トランペット吹いては簡易的なループ・サンプラーで短いループのフレイズを作り、せっせとほかのサンプラーに録音、波形編集してはシーケンサーで奇妙なリズムを作るという意味不明なことをやっております。いまならPCとオーディオ・インターフェイスを用意して、PCを 'ハードディスク・レコーダー' 的に扱えばもっとスマートな制作環境を構築できると思うのだけど、如何せんPCに詳しくないので無駄に 'ハードウェア' を揃えてやらざるを得ません。決して機材は多くないけど、いつも1970年代のジャマイカでクリエイトしていた 'ダブ・マスター' たちの仕事ぶりを念頭に置き、何か面白いものはできないか?という気持ちで遊んでおります。そう、最低限の環境でアイデアを見つけてみようという心境でしょうか。ちなみにその昔、今から15年くらい前は完全に '機材フェチ' なところがありまして、とにかくガジェット的に機材を積み上げてはあれこれダブの真似事をやっていた時がありました(というか、昔も今もやっていることは変わってないな・・)。
そもそもは1990年代後半、自分でもトラック制作をやってみたいと思い、Ensoniq ASR-X Proという真っ赤な 'ワーク・ステーション' を購入したことがきっかけでした。これはサンプラー、シーケンサー、ドラムマシン、PCM音源が入ったもので、とりあえず一台で賄える便利なヤツなのです。時代は 'DTM全盛期' ともいうべき 'ベッドルーム・テクノ' の世代が溢れ、自宅で音楽制作できるということに夢がありました。毎月、サウンド&レコーディング・マガジンを購読しては新製品をチェックするのが日課だったのですが、しかし、このASR-X Pro は '宣伝文句' に対してなかなかに難物なヤツでしたね。ライバル機としてAkai Proffesional MPCシリーズというのもあったものの、そっちに比べて音源が始めからバンドルされていたのがASR-X Proの強みというほかは、肝心のシーケンサーがよく分からなかった・・。つまり、'ソング' という楽曲に仕上げていく上でのパーツを構成して、順々に鳴らしていくためのプログラムの仕方が理解できなかったんですよ。しかもそれらのプログラムはわずか2行分の小さなLED表示で行うのみ・・ホント使いにくかった。だから常に2小節くらいのフレイズをループさせては放置、という状態のものがZIPドライブには満載でした。
あるとき、このASR-X Proのオプションとして8つのパラアウトを出力するアウトボードの存在を知ります。これは8つのトラックをそのまま出力するものなのですが、これをそのままミキサーに立ち上げてリアルタイム・ミックスすれば好きに楽曲の構成を作れるのではないか、と。まさにダブ・ミックスの手法へのアプローチです。ASR-X Proは16トラックのシーケンサーを内蔵しているのですが、内部でリサンプリングすることができるので、各トラックをバウンスして8トラックへ、メインアウト含めて10の出力でミックスできる十分なものでした。これにともないミキサーも大きなヤツに換装し、Mackieの16チャンネル・ミキサー1604 VLZ-Proや14チャンネルのAllen & Heath WZ14:4:2+に買い換えては小節の頭に合わせてフェーダーをちょんと突いたり、EQのブースト&カット、素早くミュート・スイッチをOn/Offして展開を演出したりとミキサーを楽器のように扱うのが楽しかった。
また、サンプラーでより凝ったものを作ろうとしてRolandの新製品VP-9000をウン十回ものローンで購入したことも思い出します。コイツは 'Variphrase Sampler' と呼ばれる新技術の詰まったヤツで、取り込んだフレイズをエンコード処理することでピッチ、テンポ、フォルマントのストレッチが可能という(当時としては)驚異的な内容を誇りました。当時、普通のサンプラーでこれをやろうとするとフレイズを細かく分割して、ピッチ・シフターなどで誤魔化しながら無理やり合わせて・・という、ピッチのある 'ネタ' では基本的に不可能なことでした。6音ポリと少ないものの、簡単にエレクトロニカっぽいフレイズでハーモニーを生成してくれるのが面白かったです。
アウトボードはAuxセンド・リターンに、磁気ディスク・エコーBinson Echorec EC3とHawk技研のスプリング・リヴァーブHR-45をインピーダンス・マッチングを取るアッテネーターConisis E-Sir CE-1000を介して繋ぎ、マスターやチャンネル・インサートで2チャンネルのローパス・フィルターMutronics Mutator、コンプレッサーのDrawmer DL241がわたしの定番セッティング。特にEchorec EC3は特大の一台で、それまで用いていたElectro-Harmonixのアナログ・ディレイDeluxe Memory Manとは比較にならないくらいの強烈さでした。すでにヴィンテージの域であった為、磁気ディスクの回転が正常ではなくユラユラとワウ・フラッターの効果を発する状態ではあったのですが、それすら魅力的なトーンを持っており、また複数のヘッドを動かすマルチタップのディレイ効果も作れるのが良かった。ただしスタンバイ・ノイズが少々大きかったのは難点だったかな。ともかく部屋の半分は機材に占拠されており、その機材熱で夏は上半身裸の汗ダラダラ、冬は '温暖化' のごとく暖房いらず、という状態だったことを懐かしく思い出します。そして、これら山積みにした 'ガジェット群' はちょうど2000年代半ばに仕事を変えたことを機に一度処分。時代は、それまでのMIDIによるハードウェア中心の環境からハードディスク・レコーディングによるプラグインやソフトシンセなどPC完結派へ移行し、街の楽器屋では高値でハードウェアの買い取りを行っていた最中でした。わたしもそれほど損することなく処分できましたがどこか一抹の寂しさもありましたね。
→Elektron Octatrack DPS-1
→Pioneer Toraiz SP-16
さて、そんな環境から時代はグッと駆け上がり、現在ではハードウェア・サンプラーでもかなりハイレベルなことができるようになりました。スウェーデンのシンセサイザー・メーカーであるElektronの変態 'Dynamic Performance Sampler' Octatrack DPS-1とターンテーブルを用いたパフォーマンス。とにかく難易度の高い操作性のOctatrackなんですが、ここでは簡易ループ・サンプラーの 'Pickup Machine' 機能を用いて、リアルタイムにサンプリングしながら、さらにOctatrackで新たなフレイズを生成して同期させております。操作は足元にあるBehringerのMIDIフットコントローラーで行い、8つあるループ・トラックにどんどんとオーバーダブさせる・・う〜ん、格好良い!面白いのはターンテーブルのピッチを下げてスクラッチをブ〜ンというベースラインへとループさせていること。さらに、このElektronを追撃するようにDJ機器を主に製作するPioneerからOctatrackとAkai Proffesional MPC Touchを合わせたようなグルーヴ・サンプラー、Toraiz SP-16が登場します。Octatrack同様の16ステップのトリガー・シーケンサーとMPC Touchを意識した16パッド+大型タッチ・ディスプレイを組み合わせて、トラック制作からパフォーマンスまでこの一台で完結!もちろん、PCと連動して制作するNative Instruments MachineやAkai Proffesional MPC Studio、Touchなどもループ・メインなトラック・メイカーたちの定番機種となっております。
こうやって自らの変遷(というか基本的に変わってないケド)を辿ってみると、いわゆる 'シンセサイズ' よりも 'エフェクティヴ' な発想から、あれこれ素材をいじくり回して組み立てていく手法が好きなんだな、というのを再確認します。シンセサイザーはオシレータという素材の塊ともいうべきものをフィルターやアンプ、LFOで加算、減算合成することで構成する電子機器なのですが、エフェクターというのはすでにある素材を何がしかの機器に通すことで変調するものであり、特にサンプラーは録音機にして究極のエフェクター的発想というのが面白かった。そう、中身はオシレータのないシンセなんだけどやってることはエフェクターなんですよね。単純に声の録音したテープを早回し、遅回し、逆回転させると、おお、こんな面白い音になる!みたいな子供っぽい価値観と同質なものにワクワクしたのだと思います。ちなみに、こういったガジェット的 '子供っぽさ' は、昨今のPC一辺倒のスタイルに飽きた一部の世代が再び、'ミニマル・ダブ' に触発されて機材のツマミやフェーダーを操作する 'シンセ&ドラムマシン中心派' に回帰する流れにも現れてますね。確かに、これらはPC一台あれば最も安上がり&クオリティの高いものが出来るのだけど、一方で、人間のアナログ的な偶発性は制限のある環境でこそ威力を発揮するでしょう。
'手を使う' ということと音楽的発想が直結するインターフェイスの限界から何が触発されるのか? - "すべては目の前にある" - どうぞ皆さまもワクワクして下さいませ。
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