2015年9月29日火曜日

'アンプリファイド' バップの逆襲

トランペットって不自由な楽器なんではないだろうか、というのを、サックス奏者たちの果敢な 'アンプリファイ' へのアプローチを見る度に思います。それは、思いのほかバップで培われた奏法の中で磨かれ、その完成度を高めていったことが今のトランペットの基礎を型作っているからです。フリー・ジャズのような奏法が '身体性' と共鳴するように展開する音楽においても、トランペットはサックスほど突き詰めていくことはできませんでした。1970年代のマイルス・デイビスの挑戦は、一度自らのスタイルを '更地' のごとくその痕跡を消し去り、まったく違うことをやることが必然だったのでしょう。デイビスの 'アンプリファイ' な奏法について、ジョン・スウェッド著の「マイルス・デイビスの生涯」(シンコーミュージック刊)でこう述べられています。

最初、エレクトリックで演奏するようになった時、特に感じるものはなく、そのことはマイルスをがっかりさせた。コカインでハイになるのとは違っていた - むしろエレクトリックというのは徐々に体の中で大きくなっていくものだ、とマイルスは表現した。快感はある。しかしそれはゆっくりとした快感だった。やがて、必死になって音を聞こえさせようとしない方が長くプレイすることも可能だとマイルスは知った。そのためにはいくつかの調整が必要だ。あまり速く演奏してしまうと、パレットの上で絵の具が流れて混ざるように、音が混ざってしまう。そこでフレージングの考え方を一から見直すことにした。長くて二小節。メロディの合間からもっとリズムを聞こえさせたいと思っていたマイルスにとっては、実に理にかなった発想だった。 

デイビスの唯一無二なアプローチに対し、正統的なバップの奏法に根ざしながら 'アンプリファイ' ならではのスタイルを築いたランディ・ブレッカーの功績は、むしろデイビス以上に褒め称えてもし尽くせないでしょうね。それは多くのフォロワーを生み出し、ある意味では当時の人気ラッパ吹き、フレディ・ハバードを凌ぐほど 'アンプリファイ' をモノにしていたと思います。ハバードに比べ、どことなくフュージョンの時代の中で脚光を浴びたイメージがありますが、実際には完全にバップの伝統に根ざしつつ、新しいことをやっていたのがランディでした。そんなランディ同様に、バップの伝統に根ざしながら同種のアプローチをしたのが、ハービー・ハンコックのグループで頭角を現し、ジャズマンと精神科医の '二足のわらじ' を歩んでいたエディ・ヘンダーソンです。代表作'Heritage' (1976年)や、それまでリリースされてきた一連のアルバム 'Realization' と 'Inside Out' (共に1973年)、 'Sunburst' (1975年)などは、どれもエフェクターとシンセサイザーを駆使したスペイシーな世界全開のクロスオーヴァー・ジャズ・ファンクです(貼り付けたいのですがどれも視聴制限がかけられているので、Youtubeの方でどうぞ)。



それじゃあまりにも寂しいので、ランディ・ブレッカーの 'アンプリファイ' 習作時代ともいうべきハル・ギャルパーのアルバム 'Wild Bird' (1972年)に参加したタイトル曲を。う〜ん、バップ・スタイルというより当時のマイルス・デイビスに影響され過ぎてますか。ソロを吹きながら左手でMaestro Echoplexのディレイ・タイムをイジっているのがカオスです。

そんな時代から40年以上経ち、バップの伝統に即しながら 'アンプリファイ' のトランペットで突っ走るBrownmanなるラッパ吹きの演奏をどうぞ。







ジャズ・スタンダードの定番 'Yesterdays' やジャズ・サックス奏者ジョー・ヘンダーソン作曲の 'Recorda Me'、そしてデューク・エリントン作の 'Caravan' がこんなアレンジで甦りました。この人、ランディ・ブレッカーとも共演しているようですね。しかし、ここでのBrownmanの '電話ヴォイス' のようなトーンのフィルターをかけたラッパは格好良い。こういうのはなかなか単体のエフェクターではないのですが、こんな面白いダイナミック・マイクを用いれば簡単に出せます。

Placid Audio Copperphone

デモ音源でトランペットもありますが、いかにもレトロなラジオから流れてきそうなトーンに変換できる 'エフェクター' マイクと言えますね。





従来のバップ・スタイルと 'アンプリファイ' の新たな表現をうまく溶け込ませたひとりとして、パット・メセニー・グループから大抜擢されたジャズ・トランペット界の気鋭、クォン・ヴーは必聴でしょう。トリオという編成でここまでの表現力を誇るラッパ吹き、そうはいません。

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