2016年3月5日土曜日

ホーンを毛羽立たせろ!

管楽器と歪み、これは無謀と知りながらも探求すべきテーマかもしれません。ギタリストにとって歪みとはエレクトリック・ギターの音色と同義語であり、アンプによる歪みからコンパクト・エフェクターに至るまで、究極を求めての長い旅路に出ている人が大半でしょう。足元に3つ、4つは当たり前で、スイッチング・システムを用いてはブースター、オーバードライブ、ファズ、ディストーションと踏み分けております。さて、管楽器におけるアンプリファイを目指すとき、最も鬼門とされているのがこの歪みであり、ギターにとって魅力的なスパイスとなるものが、管楽器ではむしろ演奏を妨げる要因として立ちふさがります。轟音とフィードバックはエレクトリック・ギターの専売特許ですが、歪む=潰れる=ノイズ増える=ゲインアップ=ハウリングという公式は、まず管楽器のアンプリファイをする上で肝に命じておきたい言葉です。







こちらは1968年のドン・エリス・オーケストラ。いち早くラッパを ‘アンプリファイ’ にしたのみならず、MaestroEchoplexRing Modulatorなどをステージに上げて実験したイノベイターのひとりです。上の動画にあるように、ソロの吹き始めから思い出したようにGibson / Maestroの管楽器用エフェクターSound System for Woodwindsのスイッチを入れ、オクターヴ・ファズによる '濁った' ラッパで疾走します。しかし、イギリス出身のジャズ・ロックなオルガン奏者ブライアン・オーガーとの共演や、Echoplexとトレモロによる 'サイケな' バラッドの 'Open Beauty' など、''電化黎明期' にここまでアプローチしたドン・エリスはもっと評価されてよいと思いますね。

Maestro Sound System for Woodwinds







そんなエリスがEchoplexと共に用いているのがこちら、もう何度もご紹介している管楽器用エフェクターGibson / Maestro Sound System for Woodwindsです。コレ、実はわたしも所有しており、なかなかにオクターヴ・ファズ的なニュアンスをラッパに加味してくれるものとして重宝しております。ギター用のファズからみるとチープなオモチャっぽい歪みなのですが(ノイズはほとんど無し)しかし、このくらいが管楽器にとってちょうど良いという 'ツボ' をメーカーは心得ていますね。わたしが最初にラッパを 'アンプリファイ' した際、足元に置いたIbanez TS-9 Tube Screamer。これはオーバードライブの名機として、今では俗に 'TS系' などと呼称したガレージ・メーカー製のオーバードライブが雨後の筍の如く乱発される出発点となったものです。その他の歪み系エフェクターに比べ、むしろ歪みの少ないブースター的機種なのですが、ラッパではDriveのツマミを9時〜10時の設定にしてかなりギラ付きます。これでワウペダルでも踏もうものならハウり出すでしょう。確かにラッパで使えばエッジの効いた格好良いトーンになるのですが、やはり非常に扱いの難しいものという印象です(早々に手放しました)。ちなみに、このGibson / Maestro Sound Sytem for Woodwindsから40年以上経った現在、単なる2オクターヴ下までの 'アナログ・オクターバー' はこのような 'デジタル・ハーモナイザー' にまで進化しました。





Pigtronix Disnortion
Adler - Yarranton

Blair YarrantonさんによるPigtronix Disnortionの動画。オーバードライブ、ファズ、オクターヴ・ファズの3チャンネル切り替えの歪み系エフェクターですが、ブースター的浅めな設定でエッジを付加する程度に終始しております。ワウを踏むとさすがにハウる寸前ですね。このDisnortionがユニークなのは、管楽器でも扱いやすいローゲインの歪みのほか、通常の出力とは別にスルーでクリーンな原音を出力することにあります。また、シンセサイザーの発想を得意とするこのメーカーらしく、このClean出力は次に繋いでいる同社のEnvelope Phaser EP2のTrigger入力に繋ぐことで、DisnortionからEP2のエンヴェロープをコントロールすることができます。その取説にはこう記載されております。

"本機(Disnortion)をEP2と組み合わせて使用する場合は、必ず本機のClean出力からEP2のTrigger入力に接続してください。そうすることで、常にクリーン信号によってEP2を制御することができます。"

すでに 'ディスコン' 製品ではありますが(まだ現品在庫は残ってます)、このYarrantonさんのセッティングを参考にして管楽器で試してみてはいかがでしょうか?さて、単なるエッジの付加ということなら、むしろ、オクターバーやリング・モジュレーターを浅めにかける方がうまく馴染むと思います。参考に次の動画は、Electro-Harmonix Q-TronとオクターバーのBoss OC-3をループ・サンプラーBoss RC-2で 'ひとりアンサンブル' しているもの。この影のようなオクターヴのエッジに比べれば、いかにオクターヴ・ファズがギラ付くのかが分かります。そのくらい歪み系エフェクターというのは、管楽器ではメリットよりもデメリットの方が多く感じられて扱いにくいんですよね。ちなみにこのYarrantonさん、ギタリストのPercy Nils Adlerさんという方と 'Adler - Yarranton' の名義でアルバム 'Sketchy Behaviour' をCDとデジタル配信でリリースしております(Amazonで購入可)。サウンドはECMのビル・フリゼールっぽい感じでしょうか。







Kep FX Phase Ⅱ.2
Electro-Harmonix Nano Bassballs
Moog Minifooger MF Drive

いわゆる単体の歪み系エフェクターを用いるより、フィルターとの複合機内蔵の '歪み' で用いてみると良い結果となる場合があります。以前にご紹介したElectro-Harmonix Micro Synthesizerと同様なものとして、こちらの日本未発売ものKep FX Phase Ⅱ.2です。本機は、1970年代にドラム・メーカーのLudwigが発売したエフェクターPhase Ⅱ Synthesizerのデッド・コピー品なのですが、ワウにファズやフェイズを混ぜることで 'イヨイヨ' とか 'オイオイ' とか、まるでオッさんが唸っているような感じが面白い!また、エクスプレッション・ペダルを繋いでより多様なニュアンスを表現することも可能です。もしくは、ゲロゲロとカエルの鳴き声のようなワウにしてくれる '歪み内蔵' エンヴェロープ・フィルター、Electro-Harmonix Bassballsもエグい効果としてオススメ。ベース用にしては実に幅広いレンジを持っております。ちなみに、エレハモといえば現行の 'Nano' 以前はこの大柄なブリキケースが特徴的なのですが、初期のチキン型ノブ(動画のもの)とツヤ消し丸型ノブのもので微妙に仕様が変更されております。チキン型ノブは6PIN、DPDTのバッファード・バイパスでツヤ消し丸型ノブは9PIN、3PDTのトゥルーバイパスです。中古で購入される場合はその辺をご注意下さいませ。そして、個人的に管楽器にピッタリな '歪み' なのでは?と思うのが、'Moogerfooger' シリーズでおなじみのMoogよりコンパクト・エフェクターのスタイルで発売した 'Minifooger' シリーズ。その中でもこのMF Driveはローゲイン的歪みを 'シンセ' 的フィルターで変調、エクスプレッション・ペダルを繋いでワウ的にも用いるユニークなものです。決してエグい 'ギターシンセ' 的サウンドではなく、あくまで '歪み+フィルター' として倍音の質を変調させることに特化してあるのが '使える' と思います。



Natsuki Tamura Quartet / Hada Hada ①
Natsuki Tamura Quartet / Hada Hada ②

長く、ピアノの藤井郷子さんとパートナーを組んで独自の活動をされている田村夏樹さん(ちょっと横尾忠則氏に似てる)の2003年のソロ・アルバム 'Hada Hada' (Libra 104-008)。iTunesでも購入可能なんですがこれ、メチャクチャ格好良いですねえ。深〜い闇のようなリヴァーブの 'モーリッツ・フォン・オズワルド的' 空間をつん裂く歪みきったラッパ。エグいトーンの好きなラッパ吹きなら必聴ですヨ。まあ、フリー・ジャズ的なアプローチのラッパだとグロウル奏法やファズトーンとか、アコースティックで歪ませる特殊奏法を好んで使う人は多いですけど(以前にご紹介したアクセル・ドーナーしかり)、この 'Hada Hada' での田村さんの歪みっぽいラッパ、どうやって出しているのだろうか?ちなみに動画は、かなりユニークなコラボレーションというべきか、蛍光灯の発光ノイズを 'アンプリファイ' にした創作楽器 'Optron' を軸に活動するノイズ・アーティスト、伊東篤宏さんとのライヴ。


そして、以前に ''飛び道具' という懐刀' でもご紹介した 'ビット・クラッシャー' 的エフェクターWMD Geiger Counterなども、全252種類からなる波形の組み合わせで管楽器に合う歪みを見つけられるかもしれません。単純に歪みといってもいろいろなニュアンスがあり、ブースター、オーバードライブ、ファズ、ディストーションといった 'ジャンル' は、あらゆるメーカーが凌ぎを削る最も競争力の激しい市場なのです。また、近藤等則さんも以前から '歪み' とラッパについて探求しており、以前はCustom Audio Amplifiers 3+ SE Tube Preampというノーマルとクランチとディストーションの3チャンネル真空管プリアンプを用いておりました。現在のフィールドワークの出発点ともいえるイスラエルはネゲブ砂漠での 'Blow The Earth'。ここではBarcus-berry 1374マウスピース・ピックアップひとつで、気持ちの良いチューブ・サウンドを聴かせてくれます。

Toshinori Kondo 3D Sound Installation
Fulltone OCD
Lehle Julian Parametric Boost

現在のコンドーさんの足元はFulltone OCDというディストーションとLehle Julian Parametric Boostを併用。上記リンク内のペダルボードを見るとOCDはVolume11時、Tone1時、Drive0というまさに歪み無しなクリーン・ブースターの設定。そしてJulian Parametric Boostの方は、Gainが12時、Freq.4時、Boost2時、Treble1時という、これまたクリーンな設定でOCDをプッシュする役割でしょうか。想像するにたぶん、マウスピース・ピックアップだけだとオープンホーン(ワウのない状態)のときにゲインが足らず聴こえにくいのではないかな、と。そこでLehleのブースターをパライコ的EQでブーストしつつ 'オープンホーン' の状態を際立たせていくというか。



ちなみにこちらは、ファズでもってエレクトリック・ギターを 'ブラス' の音に変えてしまおうというもの、Maestro Bass Brassmaster BB-1です。その名の如くベースをチューバのようなブラスのトーンに変えてしまおうというもので、現在でも他に代替え機のない唯一無二な存在としてオリジナルは10万〜25万くらいの価格で取引きされております。このメーカーは開発当初からファズと管楽器の関係についてしつこく追及していたような印象があるのですが(Maestroのブランドマークが3本のホーン!)、しかし、'ギターっぽい' サウンドを出したいラッパ吹きと 'ブラスっぽい' サウンドを出したいギター弾き・・面白い関係ですね。







MXR M-103 Blue Box

そもそも 'Fuzz' の語源とは '毛羽立つ' という意味で、世界最初のファズボックスを開発したGibson / Maestro Fuzz ToneのPR音源を聴いてみると、いわゆるアンプの歪みというよりかは、バリトン・サックスやチューバに代表されるブリブリとしたホーンを模倣するというのが出発点のようです。このファズを有名にしたザ・ローリング・ストーンズ1965年の 'Satisfaction' では、キース・リチャーズのイメージとしてあったスタックスの分厚いホーンセクションのリフを模倣することでした。そして現在、NAMMショウでPasoanaのピックアップを取り付けたバリトン・サックスがデモンストレーションする。この '先祖返り' こそ 'アンプリファイ' な管楽器とエフェクターの関係を象徴していますね。さらに、またまたご紹介の 'Snarky Puppy' のラッパ吹き、Mike 'Maz' MaherさんによるMXR Blue Boxのデモ動画。いや〜、これは格好良いですね!Shure SM58ダイナミック・マイクとFenderのギターアンプにマイクを立てて収音することで、ここまでラッパをエレクトリック・ギターへと '変貌' させてしまうのですから。目を瞑って聴いているとほとんどギターが弾いているようにしか聴こえない!このBlue Boxはオクターヴ・ファズなのですが、単体の '歪み系' エフェクターとして見ると 'ビット・クラッシャー' 的エフェクターに共通するチープなものです。しかしMaherさんは、ワウを踏みつつギターアンプで持ち上げてハウる寸前ながら、ブルージーなフレイズで実にギターっぽくアプローチしているのがグッド!この動画では、ワウやオクターヴ・ファズでは中域を強調するダイナミック・マイク、ディレイでは柔らかな生音を活かしたリボン・マイクで収音を分けているところなども、管楽器の 'アンプリファイ' をする上で参考となるセッティングです。



たまにはアンプから耳を劈くような '倍音' を浴びてみると、面白い発見が生まれるかもしれません(騒音注意!)。



2016年3月4日金曜日

シタール 60's

昨年Dan Electro Baby Sitarが '二度目の' 復刻をしました。1967年から69年にかけて販売されたこの ‘シタール・ギター’ は、同社がCoralのブランドで販売したElectric Sitarと並び、1960年代後半のフラワー・ムーヴメントの季節である 'サマー・オブ・ラヴ' を象徴するアイテムだと言っていいでしょう。



こちらの動画はDan ElectroがCoralのブランドで1967年に発売したエレクトリック・シタール。後に、Jerry Jonesというブランドからも復刻したシタールの音色を 'シミュレートする' エレクトリック・ギターの一種です。


Electric Sitar ①
Electric Sitar ②

また、欧米でエレクトリック・ギターの 'シタール化' が起これば、本場インドではシタールの 'エレキ化' が起こる、ということで、ムンバイのPaloma社製ほか、シタールにピックアップやツマミを付けたこんな 'エレクトリック・シタール' も御座います。



しかし最近では、わざわざ 'シタール・ギター' を用意せずともこんなシタールの音に変えてくれるエフェクターも御座います。昔は 'ギター・シンセサイザー' のプログラムのひとつとしてのみ用意され、コンパクト・エフェクターでは再現不可能だったのですが、いやあ現代のDSPの技術は凄いですねえ。'デジタル臭さ' はありますが、雰囲気はかなり肉迫しているのではないでしょうか。ラッパで使ったらどんな音になるのか別の意味で興味がありますケド・・。

インドの民俗楽器であるシタールが、当時の新しいロックの響きの中で渇望されていたというのは、いまから考えると相当に ‘異様な’ もののように思えてきます。突然、欧米の文化圏の中から三味線や尺八が聴こえてくるようなもので、以前なら ‘エキゾティック’ なもの、今なら ‘Cool Japan’ などと称して取り上げていたことでしょう。しかし1960年代後半、このシタールを始めとした東洋文化とヒッピーイズムの伝播は、遠くインドシナの地で泥沼に陥ったベトナム戦争を始め、それまで誇っていた欧米の価値観が揺らぎ出していたことに意味がありました。つまり、単なる流行を超えたところで時代を乗り越えようとする若者の反乱と意識変革に大きな力を与えた ‘響き’ がシタールにはあったのです。1965年のザ・ビートルズ ‘’Norwegian Wood’ 1966年のザ・ローリング・ストーンズ ‘Paint It, Black’ で、それぞれシタールをフィーチュアしたことがロックにおけるシタール・ブームのきっかけを作ります。以後、サイケデリック・ロックにおいてシタールの響きは人気を博し、またジャズや映画音楽においても多用され、当時のフラワー・ムーヴメントを彩る ‘サウンドトラック’ として、大音量のエレクトリック・ギターと共に時代の空気を代弁しました。



'サマー・オブ・ラヴ' の時代真っただ中、多くのヒッピーたちが集う 'モンタレー・ポップ・フェスティヴァル' で演奏するシタールの巨匠、ラヴィ・シャンカール。同コンサートで鮮烈な印象を残すジミ・ヘンドリクスもたぶん見ていたことでしょう。


‘Electric Psychedelic Sitar Headswirlers’ という全11枚からなるコンピレーションがありますが、これはまさに、そんな時代に量産されたシタールをフィーチュアするロック、ジャズ、イージー・リスニングetc…をコンパイルしたもの。もちろん、こんなものは氷山の一角であり、他にも掘り起こせばいくらでも出てくるほどシタールが ‘時代のサウンド’ であったことを、この膨大な量のコンピレーションは教えてくれます。

さて、ここからはそんな混迷する時代の中でシタールをフィーチュアした曲、それもグルーヴィーなヤツをご紹介したいと思います。ある意味、ジョージ・ハリソンがマハリシ・マヘギ・ヨギにかぶれてしまった ‘若気の至り’ 的な抹香臭いものから、単純にエキゾでモンドな ‘覗き見趣味’ 的にアプローチしたものまで、ひっきりなしに粗製乱造していたのが1960年代後半という時代でした。そんな混沌とした雰囲気にシタールは一役買っていたのですが、特にジャズマンたちの '変貌ぶり' は目を見張るものがあるでしょう。御大マイルス・デイビスからして高級なイタリアン・メイドのトラッド・スーツを脱ぎ捨て、極彩色な柄のシャツにフリンジの付いたジーンズ、ジャラジャラとしたアクセサリーに宇宙飛行士のように大きなレンズのサングラスをかけ、激しいロック・ビートと濃密なシタールの音色を纏いながら黒いラッパを吹いたのです。



ここ近年のリバイバルで見るなら、1990年代以降のアシッド・ジャズ、モンド・ミュージックとの繋がりで、ドイツのジャズ・ロック・グループ、ザ・デイヴ・パイク・セットの ‘Mathar’ が再評価されたことは大きいですね。それまでの瞑想的なインドのラーガ的イメージからシタールをグルーヴィーな8ビートに乗せるという価値観は、ある意味 '時代' が一周回ったかのような面白さがありました。スタイル・カウンシルのポール・ウェラーがIndian Vibesという ‘覆面バンド’ でカバーし、立花ハジメもテイ・トウワをプロデュースに迎えて制作した 'Bambi' で 'Son of Bambi' としてカバー。そして、この流れを受けて ‘本家’ であるザ・デイヴ・パイク・セットも過去の作品がすべてCDリイシューされました。ただし ’Mathar’ のイメージが強い同グループですが、全7作中シタールをフィーチャーした曲はわずかに3曲、意外でしたね。それはともかく、このグループはすべてに格好良いクールなジャズ・ロックを展開しているので必聴です。ちなみにクリーゲルは 'Mathar' 収録のアルバム 'Noisy Silence - Gentle Noise' のライナーノーツでこう述べています。

"まだ2週間にしかならないけれど、インドの楽器シタールと取り組んでいるところなんだ。ご多分にもれず、この偉大な楽器のすばらしいサウンドに興味を持ったからね。マタールっていうのは、ラヴィ・シャンカールが人前で演奏できるようになるまで、グルの元で14年間学んでいた、北インドの村の名前なんだ。でも、それだけじゃない。この言葉には、'Mathar' が 'Mother' (母)とシタール(Sitar)という言葉も含んでいるように思えるんだ。"

ちなみにこのクリーゲルさん、1970年代をギタリストとして駆け抜けながら1980年代に入って廃業し、不動産業かなにかに転身してしまったという変わり種の人でもあります。



こちらは何とも謎のグループ、ザ・ソウル・ソサエティの 'The Sidewinder'。そう、一聴してお分かりのリー・モーガンのヒット曲ですね。1960年代後半に 'Satisfaction from The Soul Society' というアルバムをDOTというレーベルから一枚リリースしたソウル・ジャズ・グループのようで、当時のヒット曲であるサム&デイヴの 'Soul Man' やザ・ローリング・ストーンズ 'Satisfaction'、ミリアム・マケバの 'Pata pata' などをファンキーにカバーしております。本曲のラテン・ジャズ・アレンジによる 'The Sidewinder' のイントロで鳴る濃厚なシタールの '掴み'、たったコレだけなんですがナイスなアレンジです。

この他、パット・マルティーノやガボール・ザボなど、当時、ギターにおける早弾きのスキルと相まって、シタールに関心を持つギタリストは大勢いました。ザ・ビートルズのジョージ・ハリスン、ザ・ローリング・ストーンズのブライアン・ジョーンズはバンドにシタールを持ち込んだ張本人ですが、何より、1967年の ‘モンタレー・ポップ・フェスティヴァル’ 1969年の ‘ウッドストック・フェスティヴァル’ のステージに立ったシタールの巨匠、ラヴィ・シャンカールの演奏は大きな影響を与えます。ヒンズー教に帰依までした ‘マハヴィシュヌ’ ことジョン・マクラフリンはもちろん、米国人ながらラヴィ・シャンカールに師事してシタールを習得し、そのままジャズの世界の中で '伝道師的' に数々のセッションを経ながら、マイルス・デイビスの 'On The Corner' に参加したコリン・ウォルコットもいました。また、パット・マルティーノとの共演を経てマイルス・デイビスのセッションに参加、後にそのメンバーとなるカリル・バラクリシュナ、ウェストコースト一帯でセッション・ミュージシャンをしていたビル・プルマーらも皆米国人ながら ‘インド’ にやられてしまったひとりです。

 

1968年のハリウッド映画 'The Party' のOSTはヘンリー・マンシーニが手がけ、そのテーマ曲でのシタールの演奏をビル・プルマーが行いました。本作は同時期にImpulse !で吹き込んだソロ・アルバム 'Bill Plumer and The Cosmic Brotherhood' から、これまた同時代のバート・バカラックによるヒット曲 'The Look of Love'。このように単なる '時代の音色' としてシタールを扱うサウンドがある一方で、インドの古典音楽の持つ即興演奏の '構造' にアプローチするジャズマンも出てきます。ジャマイカ出身で米国で活動していたサックス奏者ジョー・ハリオットは、早くからインドの古典音楽にアプローチしていた稀有な人であり、インド人ヴァイオリニストのジョン・メイヤーと共に 'Joe Hariott - John Mayer Double Quintet' としてAtlanticから立て続けにアルバムをリリースしました。

Indo - Jazz Suite (Atlantic 1965)
●Indo - Jazz Fusions Ⅰ (Atlantic 1967)
●Indo - Jazz Fusions Ⅱ (EMI 1968)



このジョー・ハリオットとジョン・メイヤーの試みは大西洋を渡り、ブリティッシュ・ジャズのジャズマンたちをも刺激し、1969年にThe Indo-British Ensembleの名義で 'Curried Jazz' というアルバムを制作します。ここでは1965年の 'Indo - Jazz Suite' に続いてラッパのケニー・ウィーラーも参加しておりますが、この時代、ウィーラーもモダン・ジャズからフリー・ジャズ、ジャズ・ロックに加えてこのような 'インドもの' まで、実に幅広く活躍しております。






そして、インドの古典音楽の持つ即興演奏の '構造' を自らのビッグバンドに取り入れたドン・エリスなのですが、おお〜!まさかこんな音源が残っていたとは・・コレ、明日にでもアルバム化して発売できるクオリティですね。'Hindustani Jazz Sextet' という名の実験的グループによるライヴ音源のようで、1964年の時点ですでにその後の 'インド化' の端緒を切り開いていたことが分かります。タブラやシタールの演奏はHari Har Raoなるインド人?が担っているようですが、ヴァイブのエミル・リチャーズやベースのビル・プルマーなど、この後完全にインドに 'かぶれてしまう' 連中が参加しているのも興味深いです。そして、自らのビッグバンドの 'インド化' を象徴する1曲 'Turkish Bath'。当時、シングル・カットもされたくらいですから多くのヒッピーたちからもウケていたことでしょう。

一方、このような欧米の 'シタール・ブーム' に対し、やはり 'ビートルズ・ショック' を受けたであろうインドの文化圏からもロックやR&Bの要素を取り入れたグルーヴィーなヤツが登場します。



ラヴィ・シャンカールの娘として、今や父と同じくシタール奏者の道を歩むアヌーシュカ・シャンカールや、世界的なポップ・スターとなったノラ・ジョーンズ(この二人は異母姉妹です)に比べ、甥っ子のアナンダ・シャンカールなどと言われても知らない人がほとんどでしょうね。やはり叔父のラヴィ同様シタール奏者の道を歩みながら、時代の空気がそうさせたのか、師匠の反発を無視してロックにアプローチした時期がありました。1969年に大手レーベルRepriseと契約してザ・ドアーズの 'Light My Fire' やザ・ローリング・ストーンズの 'Jumping Jack Flash' をカバーしたり、1974年の 'Ananda Shankar and his Music' からの一曲である 'Streets of Calcutta' では、エグいモーグ・シンセサイザーを取り入れたグルーヴィーなスタイルを披露しました。



イランのシタール奏者などと言われてもなかなかインドとは結び付きませんが、地図を見ればそこはインド、パキスタン、イランという広大な文化圏が一続きなのです。まだ 'イラン革命' 前のパーレビ国王時代のイランは米国の文化を楽しむ余裕があり、このMehrpouyaというシタール奏者もアルバム 'African Jambo' からの一曲 'Soul Raga' でグルーヴィーなR&Bの要素を見せ付けます。

ある種の観念的なイメージ、エキゾな慰みものとして東洋は常に西洋圏の眼差しの中で査定され、型作られてきました。その中でもシタールという楽器が持つ抹香臭い響きは、それこそ、米国の通販で売られている ‘Zen’ などと呼ばれていつでもどこでも枯山水の庭園を味わえるミニチュアと同程度の、お手軽なアジアを所有できるアイテムだったのではないかと思います。これをもって文化的簒奪や新たな植民地主義だ、などと批判することは簡単ですが、しかし、なぜシタールが欧米の価値観を揺るがすほどの魅力を振りまいたのか、という文化的なパラダイム・シフトの背景を答えることは簡単ではありません。資本主義社会が最初のデッドエンドを迎えた1960年代後半、世界が反乱の狼煙を上げる中で鳴り響いたシタールの香りは、現在の世界の状況に新たな光を投げかけます。


2016年3月3日木曜日

ステレオの遊泳

2000年代半ば、一台の不思議なキーボード・アンプが日本の市場にやってきました。真空管アンプの製作で有名なGroove Tubesが手がけたトランジスタ・アンプ、というだけでも異色でしたが、それは100Wの小型アンプながらL/Rのみならず300度にわたるステレオ音像を再生してしまうのです。その名は 'SFX Spacestation Mk.2'。

Aspen Pitman Designs Center Point Stereo Spacestation V.3



当時の代理店であったイケベ楽器が少数取り扱ったのみで、手を出してみようかと悩んでいる内にあっという間に市場から姿を消しました。それから5、6年ほど経った後、偶然にもイシバシ楽器で定価より半額ほどの中古で登場、ツマミ類に多少のガリはありましたがようやくGET!とにかく一台のアンプにして、正面の8インチ・コアキシャル・スピーカーと側面90度に配された6.5インチ・フルレンジ・スピーカーの組み合わせでステレオが鳴っているのは不思議でした。

Portable PA System
Yamaha Stagepas 400i / 600i



通常、ステレオとはLとRに配された2台のスピーカーを適度な間隔で調整することで生成するものです。上の動画は簡易PAシステムのYamaha Stagepas 600iで、パワード・ミキサーを軸にLとRを離してステレオの環境を構築する一般的なもの(オプションでモニター用の 'ころがし' やサブウーファーを入れ、3Way再生として拡張可)。しかし、スピーカーに対して聴き手が真正面に向かい合い、また少しでもそのポイントからズレるとステレオ効果が半減してしまうのが欠点でもありました。'Spacestation' は、Groove Tubes時代に 'Stereo Field Expansion (SFX)' として、そして '復活' した本機では 'Center Point Stereo' (CPS)という名で、とにかくどこの位置にいてもステレオの音像を崩すことなく体感することができます。これらの音像をVolumeとWidthのたった2つのツマミで行い、また、このWidthを回すことでいわゆるL/Rの間隔を調整する働きをします。わたしはステレオ・ディレイからライン・ミキサーを介して入力してみましたが(基本的にライン・レベルのアンプです)、やはり、この広大なステレオの分離感の中で繰り返すディレイの音像はたまりませんね。しかし、わたしの手に入れたものは中古の時点で相当くたびれており、残念ながら本格的に故障する前に手放してしまいましたが、まさか設計者自ら会社を立ち上げて '復活' させるとは・・きっと、このユニークさを惜しむ声があちこちから上がっていたのでしょうね。ちなみにこの技術は 'SFX' の頃にFenderとライセンス契約を結び、同社のアコースティック用アンプ 'Acoustasonic' へ活かされました。現在は 'Acoustic SFX' という200Wのアンプへと進化しております。

Fender USA Acoustic SFX







ソロでステレオ・ディレイの音像をたっぷり活かしたギターや、コンピュータからの 'カラオケ' と組み合わせての 'ひとり' アンサンブル、少人数なバンドの簡易PAとしてライン・ミキサーからL/Rの定位に振り分けてまとめるなど、このサイズにして見事な働きをしてくれます。Groove Tubes時代の 'SFX Spacestation'ではLevel(Volume)とWidthの2つのツマミだけだったのが、本機ではMidsとHFQのEQが加わったことで各帯域をスポイルすることがなくなったのは嬉しいですね。

Roland Jazz Chorus JC 1
Roland Jazz Chorus JC 2
Roland JC-120
Roland JC-40 ①
Roland JC-40 ②
Roland FM-186

 

さて、以前に ''アンプリファイド・ホーン' という音場' でも取り上げましたが、ランディ・ブレッカーが1992年のザ・ブレッカー・ブラザーズ '復活' ツアーで試みたギターアンプのRoland Jazz Chorus JC-120をステレオで鳴らす、というやり方もPA的にオススメできます。そもそもは、トランジスタアンプであるJC自体の歪み方が気に入らないことから、JCのプリアンプはスルーして2発のパワーアンプのみ使用、歪みは別個アンプ・シミュレーターなどで作るというところから行われている 裏ワザ的手法でもあります。上の動画でも確証できますが、ランディの後ろに傾けて置くJC-120の前面インプットにケーブルが刺さっていないことから、JC-120後方のリターンからステレオで入力していることが分かります。最近発売されたJC-120の '弟分' である40W(20W+20W)のJC-40でもこのリターン入力(-10dBuのインピーダンス固定)ができるのでお試しあれ。また、あくまでJCは2発のスピーカー再生のみ(前面のツマミ無効)なので、アンプ・シミュレーターかライン・ミキサーでラッパ側のヴォリュームを調整することになります。ランディは、Rolandの1Uラック・ミキサーM-120からリターンに繋いでいるので、JC-120のリターン側に付いているインピーダンス・スイッチを '+4dBu' に入れています。現在では、M-120の後継機としてFM-186といったライン・ミキサーがあるのでここからステレオでJCのリターンに入力すると良いでしょう。







ニューヨークで独自の活動を展開する 'Mutantrumpet' のベン・ニール。そしてノルウェーの二大ラッパ吹き、アルヴェ・ヘンリクセンとニルス・ペッター・モルヴェルら、彼らのようにコンピュータを用いてジョン・ハッセル風 'エレクトロニカ室内楽' 的アプローチをする者には最適な音響システムでではないかと思います。また、このような時間軸のない 'ドローン・ミュージック' にぴったりなエフェクターとして以下のものはいかがでしょうか?

Mid-Fi Electronics Organ Drone ①
Mid-Fi Electronics Organ Drone ②



最近はギターの音を 'オルガン・トーン' に変えてくれるペダル(Electro-Harmonix B9やC9など)がありますが、こちらは入力する音とは関係なく、バッキングなドローンとして 'オルガン・トーン' を垂れ流してくれるもの。米国のガレージ・メーカーMid-Fi Electronicsの製品で '飛び道具' ながら、内蔵のオシレータをチューニングして厚みのあるアンサンブルを生み出してくれます。特に、ステレオ・ディレイと組み合わせて 'Spacestation' で鳴らすことで、かなり心地よいステレオ空間の演出に一役買うこと間違いなしです。

2016年3月2日水曜日

欲望する機械 - 'グリッチ' の反乱 -

一時は完全に '過去の遺物' と化したコンパクト・エフェクターは、1990年代以降の 'ヴィンテージ・エフェクター' 再評価を経て、今や大小あらゆる企業がしのぎを削る大きな市場となりました。その中でも '新たな効果' としてエレクトロニカ興隆と共に注目を集めたのが 'グリッチ/スタッター' と呼ばれるものです。



そもそもはオーディオ・データとして、コンピュータの中でCycling 74 MAX/Mspを始めとしたプラグイン・エフェクトで処理することで生成する 'エラーノイズ' の一種であり、これは、CDの盤面にサインペンで '傷' を付けることで起こる '読み取りエラー' をハードディスクに貯蔵し、音響作品のとっかかりとするオヴァルを先駆として流行しました。





MWFX Judder
Red Panda

長らくこのような効果はコンピュータ上での処理に任されてきましたが、ここ数年の間にいくつかのメーカーからそれを再現したような製品が市場に現れています。最初に日本の市場に現れたのは上記のJudderというヤツで、イギリスのガレージ・メーカーであるMWFXからのもの。いかにも 'ガレージ・メーカー臭' 満載の木をくり抜いた筐体、ホールド・ディレイ機能の応用で弾いた少し後にモメンタリー・スイッチを踏む必要があるなど、以降の同種製品に先鞭を付けた仕様となっております。続く米国はミシガン州で製作するRed PandaのParticle。こちらは'グリッチ/スタッター' にピッチ・シフターやディレイ、デチューンの機能を加えた多機能型で、より洗練されたハーモニーと 'グリッチ' の同居する仕様は、今回取り上げた機器の中で最も音楽的なアプローチを可能とします。そして、この分野は特に日本のガレージ・メーカーの躍進ぶりが凄まじく、今や世界に誇る 'ノイズ・メーカー' としてその地位を確保し、最近は 'ユーロラック・モジュラー・シンセ' の分野へも積極的に参与しているMASF Pedalsは先駆的存在でしょう。このような効果を生み出すものは、回路的にはショート・ディレイのホールド機能とループ・サンプラーの応用、効果としては以前に 'シーケンスされる快感' でも取り上げた、シーケンス機能付きのエンヴェロープ・フィルターの発想に近いものだと言えます。



MASF Pedals Possessed

その名称 'Possessed' とは '取り憑かれる' の意で、5つあるパラメータのツマミもそれぞれ五感の 'Taste' (味覚)、'Touch (触覚)'、'Hearing' (聴覚)、'Smell' (嗅覚)、'Sight' (視覚)から名付けられています。まさに '飛び道具' エフェクターらしく名称の先入観に囚われず使ってみて欲しいとのことで、完全に予測不能、制御不能に陥ること間違いなし(褒め言葉です)。まるで '旧共産圏的' 製品っぽい無愛想なルックスは最高で、筐体の裏面には素晴らしい西洋のお城が描かれております。しかしスイッチの耐久性は低く、使い続けると何度か '踏み抜けた' ようにOnにならなかったのは残念(わたしの個体だけ?)。あと 'エレアコな' ラッパで試したからなのか少々ノイジーな印象、Outputのゲインを回し切るとブ〜ンと持ち上がります。




MASF Pedals Raptio

そして、以前に ''飛び道具' という懐刀' でもご紹介したMASF Pedals RaptioとS3N Super Flutter V.2。このS3Nというガレージ・メーカーは、V.2にまで 'ヴァージョンアップ' したサンプラー機能付きのSuper Flutterと 'グリッチ/スタッター' 機能のみの手のひらサイズな廉価版Micro Flutterを限定生産しておりました。Raptioは、Possessedがほぼランダマイズな 'ノイズ生成器' ともいうべき存在なのに対してシーケンス的にコントロールできるもので、トレモロ的な 'ブツ切り' をモーメンタリー・スイッチで操作します。また、シームレスなホールド状態のループも生成できるという点では、Electro-Harmonixの同種製品FreezeやSuperegoの対抗機とも言えるでしょう。ちなみに、わたしはこのMicro Flutterを試したことがあるのですが、とにかくガレージ・メーカーとは思えないくらい製品としてのクオリティ、技術力の高いものです。正直、これを2万円クラスで少量生産していたという点で、かなりの割高コストだったのではないかと思いますね。早い生産体制の復帰を切に願うばかり。

Butterfly FX RARC (Round and Round Clock)

こちらはまだデモ動画のない状態ですが、新規参入してきたButterfly FXからの新製品であるRARC(Round and Round Clock)。これはMASF Pedals以上に 'ガレージ・メーカー臭' がプンプンするというか、正直見た目は失礼ながら '個人製作' レベルな荒い作りです。In/Outにエクスプレッション・ペダル端子、スイッチの各表記もなければ、LEDも付けられていない荒削りなルックス。これ、取説なくしたら不便かも。まあ、今でこそエフェクター・メーカーとして成長したFulltoneやKeeley、Analog Manなども、当初は完全に 'シロウトの個人製作レベル' 丸出しな作りでしたケドね。特徴としては3段階の 'ローファイ' な質感を設定できるフィルター機能で、これはS3N Micro Flutterの 'デジタル臭い' クリアーな質感とは完全に真逆です。また、Boss FV-50Lを流用したエクスプレッション・ペダルが付属しており、これを繋げることでディレイ・タイムが可変、さらに増設されたスイッチをOnにすることでFV-50Lのツマミが稼働し、ペダルの踏み込み幅を調整することができます。しかし、こういう製品が続々と市場に現れてくるのは歓迎したいですね。

さて、ナンダカンダと解説しておいてなんですが、これら 'グリッチ/スタッター' 系エフェクターは '歪み系' と並び、実はラッパではかなりの '鬼門' 的存在です。こういう効果は大好きなのだけどMASF Pedals PossessedとS3N Micro Flutterでそれぞれ試した限り、やはりマイクで収音するラッパだとブツ切りする度に鳴るドッドッドッという 'トレモロ・ノイズ' や、Micro Flutterのモメンタリー・スイッチを踏む度に大きく鳴るブツッとしたノイズが耳につきます。やはりクリーン過ぎるアンプで鳴らしていると想定外のノイズが回り込み目立ってくるようです。また、リアルタイムなフレイズでスイッチを踏むより、ループ・サンプラーなどで録音したフレイズに対して用いた方が効果的ですね。つまりKorg Kaosspadのようなシームレスなリアルタイム性ではなく、客観的な視点の中で調整するリアルタイム性というか。これは例えば、ビデオで撮りながらいろいろと映像を加工していくのか、撮った写真に対してあれこれコラージュ的に手を加えていくのかの違いと言えば分かりやすいかもしれません。

こういう効果をすばやくOn/Offしては、ソロのフレイズのわずかな合間に挟みながら演奏してみるとかなり格好良いんじゃないかとアプローチしてみたものの・・いや〜、コイツを手なずけるのは相当難しいですねえ。むしろ、これを読んで奮起し、どなたかが 'オリジナル' な可能性を身に付けてもらうことに期待します。








と、ここで以前取り上げた ''飛び道具' という懐刀' の番外編、米国の 'Pedal Geek' ともいうべきDennis Kayzerさんの2014 & 2015年新製品ベスト25 & '飛び道具' エフェクター・ベスト25!この人、膨大な量のコンパクト・エフェクターを収集しては、一昨年から新製品 '年間ベスト' を暮れにYoutubeで発表するもの凄い人です。あくまでギタリスト的視点ではありますが、世の中にはこんなブッ飛んだブツがゴロゴロしているということで・・どうぞお腹いっぱい召し上がり、面白そうなヤツに挑んでみて下さいませ。ていうか、もうラッパでは太刀打ちできない・・。




Source Audio

またまたJohn Bescupさんの動画で今度はダブに挑戦!前回まではSWRのベースアンプで鳴らしていたのが、ここから新たに入手したらしいLeslie Model 205ロータリー・スピーカーに換装しました(Bescupさんの後方にある茶色い箱)。ロータリーによるドップラー効果でメチャクチャ気持ち良く鳴っておりますね〜。お、机の上にSource Audio SA126 Bass Envelope Filterがあります。コレ、別売りのHot Hand SA115モーション・センサーという指輪のようなもの嵌め、テルミン的にコントロールできる面白いものです。動画を見る限り、モーション・センサー使っているのかどうかは分かりませんが、机に乗っけて手で操作するBescupさん向けのエフェクターなのは間違いない。

2016年3月1日火曜日

電気喇叭の履歴書

ラッパを ‘アンプリファイ’ にして早20年余り・・ほぼ自分の足回りが固まってきたような気がしております(と言いつつ、満足はしていないのですが)。その探求の途中、エフェクターそのものやDTMの面白さなどにハマり余計な散財はしたものの、基本的な構成は当初から変わっていないですね。現在はプリアンプ、Magical Force、オクターバー、ワウペダル、プリセット・ヴォリューム、ループ・サンプラー、ディレイ、DI、そしてアコースティック用160Wのアンプ。まあ、ラッパでやれることなどたかが知れているので、例えば、ギタリストのように ‘歪み’ だけで34つと足元に置いては新製品が出る度にチェックするという ‘エフェクターの旅’ とは無縁です(それでもワウとオクターバーは '長い旅路' に出ましたケド)。最初に購入したのはRoger Mayerのワウ・キットをイケベ楽器で組み込んだCrybaby、オーバードライブのIbanez TS-9 Tube Screamer、そして 'オルガン・トーン' の心地よいJim DunlopUni-Vibe UV-1Electro-Harmonix Deluxe Memory Manという布陣でした。時代はまさにヴィンテージ・エフェクター復刻のまっただ中、とにかくギターと無縁なラッパ吹きのわたしは、場違いなお店のガラスケースに陳列されている ‘魔法の小箱’ の妙なルックスと効果に惹き付けられてしまったのです。特にUni-Vibeの、まるで深海でオルガンが鳴っているような心地よい揺れ具合は最高で、以降Uni-Vibe ‘クローン’ な製品をいくつかチェックするほどハマってしまいました(その割に今の足元に単体のモジュレーション系はありませんケド)。


 

そんなヴィンテージ・エフェクターの王様、Electro-Harmonix。鉄板を菱形に曲げたような筐体は迫力十分で、まるでアメ車のような荒削りさをそのデカさと共に誇るこのメーカーは、まさに当時の 'エフェクター・マニア' を狂喜乱舞させるに十分な存在でした。このDeluxe Memory Manはアナログ・ディレイの定番機として今や ‘殿堂入り’ しており、そのくぐもったトーンと強烈な発振具合、グニャグニャと音痴な気分になってくるモジュレーションを備えるなど、ディレイといえばコレ、というユーザーを多く輩出します。最初にラッパで用いて 'なんちゃってビッチズ・ブルー' や 'なんちゃってコンドーさん' の即席気分を味わえるのは楽しかったですね〜。なんか、ただ声にエコーが付いちゃうだけで大喜びしてしまう 'ダブ黎明期' の気持ちというか。ちなみに当時は、これらエフェクターと一緒にMackieのライン・ミキサーであるMS1202-VLZを買い、ヘッドフォンでモニターしながら使用、さすがにアンプを自宅で鳴らすことには及び腰でした。このDeluxe Memory ManもミキサーのSend/Returnに安いプリアンプをインピーダンス対策にしてSendから繋いでいたのですが、ACアダプター仕様以前のエレハモ製品はIn/Outのインピーダンス・レベルが高く、他社の製品とのインピーダンス・マッチングを取るのが大変でしたね。そして 'アンプリファイ' なラッパの顔であるワウ、こっちはかな〜りこだわりましたねえ。とにかくラッパにぴったりのヤツがないというか、ワウペダルからエンヴェロープ・フィルターまであれこれ・・ホント散財しましたヨ。なぜ、一番最初にRoger Mayerのマニアックなワウを選んだかというと、当時のワウとしては珍しく3段階の周波数帯域切り替えスイッチが付いていたからなんですね。つまり、そもそもがギター用の製品なだけに、モノによってはラッパでかけてもイマイチ効果の不明瞭なヤツがあり、このような帯域設定の機能はラッパ吹きにはとてもありがたいものでした(サウンド的にはミッドの薄いドンシャリな感じ)。



Plutoneium Chi Wah Wah

最初の動画は、わたしの現在の足元に収まっている '手のひらワウ' の先駆、シンガポールのガレージ・メーカーPlutoneium Chi Wah Wahです。光学式センサーによる板バネを用いたワウペダルで、通常のワウとは真逆の踵側を '踏み踏み' して操作します。専用のバッファーを内蔵し0.5秒のタイムラグでエフェクトのOn/Off、そして何より便利なのがワウの効果をLevel、Contour、Gainの3つのツマミで調整できるところ。特別、これにしかない優れたトーンを持っているとは思いませんが、基本的なワウのすべてをこのサイズで実現してしまったものとして重宝しております。ワウの周波数レンジは広いものの、ペダルの踏み切る直前でクワッと効き始めるちょっとクセのあるタイプ。また、2010年の初回生産分のみエフェクトOn/Offのタイムラグが1.1秒かかる仕様だったので、中古で購入される方はご注意下さいませ(2010年10月以降は0.5秒仕様)。そして、本機はペダルボードの固定必須で使うことが条件で、普通に床へ置いて使うと前にズレていく安定の悪さがあり、操作のスタイルも踵側を踏むことから立つより座って踏んだ方が演奏しやすいと思います。ちなみに上記リンクのPlutoneiumのHP、アジア全開の色っぽさで彩られており・・かな〜りセクシーです!




そもそも最初のきっかけがラッパを真下に向けてワウペダルを踏むマイルス・デイビスのステージ写真です。それまで管楽器とエレクトロニクスが結び付かなかったわたしの中で、マウスピースから伸びているケーブルと足元のワウペダルの ‘不釣り合い’ な印象は衝撃でした。何なんだこれは?どういうこと?と、もう頭の中が???だらけなのです。今と違ってインターネットなどない時代だけに、とにかくどこから手を付けようかと考え、神保町の古本街を回りスイングジャーナル誌のバックナンバーを探すことから始めました。1972年、1973年、1974年、1975年の特集記事はほとんど集め、今でもスクラップにして大切に保存してあります。さらに新大久保の管楽器ショップを回り出して情報収集をする内に、どうやらマウスピースの '物体' はBarcus-berryのピックアップであることを突き止めます(正確にはShureのピックアップなんですが)。あるお店で当時のBarcus-berry代理店であるパール楽器発行のカタログを入手し、ようやくその全貌を掴みかけたものの、何と本国ではすでに製造中止となったとの報を貰います。もともと日本に入荷する数も少なかったアイテムだけに、かなりの数の楽器店へ電話をしまくったのですが梨の礫・・。それでもようやくヤマハ銀座店に1点のみ在庫あります、の連絡あり、喜び勇んで駆け付けたことが昨日のことのように懐かしい。それも、かなり珍しいBarcus-berry 6001というエレクトレット・コンデンサー・ピックアップだったのにはビックリでした。そこで手持ちのカタログの価格表を見れば、何とBarucs-berry全製品中ダントツの高額である約6万なり・・。もう清水の舞台から飛び降りる気持ちでいきましたヨ。さすがにマイナーな製品故か、店員もどうやって取り付けて使用するのか皆目分からない状態だったのですが、以前に新大久保の老舗管楽器店であるDACで情報収集した際、フュージョン全盛期によく楽器に穴を開けてそれを取り付けたよ、という店員さんと知り合い、もしピックアップを見つけたら持っておいでと声をかけてもらっていたことを思い出します。もちろん、そのまま新大久保へ向かったのですが案の定、その店員さんもよく見つけたねえ、とビックリするやら呆れるやら。しかし、ここからがわたしにとっての '地獄の始まり' なのでした・・。

当時使っていたGiardinelliのマウスピースに穴を開けて接合されたピックアップ。さっそく自宅に戻り、付属のプリアンプBarcus-berry 3000Aに繋ぎミキサーでモニターしたのですが・・ん!?これは正しい音なのか!?正直、これが最初にこのタイプのピックアップを用いたときの感想です。ラッパを吹いている人に分かりやすく伝えるならバジングの音。そう、マウスピースだけを手で持って口に当て、ビービーと鳴らしたときのあの音です。ピッチも取りにくければ、そもそもラッパの素の音とはまるで違うコイツをどうチューニングしていくかが アンプリファイ最初の壁でしたね。確かに、原理的に考えれば音の源である口元へマイクを接合するワケですから、そのノイズをダイレクトに拾ってしまうのは当たり前なのです。それも感度の高いコンデンサー・ピックアップなので息の吹かれや、音源との近接効果による低音の持ち上がりなど、技術者から見たらそんな場所にコンデンサー・ピックアップなんか使うな!と注意するところ・・コレ、今から考えても設計的に失敗した製品ではないでしょうか?



DPA SC4060 Condenser Microphone

近藤等則さんはこのBarcus-berry 6001ピックアップを78年ほど使い、コイツの設計思想をベースに(ピックアップ本体のスクリューネジによる着脱、ポリプロピレンのスクリーンによるマイクの保護など)DPAのコンデンサーマイクを流用し、現在オリジナルなマウスピース・ピックアップでラッパを鳴らしております。DPAのマイクの性能は分かりませんが、このBarcus-berry 6001は一言でいえば酷い音でした。そんな酷い音を手なずけて、どうチューニングしていくかなんて皆目見当も付きません。これはコンドーさんも言われておりましたけど、1979年にニューヨークで初めてマウスピースに穴を開けてピックアップを取り付けたものの、そこからはラッパ用の機材なんかない状況でどうチューニングしていくか途方に暮れたそうです。いつまでもあがきは続くよと言われてましたがまさにその通り!

さて、そんな高いお金出して買った酷い音をどうねじ伏せてやろうかとしばし思案していたのですが、さっそく効果を現したのはJim Dunlop Uni-Vibeのコーラス効果。つまり音をダブリングさせてギザギザしたエッジをマイルドにすることで思いのほか演奏しやすくなりました。しかし、ピッチをデチューンすることで効果を現すエフェクターだけにかけっ放しするワケにはいきません。そして、次に手を出したのがコンプレッサーのMXR Dyna Comp。音のピークを叩いてならすにはコンプレッサーというエフェクターが有効だとの情報を得て、この赤い小箱を繋いでみたのですが、う〜ん、確かにコイツも音のギザギザしたところを目立たなくさせ、演奏はしやすくなりましたが、このコンプ特有のエッジの丸くなる圧縮感に違和感を覚えました。特にDyna Compというヤツは圧縮感の強いコンプの代表格です。とりあえずこれ以上の解決策は見つからず、この誤魔化した感じのままやむなく、ラッパとエフェクターの関係についてあれこれ探求を始めることとなります。





そんな中、Jazz Life誌で復活したザ・ブレッカー・ブラザーズの記事を読んで、ランディ・ブレッカーがBossTW-1 T Wahというエンヴェロープ・フィルターとオクターバーのOC-2 Octaveを用いているということを知り、さっそく同じモデルを中古で見つけてきて足元に追加。ここから 'フィルター&オクターバーの旅' にしばし出かけることとなります。ちょうどワウペダルのかかりの悪さに悩んでいたので、オクターバーをかけてエッジが際立つのはナイスだと思いましたヨ。(雑誌の記事を通してですが)ランディ良いアドバイスありがと〜。



Mu-FX Tru-Tron 3X

また、エンヴェロープ・フィルターもワウペダルとは違うニュアンスでハマり、具体的なことは以前に書いた 'パコパコで '先祖返り'' の方を読んでもらうとして、ここからラッパとシンセサイズ的な興味へと向かうこととなります。まったく歯が立ちませんでしたが、古いRolandのSystem 100というモジュラーシンセのモジュールの一部を手に入れて、外部入力からVCF、VCA、LFOを通してどのように変調するかの実験も試してみました。上の動画は、わたしのお気に入りであったMu-Tron Ⅲ+のオリジナル版を設計したマイク・ビーゲルが新たにデザインした後継機、Mu-FX Tru-Tron 3XをFarnell Newtonなるラッパ吹きが用いているもの。おお、結構エグくかかっておりますねえ。



Electro-Harmonix Micro Synthesizer

こちらは、そんな 'ギターシンセ' の代表格、Electro-Harmonix Micro Synthsizer。現行品はよりコンパクトなサイズとなりましたが、やはりエレハモといえばこのデカいヤツです。中身は上下1オクターヴのオクターバー、Square Waveと名付けられたファズ、いわゆるエンヴェロープ・モディファイアの機能であるAttack Delay、そしてエンヴェロープ・フィルターの機能を各々ミックスすることで 'シンセ風' な効果を生み出します。それなりに気に入っていたとは思うものの、金欠ですぐに手放してしまったかで正直あまり覚えておりません。機会があれば、いまもう一度使ってみたいと思いますね。しかしあれこれと探求してきたラッパの 'アンプリファイ' も2000年代の半ば頃、それまで頑張ってきたBarcus-berry 6001が断線してあえなく 'オシャカ' となりました。購入当初からこれは切れそうだな、と心配になるくらい細いケーブルの代物だったのですが、やはり楽器を振り回すことで相当のストレスを与えていたようです。残念に思いつつも時代はちょうどインターネット全盛期、この '代替え' を探すことにそれほど労力はいりませんでした。

Barcus-berry 1374 Piezo Transducer Pick-Up

とある所有者と交渉し、Barcus-berry 1374(1375-1)というピエゾ・ピックアップのデッドストック品を入手。ビックリしたのは、それまで使っていた6001とは比べものにならないくらい '扱いやすい' ことです。微弱な振動を電気的に音へ変換するピエゾ・トランスデューサーは、単にマイクで増幅するものとは違い、素直に音のニュアンスを再生してくれます。もちろんピエゾ特有のシャリっとした音質だったり、取り付け位置による収音のバランスの問題などはありますが、プリアンプやEQなどでチューニングして現在もわたしの '口元' で活躍中。コイツは6001と違い、ピックアップ本体からの細いケーブルは中継コネクターを介してギター用ケーブルに変換するので、直接細いケーブルへのストレスが加わらない設計なのも良いですね。そして、再び足元のエフェクターを取っ替え引っ換えしながらマイクやプリアンプにもいろいろ手を出して・・使った総額は数えたくありませんねえ。そしてBarcus-berryピックアップもスペアとしてかなりの数を集めたのですが、それらをサウンドチェックしてみると同一品にもかかわらずピックアップ(の感度)に結構な 'バラツキ' のあることが発覚。う〜ん、これは底なし沼・・本当にキリがありません。

ああ、20年なんてあっという間・・。


さて、コンスタントに動画をUPするJohn Bescupさん、今度はアシッド・ジャズ期に再評価されたギタリスト、アイヴァン "ブーガルー・ジョー" ジョーンズによる 'Right On' のカバーです。



しかし、手元足元にエフェクター満載なのですが、ほとんどDamage Control Glass Nexusがメインなんですねえ・・たま〜にMalekkoのビット・クラッシャーBITでリング・モジュレーションな効果をアクセント。ま、同じエフェクター好きとしていろいろ並べたい気持ちは分かります。