2020年1月3日金曜日

またもや '質感生成' の旅に出る

わたしのペダルボードをジッと眺めているとその大半のペダルがトランペットのトーン、電気的に増幅した際の '質感' に関わるもので占有していることに気付きます。2チャンネルのプリアンプHeadway Music Audio EDB-2やNeotenicSound AcoFlavorはもちろん、Magical ForceにPurepadからTerry Audio The White Rabbit Deluxeに至るまで単にスイッチをOnにしただけでは一聴して効果の分からないヤツら・・。




こういう '周辺機器' を揃えないと管楽器の 'アンプリファイ' が物足りないのは歯痒いですけど、派手に変調させる各種エフェクツを活かすも殺すもこれら '周辺機器' の調整、補正に掛かっているのだから無視出来ません。ともかく管楽器の 'アンプリファイ' において、この '質感' というやつを個人的に追求してみたい欲求があるんですよね。目的はアンプやPAを用いる環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。つまり、ピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生ではなく、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音を作る' という試みなのです。





Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ
Urei / Universal Audio 565T Filter Set
Filters Collection

以下、個人的にそういう発想のきっかけとなった 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' の全盛期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。

− そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?

S − 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

− それはだれかが先にやってたんですか?

W − 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S − 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W − 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

− しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?

S − 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W − それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S − で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W − 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S − ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W − フィデリティ(Fidelity)って '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

− 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?

W − それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

− フィルターとEQの違いは何ですか?

S − 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W − 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S − エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

− そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?

W − お手軽にいい音になるというかね。

S − 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

− しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?

W − それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

− 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?

W − 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S − それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W − よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

− 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W − ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S − 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W − System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S − 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W − 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

− 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?

W − それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

− トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?

W − 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S − それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W − 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S − Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

− エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?

W − エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S − 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W − 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S − 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

− 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?

S − それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスは知っていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W − 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

− ジャックがあったら挿し込んでみたい?

S − 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W − ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

− 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?

S − デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W − それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S − 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W − それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S − どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。



さて、ここでご紹介するのはいわゆる 'シンセサイズ' によるフィルタリングとは違い、一聴して直ぐにその効果を把握できるものではないのだから悩ましい・・。面白そうだと慌てて購入して、何だよコレ、変わんねーじゃねーかよ!と直ぐに投げ出してしまいたくなるものばかりですが(苦笑)、ずーっと使ってみて突然 'Off' にした時、実はその恩恵を受けていたことを強く実感するもの。特に管楽器のピックアップ・マイクからの収音を '活かす' 為の '縁の下の力持ち' 的アイテムとしてここにお届けします。





JHS Pedals Colour Box

そんな '質感生成' においてここ最近の製品の中では話題となったJHS Pedals Colour Box。音響機器において伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴのEQ/プリアンプを目指して設計された本機は、そのXLR入出力からも分かる通り、管楽器奏者がプリアンプ的に使うケースが多くなっております。本機の構成は上段の赤い3つのツマミ、ゲイン・セクションと下段の青い3つのツマミ、トーンコントロール・セクションからなっており、ゲイン段のPre VolumeはオーバードライブのDriveツマミと同等の感覚でPre Volumeの2つのゲインステージの間に配置、2段目のゲインステージへ送られる信号の量を決定します。Stepは各プリアンプステージのゲインを5段階切り替え、1=18dB、2=23dB、3=28dB、4=33dB、5=39dBへと増幅されます。そして最終的なMaster Gainツマミでトータルの音量を調整。一方のトーンコントロール段は、Bass、Middle、Trebleの典型的な3バンドEQを備えており、Bass=120Hz、Middle=1kHz、Treble=10kHzの範囲で調整することが可能。そして黄色い囲み内のグレーのツマミは60〜800Hzの間で1オクターヴごとに6dB変化させ、高周波帯域だけを通過させるハイパス・フィルターとなっております(トグルスイッチはそのOn/Off)。



API TranZformer GT
API TranZformer LX

今やNeveと並び、定評ある音響機器メーカーの老舗として有名なAPIが 'ストンプ・ボックス' サイズ(というにはデカイ)として高品質なプリアンプ/EQ、コンプレッサーで参入してきました。ギター用のTranZformer GTとベース用のTranZformer LXの2機種で、共にプリアンプ部と1970年代の名機API 553EQにインスパイアされた3バンドEQ、API525にインスパイアされたコンプレッサー(6種切り替え)と2520/2510ディスクリート・オペアンプと2503トランスを通ったDIで構成されております。ここまでくればマイク入力を備えていてもおかしくないですが、あえて、ギターやベースなどの楽器に特化した 'アウトボード' として '質感' に寄った音作りが可能。しかし 'Tone' や 'Comp' とは真逆にLEDのOnで光っている状態がバイパス、Offの消灯状態でOnというのはちょっとややこしい(苦笑)。





Roger Mayer 456 Single
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

DSPの 'アナログ・モデリング' 以後、長らくエフェクター界の '質感生成' において探求されてきたのがアナログ・テープの '質感' であり、いわゆるテープ・エコーやオープンリール・テープの訛る感じ、そのバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションは、そのままこのRoger Mayer 456やStrymon Decoのような 'テープ・エミュレーター' の登場を促しました。Studer A-80というマルチトラック・レコーダーの '質感' を再現した456 Singleは、大きなInputツマミに特徴があり、これを回していくとまさにテープの飽和する 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整していきます。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。一方のDecoは、その名も 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleをブレンドすることで 'テープ・フランジング' のモジュレーションにも対応しており、地味な '質感生成' からエフェクティヴな効果まで堪能できます。また、このStrymonの製品は楽器レベルのみならずラインレベルで使うことも可能なので、ライン・ミキサーの 'センド・リターン' に接続して原音とミックスしながらサチュレートさせるのもアリ(使いやすい)。とりあえず、Decoはこれから試してみたい '初めの一歩' としては投げ出さずに(笑)楽しめるのではないでしょうか?





Pettyjohn Electronics Filter Deluxe
Pettyjohn Electronics Filter Standard ①
Pettyjohn Electronics Filter Standard ②
Pettyjohn Electronics Filter Standard ③

こちらはPettyjohn Electronicsのその名もFilter。と言っても 'シンセサイズ' のフィルターではなくEQ的発想からギターの '質感' を整えていくもの。中身を覗くとなかなかにレアなオペアンプ、コンデンサーなど豪華なパーツがずらりと並びこだわりが感じられます。本機もまた、JHS Pedals Colour Box同様にアナログ・コンソールのEQ回路(たぶんNeveでしょう)をベースに設計されたようで、ギターの帯域に向けながら、あえて 'EQ' ではなく 'Filter' と称して極端な '位相乱れ' を廃し、あくまで '質感' の生成に特化したものだということが分かります。







Terry Audio The White Rabbit Deluxe

そんなPettyjohnとは真逆なガレージ臭プンプンのTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の '解説' を読んでみるとNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。何だかMagical ForceのPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様ですね。本機はわたしのセッティングでも愛用しているのですが、まさに効果てき面!'ハイ上がり' なトーンと共に一枚覆っていたような膜がなくなって音抜けが良くなり、確かに 'マスタリング・プロセッサー' で整えたような '魔法' をかけてくれます・・素晴らしい。







Audio Kitchen The Small Trees ①
Audio Kitchen The Small Trees ②
Audio Kitchen The Small Trees ③
Audio Kitchen The Big Trees

こちらはそんなTerry Audioとよく似たコンセプトの英国の工房Audio KitchenからのThe Small Trees。1本の真空管ECC82をベースにしたクラスAのクリーン・ブーストで、中にでっかいトランスが鎮座するその姿はいかにも '良い味付け' をしてくれるんじゃないか、と期待が高まります。2段階の回路でプッシュするその構成はクリーンからクランチまでシンプルに対応。さらにデラックス版のThe Big Treesも用意しておりまする。








NeotenicSound Magical Force - Column
NeotenicSound Magical Force - Dynamic Processor ②
NeotenicSound Magical Force Pro - Linear Compressor (discontinued)

さて、わたしが愛用するNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Forceもまさにそんな '質感生成' の一台でして、いわゆる 'クリーンの音作り' というのをアンプやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。つまり、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを引き出してやるというか、EQのようなものとは別にただ何らかの機器を通してやるだけで '付加' する '質感' こそ、実際の空気振動から '触れる' アコースティックでは得られない 'トーン' がそこにはあるのです。2011年頃に 'Punch'、'Edge'、'Level' の3つのツマミで登場した本機は一度目のリファインとカラーチェンジをした後、新たに音の密度を司るこの工房お得意の 'Intensity' を追加、4つのツマミ仕様へとグレードアップしたMagical Force Proへと到達。しかし、不安定なパーツ供給の面で一度惜しむらく廃盤、その後、声援を受けて小型化と根本的なリファイン、'Intensity' から 'Density' へと名称変更して4回目の変貌を遂げたのが現行機Magical Forceとなりまする。

本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、プリアンプの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味、Punchで張り出すような '質感生成' してみるのが面白いかも。とりあえず、各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。


ちなみに本機の '機能強化版' としてエレクトリック・ギターに特化して新登場したTinyStructureも準備しておりまする。従来のLevel、Punch、Edge、Densityはそのままにベース用プリアンプDynaForceに搭載された 'Divarius' 回路の 'Body'、'Wood' という '鳴り' のコントロールを、今度はギターアンプからの出音としてチューニングさせてきました。まさに 'アンプに足りないツマミを補う' 工房さんならではの面目躍如。




Hatena ? The Spice ①
Hatena ? The Spice ②
Hatena ? The Spice ③
Hatena ? Active Spice A.S. - 2012 ①
Hatena ? Active Spice A.S. - 2012 ②
Hatena ? Active Spice A.S. - 2012 ③

この 'えふぇくたぁ工房' はNeotenicSoundの前にHatena?というブランドを展開、Magical Forceの源流ともいうべきActive Spiceという製品で一躍その名を築きました。このThe Spiceはその最終進化形であり、すでに廃盤ではありますがダイナミクスのコントロールと '質感生成' で威力を発揮してくれます。Magical Forceも独特でしたがこのThe Spiceのパラメータも全体を調整する音量のVolumeの他はかなり異色なもの。音圧を調整するSencitivity、Gainは歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンとなる。さらにブースト機能とEQ感を強調するようなSolo !、そしてTightスイッチはその名の通り締まったトーンとなり、On/Offスイッチはエフェクトの効果ではなくSolo !のOn/Offとのことで基本的にバッファー的接続となります。





そんなAcitive Spiceは2004年頃に市場へ登場し、個人工房ゆえの少量生産とインターネット黎明期の '口コミ' でベーシストを中心に絶賛、その 'クリーンの音を作り込む' という他にないコンセプトで今に至る '国産ハンドメイド・エフェクター' の嚆矢となりました。より 'プリアンプ感' の強調した派生型Spice Landを始め、2009年、2011年、2012年と限定カラー版(2011年版はチューナー出力増設済み)なども登場しながら現在でも中古市場を中心にその古びないコンセプトは健在。エレアコ用プリアンプの代用としても評価が高く、わたしの分野である管楽器の 'アンプリファイ' においても十分機能しますヨ(今はNeotenicSound Magical Forceに任せているけど)。


こちらは緑色の筐体でおなじみ初代Active Spiceと超珍しいプロトタイプActive Spice ! AS-1の2ショット。Level、Wild !、Toneの3つのツマミという仕様でDC9Vのほか、9V電池ホルダーが基板裏側に内蔵?されるように装着されているのが面白い。ToneはそのままEQ的機能ですがこのWild !というツマミ1つを回すことでSensitivityとGainの効果を担っており、この後の製品版よりサチュレーション的飽和感の '荒さ' がいかにも初期モノっぽいですね。まだ南船場で工房を構える前の自宅で製作していた頃のもので、この時期の作業はエッチング液に浸した基板から感光幕を除去すべく玄関前?で干していたブログ記事を覚えております(笑)。




Cuica
Highleads Electric Cuica + New Cube Mic-W

ちなみにわたしは '電気ラッパ' とは別にピックアップを装着した '電気クイーカ' なんぞも嗜んでいるのですが、そっちのプリアンプとしてこのHatena ? Active Spiceを愛用中。このクイーカというヤツはバケツや樽に山羊や水牛などの皮を張り(近年はプラスティック打面もあり)、その真ん中へおっ立てた竹ひごを濡れた布(ウェットティッシュなども最適)でゴシゴシ擦ると例の "クック、フゴフゴ・・" と鳴るブラジルの民俗楽器です。皮の打面をチューニングしながら指でミュートすることで音程を変えることも可能で、大きさで人気のあるのは大体8インチ、9.25インチ、10インチのもので大きいほど音量も大きくなります。ここで取り上げている 質感' ということでは、昔はバケツ側の素材に樽を用いたこともありましたが、その他ブリキ、真鍮、アルミ、擦る手元の見える透明のアクリル樹脂、そしてステンレスなどがありそれ自体の音色も異なります。上の '音比べ' の動画では順にContemporaneaの9.25インチステンレス胴(プラスティック打面)、Lescomの9.25インチ真鍮胴(山羊革)、Art Celsiorの9.25インチブリキ胴(水牛革)で鳴らしておりますが、これだけでも結構な音質の違いがお判り頂けたでしょうか。しかしSovtek Bassballsとクイーカとの相性は抜群で、擦ると共にゲコ〜ッとカエルの如く鳴きながらブラジル産MG Musicのヴァイブ系ペダルMono Vibeとアナログ・エコーThat's Echo Folksで '埃っぽい' 余韻を付加、そして同じくブラジル産Audio Stomp LabsのトレモロWavesを左右に 'ステレオ' で広げて揺らしておりおりまする。






Sennheiser Evolution e608
Sennheiser Microphone
Headway Music Audio EDB-2 Review

こちらは '電気ラッパ' で愛用中のプリアンプ。'エレアコ' のピックアップ・マイクのミックスにおいて、'ピエゾ + マグ' とか 'ピエゾ + コンデンサー' とか、いかにしてPAの環境で 'アコースティック' の鳴りを再現できるのかの奥深い世界。このEDB-2こそまさに至れり尽くせりの決定版というか、細かな内容は動画を見て頂くとして、フォンとXLRの2チャンネル仕様でEQをch.1、ch.2で個別及び同時使用の選択、2つのピックアップの '位相差' を揃えるフェイズ・スイッチと突発的なフィードバックに威力を発揮するNotch Filter、DIとは別にフォンのLine出力も備えるなど、おお、高品質かつ '痒いところに手の届く' 精密な作りですね。個別にミキサーとマイクプリ、EQをあれこれ中途半端なヤツ買って散財するのなら、思い切ってコイツを買ってしまうというのもアリかも。ただし、XLR入力のファンタム電源は48Vではなく18V供給となっているので、ここはコンデンサー・マイク使用の汎用性において今後の改善点になりますね。とりあえず、本機は内蔵のEQ含め触るところがいっぱいあってセッティングに時間はかかりますけど、やはり 'エレアコ' にとってプリアンプって大事だと思いますヨ。


Neotenic Sound PurePad ①
Neotenic Sound PurePad ②

そして 'エレアコ' にとってプリアンプと共に大事なのがヴォリューム・コントロール。わたしはヴォリューム・ペダルの代わりに 'Pad' でダイナミズムを生成するNeotenicSoundのPurePadをスタンバイ。これは2つに設定された 'プリセット・ヴォリューム' をスイッチ1つで切り替えるもので、ひとつは通常の状態(赤いLEDのSolo)、もうひとつが若干ヴォリュームの下がった状態(緑のLEDのBacking)となっており、'Pad' で音量を抑えながら全体のバランスを崩すことなく音量を上下できる優れもの。この切り替えによる音質の変化はありますが、音量を下げても引っ込みながらシャープなエッジは失われずまとまりやすい定位となります。そんなメーカーの '取説' は以下の通り。

"ピュアパッドは珍しいタイプのマシンなので使用には少し慣れとコツが必要かもしれませんので、音作りまでの手順をご紹介します。アコースティックの場合は図のように楽器、プリアンプ、ピュアパッド、アンプの順に接続します。エレキギターなどの場合は歪みペダルなど、メインになっているエフェクターの次に繋ぐとよいでしょう。楽器単体でお一人で演奏される場合は、初めにピュアパッドをソロ(赤ランプ)にしておいて、いつものようにプリアンプやアンプを調整していただければ大丈夫です。ピュアパッドのスイッチを踏んで、緑色のランプになったら伴奏用の少し下がった音になります。複数の人とアンサンブルをする場合には、初めにピュアパッドをバッキング(緑のランプ)の方にして、他の人とのバランスがちょうどいいようにプリアンプやアンプで調整します。そしてソロの時になったらピュアパッドのスイッチを踏めば、今までより少し張りのある元気な音になってくれます。また、ピュアパッドを繋ぐと今までより少し音が小さくなると思いますが、プリアンプよりもアンプの方で音量を上げていただく方が豊かな音色になりやすいです。もしそれでアンプがポワーンとした感じとなったり、音がハッキリクッキリし過ぎると感じたら、アンプの音量を下げて、その分プリアンプのレベルを下げてみてください。ツマミを回すときに、弾きながら少しずつ調整するとよいでしょう。"

わたしの環境では 'ループ・サンプラー' でのオーバーダブする際、フレイズが飽和することを避ける為の導入のほか、宅録の際にもアンプのヴォリュームはそのままに全体の音像を一歩下げる、もしくは歪み系やディレイ、ワウのピーク時のハウリング誘発直前でグッと下げる使い方でとても有効でした。


以前のPurePadはLED視認の為の電源以外はパッシヴの仕様なのですが、現在は新たにバッファー内蔵のアクティヴ版PurePadで新装してラインナップ。従来のパッシヴ版ではプリアンプや '歪み系' エフェクターの後ろに繋いでマスタープリセット的に使用することを想定していたようですが、このアクティヴ版は各種スイッチャーのチャンネルに組み込んだり、楽器の先頭に繋いでブースターの補助的アイテムとして用いるなど '使い勝手' の幅が広がりました。堂々の 'Dynamics Processor' という名と共にDC9Vアダプターのほか9V電池による駆動可。









BJF Electronics Pine Green Compressor (3 Knobs)
BJF Electronics Pine Green Compressor (4 Knobs)
Ross Audibles 'Grey' Compressor

こんなActive Spiceの 'コンプ感' やMagical Forceに搭載される 'Density' のナチュラルなコンプレッションに聴けるクリーントーンの '質感' にハマった人には、スウェーデンでBJF Electronicsを主宰するBjorn Juhlの名を知らしめた製品のひとつPine Green Compressorをご紹介。ザ・ビートルズが当時のアビーロード・スタジオで用いたコンプレッサー、RS-124(Altec436BのEMIモディファイ)が本機製作のきっかけだそうで、最近のナチュラルなコンプレスの潮流に倣ったトーンから真ん中のツマミ 'Body' を回すことで空間的な広がりを演出することが可能。このBJFEの音は世界に認められてお隣フィンランドのブランド、Mad ProfessorからForest Green Compressor、さらに米国のブランドBear FootからPale Green Compressorとしてそれぞれライセンス生産による 'Re-Product' モデルが登場しております。そしてナチュラルなコンプレッションの出発点として蘇ったRossの 'Grey Box' ともいうべき伝説の 'Grey' コンプレッサー。これはロバート・キーリー主宰のKeeley Electronicsが見出して数々の 'デッドコピー' を市場に送り出してきましたが、いよいよ '本家' の名前を引っさげてオリジナルのかたちで復活です。







MXR CSP028 '76 Vintage Dyna Comp
MXR CSP102SL Script Dyna Comp
MXR M102 Dyna Comp

さて、このような '質感生成' においてフィルターやプリアンプと並び取り上げられるのがコンプレッサーの世界。しかしダイナミズムをギュッと均すコンプは、時に演奏の細かなニュアンスを潰す '悪役' として敬遠されてしまうのも事実。そんなコンプというエフェクターでしかできない圧縮を演出の '滲み' として捉えてみても良いのではないでしょうか?管楽器ではカナダのラッパ吹き、Blair YarrantonさんがBossの 'グライコ' GE-7と一緒にエンヴェロープ・フィルターの後ろへ繋いでいるのがご存知、MXRの名機Dyna Comp。そんな代表的コンプならではの '質感' は現在でも多くの愛用者がおり、ギタリストである土屋昌巳氏はこう述べております。

"ダイナコンプは大好きなんでいくつも持ってます。筆記体ロゴ、ブロック体ロゴ、インジケーター付きを持ってます。壊れてしまったものもあるし、5台以上は買ったんじゃないかな。やっぱり全然違いますしね。個人的にはインジケーターなしのブロック体という中期のモデルが好きですね。ダイナコンプを使うことで、ギターのボリュームのカーブがきれいになるんですよ。フル・ボリュームの時と、7〜8ぐらいにした時の差がすごくいい感じになる。ライブでも、レコーディングでも、ダイナコンプは必ずかけっぱなしにしています。コンプレッション効果よりも、ギターのボリュームのカーブをきれいにするために使うんですけどね。(中略)けっこう雑に設定してあるというか、変にハイファイに作っていない分、ツマミをほんの1ミリ調整するぐらいで音が全然変わってくるところとか僕は好きですね。特にダイナコンプは、ちょっとツマミを動かすだけでアタックがかなり変わってくる。本当、ダイナコンプは、完全に僕のスタイルに欠かせないものになっていますよね。あれがないと自分のギターの音が出せないと思う。"








Carlin Electronics Compressor / Fuzz
Moody Sounds Carlin Compressor Clone
Moody Sounds / Carlin Pedals
Carlin Electronics Kompressor & Phaser Original

そんなエフェクティヴに 'パッコン' とした効果で有名なMXR Dyna Compの影響は、1970年代にスウェーデンのエンジニア、Nils Olof Carlinの手により生み出されたこのコンプレッサーに結実します。本機の特徴はコンプと銘打たれていながら 'Dist.' のツマミを備えることでファズっぽく歪んでしまうこと。あの 'エレハモ' のBig Muffもサスティンの効いたファズのニーズがあるというところから始まったようで、エフェクター黎明期においては 'ファズ・サスティナー'、クリーンにコンプ的動作をするものを単に 'サスティナー' として使い分ける傾向があったそうです。当時、本機はスウェーデンの音楽シーンにおいて人気を博していたらしく、それを同地の工房Moody SoundsがCarlin本人を監修に迎えて復刻したもの。こんな '辺境' の地においても大きな影響をもたらしたコンプの世界は、そのまま同地の奇才、Bjorn Juhlの手がけるBJFEのPine Green Compressorや最近の傾向として '本家' Rossにより復刻された 'Grey' のコンプ、そしてスタジオの定番Ureiのコンプをコンパクト化するナチュラルな圧縮感へと受け継がれております。いま一度このようなコンプ本来の '質感' に立ち返って見るのも面白いかもしれません。






Spectra 1964
Spectra Sonics on Reverb.com
Spectra Sonics Model 610 Complimiter Custom
Spectra Sonics Model 610 Complimiter 'Sequential Stereo Pair'

ちなみにCarlin Compressorに見る '歪むコンプ' の系譜は、いわゆる 'ファズ+サスティン' とは別にスタジオで使用するアウトボード機器で珍重された '飛び道具コンプ'、Spectra SonicsのModel 610 Complimiter (現Spectra 1964 Model C610)がございます。1969年に発売以降、なんと現在まで同スペックのまま一貫したヴィンテージの姿で生産される本機は、-40dBm固定のスレッショルドでインプットによりかかり方を調整、その入力レベルによりコンプからリミッターへと対応してアタック、リリース・タイムがそれぞれ変化します。クリーントーンはもちろんですが、本機最大の特徴はアウトプットを回し切ることで 'サチュレーション' を超えた倍音としての '歪み' を獲得出来ること。上のドラムの動画にも顕著ですが一時期、ブレイクビーツなどでパンパンに潰しまくったような '質感' で重宝されたことがありました。こんな個性的なコンプの味はAPIやNeveのモジュール、Urei 1176などの流れに続いてその内、Spectra 1964から 'ペダル化' する需要が生まれるかも知れませんね。





エフェクターの世界においていろいろな '売り文句' を謳って製品化、その需要があれば一気にひとつの市場として波及するものが定期的に現れます。例えばスタジオでのFETコンプレッサーの定番、Urei 1176LNの 'コンパクト化' やNeveのプリアンプ、EQの 'コンパクト化' などはここ近年のトレンドでした。そして遊び心という点では、こんな珍品こそ 'エフェクター好き' がワクワクして手を伸ばしたくなる感じがありまする。繋ぐだけで 'モータウンの質感' を付与してくれるというMoSound・・何すか、コレ?(笑)。まず 'モータウンの質感' という、およそ一般的とは言い難い価値観を共有しないといけないのだけど(汗)、これは、あのモータウン全盛期を支えたジェイムズ・ジェマーソンら 'ファンク・ブラザーズ' が奏でる1960年代のコンプレスされたレコードの音のことなのだろうか?こういうのは、ザ・ビートルズのレコードから聴こえてくるガッツリとかかったリミッター・サウンドなんかと近い感じかもしれないですねえ。初代の小さいヤツと筐体を大きくした2代目があり、初代では基板内部にあったセンスを司る 'Deep' トリムを2代目では 'Oldies' ツマミとして外部に装備、アクティヴからパッシヴなど各種入力に対して調整出来ます。とりあえず、本機を踏むことで上の帯域がフィルタリングされて丸くなる感じ・・いい感じにトーンの '耳に痛い感じ' が緩和されるのでわたしの 'ヴィンテージ・セット' で愛用しております。



Acme Audio Motown D.I. WB-3 ①
Acme Audio Motown D.I. WB-3 ②
Acme Audio Motown D.I. WB-3 ③

ちなみにこんな '伝説のモータウン・サウンド' を '売り' にしている機器としては、Acme AudioのパッシヴDIであるWB-3というヤツもありますヨ。う〜ん、分かったようでその筋のマニア以外にはいまいちピンとこない 'モータウンの質感' というヤツ。単なる 'ローファイ' というワケではなさそーではありますが、確かにグッとミドルに寄りコンプレスした感じが 'モータウンっぽい' ってこと?。DI本来の仕事は 'インピーダンス・マッチング' の変換であり、それ以外の要素はアクティヴ、パッシヴを除けばほぼ考慮する必要はないのだけど、それでもこんな独特の '質感' にこだわったヤツが登場するのだから機材の世界は面白いのだ。





Lovetone Meatball
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Hi Fi
Chase Bliss Audio

さて、ここからはもう少し 'エフェクターライク' なペダルを取り上げます。エンヴェロープ・フィルターの機能を中心に地味な 'フィルタリング' の効果を発揮するもので1990年代後半に欧米のギタリストやベーシストはもちろん、DJやエンジニアにも好まれた英国の名機、Lovetone Meatballがありまする。とにかく豊富なパラメータを有しており、いわゆる 'オートワウ' からフィルタースィープによるローパスからハイパスへの '質感生成'、フィルター内部への 'センド・リターン' による攻撃的 'インサート'、2つのエクスプレッション・ペダル・コントロールと至れり尽せりな音作りでハマれます。そして現在の注目株Chase Bliss Audio Warped Vinylの登場。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。このWarped Vynal Hi Fiは従来のモデルに 'Hi Fi' 的抜けの良さを加味したもので、アナログでありながらデジタルでコントロールする 'ハイブリッド' な音作りの密度に感嘆。Tone、Volume、Mix、RPM、Depth、Warpからなる6つのツマミと3つのトグルスイッチが、背面装備の 'Expression or Ramp Parameters' という16個のDIPスイッチでガラリと役割が変化、多彩なコントロールを可能にします。タップテンポはもちろんプリセット保存とエクスプレッション・ペダル、MIDIクロックとの同期もするなど、まあ、よくこのMXRサイズでこれだけの機能を詰め込みましたねえ。







Triode Pedals Leviathan ①
Triode Pedals Leviathan ②
Frogg Compu-sound - Digital Filterring Device

また、このLovetone Meatball的フィルタリングを得意とするものとしては米国はメリーランド州ボルチモアで製作する工房、Triode Pedalsのリゾナント・フィルターLeviathanがあります。アシッド・エッチングした豪華な筐体に緑のLEDとツマミが見事に映えますけど、その中身もハンドメイドならではの '手作り感' あふれるもので期待させてくれます。本機のちょっと分かりにくいパラメータの数々を取説で確認してみると、いわゆるその大半がリズミックにワウをかける 'オートワウ' というより、ゆったりとしたフィルター・スウィープ、LFOの音作りに特化した独特なものでギタリストやベーシストはもちろん、キーボーディストからDJに至るまで幅広い層をカバーしておりまする。

●Song
コントロールはフィルターのカットオフ周波数を設定。クラシックなフィルタースウィープを作ることが可能。
●Feed
コントロールを調整すれば、レゾナンスフィードバックをコントロールしてエフェクトのかかりを最小から発振まで設定可能。
●↑/↓の3段階切り替えトグルスイッチ
上から順にハイパス、バンドパス、ローパスフィルターの設定。
LFOセクションはSongコントロールの後に設置されます。ChurnコントロールはLFOスピード、WakeコントロールはLFOの深さを調整します。LFOをフルレンジでオペレートするには、Songを中央に設定し、Feed、Wakeを最大または最小に設定。
●'Wake' と 'Churn' ツマミ間のトグルスイッチ
LFOの波形を三角波と短形波から選択可能。
●エクスプレッション・ペダル端子とDC端子間にあるトグルスイッチ
LFOのスピードレンジとレンジスイッチ。上側のポジションでFast、下側のポジションでSlowのセッティングとなる。

ちなみに、このようなスウィープするフィルタリングからエンヴェロープ・フィルターまで100個のプログラマブルを駆使するものとしては、たぶん1970年代後半〜80年代初め頃までの '初期デジタル風' な製品(中身はアナログらしい)であるFrogg Compu-soundが最高。いかにも同時代的なEL管表示のデジタル・カウンターとテンキー操作はペダルというより '電卓風 シーケンサー' なルックスですけど、当時、わずか100台ほどしか製作されなかったレア機がいまeBayとReverb.comでそれぞれ出品されているなんて素敵過ぎますヨ!。











Ibanez LF7 Lo Fi (discontinued) ①
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky 'Vexter'
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky 'Clear' S/N 24
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky 'Clear' S/N 25
Cooper Fx Generation Loss 2016
Cooper Fx Generation Loss

いわゆる 'ローファイ' という名称や機能をコンパクト・エフェクターで初めて具現化したIbanezの 'Tone-Lok' シリーズ中の迷機、LF7 Lo Fi。まさにギタリストからDJ、ラッパーのような人たちにまでその裾野を広げたことは、この入力部にGuitar、Drums、Micの3種切り替えスイッチを設けていることからも分かります。本機のキモは極端にカット方向で音作りのするLo CutとHi Cutの周波数ツマミでして、基本的にはAMラジオ・トーン、電話ヴォイス的 'ローファイ' なものながらその加工具合は地味。EQに比べて極端にカットしながらワウになるでもなく、歪み系エフェクターの範疇に入れるには弱い感じですけど、本機の動画の大半がどれもブースター的歪ませてばっかりでいわゆる 'ローファイ' の差異に迫ったものが少ないのは残念。その中で上にご紹介するものは本機の魅力を引き出しており、また個人で 'ビット・クラッシャー' 的ノイズのモディファイを施したヤツも楽しい。このようなフィルタリングを 'ローファイ' の価値観で新しいモジュレーションのかたちとして提示したのがこちら、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky。さすがエフェクター界の奇才、Zachary Vexが手がけたその着眼点は、いわゆるアナログ・レコードの持つチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものというから面白い。特に真ん中の 'Comp ←→Lo-Fi' ツマミがもたらす '質感' はその気持ちの良い 'ツボ' をよく心得ている。しかし、この 'なまり具合' を聴いていると爽やかな陽気と共に遠い昔の記憶へ思いを馳せたくなりますねえ。さらに現在の 'ローファイ' 対決としてZ.Vex Effects Instant  Lo-Fi JunkyとCooper Fx Generation Lossの比較動画もありますが、このGeneration Lossはここ最近のヒット作のようでChase Bliss Audioとの 'コラボ' による限定版まで登場しました。とりあえず何でも轟音ばかりではなく、こういう効果がもたらす 'ビミョーな質感' に耳をそば立てるプレイヤーが登場して欲しいですね。







Holowon Industries Tape Soup
Holowon Industries

永らく書棚に仕舞われていた反ったレコード盤の 'グニャリ' とした質感はもちろん、この手の効果のきっかけとも言うべき、テープの伸び切った 'ローファイ' の鈍ったような '質感' ということでは、こんなアナログテープの 'ワウフラッター' に特化したエフェターもありまする。ニューヨーク州ロチェスターに構えるこの小さな工房で製作する本機は、Volume、Fidelity、Saturation、Speed、Biasというまるでオープンリール・デッキの 'バリピッチ' 的ツマミの構成から歪ませて何でもグニャグニャとピッチ・シフティングしてしまいます。





J.Rocket Audio Designs APE (Analog Preamp Experiment)

そして、こーいう 'テープもの' ではJ.Rocket Audio DesiginsのAPE (Analog Preamp Experiment)というテープ・エコーの '質感' を付加するものが登場。通常のプリアンプとしての使用もOKですが、本機が本領発揮するのは 'センド・リターン' にデジタル・ディレイを繋ぐことでその 'デジタル臭さ' を鈍らせること。特にディレイ音を 'キル・ドライ' 出来るヤツを選ぶことで本機の 'Ape' ツマミでディレイ音をコントロール、いかにもテープヘッドに録音したような '質感' を生成することが出来ます。またオリジナルEcoplex同様の内部電圧22.5Vで動作すべく、DCコンバータで昇圧してDC9Vアダプターで駆動させることが可能。






Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation
Performance Guitar F.Zappa Filter Modulation
Guitar Rig - Dweezil Zappa

ザッパのフィルタリングに対する音作りの研究に訴えた超絶 'ニッチな' ペダルとして、本機は父親の楽曲を再現する上で息子ドゥィージルがザッパと縁の深いPerformance Guitarにオーダーしたマニアックな一台。Boss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-pass、Band-pass、Hi-passを切り替えながらフィルター・スィープをコントロールするという荒削りさで実際、ペダル裏側には配線がホットボンドとマスキングテープで固定してレーシング用フォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身なんですが・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼べるほどエグい効果から、EQ的な操作をして域幅の広いQの設定、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' やワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。また本機はBoss FV-500の筐体を利用したことでタコ糸によるスムースな踏み心地なり。








Gibson / Maestro Rhythm n Sound for Guitar G1
Oberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200
Musitronics / Dan Armstrong Green Ringer -Frequency Multiplier-
Systech Harmonic Energizer
Arbiter Add-A-Sound

しかし、他のギタリストでは選ばないだろうGibson / MaestroのRhythm 'n Sound for Guitar G-1からOberheim Voltage Controlled Filter VCF-200、Dan Armstrong Green RingerやSystech Harmonic Energeizer、MicMix Dynaflanger、そしてArbiter Add-A-Soundといった人知れずニッチな製品を見出して 'フィルター愛' を貫いたフランク・ザッパには 'エフェクター発掘大賞' を差し上げたいですね。そろそろジミ・ヘンドリクスだけではなくフランク・ザッパの '足下' の探求、盛り上げている 'ペダル界隈' の皆さま必要ですヨ。







Maestro Parametric Filter MPF-1
Moog Minifooger MF Drive (discontinued)
Stone Deaf Fx

MaestroのParametric Filterは、同社でエフェクターの設計を担当していたトム・オーバーハイムが去り、CMI(Chicago Musical Instruments)からNorlinの傘下でラインナップを一新、設計の一部をモーグ博士が担当することで生み出されました。本機特有の 'フィルタリング' はやはり1990年代以降の '質感世代' に再評価されることとなり、とにかく何でも通してみる・・ジャリジャリと荒い感じとなったり、'ハイ落ち' する代わりに太い低域が強調されたりすれば、それはもう 'ベッドルーム・テクノ世代' の求める '質感' へと変貌します。後にMoogはこれを '歪み系' のエフェクターに特化したMinifooger MF Driveとして蘇らせましたが、英国の工房、Stone Deaf FxからもPDF-2として登場。本機は 'Clean' と 'Dirty' の2つのチャンネルで切り替えて使うことが可能でおお、便利〜。また、専用のエクスプレッション・ペダルを用いればエンヴェロープ・フィルターからフェイザー風の効果まで堪能できる優れモノ。管楽器においては適度なクランチは 'サチュレーション' 効果も見込まれますが、完全に歪ませちゃうとニュアンスも潰れちゃう、ノイズ成分も上がる、ハウリングの嵐に見舞われてしまうので慎重に '滲ませる' のがこれら設定の 'キモ' なのです。






Elektron Analog Heat HFX-1 Review
OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit
Dr. Lake KP-Adapter

そしてKP-Adapterを用いて是非とも繋いでみたいのがElektronとOTO MachinesのDJ用マルチバンド・フィルター、と言ったらいいのだろうか、素晴らしいAnalog HeatとBoumをご紹介。Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。Elektronのデモでお馴染みCuckooさんの動画でもマイクに対する効果はバッチリでして、管楽器のマイクで理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメです。一方のフランスOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。










Pigtronix Disnortion ①
Pigtronix Disnortion ②
Pigtronix Disnortion Micro
Gamechanger Audio Plasma Pedal
Gamechanger Audio Plasma Rack

Youtubeでも積極的にラッパの 'アンプリファイ' を推奨するカナダのラッパ吹き、Blair YarrantonさんがPigtronixのアッパー・オクターヴなディストーション、Disnortionでのデモ動画。しかし、さすがにコンデンサー・マイクのセッティングではほとんど歪ませることが出来ず、ほぼサチュレーション的倍音の '質感生成' に終始した音作りですね。ワウも踏んでおりますがかなりコンプでピークを潰しながらハウる寸前・・。本機の特徴はアッパーオクターヴ・ファズの 'スパイス' として、6種切り替えからなる 'Shape' というフィルターを搭載していること。1. フルレンジ、2. ファット(ミッドブースト)、3. スムース、4. トレブル、5. ミッドスクープ、6. ベースの構成となっております。すでにこの 'でっかいヴァージョン' は廃盤ですが、現在はより小型なDisnortion Microとしてラインナップ。本製品で面白いのは通常の 'In/Out' とは別に 'Clean' という 'バイパス音' が確保されていることで、この出力を例えば同社のEnvelope Phaser EP-2の 'Trigger' 入力に繋いでそのかかり方を調整出来ること。これは結構 'シンセサイズ' の発想から設けられたユニークな仕様ではないかと思います(Disnortion Microには無し)。ちなみに一見、管楽器とは '真逆' な志向に見える '歪み系' のペダルですけど、そもそもファズの元祖として1962年にGibsonから登場したFuzz Tone FZ-1のデモ音源ではいわゆるギターアンプを 'オーバードライブ' させるという発想ではなく、'Sousaphone' 〜 'Tuba' 〜 'Bass Sax' 〜 'Cello' 〜 'Alto Sax' 〜 'Trumpet' という流れで各種管楽器の模倣から始まっているのは興味深いですね。このファズを一躍有名にしたザ・ローリング・ストーンズの 'Satisfaction' でキース・リチャーズの頭の中にあったのは、あのスタックスの豪華なホーン・セクションによる 'ブラス・リフ' を再現することでした。Maestroのブランドマークが 'ラッパ3本' をシンボライズしたのは決して伊達ではないのです。そして超高圧信号をキセノン管でスパークさせたラトビア共和国の話題作、Gamechanger AudioのPlasma Pedalはラッパだと少々歪み過ぎて使いにくいのですが、倍音の多いサックスなら完全に破壊されたトーンとしてブッ飛べるのでわ?







Empress Effects Zoia ①
Empress Effects Zoia ②

さて、上の 'フィルター対談' の中でエンジニアの渡部氏が最後にEventide DSP-4000というラック型マルチ・エフェクターで自由にサンプル・レートやビット数を落とすパッチを組めるモジュールが面白いという話をしておりますが、コレ、まさに当時の 'エレクトロニカ' 黎明期を象徴するプラグインCycling 74 Max/Mspのハードウェア的端緒として話題となりました。このDSP-4000は 'Ultra-Harmonizer' の名称から基本はインテリジェント・ピッチシフトを得意とする機器なのですが、色々なモジュールをパッチ供給することで複雑なプロセッシングが可能なこと。リヴァーブやディレイなどのエフェクトそのものの役割を果たすものから入力信号を '二乗する'、'加える' といった数式モジュール、'この数値以上になれば信号を分岐する' といったメッセージの 'If〜' モジュールといった完全にモジュラーシンセ的発想で自由にパッチを作成することが出来るのです。当時で大体80万くらいの高級機器ではありましたが 'ベッドルーム・テクノ' 世代を中心に人気となりましたねえ。

そんなユーザーの好みに合わせて自由にモジュールの組めるシステムから20年後、いよいよそれのコンパクト版ともいうべきペダルがカナダの工房、Empress Effectsから登場です。各モジュールはカラフルにズラッと並んだ8×5のボタングリッド上に配置し、そこから複数のパラメータへとアクセスします。これらパラメータで制作したパッチはそれぞれひとつのモジュールとしてモジュラーシンセの如く新たにパッチングして、VCO、VCF、VCA、LFOといった 'シンセサイズ' からディレイやモジュレーション、ループ・サンプラーにピッチシフトからビット・クラッシャーなどのエフェクツとして自由に 'デザイン' することが可能。これらパッチは最大64個を記録、保村してSDカードを介してバックアップしながら 'Zoiaユーザーコミュニティ' に参加して複数ユーザーとの共有することが出来ます。




SWR California Blonde Ⅱ

ここまでご紹介した 'ペダル類' はその 'アウトプット' における変化を聴き取れることが重要で、わたしはアコースティック/PA用のコンボアンプをDIからラインで繋いでおりまする。現在のわたしのメインはSWRの12インチ一発、最大160W出力のCalifornia Blonde Ⅱでして、いかにも 'エレアコ' 用といった仕様のマイクとAux入力、またアンサンブル中での '音抜け' を意識して高域を中心に '横へ拡げる' 機能の 'Aural Enhancer' を備えるなど、ライヴにおける使い勝手を意識したデザインとなっております。EQはBass、Mid Range、Trebleの3バンドでリアにハイのツィーターをコントロールするツマミが個別に用意、外部エフェクツ用 'センド・リターン' とスプリング・リヴァーブを内蔵(ちょっとノイズ多目ですが)。

このアンプ最大の特徴が、ハイインピーダンスによるアンバランス入力のほか 'Low Z Balanced' のスイッチを入れることでTRSフォンのバランス入力に対応すること。ちなみにこの端子の隣に 'Stereo Input' というTRSフォンの入力もあり、こちらに入れても使えなくはないのですが・・なぜかビミョーに 'ノイズ成分' が上がってしまうので 'Low Z Balanced' の方を選んでおります。このバランス入力が他社のアンプにはない本機ならではの機能として実に重宝しており、取説での説明は以下の通り。

"ローインピーダンス仕様のギターのバランス出力を入力端子に接続するときは、このスイッチを押し下げてください。TRS端子による接続が必要なバランス接続では、最高のダイナミックレンジと低ノイスの環境が得られます。"



このアンプの各ツマミは少々ガリの出やすいところが玉に瑕で、重量も堂々の24Kgと重たいものの、アンプとしての音色は後述するGenz-Benz UC4よりかなり好みですね。そしてスタック化するべく、California Blondeのオプションとして用意されていた高域ツイーターである80W12インチの外部キャビネット、Blonde On Blondeが欲しくて探しておりまする(こんな '二段積み' したらもう自宅で鳴らせないけど・・苦笑)。








Acoustic Control Corporation
Acoustic Control Corporation 360 + 361
Acoustic Control Corporation 115

あ、そうそう、このSWRという会社の創業者Steve Rabe氏は元々Acoustic Control Corporationでアンプの設計に従事していた御仁。Acousticのアンプといえばギターやベースのほか、1960年代後半〜70年代の 'アンプリファイ' でクリーンなアンプとして管楽器奏者にも重宝されておりました。260+261の組み合わせはマイルス・デイビスや初期のランディ・ブレッカーはもちろん、フランク・ザッパ1968年のステージで吹くイアン・アンダーウッド、バンク・ガードナーらの背後にAcousticのアンプが鎮座しておりました。またベース用の360+361はあのジャコ・パストリアスが愛した組み合わせとして有名ですね。こーいうところからラッパとSWRのアンプは相性良いのかな?(しかしCalifornia BlondeはRabe氏独立後の製品だけど)。



Acoustic Amplification AG30

ちなみに現在のAcoustic AmplificationからはこちらのPA風ウェッジシェイプ型30Wの 'エレアコ' 用コンボアンプ、AG30などがかなり管楽器に最適な仕様となっておりまする。通常のアンバランスフォンとXLRフォンの2チャンネルコンボ端子に3バンドEQ、16種のマルチエフェクツ内蔵とピックアップからプリアンプを介して繋げばすぐに 'アンプリファイ' 出来ますヨ。












Genz-Benz UC4-112T
Ashly LX-308B 8 Channel Mic / Line Mixer
Acus Sound Engineering
Acus Sound Engineering Oneforstrings AD
Roland Jazz Chorus JC-120
40 Years of Roland Jazz Chorus

最近はイタリアのAcusのようなデザインの格好良い高級 'エレアコ/PA' 用アンプが登場しておりますが、PAの用途を謳っている通りミキサー機能を備えてあらゆる楽器やマイクからの入出力に対応しております。この最大135W出力なPA用コンボアンプというかなり変わった仕様のGenz-Benz UC4もそういった用途に適したもの。スプリング・リヴァーブと4つの入力というミキサー機能を備え、その内のひとつがライン入力なのでAshlyのライン・ミキサーLX-308Bと組み合わせて使用中。内蔵空冷ファンが少々うるさいものの、キャビネット内部の吸音材を廃材の古布を利用したニードフェルトに入れ替えたことでハッキリした定位とタイトな音色に変わりましたが、基本的な出音はPAライクな素っ気ないもの(苦笑)。UC4の4チャンネル・ミキサーとは別にAshlayのライン・ミキサーを使用しているのは、一度エフェクターからの出力をパッシヴDIでローインピーダンスのバランス出力へと変換、AshlayのミキサーからUC4のラインへとアンバランスで入力する為です。改めて言えば、管楽器というと今やヴォーカルと同じくPAのラインで鳴らすのが常識となっておりますが、わたし的には同じくラインで鳴らすとはいえ、やはり 'アンプという箱' をそばに置いて 'エレキ' 的に鳴らしたいのですヨ。生楽器本来のダイナミックレンジの再生より、クリーンとはいえアンプで飽和する '歪み' こそ重要なのです。ちなみに管楽器の 'アンプリファイ' としてはマイルス・デイビスと並び早くから探求していたランディ・ブレッカー。古くはAcoustic Control Corporationのサウンド・システムから出発し、1993年のザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーの際にはクリーンなギターアンプの定番、Roland Jazz Chorus JC-120を2台ステレオで鳴らしていたとのこと。ギターやキーボードなどでの使用はもちろん、その '裏ワザ' として後方の 'Return' からプリアンプをスルーしてラインでパワー・アンプをステレオで鳴らせます。そんな 'JC' についてランディ・ブレッカーは、来日公演時の 'Jazz Life' 誌とのインタビューによる機材話が興味深いので抜粋します。

ランディ − ここには特別話すほどのものはないけどね(笑)。

− マイク・スターンのエフェクターとほとんど同じですね。

ランディ − うん、そうだ(笑)。コーラスとディレイとオクターバーはみんなよく使ってるからね。ディストーションはトランペットにはちょっと・・(笑)。でも、Bossのギター用エフェクツはトランペットでもいけるよ。トランペットに付けたマイクでもよく通る。

− プリアンプは使っていますか?

ランディ − ラックのイコライザーをプリアンプ的に使ってる。ラックのエフェクトに関してはそんなに説明もいらないと思うけど、MIDIディヴァイスが入ってて、ノイズゲートでトリガーをハードにしている。それからDigitechのハーモナイザーとミキサー(Roland M-120)がラックに入ってる。

− ステレオで出力してますね?

ランディ − ぼくはどうなってるのか知らないんだ。エンジニアがセッティングしてくれたから。出力はステレオになってるみたいだけど、どうつながっているのかな?いつもワイヤレスのマイクを使うけど、東京のこの場所だと無線を拾ってしまうから使ってない(笑)。生音とエフェクト音を半々で混ぜて出しているはずだよ。"

− このセッティングはいつからですか?

ランディ − このバンドを始めた時からだ。ハーモナイザーは3、4年使ってる。すごく良いけど値段が高い(笑)。トラック(追従性のこと)も良いし、スケールをダイアトニックにフォローして2声とか3声で使える。そんなに実用的でないけど、モーダルな曲だったら大丈夫だ。ぼくの曲はコードがよく変わるから問題がある(笑)。まあ、オクターヴで使うことが多いね。ハーマン・ミュートの音にオクターヴ上を重ねるとナイス・サウンドだ。このバンドだとトランペットが埋もれてしまうこともあるのでそんな時はエッジを付けるのに役立つ。

− E-mu Proteus(シンセサイザー)のどんな音を使ってますか?

ランディ − スペイシーなサウンドをいろいろ使ってる。時間があればOberheim Matrix 1000のサウンドを試してみたい。とにかく、時間を取られるからね。この手の作業は(笑)。家にはAkaiのサンプラーとかいろいろあるけど、それをいじる時間が欲しいよ。

− アンプはRolandのJazz Chorusですね。

ランディ − 2台をステレオで使ってる。









さて、California Blonde ⅡやUC4には 'ロー・インピーダンス' のライン入力のみならずギターや高出力のピエゾ・ピックアップなどを直接繋げられる 'ハイ・インピーダンス' 入力を備えております。これを 'ロー出しハイ受け' の原則に従ってコンパクト・エフェクターから低いインピーダンスで出力しアンプ側の高いインピーダンスで受けると・・ノイジーに歪みまくり、ゲインのバランスも取れずにハウリングの嵐に見舞われる(汗)。これが機材のセオリー通りではない各社機器間の '不都合な真実' (笑)であり、つまりきちんとインピーダンス整合が取れていないのですね。ということで一旦、エフェクターからの出力をパッシヴのDIで 'ロー・インピーダンス' に変換、そこから '逆DI' ことリアンプ・ボックスで再び 'ハイ・インピーダンス' の信号にしてアンプへと繋いで実験・・結論。コイツをDIとの間に挟めば 'ハイインピーダンス' 入力のアンプでもちゃんと管楽器で鳴らせますヨ。Snarky Puppyのラッパ吹き、Mike 'Maz' MaherもFenderのギターアンプでワウを踏んでおりますが(現在PiezoBarrelのマウスピース・ピックアップを使用)、これも古くはドン・エリスがFender Pro Reverbで鳴らしておりその広告にまで遡ることが出来まする。そしてブリティッシュ・ジャズ・ロックの雄、ニュークリアスのイアン・カーはDynacordのアンプでラッパを鳴らしておりますすね。







Radial Engineering Reamp JCR
Radial Engineering Reamp X-Amp
Dumble Amp Overdrive Special
Alembic F-2B Stereo Tube Preamp

そんな '逆DI' の実験として、ここでパッシヴのReamp JCRとアクティヴのReamp X-Ampで比較してみれば、パッシヴ(黒いヤツ)ではハムノイズっぽいのが低くブ〜ンと拾ってしまったのでローカット・フィルターを入れて対処、一方のアクティヴ(黄色いヤツ)では問題なくちゃんと 'インピーダンス変換' されました。やはりオススメは黄色いReamp X-Ampの方ですね。ただ、'Low Z Balanced' の完全ローインピーダンスに比べるとこの 'やり方' は少しだけタッチノイズに対してセンシティヴかな?このリアンプってヤツは、素の状態で録音されたギターを再びラインからギターアンプで再生、爆音で再録音する為のエンジニア・アイテム。ふぅ、実験とはいえ本当に '電気ラッパ' の 'アンプリファイ' は金も機材も増えてイヤになる(苦笑)。ちなみにギターの世界ではカナダの個人的アンプビルダー、ハワード・ダンブル氏製作のアンプが半ば伝説化されておりますけど、このFenderのアンプからインスパイアされたと思しきクリーントーンは管楽器でも鳴らしてみたくなります。そんな真空管のドライブする倍音の '質感' は、近藤等則さんも以前にAlembicの2チャンネル・プリアンプF-2Bを愛用していたことにも繋がるのですが、これもAlembic主宰のロン・ウィッカーシャム氏がFenderのDual Showmanのプリ部を1Uラックにノックダウンするところから始まってますからね。








Vintage Kustom Amplification
Kustom Amplification Bass 150-1 + 2-12B

エレクトリック・ギター用のアンプは中域に特徴の歪ませること前提としたモノであり、クリーンで鳴らす管楽器では不要なノイズも目立ち上手く行きません。一方、低域という幅広い帯域を確保すべく鳴らすベース・アンプはクリーンであることが前提であり、そのオーディオアンプ的特性から実は 'エレアコ' 用アンプの代用としても十分機能します。フランスで活動するGuillaume Perretさんはテナーサックスでかなり歪ませるタイプのようですが(汗)、ここではAmpegのベース用スタックアンプで気持ち良く鳴らしておりまする。さらに続く 'メリーさんの羊' オジサン(笑)のクラリネットによる動画では、モコモコしたビニール地のソファ風アンプで有名なKustomのスタックアンプを鳴らしており、リンク先の 'Kustomファン' によるサイトによれば150W12インチ2発によるBass 150というモデルとのこと。






Carvin AG100D ①
Carvin AG100D ②

こちらはすでに 'ディスコン' ですが 'エレアコ/PA' 用コンボアンプ、Carvin AG100D。12インチ一発の100W出力で3つの独立した入力チャンネルとデジタル・エフェクツ、5バンドのグラフィックEQを内蔵しております。Ch.1はアコギやエレキ、Ch.2はドラムマシンにキーボードなど、そしてCh.3はマイク/ライン入力となっているのですが、その3チャンネルのミキサー機能が管楽器の 'アンプリファイ' を行う上で非常に重宝した使い方が出来るのですヨ。まず、グーズネック式マイクであれば腰に装着するバッテリーパックからXLR(メス)→フォンの変換ケーブル、もしくはワイヤレス・システムなどを用いてCh.2に入力して下さい。そしてアンプ後部の 'Stereo Line Out' からEQ前の信号を取り出して足元のペダル群に接続、その出力をCh.1かCh.2へ戻します。このようなチャンネル間を 'インサート' するかたちでマイクとペダルのインピーダンスを整合、調整することが可能になります。また、このAG100Dにオプションの外部キャビネットが用意されており 'スタック化' も可能ですが、これ以上の音圧を求める場合ではCarvinも簡易PAのサウンド・システムを用意していたようです。この会社の製品は以前サウンドハウスが代理店として扱っておりましたが、その後Carvinが楽器製作をやめてしまったことで現在は中古を探さなければならないのが残念なり。










Behringer K900FX Ultratone
Roland New 'KC' Series
Roland KC-150 - 4 Channel Mixing Keyboard Amplifier
Roland KC-350 - 4Channel Stereo Mixing Keyboard Amplifier 

現在、一般的に入手しやすいアンプとしては管楽器の 'アンプリファイ' にも向いているBehringerの12インチ一発、最大90W出力のキーボード用アンプK900FXも評判が良いですね。そして、この手のアンプで最も入手しやすいのがRolandの12インチ一発、最大65W出力のキーボード用アンプKC-150や最大120W出力のKC-350などはお手軽に試すことが出来まする(2018年にこの 'KCシリーズ' はラインアップを一新してKC-200 & KC-400となりました)。ここでご紹介している管楽器の 'アンプリファイ' 動画のほとんどで、この 'KCシリーズ' のアンプが活躍しているところからもその '定番ぶり' が分かるかと思います。






C.G. Conn Multi-Vider
C.G. Conn Model 914 Multi-Vider

他にヴィンテージのアンプだとC.G. Connの 'アンプリファイ' システムであるMulti-Viderの付属として用意された500 Amplifierも所有しております。最大定格出力500Wというところから名付けられた75W12インチ一発のこのアンプは、3つの入力(1つはMulti-vider専用)とTrebele、Bassの2バンドEQ、トレモロ、スプリング・リヴァーブをそれぞれ備えたシンプルなもの。1台のアンプで複数の入力を備えているのは、まだバランスよく聴かせる為のPAという音場以前でひとつのアンプから 'すべて鳴らす' という発想だったのだ(笑)。そして、この時代の管楽器専用アンプはいまの 'エレアコ/PA' 用アンプとは全く違う設計思想を持っており、基本的に管楽器に装着したピックアップからオクターバーを介してそのままアンプを鳴らします。これとベルからの生音をラインでPAに出力したものを各々ステージ上で 'ミックス' させていた為か、とにかくアンプからの出音がバカでかい!確かにこれならエレクトリック・ギターの音圧にも負けないのですが、これでは自宅で使いにくいのでアンプに入力する前にNeotenicSoundのBoard Masterという 'インピーダンス整合' を取るアッテネータを繋いでおりまする。てかSelmer Varitoneもそうですが、このぶっとい地を這うようなオクターヴ音を聴いていると今のピッチ・シフターとかオモチャみたいに軽い。





Vox / King Ampliphonic Nova Amplifier ①
Vox / King Ampliphonic Nova Amplifier ②
Vox / King Ampliphonic Nova Amplifier ③

ちなみにC.G. Connと同じく管楽器用サウンド・システムを展開するVox Ampliphonicから登場した25WのアンプNovaには、'Bright/Dark' のToneスイッチとは別に 'Woodwind〜Brass〜Special' と可変させるVoiceというツマミが気になります。Voxのギターアンプに装備されていた 'Tone X' なる 'パライコ' を元にしたというこのツマミの '質感生成'・・どんな感じなんだろ?









我らが '電気ラッパの師' である近藤等則さんとDJクラッシュのコラボレーションによる1996年の傑作 'Ki-Oku (記憶)'。コレ、いつもの 'コンドー節' ともいうべき派手にエフェクティヴなトーンは鳴りを潜め、マイルス・デイビス的ミュートのトーンを主軸としながら全てに電気的な加工を施しているのがミソなのです。慌てず騒がずジックリと・・この '人工甘味料' 的艶っぽいラッパのトーンを体感して頂きたいですね(上のボードにはLehleのJulian Parametric BoostとFulltone OCDを入れている!)。ちなみにソロのみならず、DJクラッシュが拾い集めたバックトラックの細かなサンプル全てコンドーさんのフレイズの '再構成' なのが本盤のキモだ!そんなコンドーさん(K)がアプローチした電気ラッパの葛藤について以下、このように述べておりまする。

− 近藤さんの電気トランペットは、レコードですと「Metal Position」から正式にクレジットされてますけど、その前から色々と研究されていたと思うんですが、その最初の頃に組み上げていたところから、今の電気トランペットのシステムまで、かなり色々と改良されていると思いますが、そのあたりの大きな違いとか、近藤さんが開発されてきたところとかはありますか?

K − 電気トランペットにしようとしたのは1979年頃だったかな。ビル・ラズウェルたちと 'World Mad Music' ってバンドを作ったんだ。フレッド・フリス、ヘンリー・カイザー、ビル・ラズウェル、フレッド・マー、オレっていう、このメンツでね。あいつらは完全にフリー・ロックやろうってことで、ニューヨークでやり始めたらとにかくあいつらは音がデカい。ヘンリーもデカいギターアンプ鳴らしてるわ、フレッド・フリスもあんなヤツだし、ビルもこんなデカいベースアンプでブウゥン!って弾くし、フレッド・マーも元気だったからね、スクリッティ・ポリッティの前で。で、オレがどんなにトランペットをマイクにぶっ込んでも全然音が聴こえないんで頭にきて、「もうこれは電気だ」って次の日に40何丁目行ってピックアップ買ってきてブチ込んでやり始めたんだ。'必要は発明の母' っていう(笑)。

やり始めたら、そこから悩みの始まりでね。電気ラッパ用の機材なんて売ってないわけだから。ピックアップだけ売っていてね。だからどうやってチューニングするのか分からないし、えらい試行錯誤があったよ。すでにマイルスは70年代前半にそれをやってて、マイルスのその電気のやり方を参考にはしたけど、あれじゃ気に入らないからもうちょっとオレなりの、ってことをやりだすとね。

− マイルスもあんまりやらなくて、ちょっとで止めちゃったようなイメージがありますが。

K − でも、あの3年間ぐらいはマイルスは素晴らしい探求をしたわけだけどね。

− 期間的には短い間ですよね。

K − ピックアップを入れて、マイルスは基本的にはワウを使った。ディレイとか複雑なものは使わなかった。基本的にワウの発想だった。

ちょっと話は変わるけど、ワウこそ、あれはトランペットだからね。ギターがワウを作ったのは、トランペットでワウをやってたのを真似したんだから。アコースティックトランペットに、トイレを掃除するゴムの丸いヤツがあるだろ?あれをアメリカの黒人達がトランペットに当てて、ワォンワォンってやり出したんだ。それをギターに応用した。基本的にはトランペットからワウはスタートしたんだ。サックスじゃできないんだから。

(電気トランペットの開発には)家一軒建つぐらいの金は遣ったね。

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