2017年11月5日日曜日

欲望する機械 - 'グリッチ' の制圧 -

コンパクト・エフェクター界 '最後の砦' というのは大げさ過ぎますが、ここ近年市場でその分野を賑わせているのがこの 'グリッチ/スタッター' 系のエフェクター。以前に第一弾ともいうべき '欲望する機械 - 'グリッチ' の反乱 -' で取り上げたのは、Masf PedalsのPossessedとRaptio、英国のmwfx Judder、Red Panda Particle、S3N Super FlutterとMicro Flutter、Butterfly Fx RARC(Round And Round Clock)などなど。





Masf Pedals Possessed
Masf Pedals Raptio
Catalinbread Csidman
Malekko Charlie Foxtrot

他に ''ジャンク' な生成装置作成法' でご紹介したCatalinbread CsidmanとMalekko Charlie Foxtrotもあり、おお、結構各社から出揃っているという感じですね。しかし、個人のデジタルにおけるプログラミングとソフト開発において以下、さらに面白そうなものが市場を賑わわせております。基本的にはショート・ディレイにおけるHold機能をランダマイズに操作できるという構造のようで、そこにピッチ・シフターを混ぜたり、トレモロからリング・モジュレーション、エンヴェロープ・フィルターを加えてみたり、という各社ならではの 'アイデア' が散りばめられていると言ったらいいでしょうか。ちなみにこのCsidman(コレで 'Discman' と読みます)、わたしもラッパでブチブチ言わせながら愛用中です。











Sunfish Audio Autoscopy
Triode Pedals
Recovery Effects Bad Comrade
Recovery Effects Cutting Room Floor
Mantic Effects Flex Pro

こちらはディレイを特集した '真夏の蜃気楼: エコーの囁き' で取り上げた国産もの。Masf PedalsをきっかけにしてS3N、Butterfly Fx、Sunfish Audioと 'Maid in Japan' が結構頑張っているのは特筆したいですね。歪み系や空間系などに比べて決して売れるペダルというワケではないだけに、それでも欲しがる 'ニッチな' 層に対して機能と品質、コストがこれら製品の人気を左右すると思います。このAutoscopyと米国メリーランド州ボルチモアで製作している工房、Triode PedalsのHex Delayはそれぞれ基本的なディレイの機能の上に '飛び道具' ワザを乗っけたもの。Hex DelayはFeedbackを上げていくと歪んでいくところに特徴があり、これとディレイ・タイムに相当するCoarseというツマミを操作することで 'オヴァル的グリッチ' を生成します。 そして '歪み' ということでさらに過激なヤツ、米国ワシントン州シアトル在住のGraig Mankel氏主宰によるRecovery EffectsのBad ComradeとCutting Room Floor。そのBad Comradeはディストーションを基本にエコーと 'Gritch' ツマミ、'Stutter' & 'Freeze' スイッチに加えエクスプレッション・ペダルで跳びまくり、Cutting Room Floorはリヴァーブとモジュレーションに 'グリッチ' 機能をてんこ盛りともう何をか言わんや。さて、'歪み' 繋がりでこんなロービットにブチブチと千切れるフィルターの変異系はいかがでしょう?ケースが通常のものを引っくり返して用いているのもユニークなら、6つあるツマミもそれぞれLVL(マスター・ヴォリューム)、Focus(VCOのアタックをPumpノブとリンクして調整)、Pump(Focusノブとリンクしてエンヴェロープの範囲と時間を調整)、Mix(エフェクト音と原音のミックス)、Filter(6種のVCO切り替え)、Rate(フットスイッチ右側でLFOの周波数を調整)、$スイッチ(フィルターで選択されたVCOのディケイを2種から切り替え)、&スイッチ(フィルターで選択されたVCOの範囲を2種から切り替え)と・・ふぅ、取説がないと追い切れないですがかな〜り狂ったサウンドを生成してくれますねえ。











Hologram Electronics Dream Sequence
Hologram Electronics Infinite Jets Resynthesizer
Meris Effects Ottobit Jr.
Bananana Effects
Butterfly Fx RARC (Round And Round Clock)

こちらもディレイを特集した '真夏の蜃気楼: エコーの囁き' で取り上げたもので、それぞれトレモロの変異系Dream Sequenceとビット・クラッシャーの変異系Ottobit Jr.。そしてHologramの 'ギターシンセ' ともいうべきInfinite Jets Resynthesizer。以前にRed PandaがParticleでこの市場に参入してきた '衝撃' を、今度はこのHologramが担っていくのかもしれません。そうそう、あっという間に売り切れてしまった国産のS3Nと入れ替えというワケではありませんが、大阪(最近、東京に移転したらしい)のガレージ工房であるBananana Effects('バナナ' じゃなく 'バナナナ' です)の '真っ黄色な' ピッチ・シフター/グリッチ・ディレイのMandalaとランダム・アルペジエイターのTararira。このサイズでピカピカに光りながらこの機能・・価格含め素晴らしい快挙ですね。S3Nの製品同様かなり 'ハイファイ' なので、この後に何か汚し系のエフェクターと組み合わせてみたいですが、この辺りは中、高、低域をそれぞれ削るローファイなフィルターを備えたButterfly Fx RARC(Round And Round Clock)の方が有利かも(今や入手は難しいですけど)。







Ezhi & Aka The Blob 2
Ezhi & Aka
Elta Music Devices

海外からも '新規参入組' が続々・・。ロシアのガレージ工房ともいうべきEzhi & Akaは、ほとんどこのような 'ジャンル' に類するペダルばかり少量生産しているのですが、このThe Blob 2、何とも 'ペダル・ジャンキー' を刺激するルックスではありませんか!トラックボールのアイデアをコントローラーに使うとは、なるほど。しかしロシアはその発想やデザイン・センス含め、これからのエフェクター市場における有望株になるのでは、と強く期待しております。できたら表記も読めなくていいから、旧ソビエト製エフェクターよろしくキリル文字表記でお願いしたい!そしていま、わたしの中でグーンとその株が上がっているElta Music Devices!かな〜りKnobsさんの動画に影響受けてますがSDカードのカートリッジ式マルチ・エフェクターのConsole、コレは間違いなく流行る!







Dwarfcraft Devices The Pitch Grinder
Dwarfcraft Devices Wizard of Pitch
Dwarfcraft Devices Super Wizard

比較的早くから 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターにアプローチしていた米国のガレージ工房、Dwarfcraft Devices。初期はホントにガレージ臭丸出しの荒い作りでしたが、ここ最近はかなり洗練されたモデルがラインナップ。このThe Pitch Grinderは 'グリッチ/スタッター' の効果をランダム・アルペジエイターとピッチ・シフトで設定して、それをいかにも 'ローファイ' な質感でまとめあげております。もうひとつの同種なRed Panda Particleの 'ハイファイ' さと比較するとよく分かるハズ。そしてこのThe Pitch Grinderからピッチ・シフトの機能のみ取出し、MixとSpeedのコントロールを付けたのがこのWizard of Pitch。本機のBenderというトグル・スイッチをOnにすることで、ピッチが上昇下降を繰り返すというところにもはやフツーのピッチ・シフターではないというか、さらにその機能強化版、Super Wizardまで作ってしまうのだから・・いやはや。まさにDwarfcraftの 'グリッチ' 三兄弟と呼ぶに相応しいものです。







Red Panda Particle
Red Panda
Lightfoot Labs
Lightfoot Labs Goatkeeper GK.2
Hexe Guitar Electronics reVolver Dx

そして、mwfx JudderやMasf Pedals Possessedと並び 'グリッチ' 界を賑わせたRed Pandaが誇る名機、Particle。ショート・ディレイの 'Hold' 機能とピッチ・シフトを軸にここまで高品質、かつ音楽的に表現した製品を他に知りません。しかし、これら動画をUPするYoutuber、Knobsさんは 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターに焦点を絞ってセレクトしている分、どれもランダマイズな魅力を引き出したオシャレな動画はセンス良し!また、Hologram Dream Sequenceの 'トレモロ変異系' の流れに先鞭を付けた今や幻の一台、Lightfoot Labs Goatkeeper。オレゴンの片田舎から突如羊のマークと共に現れ、数量限定でGK.1からGK.3までのシリーズを残して疾風のように去って行ってしまった変態トレモロ、というより、LFOとVCAを基本として明らかにエレクトロニカ以降の 'グリッチ/スタッター' に影響を受けたものでした。そしてHexe Guitar ElectronicsのreVolver。一番最初に上がった動画が2010年ですから、この手の製品としてはmwfx Judderと同じくらい先駆的製品と言っていいでしょう。現在では 'DX' として着々とヴァージョンアップを遂げておりますが、本機は最初からかなり完成度の高い 'グリッチ/スタッター' の効果を誇っており、日本でのMasf Pedalsの人気とぶつけるようにどこかの代理店が扱っていたら、かなりヒットしたんじゃないかと思いますねえ。ここも本機のほか、かな〜り変態的なペダルが揃っていて面白そう。







Landscape Stereo Field
Simon The Magpie

そんなKnobsさん、さっそく新しい 'グリッチ/スタッター' 系の機器をラインナップ。米国はニューヨーク、ブルックリンに工房を構えるLandscapeが製作する本機は、いわゆるステレオ音源をパッチなどでシンセサイズするもので、ユニークな金属板をタッチセンスして音楽を知らない人にも面白い音作りで没頭できる、というのがコンセプトとのこと。その昔、英国の玩具メーカーから発売されたStylophoneのような、ペンツールのスタイラスで金属板をなぞって音作りするのを思い出しました。というか、ホントにこう、物欲を刺激されるオシャレな動画作りをしますよねえ・・。そして、Knobsさんと並んでYoutubeでガジェット満載のノイジーかつ 'グリッチ' なペダルばかり紹介するSimon The Magpieさんが '共演' した!いや、このMagpieさんは 'DIY' でオリジナルのガジェット機器を製作、販売しているようで、それをKobsさんが購入、Youtubeに上げました。しかしMagpie Pedals、変態かつ面白いもんばかり作って売ってるなあ。







Alexander Pedals Syntax Error
SSD Devices Atom Smasher
mwfx Judder

さあ、じゃんじゃんと '後続' はやってきますヨ。米国のガレージ工房、Alexander Pedalsの新製品、Syntax Error。'ガジェット' 的ポップな面構えからは想像もつかないくらい、実に多彩な音色を備えており、グリッチ/スタッターからディレイはもちろん、ロービット系、リング・モジュレーター、モジュレーション、ピッチ・シフトと・・ちょっとRed PandaのParticleをもう少し荒くしたような魅力に溢れておりますねえ。因みにこのメーカーは日本ではLep/Ninvoltが代理店をやっているようですが、本機はまだ日本未発売のもののようです。そして英国はマンチェスターのガレージ工房、SSD Devicesからその名も '分子破壊' と名付けられた新製品、Atom Smasher。本機もまた多彩な機能を誇っており、その内訳は以下にStutter、Glitch、Reverse Ramp Delay、Dual Pitch Delay、Pitch Shift、Greitch Reverb、Pitch Shift Reverb、Reverse Reverbと、ふぅ。また左右フットスイッチの内、左側はこの手でお馴染みモメンタリー・スイッチとなっており、リアルタイム性に寄った作りと言っていいですね。そして本機を印象付ける赤いカバーと小さなスイッチ・・ええ、意味有り気のようでいて、特に機能と関係ない飾り的デザインで御座います(笑)。最後の青い筐体のものは、このグリッチ/スタッター系エフェクターの先鞭を付けた英国のガレージ工房、mwfxによるJudderの現行機です。元々は木材をくり抜いたような筐体にツマミやスイッチを備えるハンドメイド丸出しの荒い作りでしたが、Judderの話題で会社が潤ったのか、いわゆるフツーのエフェクター・デザインへと洗練されておりまする。









Xotic Effects Robotalk-RI
Oberheim Electronics Voltage Controlled Filter VCF-200
Maestro Filter Sample / Hold FSH-1
Maestro Universal Synthesizer System USS-1

エレクトロニカを通じて広まったこの手の 'ランダマイズ' な効果。そのきっかけのひとつに1990年代後半、Xotic Guitarsから発売されたエンヴェロープ・フィルター、Robotalkの存在があります。通常のワウとチャカポコな 'ランダマイズ' に飛び跳ねるランダム・アルペジエイターの2モードを備えたそれは、遡ること1970年代半ば、Maestroから発売されたエンヴェロープ・フィルター、Filter Sample / Hold FSH-1に源流がありました。設計者は 'オーバーハイム・シンセサイザー' で名を馳せるトム・オーバーハイムで、自らの会社からもVoltage Controlled Filter VCF-200としてラインナップするなど、やはりシンセ的なアプローチから発案された独特な効果を有します。本機を用いた代表的なものとしてはフランク・ザッパの 'Ship Ahoy' などが有名ですね。この 'ギターシンセ' な体裁のMaestro USS-1は同社の代表的エフェクツ(ファズ、フェイザー、エンヴェロープ・モディファイア、オクターバー)をそのまま '全部乗せ' した集大成機で、そこにこのFSH-1の機能も内蔵されております。Robotalkの登場はこの歴史の狭間に埋もれていた '稀有な効果' を掘り起こし、今や、エンヴェロープ・フィルターに内蔵される代表的な機能のひとつとして、後発のZ.Vex EffectsやSubdecayを始めとした各社製品の 'スタンダード' として認知されました。









Z.Vex Effects Loop Gate
Koma Elektronik BD101 Analog Gate / Delay

さあ、こちらは番外編。いわば 'グリッチもどき' というべきか、ノイズ・ゲートとミュート・スイッチを利用した 'キルスイッチ' の変異系3種をご紹介。最初のZ.Vex Effects Loop Gateは本体にSend/Returnを備え、そこに歪み系などをインサートして、何でもこのLoop Gateで 'ブツ切り' してやろうというもの。本機はNormalとChopの2モードを有し、Normalではインサートしたエフェクトに対し通常のゲートとして働き、その '切り加減' を入力感度のSens.とエンヴェロープに作用するReleaseで調整します。そして 'グリッチ風' なトレモロ的 'ブツ切れ' 感を演出するChop。この時のReleaseはゲートの開閉速度として、トレモロのSpeedツマミと同等の働きに変わります。続く 'ドイツ版Moogerfooger' ともいうべきKoma Elektronikは、10ステップ・シーケンスによるランダム・アルペジエイターFT201も良いのですが、100msの超ショート・ディレイとゲートを組み合わせた 'ビット・クラッシャー' BD101の 'ゲート・セクション' を用いる 'ブツ切り' 感も面白いです。VCAをエンヴェロープ・ジェネレーターでトリガーしたような効果は、ちょっとLightfoot Labs Goatkeeperと共通すると思っていたら、そのGoatkeeperの 'LFO Out' をBD101の 'Speed' や 'Ext Gate' に繋いでさらに 'ランダマイズ' 。Dwarfcraft Devices Mementoは、その 'ブツ切れ' 感をもっとランダムな 'グリッチ/スタッター' 効果に寄せたもの。基本的にミュートするための 'キルスイッチ' を応用したもので、このカットするテンポを 'キルパターン' として 'Killスイッチ' にタップテンポで記憶させるだけ。後は 'Re-Killスイッチ' を踏めばその踏んだテンポの状態で記憶した 'ブツ切れ' 感が再現されます。また、この再現中に 'Killスイッチ' を踏めばキルパターンの速度を2倍から4倍にUPできます。こういう発想は明らかにエレクトロニカ以降から刺激を受けたものでしょうね。



Elektron Octatrack Mk.Ⅱ

さぁて、ここまではコンパクト・エフェクターによる 'グリッチ/スタッター' の効果を紹介してまいりましたが、こちらは8トラック装備のリアルタイム・サンプラー&シーケンサーで難解な操作から脱落者続出(笑)の孤高の存在、Elektron OctatrackがいよいよMk.Ⅱにヴァージョンアップされて再登場です。これもKnobsさんの手にかかるとこんな素敵な 'グラニュラー・シンセシス' のデモ動画になっちゃうのだから、皆さま、本機購入の際にはこの動画だけで騙されないように!逆に使いこなせれば最強の 'エフェクター' ともいうべき無限の '素材生成' をお約束いたします(ちょっと言い過ぎか?)。





しかし、これら 'グラニュラー・シンセシス' の発想をそのまま、これまでにない素晴らしい音響作品へと昇華させたマーカス・ポップこと 'オヴァル' こそ、まさに 'グリッチ' のオリジネイターと呼ぶに相応しいでしょう。一切の 'ガジェット' を拒否して、既成のCDの盤面に傷を入れ、それをランダム(という名のデジタルにおける '正しい' 間違い)な '読み取りエラー' で生成したものをサンプリング、膨大なアーカイブスを構築、編集するその 'メソッド' は、そのまま美術でもなければ 'サウンドアート' でもなく、まぎれもなくオヴァルの手により '作曲された' 音楽作品なのです。

2017年11月4日土曜日

エコー '換骨奪胎'

空間生成を生み出すと共にトリッキーな効果音にも威力を発揮するディレイ。磁気テープを用いたテープ式エコー、磁気ディスクを用いたディスク式エコー、BBDチップを用いたアナログ・ディレイと '往年の名機' たちは、そのステージで複数テープヘッドのリアルタイム操作とテープ・スピードの変調、フィードバックによる発振、グニャグニャに音程の狂うモジュレーションなど、単に '音を飛ばす' だけではないアプローチで音楽の '領域' を広げました。



そんな中で近年、各社ディレイの中にディレイのトーンに対して外部エフェクターを用いて加工できる、'インサート' や 'センド・リターン' を備えた特殊なものが現れております。あまり一般的な仕様ではないものの、ディレイをより攻撃的に用いて新たな '使用法' を見つけたいユーザーに打ってつけのこの '専用端子'。'直列' ではなく、まるで中で '孕んで' しまったかのような 'やり方' を推奨する、そんな一風変わったディレイたちを見ていきましょう。





Blackbox Effects Quicksilver
OohLaLa Manufacturing Quicksilver
Guyatone SVm5 Slow Volume

わたしの記憶でそんな '特殊な' 機能のディレイの先鞭を付けたのがこちら、Blackbox Effects Quicksilverが最初だったのではないかと思います。BBDチップを用いたアナログ・ディレイながら、2つの設定したディレイタイムを瞬時にスイッチで切り替え、また外部エクスプレッション・ペダルで変調できるなど、かなりの 'ライヴ派' に訴えたレアかつ優秀な一台。その後OohLaLa Manufacturingと社名を変えてからも生産され、当時のアナログ・ディレイ製品の中では最も多機能、かつ '攻撃的' なディレイとして評価が高かったですね。下の動画ではその 'センド・リターン' にGuyatoneのエンヴェロープ・モディファイアSV-2 Slow Volumeを繋いで 'ヴォリューム・エコー' の幻想的な効果を生成。これは単に直列で繋いだだけとは一味違うユニークな発想だと思いますヨ。このSV-2の後継機が 'Mighty Micro' シリーズのSVm5なのですが、今や会社ごと消失してしまいました(商標を買取り、米国で新生 'Guyatone' ブランドとして復活しているようですけど)。







Boss PS-6 Harmonist
MXR / ART Pitch Transposer

'ペダル・ジャンキー' のDennis KayzerさんがQuicksilverの 'センド・リターン' にBossのピッチ・シフターPS-3をインサート、やっぱしキラキラしますねえ。これはディレイにピッチ・シフターをインサートした例ですが、逆にピッチ・シフターの 'インサート' へディレイを挟んだのがUKダブの巨匠、マッド・プロフェッサーの 'トレードマーク' であるラック型ピッチ・シフターのMXR Ptch Transposerで 'インサート' するワザ。これ、キラキラと階段状にピッチが変わっていくのが面白い。同時代のEventideの製品に比べると決して精度は高くありませんが、この 'ハイ落ち' が独特な初期デジタル特有の '太さ' に繋がっていることからギタリストに愛されたのも分かります。ピッチ・チェンジの量をメモリーすることが出来て、それをフット・スイッチで呼び出すことも可能なのですが、格好良いのがツマミがタッチ・センスのセンサーとなっており、それを回さずともトントンと叩くだけでピッチ・チェンジが変わるのです!おお、ハイテクだ(笑)。









Maestro Envelope Modifier ME-1
Boss Slow Gear SG-1
Morley ACV Attack-Volume
Electro-Harmonix Attack Decay
Pigtronix Philosopher King
Malekko A.D.(Attack / Decay)
Malekko Sneak Attack + Lil Buddy

Guyatone SV-2やBoss SG-1などのエンヴェロープ・モディファイア、いまいち使いにくいよなあ、と思っている方々は多いと思います。本機はコンプの亜流というか、コンプレッサーの動作のひとつとしてVCAによるサスティンの操作があり、それをゲートとエンヴェロープ・ジェネレーターで発展させたものがこのエンヴェロープ・モディファイア。そう、タッチセンスで音量を自動でコントロールしようとするものです。ジャンル的には 'オート・ヴォリューム' と呼ばれるヴォリューム・ペダルの亜流的位置付けでもありますが、その中身はコンプレッサーのアタックとゲート、VCAにより動作する 'シンセサイズ' のADSR機能と同一のものであります。古くはトム・オーバーハイムの設計したMaestro Envelope Modifier ME-1、Boss Slow Gear SG-1、変わり種としては巨大ペダルでお馴染みのMorleyから登場したACV Attack Volumeなどがありました。これは本体と繋がるピックアップ内蔵のピックで効果をかける何とも奇妙な一品で、同種の機能を用いたワウのPik-A-Wahもラインナップされました。そしてこれらと同時期、'エレハモ' で設計を担当していたハワード・デイビスが手がけたのがAttack Decay。さらにそれを近年、Pigtronixがデイビスを新たに迎えて設計、発展させたものがAttack Sustainと後継機のPhilosopher Kingです。この2機種はどちらもコンプレッサーと 'オート・ヴォリューム'、テープの逆回転風 'テープ・リヴァース' からLFO的パーカッシヴなトレモロの特殊効果まで、ある意味 '好き者' にはたまらない効果を備えております。また、Malekkoからは同種のSneak Attackも登場しました。ピッキングやダイナミズムに対して非常に繊細なため、なかなか効果的な使い方をするのに難儀したのかイマイチ流行らなかったエンヴェロープ・モディファイア。ディレイに 'インサート' することで 'エコー・ヴォリューム' を生成できるので、本機を使い余して 'タンスの肥やし' となっている方々、久しぶりに引っ張り出してみて下さい(単純にヴォリューム・ペダルを 'インサート' してもOKですヨ)。







Skreddy Pedals Echo
Carl Martin Echotone
Holowon Industries Tape Soup

米国カリフォルニアでMarc Ahlfsのデザインにより製作するガレージ工房、Skreddy Pedalsの人気ディレイであるその名もEcho。ハンマートーンによるレトロな表面仕上げからも分かる通り、本機はかなりアナログライクなディレイのようでElectro-Harmonix Deluxe Memory ManやStrymon El Capistanとの 'アナログ対決' 的な動画がYoutubeにも上がっております。ここではその 'センド・リターン' にフェイザーのMXR Phase 90をセレクト。そして '真夏の蜃気楼: エコーの囁き' でも取り上げたCarl Martin Echotone。こちらは本機の 'センド・リターン' にBoss CE-2 Chorusを繋いで 'コーラス・エコー' の爽やかな効果を生成。これなどはコーラス機能の内蔵したディレイ製品がすでにありますけど、やはり自分のお気に入りのコーラスと組み合わせられるというのはグッド!ちなみにわたしはこのEchotoneをコンボ・アンプの 'センド・リターン' に繋いでいるのですが、やはり'テープ' の質感に重要な 'ワウ・フラッター' の効果が欲しいということでその機能に特化した珍品、Holowon Industries Tape Soupを本機の 'センド・リターン' に繋いでおります。このテープの変調スピードがグニャリと狂ったような '質感'、たまりませんねえ。ま、最近の 'テープ・エコー' を名乗ったディレイの大半はEl Capistan含め、すでにこの 'ワウフラ' 機能は付いているのですが・・。







Strymon El Capistan - dTape Echo
Empress Effects Tape Delay
Arbiter Soundimension

ちなみに、こちらは 'アナログ・モデリング' なディレイ、Strymon El Capistan - dTape EchoとEmpress Effects Tape Delayの双璧による 'テープ対決'。実際にグルグルと回る巨大なテープ・エコーを持ち歩いていた40年以上前に比べたら、こんな手のひらサイズで相応の効果を得られるのだから良い時代になったものです。そして磁気テープ式エコー、Tel-Ray / Morleyの 'オイル缶' 式エコー、Binson Echorecに代表される磁気ディスク式エコーらが現代のテクノロジーで再評価される中で、この隠れた磁気ディスク式エコー、Fuzz FaceやSound Cityのギターアンプでお馴染みArbiterのSoundimension / Soundetteも忘れないで下さいませ。と言ってもeBayで滅多に出てこない超絶プレミアものなので知名度低し。ラジオ風デザインの縦置き型がSoundimension、動画の横置き型のものがSoundetteで、この筐体の中にEchorec同様の磁気ドラムがグルグルと回っております。レゲエ前夜のジャマイカでコクソン・ドッド主宰のスタジオ、Studio Oneが最も愛していたエコー・ユニットであり、そこのエンジニア、シルヴァン・モリスはこう説明します。

"当時、わたしはほとんどのレコーディングにヘッドを2つ使っていた。テープが再生ヘッドを通ったところで、また録音ヘッドまで戻すと、最初の再生音から遅れた第二の再生音ができる。これでディレイを使ったような音が作れるんだ。よく聞けば、ほとんどのヴォーカルに使っているのがわかる。これがあのStudio One独特の音になった。それからコクソンがSoundimensionっていう機械を入れたのも大きかったね。あれはヘッドが4つあるから、3つの再生ヘッドを動かすことで、それぞれ遅延時間を操作できる。テープ・ループは45cmぐらい。わたしがテープ・レコーダーでやっていたのと同じ効果が作れるディレイの機械だ。テープ・レコーダーはヘッドが固定されているけど、Soundimensionはヘッドを動かせるからそれぞれ違う音の距離感や、1、2、3と遅延時間の違うディレイを作れた。"





Fairfield Circuitry Meet Maude
Schaller TR-68 Tremolo

ここ近年のエフェクター市場においてその存在感を発揮してきたのがカナダです。森と湖の大自然がそんな '澄んだ耳' と 'こだわり' を育んでいるのかは知りませんが(笑)、Radial Engineering、Diamond Guitar Pedals、Empress Effectsとどれも 'オーディオ・グレード' なハイ・コンポーネンツのパーツを丁寧に組みわせた '高品質エフェクター' を送り出しております。この無機質な筐体のFairfield Circuitryもそんなカナダのイメージを裏切りません。ある意味、日本の凝り性的な 'もの造り' 文化と一脈通じているというか、まあ、どれも日本の市場ではお財布に厳しいお高いものばかり。本機Meet Maudeはこれまた 'アナログライク' なディレイながらその多機能ぶりにも驚かされます。本機の基本的なパラメータは一般的なディレイに準じておりますが、一風変わった機能として飽和するディレイの '歪み' を避けるため、リミッター的コンプが内蔵されていること(ただし原音はスルー)。そしてある種 '偏執的' なのは、基盤上に備えられた6つのマイクロ・スイッチによる各種CVコントロールの設定です。スイッチ1でフィードバック、2でディレイタイムを外部エクスプレッション・ペダルでコントロールでき(1+2で両方)、また1〜4をOffにして5+6で今度はYケーブルによる 'インサート' 端子でディレイ音を外部エフェクターで加工可能とう〜ん、至れり尽くせりな仕上がり。動画ではMeris EffectsのリヴァーブMercury 7やSchallerのトレモロを繋いでおりますが、コレはもうライヴというよりスタジオで緻密に触ること前提のディレイですね。







Lovetone Meatball
Locustom Fx & Fun Parasite

ここで一息。この項では 'インサート' や 'センド・リターン' を備えたディレイを取り上げておりますが、こちらはその逆、'センド・リターン' を備えたエンヴェロープ・フィルターにファズと 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターをセット。1990年代に一斉を風靡した英国のマニアックなエフェクター、Lovetoneの各製品にはこのような 'センド・リターン' 端子を設けることでより過激な音作りを推奨しておりました。とにかく何でもあり!アレ?この端子なんだろ?と疑問に思ったら手持ちのエフェクターをバシバシと繋ぐべし!そしてフランスのLocustom Fx & Funなるブランドから登場したParasite(言い得て妙!)は、何とトレモロに 'センド・リターン' を設けて何でも揺らしてやろうというもの。LEDの点滅に合わせて、DryとWetを交互に入れ替えながらSpeedとMIxで調整(エクスプレッション・ペダルへのアサイン可)するという、ちょっと他社の製品にはないオリジナルな効果なのが面白いですね。



Moody Sounds Strange Devil Echo

さて、この項で紹介する 'インサート' や 'センド・リターン' を備えたディレイは、あくまでメインであるディレイの '補助機能' として用意されたもの。しかしスウェーデンのMoody Soundsから登場したStrange Devil Echoは、今回取り上げた各製品中、この 'センド・リターン' の音作りに特化することをメインに謳った唯一のもの!ツマミの表記も 'Interval' に 'Repeats' と他社では見かけないもので、この 'Repeats' を回すことでエコー音に対して外部に 'インサート' したエフェクターの影響が強くなっていきます。このような攻撃的姿勢は現在のエフェクター界にとって最も大事なものですね。







JHS Pedals The Panther
JHS Pedals Panther Cub V1.5
Diamond Guitar Pedals Memory Lane MLN-2
Diamond Guitar Pedals Memory Lane Jr.

ここ最近、'Boss' や 'Electro-Harmonix' とのコラボレーションなども行うことですっかりその名前と存在感の定着したJHS Pedals。'モディファイ' モデルと自社製品を得意とした一昔前のKeeley Electronicsなんかと近い位置にいるのかな?そんな同社のフラッグシップ・モデルとして君臨しているのがディレイ音を加工できる 'センド・リターン' を備えたこのThe Panther。BBDチップ 'MN3205' を用いながら1秒のディレイタイムを持ち、フィードバック及びディレイタイムのエクスプレッション・ペダルやタップテンポのプログラム・コントロールなど、カナダ産Diamond Guitar Pedalsの高品質アナログ・ディレイとして評価の高かったMemory Laneとの類似性を感じます。と思っていたらこのThe Panther、すでに小型化かつ機能を整理したPanther Cub V1.5としてモデル・チェンジしておりました。この辺りもMemory LaneがMemory Lane Jr.へと変遷した流れとよく似てる。





Moog Moogerfooger MF-104M Analog Delay
Elektron Analog Drive PFX-1

モーグ博士の '置き土産' ともいうべき 'Moogerfooger' シリーズ。廉価版というべき 'Minifooger' シリーズは生産終了しましたが、この木枠と黒い筐体の '家具調' モーグ・スタイルでコンパクト・エフェクター界の中でも威風堂々たるその姿は、ギターはもちろんモーグのシンセと並べた時にぴったりとハマるようデザインされました。こんな '凝った造り' のエフェクターは今後ますます出にくくなると思われるので、いくつか生産終了している 'Moogerfooger' を欲しいユーザーは楽器店へ急げ!そのラインナップの中でもある種のプレミア感を誇っていたのがこのAnalog Delay。急騰した 'アナログ・ディレイ' のブームと反比例するようにパナソニックがBBDチップの生産を止めてしまったことで、この '初代機' は1000台限定で発売されたのがその始まりでした。その後、中国産のBBDチップを用いることで復活し、延長するディレイタイムやタップテンポを備えたこのMF-104Mまで進化。本機もまた多彩な音作りとしてディレイタイムのエクスプレッション・コントロール、フィードバック音の外部加工のためのYケーブルを用いる 'ループ' 端子を備えます。下の動画ではMF-104Mの 'FB Insert' にElektronの '歪み系' マルチ、Analog Drive PFX-1をインサートして過激な音作りに挑戦!

さて、いかがだったでしょうか?ディレイの中にもうひとつのエフェクターを '孕む' かの如く組み合わせる 'インサート' の美学(ヘンな意味ではございませんっ)、足でコントロールできるフィードバック、ディレイタイムのリアルタイム性と、なかなか通常のディレイでは見かけないこんな機能をいろいろ試してみれば、また新たな刺激を受けること間違いないでしょうね。ここで紹介したコーラスやフェイザー、リヴァーブ以外でもリング・モジュレーターやフィルター、歪み系に 'グリッチ/スタッター' 系、さらにもうひとつディレイを繋いでしまうなど、その思い付いたアイデアを是非とも '具現化' させてみて下さいませ。

2017年11月3日金曜日

あらゆるレベルをひとつにする

選びきれないほど洪水のように市場を賑わせているコンパクト・エフェクター。基本的にハイ・インピーダンスのエレクトリック・ギターやベースを直接接続する設計のため、例えばライン・レベルのエフェクターと同時に使用する場合、いろいろと問題が生じるんですよね(最近の製品ではStrymonなど、楽器レベル、ライン・レベル切り替えのコンパクトも増えましたが)。ライン・レベルの機器といえば、ラック型のエフェクターやDJ用エフェクターなどが代表的ですけど、いわゆる 'ロー出しハイ受け' のセオリーの反対、ハイ・インピーダンスなど高い出力を低い入力で受けてしまうと不用意なノイズ、極端なゲイン落ちなどの弊害が起こります。





Umbrella Company Fusion Blender

Umbrella Companyの一風変わった多目的セレクター、Fusion Blenderは通常のA/Bセレクターのほか、AとBのループをフィルターによる帯域分割で '同時がけ' を可能とするなど、コンパクト・エフェクターの使い方にいろいろなアイデアを提供する素敵な一品。また、本機は基盤上の内部ジャンパを差し替えて 'Hi or Loインピーダンス' を切り替えることで、ライン・レベルのエフェクターをギターなどでそのまま使うことが出来ます。



Dwarfcraft Devices Paraloop
Custom Audio Japan Custom Mixer
Eva Densi Sound Mixer

ちなみに、このFusion Blenderの '同時がけ' はフィルターによる上下帯域分割のほか、単純にA/Bパラレルのまま出力でミックスするミキサー形式のものもあります。代表的なものとして1Uハーフラック型のCAJ (Custom Audio Japan)のCustom Mixerがありますが、コンパクトではDwarfcraft Devices Paraloopがあります。たくさんエフェクターを買い過ぎてちょっと食傷気味、という皆さま、これら 'パラレル・ブレンダー' を導入して手持ちの 'タンスの肥やし' たちをいろいろ組み合わせてみて下さい。新たな発見があるかも!?また、このようなパラレル接続としてアンプで鳴らす場合、アンプの 'Send / Return' に空間系エフェクター(ディレイ、リヴァーブ)を繋ぐ場合にも適用できます。基本的に+4dBのラインレベルを備えるラック型エフェクターに対応した 'Send / Return' (アンプによっては例外もあり)ですが、ここにコンパクト・タイプの空間系を挟む際、大阪でインピーダンス・マッチングやフェイズ・インバータの機器を中心に製作する工房、エバ電子のSound Mixerが役立ちます。



Pigtronix Keymaster

こちらPigtronix Keymasterもそんな多目的セレクターのひとつ。A/BセレクターのほかA + Bセレクター、また 'Parallel' に切り替えてエクスプレッション・ペダルを繋ぐことで、AとBのループをDJミキサーのクロスフェーダーのようにシームレスに切り替えることが可能。とにかく使い手のアイデアを刺激すること間違いありませんが、本機もまた入出力にゲイン・ブーストを備えてコンパクト・エフェクターからライン・レベルのエフェクターに至るまで、あらゆるレベル・マッチングを取ることが出来ます。入出力はフォンとTRSフォンのほか、XLR入出力(ファンタム電源不可、フォンとの同時入出力不可)になっているので管楽器からのマイクも接続可能!ちなみにXLRとフォンの同時入力を行う場合は、A/BループそれぞれのReturnから入力することでXLR入力とミックス出来ます。



Dr. Lake KP-Adapter
Classic Pro YPR122

そういえばラック型エフェクターやDJ用エフェクターなどは入出力がステレオ仕様であったりRCA端子のものが多いです。例えば、上で紹介したFusion BlenderやKeymasterなどで使用するにはClassic Pro YPR122などのY型変換アダプターを用いるなど何かと使いにくい・・というお悩みに対処したのがこのDr. Lake KP-Adapter。新潟の楽器店あぽろんがプロデュースするブランド、Dr. Lakeは高品質なコンパクト・エフェクターを少量製作しておりますが、その中でもユニークなのがKorgのDJ用エフェクター、Kaosspadをギターで使えるべく製作されたこの特殊なループ・セレクターなのです。ループの入出力がステレオのRCA端子となっており、これでゲインのツマミを回せばKaosspadのみならず、あらゆるステレオ機器をコンパクト・エフェクターと共に使うことが可能。PCB基盤の廉価版と 'ハンドワイアード' 仕様をそれぞれ受注製作しております。





Filters Collection
Elta Music Devices

Korg Kaosspadのみならず、このようなDJたちに好まれる多様なフィルター単体機、是非ともコンパクト・エフェクターと一緒に混ぜて新しい音作りに挑んでみて欲しいですね。通常のエンヴェロープ・フィルターとは一味違う効果は絶対に刺激されるハズ!個人的に試してみたいのは、旧ソビエト時代に登場したアナログ・シンセサイザー、Polivoksのフィルター部分を取り出してElta Musicが単体機としてしまったもの。MoogerfoogerともElectrixとも一味違う 'なまり方' がイイですねえ。そして、新たにConsoleというElta Musicの集大成的マルチ・エフェクターも完成!フィルターからリング・モジュレーター、リヴァーブやピッチ・シフターにギターシンセなど10の音色の入ったSDカードをカートリッジ式に入れ替え、ジョイ・スティックで操作するという発想・・おお、ちょっとロシアのメーカーはこれから目が離せませんヨ。







Eventide Mixing Link
Audio-Technica VP-01 Slick Fly
Radial Engineering Voco-Loco
Radial Engineering EXTC-SA
Yamaha Stagepas 400i / 600i

管楽器の場合、基本的にはマイクからの出力はそのままPAのミキサーに送られて、そこでライン・レベルのリヴァーブやディレイなどで処理されることが多いです。近年、管楽器用のループ付きマイク・プリアンプとして登場したAudio-Technica Slick Fly VP-01やEventide Mixing Link、Radial Engineering Voco Locoなどは、ある意味管楽器用にインピーダンス・マッチングを取ってくれるループ・セレクターと言っていいでしょうね。また、マイクからそのままミキサーに送った後でライン・レベルのままコンパクト・エフェクターを用いたい場合、'逆DI' ともいうべき便利なレベル・マッチング機器Radial Engineering EXTC-SAもあります(動画は 'ユーロラック500' シリーズのモジュール版)。とにかく、それぞれの機器には決められた '規格、基準' があり、それを把握しながらしかるべき '接続の掟' を守ることで、その機器本来の威力を発揮することが可能となります。便利に使える簡易PAシステムのYamaha Stagepasと組み合わせて小規模のステージ環境を組み、あらゆるエフェクトを統合しながらその '魔力' に取り憑かれて下さいませ。







Piezo Barrel on eBay

そんな現在のPAシステムから見たらすっかり '時代遅れ' な匂いも漂うアンプを用いての 'アンプリファイ' ですけど、わたしも愛用中のPiezo Barrelのマウスピース・ピックアップ。まずはeBayでのラインナップを見て頂きたいのですが、ピックアップ自体がすべて真っ黒!そう、これは 'P6' の名でピックアップ本体をブラックにコーティングしたもので、従来のものとスペックは同一ながら見た目が与える印象は一変しました。特に黒いクラリネットにはよく似合うでしょうね。しかし、個人的にはそろそろメーカーの完成品ではなく、ピックアップのみを購入し、自分で好きなマウスピースに加工したい欲がウズウズと強まっておりまする(笑)。ドリルなど旋盤一式に投資して技術を身に付け、日本の代理店として普及させたいなあ。ここのメーカーの加工の特徴は、ソケット用の穴を途中まで開けてソケットを嵌め込み、その後細いドリルで貫通させるという '2段工程' にあるんですよね。金管用のマウスピースの場合はソケット用の厚みが少ないので、シャンク部を平らに削りソケットを乗せてハンダで接合するしかありませんが、クラリネットやサックス用は結構加工に手が込んでおります。

Neotenic Sound Board Master
Hosa MIT176
Classic Pro ZXP212T
Classic Pro APP211L
TDC by Studio-You Mic Option

そして、このPiezo Barrelピックアップをコンパクト・エフェクターに接続する際に起こる 'インピーダンス・マッチング' を取るのに便利な一台、Neotenic Sound Board Master。本来はエフェクターボードの最終段に置き、入力するギターのピックアップに合わせて 'アッテネーター' のように使うのが本旨のデバイスらしいのですが、わたしはPiezo Barrelピックアップとコンパクト・エフェクターの間に繋いで 'アッテネート' しております。最近、試作品のかたちでピエゾ・ピックアップの 'インピーダンス・マッチング' を取るのに相応そう?な 'Piezo Fit' というのがアナウンスされており、それが出るのか出ないのか分かりませんが、Board Masterの代わりになったら嬉しい。ちなみにピエゾとエフェクターの接続については一応、Piezo Barrelの製作者であるスティーヴ・フランシスさん曰く・・

Q: Do I Need a Pre-Amp ?

A: Piezo Barrel Pick-ups do not require a Pre-Amp.The output is similar to an Acoustic Guitar pick-up (Which is also a Piezo pick-up).

と回答されていて、基本的にそのまま繋いでOKらしいのですが、どうもわたしの環境ではゲインが高くなりノイジーになってしまうのです。このピックアップを入手された方で同じ悩みにぶつかっているのならば、ぜひ 'Board Master' !とお薦めしたいのだけど残念ながら 'ディスコン' 。選択肢としては、ピックアップからClasic Proなどの 'インピーダンス・トランスフォーマー' を介してコンパクト・エフェクターへ接続、これでOKです。







Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds W2
Vox / King Ampliphonic Octavoice Ⅰ and Ⅱ

やはりこの手の 'アンプリファイ' を積極的に推し進めていったのはプログレ勢ですね。その元祖ともいうべきフランク・ザッパ率いる第1期ザ・マザーズ・オブ・インヴェンションのイアン・アンダーウッドとバンク・ガードナー、モータヘッド・シェアウッドらホーン勢は皆、ここではお馴染みGibson / MaestroのSound System for Woodwindsで '電化'。そしてヴォーカルのピーター・ハミルを中心に結成されたヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター。しょっちゅうメンツが入れ替わるのはプログレの常套ですけど(笑)、動画はサックスのデイヴィッド・ジャクソンが加わった1970年以降のものですね。スタックアンプはHiwattでVox / KingのAmpliphonic Octavoiceを2本のサックスでローランド・カークばりに用いているのが凄い。また、シリアスなジャズ・ロックに '変貌' した直後のソフト・マシーンのフロントを務めたエルトン・ディーンとリン・ドブソンら、ホーン勢のマウスピースにもしっかりとConnのピックアップが接合されております。





Shure CA20B
Acoustic Control Corporation
Kustom Amplification

1970年代の 'エレクトリック・マイルス' の時代。Giardinelliのマウスピースに穴を開けて接合されたShureのマウスピース・ピックアップからDe Almondのヴォリューム・ペダル、Voxワウペダルの間に 'インピーダンス・トランスフォーマー' がカマされており、このレベル・マッチングでラッパでも問題なくコンパクト・エフェクターを使うことを可能としました。そんなデイビスたちの後ろにそびえ立つ 'スタックアンプ群' はクリーンで鳴らせるものが必須で、1970年から73年にかけては、当時の管楽器による 'アンプリファイ' 奏者が好んだAcoustic Control Corporationの250 + 251、361のスタックアンプを用いており、1973年の来日公演を機にYamahaとエンドース契約を結び、YTA-110(PE-200A + TS-110)、ベース用YBA-100(BE-200 + BS-100)などをステージのPAとして1975年まで突っ走ります。73年の動画を見ているとPE-200A + TS-100を基本にして、同社のPA用ミキサーPM-400から複数のTS-110、200キャビネットをリンクさせて 'PAの壁' を築いているようです。最近の管楽器の 'アンプリファイ' はグーズネック式マイクからPAで鳴らすのが一般的となってしまいましたが、やはりマウスピース・ピックアップを中心に考えるのならば、'エレクトリック・マイルス' 気分でスタックアンプを背にワウを踏み '咆哮' する方が迫力もあって格好いい!ちなみにこの時代、ConnやVoxも管楽器奏者のためのアンプ、PAシステムを提供しておりましたが、その後に登場する '水色のパネル' が特徴のAcoustic Control Corporationのアンプは、よりラウドな 'スタジアム級' ロックの時代の中で立ち回るべくクリーンな音作りが '定番' となったのだと思います(Acoustic 360 + 361はジャコ・パストリアスの愛機でしたね)。また、ビニール地のソファのようなテカテカ、モコモコした質感のKustomのアンプもPAシステム含め、クリーンなアンプとして当時の管楽器奏者に好まれたようです。





そして・・おお!!!1973年のスウェーデン、ストックホルムのライヴ動画が超絶クリアーな画質でUPされてる!これまでガサガサの不鮮明なブートレグで我慢しておりましたが、ここ近年、ノルウェー、オーストリア、ドイツとヨーロッパの放送局が次々とマスターテープを掘り起こし、リマスタリングして放映しているのでしょうね。これがSonyなんかの 'マイルス商法' の魔の手に堕ちるとブログへのリンク禁止(ベルリンの動画は貼れなくなった)になるので、できればこのまま静かに放置しておいて頂きたい。もう、あり合わせの音源 + 特典DVDみたいなのは要らんヨ。







Maestro Phase Shifter PS-1A
Maestro Phase Shifter PS-1B
Heptode Virtuoso Phase Shifter
Yamaha PE-200A + TS-100
Yamaha PE-200A
Yamaha TS-200

デイビスとワウの話題に集中しがちな1970年代 'エレクトリック・マイルス' ではありますが、同じく、サックスのネックにピックアップを接合してデイヴ・リーブマンの 'オルガン・トーン' に貢献しているのはMaestroのフェイザー、Phase Shifter PS-1A。1971年にトム・オーバーハイムにより設計された世界初のフェイザーで、デイビスのバンドではリーブマンのほかレジー・ルーカス、マイケル・ヘンダーソンらも足元に置いており、当時の本機に対する人気ぶりを現しております。フェイズのモジュレーションをSlow、Medium、Fastの3段階 '割り増し' スイッチで切り替えていく至極シンプルなもので、MXR Phase 90やElectro-Harmonix Smoll Stoneと並ぶ '70年代フェイザー' 三大名機のひとつ。わたしも以前所有しておりましたが、残念ながらラッパの帯域と合わない '腰高' なかかり具合だったのがイマイチでした。なお本機はフランスのHeptodeという工房からVirtuoso Phase Shifterとして 'デッドコピー' されております。そして、ヘッドアンプ部のYamaha PE-200Aはスプリング・リヴァーブ、トレモロのほかにオートワウ!も内蔵されており、そのオートワウも 'Wah Wah Pedal' という端子にエクスプレッション・ペダルを繋ぐことでペダル・コントロールできるというといかなり変わった仕様。案外、デイビスはワウペダルだけじゃなくこのオートワウも 'On' にしていたのでは?そしてパワーアンプ内蔵のTS-110キャビネット部分を縦に赤、黒、緑と'アフロカラー' で染め上げ、上から 'MILES、DAVIS、YAMAHA' とレタリングをすれば、もう気分は70年代の 'エレクトリック・マイルス' 一色です!メチャクチャ欲しいけれど上下合わせて60Kg強、12インチ2発ということでこんな '冷蔵庫' のようなスタックアンプ、置き場所もなければ自宅で鳴らすレベルのものでもなく・・厳しいなあ。

2017年11月2日木曜日

Ace Toneの '隠れた' 軌跡

わたしが探求する管楽器の 'アンプリファイ' アーカイブス。1965年のSelmer Varitoneをきっかけにして起こったこの奇妙な挑戦は、Vox / King Ampliphonic、Conn Multi-ViderからGibsonによるMaestro Sound System for Woodwinds、Hammond / Innovex Condor RSMに至るまで、ひとつのニッチな市場を生み出しました。そんな世界の新たな動きに呼応しようと奮闘したのが日本の 'Ace Tone' ことエース電子工業株式会社。Rolandの前身として日本の電子楽器の黎明期を支えたメーカーなのですが、ここからSelmer VaritoneやConn Multi-Viderをコピーしたと思しき製品化した管楽器用エフェクターMultivox、ご存知ですか?当時の広告でサックス用にはコントローラーをVaritone同様にキー・ボタンの側へ、ラッパでは奏者の腰に装着して用いるもので、そう、Ace Toneはギター用エフェクターやアンプ、リズム・ボックス、コンボ・オルガンだけではなかったのです。しかし本機の具体的な資料、写真などがこれまでほとんど出てこなかった。Ace Toneは1968年にHammondと業務提携をしているので、この製品もOEMのかたちで米国に輸出されていたのでは?と思うのだけど、今までeBayなどに流れてきた記憶も無し・・。だから世界最大のエフェクター・サイトである 'Disco Freq's Effects Database' にもこれまで掲載されることはありませんでした。





Hi-Nology / Terumasa Hino ①
Hi-Nology / Terumasa Hino ②

唯一、具体的な使用例として上がるのが日本を代表するラッパ吹き、日野皓正さんの '電化宣言' ともいうべき1969年の傑作 'Hi-Nology'。見開き仕様の本盤ジャケット内側には、上半身裸の日野さんがAce Toneのスタックアンプとミキサー、そしてMultivoxのコントローラーを腰に装着する若かりし日のお姿をモノクロ写真、綴れ込みのポスターとして封入されており、その機器の存在を垣間見ることができます。ピックアップはラッパのベルの真横に穴を開けて接合され、この時期の日野さんのトレードマークであるJet Toneのマウスピースが印象的ですね。上のリンク先にはそれぞれポスターとジャケット内側の写真が大きく載せられており是非ともチェックして頂きたいです。ちなみにこの頃の管楽器用ピエゾ・ピックアップはマウスピースのほか、日野さんや上の動画にあるドン・エリスのようにベルの真横に穴を開けて接合するなど、ピエゾの感度に応じていくつかのやり方がありました。さて、このMultivox、効果的にはトーン・コントロールと1オクターヴ下のオクターバーを付加する素朴なものなのですが、'Hi-Nology' を聴く限りではほとんど使っている感じではないですねえ(テナーとのテーマ合奏での 'ハモリ' が紛らわしいですけど)。当時、都電の映像との 'コラボ' によるインスタレーションや大阪万博のステージでこの '装置' を持ち込んだそうですけど、残念ながら記録としては残っておりません。米国ではエディ・ハリスやリー・コニッツ、ドン・エリスら先駆者がいたとはいえ、このような電子機器をステージに上げてパフォーマンスを行っていた1969年の時点で、すでに日野さんの方がマイルス・デイビスよりも1年ちょっと早かったと言えますヨ。あ、上で本機についての具体的な資料がない、と述べてしまいましたが、実は、古い 'スイングジャーナル' 誌からこのMultivoxの広告を見つけました。




⚫︎オクターブの変化が得られます。
⚫︎三種の音色変化が得られます。
⚫︎各種のアンプに接続して演奏が楽しめます。
⚫︎IC使用により電源内蔵の世界で一番小型です。
⚫︎直接、管に取り付けることが出来ますので、操作がいたって簡単です。ただし、クラリネットの場合はベルトか肩かけに装置する様になっています。

別の '広告文句' ではより具体的な構成が明らかに。ちなみに本機の専用ピックアップ 'PU-10' は、Conn Multi-ViderやGibson / Maestro Sound System for Woodwindsと互換性のあるコネクターを採用しているという点で、かなりの部分において 'コピー' しております。

  

⚫︎ノーマル(ダーク、ブライト)
正常な音を暗くしたり明るくしたりできます。
⚫︎スーパーオクターブ
高音なシャープな音に変化できます。
⚫︎バス
1オクターブ下の音に変化できます。
⚫︎サブバス
2オクターブ下の音に変化できます。
⚫︎どんな管楽でもピックアップ一つで取付はいたって簡単です。


   
MULTIVOX(マルチボックス)とは
エーストーンが新たに開発した電子管楽器装置で従来からある管楽器の機能に、特殊な音色変換を与える事により、管楽器の演奏機能に全く新しい局面を開いて、多彩で変化に富んだ演奏を可能にします。

⚫︎最新の技術で小型、軽量
IC(集積回路)及びシリコントランジスタ使用。非常にコンパクトで楽器又は体につけて使用できます。
⚫︎使いやすい
操作面が手もとに来ますから、演奏しながら指先ですべての操作が簡単にできます。
⚫︎電源コード不要、バッテリー内蔵
電池式で取扱いが簡単です。一目でわかるバッテリーメーター付き。
⚫︎電池保護装置付き
電池の無駄な消耗がありません。

定価 PU-10 (ピックアップコード付) ¥3,000-
   EX-100 (マルチボックス本体) ¥39,000-

なるほど、少しづつその詳細が見えてきました。まあ、これでジョン・コルトレーンやソニー・ロリンズの音色が直ぐさま再現できるとは思いませんけど(笑)、しかし、1968年の時点でこういう製品を海外とほぼ時差なく製作してしまう日本の 'もの作り' 精神、恐るべし。ちなみに60年代後半から70年代にかけての 'スイングジャーナル' 誌って誌面の後半、ほとんどオーディオの記事と広告で埋められていた記憶が強いのですが、この68年から69年にかけては当時のGSブームの影響なのか、ElkやGuildなどの楽器メーカーの広告もあって結構楽しいですね。あ、新映電気の広告も見つけてしまいましたけど、この頃はギター用マイク、トランスの専門メーカーとして、何とユーザーに対し 'あなたがデザインしたマイクを1個から製作いたします' なんて書いてあり、翌年倒産するHoneyを買収して本格的な楽器業務を展開する前はまだ小さな会社だったようです。



⚫︎Selmerエレクトロニック・ピックアップ ¥20,000-
⚫︎Selmerアルト用ネック(取り付け器具付) ¥8,000-
⚫︎Selmerテナー用ネック(取り付け器具付) ¥10,000-
⚫︎Selmerバリトン用ネック(取り付け器具付) ¥6,000-
⚫︎Selmerクラリネット用タル(取り付け器具付) ¥4,000-

Selmer Varitone ①
Selmer Varitone ②

このほか、大阪で2000年代前半頃までヴィンテージ・サックスの老舗として有名だった中村楽器が広告を載せているのだけど、すでに 'アンプリファイ' 用として、Selmerのピエゾ・ピックアップとソケットの埋め込まれたサックス用ネックが輸入、販売されていたのにビックリ。さすが 'プロジャズメンの専門店' と銘打っているだけに、当時の物価から考えてもMultivox同様これは高いですねえ。'ジャズ・プレーヤー間で話題集中' なんて書いてますが、当時のジャズメンの '電化アレルギー' から考えてもほとんど売れなかったんだろうな・・。そんな中、日本を代表するビッグバンド、シャープス&フラッツを率いる原信夫さんはいち早くSelmer Varitoneを導入してチャールズ・ロイドの 'ヒッピー賛歌' ともいうべき大ヒット曲、'Forest Flower' に挑戦します。このネロ〜ンとした蒸し暑いテナートーンこそ電気サックスならでは、ですね。さて、Multivoxを用いたイベントとしては以下の2つが有名で、まさに1969年ならではの '前衛' に立ち向かっていた '時代の空気' を感じさせます。

Terumasa Hino Quintet 1968 - 69

⚫︎3月24日 初の日野皓正クインテット・ワンマン・コンサートを開催する(東京サンケイ・ホール)。'Love More Train'、'Like Miles'、'So What' などを演奏、それに合わせてあらかじめ撮影された路面電車の 種々のシーンをスクリーンに映写し、クインテットがインプロヴァイズを行う。日野さんのラッパには穴が開けられピックアップを取り付けて初の電化サウンドを披露した。

⚫︎6月27、28日 クインテットによる「日野皓正のジャズとエレクトロ・ヴィジョン 'Hi-Nology'」コンサート開催(草月会館)。写真家の内藤忠行のプロデュースで司会は植草甚一。第一部を全員が 'Like Miles'、'Hi-Nology'、'Electric Zoo' を電化楽器で演奏。第二部は「スクリーン映像との対話」(映画の公開ダビング)。「うたかたの恋」(桂宏平監督)、「POP 1895」(井出情児監督)、「にれの木陰のお花」(桂宏平監督)、「ラブ・モア・トレイン」(内藤忠行監督)の5本、その映像を見ながらクインテットがインプロヴァイズを行い音楽を即興で挿入していった。コンサートの最後にクインテットで 'Time and Place' をやって終了。





Ace Tone Solid Ace 9
Ace Tone MP-4 Echo Mixer
Vintage Amplifiers
Computone Lyricon

当時の日野さんが使っていたと思しきAce Toneのソリッドステートによるスタックアンプ、'Solid Ace'。SA-10はそのシリーズ最高峰の200Wなのですが、リンク先にあるSA-9というのはカタログでも見たことがありません。そのヘッドアンプの上に鎮座していたのは、同社のテープ・エコーと見間違えてしまいますが、たぶんMP-4 Echo Mixerなのかな?まあ、ほとんどAce Toneの '宣材' 的セッティングなのでしょうけど、この頃の国産アンプはトランジスタということもあってかクリーン一辺倒で歪みませんねえ。そういえば、この時期の日野さんのバンドで肩を並べるフロントマン、テナーの村岡建さんも本機にアプローチをしていたと思います(実際、69年の映像イベントでは2人共に '電化' してます)。植松孝夫さんとの '2テナー' で 'ソウル・ジャズ大会' をぶち上げた1971年銀座ジャンクでのライヴ盤 'Ride and Tie' に、このMultivoxを使ったと思しきオクターバーなサックス・ソロがあったはず(本盤解説には本人談で、ヤマハから機器を購入したことがライヴ盤制作のきっかけだったとのこと)。ちなみに村岡さんは自身のブログでも語っておられましたが、EWI / Steiner Hornの原点ともいうべきウィンド・シンセサイザー、Computone Lyriconの日本での第一人者だそうですね。そんな村岡さんが参加した石川晶とカウント・バッファローズ1975年の作品 'Get Up !'。時代的にグッとクロスオーバー色濃いジャズ・ファンクといった感じで、サックスにはかなりのフィルタリングやエコーがかけられております。この石川晶さんの1970年代初期のグルーヴィーな作品は '和モノ・グルーヴ' として再評価され、かなりのマニアックな作品がドッと再発されましたね。







1970年公開の東宝映画「白昼の襲撃」のテーマ曲としてブレイクしたこのシングル。ファンキーなブーガルーのリズムにのって吹きまくる日野さんの姿は、当時ちょっとした 'ヒノテル・ブーム' としてアイドル的人気を得ていたそうです。本編では短いながらもステージの演奏シーンが挿入されておりますが、う〜ん、'Like Miles' なだけにかなりマイルス・デイビスを意識している感じだ(笑)。個人的にはこの頃のデイビスに憧れて必死に奏法を探求していた頃のスタイルが好き。日野さん本人はずーっとアンブシュアとスタミナ、鳴りの面で悩んでいたらしく、この後、米国に渡っていろいろな奏者の口元をチェックしながらアンブシュアを変更、そして、とにかくフレディ・ハバードのレコードを聴きまくってはトランスクライブ(耳コピー)していたらしいです。







Wishes / Kochi

こちらも同時期、フラワー・トラヴェリン・バンドと 'コラボ' したシングル。やはり 'エレクトリック・マイルス' の影響は、そのまま日野さんにもロックやシタールなどのインド音楽との 'フュージョン' へ向かわせます。そのシタールをフィーチュアした 'Dhoop' は日野さんの 'Hi-Nology' 収録曲の再演ですが、う〜ん、こんなロックなセッションであれば使っても良さそうなものだけど・・聴こえないな。日野さんと 'アンプリファイ' の関係では、ここからしばらくして1976年、活動停止した 'エレクトリック・マイルス' のメンツを大挙呼び寄せ(スティーヴ・グロスマン、デイヴ・リーブマン、レジー・ルーカス、アル・フォスター、ムトゥーメ、そして 'ヘッドハンターズ' のアンソニー・ジャクソン!)、ピアノの菊地雅章を中心にエレクトリック・ファンクを '和風' で換骨奪胎した傑作、'Wishes / Kochi' を制作します。日野さんのラッパもエコーを効かしたエンヴェロープ・フィルターでかなりのフュージョン風スタイルに移行、この時代あたりから段々と憧れのフレディ・ハバードを意識し過ぎたスタイルに変わっていくんですよねえ。本作は毎度お馴染みのリンク不可ですので、どうぞリンク先の方でフルに堪能して下さいませ。しかし米国からの帰国後の日野さんによる 'Freedom Jazz Dance'、めちゃくちゃパワフル!今年の夏は日野さんにとっていろいろありましたが(汗)、今後はもっと穏やかに・・いつまでもラッパを鳴らせる健康な存在でいて頂きたいものです。





おっと、ここまで述べてきて肝心のMultivoxの音が全然聴こえてこなかったのですが(汗)、本機のベースというか 'コピー元' というか、先駆的存在のConn Multi-ViderとVox / KingのOctavoiceをどうぞ。Multivoxの効果はこれらとほぼ同じ管楽器用オクターバーでございます。現代のピッチ・シフターからしたら素朴極まりないものですけど、これがアンプから再生させれば、地を這うようなぶっとさと荒々しい質感で今のテクノロジーでは再現できませんね。







Ace Tone EC-10 Professional Echo Chamber
Shin-ei WF-8 Fuzz Wah

日野さんから少し遅れてアプローチしたのがフリー・ジャズのラッパ吹き、沖至さん。当時のステージ写真では、セッティングもAce ToneのスタックアンプにミキサーのMP-4と同じながら、そこへ新たにテープ・エコーのAce Tone EC-10と足元に新映電気のファズワウ・ペダルが置かれておりました。ただし、本稿の主役であるMultivoxが用いられていたかまでは不明。1974年の渡仏における壮行コンサートを記録したライヴ盤 'しらさぎ' では、そんな 'アンプリファイ' の威力をカオスなノイズと共に叩き付けておりますね。そして、フランス移住後の仕事であるサックス吹き、Noel Mcghieとのファンクな一枚では、'エレクトリック・マイルス' 的ワウペダルなアプローチでファンキーなプレイも披露しました。ちなみに当時の近藤等則さんはまだ2本のラッパを持ってアコースティックにおける '雑音' の探求中であり、その 'アンプリファイ' な探求が始まるのは1979年のニューヨーク移住まで待たねばなりません。

2017年11月1日水曜日

1969年のジミ・ヘンドリクス

ジミ・ヘンドリクスの 'インプロヴァイザー' としての側面を捉えた一枚、'Message from Nine To The Universe' を聴く。コレ、元々は1980年にRepriseからアラン・ダグラスのプロデュースでリリースされたもので、その後、本盤だけは '未CD化' ということもあって永らくマニア垂涎の一枚と珍重されてきたものでした。それが2007年に突然、Reciamationなるレーベルにより5曲のボーナストラックを追加して初CD化。ようやく市場に流通したと思いきや、ジミ・ヘンドリクスの遺族たちが音源の権利に対する管理を強くしたことで、またもやこの 'ブートまがい' は公式盤から廃盤の憂き目に遭い、現在に至っております。本盤収録曲はその他、'Drone Blues' とジム・マッカーシーとのジャム 'Jimi / Jimmy Jam' もYoutubeに上がっておりますが、残念ながらリンク不可。ちなみにこの 'Nine To The Universe' は、あの 'Woodstock' のステージのオープニングを飾るいかにもヒッピー世代に向けた 'Anthem' と呼ぶに相応しい一曲です。



本盤の参加クレジットは以下の通りなのですが、これも1980年の初リリース時に比べて決して正確なものではないそうです・・。

Jimi Hendrix - Guitar / Vocal
Billy Cox - Bass
Dave Holland - Bass (Tracks 2,4,6,7)
Buddy Miles - Drums (Tracks 1,2,8,9,10)
Mitch Mitchell - Drums (Tracks 3,4,5,6,7)
Jim McCarty - Guitar (Track 5)
Larry Young - Organ (Tracks 3,4)
Larry Lee - Guitar (Track 10)
Juma Sultan - Percussion (Track 10)

ここには1969年に解散した 'Experience' 以降、ヘンドリクスが組織したコミューン的意識の強いジャム・セッション・バンド 'Gypsy & The Rainbows' から 'Band of Gypsys' に至るまで、特にアラン・ダグラスがプロデュースしていた時期の音源が中心となっております。本盤だけの特徴として、ダグラスの 'ツテ' で揃えられたジャズ・ミュージシャンたちとの出会いがあり、当時、マイルス・デイビスの 'Bitches Brew' に参加したデイヴ・ホランド、ラリー・ヤング、ジュマ・サルタン('Bitches Brew' 参加時の名はJim Riley)らがヘンドリクスのサウンドに新たな響きをもたらすという面白い展開。ちなみに同時期、どこかの 'クラブギグ' ではあのラーサーン・ローランド・カークやサム・リヴァースともジャムったそうで・・ああ、どこかの誰かが客席でオープン・リール・デッキなどを回していなかったかとため息が出るなあ。







本盤にはジム・マッカーシーとのジャム 'Jimi / Jimmy Jam' も収められておりますが、やはり気になるのはこの時期、同じく 'デイビス組' で名を馳せた英国人ギタリスト、ジョン・マクラフリンとのジャム・セッションも行っていたこと。そのヘンドリクスとマクラフリンのジャム・セッションが上記のブートレグ音源。うん、特別何かを作り上げようという意思もなく、とにかく畑の違うギタリストふたりが相乗効果的にジャムっているだけ、ではあるのですが、もし、この時期にヘンドリクスを引っ張り上げるような凄腕プロデューサーがいたのならば、その後の彼のキャリアはもっとずっと違うものになっていたかもしれません。アラン・ダグラスはヘンドリクスに違う世界の人たちとのコネクションは繋げたかもしれませんが、結局はただ、スタジオでジャムっているものを記録したテープをうず高く積み上げるだけで終わってしまいました。しかし、これは彼の責任ではなく、やはりギタリストとしてのスタンスを抜け出せなかったヘンドリクスの限界と、彼をスターダムに乗せて大金を稼いだ 'ロック・ビジネス' (を操ったマネージャーのマイク・ジェフリー、レコード会社など)の軋轢から自由になれなかったことに起因していると思われます。特に 'Experience' の成功体験を持つジェフリーにとって、ヘンドリクスがジャズを軸とした実験的スタンス、よりファンク/R&B色を強めることに向かうことは良しとせず、このGypsy & The RainbowsやBand of Gypsysは精々ヘンドリクスへの一時的 '休暇'、または以前のレコード会社と残っていた契約義務を果たすための妥協的産物でした。もちろん、この '休暇' からヘンドリクスが何がしかの成果を掴めれば良かったのですが、やはり、単なるジャムに終始してしまったところに1968年の傑作 'Electric Ladyland' 以降、彼が音楽面である壁にぶつかっていたことは間違いない。



ちなみにそんな時期に新たな 'Experience' として交流を持ったのがジャズの帝王、マイルス・デイビスの存在。しかし、この出会いはむしろヘンドリクス以上に音楽的なターニング・ポイントに差し掛かっていたデイビスの意向の方がずっと強く、当時、ヘンドリクスのプロデュースを担当したアラン・ダグラスに一緒にやらせてくれと懇願していたそうです。ジョン・スウェッド著によるマイルス・デイビス伝記本のひとつ 'マイルス・デイビスの生涯' (シンコーミュージックエンタテイメント刊)によれば、そんなデイビスの意向を汲み4ヶ月をかけてCBSとワーナー・ブラザーズを口説き落とし、ワーナーから4曲入りの '共演盤' の契約を取り付けることに成功します。レコーディングのギャラはミュージシャンの間で4等分することが決まりますが、しかしレコーディングの当日、開始30分前になってデイビスのエージェントからダグラスの元に電話が入ります。何とスタジオ入り前に追加で5万ドル上乗せして欲しいと・・。

"私は自宅にいるマイルスに電話をかけた。ようやく受話器に出てきたマイルスは「いいだろ、あるんだろ?(金を)とりつけてくれよ。"と言うんだ。私は電話を切り、ジミに「なにか食いにいこう」と誘った。出ようとした瞬間、また電話が鳴ったので、てっきりマイルスが謝罪の電話をかけてきたんだろうと思った。ところが電話の主はトニー・ウィリアムズで、トニーは「マイルスに5万ドル払うって聞いた。オレにも5万ドルくれ!」と言ったんだ。"

ダグラスはデイビスのエゴはもの凄く、これはうまく行かないだろうと悟ったとのことなのですが、う〜ん、デイビス本人が望んだプロジェクトだったというのに何という仕打ち(呆)。以後、事の真相はデイビス本人やヘンドリクスの口から述べられることはなかったのですが、まあ、ヘンドリクス急逝の報を聞いてデイビスが深く悔やんだことは間違いないでしょうね。ギャラが4等分ということはベース(オルガン?)が誰なのか気になるところですが、この顛末をもう少し冷静に観察してみると、当時の底無しなほどに '狂った' ロック・ビジネスに対するデイビスなりの勘違い、もしくは業界の '食いもの' にするロックスターへの扱いに対するデイビスなりの警戒心だったのかな?という気がしております。実際、ヘンドリクスはそんな業界の '犠牲者' ともいうべき扱いに苦しんでいたし、今の 'ブラックな' 芸能界以上に莫大な利益を吸い上げる連中に対し、デイビスなりのもっと正当な権利をアーティストに寄越せ!という声だったのかな?と・・。ま、想像ですけどね。しかし、'Jack Johnson' ばりにハードなギターとタイトなリズムに乗ってデイビスのラッパが咆哮する、みたいな共演・・聴いてみたかったなあ。





この時期のジャムの延長線上にあったのが、あのウッドストックのステージに立ち伝説的な存在となったGypsy & The Rainbowsなのですが、やはりリハーサル不足と旧友ラリー・リーやビリー・コックス、 'Experience' 時代からのミッチ・ミッチェル、ジェリー・ヴェレスやジュマ・サルタンら雑多なパーカッションを配置して、ひとつのバンドとしてまとめ上げられなかったのは残念でした。このステージでも披露した 'Jam Back At The House' はまさにこの時期のヘンドリクスの音楽的アプローチを象徴する一曲で、何とかヘッドアレンジと共に現場のインプロヴァイズから練り上げようとするも、結局はそれぞれの実力不足と共にジミの顔色がただただ曇っていくだけに終始していくのを垣間見ることが出来ます。





Honey Vibra Chorus
Shin-ei / Uni-Vox Uni-Vibe
Companion SVC-1 Vibra Chorus

当時足元に置かれた '新兵器'、Uni-Vox Uni-Vibeの蛇の如くのたうち回ったトーンこそこの時期のヘンドリクスを象徴するものでしょう。時期的には倒産直後のHoneyで生産され、Unicord社へ輸出された初期ロット品の一台であり、たぶん行きつけの楽器店、Manny'sで購入したものだと思います。ちなみにこの後、その製作、販路業務を引き継いだ新映電気の手により 'Companion' の名で輸出された '卓上版' の一台、SVC-1 Vibra Chorusを所有していたという話もあります。'フェイザー前夜' ともいうべき1969〜70年のステージでヘンドリクスが見せつけたサイケデリックな効果、そして貢献する 'Maid in Japan' の先駆的存在はもっと広く知られてよい事実でしょうね。







ヘンドリクスのジャズに対する希求を捉えたと思しきジャム 'Easy Blues'。ゆったりとした4ビートのテンポでブルージーにキメるスタイルは、あの傑作 'Electric Ladyland' 時の収録ながらボツとなってしまったホーンを従えての異色曲 'South Saturn Delta' (動画のは勝手にリミックスされているけど)含め、当時ロックというフィールドを超えて試そうとしていたヘンドリクスのもうひとつの '顔' が垣間みれるでしょう。そして、当時の 'ファンク革命' と触発されることにも積極的で、こちらもアラン・ダグラスのプロデュースでバディ・マイルス、ヒップ・ホップのルーツ的グループとして名高い 'ストリートの詩人' The Last Poetsのジャラールが 'Lightnin' Rod' の変名で制作した謎のシングル 'Dorriella du Fontaine'。ヘンドリクスはギターとベースのオーバーダブで参加。

ヘンドリクスにとっての最も安心できるフォーマットはギター、ベース、ドラムスからなる '3ピース' 編成だったそうで、一時的にサイド・ギターやパーカッションなどを導入して多様化させる試みを行ったものの、結局はBand of GypsysからExperience '復帰' でその創造は尽き果ててしまいました。一方では、そのシンプルな編成に多彩な 'いろ' ともいうべきギターのアンサンブルの演出において、ヘンドリクスのエフェクターとアンプを用いた '轟音' ともいうべきアプローチは、現在に至るロックの音作りの基本を型作ったと言っても過言ではありません。そんな 'ヴォイス' の演出にファズと共に一躍トレードマークとなったのが英国のブランド、Voxのワウペダル。特にこの1969年に愛用していたのは1967年の元祖 'Clyde McCoy'。ジャズ・トランペット奏者で ' ワウワウ・ミュート' の名手クライド・マッコイにちなんで名付けられており 'ウッドストック' のステージでも大活躍しましたが、コイツをヘンドリクスからそのまま手渡されたのが誰あろう帝王、マイルス・デイビス。1969年の大晦日、Band of Gypsysのニューイヤー・コンサートを見に行ったデイビスは、楽屋で久しぶりの再会を果たし、お前らのMarshallのアンプをラッパで使いたいから送ってくれと冗談を飛ばしながら、しばらくしてデイビスの元に愛用の 'Clyde McCoy' ワウペダルが送られてきたそうです。





Jimi Hendrix Gear
Gibson / Maestro Rhythm n Sound for Guitar G1
Gibson / Maestro Rhythm n Sound for Guitar G2
Melvin Jackson / Funky Skull (Limelight)

この1969年はヘンドリクスにとって新しいテクノロジーとの出会いでもあり、特にエフェクター黎明期において当時の最新デバイスへの興味も高かったと思われます。'ウッドストック' のステージでお披露目したUni-Vox Uni-Vibeのほか、当時、ニューヨークに建設中であった自らのスタジオ 'Electric Lady' での音作りの一環として想定していたと思しき、Gibsonから発売されたMaestroのマルチ・エフェクター、Rhythm n Sound for Guitarなども手にしていたとのこと。リンク先にある画像は1969年に 'ヴァージョンアップ' したRhythm n Sound for Guitar G2で、G1にあったパーカッションの 'Bass Drum' とオクターバー 'Fuzz Bass' は廃し、トーン・コントロールの 'Color Tone' は2種になった分、新たに 'Wow Wow' と 'Echo Repeat' が追加されてよりマルチ・エフェクターっぽい仕様となりました。このG2で特筆したいのは 'Wow Wow' がちゃんとオートワウしていること!これ、Mu-Tron Ⅲ以前では最も早く製品化されたエンヴェロープ・フィルターじゃないでしょうか。そして、一見エコーの効果を付加してくれるように思われる 'Echo Repeat' は、VoxのRepeat Percussion同様のトレモロですね。このMichael Heatleyなる著者の 'JimiHendrix Gear' はイマイチその根拠に怪しい匂いを感じるのですが、しかし、当時のエフェクター黎明期においていろいろな機器に対する嗅覚はあったであろうと仮定しながら眺め、考察するという意味では興味深い一冊ではないでしょうか。ちなみに一風変わった本機の効果を堪能したい人は、ソウル・ジャズのベーシスト、メルヴィン・ジャクソンの 'Funky Skull' (Limelight) をどーぞ。このカラフルなヤツがEchoplexと共にジャケットにも堂々登場で、全編ちゃんとウッドベースをワウワウ、チャカポコさせております。また、Fuzz Faceやロジャー・メイヤーの手がけるOctavioのイメージの強いヘンドリクスですが、当時、マイク・マシューズが興した会社Electro-Harmonixの '新製品'、Big Muffをヘンドリクス御用達の楽器店Manny'sを通して購入していたという話もあります。




Manny's Music Receipts
Hammond / Innovex Condor GSM ①
Hammond / Innovex Condor GSM ②
Hammond / Innovex Condor RSM
Hammond / Innovex Condor SSM
Shure CA20B

そしてこの時期、世界初のギター・シンセサイザーとしてHammondがOvationと協業して開発した機器Innovex Condor GSMもヘンドリクスはニューヨークの馴染みの店、Manny,sで購入しております。こちらはManny'sの領収書が残っており、ヘンドリクスは1969年11月7日にシリアル・ナンバー1145のInnovex Condor GSMを480ドルでMaestro Echoplexと共に購入。本機はギター用のGSMのほか、キーボード用のステレオ仕様SSMと管楽器用のRSMもラインナップされて、そのRSMの方はHammondからマイルス・デイビスの元へも売り込みを兼ねて送られてきました。そんなデイビスの試奏による感想は以下、1970年の 'Downbeat' 誌によるダン・モーゲンスターンの記事から抜粋。

"そこにあったのはイノヴェックス社の機器だった。「連中が送ってきたんだ」。マイルスはそう言いながら電源を入れ、トランペットを手にした。「ちょっと聴いてくれ」。機器にはフットペダルがつながっていて、マイルスは吹きながら足で操作する。出てきた音は、カップの前で手を動かしているのと(この場合、ハーモンミュートと)たいして変わらない。マイルスはこのサウンドが気に入っている様子だ。これまでワウワウを使ったことはなかった。これを使うとベンドもわずかにかけられるらしい。音量を上げてスピーカー・システムのパワーを見せつけると、それから彼はホーンを置いた。機器の前面についているいろんなつまみを眺めながら、他のエフェクトは使わないのか彼に訊いてみた。「まさか」と軽蔑したように肩をいからせる。自分だけのオリジナル・サウンドを確立しているミュージシャンなら誰でも、それを変にしたいとは思っていない。マイルスはエフェクト・ペダルとアンプは好きだが、そこまでなのだ。"



Vox The Clyde McCoy '1967'

そんな 'ジミの衣鉢' ともいうべき 'Clyde McCoy' を踏む1971年のマイルス・デイビス。完全にジャズのフォーマットを捨て去り、何とも形容し難い奇形的 'ファンク・ロック' でバンドをまとめ上げるデイビスの手腕、是非ともヘンドリクスに薫陶して頂きたかったと残念でなりません。