さて、今年ほど真夏が狂気の季節だったことはありません。だって誰も '夏休み' を満喫する人がいないんだもの。汗かいて陽に焼けて蝉は精一杯鳴き続ける・・ビールは美味い。アスファルトは昼間の照り付けた熱気の '記憶' として真夜中の散歩道となる・・その渇いた独特の匂い。これが夏本番を迎えて街中がソワソワし出す初夏の雰囲気、毎年訪れる夏の装いだ。しかし、そんな2020年の真夏を彩る薄着の人たちは街から姿を消し、たまにすれ違う人たちの口元には白いマスクが覆われていたのであった・・。
オーストリア出身のエレクトロニカ職人、クリスチャン・フェネスは1997年の 'Hotel Paral.lel' から一貫して独自の音響世界を築いてきた人であり、そのデビュー作は、未だテクノのうねりと折合いをつけながらユニークなエレクトロニカ胎動の一歩を示しました。そして2004年の 'Venice' は傑作 'Endress Summer' の延長線上にありながらよりノイジーとなり、デイヴィッド・シルヴィアンがゲスト参加したのも話題となりました。そして2007年の坂本龍一 '教授' とのコラボレーション 'Cendre' から翌年の 'Black Sea' と続き、2014年の 'Becs' はわたしが聴くフェネス最後の作品となるのです。
→Steelpan
え?こんな無味乾燥でインダストリアルな音ばかりじゃ夏を体感したことになりませんか?。ということで、カリブ沿岸といえばマイアミからバハマ一帯って、あまりブラック・ミュージックの匂いのしないイメージが昔からありました。同じカリブ海一帯でもニューオーリンズからハイチとドミニカ、そしてジャマイカの方が音楽的に豊かなイメージが強く、マイアミ? 'Get Down Tonight' のディスコヒットで有名なKC &ザ・サンシャイン・バンドの他には、一時、コンプレッサーでポップアップするアメ車に搭載したウーハーからブンブンとした超低音で踊らせる 'マイアミベース' なる頭の悪い音楽があったなあ、くらいの感じで縁のない印象・・。南国と音楽の関係性について勝手なイメージですけど、特にコンピュータ中心の制作環境で '宅録' をやっているイメージは、暖かい日差し溢れる日常より寒くて閉ざされた地域の方が活発なんじゃないか、という気がします。外に出て行く機会もなく、ひとり暗く自室に閉じこもってアレコレやっているというか・・毎日が澄み渡る青空と日差しの連続ならサンバ・カーニバル的 '夏祭り' な過ごし方をしますヨ。いま世界はコロナでそれどころではないのだろうけど、燦々と日差し降り注ぐマイアミ〜バハマのカリブ海沿岸の浜辺でウトウトと・・これぞ常夏の白日夢なり。そして、カリブを象徴する楽器といえばトリニダード・トバゴのドラム缶で製作する創作楽器スティールパンで、それだけでオーケストラを組めるくらいいろいろな音域に合わせたものが用意されております。こんなコロコロと南国ムード漂う音色でカリプソ風ファンキーに迫るものとしては、1970年にたった一枚のシングル盤のみの正体不明なバンド、コールド・スウェット&スティールのレアグルーヴ感覚や、ジャコ・パストリアス・グループの 'The Chicken' などがあり、その 'The Chicken' ではトリニダード・トバゴ出身のスティールパン奏者、オセロ・モリノーによる黒々とブルージーなスティールパンが素敵(何でも独特なキー配列のスティールパンなのだとか)。
そんなマイアミ〜バハマ一帯、実は音楽的に '不毛地帯' ではなかったことを証明する怪しいシリーズ 'West Indies Funk' 1〜3と 'Disco 'o' lypso' のコンピレーション、そして 'TNT' ことThe Night Trainの 'Making Tracks' なるアルバムがTrans Airレーベルから2003年、怒涛の如く再発されました・・。う〜ん、レア・グルーヴもここまできたか!という感じなのですが、やはり近くにカリプソで有名なトリニダード・トバゴという国があるからなのか、いわゆるスティールパンなどをフィーチュアしたトロピカルな作風が横溢しておりますね。実際、上記コンピレーションからはスティールパンのバンドとして有名なThe Esso Trinidad Steel Bandも収録されているのですが、その他は見事に知らないバンドばかり。また、バハマとは国であると同時にバハマ諸島でもあり、その実たくさんの島々から多様なバンドが輩出されております。面白いのは、キューバと地理的に近いにもかかわらず、なぜかカリブ海からちょっと降った孤島、トリニダード・トバゴの文化と近い関係にあるんですよね。つまりラテン的要素が少ない。まあ、これはスペイン語圏のキューバと英語圏のバハマ&トリニダードの違いとも言えるのだろうけど、ジェイムズ・ブラウンやザ・ミーターズといった '有名どころ' を、どこか南国の緩〜い '屋台風?' アレンジなファンクでリゾート気分を盛り上げます。ジャマイカの偉大なオルガン奏者、ジャッキー・ミットゥーとも少し似た雰囲気があるかも。しかし何と言っても、この一昔前のホテルのロビーや土産物屋で売られていた '在りし日の' 観光地風絵葉書なジャケットが素晴らし過ぎる!永遠に続くハッピーかつラウンジで 'ミッド・センチュリー・モダン' な雰囲気というか、この現実逃避したくなる 'レトロ・フューチャー' な感じがたまりません。
同じサムネ画ばかりで目がクラクラしているでしょうけど、この亜熱帯にラウンジな感じはまだまだ続きますヨ。誰かすぐにホテルを手配して航空機チケットをわたしに送ってくれ〜。今夜一眠りして、翌朝目が覚めたら一面、突き抜ける青空と青い海、降り注ぐ日差しを浴びながらプールサイドで寝そべっていたらどれだけ気持ち良いだろうか。そういえばショーン・コネリー主演のスパイ映画 '007サンダーボール作戦' では、1965年当時のバハマの首都ナッソーを堪能することが出来ますね。
そんなバハマといえば首都のナッソー(Nassou)、そのナッソーといえば 'Funky Nassou' ということで、ここら辺で最も有名なのが上でご紹介したバハマ出身のファンクバンド、The Bigining of The Endでしょうね。長いことその 'カリビアン・ファンク' を代表するバンドであり、1971年のヒット曲で聴こえる地元のカーニバル音楽、'ジャンカヌー' のリズムを取り入れたファンクは独特です。彼らのデビュー・アルバムは全編、優れたファンクを展開しながらこの後、ディスコ全盛期の1976年にバンド名そのままの2作目をリリースして消えてしまいました。この 'Funky Nassou' だけで 'カリビアン・ファンク' はすべて片付いてしまうくらい影響力大なのだけど、ここでもう一度、Trans Airのコンピ 'Disco 'O' Lypso' から 'Funky Nassou' のディスコ・カバーをどーぞ。
そんな陽気なカリブのトロピカル風味から再びエレクトロニカの世界に舞い戻ります。思い返せば、1990年代後半のエレクトロニカ興隆には世紀末の空気と相まって興奮したものです。それまで現代音楽の一部である電子音楽の世界がテクノとぶつかってしまったような '化学反応' は、当時のサンプラーやシンセサイザーに対するアプローチを一新させました。それまで 'ローファイ' などとアナログの価値観に引きづられていた多くのユーザーは、CDの盤面に傷を付けて意図的に引き起こす 'デジタル・エラー' の不快さが、そのままCycling 74 Max/Mspに代表される痙攣したリズムへと摩り替えていく快感を体験してしまったのだから。これはコンピュータを意図的に 'ジャンク' としてプログラミング、楽器のように機能させる 'グラニュラー・シンセシス' のアプローチでもあります。そして2001年の傑作 'Endress Summer' は、そのフォーキーなアコースティックの響きと真っ向から覆い尽くすようなノイズの壁が不思議な心地良さを演出し、特に夏に対してセンチメンタルな感情を抱きやすい日本人のツボにハマった一枚なのです。たぶん、毎夏訪れる度にこの作品の 'サウンドスケープ' が有り有りと眼前に現れる人たち、多いのではないでしょうか。ジリジリと肌に差す夏の陽気、照り付ける陽射しを避けて木陰からジッと遠い陽炎を眺める眼差し・・。ああ、寂しい夏が去って行くなあという思い出と共に9月を迎えます。
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