2019年5月4日土曜日

PiezoBarrelは 'アンプリファイ' を変える

管楽器用のマウスピース・ピックアップとして今、そのユーザーを続々と増やしているのは間違いなくこのPiezoBarrel。スティーヴ・フランシスさんがオーストラリアの工房でひとり改良、ヴァリエーションを増やしながらeBayで販売しており、何よりその価格の安さやマウスピースと同梱した製品パッケージがその敷居を下げていると思うのです。








Piezo Barrel on eBay
Piezo Barrel Wind Instrument Pickups
vimeo.com/160406148

ラインナップはサクソフォン、クラリネット、トランペット、トロンボーン、リコーダー、バスーンなど多様な管楽器奏者のニーズを満たしており、一時期のBarcus-berryのような '老舗感' さえすでに漂っているのは凄い。この手の製品としては最近、eBayに 'お店' を出しているブルガリアのNalbantov ElectronicsやギリシャのTAP Electronicsなどがありますけど、このPiezoBarrelの '売れ行き' に比べてまだその知名度は低いでしょうね。







こちらは 'PiezoBarrel広報大使' (笑)と呼んでも差し支えないくらいに楽しいパフォーマンスを披露するLinsey Pollakさん。一見、大道芸的展開ながら実はかなりのテクニックと表現力で聴かせますねえ。今でも少ないPiezoBarrelの動画ですが、その初期においてほぼ皆無だった頃にわたしが初めて見たのもこのLinseyさんの動画。すぐ購入に向けてあれこれ調べ始めたのは言うまでもありません(笑)。




●eBayで販売を開始した初期のもの。まだサックス/クラリネットの木管楽器用のみの商品展開で、金管楽器用のものに比べると高域を落として中低域に振ったチューニングがなされております。基本的なPiezoBarrelのパッケージの中身としてはケーブル、自分でお気に入りのマウスピースに装着する 'DIY派' の為に複数のソケット部と蓋にゴムパッキン、ピックアップ本体のLevelツマミを回す為の小さなドライバーが付属します。



●続いて金管楽器用として登場したのがこちらの 'P6シリーズ'。これまでピックアップ単体での販売からマウスピースを同梱してのパッケージが追加され飛躍的にユーザーが増えました。トランペット用マウスピースは 'Bachタイプ' のもので7C、5C、3Cの3種。また、一時 'Monetteタイプ' のヘヴィなマウスピースもラインナップされておりましたが、ソケット加工に当たって手間がかかることから現在はヤメてしまいましたね。





●現在、新たに展開するのは木管楽器用 'P7シリーズ' と金管楽器用 'P9シリーズ' のもので、ピックアップ本体底部にはメーカー名の刻印、全体の金や黒、青いアルマイト塗装が眩しいですね。さらに同梱するマウスピースがそれまでの中国製 '無印' からFaxxの 'ショートシャンク'とサイズに1Cが追加。また付属するケーブルも金属製プラグとなり、ピックアップを着脱するソケットがマウスピースのカーブに合わせた波形の加工が施されるなどグレードアップしております。このカーブ状に加工されたソケット部は大変ありがたく、以前は 'DIY' するに当たってマウスピースのシャンク部を平らに削り取っていた手間が不要になったこと。製品としては、ピックアップ本体を封入するフィルムケースをさらにデザインされたパッケージで包装し、PDFによる取扱説明書などを用意してきちんとした印象になりました。本機の開発に当たってはスティーヴさんによればバークリー音楽大学のDarren Barrett氏とのテスト、助言を得てデザインしたとのこと。その中身について以下の回答を頂きました。

"The P9 is different internally and has alot of upper harmonics. The P6 (which was the old PiezoBarrel 'Brass') was based on the same design as the 'Wood' but with more upper harmonics and a lower resonant frequency so they do not sound the same."

なるほど〜。実際、以前の 'P6' と比較して高音域がバランス良く出ているなあと感じていたのですが、かなり金管楽器用としてチューニングしてきたことが分かります。一方で以前の 'P6' は木管楽器用との差異は無いとのこと。





Trumpet PiezoBarrel P9 Pickup microphone, Faxx 5C Mouthpiece and 4m Cable
Trumpet PiezoBarrel P9 Pickup microphone, Bach Style 5C Mouthpiece and 4m Cable

画像は右が '無印' の 'P6シリーズ'、左が 'P7シリーズ' のFaxxなのだけど・・え〜、このFaxxのマウスピースなんですが、わたしのMartin Committeeでは 'P7' のソケットの位置からシャンク部が '底付き' してしまいます(悲)。つまり、細いシャンクと短い位置にソケットを接合している為に深く入り過ぎちゃうんですヨ(きちんと嵌らずブラブラするのです)。これは現在ラインナップされている 'Faxx' のほか、'Bach Style' のマウスピースも同じ仕様なので、いわゆる 'ショートシャンク' 派以外の方はこのギャップに注意してお買い求め下さいませ。









Piezo Barrel Instructions

ちなみにスティーヴさんにもこの辺の事情をメールでやり取りして、無料で新たな位置にソケットを付け直したマウスピースを送るヨ、と言ってもらえたのですが、スティーヴさんによれば多分、バックボアとの関係からショートシャンクなマウスピースのステップ(カップとシャンクを繋ぐ境界線)を跨いでソケットを取り付けることには懐疑的で、こんな専門的な回答を頂きました。

"38mm is difficult as it will not suit most mouthpieces and I am trying to get the mouthpiece hole further down the backbone where the throat is wider to minimise the effect of the hole in the bore.  The larger cross sectional area will lower the pressure and the movement of air into and out of the pickup.  It will also reduce the air noise as the air velocity is lower and there is less noise from the cup."

例えば以前に用いていたBarcus-berryのピックアップなど、平気でこのステップを跨いだり挙句にカップ内へピックアップを接合するといったものがありましたけど、ね(苦笑)。上の動画のバルブ・トロンボーンの人などかなり特殊な効果を狙っている、感じ(汗)。ま、そういういろんなニーズに応える?為に複数のカーブ状に加工されたソケットが同梱されているので、ここは自分の好みのマウスピースに半田でソケットを接合、ドリルで2.5mmの穴を開けてチャレンジしてみましょうか。



今回、新たにスティーヴさんによって公開された動画では、バーナーでちんちんに熱したところへ取り付ける 'ロウ付け半田' による加工で以前のものとはその強度が違います。以前のものはソケット部を半田の上にそのまま乗っけただけなので、ちょっと強めにネジ止めするとポロッとソケット部が外れてしまうくらい弱かった・・。この動画の中から3:27〜4:09のところで最初のドリルによる加工がありますが、これは半田で盛られたソケットの付け根内を浅く円錐状に切削するもので、その後に小さいドリルで2.5mmの穴を開けて貫通します。う〜ん、個人の 'DIY' としては少々ハードルが高いかも・・。ちなみにスティーヴさんによれば動画後半はマウスピースを磨く作業だけなので、実際の取り付け部分の中身は最初の5分弱に集約されているとのこと。以下はPiezoBarrelのpdfでトランペットのマウスピース加工に関する説明文(英文ママ)です。

"First, the brass fitting should be heated with a soldering iron and the bottom surface 'tinned' with solder prior to attaching to the mouthpiece.

The Type E fittings provided are designed to fit around the stem of the trumpet mouthpiece to provide a good solder connection. Note that the fitting placement will depend on how far the stem of the mouthpiece fits into the lead pipe or receiver and the shape of the mouthpiece. It is advised to mark the desired position of the brass attachment with mouthpiece attached to the instrument to ensure the attachment will not prevent the mouthpiece from fitting the instrument correctly.

To attach the brass fitting to the mouthpiece you need to secure the mouthpiece so you can work on it without it moving. The mouthpiece will also need to be heated to approximately 300 degrees C depending on the solder, so it will need to be clamped in some material that can withstand this heat.

The mouthpiece needs to be heated until hot enough to melt the solder. Solder should be applied to a small area where the fitting will be attached. Once the solder has formed a smooth blob on the area and has adhered to the mouthpiece stem, you can carefully (and quickly) wipe the solder off with a clean damp cotton cloth. A little more solder should be carefully applied to wet the area and the fitting placed on the mouthpiece stem and kept hot until a good solder joint has been formed. Heat can them be withdrawn and the fitting and mouthpiece allowed to cool. Using a flux (either rosin or acid) during soldering is required to remove oxides and to get a smooth strong joint. The joint should be washed after cooling to remove any flux that may cause corrosion.

The last step is to drill a 2mm or 2.5mm hole into the mouthpiece to allow the sound from the instrument into the pickup. PiezoBarrel pickups work by sound pressure produced by the standing wave inside the instrument - not like a contact mic."



www.instagram.com/mikemazmaher/

そして余談ですけど、最近新たにあの人気バンド、Snarky Puppyのラッパ吹きであるMike 'Maz' MaherさんがPiezoBarrelユーザーとして加わりました!現在、Snakky Puppyのツアー中であるMaherさんが入手してその結果に満足しており、ディストーショナルに歪んだソロを彼のインスタグラムの動画で披露しておりまする。いやあ、こういう話題の奏者のアプローチから裾野へとどんどん広まっていったら良いなあ。その内、高校生の吹奏楽部などでホーン・セクション全員がPiezoBarrelで 'アンプリファイ' する、なんてことも夢ではないのかも。今の若いコたちの柔軟な捉え方に期待したいですね。










NeotenicSound AcoFlavor ①
NeotenicSound AcoFlavor ②

そしてこのマウスピース・ピックアップに無くてはならない唯一無二なアイテム、NeotenicSoundのAcoFlavor怒涛の4連発。ホント、こういうエフェクターって今まで無かったんじゃないでしょうか。というか、いわゆる ' エレアコ' のピックアップの持つクセ、機器間の 'インピーダンス・マッチング' がもたらす不均衡感に悩まされてきた者にとって、まさに喉から手が出るほど欲しかった機材がコレなんですヨ。そもそもは、過去に同工房が製作したBoard Masterを手にしたことで管楽器に取り付けるピックアップの問題点が解消したことから始まりました。コイツに備わったMasterというツマミ1つを回すことでピックアップの出力をコントロールすることが出来たのですが、それをさらにLimitとFitという感度調整の機能を強化した専用機に仕上げたのだから素晴らしい!しかし、去年の暮れから今年の始めにかけてその 'プロト機' の調整は本当に大変でした。多分、多くの 'エレアコ' のピックアップ自体が持つ仕様の違いから、こちらは良いけどあちらはイマイチという感じでどこを '中心' にするかで悩んでいたんじゃないかな?と思うのです。当初送られてきたものはMaster、Fit共に10時以降回すと歪んでしまって(わたしの環境では)使えませんでした。何回かのやり取りの後、ようやく満足できるカタチに仕上がったのが今の製品版で、現在のセッティングはLimit 9時、Master 1時、Fit 10時の位置にしてあります。ちなみに本機はプリアンプではなく、奏者が演奏時に感じるレスポンスの '暴れ' をピックアップのクセ含めて補正してくれるもの、と思って頂けると分かりやすいでしょうね。管楽器でPiezoBarrelなどのマウスピース・ピックアップ使用の方は絶対に試して頂きたい逸品です!そういえばスティーヴさんにもオススメしたのですが、スティーヴさん曰く、わたしのピックアップはSSL(スタジオにあるでっかいミキサー)のEQセッティングを参考にしながら特別 'インピーダンス・マッチング' を取らなくてもギターペダルは使えるけど、しかしこういう個別に調整できるヤツはイイね!と言ってもらえました(大雑把ですが勝手に解釈)。ま、こういう機器は実際に使ってもらわないとその便利さがなかなか把握できないでしょうけど、ね。







さて、このようなマウスピース・ピックアップ、現在のグーズネック式マイクに比べるとすでにほぼ '化石状態' のシロモノです。それは何故か?と問えば、このブログの初期に 'マウスピース・ピックアップの誘惑' の項でこう箇条書きしていたことを再び抜粋します。

①ピックアップの音質
②マウスピースへの加工
③煩雑なセッティング

①は、いわゆるピエゾ・トランスデューサーの持つ根本的な問題です。反応が早く、芯のある中域を捉える反面、低域はもちろん高音域が乏しく、硬くシャリシャリとした音質は '生音' へのこだわりを示す奏者にとって、決して満足のいくものではありません。ある程度プリアンプやEQで補正出来るものの、基本的にはスタンドマイクを立てて、ベルからの生音とピックアップの音色をPAのミキサーで混ぜて出力するのが昔からの方法です。その代わりマウスピース・ピックアップは構造上、ある程度のハウリングには効果を示し、エフェクターの効きが良いです。また、現在のグーズネック式マイクがラインからPAで出力されるのに対してマウスピース・ピックアップは、アンプで再生したものをマイクを立てて収音するのが一般的でした。

②は、マウスピースにドリルで穴を開け、ハンダでピックアップを接合するという方法に、貴重なマウスピースへの加工を嫌がる奏者が一定以上いたということです。また、一度取り付けてしまうとマウスピースのサイズを変更できないのもマイナス。ピエゾは、取り付け位置によってもサウンドが激変してしまうことから、マウスピースの他にサックスのネック部分、トランペットのリードパイプ部分、ベルの横側に穴を開けて取り付けるなど、いろいろな方法が取られました。まだお手軽なグーズネック式マイクの無かった頃の煩雑さは、そのまま1970年代のフュージョン・ブーム過ぎ去りし後、管楽器のリペア工房で穴の空いた楽器が再びハンダで埋められるべく列を成していたという話からも伺えます。これは自分の話として、前述したPiezoBarrelの 'P9' ピックアップに見るシャンク部のトラブルにも現れておりますね。

③は、このマウスピース・ピックアップが、そもそもは 'アンプリファイ' によりエフェクターを積極的に用いる為のアイテムだということです。これは①でも触れましたが、ベル側の '生音' とのミックスでPAに出力する為に、管楽器に対して2回線がステージ上からPAへと引き回されるわけです。PAとしては極力トラブルにならぬように煩雑なセッティングは避けたいのが本音です。そしてもうひとつ補足すれば、現在はコンサートの現場におけるPAシステム全体の再生クオリティが向上したことも大きいでしょうね。



話を戻せば、このPiezoBarrelピックアップ使用の注意点として、スティーヴさんとやり取りしたメールの中でこう説明されました。

"Please note that if the pickup is upside down, moisture will flow into the pickup. This will cause problems with salt "

上の画像は、スティーヴさんにより塩水の溶かしたビーカーに穴を開けてピックアップを取り付け実験してみたもの。しばし放置後のピックアップ内に付着した塩分の塊が下のもので・・おお、怖い。つまり、ピックアップをマウスピースの下側に向けて装着すると水分がピックアップ本体に流れ込み、これが唾液から分泌される塩分として結晶化して音質に悪影響を及ぼすらしいですね。このピックアップ使用時は沈殿しないようにマウスピースに対して上、もしくは横側にピックアップを向けて下さいませ。




そして最近のスティーヴさんの関心はこちら。トランペットのあちこちにピックアップがいっぱいですけど(笑)、これは理想となるべきピエゾの最適な感度とステレオの為に実験してみたものとのこと。複数ピックアップ・マイクの同時使用は取り付け位置により、いわゆるフェイズ干渉が起こって打ち消し合う問題が起こるのですが、ステレオの定位としてその存在感が変われば 'アンプリファイ' の未来を期待させてくれますね!






この画像のような下向きでピックアップを装着してはダメですよ〜(笑)。それはともかく、まだまだYoutubeにはPiezoBarrelの動画が少ないですけど、やっぱりLinsayさんの一連の動画が個人的に大好き(笑)。これまで必死にBarcus-berryのデッドストック品を探していた徒労がeBayでポチッとするだけでお手元にやってきます。そして、いろいろなプリアンプからエフェクターに至るまであれこれ 'トライ&エラー' をしながらその 'アンプリファイ沼' にハマっていくのだ(恐)。

2019年5月3日金曜日

5月はドルフィーの季節

そういえばエリック・ドルフィーの未発表セッション3枚組ボックスセット 'Musical Prophet: The Expanded 1963 New York Studio Sessions' というのが発売されたようですね。1963年にアラン・ダグラスのプロデュースによりニューヨークで行われたもので、当初その一部を 'Conversations' としてリリースし、ドルフィーの死後、時代を跨いで 'Iron Man' や 'Other Aspects' などのタイトルで断片的に発表されてきましたが、この3枚組でさらに7時間半ほどの未発表テープが見つかったことから集大成的に纏められました。



Eric Dolphy Musical Prophet: The Expanded 1963 New York Studio Sessions

ドルフィーの人気盤として誉れ高いBlue Noteからの 'Out To Lounch' 録音の6日前とあって、そのモーダルにクールな色彩は格好よかったのだけど、やはりどこかフィットしないというか、エリック・ドルフィーって決して安住の地を見つけられない '越境者' として動き続ける運命だったんだろうなあ、と思うのうです。オーネット・コールマンやジョン・コルトレーンとの '共演' も心ここに在らずというか、ドルフィーが吹き始めるとそこは一面 'ドルフィーの世界' がただ開陳されるばかりで、決して 'コラボ' した相手と合一することがない・・。そういう意味では相対するようにスピーカーの 'L-R' からコールマン、ドルフィーそれぞれの演奏が同時に飛び出してくる 'Free Juzz' の意図ってそういうことなのかも。ここでかなり曲解した言い方をすればドルフィーって元祖 '宅録' の人だったんじゃないでしょうか。つまり、全てに彼のアルト・サックス、バス・クラリネット、フルートからなるマルチ・プレイヤー的奏法によって他者が入り込めない '完結した世界' を具現化する人だった。





ドルフィーのキャリアにおいて出発点ともいうべきドラマー、チコ・ハミルトンとの出会いは、その後の行く末を占う上で重要な出会いだったと言って良いでしょう。いわゆる 'ウェスト・コースト' で活動する黒人ジャズマンはバップの本拠地 'イースト・コースト' に比べて不当に低い扱いをされている気がするのですが、裏を返せば伝統的なブルーズの下地に囚われず独自のアプローチを開陳し、ハミルトンの 'Far East' 志向と室内楽的アプローチに結実します。そして個人的にドルフィーの傑作である 'Out There'。ロン・カーターの無粋に '頓珍漢な' (笑)チェロもここではドルフィーの不条理な世界を盛り上げるスパイスとして奇妙に作用し、ほぼ彼の 'ワンホーン' 作品としてダリの絵画の如く捻れた世界を描き上げます。









チコ・ハミルトンに続き重要な出会いとなったのが、ドルフィーの世界観と最も親和性の高かったチャールズ・ミンガス。ドルフィーってそのキャリアの始めからずーっと自身のバンドに恵まれなかった人だったと思うのだけど、それはオーネット・コールマンやセロニアス・モンク、マイルス・デイビスのようにバンドで自らの音楽を構築していくタイプではなく、すでにドルフィーの身体がそのまま各種木管と一体となった時に現れる '異物なアンサンブル' として完結していた。そんな '居場所' を放浪するドルフィーの音楽性と親和性を保っていたのがチャールズ・ミンガスのグループ在籍時であり、そこにはエレクトロニカに共通する '顕微鏡のオーケストラ' ともいうべき微細な破片を拾い集めるような静寂と統率力を垣間見るんですよね。つまり、ミンガスの指揮がドルフィーを自由に羽ばたかせる為の '土台' として絶妙に機能しているのです。







ドルフィーの '課外活動' の中でユニークな位置付けをされているのがこちら、ラテン・ジャズ・クインテットとの '共演' でしょう。ゴリゴリの 'フリージャズ' 一派のように目されていたドルフィーにとってこの意外過ぎる 'バイト' は、そのままモダン・ジャズの '解説本' ではまず間違いなく取り上げられることのないもの。ま、確かに 'ミスマッチ' なんだけど(笑)、実はこの後に 'インド的' な第三世界のリズムへとアプローチする端緒として、この苦み走ったドルフィーの '馬の嘶き' 的ソロが軽やかなラテン・リズムとの出会いは興味深いですね。ちなみにこのザ・ラテン・ジャズ・クインテット(LJQ)、なかなかに謎で 'いわく付き' のバンドのようで、パーカッションのジュアン・アマルベルトをリーダーにPrestigeからオルガンのシャーリー・スコットとの 'コラボ' でデビューします。しかし、その直後にグループ内で '内紛' が起こりヴァイブ奏者のフィル・ディアズが脱退、新たに同名バンド!を結成して大手UAから再デビューするというからややこしい。そこで起用されたのがドルフィーなのですが、実はディアズ脱退後の '本家LJQ' はPrestigeからリリースした 'Caribe' ですでにドルフィーと共演しているんですよね。つまり、脱退したディアズが当て付け?的にUAからの再デビュー盤でも起用したということから、この 'ケンカ別れ' した2つのバンドを掛け持ちしたドルフィーの心境たるやいかばかりか(苦笑)。この一連の顛末、1960年の7月から9月にかけてのおよそ3ヶ月間の出来事だったのだから濃いよなあ。結局、ディアズの '分家LJQ' はこのUA盤一枚のみで終わり、その後はラテン・グループ、ジョー・クーバ・セクステットに加入してクーバ後期のサウンドを担う存在として活躍します。



一方のアマルベルト率いる '本家LJQ' はPrestigeからその傍系レーベルのTru-Soundへ移り、最終的にはヴァイブの代わりにファラオ・サンダースをゲストに迎えた作品 'Oh ! Pharoah Speak' をマイナー・レーベルTripに残すという不思議な終わり方を迎えます。







そんな孤高なドルフィーの志はフランク・ザッパの 'The Eric Dolphy Memorial Barbecue' はもちろん、ミンガスのグループで共演したテッド・カーソンによりドルフィー客死のわずか1ヶ月後、真夏の1964年8月1日に捧げられた '葬送曲' に至るまで、時代を超えて厳かに '真夏の狂気' を体現します。ちなみにこの 'ドルフィーの涙' は、ピエロ・パゾリーニ監督の映画「テオラマ」やヴィンセント・ギャロ監督・主演の映画「ブラウン・バニー」でそれぞれテーマ曲として使われているんですよね。ドルフィーに対するオマージュ曲ではありますけど、映像に携わる者にとってインスパイアされやすい '何か' があるんでしょうか?あ、そうそう、そういえばマイルス・デイビスはエリック・ドルフィーの音が大嫌いだったな。誰かの足を踏んづけたような・・と揶揄していたデイビスに対し、ジョージ・コールマンを気に入らなかったトニー・ウィリアムズご推薦の '後釜' がドルフィーだった、らしい。しかし、そんなヤツを入れるならと一時的に自身のグループへ加入させたのがフリーに足を突っ込んだトレーン・スタイルのサム・リヴァースだったのだから、同じ '水と油' でもデイビスはコルトレーンから離れられなかったのだ。

個人的にはドルフィーとの '水と油' な両巨頭の共演を聴いてみたかったなあ。実際、ちょっとスタイルは違うけど、テナーとフルート、バス・クラリネットを操るベニー・モウピンをこの後の 'Bitches Brew' で起用するのだからそれほど相性悪いとは思わないけど、ね。ここで大所帯なバンド・アンサンブルと電気楽器に対する '通奏低音' として、コントラバスとエレクトリック・ベース、そしてバス・クラリネットによる低域の強化こそその出番だったのだろうけど、しかし、もしこのバスクラがドルフィーだったら・・そんな妄想を逞しくします。

2019年5月2日木曜日

再び '質感生成' の旅に出る (再掲)

わたしのペダルボードをジッと眺めているとその大半のペダルがトランペットのトーン、電気的に増幅した際の '質感' に関わるもので占有していることに気付きます。2チャンネルのプリアンプHeadway Music Audio EDB-2やNeotenicSound AcoFlavorはもちろん、Magical ForceにPurepadからTerry Audio The White Rabbit Deluxeに至るまで単にスイッチをOnにしただけでは一聴して効果の分からないヤツら・・。


こういう '周辺機器' を揃えないと管楽器の 'アンプリファイ' が物足りないのは歯痒いですけど、派手に変調させる各種エフェクツを活かすも殺すもこれら '周辺機器' の調整、補正に掛かっているのだから無視出来ません。ともかく、管楽器の 'アンプリファイ' においてこの '質感' というやつを個人的に追求してみたい欲求があるんですよね。目的はアンプやPAを用いる環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。つまり、ピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生ではなく、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音を作る' という試みなのです。





Moog MKPE-3 Three Band Parametric EQ
Urei / Universal Audio 565T Filter Set

以下、個人的にそういう発想のきっかけとなった 'サウンド&レコーディングマガジン' 1996年11月号の記事 '質感製造器〜フィルターの可能性を探る' からエンジニアの杉山勇司氏(S)と渡部高士氏(W)の対談記事。いわゆる 'ベッドルーム・テクノ' の全盛期で、アナログシンセによる 'シンセサイズ' の意識がサンプラーや 'ローファイ' の価値観を通じて、あらゆるものを '変調' させるのが面白い時代でした。

- そもそもフィルターを能動的に使おうと思ったきっかけはなんですか?

S - 最初に白状しちゃうと、渡部君からトータルにフィルターをかけるって話を事務所で遊んでいたとき聞いて "あっ" って思ったんだ。それまでの僕にとってのフィルターは、シンセの延長でしかなくて、Analogue SystemsのFilterbank FB3を持ってたけど、LFOでフィルターが動くエフェクトと考えていた。だからEQを手で回すのとあまり変わらない感じだよね。でもそのころ渡部君は、2ミックスをフィルターに通すって馬鹿なこと言ってた。

- それはだれかが先にやってたんですか?

W - 2ミックスのフィルタリングは4年前に考えたんです。ミックスしてて、音が固くてどうしようかなって思ったときに "フィルターでもかけてしまえ" と(笑)。Akai S1000のループがRolandの音したらいいなって思って、Roland System-100Mに通してみた。結果的にフィルターを通るだけで思った音になったんですよ。

S - 変わるんだよね。それでフィルターを絞れば、また味も付くし。でも僕がそれに気付いたのは大分後。シンセはいじってたけど、それはシンセらしい使い方で、VCOがあってVCFも音作りの順番の1つでしかなかった。でもArp 2600を触り始めて "ここに音を入れてもいいの" って思ったんだ(笑)。それでFB3にも "ドラム入れてもいいじゃん" って気付いた。

W - 簡単にできるのはDrawmerのノイズゲートDS-201なんですよ。これにはローパス/ハイパスが付いていて、ザクッと切れるんです。これならどのスタジオにもありますしね。

- しかしそれを実際の現場でやってみようと考えるのは大変だったんじゃないですか?

S - 昔は音が汚くなることを考えるのはダメだったよね。例えばギターだったらSSLのプリアンプより、Focusrite通した方がいいに決まってると思ってた。

W - それは1ついい音ができたら、簡単だから次もそうしようってことだよね。

S - で、そうやって録ると、ハイが延びていい音になる。でもそれは値段が高いからいい音になるっていう意識だし、EQもハイがあればあるほどいい音って発想にも近いよね。フィルターなんて通したら、当然S/Nは悪くなるし、ハイもローも落ちる。でもあるときにEQでローを足すんじゃなくて、ハイをしぼったときに自分にとってのいい音になることに気付いたんだ。今はいらない部分を削ったら、必要な部分をうまく聴かせることができると思ってる。

W - 実際5kHz以上って倍音が崩れてるから、いらない場合も多いんだよね。デジタルで22kHz以上がなくて気になるのは、それ以上の帯域がないからじゃなくて、急激にそのポイントでカットされているからなんですよ。

S - ローファイって言葉は大嫌いなんだけど、ハイファイに縛られてはいたよね。

W - フィディリティって '正確' って意味だから、自分のやりたいことができてるんだったら、それはハイファイなんだと思いますよ。

- 渡部さんの場合そんな制約が最初からなかったのはどうしてですか?

W - それはエンジニアリングの入り口が違ったからだと思います。値段の張る機材があまり周りになかったのと、シンセのオペレートとエンジニアリングの両方を一緒にやるんで、卓のEQをいじるよりシンセのフィルターでいじった方が、楽に欲しいサウンドが手に入れられることが分かったんです。

- フィルターとEQの違いは何ですか?

S - 一緒なんだけど違うという部分が分からないと使わないよね。

W - 僕がお客の立場で、エンジニアがEQじゃなくフィルターに僕の音を入れようとしたら、嫌がるだろうな (笑)。EQってエフェクターなんだけど、エフェクター的に使っちゃいけないという部分があるじゃないですか。

S - エフェクター的に使うんだったら、フィルターの方が面白いよね。例えば、以前ウクレレの音をArp 2600にスルーして録音したことがあった。それはArpのプリアンプの音なんだろうけど、それがすごくいい音になったんだ。1度その音を知ってしまったら、EQを細かくいじって同じ音を作ろうとはしないよね。想像もできなかったハイ落ちをしてるその音が実にいい音なんだ。

- そんな想像もできない音になる可能性という部分がフィルターの魅力の1つでしょうか?

W - お手軽にいい音になるというかね。

S - 1度通して音が分かってしまうと、もう自分の技になるから、想像できるんだけどね。

- しかしEQで作り込めばフィルターと同じ効果が期待できるのではないですか?

W - それは無理です。NeveのEQをどうやってもSSLでシミュレーションできないのと同じこと。例えばSystem-100Mを通したら、こんな細いパッチケーブルを音が通るから、それだけでも音が変わるし。機材ごとに違う回路を通ることによって、それぞれの音になるんですよ。

- 機材ごとのそんな特性を、人間の耳は感知できるものだと思いますか?

W - 瞬時に判断することはできないけど、音楽になると分かるでしょうね。それは紙を触ってツルツルしているものが、少しざらついた感触になるような、そんな判断ですけどね。

S - それはエンジニアの耳ではなくても分かる違いだろうね。

W - よくオーディオマニアの人が、レコードからCDに変わったとき、奥さんが急に "うるさい" って言うようになったって話がありますよね。それを考えるとだれもが分かるものなんでしょうね。実際、2ミックスをSystem-100Mにただ通して聴いているだけでは、その違いがあまり分からない人もいる。しかしそれを大音量で長時間聴いていると、それまで耳が疲れていたにもかかわらず楽になったりすることがあるんですよ。

- 2ミックスにフィルターをかけるエンジニアは結構いるんでしょうか。

W - ほとんどいない。トータル・フィルターって言葉自体僕が作ったんだもん(笑)。第一エンジニアがフィルターを持っていないでしょ。僕はここ(オア・スタジオ)にあるからSystem-100MやRoland SH-2を使ったりしてます。2ミックスを通すために、わざわざもう1台買ったんだけど、フィルターの性能が全然違うんですよ(笑)。

S - 僕もArp 2600のフィルターとアンプの音が好きで、それだけで売ってほしいくらい。でもこれも1台1台性能が違うんだよね。これじゃ2ミックスに使えないって。

W - System-100Mは1モジュールでステレオというか2チャンネルあるから大丈夫なんですよ。

S - 僕も1度片チャンネルずつ別々に1つのフィルターを通したことがあった(笑)。

W - 要するに歪んでるんですよ。コンプでたたいたような状態。だからモノ・ミックスにするしかないですよ。モノでフィルターかけて、後でPro Toolsで加工するのはどうでしょう(笑)。

- 質感が出来上がったものは、他のメディアに移してもそのまま残っていくんでしょうか?

W - それは残りますね。FocusriteもNeveもヘッドアンプは音を持ち上げるだけでしょ。それだけなのに音が違う。エンジニアは音の入り口のアンプでまず音を作るわけで、卓で作るんだったらコンプでいじるんだろうけど、コンプレッションがいらない場合もある。だからサンプラーに通して、ピークをなくして、アタックを落としたりすることもあります。ADコンバータ通すこともフィルターですから。

- トータルにかなり強烈にフィルタリングすることもあるんですか?

W - 向こうのテクノでは、モコモコしたサウンドからどんどんトータルにフィルターが開くものがありますね。

S - それはそんな音を理解できる人間がエンジニアリングしたり、アーティスト本人がエンジニアリングを担当したりしなくちゃできない。そんな作業は音楽性を選ぶんだろうけど、概念的には音楽性は全く選ばないと思う。

W - 例えばアコギをフィルターに通しても、普通に良くなるだろうし、暖かくなるだろうし、ワウにもなる。でも実際にフィルターで大きくカットするのは問題ですよね。それだったら、ローパスよりハイパスの方が使い手があるかもしれない。

S - Ureiにも単体フィルターがあったもんね。真空管のマイクを使って真空管のアンプを通ったいい音を、もっと味のある音にするために、EQで音を足すんじゃなくて、どこをカットするかという発想自体はずっと昔からあったものだと思いますね。

- エンジニアがどうしてこれまでフィルターという存在に目を向けなかったのでしょうか?

W - エンジニアという職業自体、もともとは出音をそのままとらえるのが仕事だったでしょ。それだったらフィルターを通すなんてまず考えない。変えようと思えばフィルター1つで音楽性まで簡単に変えられますからね(笑)。

S - 確かにフィルターは面白いけど、それはやはり一部の意見で、一般的にはならないだろうね。こんな感覚が広まったらうれしいけど、そこまで夢を見てませんから(笑)。

W - 僕にとっては、コンソールのつまみもフィルターのつまみも一緒だけど、そうじゃないエンジニアもいる。でも一度でいいから、どのエンジニアもその辺のフィルターをいじってほしいと思いますね。本当に音が変わるから。

S - 使うか使わないかは別にして、この良さは大御所と呼ばれるエンジニアもきっと分かると思うな。僕も最近はUrei 1176とか使うんだけど、1178も用途によって使い分けている。これはフィルターに音を通し始めてから、それらの音の質感の違いが分かってきたんだ。

- 鍵盤が付いていてシンセの形をしているから使わないという部分もあるのでしょうか?

S - それはあるだろうね。エンジニアには触れないと思いこんでいたのかもしれない。ハイパス/ローパスは知っていても、レゾナンスという言葉自体知らないエンジニアもいるだろうからね。

W - 僕がミックスしててもフィルター使うのは、単に差し込めるジャックが付いているからで、それだけのことです。

- ジャックがあったら挿し込んでみたい?

S - 何もやみくもに挿さないけどさ(笑)。

W - ミックスしていてこの音を変えたいって思ったとき、スタジオを見渡してこれと思ったものに入れてみる。ダメだったらそれまでだし、良くなれば、次からそれは自分の音として使えるわけです。最初の1回はトライ&エラーですよ。

- 徐々に単体のフィルターが発売されていますが、時代的にフィルターは求められていますか?

S - デジタル・フィルターでもSony DPS-F7みたいに面白いものもあるからね。

W - それからYamahaのSPXシリーズも、EQのモードの切り替えでダイナミック・フィルターにもなるし。これもいいんですよ。

S - 何か変な音にしてくれって言われて、それソフト・バレエ(のレコーディング)で使ったことあるな。

W - それからEventide DSP-4000が面白いんだ。自分でパッチを自由に作れるから面白いんだけど、この間作ったのが、サンプル・レートやビット数を自由に落とすパッチ。

S - どんな人たちもフィルターを使うという発想になった方がいいと思う。何ごとにもこだわりなくできるような状態にね。






Bob Williams: The Analogue Systems Story
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ①
Analogue Systems Filterbank FB3 Mk.Ⅱ ②
EMS 8-Octave Filterbank
Filters Collection

いわゆる 'モジュレーション' 系エフェクターと並び、現在ではDJを中心に一般的となったフィルター専用機。1970年代にはUrei 565T Filter SetやMoogのMKPE-3 Three Band Parametric EQといったマニアックなヤツくらいのイメージだったものが1990年代の 'ベッドルーム・テクノ' 全盛期に再燃、英国のAnalogue Systemsから登場したのがFilterbank FB3です。創業者であるボブ・ウィリアムズはこの製品第一号であるFB3開発にあたり、あのEMSでデイヴィッド・コッカレルと共に設計、開発を手がけていたスティーヴ・ゲイを迎えて大きな成功を収めました。1995年に1Uラックの黒いパネルで登場したFB3はすぐにLineのほか、マイク入力に対応した切り替えスイッチと銀パネルに換装したFB3 Mk.Ⅱとして 'ベッドルーム・テクノ' 世代の要望を掴みます。当時、まるで 'Moogのような質感' という '売り文句' も冗談ではないくらい太く粘っこいその '質感' は、本機の '売り' である3つのVCFとNotch、Bandpass、Lowpass、Highpassの 'マルチアウト'、LFOとCV入力で様々な音響合成、空間定位の演出を生成することが出来ます。そんな本機の設計の元となったのはスティーヴ・ゲイがEMS時代に手がけた8オクターヴのFilterbankですね。





さて、ここでご紹介するのはいわゆる 'シンセサイズ' によるフィルタリングとは違い、一聴して直ぐにその効果を把握できるものではないのだから悩ましい・・。面白そうだと慌てて購入して、何だよコレ、変わんねーじゃねーかよ!と直ぐに投げ出してしまいたくなるものばかりですが(苦笑)、ずーっと使ってみて突然 'Off' にした時、実はその恩恵を受けていたことを強く実感するもの。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムとしてここにお届けします。









JHS Pedals Colour Box

そんな '質感生成' においてここ最近の製品の中では話題となったJHS Pedals Colour Box。音響機器において伝説的な存在として君臨するルパート・ニーヴのEQ/プリアンプを目指して設計された本機は、そのXLR入出力からも分かる通り、管楽器奏者がプリアンプ的に使うケースが多くなっております。本機の構成は上段の赤い3つのツマミ、ゲイン・セクションと下段の青い3つのツマミ、トーンコントロール・セクションからなっており、ゲイン段のPre VolumeはオーバードライブのDriveツマミと同等の感覚でPre Volumeの2つのゲインステージの間に配置、2段目のゲインステージへ送られる信号の量を決定します。Stepは各プリアンプステージのゲインを5段階で切り替え、1=18dB、2=23dB、3=28dB、4=33dB、5=39dBへと増幅されます。そして最終的なMaster Gainツマミでトータルの音量を調整。一方のトーンコントロール段は、Bass、Middle、Trebleの典型的な3バンドEQを備えており、Bass=120Hz、Middle=1kHz、Treble=10kHzの範囲で調整することが可能。そして黄色い囲み内のグレーのツマミは60〜800Hzの間で1オクターヴごとに6dB変化させ、高周波帯域だけを通過させるハイパス・フィルターとなっております(トグルスイッチはそのOn/Off)。上の動画だけ見ても管楽器奏者の認知度は上がっておりますね。



API TranZformer GT
API TranZformer LX

今やNeveと並び、定評ある音響機器メーカーの老舗として有名なAPIが 'ストンプ・ボックス' サイズ(というにはデカイ)として高品質なプリアンプ/EQ、コンプレッサーで参入してきました。ギター用のTranZformer GTとベース用のTranZformer LXの2機種で、共にプリアンプ部と1970年代の名機API 553EQにインスパイアされた3バンドEQ、API525にインスパイアされたコンプレッサーと2520/2510ディスクリート・オペアンプと2503トランスを通ったDIで構成されております。ここまでくればマイク入力を備えていてもおかしくないですが、あえて、ギターやベースなどの楽器に特化した 'アウトボード' として '質感' に寄った音作りが可能ですね。





Roger Mayer 456 Single
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker

DSPの 'アナログ・モデリング' 以後、長らくエフェクター界の '質感生成' において探求されてきたのがアナログ・テープの '質感' であり、いわゆるテープ・エコーやオープンリール・テープの訛る感じ、そのバンドパス帯域でスパッとカットしたところに過大入力することから現れる飽和したサチュレーションは、そのままこのRoger Mayer 456やStrymon Decoのような 'テープ・エミュレーター' の登場を促しました。Studer A-80というマルチトラック・レコーダーの '質感' を再現した456 Singleは、大きなInputツマミに特徴があり、これを回していくとまさにテープの飽和する 'テープコンプ' の突っ込んだ質感となり、ここにBass、Treble、Presenceの3つのツマミで補助的に調整していきます。本機にOn/Offスイッチはないのでバッファー的使用となるでしょう。一方のDecoは、その名も 'Saturation' の飽和感と 'Doubletracker' セクションであるLag TimeとWobbleをブレンドすることで 'テープ・フランジング' のモジュレーションにも対応しており、地味な '質感生成' からエフェクティヴな効果まで堪能できます。また、このStrymonの製品は楽器レベルのみならずラインレベルで使うことも可能なので、ライン・ミキサーの 'センド・リターン' に接続して原音とミックスしながらサチュレートさせるのもアリ(使いやすい)。とりあえず、Decoはこれから試してみたい '初めの一歩' としては投げ出さずに(笑)楽しめるのではないでしょうか?





Pettyjohn Electronics Filter ①
Pettyjohn Electronics Filter ②

こちらはPettyjohn Electronicsのその名もFilter。と言っても 'シンセサイズ' のフィルターではなくEQ的発想からギターの '質感' を整えていくもの。中身を覗くとなかなかにレアなオペアンプ、コンデンサーなど豪華なパーツがずらりと並びこだわりが感じられます。本機もまた、JHS Pedals Colour Box同様にアナログ・コンソールのEQ回路(たぶんNeveでしょう)をベースに設計されたようで、ギターの帯域に向けながら、あえて 'EQ' ではなく 'Filter' と称して極端な '位相乱れ' を廃し、あくまで '質感' の生成に特化したものだということが分かります。







Terry Audio The White Rabbit Deluxe

そんなPettyjohnとは真逆なガレージ臭プンプンのTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の '解説' を読んでみるとNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。何だかMagical ForceのPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様ですね。本機はわたしのセッティングでも愛用しているのですが、まさに効果てき面!'ハイ上がり' なトーンと共に一枚覆っていたような膜がなくなって音抜けが良くなり、確かに 'マスタリング・プロセッサー' で整えたような '魔法' をかけてくれます・・素晴らしい。







NeotenicSound Magical Force - Column
NeotenicSound Magical Force ②
NeotenicSound Magical Force ③

さて、わたしが愛用するNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Forceもまさにそんな '質感生成' の一台でして、いわゆる 'クリーンの音作り' というのをライヴやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。つまり、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを引き出してやるというか、EQのようなものとは別にただ何らかの機器を通してやるだけで '付加' する '質感' こそ、実際の空気振動から '触れる' アコースティックでは得られない 'トーン' がそこにはあるのです。

本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、プリアンプの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味、Punchで張り出すような '質感生成' してみるのも面白いかも。とりあえず、各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。




Hatena ? The Spice ①
Hatena ? The Spice ②

この 'えふぇくたぁ工房' はNeotenicSoundの前にHatena?というブランドを展開、Magical Forceの源流ともいうべきActive Spiceという製品で一躍その名を築きました。このThe Spiceはその最終進化形であり、すでに廃盤ではありますがダイナミクスのコントロールと '質感生成' で威力を発揮してくれます。Magical Forceも独特でしたがこのThe Spiceのパラメータも全体を調整する音量のVolumeの他はかなり異色なもの。音圧を調整するSencitivity、Gainは歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンとなる。さらにブースト機能とEQ感を強調するようなSolo !、そしてTightスイッチはその名の通り締まったトーンとなり、On/Offスイッチはエフェクトの効果ではなくSolo !のOn/Offとのことで基本的にバッファー的接続となります。




ちなみにそのオリジナルのAcitive Spiceは2005年頃に市場へ登場し、個人工房ゆえの少量生産とインターネット黎明期の '口コミ' でベーシストを中心に絶賛、その 'クリーンの音を作り込む' という他にないコンセプトで今に至る '国産ハンドメイド・エフェクター' の嚆矢となりました。派生型のSpice Landを始め、2009年、2011年、2012年と限定カラー版なども登場しながら現在でも中古市場を中心にその古びないコンセプトは健在。エレアコ用プリアンプの代用としても評価が高く、わたしの分野である管楽器の 'アンプリファイ' でも十分機能しますヨ(今はNeotenicSound Magical Forceに任せているけど)。



エフェクターの世界においていろいろな '売り文句' を謳って製品化、その需要があれば一気にひとつの市場として波及するものが定期的に現れます。例えばスタジオでのFETコンプレッサーの定番、Urei 1176LNの 'コンパクト化' やNeveのプリアンプ、EQの 'コンパクト化' などはここ近年のトレンドでした。そして遊び心という点では、こんな珍品こそ 'エフェクター好き' がワクワクして手を伸ばしたくなる感じがありまする。繋ぐだけで 'モータウンの質感' を付与してくれるというMoSound・・何すか、コレ?(笑)。まず 'モータウンの質感' という、およそ一般的とは言い難い価値観を共有しないといけないのだけど(汗)、う〜ん、あのモータウン全盛期であった1960年代のコンプレスされたレコードの音のことなのだろうか?こういうのは、ザ・ビートルズのレコードから聴こえてくるガッツリとかかったリミッター・サウンドなんかと近い感じかもしれないですねえ。初代の小さいヤツと筐体を大きくした2代目があり、初代では基板内部にあったゲインを司る 'Deep' トリムを2代目では 'Oldies' ツマミとして外部に出し調整しやすくなりました。わたしも本機を所有しているのですが・・う〜ん、何だろ?(苦笑)。いや、確かにスイッチをOnにすると変わるんですヨ。上の帯域がフィルタリングされて丸くなる感じ・・それもビミョーな感じでして、内部の 'Deep' トリムも・・う〜ん、変わったような変わらないような感じ(苦笑)。しかし、いい感じにトーンの '耳に痛い感じ' が緩和されるのでわたしの 'ヴィンテージ・セット' で愛用しておりまする。



Acme Audio Motown D.I. WB-3 ①
Acme Audio Motown D.I. WB-3 ②
Acme Audio Motown D.I. WB-3 ③

ちなみにこんな '伝説のモータウン・サウンド' を '売り' にしている機器としては、Acme AudioのパッシヴDIであるWB-3というヤツもありますヨ。う〜ん、分かったようでその筋のマニア以外にはいまいちピンとこない 'モータウンの質感' というヤツ。単なる 'ローファイ' というワケではなさそーではありますが、確かにグッとミドルに寄りコンプレスした感じが 'モータウンっぽい' ってこと?。DI本来の仕事は 'インピーダンス・マッチング' の変換であり、それ以外の要素はアクティヴ、パッシヴを除けばほぼ考慮する必要はないのだけど、それでもこんな独特の '質感' にこだわったヤツが登場するのだから機材の世界は面白いのだ。









Lovetone Meatball ①
Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky
Chase Bliss Audio Warped Vinyl Hi Fi
Chase Bliss Audio

さて、ここからはもう少し 'エフェクターライク' なペダルを取り上げます。エンヴェロープ・フィルターの機能を中心に地味な 'フィルタリング' の効果を発揮するもので1990年代後半に欧米のギタリストやベーシストはもちろん、DJやエンジニアにも好まれた英国の名機、Lovetone Meatballがありまする。とにかく豊富なパラメータを有しており、いわゆる 'オートワウ' からフィルタースィープによるローパスからハイパスへの '質感生成'、フィルター内部への 'センド・リターン' による攻撃的 'インサート'、2つのエクスプレッション・ペダル・コントロールと至れり尽せりな音作りでハマれます。また、このようなフィルタリングを 'ローファイ' の価値観で新しいモジュレーションのかたちとして提示したのがこちら、Z.Vex Effects Instant Lo-Fi Junky。さすがエフェクター界の奇才、Zachary Vexが手がけたその着眼点は、いわゆるアナログ・レコードの持つチリチリ、グニャリとした '訛る' 回転の質感に特化したものというから面白い。特に真ん中の 'Comp ←→Lo-Fi' ツマミがもたらす '質感' はその気持ちの良い 'ツボ' をよく心得ている。しかし、この 'なまり具合' を聴いていると爽やかな陽気と共に遠い昔の記憶へ思いを馳せたくなりますねえ。そして現在の注目株Chase Bliss Audio Warped Vinylの登場。米国ミネソタ州ミネアポリスに工房を構えるJoel Korte主宰のChase Bliss Audioは、この細身の筐体にデジタルな操作性とアナログの質感に沿った高品質な製品を世に送り出しております。特にこのWarped Vynal Hi Fiは従来のモデルに 'Hi Fi' 的抜けの良さを加味したもので、アナログでありながらデジタルでコントロールする 'ハイブリッド' な音作りに感嘆して頂きたい。Tone、Volume、Mix、RPM、Depth、Warpからなる6つのツマミと3つのトグルスイッチが、背面に備えられた 'Expression or Ramp Parameters' という16個のDIPスイッチでガラリと役割が変化、多彩なコントロールを可能にします。タップテンポはもちろんプリセット保存とエクスプレッション・ペダル、MIDIクロックとの同期もするなど、まあ、よくこのMXRサイズでこれだけの機能を詰め込みましたねえ。






Performance Guitar TTL FZ-851 "Jumbo Foot" F.Zappa Filter Modulation
Performance Guitar F.Zappa Filter Modulation
Guitar Rig - Dweezil Zappa

ザッパのフィルタリングに対する音作りの研究に訴えた超絶 'ニッチな' ペダルとして、本機は父親の楽曲を再現する上で息子ドゥィージルがザッパと縁の深いPerformance Guitarにオーダーしたマニアックな一台。Boss FV-500とFV-50の筐体を利用し、どでかい鉄板風アルミ板(軽い)を強引に乗っけてLo-pass、Band-pass、Hi-passを切り替えながらフィルター・スィープをコントロールするという荒削りさで実際、ペダル裏側には配線がホットボンドとマスキングテープで固定してレーシング用フォーミュラカーを見るような迫力がありまする。その肝心の中身なんですが・・ええ、この動画通りのほとんどVCFをノックダウンした 'シンセペダル' と呼べるほどエグい効果から、EQ的な操作をして域幅の広いQの設定、半踏み状態によるフィルタリングの '質感生成' やワウペダルのリアルタイム性まで威力を発揮します。また本機はBoss FV-500の筐体を利用したことでタコ糸によるスムースな踏み心地なり。









Holowon Industries Tape Soup
Holowon Industries
Cooper Fx Generation Loss
Cooper Fx ①
Cooper Fx ②

そんな 'ローファイ' かつテープの伸び切った、鈍ったような '質感' ということでは、こんなアナログテープの 'ワウフラッター' に特化したエフェターもありまする。ニューヨーク州ロチェスターに構えるこの小さな工房で製作する本機は、Volume、Fidelity、Saturation、Speed、Biasというまるでオープンリール・デッキの 'バリピッチ' 的ツマミの構成から何でもグニャグニャとピッチ・シフティングしてしまいます。最近はCooper FxのGeneration Lossのようなデジタルによるものも登場しましたが本機の '飛び道具' ぶりもなかなかのもの。




Elektron Analog Heat HFX-1 Review
OTO Machines Boum - Desktop Warming Unit
Dr. Lake KP-Adapter

そしてKP-Adapterを用いて是非とも繋いでみたいのがElektronとOTO MachinesのDJ用マルチバンド・フィルター、と言ったらいいのだろうか、素晴らしいAnalog HeatとBoumをご紹介。Elektronにはギターに特化したAnalog Drive PFX-1という製品があるものの、こちらのAnalog Heatの方がシンセやドラムマシン、マイクからの音声などラインレベルにおける入力に対して幅広い 'サチュレーション' を付加、補正してくれます。その多様に用意されたプログラムの中身はClean Boost、Saturation、Enhancement、Mid Drive、Rough Crunch、Classic Dist、Round Fuzz、High Gainの8つのDriveチャンネルを持ち(もちろんアナログ回路)、そこに2バンドのEQとこれまた7つの波形から生成するFilterセクションで各帯域の '質感' を操作、さらに内蔵のエンヴェロープ・ジェネレーター(EG)とLFOのパラメータをそれぞれDriveとFilterにアサインすることで、ほとんど 'シンセサイズ' な音作りにまで対応します。また、現代の機器らしく 'Overbridge' というソフトウェアを用いることで、VST/AUプラグインとしてPCの 'DAW' 上で連携して使うことも可能。Elektronのデモでお馴染みCuckooさんの動画でもマイクに対する効果はバッチリでして、管楽器のマイクで理想的な 'サチュレーション' から '歪み' にアプローチしてみたい方は、下手なギター用 '歪み系' エフェクターに手を出すよりこのAnalog Heatが断然オススメです。一方のフランスOTO Machinesから登場する 'Desktop Warming Unit' のBoum。すでに '8ビット・クラッシャー' のBiscuit、ディレイのBimとリヴァーブのBamの高品質な製品で好評を得た同社から満を持しての '歪み系' です。その中身はディストーションとコンプレッサーが一体化したもので、18dBまでブーストと倍音、コンプレッションを加えられるInput Gain、Threshold、Ratio、Makeup Gainを1つのツマミで操作できるコンプレッション、低域周波数を6dB/Octでカットできるローカット・フィルター、4種類(Boost、Tube、Fuzz、Square)の選択の出来るディストーション、ハイカット・フィルター、ノイズゲートを備え、これらを組み合わせて36のユーザー・プリセットとMIDIで自由に入力する音色の '質感' をコントロールすることが出来ます。





Pigtronix Disnortion Micro

Youtubeでも積極的にラッパの 'アンプリファイ' を推奨するカナダのラッパ吹き、Blair YarrantonさんがPigtronixのアッパー・オクターヴなディストーション、Disnortionでのデモ動画。しかし、さすがにコンデンサー・マイクのセッティングではほとんど歪ませることが出来ず、ほぼサチュレーション的倍音の '質感生成' に終始した音作りですね。ワウも踏んでおりますがかなりコンプでピークを潰しながらハウる寸前・・。すでにこの 'でっかいヴァージョン' は廃盤ですが、現在はより小型なDisnortion Microとしてラインナップ。ちなみに一見、管楽器とは '真逆' な志向に見える '歪み系' ペダルですけど、そもそもファズの元祖として1962年にGibsonから登場したファズ・ボックス、Fuzz Tone FZ-1のデモ音源ではその後のギターアンプを 'オーバードライブ' させたものではなく、'Sousaphone' 〜 'Tuba' 〜 'Bass Sax' 〜 'Cello' 〜 'Alto Sax' 〜 'Trumpet' という流れで各種管楽器の模倣から始まっているのは興味深いですね。Maestroのブランドマークが 'ラッパ3本' をシンボライズしたのは決して伊達ではないのです。



Musitronics / Dan Armstrong Green Ringer -Frequency Multiplier-

そして、このような '歪みもの' と倍音成分ということではリング・モジュレーターも有効なのですが、そこでガッツリと 'シンセライク' に変調させてはダメ!。そんな地味な倍音生成としてMu-Tronでお馴染みMusitronicsが製作した 'アタッチメント' の一台、Dan Armstrong Green Ringerにご登場頂きましょうか。そもそもは英国のWereham Electronicsが手がけたものをMusitronicsで生産したことで人気爆発、その後日本や韓国製のコピーが出回るほどポピュラーになりました。直接ギターの入力ジャック、または配線を変更してアンプの入力にそのまま 'プラグイン' する独特な仕様で、元々はMu-Tronの傑作オクターバー、Octave Dividerに内蔵されていたものを単体の 'アタッチメント' として仕上げたもの。わたしはオリジナルの1970年代製を所有しているのですが、このビミョーに 'アッパーオクターヴ' 的なトーンが付加されるのは地味に面白い。さて、そんなリング・モジュレーターの 'ギュイ〜ン' とさせる 'シンセライク' な変調ワザではなく、地味に非整数倍音が生み出す '箱鳴り' に興味を持ったのは、ギタリストの土屋昌巳さんによる雑誌のインタビュー記事がきっかけ。こーいうお話もちょっとした '質感生成' のヒントとして刺激されるのではないでしょうか?。

"ギターもエレキは自宅でVoxのAC-50というアンプからのアウトをGroove Tubeに通して、そこからダイレクトに録りますね。まあ、これはスピーカー・シミュレーターと言うよりは、独特の新しいエフェクターというつもりで使っています。どんなにスピーカー・ユニットから出る音をシミュレートしても、スピーカー・ボックスが鳴っている感じ、ある種の唸りというか、非音楽的な倍音が出ているあの箱鳴りの感じは出せませんからね。そこで、僕はGroove Tubeからの出力にさらにリング・モジュレーターをうす〜くかけて、全然音楽と関係ない倍音を少しずつ加えていって、それらしさを出しているんですよ。僕が使っているリング・モジュレーターは、電子工学の会社に勤めている日本の方が作ってくれたハンドメイドもの。今回使ったのはモノラル・タイプなんですけれど、ステレオ・タイプもつい1週間くらい前に出来上がったので、次のアルバムではステレオのエフェクターからの出力は全部そのリング・モジュレーターを通そうかなと思っています。アバンギャルドなモジュレーション・サウンドに行くのではなくて、よりナチュラルな倍音を作るためにね。例えば、実際のルーム・エコーがどういうものか知っていると、どんなに良いデジタル・リバーブのルーム・エコーを聴かされても、'何だかなあ' となっちゃう。でもリング・モジュレーターを通すとその '何だかなあ' がある程度補正できるんですよ。"





Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ①
Keio Electronic Lab. Synthesizer Traveller F-1 ②

完全に '飛び道具' でありながらリング・モジュレーターとファズ、オシレータ発振と 'Traveller' フィルターを組み合わせた本機の魅力は未だ '発見' されておりません。こういうペダルはついつい派手にギュイ〜ンとやりがちで飽きてしまうのですが、地味に原音に対してほんの少しスパイス的に振りかける '質感生成' として耳を傾けてみませんか?日本が誇る偉大なエンジニア、三枝文夫氏が手がけた京王技研(Korg)のSynthesizer Traveller F-1は、-12dB/Octのローパス・フィルターとハイパス・フィルターがセットで構成された 'Traveller' を単体で搭載したもので、それぞれの動きを連携させて '旅人のように' ペアで移動させるという三枝氏のアイデアから名付けられた機能です。本機の製品開発にはジャズ・ピアニストの佐藤允彦氏が携わっており、そんな当時のプロトタイプについてこう述べております。なんと当初はペダルの縦方向のみならず、横にもスライドさせてコントロールする仕様だったとは・・。

"三枝さんっていう開発者の人がいて、彼がその時にもうひとつ、面白い音がするよって持ってきたのが、あとから考えたらリング・モジュレーターなんですよ。'これは周波数を掛け算する機械なんですよ' って。これを僕、凄い気に入って、これだけ作れないかって言ったのね。ワウワウ・ペダルってあるでしょう。これにフェンダーローズの音を通して、かかる周波数の高さを縦の動きでもって、横の動きでかかる分量を調節できるっていう、そういうペダルを作ってくれたんです。これを持って行って、1972年のモントルーのジャズ・フェスで使ってますね。生ピアノにも入れて使ったりして、けっこうみんなビックリしていて。"





Empress Effects Zoia ①
Empress Effects Zoia ②

さて、上の 'フィルター対談' の中でエンジニアの渡部氏が最後にEventide DSP-4000というラック型マルチ・エフェクターで自由にサンプル・レートやビット数を落とすパッチを組めるモジュールが面白いという話をしておりますが、コレ、まさに当時の 'エレクトロニカ' 黎明期を象徴するプラグインCycling 74 Max/Mspのハードウェア的端緒として話題となりました。このDSP-4000は 'Ultra-Harmonizer' の名称から基本はインテリジェント・ピッチシフトを得意とする機器なのですが、色々なモジュールをパッチ供給することで複雑なプロセッシングが可能なこと。リヴァーブやディレイなどのエフェクトそのものの役割を果たすものから入力信号を '二乗する'、'加える' といった数式モジュール、'この数値以上になれば信号を分岐する' といったメッセージの 'If〜' モジュールといった完全にモジュラーシンセ的発想で自由にパッチを作成することが出来るのです。当時で大体80万くらいの高級機器ではありましたが 'ベッドルーム・テクノ' 世代を中心に人気となりましたねえ。

そんなユーザーの好みに合わせて自由にモジュールの組めるシステムから20年後、いよいよそれのコンパクト版ともいうべきペダルがカナダの工房、Empress Effectsから登場です。各モジュールはカラフルにズラッと並んだ8×5のボタングリッド上に配置し、そこから複数のパラメータへとアクセスします。これらパラメータで制作したパッチはそれぞれひとつのモジュールとしてモジュラーシンセの如く新たにパッチングして、VCO、VCF、VCA、LFOといった 'シンセサイズ' からディレイやモジュレーション、ループ・サンプラーにピッチシフトからビット・クラッシャーなどのエフェクツとして自由に 'デザイン' することが可能。これらパッチは最大64個を記録、保村してSDカードを介してバックアップしながら 'Zoiaユーザーコミュニティ' に参加して複数ユーザーとの共有することが出来ます。







我らが '電気ラッパの師' である近藤等則さんとDJクラッシュのコラボレーションによる1996年の傑作 'Ki-Oku (記憶)'。コレ、いつもの 'コンドー節' ともいうべき派手にエフェクティヴなトーンは鳴りを潜め、マイルス・デイビス的ミュートのトーンを主軸としながら全てに電気的な加工を施しているのがミソなのです。慌てず騒がずジックリと・・この '人工甘味料' 的艶っぽいラッパのトーンを体感して頂きたいですね。ちなみにソロのみならず、DJクラッシュが拾い集めたバックトラックの細かなサンプル全てコンドーさんのフレイズの '再構成' なのが本盤のキモだ!

2019年5月1日水曜日

'電化ジャズ' -可能性と問題点- (再掲)

さようなら「平成」・・そして、ようこそ「令和」。

'温故知新' - 古きをたずねて新しきを知る。さて、オクターバーというヤツは管楽器用エフェクターとしても最初に製品化されたものなのですが、ここではそんな初期の胎動を示す 'スイングジャーナル' 誌1968年10月号に寄稿された故・児山紀芳氏(合掌)の記事 'エレクトリック・ジャズ - 可能性と問題点' を、いくつか抜粋してお送りしたいと思います。しかし、この '問題点' というところに当時の保守的なジャズ界の '右往左往ぶり' が伺いしれるのだけど、一方では、当時台頭してきたロックと '電化' の波がもたらす風潮を耳あたりの良い 'ギミック' として、それがいつまで '賞味期限' を保証してくれるのか、というビル・エヴァンスの鋭い批評を引用するなど、今の時代から読んでも唸らされるところがあります。'プッシュボタン時代' という今からすれば実に古臭いキャッチコピーは、現在の生活、音楽シーンなどと合わせて考えてみるとなかなかに示唆に富んだ表現なのですが、これはそんな時代の変わりゆく '証言' の一端です。



- 来るかプッシュ・ボタン時代 -

アメリカでエレクトリック・サキソフォーンが開発されたのは、いまから2年前の1966年夏のことだった。いらい今日では、リー・コニッツからキャノンボール・アダレイまで、実に多くのジャズメンがエレクトリック・サックスを使っている。そこで本稿では、私が最近アメリカで見聞、取材した材料をもとに、話題のエレクトリック・ジャズと、その可能性と問題点を探ってみる。

エレクトリック・サックスというのは、サックスの音をひろうピックアップを楽器に接続して、電気増幅器で音をいったん電流に変え、スピーカーを通して再生するもので、すでにアメリカでは、いくつかのメーカーが売り出している。






エレクトリック・サックスを最初に開発、発売したのは有名なサックス・メーカーのセルマーだが、セルマーがエレクトリック・サックスの研究を進めた動機は、ローランド・カークの二管同時吹奏という驚異のテクニックにアイデアを求めたものといわれている。一本のサキソフォーンでカークのようなマルチ・プレイが電気仕掛けでできないものか - これがセルマーの考えだった。こうして完成されたのが今日のエレクトリック・サックスだが、この楽器を使うと、人は一本のサックスで、いうなればテナー・サックスとアルト・サックスの演奏ができる。もちろんサックスばかりでなく、ピックアップをクラリネットやフルートに装てんすれば、同じ結果(正確には1オクターヴ下の音)が得られるのだ。そのほか、増幅器(アンプリファイヤー)に内蔵された種々のメカニズムによって電気的に音色を明るくしたり、ダークにしたり、エコーをつけたり、トレモロにしたり、都合、60種類もの変化を得ることができる。



「音楽にプッシュ・ボタン時代来る」 - これはあるエレクトリック・サックス・メーカーが考え出したキャッチ・フレーズだが、ここで考えられる問題点や疑問については、あとでふれるとして、少なくとも私が見聞したかぎりでは、このキャッチ・フレーズは全くウソではない。事実日本でも松本英彦や北村英治、原信夫とシャープス&フラッツがプッシュ・ボタンやつまみのついたリード楽器を使いはじめているし、上記したようにアメリカでは多くのミュージシャンたちがサックスを吹きながら手や足でプッシュ・ボタンを操作しているのだ。単にサキソフォーンばかりではなく、ボタン時代はトランペットにも、ピアノにも、もちろんギターやベース、ドラムスにも波及してきている。






- 電化サックスの可能性 -

このところエレクトリック・アルト・サックスをもっぱら使用しているリー・コニッツは、サックスが電化されたことにより、これまでの難問題が解決されたと語っている。コニッツが従来直面していた難問題とは、リズム・セクションと彼のアルト・サックスとの間に、いつも音量面で不均衡が生じていたことをさしている。つまりリズム・セクションの顔ぶれが変わるたびに、ソロイストであるコニッツはそのリズム・セクションのサウンドレベルに自己を適応させなければならなかったし、リズム・セクションのパワーがコニッツのソロを圧倒してしまう場合がよくあった。電化楽器ではサウンド・レベルを自由に調整することができるからこうした不均衡を即時に解消できるようになり、いまではどんなにソフトなリズム・セクションとも、どんなにヘヴィーなリズム・セクションとも容易にバランスのとれた演奏ができるという。しかも、リー・コニッツが使っている 'コーン・マルチ・ヴァイダー' は1本のサックスで同時に4オクターヴの幅のあるユニゾン・プレイができるから、利点はきわめて大きいという。先月号でも触れたように、コニッツは1967年9月に録音した 'The Lee Konitz Duets' (Milestone)のなかで、すでにエレクトリック・サックスによる演奏を吹き込んでいるが、全くの独奏で展開される 'アローン・トゥゲザー' で 'コーン・マルチ・ヴァイダー' の利点を見事に駆使している。この 'アローン・トゥゲザー' で彼は1オクターヴの音を同時に出して、ユニゾンでアドリブするが、もうひとつの演奏 'アルファニューメリック' ではエディ・ゴメス(ベース)やエルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)、カール・ベルガー(ヴァイブ)、ジョー・ヘンダーソン(テナー・サックス)ら9人編成のアンサンブルで、エレクトリック・サックスを吹き、自分のソロをくっきりと浮き彫りにしている。ここでのコニッツは、アルト・サックスの音量面をアンプで増大するだけにとどめているがその効果は見逃せない。





いまアメリカで圧倒的な人気を得ているエディ・ハリスの場合は、リー・コニッツとは別のアプローチから電化楽器に挑んでいる。最近の彼はエディ '電化' ハリスと呼ばれるほど徹底したエレクトリック・サックスの実践者だが、そもそも彼がエレクトリック・サックスを使うようになった動機はこうだ。

いまから7、8年も前、'栄光への脱出' という最初のヒットを出した当時のエディ・ハリスは、テナー・サックスで何とか独奏的なサウンドを出そうと研究していた。結局彼はアルト・サックスに近い高音部を駆使するユニークなスタイルをつくったが、その後、コルトレーンが登場して、テナー・サックスのレンジや奏法には飛躍的な進歩がみられるようになり、彼にとって新しい課題ができた。私がエディ・ハリスに会ったとき、ハリスはテナー・サックスでヴァイオリンの高度な練習曲を吹いていたが、彼はこれまでにトロンボーンのマウスピースをサックスに接合したり、バスーンのリードをつけて工夫してみたり、ことテナー・サックスで考えられるありとあらゆる実験をやり、それによって独創性を維持しようとしたという。たまたまそんなとき、セルマーのヴァリトーン・サックス(電化サックス)が開発され、これによって種々の効果が電気的に出せるのを知った。ハリスは早速 'The Tender Storm' (Atlantic)で使ったが、やがてギターの 'ギブソン' のメーカー、シカゴ・ミュージカル・インストゥルメントが開発したエレクトリック・サックス 'マエストロ' に切り変えた。現在も彼はこの 'マエストロ' を使っているが、この電化楽器だと、テナー・サックスでオーボエ、バスーン、バス・クラリネット、イングリッシュ・ホーンの音が出せる。テナー・サックスにバスーンのリードをつけて実験していた効果が、この 'マエストロ' だと簡単に吹けるというわけだ。



エディ・ハリスのグループがロサンゼルスの〈シェリーズ・マンホール〉に出ていたとき、彼のグループはジョディ・クリスチャン(ピアノ)、メルヴィン・ジャクソン(ベース)、リチャード・スミス(ドラムス)で構成されていたが、ハリスとベースのジャクソンが電化楽器を使っており、ジャクソンがアルコ奏法で発する宇宙的サウンドをバックにハリスが多彩な効果を発揮してみせた。2音、3音のユニゾン・プレイはもちろんのこと、マウスピースにふれないでキーのみをカチカチと動かしてブラジルの楽器クイーカのようなリズミックなサウンドを出し、ボサノヴァ・リズムをサックスから叩き(?)出すのである。この奏法はエディ・ハリスが 'マエストロ' の練習中に偶然出てきた独奏的なもので、同席した評論家のレナード・フェザーとともにアッと驚いたものである。ハリスはあとで、この打楽器的な奏法がサックス奏者に普及すればサックス・セクションでパーカッション・アンサンブルができるだろうと語っていたが、たとえそれが冗談にしろ、不可能ではないのだ。ともあれ、エディ '電化' ハリスのステージは、これまで驚異とされていたローランド・カークのあの演奏に勝るとも劣らない派手さと、不思議なサウンドに満ちていて人気爆発中。しかもカークが盲目ということもあって見る眼に痛々しさがある反面、ハリスは2管や3管吹奏をプッシュ・ボタンひとつの操作で、あとはヴォリューム調整用のフット・ペダルを踏むだけで楽々とやってのけているわけだ。エレクトリック・サックスの利点は、体力の限界に挑むようなこれまでのハードワークにピリオドを打たせることにもなりそうだ。ハイノートをヒットしなくても、ヴァイタルな演奏ができる。つまり、人体を酷使することからも解放されるのだ。この点は、連日ステージに出る当のミュージシャンたちにとって、大きな利点でもあるだろう。


エディ・ハリスは電化サックスの演奏中は、体が楽だといった。これを誤解してはいけないと思う。決してなまけているのではなく、そういう状態になると、その分のエネルギーを楽想にまわせることになり、思考の余裕ができて、プラスになるという。さらに、エレクトリック・サックスを使う場合、もし人が普通のサックス通りに演奏したら、ヒドい結果になるという。楽に、自然に吹かないと、オーバーブロウの状態でさまにならないそうだ。新しい楽器は新しいテクニックを要求としているわけだが、それで体力の消耗が少しでもすめば、まことに結構ではないか。






-ドン・エリスと電化トランペット-

同じ電化楽器でもトランペットの場合は特性面でかなりの相異がある。電化トランペットの使用で話題になったドン・エリスの場合、やはり種々のアンプを使っているが、サックスとちがって片手でできるトランペット演奏では、もうひとつの手でアンプの同時操作が可能になる。読者は、先月号のカラーページに登場したドン・エリスの写真で、彼がトランペット片手にうつむきながらアンプを操作している光景をご覧になっているはずだ。あの場合、ドン・エリスはいったん吹いたフレーズをエコーにしようとしてるのだが、この 'エコー装置' を使うと 'Electric Bath' (CBS)中の 'Open Beauty' にきかれる不思議な音楽が誕生する。装置の中にはテープ・レコーダーが内蔵されており、いったん吹かれた音がいつまでもエコーとなって反復される仕組みになっている。ドン・エリスは、この手法を駆使し谷間でトランペットを吹くような効果を出しているが、彼はまた意識的にノイズを挿入する。これも片手で吹きながら、もう一方の手でレバーを動かしてガリガリッとやるのである。こうした彼のアイデアは、一種のハプニングとみなしていいし、彼が以前、'New Ideas' (New Jazz)で試みた実験と相通じるものだ。







もちろんトランペットでもサックスと同じユニゾン・プレイは可能である。マルチ・ヴァイダーさえ使えば、トランペットの音が2重3重に拡大分離されて出てくるから、高低ブラス・セクションのような効果になる。ナット・アダレイが最新アルバム 'You, Baby' (A&M)で早速この成果を世に問うているが、ギル・エヴァンス・オーケストラがこのエレクトリック・トランペットをそこでどう利用しているかという点が、現在のところ興味をもって待たれるところである。





-エレクトリック・ジャズ批判-

読者の中には、電化楽器など、くそくらえだと考えていらっしゃる人も多いのではないかと思う。実は、かくいう私自身、エディ・ハリスやドン・エリスの演奏をきくまでは、そんな風にも考えていた。だからこそ、チャールズ・ロイドやスタン・ゲッツが5月に来日したときその問題点をきいたわけである。もともとゲッツは、セルマーから最初にヴァリトーン・サックスの使用を要請されたミュージシャンだったが、彼はボサノヴァには不必要だと断ってしまった。チャールズ・ロイドにしても、自身持っていながらいまのところは使う意志がないという。つまるところ、異質な電気を音楽に作用させるところを不自然で、抵抗になっているのだ(2人の電化楽器への感想は、本誌68年7月号を参照されたい)。







たしかに、ドン・エリス・バンドやエディ・ハリスの演奏をきいていると、電化楽器の新しいサウンドをノベルティとして売りものにしているところが全くないわけではない。エリスがトランペット片手にアンプの操作を長々とやるのは、途中で退屈もした。ただし、トム・スコットの言葉 "ジャズはこれまで多くの制約でしばられてきた。世の中がエレクトロニクスの時代になっているのに、ジャズがいつまでも旧態然としていていいものか。新しい楽器が開発され、それからジャズの新しい可能性を引き出してみせるのは、決して無意味だとは思わない" という発言には賛成だ。





また、エディ・ハリスによれば、これまで有名なプレイヤーがエレクトリック・サックスをマスターしようとして、多くの人が失敗して使うのをやめてしまっているという。つまり、この種の楽器は、利点も多いがコントロールするのがむつかしく、タンギングもフィンガリングのタッチも息の入れ方も、根本的にやりなおさなければならないという。彼によれば、ロイドのようにニュー・イディオム(2音、3音奏法や変則的なフィンガリング)を追求しているジャズメンが、この楽器を使わないのはかえっておかしいという。





問題は、エレクトリック・ジャズが、いまでこそニュー・サウンドで人々の耳目を集めているが、これからさきその '新しさ' がどれだけ生命を持ちつづけられるかということだろう。ピアニストのビル・エヴァンスがドン・エリス・バンドの 'Open Beauty' についてその冒険性を高く評価しながらも "問題は音楽的な内容だ。この演奏は、ただちに人の耳をアトラクトする何かをそなえているが、いまは新しい何かが、20年のちには全く無意味になりかねない。その意味でも肝心なのは内容でしかありえない" と語っているが、至言であろう。とにかく、電化楽器はまだ開発されて間もない新しい分野である。今日のエレクトリック・ジャズは、先月号でもふれたように、ギミックとしての性格が強いという弱点はたしかにある。しかし、一方では、タル・ファーロウやサン・ラ、リー・コニッツの音楽のように充分な内容をそなえたエレクトリック・ジャズも誕生しはじめている。そしてジャズの世界に、やがては本格的な 'プッシュ・ボタン時代' が到来するかもしれないのである。ジャズは、つねに未知の世界に挑戦しつづけてきたのだから・・。







すでに1967年から68年の時点で相当の数の '電化ジャズ' が市場に現れていたことに驚きます。当時、ロックやR&Bを中心とした電気楽器によるアンサンブルに最も危機感を覚えていたのがホーンを持つ管楽器奏者たちだったことは間違いなく、それはプログレを始めとしたロックバンドの中にホーンを 'アンプリファイ' することで挑んでいく姿からも象徴的ですね。ビッグバンドにおける4ブラスを始めとした豪華な '音量' は、些細なピッキングの振動がそのまま、ピックアップとアンプを通して巨大なスタジアム級のホールを震わせるほどの '音圧' に達する 'エレキ' に簡単に負けてしまったのです。ちなみに上の本文で触れた 'スイングジャーナル' 誌1968年7月号でのチャールズ・ロイドやスタン・ゲッツらの '電気サックス' に対する発言は以下の通りです。

- このところ、ジャズ界ではエレクトリック・サキソフォーンやエレクトリック・トランペットなど、新しく開発された電気楽器を使用するミュージシャンが増えてきましたが、ここではとくに貴方の領分である電気サックスの使用についてのご意見をきかせてほしい。

C.ロイド
"実は私もエレクトリック・サキソフォーンを最近手に入れたばかりだ。しかし、いまのところ私は、ステージで使ってみようとは思わない。少なくとも、現在の私のカルテットでは必要がない。というのも私自身、これまでのサキソフォーンにだってまだまだ可能性があると考えているからだ。それに、人が使っているからといって、流行だからといって、必要もないのに使うことはない。もし、将来電気サックスが自分の音楽にどうしても必要になれば、もちろん使うかもしれないが・・。"

S.ゲッツ
"元来、サキソフォーンという楽器は、他のいかなる楽器よりも人間の声をじかに伝達する性質がある。だから、サックスは肉体の一部となり、肉体とつながりをもってこそ、はじめて自分自身を正しく純粋に表現しうる楽器となる。その点、エレクトリック・サックスは、人間と楽器の中間に電気的な操作を介入させようというのだから、純粋性がなくなるし不自然だ。私は不自然なものは好まないし、世の中がいかに電化されたとしても、少なくとも私にとって電気サックスは無用だ。"














そんなジャズとエレクトロニクスの極北としては、1950年代にBlue Noteで 'ウェストコースト' 風バップをやりながら画家や彫刻家としても活動したギル・メレがいます。すでに1960年代から現代音楽などの影響を受けて自作のエレクトロニクスを製作、ジャズという枠を超えて多彩な実験に勤しみました。画像は上から順に 'Elektor' (1960)、'White-Noise Generator' (1964)、'Tome Ⅳ' (1965)、'The Doomsday Machine' (1965)、'Direktor with Bubble Oscillator' (1966)、'Wireless Synth with Plug-In Module' (1968)といった数々の自作楽器であり、特に1967年にVerveからのリーダー作 'Tome Ⅳ' は、ソプラノ・サックス状のかたちの自作楽器(世界初!の電子サックス)を開陳したものです。ま、一聴した限りではフツーのサックスと大差ないのですが、彼がコツコツとひとり探求してきたエレクトロニクスの可能性が正式に評価されなかったのは皮肉ですね。そんなメレ独自のアプローチは1971年のSF映画 'The Andromeda Strain' のOSTに到達、まさに初期シンセサイザーにおける金字塔を打ち立てます。








Computone Lyricon

このような様々な葛藤の '黎明期' を経てそれでも1970年代にはまだ、ギターとは違う '音色' としてアンサンブルの中で生き残りを賭けていたホーンは1980年代、デジタルの分厚く多彩な音色が特徴のポリフォニック・シンセサイザーに完全に駆逐されてしまいました。当時、'ブラスシンセ' という言葉と共にズラッとバンドの中で並んでいたホーン陣はほとんど1台のキーボードで賄えるようになり、また、Computone Lyriconをきっかけに始まったAkai Proffesional EWIやYamaha WXなどのウィンド・シンセサイザーは、そのままキーボードの延長線上にあるMIDIコントローラーとして探求されていったという印象があります。







「昭和」も遠くなりにけり。さて、このような音楽を始めとする文化の '地殻変動' が根底から湧き起こった1960年代後半から70年代初め。この、今から見れば少々大げさのようにも感じる '電化騒ぎ' と表現の変容を「令和」の皆さまはいかが感じるでしょうか。

2019年3月5日火曜日

東京 'イエローマジックショウ'

"T・E・C・H・N・O・P・O・L・I・S........TOKIO!" わたしが小学生の頃に流行したもののひとつにYMOことイエロー・マジック・オーケストラがあります。いやあ、ピコピコピュ〜ンというシンセサイズされたサウンドが1980年の東京のBGMとして本当にハヤったなあ。





わたしもこれを聴いて育った1990年代以降の 'ベッドルーム・テクノ' 世代が体験したこととほぼ同義で、当時流行したインベーダ・ゲームの 'ピコピコ' サウンドの延長で耳に付き、子供心にヴォコーダーの未来的なトーンとハリウッド映画 'スターウォーズ' やアニメ '機動戦士ガンダム' のSF感覚、そして何でか、TVドラマ '西遊記' でのゴダイゴが主題歌を担当した '中華ライク' なエキゾ感覚もゴッチャになってる(笑)。わたしよりもうちょっと上の世代ならディスコからフュージョン、ニューウェイヴの感覚でハマっていたことも加味されるでしょうね。











YMOというといわゆる 'テクノポップ' のピコピコした未来的なトーンに耳が行きますけど、実は元々のコンセプトのひとつに無国籍なエキゾ感覚の '復権' があったと思うのです。これは米国から見るアジアやアフロの '間違った' 感覚のさらにアジア人による自虐的な毒というか、北京交響楽団から人民服(実際は戦前の国民スキー服らしい)やジャン・リュック・ゴダール監督作品の '中国女' など、ある種スノッブな '中華趣味' に至るまで誤解されたパロディのような感覚。その発起人にして '主犯' である細野晴臣さんは小学生たちがYMOを '駄菓子' のように貪り、自分たちを追っかけの対象として狂っていくのを見て戦慄したそーですヨ(苦笑)。それは、このYMOの遥か昔に流行した 'エキゾティック・サウンズ' の大家マーティン・デニーの 'Firecraker' をカバーしたことにも象徴されますね。'四畳半の楽園' を構築すべくある種のヴァーチャルな関係を結ぶことで物見遊山する 'エキゾ' とは、そのまま現在の 'ネット・サーフィン' することと同義であり、すでに本物とニセモノの境界など分からない人工的な '体験' に取り憑かれてアクセスすることだと思うのです。







さて、そんな 'エキゾ趣味' を 'テクノポップ' で蘇らせる一方で、当時、新たに台頭してきたヒップ・ホップの '解釈' の原点という意味ではもう一度、時計の針を1980年の東京に巻き戻さなければなりません。アフリカ・バンバータの 'Planet Rock' ?ハービー・ハンコックの 'Rockit' ?マントロニクスの 'Bassline' ?サイボトロンの 'Clear' ?いやいや、YMOの '頭脳' ともいうべき '教授' ことRiuichi Sakamotoにご登場頂きましょう。ここでいうヒップ・ホップとは(テクノ含めた)同時代的なアティチュードのことであり、それは、最もとんがっていた頃の '教授' がブチかましたエレクトロ・ミュージックの 'Anthem' と言うべきこれらを聴けば分かるはず!特に 'Riot in Lagos' のデニス・ボーヴェルによるUK的 'メタリック' なダブ・ミックスが素晴らしい。この1980年はYMO人気のピークと共にメンバー3人が '公的抑圧' (パブリック・プレッシャー)に苛まれていた頃であり、メンバー間の仲も最悪、いつ空中分解してもおかしくない時期でした。そんなフラストレーションが '教授' の趣味全開として開陳させたのが、ソロ・アルバム 'B-2 Unit' と六本木のディスコのテーマ曲として制作した7インチ・シングル 'War Head c/w Lexington Queen' におけるダブの 'ヴァージョン' 的扱い方だったりします。











いわゆる 'テクノポップ' の寵児として、史上稀に見るバブル期へと向かう 'Tokio' の原風景を描き出したYMO。しかし、その三者三様のバックグラウンドの違いがもたらす '引き出し' の広さこそ、現在に至るまで多くの '信者' を生み出す要因ではないかと思うのです。このYMOの感覚を現代に蘇らせたものとしては、高橋幸宏さんを中心に 'ベッドルーム・テクノ' 世代が引き継いだMetafiveを挙げなければなりませんね。あの活気と浮かれていた熱狂から40年近く経ってやってくる 'Tokyo 2020'・・東京の風景も人間も大きく変化しました。







個人的にYMOの元々のコンセプトである 'エキゾ感覚' という意味では、細野晴臣さん作の '南国趣味' 全開な 'Simoon' のような曲が生き残る気がしているのです。このモロにラテン一色なセニョール・ココナッツのカバーも素晴らしいけど、Youtubeで出会ったこのCMOことChiba MOというYMOカバーバンドの 'Simoon' が最高!多分 'YMO愛' が高じてやられている趣味人バンドなんだと思うのだけど渋い選曲はもちろん、アレンジ含めクオリティが高いというか、これはMetafive共々ちゃんと今の時代の音で鳴っておりますヨ。しかしこのYMOという稀有なユニット、そんな電脳都市 'Tokio' が史上最大のバブルへと向かう直前の1983年に '散開'・・。ホント、彼らの過ぎ去って行った '季節' が日本のポップ・ミュージック・シーンに与えた影響は大きかったのだ。