータで制作したパッチはそれぞれひとつのモジュールとしてモジュラーシンセの如く新たにパッチングして、VCO、VCF、VCA、LFOといった 'シンセサイズ' からディレイやモジュレーション、ループ・サンプラーにピッチシフトからビット・クラッシャーなどのエフェクツとして自由に 'デザイン' することが可能。これらパッチは最大64個を記録、保村してSDカードを介してバックアップしながら 'Zoiaユーザーコミュニティ' に参加して複数ユーザーとの共有することが出来ます。







我らが '電気ラッパの師' である近藤等則さんとDJクラッシュのコラボレーションによる1996年の傑作 'Ki-Oku (記憶)'。コレ、いつもの 'コンドー節' ともいうべき派手にエフェクティヴなトーンは鳴りを潜め、マイルス・デイビス的ミュートのトーンを主軸としながら全てに電気的な加工を施しているのがミソなのです。慌てず騒がずジックリと・・この '人工甘味料' 的艶っぽいラッパのトーンを体感して頂きたいですね。ちなみにソロのみならず、DJクラッシュが拾い集めたバックトラックの細かなサンプル全てコンドーさんのフレイズの '再構成' なのが本盤のキモだ!