2017年7月2日日曜日

蒸し暑い '電化夜話'

陽射し照りつける永遠の'サマー・オブ・ラヴ' の季節は、エレクトリック・ギターを持った若者たちを焚きつけたのみならず、それまでバンド・アンサンブルの主役であった 'ホーン' の連中をも 'アンプリファイ' に向かわせました。唯一の違いは、大半の奏者が '時代の要請' に倣って積極的ではなかったこと。それはこの熱気の過ぎ去った後、多くの管楽器に取り付けられていたピックアップは外され、穴の空いた楽器を再びハンダで埋めるべくリペア工房に列をなしていたことがその栄枯盛衰を物語ります。まさに '時代のあだ花' でありながら新たな可能性への扉を開く1960年代後半のホーンにプラグを繋いだ者たち。今の視点から見れば大したことはやっていないのだけど、さあ、ここに開陳いたしましょう。







白人のサックス奏者ジョン・クレマーとトム・スコットはまさにロック世代に登場したサックス奏者であり、コルトレーンを聴きながらR&Bからジミ・ヘンドリクス、ザ・バーズなども愛聴し、当時の 'バイショー' 的ジャズメンとは一線を画す存在でしょう。クレマーは1970年代には今でいうスムース・ジャズの旗手としてエコーのかけたサックスがトレードマークとなり、トム・スコットは後にEWIウィンド・シンセサイザーへ手を出す出発点として、ヒッピー色全開なデビュー作 'The Honeysuckle Breeze' から全編、Conn Multi-Viderで 'アンプリファイ' したサックスによりジャズ・ロック世代との親和性を表明しておりました。同世代のブレッカー兄弟も述べていましたけど、やはりロックやR&Bは自分たちの世代に共通するアイデンティティとして、先輩世代のジャズメンが持っていた拒否感はまったく無かったそうですね。こういう話を聞くと当時のアタマの固いジャズ・クリティクが奮った 'ペンの暴力' って、ジャズが曲がり角を迎える時期にデビューした新人に対して相当な罪作りだったと思いますヨ。







1950年代後半から活動するラスティ・ブライアントは、麻薬絡みでしばらく刑務所に服役した後、久しぶりのシャバの空気を吸ってビックリしたに違いありません。全ての価値観が引っくり返るようにあちこちで混乱していた1960年代後半は、そのままブライアントのアルト・サックスにも当時の '新兵器' を装着して、ジャズよりもR&B、ファンクだと言わんばかりに 'アンプリファイ' しながら街へ飛び出して踊り出します!





ジャズマンたちの 'アンプリファイ' には、当時のロック、ヒッピー世代を覆い尽くしていたサイケデリック、LSDがもたらす幻覚の誘惑がありました。'アンプリファイ' したサックスの第一人者、エディ・ハリスはGibson/MaestroのWoodwindsやEchoplexを駆使し、またギタリストのビリー・バトラーは、ベテランのテナーマン、セルダン・パウエルを 'アンプリファイ' でフィーチュアしながら、トリップするワウワウ・ギターと共にスーツを脱ぎ捨てて時代の空気へと溶け込みます。







Selmer Varitone ①
Selmer Varitone ②

そんな全てに蒸し暑〜いホーンの 'アンプリファイ' は、元祖 'ファンク男' のひとり、ナット・アダレイも動かします。それまで兄キャノンボール・アダレイの影に隠れるようにサポートしていたイメージのナットが心機一転、A&M傘下のCTIからリリースしたのがこの '仏像ジャズ'。いや、内容はそんな抹香臭いもんじゃありませんが、やはりサイケデリックな時代の空気を吸って自らのコルネットも 'アンプリファイ' しました。ここで登場するSelmer Varitoneは一足先にクラーク・テリーがアルバム 'It's What's Happnin'' でアプローチしており、続くナットの姿は同時期の貴重な上の動画で、Varitoneのコントローラーを首からぶら下げているのが確認できますね。ちなみにVaritoneは、ピックアップをサックスの場合はマウスピースに取り付けますが、トランペットやコルネットの場合はリードパイプ上部に穴を開けて取り付けます。まあ、効果的にはダークで丸っこい音色のコルネットが蒸し暑いオクターヴ下を付加して、さらにモゴモゴと抜けの悪いトーンになっているのですけど・・。'You, Baby' はナットが 'サマー・オブ・ラヴ' の季節を謳歌した異色の一枚でもあります。





世界最初の管楽器用 'アンプリファイ' システムであるSelmer Varitoneはナット・アダレイ、クラーク・テリーのほか、ソニー・スティットやエディ・ハリスらが一足早くアプローチしておりました。1970年代にはMainstreamレーベルからアフロ色濃い作品をリリースするこのバディ・テリーも1960年代後半、すでにR&B、ブーガルー一色となったPrestigeレーベルからその名もずばり 'Electric Soul !' で '感電' します。このネロ〜ンとした1オクターヴ下の 'デュエット' の蒸し暑い音色こそ電気サックスの醍醐味だ。



そして冷戦期、ベルリンの壁を越えて東ドイツから西側社会へやってきたロルフとヨアヒムのキューン兄弟。'クラリネットのコルトレーン' ともいうべき超絶技巧の粋を見せつけた1964年の傑作 'Soralius' に続き、68年から69年の 'サマー・オブ・ラヴ' の季節、思いっきりヒッピーとサイケデリックの退廃的自由に塗れた 'Mad Rockers' 改め 'Bloody Rockers' の2作目。ここでクラリネットに 'アンプリファイ' しているのは、たぶんVox / KingのAmpliphonic Octavoice Ⅰとワウペダルではないでしょうか。いやあ、当時のゴーゴー喫茶を彷彿とさせますねえ。









そんな米国のカウンター・カルチャーの波は大西洋を渡り、英国のこんな '企画もの' バンドにおけるジャズ・ロックにも波及します。メンツはトランペットのハンス・ケネルとサックスのブルーノ・スポエリを中心としたスイスのジャズメンで、それが当時プログレを積極的にリリースしていたレーベル、Deramから登場したというのは面白い。内容的にはエディ・ハリスの名曲としてお馴染み 'Listen Here' のカバーを始め、プログレというよりかはR&B色濃い典型的ジャズ・ロックで、ソフト・マシーンのぶっ飛んだ感じを期待してはいけません。ちなみにホーンの2人は揃ってConn Multi-Viderとワウで 'アンプリファイ' しております。さて、むしろプログレっぽいという意味では、この完全に狂ってしまったようなザ・ビートルズの名曲カバーを披露したドン・エリスの方が 'らしい' ですね。ここでその狂った効果を最大限に発揮するリング・モジュレーターは、エリスがUCLA音楽大学の同窓であったトム・オーバーハイムと出会ったことで手に入れたもの。いやあ、これは当時のマイルス・デイビスよりさらに先を行ったアプローチでしょう。







この手の管楽器用 'アンプリファイ' システムの中で最も売れたのがGibsonがMaestroのブランドで販売したSound System for Woodwindsでしょう。1967年のW1からバリトンのファズトーンを搭載したW2、専用のフットスイッチを取り付けたW3まで、今でもeBayを覗くとよく出品されております。エディ・ハリス1968年の 'Plugs Me In !' やチャールズ・ミンガスのグループで活躍したポール・ジェフリー1968年の 'Electrifying Sounds of Paul Jeffrey ' のジャケットで堂々登場、このカラフルなボタンと3本ラッパのMaestroマークが目印ですね。そしてもう、何度紹介したか分からないフランク・ザッパ1968年のスタジオ・ライヴ。しかし何度見てもホントにたまらない!やっぱ 'King Kong' はプログレ界3本の指に入る超名曲だなあ。イアン・アンダーウッドとバンク・ガードナー2人からなるMaestro Woodwindsを駆使したアンサンブルも怪しくて最高です!


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