"エレクトリック・サックスを最初に開発、発売したのは有名なサックス・メーカーのセルマーだが、セルマーがエレクトリック・サックスの研究を進めた動機は、ローランド・カークの二管同時吹奏という驚異のテクニックにアイデアを求めたものといわれている。一本のサキソフォーンでカークのようなマルチ・プレイが電気仕掛けでできないものか - これがセルマーの考えだった。こうして完成されたのが今日のエレクトリック・サックスだが、この楽器を使うと、人は一本のサックスで、いうなればテナー・サックスとアルト・サックスの演奏ができる。もちろんサックスばかりでなく、ピックアップをクラリネットやフルートに装てんすれば、同じ結果(正確には1オクターヴ下の音)が得られるのだ。そのほか、増幅器(アンプリファイヤー)に内蔵された種々のメカニズムによって電気的に音色を明るくしたり、ダークにしたり、エコーをつけたり、トレモロにしたり、都合、60種類もの変化を得ることができる。"
1965年に管楽器メーカーとしてお馴染みH&A.Selmer Inc.が手がけた元祖 'アンプリファイ' サウンド・システム、Varitone。Selmerブランドのほか、管楽器への市場拡大を狙ってなのかBuesherブランドでも販売されておりましたが、製作自体は現在でもPAの分野で大手のElectro Voiceが担当したようです。振動を感知して電気信号に変換するピエゾ・トランスデューサー方式のピックアップは、音源に対して理想的な取り付け位置を見つけるのが難しく、マウスピース部分はもちろん、金管楽器のリードパイプやベルの真横などいろいろ試しながら完成に漕ぎ着けたとのこと。そして、俗に 'Coffee Can' と呼ばれるElectro-VoiceのSRO12という12インチのアルニコスピーカーを装備して、その 'ぶっとい低音' の再生を可能としました。Varitoneは通常の '3300 Auditorium Model' のほか、二番目の動画で登場する '3100 Club Model' の2種がラインナップされておりました。この 'Club Model' はライヴなどの汎用性を高めた '若干' 小ぶりな仕様で、'Auditorium Model' のアンプ正面に備えられていたTremoloの 'Speed' と 'Depth' は外部からのコントロールに移されております。
Selmer Varitoneはこの手のアプローチのイノヴェイターであるエディ・ハリスや晩年のジョン・コルトレーンも手にしましたが、一方でR&Bやロックの市場においても重宝されてこのベルギーのプログレ・バンド、Mad Curryの音作りにおいてもポップと前衛の妙技に一役買っております。女性ヴォーカルのViona Westraを中心にVaritoneで '電化' したテナー・サックス、楽曲を一手に引き受けるDanny Rousseauのオルガンとベース、ドラムスで支える 'ジェファーソン・エアプレイン' 的スタイルが素敵ですね。別にロック・バンドだからってギターをメインに持ってこなくたっていいんですヨ。個人的には、ロックの初期衝動からギターサウンドの範疇を外れたものを 'プログレ' と囲い込んでしまったことは残念に思えます。以後、雨後の筍のように 'ロック=3ピース編成' ってのがひどく貧しい発想のように思えるのだけど、もう、今では一般的にこのフォーマットから外れたらポップの法則で売れないと定義されちゃうんでしょうね。例えばベースをチューバが担っていたり、ギターの代わりにファズで歪ませたアコーディオンをメインに持ってきたっていいじゃないですか(笑)。そしてもうひとつはデンマークのサックス奏者、カーステン・マイナトが1969年のニューヨークで吹き込んだ 'ジャズ・ロック' 的作品 'C.M. Music Train' からVaritoneによる一曲 'San Sebastian'。一方、ここ日本では松本英彦や北村英治、シャープス&フラッツを率いる原信夫らがこの '新兵器' を導入。当時、大阪でサックスを専門とする中村楽器が代理店となり、松本氏は当時のレート '1ドル = 360円' の時代に定価85万円でフルセットを輸入したとのことから相当に高級品だったことが伺えます。
→C.G. Conn Model 914 Multi-Vider
続いて登場したのが管楽器の名門、C.G.ConnのMulti-Viderであり、H&A Selmer Varitoneに比べると他社の製品やギター用のエフェクター(当時は 'アタッチメント' という呼称が一般的)などとの互換が可能な汎用性に優れておりました。また、ピックアップ自体も後発のGibson / Maestroや後述するAce Tone Multivoxと互換性のある2つのピンでケーブルをピックアップ本体に差し込み、ゴムパッキンで嵌め込むマウント方式はこのMulti-Viderから始まります。そしてこのMulti-Viderの設計は当時、ファズやワウなどの製作をするJodan Electronicsが担当しました。また、この手の機器をいち早く手にしたリー・コニッツによれば、アンサンブルとホーンの関係において 'アンプリファイ' がより簡単にその解決策を提示してくれたことを 'エレクトリック・ジャズ - 可能性と問題点' でこう記します。もちろん、これは一時的にハマったコニッツのその時点におけるアプローチであり、結局はこの後、アコースティックでのダイナミズムに回帰してしまうのですが・・。
"このところエレクトリック・アルト・サックスをもっぱら使用しているリー・コニッツは、サックスが電化されたことにより、これまでの難問題が解決されたと語っている。コニッツが従来直面していた難問題とは、リズム・セクションと彼のアルト・サックスとの間に、いつも音量面で不均衡が生じていたことをさしている。つまりリズム・セクションの顔ぶれが変わるたびに、ソロイストであるコニッツはそのリズム・セクションのサウンドレベルに自己を適応させなければならなかったし、リズム・セクションのパワーがコニッツのソロを圧倒してしまう場合がよくあった。電化楽器ではサウンド・レベルを自由に調整することができるからこうした不均衡を即時に解消できるようになり、いまではどんなにソフトなリズム・セクションとも、どんなにヘヴィーなリズム・セクションとも容易にバランスのとれた演奏ができるという。しかも、リー・コニッツが使っている 'コーン・マルチ・ヴァイダー' は1本のサックスで同時に4オクターヴの幅のあるユニゾン・プレイができるから、利点はきわめて大きいという。先月号でも触れたように、コニッツは1967年9月に録音した 'The Lee Konitz Duets' (Milestone)のなかで、すでにエレクトリック・サックスによる演奏を吹き込んでいるが、全くの独奏で展開される 'アローン・トゥゲザー' で 'コーン・マルチ・ヴァイダー' の利点を見事に駆使している。この 'アローン・トゥゲザー' で彼は1オクターヴの音を同時に出して、ユニゾンでアドリブするが、もうひとつの演奏 'アルファニューメリック' ではエディ・ゴメス(ベース)やエルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)、カール・ベルガー(ヴァイブ)、ジョー・ヘンダーソン(テナー・サックス)ら9人編成のアンサンブルで、エレクトリック・サックスを吹き、自分のソロをくっきりと浮き彫りにしている。ここでのコニッツは、アルト・サックスの音量面をアンプで増大するだけにとどめているがその効果は見逃せない。"
→Shure CA20B Transducer Pick-Up
"そこにあったのはイノヴェックス社の機器だった。「連中が送ってきたんだ」。マイルスはそう言いながら電源を入れ、トランペットを手にした。「ちょっと聴いてくれ」。機器にはフットペダルがつながっていて、マイルスは吹きながら足で操作する。出てきた音は、カップの前で手を動かしているのと(この場合、ハーモンミュートと)たいして変わらない。マイルスはこのサウンドが気に入っている様子だ。これまでワウワウを使ったことはなかった。これを使うとベンドもわずかにかけられるらしい。音量を上げてスピーカー・システムのパワーを見せつけると、それから彼はホーンを置いた。機器の前面についているいろんなつまみを眺めながら、他のエフェクトは使わないのか彼に訊いてみた。「まさか」と軽蔑したように肩をいからせる。自分だけのオリジナル・サウンドを確立しているミュージシャンなら誰でも、それを変にしたいとは思っていない。マイルスはエフェクト・ペダルとアンプは好きだが、そこまでなのだ。"
このモーゲンスターンとのインタビューとほぼ同時期と思われる1970年5月4日に、デイビスは初めてワウペダルを用いたエルメート・パスコアール作 'Little High People' を披露。アイルト・モレイラのクイーカやカズーと 'お喋り' するようなフレイズと共に、よく聴けばワウペダルと並びこのInnovex Condor RSMを駆使しているのが確認出来ます。また、第一人者ともいうべき 'アンプリファイ' なサックスのイノベイターであるエディ・ハリスもHammondからこのInnovex Condor RSMを送りつけられてきたひとりであり、早速それまでのMaestro Sound System for Woodwindsから変更してより 'シンセサイズ' なトーンへ・・と思いきや、分厚いオクターヴのお馴染みな 'ハリス節' なのは変わりません(笑)。ランディ・ブレッカーはこの機器を出発点に現在まで、ずっとハーモナイズしたトーンでトランペットにエッジを付加するという効果にこだわっているのが伺えますね。ちなみにこのCondorには'Innovex' ブランドのほか、'ISC Audio' ブランドのものが存在します。そして噂だけは昔から聞いていた米国NBCの音楽番組 'The Midnight Special' から、1973年5月のマイルス・デイビス・グループによるライヴ動画が一部公開されました!。何よりインドの楽器のタブラ、電気シタール在籍時によるピート・コージー加入直後の11人編成という貴重なもので、デイビスがスツールに腰掛けて吹いているのは前年に自動車事故で足を骨折した病み上がり直後だからです。早く完全版が見たい!。そして、Innovex Condor RSMの為に用意されたShureの 'マウスピース・ピックアップ'ですが、以下は上記リンク先のShureのHPから質問コーナーに寄せられた本製品に対する回答。
Q - わたしはShurre CA20Bというトランペットのマウスピースに取り付けるピックアップを見つけました。それについて教えてください。
A - CA20Bは1968年から70年までShureにより製造されました。CA20BはSPL/1パスカル、-73dbから94dbの出力レベルを持つセラミックトランスデューサーの圧電素子です。それはHammond Organ社のInnovex部門でのみ販売されていました。CA20BはShureのディーラーでは売られておりませんでした。
CA20Bは(トランペット、クラリネットまたはサクソフォンのような)管楽器のマウスピースに取り付けます。穴はマウスピースの横に開けられて、真鍮のアダプターと共にゴムOリングで埋め込みます。CA20Bはこのアダプターとスクリューネジで繋がっており、CA20Bからアンバランスによるハイ・インピーダンスの出力を60'ケーブルと1/8フォンプラグにより、InnovexのCondor RSMウィンド・インストゥルメンツ・シンセサイザーに接続されます。Condor RSMは、管楽器の入力をトリガーとして多様なエフェクツを生み出すHammond Organ社の電子機器です。Condorのセッティングの一例として、Bass Sax、Fuzz、Cello、Oboe、Tremolo、Vibrato、Bassoonなどの音色をアコースティックな楽器で用いるプレイヤーは得ることができます。またCA20Bは、マウスピースの横に取り付けられている真鍮製アダプターを取り外して交換することができます。
Condorはセールス的に失敗し、ShureはいくつかのCA20Bを生産したのみで終わりました。しかし、いく人かのプレイヤーたちがCA20Bを管楽器用のピックアップとしてギターアンプに繋いで使用しました。その他のモデルのナンバーと関連した他の型番はCA20、CA20A、RD7458及び98A132Bがあります。
動画はギター用GSMのものですが、基本的構成はGSMと管楽器用RSMにそれほどの違いは無いのでほぼこのような出音となります。この世界初の 'ギターシンセ' と呼ばれるCondorはHammondがOvationと協業して開発したもので、その初期のユーザーでもあるジミ・ヘンドリクスはニューヨークの馴染みの店Manny,sで購入しております。こちらはManny'sの領収書が残っており、ヘンドリクスは1969年11月7日にシリアル・ナンバー1145のCondor GSMを480ドルでMaestro Echoplexと共に購入。使用楽曲として(今のところ)唯一確認出来るのはヘンドリクス没後に発売された未発表曲集 'Rainbow Bridge' の中に 'アメリカ国家' のスタジオ録音版が収録されており、これの 'シンセライク' にキラキラしたトレモロのギターによるオーバーダビングで本機が使われているのでは?という噂があるのですヨ。この曲のベーシックトラックは1969年3月18日にニューヨークのレコード・プラント・スタジオで収録され、同年11月7日にヘンドリクスがManny,sで本機Condor GSMを購入、さらにオーバーダブの作業を経て完成させた、というのが今のところわたしの '見立て' なのですが・・。ジョン・マクダーモット著によるヘンドリクスのレコーディングを記録した「ジミ・ヘンドリクス・レコーディング・セッション1963 - 1970」(シンコーミュージック刊)によれば、特定の製品名は出していないもののこう記述されております。
→Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds W-2
→Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds W-3
Ace Toneが鍵盤奏者やギター奏者のみならず、管楽器の 'アンプリファイ' にもアプローチしていたことはほとんど知られておりません。そんなAce Tone随一の謎に迫るべく、'スイングジャーナル' 誌1969年3月号に掲載された座談会「来るか電化楽器時代! - ジャズとオーディオの新しい接点 -」から掲載します。こちらは4名の識者、'スイングジャーナル ' 誌編集長の児山紀芳氏、テナーサックス奏者の松本英彦氏、オーディオ評論家の菅野沖彦氏、そして当時Ace Toneことエース電子工業専務であった梯郁太郎氏らが 'ジャズと電気楽器の黎明期' な風景について興味深く語り合います。ここでの議論の中心として、やはり三枝文夫氏と同じく梯郁太郎氏もこの '新たな楽器' に対してなかなか従来の奏者やリスナーが持つ価値観、固定観念を超えて訴えるところまで行かないことにもどかしさがあったのでしょうね。しかし、この頃からすでに現在のRoland V-DrumsやAerophoneの原初的アイデアをいろいろ探求していたとは・・梯さん凄い!。
- 児山
今回の座談会は、去年あたりから市販されて非常に話題になっているエレクトリック・インストゥルメントとしてのサックスやドラムといったようなものが開発されていますが、その電気楽器の原理が一体どうなっているのか、どういう特性をもっているのか、そしてこういったものが近い将来どうなっていくだろうかといったようなことを中心にお話を聞かせていただきたいと思います。そこでまずエース電子の梯さんにメーカーの立場から登場していただき、それからテナー奏者の松本英彦さんには、現在すでにエレクトリック・サックスを時おり演奏していらっしゃるという立場から、菅野沖彦さんには、ジャズを録音していくといった、それぞれの立場から見たいろんなご意見をお伺いしたいと思うんです。
まず日本で最初にこの種の製品を開発市販された梯さんに電化楽器というものの輪郭的なものをお話願いたいと思うんですが。
- 梯
電気的に増幅をして管楽器の音をとらえようというのは、もう相当以前からあったんですが、実際にセルマーとかコーンとかいった管楽器の専門メーカーが商品として試作したのは3年ぐらい前です。それが2年ぐらい前から市販されるようになったわけです。
- 児山
これは結局いままでのエレクトリック・ギターなどとは別であると考えていいわけですか。
- 梯
ええ、全然別なんです。これらの電化管楽器が、ギターなどと一番違うところは、コードのない単音楽器だけができる電気的な冒険というのが一番やりやすいわけです。といいますのは、コードになった時点からの増幅段というのは絶対に忠実でなければならない。ところが単音というのはどんな細工もできるわけです。この単音のままですと、これはまだ電子音なんです。そこに人間のフィーリングが入って初めて楽音になりますが、そういった電気的な波形の冒険というのが、単音楽器の場合いろいろなことができるわけです。その一例として、オクターブ上げたり下げたりということが装置を使うと簡単に実現することができるんです。コードの場合はその一音づつをバラバラにしてオクターブ上げたり下げたりしてまた合接する・・これはちょっと不可能なわけですね。
- 児山
これら電化楽器のメリットというか特性的なことをいまお話し願いましたが、そこでいかにして電気的な音を出しているのかという原理をサックスに例をとってわかりやすくお願いしたいんですが。
- 梯
現在市販されているものを見ますと、まずマイクロフォンを、ネックかマウスピースか朝顔などにとりつける。そのマイクもみんなエア・カップリング・マイク(普通のマイク)とコンタクト・マイク(ギターなどについているマイク)との中間をいくようなそういったマイクです。ですからナマのサックスの音がそのまま拾われてるんじゃなくて、要するに忠実度の高いマイクでスタジオでとらえた音とはまったく違うものなんですよ。むしろ音階をとらえてるような種類のマイクなんです。音色は、そのつかまえた電気のスペースを周波数としてとらえるわけです。それを今度はきれいに波を整えてしまうわけです。サックスの音というのは非常に倍音が多いものですから基本波だけを取り出す回路に入れて今度はそれを1/2とか1/4とか、これは卓上の計算機のほんの一部分に使われている回路ですけど、こういったものを使ってオクターブ違う音をつくったりするわけですよ。これらにも2つのモデルがあって、管楽器にアタッチメントされている物ですと、むしろ奏者が直ちに操作できることを主眼に置いて、コントロール部分を少なくして即時性を求めてるものと、それから複雑な種々の操作ができるということに目標を置いた、据え置き型(ギブソンのサウンド・システム)といったものがあるわけです。
- 児山
これで大体原理的なことはわかりますが。
- 菅野
わかりますね。
- 松本
ところが、これから先がたいへんなんだ(笑)。
- 児山
じゃ、そのたいへんなところを聞かせてください。それに現在松本さんはどんな製品を・・。
- 松本
現在セルマーのヴァリトーンです。しかし、これどうも気に入らないので半年かかっていろいろ改造してみたんだけど、まだまだ・・。サックスは、サックスならではの音色があるんですよ。それがネックの中を通して出る音はまず音色が変わるんですね。それから、音が出てなくてもリードなどが振動していたり、息の音などが拾われて、オクターブ下がバァーッと出るんですよ。
- 梯
それはコンタクト・マイクの特性が出てくるわけなんです。
- 菅野
わずかでもエネルギーがあればこれは音になるわけですね。
- 梯
ですから、マウス・ピースに近いところにマイクをつけるほど、いま松本さんのいわれたような現象が起るわけなんです。かといって朝顔につけるとハウリングの問題などがあるわけなんです。
- 松本
ちっちゃく吹いても、大きなボリュームの音が出るというのは、サックスが持つ表情とか感情というものを何か変えてしまうような気がするねェ。一本調子というのかなあ。それに電気サックスを吹いていると少し吹いても大きな音になるから、変なクセがつくんじゃないかなんて・・。初めオクターブ下を使ってたとき、これはゴキゲンだと思ったけど、何回かやってると飽きちゃうんだね。しかし、やっぱりロックなんかやるとすごいですよ。だれにも音はまけないし、すごい鋭い音がするしね。ただ、ちょっと自分自身が気に入らないだけで、自分のために吹いているとイージーになって力いっぱい吹かないから、なまってしまうような・・。口先だけで吹くようになるからね。
- 児山
それもいいんじゃないですか。
- 松本
いいと思う人もありますね。ただぼくがそう思うだけでね。電気としてはとにかくゴキゲンですよ。
- 児山
いま松本さんが力強く吹かなくても、それが十分なボリュームで強くでるということなんですが、現在エレクトリック・サックスの第一人者といわれるエディ・ハリスに会っていろんな話を聞いたときに、エレクトリック・サックスを吹くときにはいままでのサックスを吹くときとはまったく別のテクニックが必要であるといってました。
- 松本
そうなんですよ。だからそのクセがついてナマのときに今度は困っちゃうわけ。
- 児山
だから、ナマの楽器を吹いているつもりでやると、もうメチャクチャになって特性をこわしてしまうというわけです。結局エレクトリック・サックスにはそれなりの特性があるわけで、ナマと同じことをやるならば必要ないわけですよ。その別のものができるというメリット、そのメリットに対して、まあ新しいものだけにいろんな批判が出てると思うんですよね。いま松本さんが指摘されたように音楽の表情というものが非常に無味乾燥な状態で1本やりになるということですね。
- 松本
ただこの電気サックスだけを吹いていれば、またそれなりの味が出てくるんだろうと思うんですが、長い間ナマのサックスの音を出していたんですからね・・。これに慣れないとね。
- 児山
やっぱりそういったことがメーカーの方にとっても考えていかなきゃならないことなんですかね。
- 梯
ええ。やはり電子楽器というのは、人間のフィーリングの導入できるパートが少ないということがプレイヤーの方から一番いやがられていたわけです。それがひとつずつ改良されて、いま電子楽器が一般に受け入れられるようになった。しかし、このエレクトリック・サックスというのはまだ新しいだけに、そういう感情移入の場所が少ないんですよ。
- 松本
ぼくが思うのは、リードで音を出さないようなサックスにした方がおもしろいと思うな。だって、実際に吹いている音が出てくるから、不自然になるわけですよ。
- 梯
いま松本さんがいわれたようなものも出てきてるわけなんですよ。これは2年前にフランクフルトで初めて出品された電気ピアニカなんですが・・。
- 松本
吹かなくてもいいわけ・・。
- 梯
いや吹くんです。吹くのはフィーリングをつけるためなんです。これは後でわかったのですが、その吹く先に風船がついていて、その吹き方の強弱による風船のふくらみを弁によってボリュームの大小におきかえるという方法なんです。ですから人間のフィーリングどうりにボリュームがコントロールされる。そして鍵盤の方はリードではなく電気の接点なんです。ですからいままでのテクニックが使えて、中身はまったく別のものというものも徐々にできつつあるわけなんです。
- 松本
電気サックスの場合、増幅器の特性をなるべく生かした方が・・いいみたいね。サックスの音はサックスの音として、それだけが増幅されるという・・。
- 菅野
いまのお話から、われわれ録音の方の話に結びつけますと、電子楽器というものは、われわれの録音再生というものと縁があって近いようで、その実、方向はまったく逆なんですよね。電子楽器というのは新しい考え方で、新しい音をクリエートするという方向ですが、録音再生というのは非常に保守的な世界でして、ナマの音をエレクトロニクスや機器の力を使って忠実に出そうという・・。というわけで、われわれの立場からは、ナマの自然な楽器の音を電気くさくなく、電気の力を借りて・・という姿勢(笑)。それといまのお話で非常におもしろく思ったのは、われわれがミキシング・テクニックというものを使っていろいろな音を作るわけですが、電子楽器を録音するというのは、それなりのテクニックがありますが、どちらかというと非常に楽なんです。電子楽器がスタジオなりホールなりでスピーカーからミュージシャンが音を出してくれた場合には、われわれはそれにエフェクトを加える必要は全然ない。ですからある意味ではわれわれのやっていた仕事をミュージシャンがもっていって、プレーをしながらミキシングもやるといった形になりますね。そういうことからもわれわれがナマの音をねらっていた立場からすれば非常に残念なことである・・と思えるんですよ。話は変わりますが、この電化楽器というのは特殊なテクニックは必要としても、いままでの楽器と違うんだと、単にアンプリファイするものじゃないんだということをもっと徹底させる必要があるんじゃないですか。
- 梯
現在うちの製品はマルチボックスというものなんですが、正直な話、採算は全然合ってないんです。しかし、電子楽器をやっているメーカーが何社かありますが、管楽器関係のものが日本にひとつもないというのは寂しいし、ひとつの可能性を見つけていくためにやってるんです。しかし、これは採算が合うようになってからじゃ全然おそいわけですよ。それにつくり出さないことには、ミュージシャンの方からご意見も聞けないわけですね。実際、電子管楽器というのは、まだこれからなんですよ。ですからミュージシャンの方にどんどん吹いていただいて、望まれる音を教えていただきたいですね。私どもはそれを回路に翻訳することはできますので。
- 菅野
松本さん、サックスのナマの音とまったく違った次元の音が出るということがさきほどのお話にありましたね。それが電子楽器のひとつのポイントでもあると思うんですがそういう音に対して、ミュージシャンとしてまた音楽の素材として、どうですか・・。
- 松本
いいですよ。ナマのサックスとは全然違う音ならね。たとえば、サックスの「ド」の音を吹くとオルガンの「ド」がバッと出てくれるんならばね。
- 菅野
そういう可能性というか、いまの電気サックスはまったく新しい音を出すところまでいってませんか。
- 梯
それはいってるんですよ。こちらからの演奏者に対しての説明不十分なんです。要するに、できました渡しました・・そこで切れてしまってるわけなんです。
- 菅野
ただ、私はこの前スイングジャーナルで、いろんな電化楽器の演奏されているレコードを聴いたんですが、あんまり変わらないのが多いんですね。
- 児山
どういったものを聴かれたんですか?。
- 菅野
エディ・ハリスとか、ナット・アダレーのコルネット、スティーブ・マーカス・・エディ・ハリスのサックスは、やっぱりサックスの音でしたよ。
- 梯
あのレコードを何も説明つけずに聴かせたら、電子管楽器ということはわからないです。
- 児山
そうかもしれませんが、さきほど菅野さんがおっしゃったようにいまそういったメーカーの製品のうたい文句に、このアタッチメントをつけることによってミュージシャンは、いままでレコーディング・スタジオで複雑なテクニックを使わなければ創造できなかったようなことをあなた自身ができる、というのがあるんです。
- 菅野
やはりねェ。レコーデットされたような音をプレイできると・・。
- 梯
これはコマーシャルですからそういうぐあいに書いてあると思うんですが、水準以上のミュージシャンは、そういう使い方はされていないですね。だからエディ・ハリスのレコードは、電気サックスのよさを聴いてくださいといって、デモンストレーション用に使用しても全然効果ないわけです。
- 菅野
児山さんにお聞きしたいんですが、エディ・ハリスのプレイは聴く立場から見て、音色の問題ではなく、表現の全体的な問題として電子の力を借りることによって新しい表現というものになっているかどうかということなんですが・・。
- 児山
そもそもこの電気サックスというのは、フランスのセルマーの技師が、3本のサックスを吹く驚異的なローランド・カークの演奏を見てこれをだれにもできるようにはならないものかと考えたことが、サックスのアタッチメントを開発する動機となったといわれてるんですが、これもひとつのメリットですよね。それに実際にエディ・ハリスの演奏を聴いてみると、表情はありますよ。表情のない無味乾燥なものであれば絶対に受けるはずがないですよ。とにかくエディ・ハリスは電気サックスを吹くことによってスターになったんですからね。それにトランペットのドン・エリスの場合なんか、エコーをかけたりさらにそれをダブらせたりして、一口でいうならばなにか宇宙的なニュアンスの従来のトランペットのイメージではない音が彼の楽器プラス装置からでてくるわけなんです。それに音という意味でいうならば、突然ガリガリというようなノイズが入ってきたり、ソロの終わりにピーッと鋭い音を入れてみたり、さらにさきほど松本さんがいわれたように吹かなくても音がでるということから、キーをカチカチならしてパーカッション的なものをやったりで・・。
- 松本
私もやってみましたよ。サックスをたたくとカーンという音が出る。これにエコーでもかけると、もうそれこそものすごいですよ(笑)。
- 児山
エディ・ハリスの演奏の一例ですが、初め1人ででてきてボサ・ノバのリズムをキーによってたたきだし、今度はメロディを吹きはじめるわけなんです。さらに途中からリズム・セクションが入るとフットペダルですぐにナマに切り換えてソフトな演奏をするというぐあいなんですよ。またコルトレーンのような演奏はナマで吹くし、メロディなんかではかなり力強くオクターブでバーッと・・。つまり、彼は電気サックスの持つメリットというものを非常に深く研究してました。
- 菅野
それが電化楽器としてのひとつのまっとうな方法なんじゃないですか。でも、あのレコードはあんまりそういうこと入ってなかったですよね。
- 児山
つまり、エディ・ハリスのレコードは完全にヒットをねらったものでして、実際のステージとは全然別なんです。また彼の話によると、コルトレーンのようなハード・ブローイングを延々20分も吹くと心臓がイカレちゃうというわけです(笑)。そしてなぜ電気サックスを使いだしたかというと、現在あまりにも個性的なプレイヤーが多すぎるために、何か自分独自のものをつくっていくには、演奏なり音なりを研究し工夫しなければならない。たとえば、オーボエのマウス・ピースをサックスにつけたりとかいろんなことをやっていたが、今度開発された電気サックスは、そのようないろいろなことができるので、いままでやってたことを全部やめてこれに飛び込んだというんですよ。
- 菅野
非常によくわかりますね。
- 児山
ラディックというドラム・メーカーが今度電化ヴァイブを開発して、ゲーリー・バートンが使うといってましたが、彼の場合は純粋に音楽的に、そのヴァイブがないと自分のやりたいことができないというわけですよ。なぜかというと、自分のグループのギター奏者が、いままでのギター演奏とは別なフィードバックなどをやると、ほかの楽器奏者もいままで使ってなかったようなことをやりだした。そういう時にヴァイブのみがいままでと同じような状態でやっているというのは音楽的にもアンバランスであるし、グループがエレクトリック・サウンズに向かったときには自分もそうもっていきたいというわけなんですよ。もしそれをヴァイブでやることができれば、どういう方向にもっていけるかという可能性も非常に広いものになるわけですよね。
- 梯
それから、いままでの電子楽器というのは、とにかくきれいな音をつくるということだけから音が選ばれた。ところが音の種類には不協和音もあればノイズもある。そのことをもう一度考えてみると、その中に音の素材になりうるものがたくさんあるわけです。たとえばハウリングですが、以前にバンクーバーのゴーゴー・クラブへいったとき、そこでやってたのがフィードバックなんです。スピーカーのまん前にマイクをもってきてそいつを近づけたり離したりして、そこにフィルターを入れてコントロールして、パイプ・オルガンの鍵盤でずっとハーモニーを押さえ続けてるようなものすごく迫力のある音を出すんです。そんなものを見て、これはどうも電子楽器の常識というものをほんとうに捨てないと新しい音がつくれないと思いましたね。
- 児山
そうですね。ですから、いまこういう電子楽器、あるいは楽器とは別なエレクトリックな装置だけを使って、ジャズだといって演奏しているグループもあるわけです。まあそれにはドラムやいろいろなものも使ったりするわけですが、いわゆる発振器をもとに非常に電気的な演奏をしているわけなんですよ。
- 松本
ただ音は結局電子によってでるんだけど、オルガン弾いてもサックス吹いても同じ音が出るかもしれない。弾いてる人の表情は違うけれども、そういうのがあったらおもしろいと思いますね。
- 菅野
それにもうひとつの問題は、発振器をもとにしたプレーは、接点をうごかしていくといった電子楽器と根本的に違うわけだ。電気サックスなどは、松本さんがいわれているようにナマの音が一緒に出てくるという。そこが問題ですね。だからナマの音も積極的に利用して、ナマの音とつくった音を融合して音楽をつくっていくか、それともナマの音はできるだけ消しちゃって電子の音だけでいくか・・。
- 児山
それはミュージシャン自身の問題になってくるんじゃないかな。たとえばリー・コニッツなどのようにだれが聴いてもわかる音色を持っている人は変えないですね。自分の音を忠実に保ちながらオクターブでやるとか・・。
- 梯
しかしその場合、音色は保ち得ないんです。つまりその人その人のフィーリング以外は保ち得ないんですよ。
- 児山
なるほど、そうすると音楽的な内容がその個性どうりにでてくるということなんですね。
- 菅野
一般に音というものはそういうものの総合なんで、物理的な要素だけを取り上げるのは困難なわけです。そういったすべてのものがコンバインされたものをわれわれは聴いているわけですから、その中からフィーリングだけを使っても、リー・コニッツ独特なものが出てくれば、これはやはりリー・コニッツを聴いてるわけですよ。
- 松本
それならいいけどサックスというのはいい音がするわけですよ。それをなまはんかな拡声装置だといけない。それだとよけいイヤになるんですよ。
- ついに出現した電気ドラム -
- 児山
ニューポートに出演したホレス・シルヴァー・クインテットのドラマー、ビリー・コブハムがハリウッド社のトロニック・ドラムという電気ドラムを使用していましたが、あれはなんですか。
- 梯
うちでも実験をやっています。ロックなどの場合、エレキのアンプが1人に対して200W、リードが200Wならベースは400Wくらい。そうなってくるといままで一番ボリュームがあったドラムが小さくなってきたわけですよ。最初はドラムの音量をあげるだけだったのですが、やってみるとマイクのとりつけ方によって全然ちがった効果が出てきたわけですよ。
- 菅野
それは具体的に各ドラム・セットの各ユニットに取り付けるわけですか。
- 梯
最初は単純に胴の中にマイクを取り付けただけでしたが、いまはコンタクト・マイクとエア・カップリング・マイクの共用でやっていますね。
- 菅野
シンバルなんかは・・。
- 梯
バスドラム、スネア、タム・タムにはついていますが、シンバルはちょっとむずかしいのです・・。でもつけてる人もいるようですね。
- 菅野
ではいまの形としては、新しい音色をつくろうとしているわけですね。
- 梯
そうですね。現在ははっきりと音色変化につかってますね。
- 松本
でもやはりこの電気ドラムとてナマの音が混じって出るわけですよね。ナマの音がでないようにするにはできないのですか。
- 梯
それはできるんですよ。市販はしてないんですが、ドラムの練習台のようなものの下にマイクをセッティングするわけなんですよ。いままでのドラム以外の音も十分でますがシンバルだけはどうもね。らしき音はでるんですが。
- 松本
いままでの何か既成があるからでしょう。
- 梯
そうですね。だからシンバルはこういう音なんだと居直ってしまえばいいわけ・・。それぐらいの心臓がなきゃね(笑)。
- 菅野
本物そっくりのにせものをつくるというのはあまりいいことではない。あまり前向きではないですよ。よくできて本物とおなじ、それなら本物でよりいいものを・・。
- 松本
だから電気サックスでも、ナマの音をだそうとしたんじゃだめですね。これじゃ電気サックスにならない。
- 梯
松本さんにそういわれるとぐっとやりやすくなりますよ(笑)。
- 児山
電気サックスというのはだいたいいくらぐらいなんですか?。
- 松本
ぼくのは定価85万円なんですよ。でもね高いというのは輸入したということですからね。そのことから考えると・・。
- 梯
松本さんの電気サックスはニューオータニで初めて聴いたんです。これは迫力がありましたね。
- 松本
すごい迫力です。でも、それに自分がふりまわされるのがいやだから・・。
- 梯
こちらから見たり聴いたりしていると松本さんが振り回しているように見えるから、それは心配いらないですよ(笑)。
- 松本
それに運ぶのがどうもねェ。いままではサックスひとつ持ってまわればよかった。ギターなんかじゃ最初からアンプを持って歩かなければ商売にならないとあきらめがあるんですが、ぼくはなにもこれがなくたってと考えるから・・。そういうつまらないことのほうが自分に影響力が大きい・・(笑)。
- 児山
やはりコンサートなどで、おおいにやっていただかないと、こういった楽器への認識とか普及とかいった方向に発展していかないと思いますので、そういう意味からも責任重大だと思います。ひとつよろしくお願いします。それに、いまアメリカあたりでは電子楽器が非常に普及してきているわけなんですよ。映画の音楽なんかも、エレクトリック・サウンズ、エレクトリック・インスツルメントで演奏するための作曲法なんていうのはどうなるんですかねェ・・。
- 松本
これがまたたいへんな問題ですが、非常にむずかしいですね。
- 児山
それがいまの作曲家にとって一番頭のいたいことになってるんですね。
- 菅野
あらゆる可能性のあるマルチプルな音を出しうる電化楽器が普及すれば、新しい記号をつくるだけでもたいへんですね。
- 松本
そのエレクトリック・インスツルメントのメーカーだって指定しなければならないし・・。作曲家もその楽器も全部こなさなきゃならないですからね。
- 児山
そのように色々な問題もまだあるわけなんですが、現実にはあらゆる分野の音楽に、そしてもちろんジャズの世界にも着々と普及してきつつあるわけなんです。この意味からも電化楽器の肯定否定といった狭い視野ではなく、もっと広い観点から見守っていきたいですね。
● for amplifying woodwinds and brass
● exciting and dramatic
● new tonal dimensions
More than mere amplification. A convenient transistorized package complete with microphone attachments for saxes. clarinets and brass. Will provide variety of sounds. singly and in unison, octaves up and down, mellow of bright.
しかし 'Inquire for details and prices' と強調されているのを見ると日本から現物が届いておらず、カタログでアナウンスされたものの米国では発売されなかった感じですね。実際、今までeBayやReverb.comなどに流れてきた記憶がないので、世界最大のエフェクター・サイトである 'Disco Freq's Effects Database' にもこれまで本機が掲載されることはありませんでした。どなたか本製品の現物をお持ちの方、情報お待ちしております!。
"ストロボともストロボ・スコープともいうが、それはもともと、人間の走っているときの脚の動きなどを観察、研究する器具だった。たとえば、暗くされた部屋で、点滅する明るいライトを走っている人の脚に当てる。ライトは、たぶん正常な心臓の鼓動の三倍の速さで点滅する。ライトが照射されるたびに、走っている脚の動きに新しい段階が生まれるのに気づく。この連続的な脚のイメージが脳に固着する。なぜなら、動きを示すかすんだ映像が眼に映らないうちにライトが消されるからだ。ストロボはLSDヘッドの世界でも、ある種の魔術的な特性をもたらす。ストロボから発したライトはある速度で点滅されると脳波のパターンとシンクロナイズされるので、てんかん症的な発作をあたえる。LSDを飲まずにLSD体験のもたらすおおくの感覚をストロボが生むのをヘッドたちは発見した。大きなストロボの下に立った人はすべてのものが断片化されたように見える。たとえば、恍惚として踊っている人たち - の腕は上に上げられたまま静止し - そのギラギラ光った顔はバラバラになる - ここに正方形に並んだ歯が光っているかと思えば、むこうの方にテカテカ光った頬骨が二つ浮かぶ - まるで、チカチカ '雨が降る' 昔の映画の映像のように人間のすべての部分が拡散し、断片化する -スライスされた人間だ!- 蝶の標本板に全歴史がピンでとめられるのだ。むろん、それがLSD体験だ。"
このストロボライトなのですが、その昔、Electro-Harmonixからいわゆる 'パーティーグッズ' としてEH-9203 Domino Theory Sound Sensitive Light Tubeというのがありました。これは赤い透明チューブの中に15個のLEDが並び、内蔵した小型マイクが音声信号を検出、音の変化に従ってLEDが異なるパターンで点滅するというもの。しかし、その10年以上前に日本のAce Toneから同様のストロボライト・マシーン、Psyche Light PL-125が発売されているんですヨ。時代はまさにサイケデリック全盛であり、本機は電源On/OffとストロボOn/Offのほか、ストロボのスピードを調節するツマミが1つあるシンプルなもの。ええ、'エレハモ' ほど凝った 'ハイテク' なものではございません(笑)。このPsyche Lightは、ストロボ前面に挿入する赤、青、黄の透明アクリル板フィルターと遠隔で操作できるようにスピード・コントローラーが付属しております。わたしもこの珍品を所有しており、残念ながらキャリングハンドルとアクリル板フィルターは欠品しているもののLEDではなく、アナログな電球によるパッパッパッと眩いばかりのフラッシュで体感するということで、コレもわたしの '飛び道具'(笑)。トレモロの変異系?とも言えます・・かね?。ちなみにテレビで注意喚起される '光過敏性発作' を誘発する恐れもあるので、そのままストロボ光を凝視するのはダメですヨ。
- 梯さんが 'ファズ' と言われて真っ先に連想することは何でしょうか?。
- 梯
あのね、三味線なんですよ。三味線のルーツは中国だけど、日本独特のアイディアが加わったんです。日本の三味線は、一の糸(最も低音の弦、ギターとは数え方が逆)だけが上駒(ギターで言うナットにあたる部分)がなくて指板に触れている。だから、二の糸、三の糸の弦振動は楕円運動で上下左右対称に振動するのに対して、一の糸は非対称の波形で振動して、なおかつ弦が指板に当たることで独特の歪み音を作っていたわけです。それが三味線の演奏上、非常に生きていた。そしてその後、三味線を見習ったわけじゃなく、ギタリストがそういう音を欲しがったんです。耳で見つけ出してね。あとから考えると、昔の人もファズ的な音の必要性を感じたんでしょう。3本の弦のうち1本を犠牲にするほどの意味を持っていたわけですから。
- 1960年代当時は、どうやってあの音を模索したんですか?。
- 梯
プレイヤーの皆さんはいろんなことを試しましたよ。スピーカーのコーン紙を破ってみたりしてね。もちろんどれも結果的には失敗だったんですけど、音としては、弾いたものが非対称に振動して、その時に原音とまったく異なった倍音構成を持つ音をともなって出てくるというのがファズの概念だったんじゃないかな。そもそもファズの定義がありませんでしたし、電気回路として考えたら無着苦茶な回路なんです。でも音楽家の耳がその音を要求したことでそれが生まれた。頭の堅い電気屋にはとうてい出てこない回路ですよ。
- 当時すでにアンプに大入力を入れたオーバードライブ・サウンドは発見されてましたよね?。
- 梯
ありましたよ。ただ、オーバードライブは入力信号が左右対称で、ギターの音っていうのはバーン!と弾いた時が振幅が大きくて、だんだん小さくなっていきますよね。その上下のピークがアンプ側によって削られる、これが技術的に見たオーバードライブの音だった。特にギターは、バーンと弾いた時の振幅が非常に大きいから歪むことが多かったんです。で、当時のアンプはすべて真空管ですよね。真空管はセルフ・バイアスという機能をちゃんと持っていて、大きな信号が入ってくるとバイアス点が変わって歪むポイントも変わるんですよ。そうすると独特の歪みになる。これが、同じ歪みでもトランジスタと比べて真空管の歪みの方が柔らかいとか、耳あたりがいいと感じる理由なんです。まぁ、オーバードライブとかディストーションとか、呼び分けるようになったのはもっとあとの話でね、中でもファズは波形を非対称にするものだから、独立した存在でした。
- マエストロのファズ・トーンが発売された1962年頃、梯さんはすでにエース電子を設立していますが、その当時日本でファズは話題になったんですか?。
- 梯
ほとんど使われなかったですね。ジミ・ヘンドリクスが出てきてからじゃないかな、バーっと広まったのは。GSの人たちはそんなに使ってなかったですよ。使っていたとしても、使い方がまだ手探りの段階だったと思います。
- 国内ではハニーが早くからファズを製作していましたよね。ハニーはトーンベンダー・マークⅠを参考にしたという説もありますが。
- 梯
いやいや、そんなことはないんですよ。彼ら自身が耳で決めたのだと思います。ハニーを設計した人物はその後にエーストーン、ローランドに入社した人ですからその辺の事情は聞いてますけど、ハニーは歪んだ音にエッジをつけて微分する・・要するに低音部を抑えて、真ん中から上の音を強調する回路になっていて、当時としては新しい種類の音でしたね。
- エーストーンも今や名機とされるファズ・マスターFM-2、そしてFM-3を発売しています。これらは70年代に入った頃に発売されていますが、当時の売れ行きはどうでしたか?。
- 梯
両方ともよく売れてましたよ。よくハニーとの関連について聞かれるんだけど、設計者は別の人です。
- そしてその後にローランドを設立するわけですが、ローランド・ブランドではBeeGeeやBeeBaaといったファズを早々に発表しています。やはり需要はあったということですよね?。
- 梯
ありましたね。鍵盤なんかとは違って店頭で売りやすい商品だったのと、その頃にはファズがどういうものかということをお客さんもわかってきていたから。あと面白い話があって、ローランドのアンプ、JC-120の開発もファズと同時期に進めていたんです。根本に戻るとこのふたつは同時発生的に始まっていて、片一方は歪み、片一方はクリーンという対極的な内容のものを作ろうとしていたんですね。そしてJCのコーラスのエンジン部分を抜き出したのが、単体エフェクターのCE-1なわけです。
- そうだったんですね。また、当時の特徴として、ファズとワウを組み合わせたモデルも多かったですよね?。ローランドだとDouble Beat (AD-50)なんかも出てますし。
- 梯
そうですね。ファズを使うことでサスティンが伸びるでしょ。そのサスティンを任意に加工できるのがワウだったんです。音量を変えたり、アタックを抑えてだんだん音が出るようにしたりできたから。
- 当時を改めて振り返って、思うところはありますか?。
- 梯
ハードとソフト、要するにメーカーとプレイヤーの関係は、ハードが進んでいる場合もあるし、ソフトが進んでいる場合もあるんですけど、ファズに関しては音楽家が一歩先を行っていたということですね。それを実現するのに、たまたま半導体が使えたことでこれだけ普及したんだと思います。
- なるほど。その後70年代後半〜90年頃まで 'ファズ' 自体が消える時代がありますが。
- 梯
いや、消えたんじゃなくて、ハード・ロックが出てきて音質がメタリックなものに変わっただけなんです。当初のファズのようにガンガン音をぶつけるんではなく、メロディを弾くためにああいう音に変わった。メタル・ボックスとか、メタライザーとかって名前をつけてましたけど、あれはファズの次の形というか、ファズがあったからこそ見つかった音なわけです。時代で考えてもそうで、ファズがあれだけ出回ったことで、次にハード・ロックが出てきたという自然な流れがあったんだと思います。
- そして90年代にはグランジ/オルタナの流行によって、ファズが再評価されるようになりますね。
- 梯
それは音楽の幅が広がったからですよ。当初、ファズは激しい音楽の部類にしか使われなかったけど、ギターの奏法面でも向上とともに、最初にあった音が見直された。メタリックに歪むものより、あえて昔のファズであったり、OD-1であったりの音でメロディックに弾こうとしたんでしょうね。
- 今ファズを製作している各メーカー、ガレージ・メーカーに対して、梯さんが思うことは?。
- 梯
新しい人が新しい目標でやられるのはいいことです。でも、特定のプレイヤーの意見だけではダメ。10人中10人に受け入れられる楽器なんてないですけど、10人のうち3人か4人が賛同してくれるなら作る意味があると思います。それに、流行があとからついてくるパターンもたくさんあって、ローランドのCE-1なんてまさにそのパターン。1年半売れなかったのに、ハービー・ハンコックがキーボードに使っている写真が雑誌に出たのがきっかけで爆発的に売れたんです。もともとギタリスト向けに作ったのに(笑)。そういう風に、使い道をミュージシャンが見つけた時に真価が出てくることもありますよ。
- ありがとうございました。最後にファズを使っているギタリストに何かメッセージを。
- 梯
何のためにファズを使うのか、もしくは使おうとしているのか、それをもう一度考えてほしいなぁと思います。そして、演奏技法をクリエイトしてもらえると、楽器を作っている者としては嬉しいですね。
さて、このMulti-Vox EX-100。サックス用にはコントローラーをVaritone同様にキー・ボタンの側、ラッパではC.G. Conn Multi-ViderやVox Octavoice同様に奏者の腰へ装着して用いるもので、日野さんなどは同社のギターアンプSolid Ace SA-10にテープ・エコーEC-1 Echo Chamberの組み合わせをアルバム 'Hi-Nology' 見開きジャケットで拝むことが出来ます。当時、このようなスタックアンプといえばTeiscoやElkと並び総合的にPAを手がけていたAce Toneの土壇場だったのですが、海外製のギターアンプと比べると圧倒的に歪まなかった・・。しかし、それがこのような管楽器用アンプとしては十分に威力を発揮したのだと思います。残念ながら、その 'Hi-Nology' では肝心の日野さんによるMulti-Voxを用いた演奏を聴くことは出来ません(涙)。
そんなMulti-Voxをいち早く導入したのがマイルス・デイビスの '電化' に感化されていたトランペットの日野皓正氏とテナーサックスの村岡建氏のふたり。すでに本機発売の翌年、そのデモンストレーションともいうべき管楽器の可能性をいくつかのイベントで披露しております。ちなみに雑誌広告としては1968年の 'スイングジャーナル' 誌10月号で初出後、価格未定のまま11月号、12月号、価格決定した翌69年の5月号、6月号、7月号、8月号を最後に、当時としては39,000円の高価格品ということから庶民には手の出ないモノだったことが伺えますね。こうして '国産初のオクターバー' は人知れず時代の彼方へと消えて行ったのでした。ちなみにマウスピースへ穴を開けて装着するピックアップですが、日野さんはトレードマーク的に愛用していた 'ハイノート御用達' のJet Toneマウスピースを活かす為か、ラッパのベル横側に穴を開けて装着します。そして当時、日野クインテットの一員として 'Hi-Nology' でも共演するサックス奏者、村岡建さんは、この時期から少し経った1971年に植松孝夫さんとの '2テナー' によるライヴ盤 'Ride and Tie' で全編、'アンプリファイ' でファンキーなオクターヴ・トーンを堪能することが出来ます。実はコレ、Ace Tone Multi-Voxなのでは?と思っているのですが、取説での村岡さんの談によればヤマハから '電気サックス' (Varitone?Multi-Vider?)一式を購入したことが本盤制作のきっかけとなったとのこと。
⚫︎1969年3月24日 初の日野皓正クインテット・ワンマン・コンサートを開催する(東京サンケイ・ホール)。'Love More Train'、'Like Miles'、'So What' などを演奏、それに合わせてあらかじめ撮影された路面電車の 種々のシーンをスクリーンに映写し、クインテットがインプロヴァイズを行う。日野さんのラッパには穴が開けられピックアップを取り付けて初の電化サウンドを披露した。
⚫︎1969年6月27、28日 クインテットによる「日野皓正のジャズとエレクトロ・ヴィジョン 'Hi-Nology'」コンサート開催(草月会館)。写真家の内藤忠行のプロデュースで司会は植草甚一。第一部を全員が 'Like Miles'、'Hi-Nology'、'Electric Zoo' を電化楽器で演奏。第二部は「スクリーン映像との対話」(映画の公開ダビング)。「うたかたの恋」(桂宏平監督)、「POP 1895」(井出情児監督)、「にれの木陰のお花」(桂宏平監督)、「ラブ・モア・トレイン」(内藤忠行監督)の5本、その映像を見ながらクインテットがインプロヴァイズを行い音楽を即興で挿入していった。コンサートの最後にクインテットで 'Time and Place' をやって終了。
1969年の傑作 'Hi-Nology' に同封されたポスターでは使用中の写真がありますけど、この時期の音源で唯一Multi-Vox EX-100のオクターヴ・トーンを堪能出来るのが 'Super Market' と題された映画 '白昼の襲撃' のテーマ曲(3曲目)。どうしてもテナーサックスとのユニゾンなので分かりにくいのですが、この曲ではソロにおいても蒸し暑いオクターヴ・トーンの 'ハモった' ラッパが聴けますヨ。ただ、このOST版ではないシングル盤用ミックスの音源の方と聴き比べるとそちらはオクターヴ・トーンがカットされているんですよね・・(謎)。さて、そんな当時の '日野ブーム' と共に大きく影響を受けた 'エレクトリック・マイルス' 及び '電気ラッパ' に対して日野さん本人はこう述べておりました。
- エレクトリック・トランペットをマイルスが使い始めた当時はどう思いましたか?。
"自然だったね。フレイズとか、あんまり吹いていることは変わってないなと思った。1970年ごろにニューヨークのハーレムのバーでマイルスのライヴを観たんだけど、そのときのメンバーはチック・コリアやアイアート・モレイラで、ドラムはジャック・ディジョネットだった。俺の弟(日野元彦)も一緒に観に行ってたんだけど、弟はディジョネットがすごいって彼に狂って、弟と "あれだよな!そうだよな!" ってことになって(笑)。それで電気トランペットを俺もやり始めたわけ。そのころ大阪万博で僕のバンドがああいうエレクトリックのスタイルで演奏したら、ヨーロッパ・ジャズ・オールスターズで来日中だったダニエル・ユメールに "日野はマイルスの真似しているだけじゃないか" って言われたことがあるんだけどね。"
ちなみに日野さんがこの時期を経て再び '電気ラッパ' にアプローチするのは1976年、キーボードの菊地雅章と双頭による 'Kochi/東風' 名義で制作した 'Wishes' になりますね。活動停止したマイルス・デイビス・グループのメンバーが大挙参加して、エンヴェロープ・フィルターやディレイを駆使した和風の '電化っぷり' がたまりません。
この日野皓正さんと並び日本の 'ニュージャズ' を牽引する存在として注目を集めていたのが沖至さんです。残念ながら去年冥界へと旅立たれて行かれましたが(涙)、自身のトリオによるデビュー盤 '殺人教室' の一曲目 '水との対話' を聴いた時にはビックリしました。当時、ジャズ/オーディオ評論家として有名な寺島靖国氏が店主を務める吉祥寺のジャズ喫茶 'MEG' は一時期ジャズバンドのステージをやっていたことがあり、そこに出演したのが寺島氏と真逆な志向の沖至トリオ。水の張ったバケツにベル突っ込んでいわゆる '水中ミュート' の即興演奏を展開したのがこの '水との対話' であり、ステージ上がビシャビシャになっていくのを横から雑巾持って拭いて回ったというエピソードが可笑しかった(笑)。また、1974年に渡仏するべく最後の日本ツアーを記録したのが 'しらさぎ' というライヴ盤なのですが、ここでは新映電気のワウペダルとKastam ElectronicsのテープエコーSS-100 Concert、そして大きなギターアンプを背にして日野さんに次ぐ '電気ラッパ' の可能性に賭しておりました。そんな沖さんのワウペダルへの関心は渡仏直後に参加したサックス奏者、ノエル・マギーの作品 'Noel McGhie & Space Spies' でもほぼ全編で展開。ここではいつものフリージャズから一転してクールなジャズ・ファンクで迫ります。
→Maestro Ring Modulator RM-1A
→Maestro Ring Modulator RM-1B
"同じ電化楽器でもトランペットの場合は特性面でかなりの相異がある。電化トランペットの使用で話題になったドン・エリスの場合、やはり種々のアンプを使っているが、サックスとちがって片手でできるトランペット演奏では、もうひとつの手でアンプの同時操作が可能になる。読者は、先月号のカラーページに登場したドン・エリスの写真で、彼がトランペット片手にうつむきながらアンプを操作している光景をご覧になっているはずだ。あの場合、ドン・エリスはいったん吹いたフレーズをエコーにしようとしてるのだが、この 'エコー装置' を使うと 'Electric Bath' (CBS)中の 'Open Beauty' にきかれる不思議な音楽が誕生する。装置の中にはテープ・レコーダーが内蔵されており、いったん吹かれた音がいつまでもエコーとなって反復される仕組みになっている。ドン・エリスは、この手法を駆使し谷間でトランペットを吹くような効果を出しているが、彼はまた意識的にノイズを挿入する。これも片手で吹きながら、もう一方の手でレバーを動かしてガリガリッとやるのである。こうした彼のアイデアは、一種のハプニングとみなしていいし、彼が以前、'New Ideas' (New Jazz)で試みた実験と相通じるものだ。"
そして電子音響とジャズマンを '越境' した 'マッド・サイエンティスト' として唯一無二の存在、ギル・メレをご紹介致しましょう。彼のキャリアは1950年代にBlue Noteで 'ウェストコースト' 風バップをやりながら画家や彫刻家としても活動し、1960年代から現代音楽の影響を受けて自作のエレクトロニクスを製作、ジャズという枠を超えて多彩な実験に勤しみました。そのマッドな '発明家' としての姿を示す画像は上から順に 'Elektor' (1960)、'White-Noise Generator' (1964)、'Tome Ⅳ' (1965)、'The Doomsday Machine' (1965)、'Direktor with Bubble Oscillator' (1966)、'Wireless Synth with Plug-In Module' (1968)といった数々の自作楽器であり、特に1967年にVerveからのリーダー作 'Tome Ⅳ' は、まるでEWIのルーツともいうべきソプラノ・サックス状の自作楽器(世界初!の電子サックス)を開陳したものです。ま、一聴した限りではフツーのサックスと大差ないのですが、彼がコツコツとひとり探求してきたエレクトロニクスの可能性が正式に評価されなかったのは皮肉ですね。そんなメレ独自のアプローチは1971年のSF映画 'The Andromeda Strain' のOSTに到達、自作のドラムシンセと共に難解な初期シンセサイザーにおける金字塔を打ち立てます。ちなみにこの映画は、まさに今の新型コロナウィルスを暗示したような未知のウィルス感染に立ち向かう科学者たちのSF作品でして、その '万博的' レトロ・フューチャーな未来観の映像美と70年代的終末思想を煽るギル・メレの電子音楽が見事にハマりました。
米国にギル・メレがいるのなら欧州にはスイスの 'マッド・サイエンティスト' ことブルーノ・スポエリがいる!。1970年の大阪万博でスイス館の為にThe Metronome Quintetとして来日、日本コロンビアで7インチ 'Expo Blues' を吹き込みながら英国のJazz Rock Experience (J.R.E.)にも参加したスイスのジャズメン、ブルーノ・スポエリとラッパ吹きのハンス・ケネル(なぜか後年はアルプスホルンの名手となった)。1960年代まではフツーにモダン・ジャズの住人であったスポエリさんも 'サマー・オブ・ラヴ' の季節を経て従来からの 'エレクトロニクス好き' を拗らせて変貌、現在までほとんどジャズの路線を逸脱したカルト的作品と散発的な ' サウンド・パフォーマー' 的活動、そしてスイスのエレクトロニクス・ミュージックの重鎮として君臨しております。そんな管楽器と 'エレクトロニクス初期' の頃の思い出を '5つの質問' としてネット上のインタビューから抜粋、こう答えております。
- 1970年代にあなたは電化したサックスで実験されましたよね。あなたのサックスを電化するにあたり用いたプロセスはどのようなものでしょう?。
- スポエリ
サックス奏者でありジャズのインプロヴァイザーでもあるわたしは、いつもキーボード以外のやり方で演奏することを探していました。1967年にわたしはSelmer Varitoneを試す機会を得たのですがそれはあまりに高価だった為、わたしはConn multi-Viderを使い始め、その後にはHammondのCondor RSMへ切り替えて使いました。特にわたしは多くのコンサートでMulti-Viderを使いましたね(1969年のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルで私たちのジャズ・ロック・グループが使用し、そこでエディ・ハリスにも会いました)。1972年にわたしはEMSのPitch to Voltageコンバータをサックスと共に用いてコンサートをしました(VCS 3による3パートのハーモニーやカウンター・メロディと一緒に)。そして1975年にわたしはLyriconの広告を見て直ちにそれを注文したのです。
"ギターもエレキは自宅でVoxのAC-50というアンプからのアウトをGroove Tubeに通して、そこからダイレクトに録りますね。まあ、これはスピーカー・シミュレーターと言うよりは、独特の新しいエフェクターというつもりで使ってます。どんなにスピーカー・ユニットから出る音をシミュレートしても、スピーカー・ボックスが鳴っている感じ、ある種の唸りというか、非音楽的な倍音が出ているあの箱鳴りの感じは出せませんからね。そこで、僕はGroove Tubeからの出力にさらにリング・モジュレーターをうす〜くかけて、全然音楽と関係ない倍音を少しずつ加えていって、それらしさを出しているんですよ。僕が使っているリング・モジュレーターは、電子工学の会社に務めている日本の方が作ってくれたハンドメイドもの。今回使ったのはモノラル・タイプなんですけど、ステレオ・タイプもつい1週間くらい前に出来上がったので、次のアルバムではステレオのエフェクターからの出力は全部そのリング・モジュレーターを通そうかなと思っています。アバンギャルドなモジュレーション・サウンドに行くのではなくて、よりナチュラルな倍音を作るためにね。例えば、実際のルーム・エコーがどういうものか知っていると、どんなに良いデジタル・リヴァーブのルーム・エコーを聴かされても "何だかなあ" となっちゃう。でもリング・モジュレーターを通すとその "何だかなあ" がある程度補正できるんですよ。"
"ローインピーダンス仕様のギターのバランス出力を入力端子に接続するときは、このスイッチを押し下げてください。TRS端子による接続が必要なバランス接続では、最高のダイナミックレンジと低ノイスの環境が得られます。"
'On The Corner' において、影に隠れながらほぼパーカッシヴな変貌を遂げたデイビスのトランペットで '踏む' ワウペダル。1969年の 'Bitches Brew' のレコーディングは8トラックの4チャンネル方式で録音しており、その大所帯なアンサンブルに負けじと自身の吹くトランペットに装着したピックアップからアンプで再生したものをマイクで拾った音、DIからラインでミキシング・コンソールに出力した音、そしてベルからの音をそれぞれ三通りでミックスすることでエコーに象徴される新たな音作りに威力を発揮します。それをステージへと持ち込んだ最初のアプローチとして、1971年発表の2枚組 'Live-Evil' では要所要所でオープンホーンとワウペダルを使い分け、それまでのミュートに加えて新たな 'ダイナミズム' の道具として新味を加えようとする意図は感じられました。しかし 'On The Corner' 以降はほぼワウペダル一辺倒となり、トランペットはまさに咆哮と呼ぶに相応しいくらいの 'ノイズ生成器' へと変貌・・。そもそもサックスには 'ファズトーン' や 'グロウル' と呼ばれる重音奏法があり、これはトランペットによる息の掠れた感じを混ぜる 'サブトーン' やワウワウ・ミュートとワウペダルの関係含め、実はエフェクターが管楽器の電気的な模倣から始まったという説は間違った話ではありません。つまり管楽器なりに '歪んだトーン' のニュアンスによるアプローチとして '先祖返り' しているのです。そんなわたしの足下に収まっている '手のひら' サイズなワウの先駆、シンガポールのガレージ工房が手がけたPlutoneium Chi Wah Wah。光学式センサーによる板バネを用いたペダルで通常のワウとは真逆の踵側をつま先で 'フミフミ' して操作します。専用のバッファーを内蔵して0.5秒のタイムラグでエフェクトのOn/Off、そして何より便利なのがワウの効果をLevel、Contour、Gainの3つのツマミで調整できるところ。特別、本機にしか出てこない優れたトーンを持っているとは思いませんが、基本的なワウのすべてをこのサイズで実現してしまったものとして重宝しております。ワウの周波数レンジは広いものの、ペダルの踏み切る直前でクワッと効き始めるちょっとクセのあるタイプ。また、2010年の初回生産分のみエフェクトOn/Offのタイムラグが1.1秒かかる仕様だったので、中古で購入される方はご注意下さいませ(2010年10月以降は0.5秒仕様)。本機はペダルボードの固定必須で使うことが安定する条件となり、普通に床へおいて使うと段々と前へズレていきます。個人的にはその踵側を踏む姿勢から、立って踏むより座って踏んだ方が操作しやすいですね。
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