残暑お見舞い申し上げます。ああ、イレギュラーな9月...2025年の夏も終わりますね。
毎年、花粉に襲われる春から夏を境になんか身体の不調というか、季節の変わり目をうまく乗り越えられない自分がいます。だんだん当たり前が当たり前にならず、無理の効かなくなってくる自分を受け入れざるを得ない '老い' ってほんとイヤだなあ...。例えば、毎日亜熱帯に住む人たちはそういう季節の変化について思うことなどあるのだろうか?いや、それはそれで過酷の地に住んでるワケだけど(汗)、日本の四季の中で真冬、花粉、猛暑と各々3シーズンも乗り越えなきゃいけない自分に嫌気が指しますヨ。これからやってくる '小さい秋' なんてほんとどっか行っちゃった(汗)。ま、イヤだと言ったところでどうにもなんないから、後はせっせと稼いでそういう過酷な季節から毎年逃避できる身分になるしかないんですけど、ね(苦笑)。というか、ずっと猛暑なら熱中症に気を付けながらそのまま身体のチューニングなどしなくていいのにな...(違うかな?)。
なんと久々なFriday Night Plansのmasumiさんのご登場!。すっかり音響派な世界へ旅立ってしまい戻ってこないかと思われましたが(苦笑)、リヴァーブたっぷり効かせた '海の中' をたゆたうように2018年作の一曲 'Fall in love woth you in every 4AM.' なども織り込みながら上手な落としどころ?を見つけたようです...内省的だけど(汗)。このまま心地よい眠りに就きそうではありますが、もうちょいサム・ゲンデル的な飄々とした諧謔性も欲しいかな?...まだ若いんだから(笑)。そういえばStutsらとのコラボで制作した一曲 'Prism' でフィーチュアした若きラッパー、JJJも逝ってしまいましたね...。そんな悲しみも込められてるのかな?(涙)。
そんな季節に 'プチ逃避' でやってる 'シンセ温泉'。そういうコンセプトで随分と前からやってるベッドルーム・テクノの御仁、サワサキヨシヒロさんもいらっしゃるようですが(なんとこのイベントにDe De Mouseも出てたとわ!)、わたしは特別凄いものを用意することもなくBuchla Music Easel一台で温泉宿の一夜を小さな小さな音色で '触っていく' だけ。怪しげな 'スピリチュアル野郎' と勘違いされそうだけど、そう、これはセラピー 'Therapy' なんです。その昔、サン・ラのアルバムで 'Cosmic Tones for Mental Therapy' というタイトルがありましたけど、ツマミやスイッチ、スライダーをひたすら触っていくことと小さな小さな音色に耳を開いていくこと。ここでの 'マイルール' はとにかくヴォリュームを小さく、耳を圧迫しない肩乗せ型の古いSonyのヘッドフォンで目の前に現れる音色との '対話' だけが頼りです。個人的にはこんな電気すら使わないスティールパンでそういうことやりたいけど、しかし、こういうヴォリュームの調整できる機器を使っていると最近の音楽がやたらラウドでうるさいことに気が付きます。ジョン・ケージじゃないけど、こーいう静かな温泉地にやってくるともう、ほかの音色はいらないくらいいろんな 'サウンドスケープ' に囲まれているんですヨ。川のせせらぎ、虫の声、かぽーんと鳴る風呂の桶、微かな夜風の匂い...そんな研ぎ澄まされていく五感に合わせてMusic Easelのチューニングをゆっくり合わせて行きます。大事なのは触ってソレを忘れることです...。その稀有な時間と '触れ合った' ことが大事であり、余計な心配事やストレスが入り込まなかったことに驚くでしょう。飽きたらやめて寝っ転がる、また、触りたくなったら手を伸ばす、根を詰めない...ハマらない。自分はなんでも熱狂するものはヘーキで資料探しやYoutubeのネットサーフィン始めるタイプだから、コレとっても大事ですね。SNSに苛まれるケータイの電源も切っときましょう...液晶の明かりは敵だ!(このスマホ依存症的ストレスは確実に目に来ますよ)。しかし、やっぱポータブル?とはいえアタッシュケース・サイズのMusic Easel...持ち運び可能ではあるけどデカくて重いわ(汗)。
- まずお2人には、Buchlaシンセのイメージからお伺いしたいのですが。
W - 珍しい、高い、古い(笑)。僕は楽器屋で一回しか見たことがないんだよ。当時はパッチ・シンセを集め始めたころで、興味はあったんだけど、高過ぎて買えなかった。まあ、今も買えないんだけど(笑)。
U - BuchlaとSergeに関しては、普通のシンセとは話が違いますよね。
- あこがれのブランドという感じですか?。
U - そうですね。昨今はモジュラー・シンセがはやっていますが、EurorackからSynthesizer.comなどさまざまな規格がある中で、Buchlaは一貫して最高級です。
W - ほぼオーダーメイドだし、価格を下げなくても売れるんだろうね。今、これと同じ構成のシンセを作ろうとしたらもっと安く組めるとは思うけど、本機と似た構成のCwejman S1 Mk.2も結構いい値段するよね?。
- 実際に操作してみて、いかがでしたか?。
W - Sergeより簡単だよ。
U - 確かに、Sergeみたいにプリミティブなモジュールを使って "これをオシレータにしろ" ということはないです。でも、Music Easelは普通のアナログ・シンセとは考え方が違うので、動作に慣れるのが大変でした。まず、どのモジュールがどう結線されているのかが分からない・・。
W - そうだね。VCAが普通でないつながり方をしている。
U - 音源としては2基のオシレータを備えていて、通常のオシレータComplex OSCの信号がまずVCA/VCFが合体した2chのモジュールDual Lo Pass Gate(DLPG)に入るんですよね。その後段に2つ目のDLPGがあって、その入力を1つ目のDLPG、変調用のModulation OSC、外部オーディオ入力から選べるようになっている。
W - だから、そこでComplex OSCを選んでも、1つ目のDLPGが閉じていると、そもそも音が出ない・・でも、パッチ・コードで結線しなくてもできることを増やすためにこうした構成になっているわけで、いったん仕組みを理解してしまえば、理にかなっていると思ったな。Envelope Generator(EG)のスライダーの数値が普通と逆で、上に行くほど小さくなっていたのには、さすがにびっくりしたけど。
U - でも、こっちの方が正しかった。
- その "正しい" という理由は?。
W - Music EaselのEGはループできるから、オシレータのように使えるわけです。その際、僕らが慣れ親しんだエンヴェロープの操作だと、スライダーが下にあるときは、例えばアタックならタイムが速く、上に行くほど遅くなる。これをオシレータとして考えるとスライダーが上に行くほどピッチが遅くなってしまうよね?だからひっくり返した方がいいと言うか、そもそもそういうふうに使うものだった。時代が進むにつれてシンセに独立したオシレータが搭載されるようになり、エンヴェロープを発振させる考え方が無くなったわけ。
- 初期のシンセサイザーはエンヴェロープを発振させてオシレータにしていたのですか?。
W - そう。Sergeはもっとプリミティブだけどね。最近のシンセでも、Nord Nord Lead 3などはARエンヴェロープがループできますよ。シンセによってエンヴェロープ・セクションに 'Loop' という機能が付いているのは、そうした昔の名残なんでしょうね。Music Easelはエンヴェロープで波形も変えられるし、とても面白い。
- オシレータの音自体はいかがでしたか?。
W - とても音楽的な柔らかい音がして、良いと思いましたよ。
U - レンジはHigh/Lowで切り替えなければならないのですが、音が連続して変化してくのがいいですね。あとEMSのシンセのように "鍵盤弾かせません!" というオシレータではなくて、鍵盤楽器として作られているという印象でした。
W - EMSは '音を合成する機械' という感じ。その点Music Easelは '楽器' だよね。
U - 本機ではいきなりベース・ライン的な演奏ができましたが、同じようなことをEMSでやるのはすごく大変ですから。
W - 僕が使ったことのあるEMSは、メインテナンスのせいだと思うけど、スケールがズレていたり、そもそも音楽的な音は出なかったけどね。この復刻版は新品だからチューニングが合わせやすいし、音自体もすごく安定している。
U - 確かに、'Frequency' のスライダーには '440' を中心にAのオクターヴが記されていて、チューニングがやりやすいんですよ。
W - そもそも鍵盤にトランスポーズやアルペジエイターが付いていたりと、演奏することを念頭に作られている。
- オシレータのレンジ感は?。
W - 音が安定しているからベースも作れると思うよ。だけど、レゾナンスが無かったり、フィルターにCVインが無かったり、プロダクションでシンセ・ベース的な音色が欲しいときにまず手が伸びるタイプではないかな。
- リード的な音色ではいかがですか?。
W - いいんじゃないかな。特にFM変調をかけたときはすごくいい音だったよ。かかり方が柔らかいと言うか、音の暴れ方がいい案配だった。普通、フィルターを通さずにFMをかけると硬い音になるんだけど、Music Easelは柔らかい。
U - 僕はパーカッションを作るといいかなと思いました。
W - 'ポコポコ' した音は良かったよね。EGにホールドが付いているから、確かにパーカッションには向いている。でも、意外と何にでも使えるよ。
- 本機はオーディオは内部結線されていて、パッチングできるのはCVのみとなりますが、音作りの自由度と言う観点ではいかがですか?。
U - 信号の流れを理解すれば過不足無く使えますが、例えばオシレータをクロスさせることはできないし、万能なわけではないですね。
W - でも、他社の小型セミモジュラー・シンセより全然自由度は高いよ。'パッチ・シンセ' である意味がちゃんとある。
U - 確かに、変なことができそうですね。
W - Pulser/Sequencerのモジュールも入っているし、いろいろと遊べそうだよね。パッチングの色の分け方も分かりやすい。あとバナナ・ケーブルって便利だね!パッチング中に "あれどこだっけ?" と触診するような感じで、実際にプラグを挿さなくても音が確認できるのはすごく便利。ケーブルの上からスタックもできるし。
U - 渡部さんのスタジオにはRoland System 100Mがありますが、Music EaselでできることはSystem 100Mでも実現可能ですか?。
W - できると思う。System 100Mにスプリング・リヴァーブはついてないけどね。
- 復刻版の新機能としては、MIDI入力が追加されて、ほかのシーケンサーでMusic Easelをコントロールできるようになりました。
U - 僕が個人的に面白いと思ったのは、オプションのIProgram Cardをインストールすると、Apple iPadなどからWi-Fi経由でMusic Easelのプリセットを管理できるところ。ステージなどで使うには面白いと思います。
W - それはすごくいいアイデアだね。
- テスト中、お2人からは "これは入門機だね" という発言が聞こえましたが。
W - 独特のパラメータ名やしくみを理解してしまえば、決して難しいシンセではないという意味だよ。よく "モジュラー/セミモジュラー・シンセは難しそう" という人がいるけど、ケーブルのつなぎ方さえ分かってしまえば、完全に内部結線されているシンセより、自分が出したい音を作るのは簡単だからね。
U - 1つ目のDLPGにさえ気付けば、取りあえず音は出せますしね。
W - Music Easelで難しいのはオシレータとDLPGの関係とエンヴェロープだね。でも逆に言えば、特殊なのはそこだけとも言える。エンヴェロープが逆になっているのを発見したときは感動したな。シンセの歴史を見た気がしますよ。
U - 音作りの範囲はモノシンセに比べたら広いし、その領域がすごく独特です。
W - このシンセの対抗機種はArp OdysseyやOSC Oscarなどのモノシンセだよ。シーケンサーでSEっぽい表現もできるし、8ビット的な音も出せる。もう1つMIDIコンバータを用意すれば、2オシレータをパラで鳴らしてデュオフォニックになるし。
- ちなみにモジュラー・シンセというと、ノイズやSEというイメージが強かったりしますよね。
U - 確かに、モジュラー系の人はヒステリックな音色に触れがちですよね。
W - 僕はポップスの仕事でもガンガン使っていますよ。モジュラー・シンセはグシャグシャした音を作るものだと思っている人も多いようですが、アナログ・シンセの自由度が広いだけ。まあでも、オシレータに変調をかけていくと、ヒステリックな音にはなりがちだよね。
U - 変調を重ねていく方向にしか目が行かないということもあると思います。
W - でもモジュラー・シンセで本当に面白いのはオーディオの変調ではなくて、CVやトリガーをどうコントロールするかなんだよ。その意味でMusic Easelはちゃんとしている。
- 本機をどんな人に薦めますか?。
W - お金に糸目を付けず、ちょっと複雑なモノシンセが欲しい人(笑)。
U - 小さくてデスクの上に置けるのはいいと思います。例えばラップトップだけで作っている人が追加で導入するシンセとしてはどうですか?。
W - いろいろなパートを作れていいんじゃないかな。これ一台あれば演奏できるわけだから、その意味で楽器っぽいところが僕はいいと思ったな。鍵盤付きだし、音も安定している。
U - 確かにこれ一台で事足りる・・Music Easelが1stシンセで、"俺はこれで音作りを覚えた!" という人が出てきたら最高ですね(笑)。
W - で、ほかのシンセ触って "エンヴェロープが逆だよ!" って怒るという(笑)。
→Buchla on L.S.D.
あの 'サマー・オブ・ラヴ' の季節にケン・キージー&メリー・プランクスターズ主宰の '意識変革' の場として機能した 'アシッドテスト' でSEを担当したドン・ブックラ。最先端のNASAから極彩色に塗れたサイケデリアの世界へ 'ドロップアウト' した彼の姿を、ノンフィクション作家トム・ウルフの著作「クール・クールLSD交換テスト」ではこう述べられております。
"突如として数百のスピーカーが空間を音楽で満たしていく・・ソプラノのトルネードのようなサウンドだ・・すべてがエレクトロニックで、Buchlaのエレクトロニック・マシンもロジカルな狂人のように叫び声をあげる・・(中略)エレクトロニック・マシンのクランクを回すと、なんとも計算できない音響が結合回路を巡回して、位相数学的に計測された音響のように弾き出された"
さて、そんなBuchlaをヒッピーの世界から一転、アカデミックな環境へと納入されるようになったのは 'San Francisco Tape Music Center' を設立したモートン・サボトニック。それまでテープ・レコーダーによる実験的音響に精を出していたこの優れた作曲家は、ドン・ブックラと共同で新たにBuchla 100 Series Modular Electronic Music Systemを生み出すこととなります。当初からブックラとサボトニックはこの新しいアイデアについて意見を闘わせており、それはBuchlaシンセサイザーの基本コンセプトとして現在まで受け継がれております。そんな発想の源にはサボトニック自身が元々クラリネット奏者であったことも含め、後年、この時の出会いと開発時のエピソードとしてこう述べております。
"ドンとは初日から議論を重ねていた。ドンは楽器を作りたがっていたが、わたしは「目指しているのは楽器ではない。最大限近づけて表現するならば、楽器を作るための機材、絵を描くための機材というところだ」と伝えた。ドンは我々が望んでいた機材の本質を理解していなかった。このような考えを持っていたわたしは、鍵盤は不要だと考えていた。昔ながらの音楽制作を繰り返すようなことはしたくなかった。音程を軸にした音楽制作ではなく、奏者のアクションを軸にして音楽制作ができる機材を作りたかったんだ。"
この辺りがMoogやArpとは違う、BuchlaがEMSなどと似た志向を持つ '未知の楽器' モジュラーシンセとしての威厳ですね。これは日本で初めてBuchlaを導入した教育機関である東京藝術大学の '音響研究室' で、その発起人でもあった白砂昭一氏が同様の趣旨のことを述べておりました。
"僕は最初っから鍵盤の付いているものは忌み嫌ってた。最初から装置であるべきなんです。芸大で教える、アカデミックな世界で考えるシンセサイザーというのはね。なぜNHKがシンセサイザーを買わなかったかというと、要するにキーボード・ミュージックなんですよ。キーボードがあると、発想がもうキーボードになっちゃうんです。ブックラのよさはキーボードがないこと。タッチボードっていうのは、キーボード風に使うこともできるけど、あれは単なるスイッチ群なんです。芸大でモーグを入れたのは、電子音楽にあれを使おうというよりも、新しい楽器の研究としてなんです。ここは楽器の研究設備でもある。モーグは新しい電子楽器としての息吹を持っているから、そういうものは買って調べなきゃいけないってね。"
白砂氏によれば、Buchlaはモートン・サボトニックの作風に影響されてセリーの音楽が組み立てられやすいようにタッチボード・シーケンサーを備え、音の周波数の高さもフィート切り替えではなく20〜20000Hzまでポンと自由に切り替えられるものだと見ているそうですが、まさに鍵盤のふりした感圧センサー、電圧制御でジェネレートする 'トリガー・ミュージック' の操作性にこだわることでBuchlaは音楽の '成層圏' を突き抜けます。