2019年1月5日土曜日

三が日の '実験日和'

2019年1月5日。今週いっぱいは明日まで 'お正月気分' な人たちも多いのではないでしょうか?ゴールデンウィークじゃないけど、休みも長いと '日常' に復帰するのが億劫になります(苦笑)。





こういった '実験' に欠かせない '飛び道具' と呼ばれる便宜上のカテゴリーではありますが、コレの実質的な定義というのはあるようでいて・・ない。要するに汎用性のないもの、ギターの奏法ではカバー出来ないもの、勝手にその機器に操られてしまうものというのが大方の感想だと思うのですが、これは裏を返せば 'カテゴリーしずらいもの' というのと同義でもあります。日本が世界に誇る偉大なエンジニア、現Korgの監査役である三枝文夫氏は、楽器が色々なカテゴリー分けされると同時に既成の '言葉' で説明されてしまうことの危惧感を以前から訴えておりました。それは '歪み系'、'揺れもの'、'空間系'・・もちろん 'グリッチ' というのもエレクトロニカの共通認識として想起出来るものであり、現在の音楽シーンが無から有を生むというよりもすでにあるものの組み合わせ、その '折衷主義' の中で創造することと密接に繋がっていると思うのですヨ。これを時代の閉塞感と取るか価値観の転倒と取るかは人それぞれですけど・・ね。


さて、そんな溜まってきたペダル群を前にして去年の5月、ゴールデンウィークに堪能した '実験' でしたが、今度はお正月の三が日、気怠い連休の最中でやり始める '実験日和'。さあて、何をチョイスしようかな?ということで、今回はパラアウト出来るAnalogue Systemsの 'Filterbank' と小型ミキサーをコンパクト・エフェクターに組み合わせてみるのが目的です。







Elta Music Devices Console (White)
Elta Music Devices Console (Black)
Elta Music Devices

まずはトランペットを分厚いトーンで 'アンプリファイ' にすべく、ロシア産 'マルチ' のElta Music Devices Consoleを 'Pitch Shifter' のモードで使用。Blendツマミで原音とミックス、Zツマミでエフェクトのかかり具合、本機の '売り' であるジョスイティックでリアルタイム・コントロールという構成なのだけど、結構アバウトでザックリとしたかかり具合です。しかし、こういう '実験' をやる時にお手軽な 'マルチ・エフェクター' をひとつ持っているとほんと便利。わざわざアレコレ繋ぎ直さなくてもいろいろなプログラムで試せますからね。





Dr. Lake KP-Adapter
Classic Pro YPR222
Hosa YPR124
Umbrella Company Fusion Blender

続いて早速今回の目玉、Analogue Systems Filterbank FB3 Mk. Ⅱを繋ぎたいのですが、こちらはラインレベルの1Uラック型エフェクターなのでそのままではインピーダンス・マッチングが合いません。そこで新潟の楽器店あぽろんプロデュースのDr. Lake KP-Adapterの 'センド・リターン' にFB3 Mk. Ⅱをインサート。また本機のRCAピンからフォンへと変換すべく、わずか15cmの変換ケーブルClassic Pro YPR222もしくはHosa YPR124も一緒にご用意。ちなみにこのような 'インピーダンス変換' としては、後述するUmbrella Companyの一風変わった多目的セレクター、Fusion Blenderでも基板上の内部ジャンパを差し替えて 'Hi or Loインピーダンス' を切り替えることでラインレベルの機器を扱うことが出来ます。ただし、こちらはモノでの使用となり、やはりステレオ 'L-R' でのセレクターという点でこのKP-Adapterの希少性は上がりますね。







Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ①
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ②

1990年代の 'ベッドルーム・テクノ' 全盛期に英国のAnalogue Systemsが手がけたFilterbank FB3 Mk. Ⅱ。創業者であるボブ・ウィリアムズはこの製品第一号であるFB3開発にあたり、あのEMSでデイヴィッド・コッカレルと共に設計、開発を手がけていたスティーヴ・ゲイを迎えて大きな成功を収めました。1995年に1Uラックの黒いパネルで登場したFB3はすぐにLineのほか、マイク入力に対応した切り替えスイッチと銀パネルに仕様変更したFB3 Mk.Ⅱとして 'ベッドルーム・テクノ' 世代の人気を掴みます。当時、まるで 'Moogのような質感' という '売り文句' そのまま太く粘っこいその '質感' は、本機の '売り' である3つのVCFとNotch、Bandpass、Lowpass、Highpassからなる 'マルチアウト'、LFOとCV入力で様々な音響合成、空間定位の演出を生成することが可能。ま、実際の接続順は 'モノ→擬似マルチステレオ→モノ' のヘンテコなものなので位相とかメチャクチャなのだけど(汗)、おお、コレってほとんど 'Bi-Phase' じゃないか!?それも各帯域を個別に設定、パンで自在に定位をいじれるなど、この発想はそのまま新しいフェイザーとして 'ペダル化' できるんじゃないでしょうか?まさにトランペットにかけるとジョン・ハッセルのデビュー・アルバム 'Vernal Equinox' の1曲目 'Toucan Ocean' で聴けるような、ブクブクと泡のように 'シンセサイズ' されたトーンになりますねえ、コレは。



Electrograve Search and Destroy SAD-1
Electrograve

ちなみにこのような 'マルチアウト' のエフェクターだと名古屋でガジェット系シンセなどを製作するElectrograveから4チャンネル出力を持つパンニング・マシン、Search and Destroy SAD-1にも応用出来ますヨ。ステレオ音源はもちろん、ギターからの入力をジョイスティックでグリグリとパンニングさせたり、Autoスイッチを入れてトレモロのテンポをSlowからFast、Normalからブツ切りにするRandomに切り替えることで 'グリッチ風' の効果まで幅広く対応。4つの出力はそれぞれ個別に切り替えることが可能で、50% Dutyスイッチを入れることでモノラルでも十分な空間変調を堪能することが出来ます。







Behringer MX400 Micromix
Bastl Instruments Dude
Nobels

そしてコレ!ドイツのエフェクター・メーカーNobelsの4チャンネル・ミキサーMix-42C。Nobelsといえばオーバードライブの '隠れた名機' として一部で評判のODR-1が有名ですが(最小化した 'ODR-1 Mini' が近々登場)、どうも全てにBossの 'バッタもん' 的デザインの為か、現在そのラインナップはすべて生産終了状態。このようなコンパクト・ミキサーだと現在ではBehringer MX400やBastl Instruments Dudeなどがありますけど、このNobelsのようなパンのツマミを備えたものってわたしの知る限りないんじゃないでしょうか。本機は汎用性のあるDC9V〜15V駆動で4つの入力とステレオ出力、チャンネル・ヴォリュームのほかパンポットとマスターヴォリュームを装備しており、このサイズながら一般的なミキサーと遜色ない '作り' なのが凄い。こういうのは地味に需要高いと思うので是非ともNobelsにはグレードアップした '後継機' を発売して頂きたいですね。





Malekko Heavy Industry - Malekko Effect Pedals

そして分かりにくさという点では昔から '孤高の存在' (笑)であるエンヴェロープ・モディファイア。いわゆる 'オート・ヴォリューム' というヤツで、古くはBoss SG-1 Slow Gear、Maestro ME-1 Envelope Modifier、Electro-Harmonix Attack Decayという製品がありましたが、フェイザーやディレイほど売れるものではないだけにレアな '珍品' という扱いです。現在ではGuyatoneのSlow Volume SVm5や 'エレハモ' のAttack Decayを手がけたハワード・デイビスが新たにPigtronixで製作したAttack SustainとPhilosopher Kingなどがありましたけど、やはり 'ニッチな層' 向けのマニアックな効果として全て廃盤。Boss SG-1をコピーしたと思しきBehringer SM200 Slow Motionが安価でいつでも入手できるという状況です。このMalekko Sneak Attackはその 'オート・ヴォリューム' からトレモロ、付属のLil Buddyを用いることでエンヴェロープ・ジェネレーターのリアルタイム操作に至るまで多機能な一台。







Boss Slow Gear SG-1
Electro-Harmonix Attack Decay
Pigtronix Philosopher King
Malekko Heavy Industry A.D (Attack / Decay)
Guyatone SVm5 Slow Volume

こちらがそのエンヴェロープ・モディファイア。いわゆるVCAによるサスティンの動作をADSR、Attack(立ち上がり)、Decay(減衰)、Sustain(持続)、Release(余韻)として分解、音量のタッチセンスによりコントロールするものでシンセサイザーの世界ではお馴染みのものです。この機能で最も好まれているものとしては、リヴァーブやディレイの前段に繋ぐことでフワッとしたアタックから伸びるサスティンと共に逆再生風な 'ヴォリューム・エコー' でしょうね。動画は、'エレハモ' のCathedralやOohLaLa Quicksilverと共にMalekko A.DやGuyatoneのSV-2 Slow Volumeによるエンヴェロープ・コントロールで、まさに幻想的なエコーの空間生成を生み出します。



Recovery Effects Viktrolux (discontinued)
Recovery Effects and Devices ①
Recovery Effects and Devices ②

ディレイには一風変わった '飛び道具' 的ピッチ・モジュレーション・エコーのRecovery Effects Viktroluxをチョイス。本機はディレイタイムに対してCVで 'Trigger' 入力がかかるという珍しい仕様でして、早速そこにFB3 Mk. ⅡからのLFO出力をCV入力して '同期' させてみました。また、本機の '売り' であるFlutterやWowを極端にかけることで音痴なほどにビヨ〜ンと伸び縮みするモジュレーションがかかるなど 'ぶっ飛び' ます。というか、この '歪んだエコー' というのは微妙に使いにくさ満点です(苦笑)。









Mid-Fi Electronics Clari(not)
Mid-Fi Electronics Clari(not) ①
Mid-Fi Electronics Clari(not) ②
Mid-Fi Electronics Clari(not) ③
Holowon Industries Tape Soup

ちなみにこのRecovery Effects Viktroluxと同様の効果としては、ほかに '変態ペダル' でお馴染みMid-Fi Electronics Clari(not)やHolowon IndustriesのTape Soupなどがありますね。特徴としては 'テープ・サチュレーション' を模したように歪みながらピッチが極端に上下するということ。たぶん、使いどころという意味では最も悩ましいペダルかもしれない・・(苦笑)。また、このClari(not) にはファズ内蔵ヴァージョンとファズ無しの 'クリーン・ヴァージョン' の2種が用意されておりまする(製作時期によりデザインや仕様が変わるのもこの工房の特徴のひとつ)。しかし面白いのは、こんなウニョウニョとしたモジュレーションのイメージとしてオープンリール・デッキからテープが溢れ出てくる感じだそうで、実際、上手に再現されているかはともかく(笑)その発想力には感服致します。





Moog Moogerfooger CP-251 Control Processor
Moog Moogerfooger

また、Filterbank FB3 Mk. ⅡはLFO出力とCV入力、ViktroluxはCV入力を備えているので例えば、Moogの 'Controlled Voltage Processor' であるMoogerfooger CP-251で電圧制御してやれば、さらに複雑なプロセッシングを生成することが可能。動画ではMoogerfoogerのローパス・フィルターMF-101とアナログ・ディレイMF-104ZをCP-251でパッチングして、LFOやエンヴェロープ・ジェネレータ、クロス・モジュレーションなど 'プチ・モジュラー気分' が味わえます。









Lovetone Meatball ①
Lovetone Meatball ②
Electro-Harmonix Q-Tron Plus - Envelope Filter with Effects Loop

さて、ここでのフィルターはAnalogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱの 'マルチアウト' による '実験' でしたが、フィルターの内部にいろいろなエフェクトを '仕込んだ' 音作り、もしくはフィルタースィープの '質感生成' において1990年代後半の名機、Lovetone Meatballもオススメしたい一台。とにかくエンヴェロープ・フィルターとしては豊富なパラメータを有しており、いわゆる 'オートワウ' からフィルタースィープによるローパスからハイパスへの '質感生成'、フィルター内部への 'センド・リターン' による攻撃的 'インサート'、2つのエクスプレッション・ペダル・コントロールと至れり尽せりで御座います。本機が当時、ギタリストやベーシストのみならずDJやエンジニアにも好まれていたのがよく分かりますね。ちなみに現在、このような 'センド・リターン' 搭載のエンヴェロープ・フィルターとしては 'エレハモ' のQ-Tron Plusがあります。





Toadworks Enveloop -Dynamic Effect Loop-
Toadworks -Products-

このような 'センド・リターン' でいろいろな実験を試みるということでは、何年も前に日本へ入ってきながらあまり売れなかったToadworksのこんな奇妙な 'ルーパー' もずっと気になっておりまする。いわゆる '1ループ' の入出力にAttackとReleaseのエンヴェロープ・フォロワーを内蔵してしまったという・・唯一無二の '珍品'。動画では同社のPipelineというトレモロを 'インサート' しておりますが、う〜ん、地味にフレイズがエンヴェロープの操作でフワフワとコントロールされて・・いるような!?一応、現在でもHPはあるようですがその寂しくなったラインナップ含め、2011年から更新されていないところをみると '開店休業' 状態なのかな?





Knas The Ekdahl Moisturizer

こちらは日本未発売ながら、欧米の '宅録野郎' たちのお部屋でよく見かける 'ガレージ臭丸出し' な謎の一台、Knas The Ekdahl Moisturizer。中身はVCFとLFOで変調させたものを本体上面のスプリング・リヴァーブに送ってドシャ〜ン、バシャ〜ンと '飛ばして' やるという、素晴らしく乱暴でダブにぴったりな 'ガジェット' です。しかしホントよく見かけるのですヨ、コレ。







Solidgold Fx Funkzilla ①
Solidgold Fx Funkzilla ②
Solidgold Fx ①

今や '飛び道具' エフェクターの最右翼のひとつとして魅力的な製品作りに励むBenjamin Hinz主宰の工房、Dwarfcraft Devices。当初はガレージ丸出しの '荒い' 作りであったものがここ近年は 'ユーロラック・モジュラーシンセ' などとの連携も目指し、コンパクトの枠を超えて幅広いサウンドに対応出来るようになりました。ま、ここの製品は何でもぶっ飛んでいるんだけど(笑)、この奇妙なエンヴェロープ・フェイザーの '新作' もまた財布のヒモを緩めるに相応しい逸品。そしてこちらも比較的 '飛び道具' 率の高い米国の工房、Old Blood Noise Endevorsから登場する風変わりなフェイザー。いわゆる 'オイル缶エコー' をシミュレートしたBlack Fountain Delayでその技術力を披露したOld Bloodさん、このDwellerでは 'Stretch' というツマミを備えることでフェイズをストレッチしながらディレイへと変貌させるという離れワザ!続くカナダの工房Solidgold Fxからは、多目的なエンヴェロープ・フェイザー&フィルターのApolloとFunkzilla。'アンプリファイ' なラッパの伝道師としてYoutubeでその啓蒙に頑張るJohn Bescupさん推薦の動画まであり、あまり楽器店の店頭では見かけない工房のものですがAmazonで気軽に入手可能。







Synthmonger Fuzzmonger Mk.Ⅰ
Seppuku Fx Octave Drone
Symour Duncan Fooz Analog Fuzz Synthesizer

また、このようなフィルターの変態系としては入力した信号を2つのパルス波に変換、それらを合成して強制開閉するゲート感と強烈な '歪み' と '揺れ'、エンヴェロープ・フィルターにより生成するSynthmanger Fuzzmanger、オーストラリアで 'Garbege' なペダルばかり少量製作するSeppuku FxのOctave Droneなどがありますけど、ピックアップでお馴染みSymour Duncanも本格的にエフェクター市場へ参入!こんな 'ギターシンセ' ともいうべきFoozを送り込んで来ました。構成的にはLudwig Phase Ⅱと良く似ておりますが、あれほどエグい 'ヴォイス感' なワウの効果に特化しておらず、PigtronixのMothership 2やEarthquaker Devices Data Corupterなどの好敵手といった感じ。しかし、Chase Bliss Audioなどもそうだけど側面のDipスイッチが最近のトレンドなのかな?







Dwarfcraft + Fuzzrocious Afterlife of Pitch ①
Dwarfcraft + Fuzzrocious Afterlife of Pitch ②
Fuzzrocious Pedals

そうそう、Dwarfcraft DevicesといえばFuzzrocious Pedalsという工房とのコラボでこんなグリッチーかつ奇妙な '飛び道具' を限定で作っていたようです。その中身はDwarfcraftのWizard of PitchとFuzzrociousが製作するAfterlife Reverbを組み合わせたもののようで、ここ最近はBossとJHS Pedalsのコラボに象徴されるように大手から個人、ショップ限定の垣根を超えたカタチでこの業界を盛り上げているように感じます。



ちなみにこのFuzzrocious Pedals、去年のNAMMショウでこんな 'デジタル・オクターバー' を発表しておりまする。すでにBoss OC-3 Super Octaveや 'エレハモ' のPOGシリーズ、その他、各社オクターバーと銘打っている製品の大半がデジタルによるトラッキング精度を高めたもの、もしくは 'アナログ・モデリング' によるデジタルのオクターバーが主流となっておりますが、しかしこのOctave Jawnは、そのでっかいツマミでオクターヴのブレンド具合をリアルタイム操作出来るようになっているんですねえ。





Recovery Effects Cutting Room Floor
Recovery Effects Cutting Room Floor V.2

また、このようなリヴァーブと 'グリッチ' の組み合わせとしては、Recovery Effectsの '飛び道具' であるCutting Room Floorがあります。現在は上で紹介したViktroluxの機能を盛り込んだ 'V.2' にモデルチェンジしておりますが、この初代機の 'グリッチ度合い' もなかなかに捨て難いもの。しかし、最近はリヴァーブといえども歪ませたり 'Shimmer' させたり、ありえない空間生成の為の '攻撃的なリヴァーブ' を指向する製品が現れており、単なるアンビエンスではないかたちでトーンの演出に絶大な威力を発揮しておりまする。









Pladask Elektrisk
The Montreal Assembly 856 for Zellersasn
The Montreal Assembly
すっかり '市民権' を獲得した 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターの世界ですけど、ここに来てまた新たな '刺客' がノルウェーから現れます。最近、Knobsさんを追いかける?ように 'ニッチな' ペダル中心に動画を上げるYoutuber、'aBunchOfPedals' さんご紹介のこちら、Pladask Elektrisk Fabrikat。もう、ここまでくると正確な読み方の発音は分かりませんけど(汗)、本機はRed Panda ParticleやRaster、The Montreal Assembly Count to Fiveなどと同様のディレイ、ピッチシフトによる 'グラニュラー' 応用系のひとつですね。その他のラインナップも 'ガジェット' 系ノイズが好きな人にはたまらないものばかり。その下はCount to Fiveの上級ヴァージョンともいうべき856 for Zellersasn。すでに2016年に登場した本機は、MIDI同期やユーザー・プリセットにも対応しながら最大20秒のループをランダマイズしてエンヴェロープ、テンポ、ピッチを操作しながら 'グリッチ' を生成するもので、Red Panda Particleのように破綻せず音楽的 'エラー' として吐き出せるのが特徴。しかし次から次へと本当によく出てくるなあ。あ、そんな次から次といえば 'エレハモ' のループ・サンプラー/ディレイも一体いくつ出るの?ってくらいのリリースラッシュ。去年の初めに95000 Performance Loop Laboratoryという巨大なヤツが登場しましたが、こちらのGrand Canyon Delay & Looperはディレイ&ループ・サンプラーを中心にそんな機能すべてを 'マルチ&小型化' した賢いヤツ。個人的にモジュレーションのプログラムで結構面白そうなのがありますねえ。





Cooper Fx ①
Cooper Fx ②

ここ最近のデジタル系ガジェットの中で新たに参入してきたCooper Fx。いわゆる 'ローファイな質感' に特化したGeneration Lossの絶妙ななまり方から今度の新作、Moment Machineのプログラマブルに奇妙なピッチシフトの 'マルチ' に至るまでその幅広さを見せ付けます。というか、毎度ながらKnobsさんの魅力的なまでに機材の 'オイシイ感じ' を引き出す動画作りは素晴らしいですねえ。こういうの見ちゃうと絶対に手に入れたくなっちゃう・・。









Fairfield Circuitry Meet Maude
Schaller TR-68 Tremolo
Hungry Robot Pedals The Karman Line
Hungry Robot Pedals
Death by Audio Total Sonic Annihilation 2
Death by Audio ①
Death by Audio ②

そんな '実験野郎' を惹きつける 'センド・リターン' と共に欠かせないディレイの世界。そのディレイに 'センド・リターン' 含めて多機能に刺激する要素をブチ込んでしまったのがカナダの工房、Fairfield CircuitryのMeet Maude。本機は、これまた 'アナログライク' なディレイの基本的パラメータは一般的なディレイに準じておりますが、一風変わった機能として飽和するディレイの '歪み' を避けるため、リミッター的コンプが内蔵されていること(ただし原音はスルー)。そしてある種 '偏執的' なのは、基盤上に備えられた6つのマイクロ・スイッチによる各種CVコントロールの設定です。スイッチ1でフィードバック、2でディレイタイムを外部エクスプレッション・ペダルでコントロールでき(1+2で両方)、また1〜4をOffにして5+6で今度はYケーブルによる 'インサート' 端子でディレイ音を外部エフェクターで加工可能とう〜ん、至れり尽くせりな仕上がり。動画ではMeris EffectsのリヴァーブMercury 7やSchallerのトレモロを繋いでおりますが、コレはもうライヴというよりスタジオで緻密に触ること前提のディレイですね。また、グニャグニャと 'ジョイ・スイティック' でディレイタイムと 'ワウフラッター' のモジュレーション、フィードバックをコントロールすることに特化したHungry Robot PedalsのThe Karman Line。そして 'フィードバック・ループ' といえば帰ってきました、Death by AudioのTotal Sonic Annihilation!この謎にぶっ飛んだ一台はOliver Ackermannが自らの会社立ち上げのキッカケとした記念碑的作品ですけど、これは入力をトリガーにして本体内でループさせることにより予想外のノイズを生成するもの。発想としてはノイズ系アーティストがライン・ミキサーの出力を再度チャンネルへ入力、EQなどでコントロールすることでノイズを生成するやり方を 'ペダル化' したもので珍しいものでは御座いません。しかし、放出されるノイズは実に多彩で 'インサート' に繋ぐペダルにより刻々と変化するのだからたまりませんねえ・・。





Umbrella Company Fusion Blender
Vocu Magic Blend Room ①
Vocu Magic Blend Room ②
Vocu Magic Blend Room Spec. 2

このような既成のペダルを複数繋いだ '実験' としては、いくつもそれっぽいペダルを買うのではなく、すでにタンスの肥やしと化した 'コレクション' を活かすという手もあります。例えば前述したUmbrella Companyの多目的セレクター、Fusion Blenderは通常のA/Bセレクターのほか、AとBのループをフィルターによる帯域分割で '同時がけ' を可能とするなど、コンパクト・エフェクターの使い方にいろいろなアイデアを提供する素敵な一品。同種の製品としてはVocuの多目的セレクター、Magic Blend Roomも多機能ながらお求めやすい価格で休日の '実験' にオススメです。



Dwarfcraft Devices Paraloop
Custom Audio Electronics Dual / Stereo Mini Mixer

そしてA、B2つのループの信号を 'パラレル' にミックスできる変わり種の 'ループ・ブレンダー' であるDwarfcraft Devices Paraloop。この手の製品で有名なのはCustom Audio Electronicsが製作していたハーフラック・サイズのCAE Dual / Stereo mini Mixerやそれの 'リプロダクト' モデルであるCAJ Custom Mixerがありますが、本機はその機能を '2ループ' に絞ったコンパクト版と言って良いですね。例えばディレイとリヴァーブ、コーラスとフィルターみたいな '空間生成' で直列接続よりグッと効果的。これも色々なペダルを '抱き合わせて' 試してみると面白いでしょう。













さぁて新年恒例、毎度毎度の2018年度 'ベスト・ペダル' 総括をThePedalZoneさん、Dennis Kyzerさん、そしてJHS Pedals主宰にして 'ペダル・ジャンキー' のJosh Scottさんからそれぞれ届きました!もう、カテゴリー的には完全に出尽くしていると思うのだけどエレクトロニカや 'ユーロラック・モジュラー' の発想を元にして、いわゆる 'ペダル' から音楽を生成、発奮する方向性を指向していることが分かります。ん?そういえば毎度のPedals And Effectsさんが上がっていない・・。どうやら主宰するJuan Aldereteさんは今、本業のマリリン・マンソンのベーシストとしてツアー中のようですね。残念。その代わりというワケではないのでしょうけど、'Pedals And Effects' さんの '相棒' ともいうべきNick Reinhartさんの '最新' エフェクターボードが公開されました!

2019年1月4日金曜日

フェイズの源流 - その黎明期 (再掲)

ロックとエレクトロニクスの加熱した1960年代後半。すでに欧米ではいくつかのメーカーから 'アタッチメント' と呼ばれるエフェクター黎明期が到来、当時のLSD服用による '意識の拡張' と相まってレコーディング技術が飛躍的に進歩しました。そんな 'パラダイム・シフト' の中、日本が世界に誇る作曲家、富田勲氏の音作りは音楽の発想を鍛える上でとても重要な示唆を与えてくれます。







いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクター登場前夜は、まだこの手の位相を操作して効果を生成するにはレスリー社のロータリー・スピーカーに通す、2台のオープンリール・デッキを人力で操作して、その位相差を利用する 'テープ・フランジング' に頼らなければなりませんでした。富田氏はこのような特殊効果に並々ならぬ情熱を持っており、いわゆる 'Moogシンセサイザー' 導入前の仕事でもいろいろ試しては劇伴、CM曲などで実験的な意欲を垣間見せていたのです。

"これは同じ演奏の入ったテープ・レコーダー2台を同時に回して、2つがピッタリ合ったところで 'シュワーッ' って変な感じになる効果を使ったんです。原始的な方法なんだけど、リールをハンカチで押さえるんです。そしたら抵抗がかかって回転が遅くなるでしょ。'シュワーッ' ってのが一回あって、今度は反対のやつをハンカチで押さえると、また 'シュワーッ' ってのが一回なる。それを僕自身が交互にやったんです。キレイに効果が出てるでしょ。"







Danelectro Back Talk
Red Panda Tensor

ちなみに、このようなテープ操作によるエフェクトの代表的なものとしては 'Tape Reverse' ことテープの逆再生効果が有名ですね。昔はわざわざオープンリール・テープを反対にセットして行っておりましたが、現在では簡易的なループ・サンプラーでお手軽に生成することができます。しかし、単体でこの効果に特化した製品というのが現在までほぼないのは不思議でした。まあ、一部のデジタル・ディレイにおける '付加機能' として備えているものがあるので、わざわざこんな 'ニッチな' 効果をラインナップする必要性はないのかもしれませんが、しかし、そんな 'ニッチな' 需要に応えてしまったのがDanelectro。このBack Talkは、そんな 'ループ・サンプラー' ブーム初期の頃に発売されたこともあって人気拡大、あっという間に廃盤となったことで現在ではかなりのプレミアが付いております。そして2018年、新たな 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターのスタンダードと呼ぶに相応しいRed PandaのTensor。特にエクスプレッション・ペダルによる逆再生効果はあっという間に '使われてしまう' 予感・・。







Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
EMS Synthi Hi-Fli

1970年の新製品である初期の 'ギター・シンセサイザー' Ludwig Phase Ⅱ Synthesizerは当時手がけていた劇伴、特にTVドラマ「だいこんの花」などのファズワウな効果で威力を発揮しました。また、シンセサイザーを製作するEMSからも同時期、'万博世代' が喜びそうな近未来的デザインと共にSynthi Hi-Fliが登場、この時期の技術革新とエフェクツによる '中毒性' はスタジオのエンジニアからプログレに代表される音作りに至るまで広く普及します。

"あれは主に、スタジオに持っていって楽器と調整卓の間に挟んで奇妙な音を出していました。まあ、エフェクターのはしりですね。チャカポコも出来るし、ワウも出来るし。"

後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏も当時、富田氏に師事しており、サントラやCM音楽などの仕事の度に "ラデシン用意して" とよく要請されていたことから、いかに本機が '富田サウンド' を構成する重要なものであったのかが分かります。また、この時期の 'Moogシンセ' 導入前の富田氏の制作環境について松武氏はこう述懐しております。

"「だいこんの花」とか、テレビ番組を週3本ぐらい持ってました。ハンダごてを使ってパッチコードを作ったりもやってましたね。そのころから、クラビネットD-6というのや、電気ヴァイオリンがカルテット用に4台あった。あとラディック・シンセサイザーという、フタがパカッと開くのがあって、これはワウでした。ギターを通すと変な音がしてた。それと、マエストロの 'Sound System for Woodwinds' というウインドシンセみたいなのと、'Rhythm 'n Sound for Guitar' というトリガーを入れて鳴らす電気パーカッションがあって、これをCMとかの録音に使ってました。こういうのをいじるのは理論がわかっていたんで普通にこなせた。"

さて、このLudwig Phase Ⅱに象徴される '喋るような' フィルタリングは、そのまま富田氏によれば、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったという思いへと直結します。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますね。さて、冒頭の1969年のNHKによるSF人形劇「空中都市008」では、まだ電子的な 'モジュレーション' 機器を入手できないことから当時、飛行場で体感していた 'ジェット音' の再現をヒントに出発します。

"その時、ジェット音的な音が欲しくてね。そのころ国際空港は羽田にあったんだけど、ジェット機が飛び立つ時に 'シュワーン' っていう、ジェット機そのものとは別の音が聞こえてきたんです。それはたぶん、直接ジェット機から聞こえる音と、もうひとつ滑走路に反射してくる音の、ふたつが関係して出る音だと思った。飛行機が離陸すれば、滑走路との距離が広がっていくから音が変化する。あれを、同じ音を録音した2台のテープ・レコーダーで人工的にやれば、同じ効果が出せると思った。家でやってみたら、うまく 'シュワーン' って音になってね。NHKのミキサーも最初は信じなくてね。そんなバカなって言うの。だけどやってみたら、これは凄い効果だなって驚いてた。これはNHKの電子音楽スタジオからは出てこなかったみたい。やったーって思ったね(笑)。"

まだ、日本と欧米には距離が開いていた時代。直接的なLSD体験もなければザ・ビートルズが用いたADT (Artificial Double Tracking)の存在も知られていなかったのです。つまり、世界の誰かが同時多発的に似たようなアプローチで探求していた後、いくつかのメーカーから電子的にシミュレートした機器、エフェクターが発売される流れとなっていたのがこの黎明期の風景でした。ちなみにそのADTについてザ・ビートルズのプロデューサーでもあるジョージ・マーティンはこう述べております。興味深いのは、三枝文夫氏がHoneyのPsychedelic MachineやVibra Chorusを開発するにあたりインスパイアされた 'フェーディング' と呼ばれる電波現象にも言及していることです。

"アーティフィシャル・ダブル・トラッキング(ADT)は、音像をわずかに遅らせたり速めたりして、2つの音が鳴っているような効果を得るものだ。写真で考えるといい。ネガが2枚あって、片方のネガをもう片方のネガにぴったり重ねれば1枚の写真でしかない。そのように、ある1つのサウンド・イメージをもう1つのイメージにぴったり重ねれば、1つのイメージしか出てこない。だがそれをわずか数msecだけズラす、8〜9msecくらいズラすことによって、電話で話してるような特徴ある音質になる。それ以下だと、使っている電波によってはフェイジング効果が得られる。昔オーストラリアから届いた電波のような・・一種の "ついたり消えたり" するような音だ。さらにこのイメージをズラしていき、27msecくらいまで離すと、われわれがアーティフィシャル・ダブル・トラッキングと呼ぶ効果になる・・完全に分かれた2つの声が生まれるんだ。"









Foxx Guitar Synthesizer Ⅰ Studi当時o Model 9
Maestro FP-1 Fuzz Phazzer
Maestro FP-2 Fuzz Phazzer
Maestro USS-1 Universal Synthesizer System

こちらはFoxxの 'ギター・シンセサイザー' ペダル。基本的に黎明期の製品はエンヴェロープ・フィルター、ファズワウ、フェイザー、フランジャー、LFOといった重複する機能が混交した状況であり、後にカテゴリー化される名前より先に話題となっていたもの、一部、類似的な効果を強調して付けるというのが習慣化しておりました。Shin-ei Uni-Vibeの 'Chorus' (当初は 'Duet')も後のBoss Chorus Ensemble CE-1とは別物ですし、LudwigやFoxx、Maestroから登場した 'Synthesizer' というのもRoland GR-500以降の 'ギターシンセ' とは合成、発音方式などで別物。それはMaestroのFuzz Phazzerからその集大成的 'エセ・ギターシンセ' なUSS-1に到るまでこの時代を象徴しました。 さて、富田氏によれば、このような 'モジュレーション' 系エフェクターはMoogシンセサイザーの単純な波形に揺らぎを与えて 'なまらせる' 為に用いており、そこには機器自体から発する 'ノイズ' がとても有効であることを力説します。

"最近(の機器)はいかにノイズを減らすかということが重要視されていますが、僕が今でもMoogシンセサイザーを使っている理由は、何か音に力があるからなんですね。低音部など、サンプリングにも近いような音が出る。それはノイズっぽさが原因のひとつだと思うんです。どこか波形が歪んでいて、それとヴォリュームの加減で迫力が出る。だから僕はノイズをなるべく気にしないようにしているんです。デジタル・シンセサイザーが普及してノイズが減り、レコーディングもデジタルで行われるようになると、音が透明過ぎてしまう。ファズやディストーションもノイズ効果の一種だし、オーケストラで ff にあるとシンバルや打楽器を入れるというのも騒音効果です。弦楽器自体も ff になるとすごくノイズが出る。そうしたノイズは大切ですし、結果的にはエフェクターで出たノイズも利用していることになるんだと思います。"









Honey Psychedelic Machine
Honey Vibra Chorus
Honey Special Fuzz

その「空中都市008」における 'テープ・フランジング' の効果は、当時、すでに製品化されていたHoneyのVibra Chorus、Psychedelic Machineなど伺い知らぬ状況の中で、物理的な法則と手持ちの機器や録音環境を応用、組み合わせながら富田氏の飽くなき実験精神を呼び起こすきっかけとなりました。なければ作る・・そんな 'DIY' 精神はそのまま未知の楽器、'Moogシンセサイザー' の膨大なパッチングによる音作りへと直結します。また、1970年代後半には 'レスリー・スピーカー' の効果を即席で生成すべく、スピーカーをターンテーブルに乗せて屏風で囲い、マイクで集音するという '荒技' に挑みます。今なら同じセッティングをBluetoothのスピーカーをワイヤレスで飛ばすことで簡単に再現することが出来ますが、当時はかなり苦労したとのこと。

"レスリー・スピーカーというのがハモンド・オルガンに付いているでしょ。ただコードを押さえるだけで、うねるようなドップラー効果が起こる。ブラッド・スウェット&ティアーズとかレッド・ツェッペリンがさんざん使ってたんですが、その回転スピーカーというのが日本ではなかなか手に入らなくてね。それにものすごく高かった。それで '惑星' や 'ダフニスとクロエ' で使った方法なんだけど、FとSというスピードが可変できる古いレコード・プレイヤーがあったんです。その上にスピーカーを置いて、向こうに屏風を立てて回したら、レスリーのいい感じがするんですよ。じゃあ、スピーカーにどうやって音を送るかってことで、1本はエナメル線を吊るして、それで回したんです。このやり方だと、3分ぐらいでエナメル線はブチッて切れるんだけど、その間に仕事をしちゃうんですよ。このやり方はレスリーよりも効果があったと思いますよ。レスリーはあれ、回っているのは高音部だけだからね。"





Inside The Fender Vibratone
Maestro RO-1 Rover

こちらは、そんな超重量級の 'レスリー・スピーカー' をいわゆる 'ロータリー' 部のキャビネットとして、ギターアンプをパワーアンプにして駆動させるFender Vibratone。その '銀パネ' のグリルを外すとスピーカー本体の前に回転する風車を配置するものでして、これは当時、Fenderの親会社であるCBSがLeslieのパテントを所有していたことから実現しました。そしてMaestroからはドラムロール状のロータリー・スピーカーとしてRoverが製品化されます。しかし、こんな 'ドップラー' 効果を大きなアンプとしてFenderやMaestroが製作していた当時、日本のHoneyから電子的シミュレートで(当時としては)可搬性のよい '卓上型' 及び 'フットボックス' の製品として開発していたのですから、その世界的な技術力とセンス、恐るべし。





Tel-Ray / Morley RWV Rotating Wah
Tel-Ray / Morley EVO-1 Echo Volume

一方、そんなレスリー・スピーカーの効果を、Tel-Ray / Morleyによる 'オイル缶' を用いた独特な構造の 'RWV Rotating Wah' とディレイの 'EVO-1 Echo Volume' という巨大なペダルで結実したもの。このMorleyのペダルというのは昔からどれも巨大な 'アメリカン・サイズ' なのですが、そのペダル前部に備えられた巨大な箱に秘密があり、オイルの入ったユニットを機械的に揺することでモジュレーションやエコーの遅れなどを生成するという、何ともアナログかつ手の込んだギミックで作動します。







Farfisa Sfearsound
Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ①
Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ②
Mid-Fi Electronics Electric Yggdrasil ③

また、こちらもHoneyの製品群とほぼ同時期ではないかと思われる 'レスリー・シミュレーター' というべきFarfisa Sferasound。コンボ・オルガンなどを手がけていたFarfisaがその可搬性から開発した思しき本機は、オルガンはもちろんギターにも使用可能でVibra Chorusに比べるとかなりヴィブラート色濃いものですね。本機のちょっと古臭く'滲むように' 揺れるレトロな雰囲気で思い出すのは、米国ニューハンプシャー州で製作するMid-Fi ElectronicsのElectric Yggdrasil(エレクトリック・ユグドラシル)。設計は 'MMOSS' というバンドのギタリスト、Doug Tuttle氏で、いわゆる '現場の発想' から奇妙な '飛び道具' エフェクターをひとり製作しております。Mid-Fi Electronicsといえば、'変態ヴィブラート' ともいうべきPitch PirateやClari (Not)のぶっ飛んだ効果で一躍このブランドを有名にしましたが、本機は位相回路による 'フェイズ・キャンセル' の原理を応用し、このFarfisa風フェイズの効いたヴィブラートでサイケデリックな匂いを撒き散らします。






Binson Echorec
Arbiter Soundimension

このエコーにおける富田氏の好奇心、想像力は群を抜いており、まだ、オーケストラを相手とした駆け出しの作曲家時代、エンジニア的視点からその擬似的な '空間合成' に対して注意深く耳を澄ませていました。

"(映画の効果として)不気味な忍び寄る恐怖みたいなものを出すのにどうしてもエコーが欲しかった。その時、外を歩いていたら水槽があったんだよ。重い木の蓋を開けて、石ころを拾って放ってみたら「ポチャーン」って、かなり伸びのいい音がするわけ。好奇心旺盛なミキサーさんと共にそこへスピーカーとマイクを吊るしてやろうってことになった。スタジオの楽団の前にエコー用のマイクを立てておいて、その音を水槽に流して、その残響をマイクで拾ってミキサーの開いているチャンネルに戻す。そのエコー用マイクというのをストリングスに近づけるとブラスにエコーがかかる。両方にかけたいときは中間に置けばいい。"

その後、エフェクターとして出回った磁気ディスク式エコーのBinson Echorecも '富田サウンド' の重要なアイテムとなり、その '秘密' ともいうべき物理的 'エラー' から生成される 'モジュレーション' について富田氏は以下のように語っております。

"Binsonは鉄製の円盤に鋼鉄線が巻いてあって、それを磁化して音を記録するという原理のものでした。消去ヘッドは、単に強力な磁石を使っているんです。支柱は鉄の太い軸で、その周りにグリスが塗ってあるんですが、回転が割といい加減なところが良かったんです。そのグリスはけっこうな粘着力があったので、微妙な回転ムラによっては周期的ではない、レスリーにも似た '揺らぎ' が生まれるんです。4つある再生ヘッドも、それぞれのヘッドで拾うピッチが微妙に違う。修理に出すと回転が正確になってしまうんで、そこには手を入れないようにしてもらっていました。2台使ってステレオにすると微妙なコーラス効果になって、さらにAKGのスプリング・リヴァーブをかけるのが僕のサウンドの特徴にもなっていましたね。当時、これは秘密のテクニックで取材でも言わなかった(笑)。Binsonは「惑星」の頃までは使っていましたね。"

一方、Arbiterから登場したSoundimensionとSoundetteもBinson Echorecと同様の磁気ディスク式エコーであり、この会社はジミ・ヘンドリクスが愛用したファズ・ボックス、Fuzz Faceを製作していた英国のメーカーとしても有名です。本機はジャマイカのレゲエ、ダブ創成期に多大な影響を与えたプロデューサー、コクソン・ドッドが愛した機器で、ドッドはよほどこの機器が気に入ったのか、自らが集めるセッション・バンドに対してわざわざ 'Sound Dimension' と名付けるほどでした。そんな彼のスタジオ、Studio Oneでエンジニアを務めたシルヴァン・モリスはこう説明します。

"当時わたしは、ほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聴けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これが、あのスタジオ・ワン独特の音になった。それからコクソンがサウンドディメンションっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45センチぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、サウンディメンションはヘッドが動かせるから、それぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"










Shin-ei / Uni-Vox Uni-Vibe
Companion SVC-1 Vibra Chorus
Shin-ei Companion Amplifier Psychedelic Machine PM-14
Korg Nuvibe ①
Korg Nuvibe ②

さて、日本のエフェクター黎明期を支えたHoney / Shin-ei Companion。当時、ファズとワウがその市場の大半を占めていた中でいち早く 'モジュレーション' 系エフェクターの開発に成功したことで、現在までその技術力と先見性は高く評価されております。1968年のPsychedelic MachineとVibra Chorus、Special FuzzをきっかけにしてHoney倒産後、引き継いだShin-eiの時代になってからはUnicordへのOEM製品であるUni-Vibe、Shin-eiのOEMブランドCompanionのVibra Chorus VC-15(SVC-1)、Resly Tone RT-18(Phase Tone PT-18)、最終型のPedal Phase Shifter PS-33などが会社の倒産する1970年代半ばまで用意されました。





Shin-ei Resly Tone RT-18
Shin-ei Phase Tone PT-18
Shin-ei Pedal Phase Shifter PS-33

途中、自社のResly Tone RT-18の名称がPhase Tone PT-18に変更されたことからも象徴されるように1971年、トム・オーバーハイムが手がけたPhase Shifter PS-1をきっかけにして起こった 'フェイザー・ブーム' は、Honey / Shin-eiの先駆的な存在を闇に葬るきっかけとなってしまったのが悔やまれます。これは、そもそも先駆的製品であったこの 'Maid in Japan' が、まだまだ海外では安価なOEM製品以上の評価を受けていなかったことの証左と言ってよいでしょうね。少量生産していた 'アタッチメント' と呼ばれる機器は、ロック全盛とエレクトロニクスの革新により市場が拡大、より生産体制を拡大すべくアジアなどの下請け企業へ発注し、大量生産と共にビギナー層への安価な製品供給を拡充してその裾野を広げていく・・。まさにHoney / Shin-ei Companionはそんな時代の真っ只中で興隆し、消え去ってしまった幾多ある会社のひとつだったのです。





Shin-ei Resly Machine RM-29 ①
Shin-ei Resly Machine RM-29 ②
Rands Resly Machine RM-29

そんな '屈辱的' な先見性と 'フェイザー・ブーム' の狭間で産み落とされたと思しき珍品のひとつがコレ、Resly Machine RM-29です。そもそも1968年にHoneyから三枝文夫氏によって開発された本機の '源流' に当たるVibra Chorusの製品コンセプトは、レスリー社のロータリー・スピーカーを電子的にシミュレートすることでした。それがShin-ei以降もずっと製品名として生き残ってきたワケなんですが、時代が一気に 'フェイザー' という新たな名称と共に普及したことで、Shin-eiはそのきっかけとなったMaestro Phase Shifter PS-1のデザインをそのままパクるという暴挙に出ます。しかし中身は従来の '源流' としたヴィブラート色濃い独特な効果ながら、Uni-Vibeに代表される渦巻くようなサイケデリック的強烈な揺れ感は薄められた廉価版として、何とも折衷的なモジュレーション系エフェクターの範囲に留まってしまいました。







Maestro PS-1A Phase Shifter 1976
MXR Phase 90
Shin-ei MB-27 Mute Box

そんなMaestro PS-1も数年後にはMXRからPhase 90という手のひらサイズのカラフルな一品の登場で旧態然な製品となり、一部、オクターバーのOB-28やエンヴェロープ・フィルターのMB-27といった新たな製品開発に着手するものの、いよいよShin-eiという会社も次なる一手を打ち出さなければならない状況へと追い込まれます。Resly ToneからPhase Toneへ、さらにはペダルに内蔵してリアルタイム性に寄ったPedal Phase Shifterへとバリエーションを展開してみましたが、多分、その中身は古くさい 'Vibra Chorus' の資産を手を替え品を替えの状態だったのだろうなあ、ということで、ほとんど製品開発の資金を捻出できなかったのだろうと想像します。





Heptode Virtuoso Phase Shifter

ちょっと前の中国製エフェクターではないけれど、この時代の日本製エフェクターもオリジナル性よりは海外製品のほとんど模倣から始まっており、多分当時、海外の店頭ではMaestroはちょっと高くて手が出ないというユーザーたちが 'セール品' 的に手を出していたと思われます。日本製エフェクターの評価が高くなるのはMaxonがIbanezの名でOEM製品の市場を拡大させ、Bossによって一気にその勢力が塗り替えられた1970年代後半まで待たねばなりません。また、Maestroと共にフェイザー市場拡大に貢献したMXR Phase 90自体、そもそもがMXR創業者であるテリー・シェアウッドとキース・バーのふたりが経営していた修理会社に持ち込まれたMaestro PS-1を見て一念発起、MXR起業へのきっかけとなりましたからね。これは、ロジャー・メイヤーがジミ・ヘンドリクスの為にカスタムで製作していたOctavioを修理する機会のあったTycobraheがデッドコピー、新たにOctaviaとして製品化したというエピソードにも通じることで、どこまでがコピー、どこからが影響なのかというのはヒジョーに線引きの難しい話でもあります。ちなみにMaestro PS-1シリーズは当時の 'フェイザー・ブーム' の出発点となるべく大ヒットし、未だに状態良好な中古があちこちで散見されます。本機の 'デッドコピー' としてはフランスの工房、Heptodeから見た目そのままで小型化したVirtuoso Phase Shifterとしても登場しておりまする。








Carlin Phaser
Moody Sounds Carlin Phaser Clone
Moody Sounds / Carlin Pedals

Maestroからより小型化となったMXR Phase 90をきっかけにして広まった 'フェイザー・ブーム' は、一方で、そのフェイズの深さ、効き具合をフット・コントロールする 'ペダル・フェイザー' という形態への需要も高まります。ある意味、Shin-ei Uni-Vibeがもたらした '資産' のひとつでもあり、それは、元々がギタリストではなくキーボーディストを対象とした製品の名残りと言ってもよいでしょうね。1970年代にスウェーデンのエンジニア、Nils Olof Carlinが手がけたフェイザーとそれを同地の工房、Moody Soundsが本人監修の元に '復刻' させた 'クローン' モデル。その他、GrecoのPedal Phaser、Foxx Foot Phaserに 'エレハモ' からもBad Stoneのペダル版が発売されるなど、いわゆるUni-Vibeに端を発した 'ペダル・フェイザー' の流れが根付きます。このCarlinの隠れた一品の存在からも当時、世界を駆け巡った 'フェイザー・ブーム' の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。









U.S.S.R. - Elektronika
U.S.S.R. Spektr Phaser
U.S.S.R. 'Effekt 1' Fuzz / Vibrato / Wah

そうそう、こういったニッチかつ '秘境' のペダル収集熱はかつての '鉄のカーテン' の向こう側、ロシアの地へと拡大します。この旧共産圏の 'ペダル' に横溢するビザールな機能美は、ここ最近、eBayやReverb.comなどでゾロゾロと怪しげなキリル文字によるレトロかつ無機質、どこか '学研の教材っぽい' デザイン・センスで 'レトロ・フューチュアリズム' の極致と言って良いでしょう。当然、西側のエフェクターと規格が違う為か、端子類などに独自のものを採用していて使いづらいのですが、しかし、そのチープかつ昔のSFっぽい雰囲気はある意味とても新鮮!ファズワウからトレモロ、フェイザーやフランジャーにマルチ・エフェクターのようなものまで揃えられていることに驚きますけど、しかしこれらはかつて '国の所有物' として厳重に管理されていたワケですよね。何か、ロシアになってゴミとなった '不良債権' が巡り巡ってネットの競売に掛けられるという、時代の過酷な流れを感じますねえ。ちなみにかなりの珍品だからなのか、リンク先の日本の楽器店でもの凄い値段が付けられております・・。







U.S.S.R. Formanta
U.S.S.R. Formanta Esko-100

そんな旧ソビエト製ペダルの集大成?的 'マルチ・エフェクツ' ユニットなのがこちら、Formanta Esko-100。1970年代のビザールなアナログシンセ、Polivoksの設計、製造を担当したFormantaによる本機は、その異様な '業務用機器' 的ルックスの中にファズ、オクターバー、フランジャー、リヴァーブ、トレモロ、ディレイ、そして付属のエクスプレッション・ペダルをつなぐことでワウにもなるという素晴らしいもの。ちなみにそんな空間系のプログラムの内、初期のVer.1ではテープ・エコーが搭載されておりましたが、Ver.2からはICチップによるデジタル・ディレイへと変更されました。





Vermona Engineering Phaser 80

こちらは今や 'ユーロラック・モジュラーシンセ' の分野でも老舗のVermona Engineering。しかし元々は東ドイツの国営企業であり、そんな '共産圏' 真っ只中の1980年に登場した '据え置き型' であるPhaser 80。Phase ShiftのOn/OffスイッチとSpeed、Feedback、背面にIntensityとSensibilityツマミという至極シンプルな設計ながら、これがその後のVermona製品の出発点なのかと思うと感慨深い。







Keio Electronic Lab Synthesizer Traveller F-1
Korg VCF Synthepedal FK-1
Korg Mr. Multi FK-2

そんな国産フェイズの '源流' に当たるVibra Chorusを設計した三枝文夫氏が、Korgこと京王技研工業へ入社後に手がけたペダル3種。国産初のシンセサイザーKorg 700に搭載された 'Traveller' フィルターは、-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成されたもので、FK-1のツマミで分かりやすいようにそれぞれ動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという、三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。この3種はそんな 'Traveller' を単体で抜き出したものであり、ファズワウからオシレーター発振、VCFコントロール、ワウとフェイザーのハイブリッドに到るまで、Korgという会社の立ち位置を実に象徴する製品と言ってよいですね。









Chicago Iron Tycobrahe Pedal Flanger
Musitronics Mu-Tron Pedal Flanger
Musitronics Mu-Tron Bi-Phase
Moog MKPH 12 Stage Phaser

そして、このような黎明期を経ながら同じ位相を操作する効果を 'フェイザー' と 'フランジャー' としてカテゴリー分けされることで、ようやくエフェクターの市場に数多くの製品が登場します。TycobraheとMusitronics Mu-Tronからはそれぞれペダル・フランジャー2種。2台分のフェイザーを装備したMusitronics最大の 'フェイズ・ユニット'、Mu-Tron Bi-Phaseは、まるで '亜熱帯のサイケデリア' を象徴するマリワナの煙と共にたゆたうリー・ペリーに力を与えます。その姿は、ほとんどギタリストがアプローチするのと同じ意識でミキサー、フェイザーを '演奏' している!そして後に 'Moogerfooger' シリーズでも復活したMoog博士の12 Satage Phaserのラック版。エグいフェイズはもちろんですが、ステレオの音響生成において '3Dディメンジョン' 的定位にミックスで用いてやると効果てき面!その昔、怪しげな中目黒のマンションの一室にあった楽器店で、外人オーナー相手に本機の値段交渉したことが懐かしい。









Moog Moogerfooger
Mu-Fx Phasor 2X
Mode Machines KRP-1 Krautrock Phaser
Gerd Schulte Audio Electronik Compact Phasing 'A'

そんなラック版もMoogならではの '木枠' な家具調で蘇ったものの、残念ながら再び生産終了という悲しい 'Moogerfooger' シリーズ。そしてMu-Tron Bi-Phase直系ともいうべき、2台分のフェイズの片側であるPhasor Ⅱをオリジナル設計者のマイク・ビーゲルが現代的にリメイク、復刻したのがこちらMu-Fx Phasor 2X。一般的なフェイザーでおなじみ4ステージからPhasor 2〜Bi-Phase同様の6ステージのフェイズ切り替え、外部エクスプレッション・ペダルによるスウィープ・コントロールと多様な音作りに対応します。そして、Bi-Phaseと同じく強烈なフェイズ・サウンドで時代を席巻したのがドイツ産Gerd Schulte Compact Phasing A。クラウス・シュルツェやディープ・パープルのリッチー・ブラックモアらが愛用したことで大変なプレミアものですね。こんなCompact Phasing AもMode Machinesからその名もずばり 'Krautrock Phaser' として生まれ変わりました。しかしその筐体はあまりにもデカイ・・。




Irmin Schmidt's Alpha 77 Effects Unit.

このようなエフェクター黎明期から全盛期を迎える1970年代、個別にカテゴリー化される流れからすべてを統合し、'マルチ・エフェクツ' 化する方向へも加速します。ここではクラウト・ロックの雄として有名なCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案の創作サウンド・システム、Alpha 77も述べておきたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、こちらはダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴなスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。イルミン・シュミットが右手はFarfisa Organとエレピ、左手は黒い壁のようなモジュールを操作するのがそのAlpha 77でして、それを数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたジョノ・パドモア氏はこう述べます(上のリンク先にAlpha 77の写真と記事があります)。

"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。"

"シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"





またシュミット本人もこう述べております。

"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"







Bob Williams: The Analogue Systems Story
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ①
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ②
EMS 8-Octave Filterbank
Filters Collection

いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクターと並び、現在ではDJを中心に一般的となったフィルター専用機。1970年代にはUrei 565T Filter SetやMoogのMKPE-3 Three Band Parametric EQといったマニアックなヤツくらいのイメージだったものが1990年代の 'ベッドルーム・テクノ' 全盛期に再燃、英国のAnalogue Systemsから登場したのがFilterbank FB3です。創業者であるボブ・ウィリアムズはこの製品第一号であるFB3開発にあたり、あのEMSでデイヴィッド・コッカレルと共に設計、開発を手がけていたスティーヴ・ゲイを迎えて大きな成功を収めました。1995年に1Uラックの黒いパネルで登場したFB3はすぐにLineのほか、マイク入力に対応した切り替えスイッチと銀パネルに換装したFB3 Mk.Ⅱとして 'ベッドルーム・テクノ' 世代の要望を掴みます。当時、まるでMoogのような '質感' という '売り文句' も冗談ではないくらい太く粘っこいその '質感' は、本機の '売り' である3つのVCFとNotch、Bandpass、Lowpass、Highpassの 'マルチアウト'、LFOとCV入力で様々な音響合成、空間定位の演出を生成することが出来ます。そんな本機の設計の元となったのはスティーヴ・ゲイがEMS時代に手がけた8オクターヴのFilterbankですね。








Marshall Electronics Time Modulator Model 5402
Keeley Electronics Bubble Tron

そんなラック型モジュレーションの究極なのがこちら、Marshall ElectronicsのTime Modulatorをご存知ですか?。1970年代後半にMarshall(ギターアンプのMarshallとは別の会社)から登場したこの1Uラックの本機は、まるで土管の中に頭を突っ込んでしまった時に体感できる 'コォ〜ッ' とした金属的変調感を体感することが可能。また 'CV/Gate' を備えることでモジュレーションからLFOのオシレータ発振まで、モジュラーシンセ的にコントロールする機能を備えるなど、コンパクトなフランジャーでは再現出来ない強烈なフランジングがたまりません。しかし、このラックの世界もRoland SBF-325 Stereo Flangerやフランク・ザッパが愛用したMicMix Dynaflangerを始め、コンパクトとは別の意味で '掘っていく' ともの凄い機材がありまする。そして、そんなMicMixのフランジ効果をシミュレートしたとされるKeeleyの新作、Bubble Tron。



そして強烈な 'フェイジング&フランジング' の極北と言ったら、コレ。ギリシャ人にしてフランス現代音楽の巨匠、ヤニス・クセナキスが1971年にイランの第5回シラズ国際芸術祭の委託により8トラック・テープで制作した大作 'Persepolis'。日没後のペルセポリス遺跡を舞台にレーザーを用いた光の照明と100台ものマルチ・スピーカーから放たれる暴力的な轟音ノイズは、その強力な 'ジェット機音' と相まってこの世の果てに吹き飛ばされていくようです。









並み居る 'Pedal Geek' の上位を占めるほどYoutuberとして常連となったDennis Kayzerさんのお馴染み、現行 'フランジャー' & 'フェイザー' のベスト10。そしていつも賑やかに笑い合ってるThat Pedal Showのレビュー。まだまだ知らない製品が世界にはたくさん存在している・・っていうのを教えてくれますね(笑)。

2019年1月3日木曜日

倍音とリング変調の世界 (再掲)

リング・モジュレーションといえば現代音楽の大家、カールハインツ・シュトゥックハウゼンが 'サウンド・プロジェクショニスト' の名でミキシング・コンソールの前に陣取り、'3群' に分かれたオーケストラ全体をリング変調させてしまった 'ライヴ・エレクトロニクス' の出発点 'Mixtur' (ミクストゥール)に尽きるでしょうね。





→ 'Mixtur' Liner Notes
Stockhausen: Sounds in Space: Mixtur
→ 'Mixtur' Liner Notes
Stockhausen: Sounds in Space: Mixtur

詳しいスコアというか解説というか '理屈' は上のリンク先を見て頂くとして、こう、何というか陰鬱な無調の世界でおっかない感じ。不条理な迷宮を彷徨ってしまう世界の '音響演出' においてリング・モジュレーターという機器の右に出るものはありません。映像でいうならフィルムが白黒反転して '裏焼き' になってしまった色のない世界というか、ゴ〜ンと鳴る濁った鐘の音、世界のあらゆる '調性' が捻れてしまったような金属的な質感が特徴です。以前にも ''飛び道具'の王様リング変調器' として取り上げましたけど、ほとんど制御不能ながらエフェクターの面白さを手軽に味合わせてくれるものということで、ここで再び取り上げます。





Oberheim Electronics Ring Modulator (Prototype)
Maestro Ring Modulator RM-1A
Maestro Ring Modulator RM-1B

そもそもは1960年代後半、後に 'オーバーハイム・シンセサイザー' で名を馳せるトム・オーバーハイムが同じUCLA音楽大学に在籍していたラッパ吹き、ドン・エリスより 'アンプリファイ' のための機器製作を依頼されたことから始まりました。この時少量製作した内のひとつがハリウッドの音響効果スタッフの耳を捉え、1968年の映画「猿の惑星」のSEとして随所に効果的な威力を発揮したことでGibsonのブランド、MaestroからRM-1として製品化される運びとなります。オーバーハイムは本機と1971年のフェイザー第一号、PS-1の大ヒットで大きな収入を得て、自らの会社であるOberheim Electronicsの経営とシンセサイザー開発資金のきっかけを掴みました。それまでは現代音楽における 'ライヴ・エレクトロニクス' の音響合成で威力を発揮したリング・モジュレーターが、このMaestro RM-1の市場への参入をきっかけにロックやジャズのフィールドで広く認知されたのです。







Gretsch / Jen HF Modulator ①
Gretsch / Jen HF Modulator ②
Heavy Electronics Saturn
Musitronics / Dan Armstrong Green Ringer -Frequency Multiplier-

そんなリング・モジュレーター唯一の操作法といっても過言ではない、エクスプレッション・ペダルによるフリケンシーのリアルタイム操作なイメージが強いのですが、一方では、ファズなどとは一風違う 'シンセライク' な歪みの '質感生成' にも威力を発揮。そんな地味そうな代表格が1970年代にJenが 'Gretch / Playboy' のブランドで発売していたHF Modulator。続く緑色のシンプルな面構えが渋いHeavey Electronics Saturnは、Sayer Payneが主宰するガレージ工房のもので、中身は一般的なリング変調の構成を備えながらDriveセクションにより強烈な歪みを生成します。ちなみに本機は、後述するCarlinのリング・モジュレーターをベースにした一台なのだとか。そして、このリング変調と近しい関係にあるのがアッパーオクターヴ・ファズによる1オクターヴ上の倍音生成。古くはRoger Mayerが特注で製作したOctavioをベースにその 'デッドコピー' となったTychobrahe Octaviaなどが代表的ですが、Mu-Tronでお馴染みMusitronicsが製作した 'アタッチメント' の一台、Dan Armstrong Green Ringerもそんな効果に特化したものですね。そもそもは英国のWereham Electronicsが手がけたものを米国のMusitronicsで生産したことで人気爆発、その後日本や韓国製のコピーが出回るほどポピュラーになりました。直接ギターの入力ジャック、または配線を変更してアンプの入力にそのまま 'プラグイン' する独特な仕様で、元々はMu-Tronの傑作オクターバー、Octave Dividerに内蔵されていたものを単体の 'アタッチメント' として仕上げたものでもあります。





Pigtronix Ringmaster -Analog Multiplier-

今年はPigtronixからリング・モジュレーターの新作であるRingmasterも登場。しかし、どういうワケかこの工房のものは 'ミニサイズ' になってからあまり話題に登らなくなった気が・・(汗)。'エレハモ' もそうなのだけどコスト削減、合理化、省エネがこういった仕様のニーズと直結しているのだと思いますが、やはりエフェクターが本来こだわってきた '何か' を失っているんじゃないか、と思うんですよね。それはさておき、本機は 'ギターシンセ' Mothershipのリング変調をベースにその緑色からDan Armstrong Green Ringerの '機能強化版' みたいなイメージなのかな?面白いのは本機に 'Sample + Hold' 機能を備えることで、Green RingerやOberheim VCF-200を愛したフランク・ザッパからインスパイアされていると示唆していること。





DOD Gonkulator
DOD FX13 Gonkulator Modulator (discontinued)

また、このようなディストーショナルなリング変調としてはこちら、DODから新装して再登場したGonkulatorがありますね。元々は1990年代後半に登場したFX13 Gonkulator Modulatorという '飛び道具' があり、当時ほとんど廃盤状態であったリング・モジュレーターの '復活' というかたちでニッチな層に売れました。わたしも興味本位で購入してみたのだけどスイッチをOnにした途端、高調波のピーッとしたノイズが発振状態でエグくも使いにくい一品だったことを思い出します(苦笑)。









Black Cat Products Ring Modulator
Electro-Harmonix Ring Thing
Dwarfcraft Devices Hax

1990年代後半、わたしが最初に購入したBlack Cat Products Ring Modulatorを皮切りに現在までいろんなタイプのリング・モジュレーターを試してきました。個人的に気に入ったのは名門Electro-Harmonixが満を持して復刻したFrequency Analyzer EH-5000。現在の小型となった 'Xo' シリーズではなく分厚い鉄板の大柄な1970年代の復刻ものなのですが、これはエクスプレッション・ペダルの操作ができないんですよねえ。現在ではより多目的なプログラム機能を備えるRing Thingであったり、'Clash' ツマミで電圧を可変させると共に歪ませながらTuneツマミでオシレータ演奏も可能なDwarfcraft Devices Haxといった '発展型' 機種も増えたものの、それ以前は、本当にフリケンシーのエクスプレッション・コントロールが唯一の '飛び道具' というイメージだったのです。そういう意味では、初めからエクスプレッション・ペダルのないこの仕様は、逆に本機のツマミを通してアンプの '箱鳴り' という一風変わったシミュレートの探求へと向かわせます。このリング変調による非整数倍音が生み出す '箱鳴り' に興味を持ったのは、ギタリストの土屋昌巳さんによる雑誌のインタビュー記事がきっかけでした。

"ギターもエレキは自宅でVoxのAC-50というアンプからのアウトをGroove Tubeに通して、そこからダイレクトに録りますね。まあ、これはスピーカー・シミュレーターと言うよりは、独特の新しいエフェクターというつもりで使っています。どんなにスピーカー・ユニットから出る音をシミュレートしても、スピーカー・ボックスが鳴っている感じ、ある種の唸りというか、非音楽的な倍音が出ているあの箱鳴りの感じは出せませんからね。そこで、僕はGroove Tubeからの出力にさらにリング・モジュレーターをうす〜くかけて、全然音楽と関係ない倍音を少しずつ加えていって、それらしさを出しているんですよ。"

なるほど。土屋さんは自宅という環境においてアンプを使えないというところからこのやり方を見つけたようですが、特別ギタリストと何の縁もないわたしにとって土屋さんと同じ結果になることはなくとも、こういう変わった音作りの話は大好きです(笑)。とりあえず、その興味深い話の続きを聞きましょう。

"僕が使っているリング・モジュレーターは、電子工学の会社に勤めている日本の方が作ってくれたハンドメイドもの。今回使ったのはモノラル・タイプなんですけれど、ステレオ・タイプもつい1週間くらい前に出来上がったので、次のアルバムではステレオのエフェクターからの出力は全部そのリング・モジュレーターを通そうかなと思っています。アバンギャルドなモジュレーション・サウンドに行くのではなくて、よりナチュラルな倍音を作るためにね。例えば、実際のルーム・エコーがどういうものか知っていると、どんなに良いデジタル・リバーブのルーム・エコーを聴かされても、'何だかなあ' となっちゃう。でもリング・モジュレーターを通すとその '何だかなあ' がある程度補正できるんですよ。"

このような土屋さんの言われる '箱鳴り' のシミュレータという発想は、そのまま '飛び道具' ではないリング・モジュレーターの再発見として嬉しい収穫でしたね。例えば、Frequency Analyzerの場合だとギュイ〜ンと変調するShiftを追っかけるように追従するFineというツマミが他社の製品にはない独特なものでして、これは結構 '箱鳴り' の演出において効果的なんじゃないか?などと妄想したことがありまする。そう、一通り 'エグい' 使い方で一周するとFrequency Analyzerのような 'シブい' ヤツの倍音生成にハマるのですヨ。



Free The Tone Ring Modulator RM-1S (discontinued)

こちらはそんな土屋氏とも親交のあるLuna Seaのギタリスト、Sugizo氏のシグネチュア・モデルともいうべきFree The Tone Ring Modulator RM-1S。2017年12月に280台限定で発売された本機は未だ彼のトーンを目指すユーザーから 'プレミア視' されております。特別Luna Seaに詳しくはないのだけど(汗)、この動画を見てみると他社の製品とはかなり異なったかかり方というか、いわゆる '飛び道具' というよりリードトーンの味付けとして独特な個性を備えておりますねえ。リング・モジュレーターでは必須のエクスプレッション・ペダル端子がないことからも 'ギュイ〜ン' とは真逆の方向性なのは明らかだ。







Colorsound Ring Modulator
Masf Pedals Swan Song (discontinued)
Bananana Effects

一方で、リング変調のフリケンシー・コントロールに重点を置いたものとしては、1970年代に登場したColorsoundのペダル内蔵型があります。大抵の製品は外部にエクスプレション・ペダルを接続する仕様にあって、むしろ 'ペダル内蔵' というのはリング・モジュレーターにとってもっと普及して良いと思うんですけどね。このColorsoundのは1990年代初めにズラッと復刻版が市場に現れた内のラインナップに入っていたのですが、その特殊な効果のためか早々と見なくなり、わたしがエフェクターを漁るようになった1990年代後半にはすでにプレミアが付いておりました。なかなかにささぐれ立った荒い変調具合で、この後に取り上げるCarlinのRing Modulatorと近い匂いを感じますね。その後、日本を代表するノイズ・メーカーであるMasf PedalsからもSwan Songという一体型が現れましたけど、ガレージ工房であるBananana Effects Growl 567はその 'エクスプレッション操作' を光センサーによりやってしまうナイスな一品!









Copilot Fx Planetoid
Copilot Fx Antenna
Copilot Fx Antenna 2 - 8 Knob Version ①
Copilot Fx Antenna 2 - 8 Knob Version ②
Copilot Fx Broadcast BC-2

そして、中南米のドミニカから '飛び道具' なエフェクターばかり小まめにモデル・チェンジしながら製作するCopilot Fx。当初のAndoroid Modulatorという名前からPlanetoidと変更、さらにヴァージョンアップされたAntennaは4つのツマミから8つへと大幅に強化されるなどこの工房を代表する一台。ここから 'モジュラー' 的音作りとして威力を発揮する 'エクスプレッション・ボックス' のBroadcast BC-2は、単なるフリケンシーの変調のみならず、ランダマイズなLFOなど多様な音作りを可能とします。






Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1

このような 'ペダル・コントロール' のリング変調としては、その源流ともいうべき日本が誇る偉大なエンジニア、三枝文夫氏が手がけた京王技研(Korg)のSynthesizer Traveller F-1もご紹介しましょう。国産初のシンセサイザーKorg 700に搭載された 'Traveller' フィルターは、-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成されたもので、それぞれの動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。このF-1はそんな 'Traveller' を単体で抜き出したものであり、ファズワウからオシレーター発振、VCFコントロールに至るまで未だ孤高の存在として奏者への挑戦状を叩き付けております。本機の製品開発にはジャズ・ピアニストの佐藤允彦氏が携わっており、そんな当時のプロトタイプについてこう述べております。なんと当初はペダルの縦方向のみならず、横にもスライドさせてコントロールする仕様だったとは・・。

"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"








Moody Sounds / Carlin Pedals

本来リング・モジュレーターとは、2つの入力の和と差をマルチプライヤー(乗算器)という回路で掛け合わせることで非整数倍音を生成するものです。大抵のリング・モジュレーターには掛け合わせるためのオシレータが内蔵されておりますが、このCarlinのヤツはそんな原点の構造に則って、A、Bふたつの入出力を掛け合わせて音作りを行える珍しい一台。オリジナルはスウェーデンのエンジニア、Nils Olof  Carlinの手によりたったの3台のみ製作されたという超レアもの。それを本人監修のもとMoody Soundsが復刻した本機、わたしも早速購入しましたが、ひと言で表現するならば '塩辛い'!いや、ヘンな表現で申し訳ないですけど(笑)、通常のリング変調にみるシンセっぽい感じとは違い、チリチリとした歪みと共にビーンッ!と唸る感じに柔らかさは微塵もありません。かなり独特というか、ステレオ音源を通しても良いし、B出力をB入力にパッチングしてA入力と掛け合わせても良いし、いろいろな発想を刺激してくれますヨ。ちょっと凝ったセッティングとしては、CarlinのB入力にMasf Pedalsのオシレータ発振を軸とした風変わりな一台。





Subdecay VM-1 Virtuvian Mod. ①
Subdecay VM-1 Virtuvian Mod. ②
Lastgasp Art Laboratories Sick Pitch King (discontinued)
Lastgasp Art Laboratories Sick Pitch King Jr.

そんな外部オシレータとの連携できる機器の一方、SubdecayのVM-1は、本体内に7つの切り替え式キャリア・オシレータを備え、それぞれE、A、D、G、B、E、Aと優れたピッチ変換で追従、Fineツマミで上下マイナー3度、EntropyスイッチがChaosモードの場合はCarrierとFineツマミ合わせて19Hzから2.5kHzの8オクターヴの範囲でレンジ調整し、変わった倍音構成を生成する音楽的アプローチの変調を得意とします。そして、日本発の 'ノイズ・メーカー' として特異な製品開発によるラインナップを展開する 'L.A.L.' ことLastgasp Art Laboratories。現在はオーストラリアに拠点を移しているようですが、このSick Pitch Kingは 'エレハモ' やMoogerfoogerが登場する前に市場で購入できた貴重なリング・モジュレーターでした。この初代機はCarlin同様、現在でも他社の製品ではあまり見ない 'Carrier' 入力が備えており、ここからいろんな音源を突っ込んでリング変調の実験に活躍したことを思い出します。









Moog Moogerfooger
Fairfield Circuitry Randy's Revenge
Way Huge Electronics Ring Worm WHE606 (discontinued)

現在の市場で高品質なリング・モジュレーターとして人気を集めているのが、'Moog博士の置き土産' ともいうべきMoogerfooger MF-102とカナダの工房、Fairfield CircuitryのRandy's Revengeでしょう。特にRandy's Revengeは、そのコンパクトなサイズに多様な機能を詰め込み、これまでの歪みきって 'ノイジーな' イメージのリング変調にあって、本機は実にクリアーで粒の際立った効果が特徴的です。ただ無調にギザギザと濁った '音響' になるだけと思い込んでいる人は、是非とも本機の高品質なサウンドにヤラれて下さいませ。また、高品質ということではJeorge Trippsの手がけるWay Hugeから登場したRing Wormも評価が高いですね。DC18Vという広いヘッドルームもそんな音質に貢献している思うのだけど、残念ながらすでに生産終了しているので中古で見つけるしかありません。







Z.Vex Effects

やっぱりZ.Vex Effects Ringtoneの動画は面白い。もう10年以上前の動画ながら未だに本機を使いこなすプレイヤーが現れていない現在の状況で、俗に 'エフェクター界の奇才' と呼ばれるZachary Vexさんの斜め上を行く発想は凄すぎます。デジマートなどで検索すれば安価な中古が出回っており、いつか試そうと思っているのだけどなかなか手を出す勇気がない(笑)。いや、でもエフェクターってそもそもこういう 'ぶっ飛んだ' 体験をするものですよね。エクスプレッション・ペダルでもなければ原音とのミックス具合でもなく、'歪み' 系との '2 in 1' でもない。8ステップ・シーケンスをリング・モジュレーターに組み合わせてペダルにしてしまうセンス、普通のシンセ・メーカーでも思いつきませんヨ。ザッカリーさん自らが解説するこの動画では、フリケンシーを司る8つの各ステップのエフェクト音と原音を調整し、微妙に狂ったオクターヴを合わせるというなかなかに面白い展開。現行品は倍の16ステップを備えてMIDI同期にも対応するSuper Ringtoneがラインナップされておりますが、この8ステップ・シーケンサーの '飛び道具' Ringtone、まだまだ探求する価値アリ、です。











Death by Audio Robot
Dreadbox Sonic Bits - LoFi Bit Crusher Delay
Dreadbox Kappa - 8 Step Sequencer + LFO
Koma Elektronik BD101 Analog Gate / Delay
Sherman Filterbank 2

リング・モジュレーターと類似性の高い効果として、いわゆるフランジャーの付加機能として 'エレハモ' 製品でお馴染み 'Filter Matrix' や、'ロービット' 系のゲーム・サウンドに聴かれるブチブチした 'MXR Blue Box風' ファズがあります。ギリシャ産のDreadboxとドイツ産Koma Elektronikはビット・クラッシャー系ディレイながら、どちらも十分リング・モジュレーターの代用、発展系としてその豊富な音作り含め使える優れた一品。また、思いっきり '暴走したロボット' をイメージした 'ロービット' 系のDeath by Audio Robotも狂ったピッチ・シフティングを披露します。そしてコンパクト・エフェクターではなく、アナログ・シンセサイザーにおいてリング・モジュレーションと同義語と言えるのがAM(Amplitude Modulation)とFM(Frequency Modulation)変調による音作りですね。アナログ・シンセKorg MS-20からの信号をSherman Filterbank 2のAM、FMそれぞれの入力から掛け合わせることで狂った非整数倍音を生成します。





Catalinbread Bicycle Delay

以前、リング・モジュレーターの '隠し味' 的な効果としてリヴァーブの後ろにかけるセッティングを試しておりました。いわゆるザラついた '質感' の生成とアンプの '箱鳴り' 感を狙ったものだったのだけど、じゃ、そんなふたつの効果を一緒にしちゃったものってないの?とことで見つけたのがこちら、Catalinbread Bicycle Delay。グニャリとサイケなフォントを施した本機は上で紹介したDreadbox Sonic Bitsと同様のディレイながら 'ロービット' 系のファミコンっぽい歪みではありません。リング変調と狂ったピッチシフト、フィードバックに至るまで幅広くカバーし、まさに '2台目のディレイ' としてアピールするに相応しい内容でございます。







Lovetone Ring Stinger
Elta Music Devices

1990年代にはほとんど新製品のなかったリング・モジュレーターですが、名門Electro-HarmonixとMoogerfoogerをきっかけにして今ではかなり小さな工房からも製品化されており、それだけコンパクト・エフェクターに対する多様化が広がったと見て良いと思います。もう 'ニッチ' でもなんでもなく、定番と一緒にちょっとぶっ飛びたいとき一台足元へ置いとく、という感じで、どれにしようか迷うくらい選択肢があるっていうのは嬉しいですヨ。こういう製品はやはりシンセサイザーの設計を得意とするメーカーが多く、ロシアでその手の製品を 'ペダル化' してラインナップするElta Music Devicesは今後の有望株。大体このString Ringerというのが、Lovetoneのリング・モジュレーターであるRing Stingerを 'デッドコピー' したものというから尋常じゃない。こう、何というか製品化のニーズを間違えてるというか(笑)、エフェクター好きの自分からしたらこの血迷ったセレクトに 'Good Job!' 以外の何ものでもないのだけど、市場調査的には完全に失敗でしょうね。しかし、どっかの誰かひとりにでもソレ欲しい!と思わせたなら完全に成功なのが、このリング・モジュレーターという存在なのです。