2023年1月15日日曜日

EZドームハウスに篭りたい...

音楽、器楽演奏をやってる者にとって真っ先に欲しくなる究極のお買い物が誰にも邪魔されず篭ることの出来る音楽部屋、まさに '秘密基地' ともいうべき '自宅スタジオ' ではないでしょうか。もちろん、本格的なもの(Kawaiのナサールとか)は遮音、防音含めてとても素人が手を出せるものではなく、一方であのYamahaが140万くらいで販売する 'アビテックス' などは、その高価格は別にしてカラオケボックスのような狭さが気になります(遮音、防音は完璧ですけど)。





2020年の世界的なパンデミックを引き起こした新型コロナ感染症と並行して、社会がテレワークやワクチン接種の簡易施設への需要と呼応するように登場したEZドームハウス。この組み立て式の簡易ドーム施設はポリカーボネードよりも耐衝撃性と吸音性を誇る高密度ポリエチレンを強固なドーム構造として、14枚+1枚の床パネルとガルウィング式のドア、3つの開閉式窓を組み込んだ28枚のパネル、天窓の採光用ルーフをドライバー一本で組み上げていくものになります。最低2人いれば90分ほどで組み上げられるとされるEZドームハウスですが、実はこのドア周辺の組み上げには少々コツがいるようです。この動画で購入された方はそこのところで躓いたらしく、あれこれ格闘しながら結局は油圧ダンパーとドアが完全に機能せず手放してしまったとのこと。メーカーの方からは組み上げるコツとして、水平な場所の確保と円形の床パネルを敷いた後、表からお顔に見える部分のパネルで窓→窓→ハッチ扉パネルの順により仮締め(内側のクランプを画像の位置で挟み込むと最適)、これらを先に組んでしまえば後は全体の組み上げ後も問題なくドアは開閉するそうです。まあ、発売時からその辺の問題点のいくつかはユーザーから上がって来ていたようで、現在までに地味なマイナーチェンジを繰り返しながら販売しているようですね。ちなみにこのEZドームハウスは組み立て、撤去を簡便に行えることから建造物では無いということで特別な建築申請は必要ありません。(追記。2年近く展示されていたEZドームハウスの見学に行きましたが、屋外の陽に晒されていた影響かネジ締めの経年による緩みなのか、ドアが閉まらなくなってました...汗)。









基本価格は99万8,800円(税込・送料別)ということで、この2020年に購入された動画の方の86万9,000円(税込)に比べてかなり価格が高くなってしまいました...。というか、これはあくまで基本設定でして、この簡易施設をきちんと稼動させるにはいくつかのオプションを追加購入する必要があります。ちなみに配送料は9万円、ドーム内に敷く円形のカーペットが意外に高い4万6,200円(抗菌仕様は63,800円)ということで、100万円は軽く超えてしまいますね。さて、まずは室内の壁に取り付ける小さなテーブルというか棚が1枚8千250円で用意されております。そして、なくてはならないのが室内の電源と空調ということで、これも専用の電源コンセント付きパネルがドームと一括購入で4万6,200円、冷暖房エアコンの方は...う〜ん、こちらもドームとの一括購入の割引とはいえ30万2,500円の出費となりまする(高ぇ〜)。画像はさらにオプションの排熱用ベンチレーター(16万9,400円)と組み合わせたものですが、まあ、室内の換気はガルウィング式のドアや窓を開ければOKなのでとりあえず、エアコンだけは高くとも確保したいです。え〜っと、トータルで算段して送料込みで160万ちょっとか...(汗)。本音を言うと正直、この価格の半分くらいが適正価格として十分なクオリティーの製品ではないかな...と思っていたりする自分もいる(苦笑)。







そして、そのまま地面にドンと置いてしまうと雨の日に困ってしまうということで、やはりドーム本体を嵩上げして固定する土台も用意されております。これもパネルを組み合わせて敷くスマートパネル(1ピース2万2,440円)があるのですが、ここは少々お金をかけてきちんとした円形の土台基礎を築きたいですね。ただし、このような物置扱いのものはコンクリートの基礎に完全に固定されていると課税対象だが、ブロックの上にビスで留めてあるタイプは課税対象外とされているようです。ちなみに純正のスマートパネルの場合であれば、ドームからの電源コードをパネル下へきれいに這わせることが可能となります。雨対策としてはドア、窓に取り付けるバイザーも必要なのですが、これらは窓用で4千400円、玄関エントランス用で1万4,850円となりまする。あと、このドーム自体を土台とワイヤーで固定するスマートアンカー(6千380円)も欲しいですね。そしてLEDの室内灯(15万7,300円)もオプションとして用意されているのですが、別にこのドームで生活をするわけでも夜中に音出すわけでも無いので、室内にLED照明器具を一つ置くだけでも十分明るいですよ。ポリカーボネード製の天窓を遮光するサンバイザーは本体との付属セットになりました。このEZドームハウスは当初のワクチン接種用の簡易施設として求められたものから拡大して、最近は商業用の店舗設営、またはわたしのような趣味等の用途に応じてより幅広い開閉式ドアなど、多目的な用途に合わせたオプションを展開しているようです(改めて言うけどもうちょい価格帯を下げてくれ...)。



ドーム組み上げ後にやっておきたいのはやはり雨対策ということで、各パーツの合わせ目から雨の侵入を防ぐべくコーキング作業はやっておきたいです。ただし、この雨対策と合わせて本格的にやらなきゃいけないのが遮音と防音...。何せ中空構造の高密度ポリエチレンの壁がこの薄さなので、これは都市民としてはかなり徹底した防音対策をやらないと使い物になりませんね(汗)。というか、そもそも買う予定もなければその元手もない妄想のお買い物算段なお話なので(汗)、あれこれ思いを巡らせている内が楽しいのかもしれない...。ちなみに自分だけの '秘密基地' が手に入ったからと言って、独りドームへ篭り足下にこんな '壮大な浪費' をやってはいけません(苦笑)。












Hohner Symphonic 30N Combo Organ ②

ちなみに、去年から新たにわたしの 'ラテン好き' が高じて始めたトリニダード・トバゴの打楽器、スティールパン(テナーパン)の練習ルームとしても最適です。2本のマレットで叩けば真冬であろうとコロコロと南国のムード溢れるドラム缶の気持ち良さで、マイクにSennheiser MD441-Uを立てて収音しておりまする。ジャコ・パストリアス・グループのカリプソ風ファンキーな 'The Chicken' で叩くのはトリニダード・トバゴ出身のスティールパン奏者、オセロ・モリノーです。さらに以前から愛するブラジルの打楽器クイーカは、あのマイルス・デイビスのステージ後方でゴシゴシと擦りながらラッパに合わせて裏で 'フィルイン' してくるアイルト・モレイラの姿が印象的。バケツや樽に山羊や水牛などの皮を張り(近年はプラスティック打面もあり)、その真ん中へおっ立てた竹ひごを濡れた布(ウェットティッシュなども最適)でゴシゴシ擦ると例の "クック、フゴフゴ..." と鳴るブラジルの民俗楽器です。皮の打面をチューニングしながら指でミュートすることで音程を変えることも可能となり、人気のある大きさは大体8インチ、9.25インチ、10インチのもので大きいほど音量も大きくなります。バケツ側の素材は昔は樽を用いたこともありますが、その他ブリキ、真鍮、アルミ、擦る手元の見える透明のアクリル樹脂などあるものの、一般的なのはステンレスですね。わたしはブラジル産のArt Celsior製8インチのステンレス胴(山羊皮)を入手して、さらに日本で打楽器専用のピックアップを製作する工房Highleadsへ連絡。通常はPearlの8インチに加工済みの製品をラインナップとしているのですが、工房主宰のともだしんごさんに特別にCube Micをわたしのクイーカの胴へ穴を開けてXLR端子(オス)を加工、装着して頂きました。さらにリズムのガイドとしてAce Toneの古いアンプ内蔵リズムボックス、FR-20を導入し、これには外部入力がひとつあることからPigtronix Keymasterをプリアンプ的に挟み接続します。そしてチャカポコ、チャカポコ...クック、フゴフゴ...この場末感が沁みるなあ。あとはヴィンテージのコンボオルガンが欲しいなあ...例えば、ジャッキー・ミットゥーや60年代のGSバンドで使っていたようなチープなヤツ。狙っているのはアコーディオンやハーモニカでお馴染みドイツHohner製のSymphonic 30Nでして、個人的にはEDMで疲れた耳にオルガンとリズムボックスの世界が再びやって来ると思ってるんですよね(笑)。







もう、そのイメージは出来ているんですよ。リー・ペリーのザラザラしたThe Upsettersのような質感で、そこにスティールパンやクイーカ、Buchla Music Easelのシンセサイズしたパーカッションにわたしの電気ラッパが絡む無国籍ラテン・エレクトロ。メロディーやリフの方はムラトゥ・アスタトゥケに象徴されるエチオ・ジャズと共通する昭和の '懐メロ盆踊り感' を反映したもの...もちろん、あくまでインスパイアであってそのまま完コピしようって話じゃないですヨ(笑)。これ、ビザールで良いと思うんだけどなあ。そのBuchlaを代表するMusic Easelは、オリジナル機が1973年にわずか25台のみ製作された超レアもの。同時期のMoogやArp、EMSなどに比べてBuchlaの製作する 'モジュラーシンセ' は一部電子音響作家、大学などの教育機関を除いてほぼ市場で流通することのないものでした。この復活版もすでに 'ディスコン' となりましたが以下、'サウンド&レコーディングマガジン' 2015年4月号でエンジニア、渡部高士氏(W)とマニピュレーターの牛尾憲輔氏(U)による新生Buchla Music Easelのレビュー対談です。

- まずお2人には、Buchlaシンセのイメージからおうかがいしたいのですが。

W - 珍しい、高い、古い(笑)。僕は楽器屋で一回しか見たことがないんだよ。当時はパッチ・シンセを集め始めたころで、興味はあったんだけど、高過ぎて買えなかった。まあ、今も買えないんだけど(笑)。

U - BuchlaとSergeに関しては、普通のシンセとは話が違いますよね。

- あこがれのブランドという感じですか?。

U - そうですね。昨今はモジュラー・シンセがはやっていますが、EurorackからSynthesizer.comなどさまざまな規格がある中で、Buchlaは一貫して最高級です。

W - ほぼオーダーメイドだし、価格を下げなくても売れるんだろうね。今、これと同じ構成のシンセを作ろうとしたらもっと安く組めるとは思うけど、本機と似た構成のCwejman S1 Mk.2も結構いい値段するよね?。

- 実際に操作してみて、いかがでしたか?。

W - Sergeより簡単だよ。

U - 確かに、Sergeみたいにプリミティブなモジュールを使って "これをオシレータにしろ" ということはないです。でも、Music Easelは普通のアナログ・シンセとは考え方が違うので、動作に慣れるのが大変でした。まず、どのモジュールがどう結線されているのかが分からない・・。

W - そうだね。VCAが普通でないつながり方をしている。

U - 音源としては2基のオシレータを備えていて、通常のオシレータComplex OSCの信号がまずVCA/VCFが合体した2chのモジュールDual Lo Pass Gate(DLPG)に入るんですよね。その後段に2つ目のDLPGがあって、その入力を1つ目のDLPG、変調用のModulation OSC、外部オーディオ入力から選べるようになっている。

W - だから、そこでComplex OSCを選んでも、1つ目のDLPGが閉じていると、そもそも音が出ない・・でも、パッチ・コードで結線しなくてもできることを増やすためにこうした構成になっているわけで、いったん仕組みを理解してしまえば、理にかなっていると思ったな。Envelope Generator(EG)のスライダーの数値が普通と逆で、上に行くほど小さくなっていたのには、さすがにびっくりしたけど。

U - でも、こっちの方が正しかった。

- その "正しい" という理由は?。

W - Music EaselのEGはループできるから、オシレータのように使えるわけです。その際、僕らが慣れ親しんだエンヴェロープの操作だと、スライダーが下にあるときは、例えばアタックならタイムが速く、上に行くほど遅くなる。これをオシレータとして考えるとスライダーが上に行くほどピッチが遅くなってしまうよね?だからひっくり返した方がいいと言うか、そもそもそういうふうに使うものだった。時代が進むにつれてシンセに独立したオシレータが搭載されるようになり、エンヴェロープを発振させる考え方が無くなったわけ。

- 初期のシンセサイザーはエンヴェロープを発振させてオシレータにしていたのですか?。

W - そう。Sergeはもっとプリミティブだけどね。最近のシンセでも、Nord Nord Lead 3などはARエンヴェロープがループできますよ。シンセによってエンヴェロープ・セクションに 'Loop' という機能が付いているのは、そうした昔の名残なんでしょうね。Music Easelはエンヴェロープで波形も変えられるし、とても面白い。

- オシレータの音自体はいかがでしたか?。

W - とても音楽的な柔らかい音がして、良いと思いましたよ。

U - レンジはHigh/Lowで切り替えなければならないのですが、音が連続して変化してくのがいいですね。あとEMSのシンセのように "鍵盤弾かせません!" というオシレータではなくて、鍵盤楽器として作られているという印象でした。

W - EMSは '音を合成する機械' という感じ。その点Music Easelは '楽器' だよね。

U - 本機ではいきなりベース・ライン的な演奏ができましたが、同じようなことをEMSでやるのはすごく大変ですから。

W - 僕が使ったことのあるEMSは、メインテナンスのせいだと思うけど、スケールがズレていたり、そもそも音楽的な音は出なかったけどね。この復刻版は新品だからチューニングが合わせやすいし、音自体もすごく安定している。

U - 確かに、'Frequency' のスライダーには '440' を中心にAのオクターヴが記されていて、チューニングがやりやすいんですよ。

W - そもそも鍵盤にトランスポーズやアルペジエイターが付いていたりと、演奏することを念頭に作られている。

- オシレータのレンジ感は?。

W - 音が安定しているからベースも作れると思うよ。だけど、レゾナンスが無かったり、フィルターにCVインが無かったり、プロダクションでシンセ・ベース的な音色が欲しいときにまず手が伸びるタイプではないかな。

- リード的な音色ではいかがですか?。

W - いいんじゃないかな。特にFM変調をかけたときはすごくいい音だったよ。かかり方が柔らかいと言うか、音の暴れ方がいい案配だった。普通、フィルターを通さずにFMをかけると硬い音になるんだけど、Music Easelは柔らかい。

U - 僕はパーカッションを作るといいかなと思いました。

W - 'ポコポコ' した音は良かったよね。EGにホールドが付いているから、確かにパーカッションには向いている。でも、意外と何にでも使えるよ。

- 本機はオーディオは内部結線されていて、パッチングできるのはCVのみとなりますが、音作りの自由度と言う観点ではいかがですか?。

U - 信号の流れを理解すれば過不足無く使えますが、例えばオシレータをクロスさせることはできないし、万能なわけではないですね。

W - でも、他社の小型セミモジュラー・シンセより全然自由度は高いよ。'パッチ・シンセ' である意味がちゃんとある。

U - 確かに、変なことができそうですね。

W - Pulser/Sequencerのモジュールも入っているし、いろいろと遊べそうだよね。パッチングの色の分け方も分かりやすい。あとバナナ・ケーブルって便利だね!パッチング中に "あれどこだっけ?" と触診するような感じで、実際にプラグを挿さなくても音が確認できるのはすごく便利。ケーブルの上からスタックもできるし。

U - 渡部さんのスタジオにはRoland System 100Mがありますが、Music EaselでできることはSystem 100Mでも実現可能ですか?。

W - できると思う。System 100Mにスプリング・リヴァーブはついてないけどね。

- 復刻版の新機能としては、MIDI入力が追加されて、ほかのシーケンサーでMusic Easelをコントロールできるようになりました。

U - 僕が個人的に面白いと思ったのは、オプションのIProgram Cardをインストールすると、Apple iPadなどからWi-Fi経由でMusic Easelのプリセットを管理できるところ。ステージなどで使うには面白いと思います。

W - それはすごくいいアイデアだね。

- テスト中、お2人からは "これは入門機だね" という発言が聞こえましたが。

W - 独特のパラメータ名やしくみを理解してしまえば、決して難しいシンセではないという意味だよ。よく "モジュラー/セミモジュラー・シンセは難しそう" という人がいるけど、ケーブルのつなぎ方さえ分かってしまえば、完全に内部結線されているシンセより、自分が出したい音を作るのは簡単だからね。

U - 1つ目のDLPGにさえ気付けば、取りあえず音は出せますしね。

W - Music Easelで難しいのはオシレータとDLPGの関係とエンヴェロープだね。でも逆に言えば、特殊なのはそこだけとも言える。エンヴェロープが逆になっているのを発見したときは感動したな。シンセの歴史を見た気がしますよ。

U - 音作りの範囲はモノシンセに比べたら広いし、その領域がすごく独特です。

W - このシンセの対抗機種はArp OdysseyやOSC Oscarなどのモノシンセだよ。シーケンサーでSEっぽい表現もできるし、8ビット的な音も出せる。もう1つMIDIコンバータを用意すれば、2オシレータをパラで鳴らしてデュオフォニックになるし。

- ちなみにモジュラー・シンセというと、ノイズやSEというイメージが強かったりしますよね。

U - 確かに、モジュラー系の人はヒステリックな音色に触れがちですよね。

W - 僕はポップスの仕事でもガンガン使っていますよ。モジュラー・シンセはグシャグシャした音を作るものだと思っている人も多いようですが、アナログ・シンセの自由度が広いだけ。まあでも、オシレータに変調をかけていくと、ヒステリックな音にはなりがちだよね。

U - 変調を重ねていく方向にしか目が行かないということもあると思います。

W - でもモジュラー・シンセで本当に面白いのはオーディオの変調ではなくて、CVやトリガーをどうコントロールするかなんだよ。その意味でMusic Easelはちゃんとしている。

- 本機をどんな人に薦めますか?。

W - お金に糸目を付けず、ちょっと複雑なモノシンセが欲しい人(笑)。

U - 小さくてデスクの上に置けるのはいいと思います。例えばラップトップだけで作っている人が追加で導入するシンセとしてはどうですか?。

W - いろいろなパートを作れていいんじゃないかな。これ一台あれば演奏できるわけだから、その意味で楽器っぽいところが僕はいいと思ったな。鍵盤付きだし、音も安定している。

U - 確かにこれ一台で事足りる・・Music Easelが1stシンセで、"俺はこれで音作りを覚えた!" という人が出てきたら最高ですね(笑)。

W - で、ほかのシンセ触って "エンヴェロープが逆だよ!" って怒るという(笑)。






そんな 'シンセサイズ' ということで最近気になるシンセサイザーといえば、いわゆる 'グラニュラー・シンセシス' としてようやくハードウェアの専用機が1年前登場。このTastychips Electronics GR-1は 'グラニュラー' に特徴であるドローン、アンビエントなパッドやグリッチの生成に威力を発揮するポリフォニック・シンセサイザーです。1ヴォイスあたり128グレイン、16のヴォイスで合計2048のグレインを生成するもので、32ビットミキシングと高音質なHiFiステレオDACを採用して7インチのフルカラーディスプレイによりリアルタイムで波形を操作することが可能です。こりゃ誰でもオウテカやヴラディスラヴ・ディレイ、ミル・プラトー・レーベルなどのクリック・テクノな音像が手に入っちゃいますねえ。しかし、その '誰でも手に入れられる' ゆえにそこで何をやるべきか、明確なサウンド・デザインのセンスが求められるだろうなあ...。ただ、わたし含めてコレを欲しい人はかなりいるんじゃないでしょうか(笑)。







                     ↓



長年、メインで組んできたエフェクターボードを久々に変えた。わたしにとって唯一無二の多目的変態 'Robot Operated Digital Tape Machine' のThymeはまさに機器から日々挑発してくるモノとして、その50ページ近い取説とにらめっこしながら探求しております。以前は楽器レベルとラインレベルを 'Mono to Stereo' で変換するDr. Lake KP Adapterに 'インサート' する面倒くさいセッティングでしたが、このThymeはギターからラインレベルの機器まで幅広い入力に対応しているのです。ここではヴォリューム機能の 'Up/Down' を調整するNeotenicSound Pure Padを外して 'リマスタリング' アイテムのTerry Audio The White Rabbit Deluxeをデジタル機器の間に挟むバッファーとしてボード上の位置を変更、ボードの中心にそのままThymeを 'Mono to Stereo' で繋ぐことにしました。本当はThymeの直前でSurfy Industries Stereo Makerのような '疑似ステレオ' 機器からそのままステレオ出力にしようかと思いましたが、 ここは謎の 'Mono to Stereo' から再びモノラルの 'Stereo to Mono' 戻しというヘンテコなセッティングに変更。このThymeに合わせてStrymonのBrigadierを 'TRSステレオ入力' にすることで本機の優れたミキサー機能を活かすというのが目的です。そして、最終的にはRadial EngineeringのパッシヴDIであるJDIの 'Stereo to Mono Merge' 機能でモノラルに戻すのですがコレ、ちゃんと意味がありますヨ。そんな独特の 'Merge' 機能についてRadial JDIの取説ではこう述べております。

"独自のマージ機能をオンにするスイッチです。このスイッチを押しますと、InputジャックとThruジャックに入力した信号を内部でミックスしメインXLRコネクターから出力します。この機能を用いますと、ライヴでミキサーのチャンネル数が足りない場合等にチャンネル数を節約することができます。"

フツーにモノラルで繋ぐよりThymeとBrigadierをステレオでミックスさせていることで疑似っぽい空間性と原音の確保がちゃんと活きてきます!。まあ、ステレオ出力は楽しいんだけど毎度セッティングが面倒くさいのと左右に分離する分、音のミッドが薄くなってエッジに欠けるなど一長一短から発想を変えてみた...。強いて言えばパラレルでエフェクツを混ぜる 'パラレル・ミックス' のやり方に近いですかね?。このようなセッティングはどんな 'Mono to Stereo' の機器でも効果があるワケではなく、ミキサーのチャンネル不足を解消すべくInputとThruの信号をミックスするJDIの 'Merge' やStrymon製品で評価の高い 'アナログ・ドライ・ミックス' の恩恵でしょうね。あと、オヤイデ電気のパッチケーブルに特化したY型インサート・ケーブル 'Insertion 3398' のお陰で狭いスペースに配線が可能となりました。Strymon Brigadierの取説ではその誇らしいミキサー機能についてこう述べております。 

"入力信号(ギター信号等)はAD変換されず、アナログのままディレイ信号とミックスされます。アナログ信号パスは、内部で昇圧されたアナログ専用電源を用いた高級Hi Fiレベルのミキサー回路を採用、原音が損なわれることはありません。"






そしてもうひとつ、ワンポイントとしてはElectro-Harmonix 16 Second Digital Delayと後述するTerry Audio The White Rabbit Deluxeの間に簡易的なコンパクト・ミキサーを導入してみました。古くはパッシヴの4チャンネル・ミキサーであるDOD 240 Resistance Mixer、アクティヴの仕様ではNobels MIX-42Cに3チャンネル・ミキサーのRed Panda MixerやOBNEのSignal Blender、またすでに工房は閉めてしまいましたが、日本のRoot 20が受注製作していた2チャンネルのMini Mini Mixerを過去わたしもオーダーしたことがありました。ここでのチョイスはLand Devicesのパッシヴ仕様である3チャンネル・ミキサーMulti-Boxで、まあ、なんてことの無い3つの入力をモノ出力するだけのスプリッターです。本当はDOD 240みたいにパッシヴとはいえヴォリューム機能の付いたヤツが欲しかったのだけど、これが意外に探してみると無いのですヨ。Land Devicesといえばより本格的な各チャンネルのパン、楽器レベル/ラインレベル切り替え、2出力の4チャンネル・ミキサーも用意されているのでコレを使えば全て解決するのだけどいかんせんデカ過ぎる...(汗)。などと思っていたらコンパクトでわたしの希望通りの製品を発見!。米国の工房Stacks Fxから登場したバッファー/多目的セレクターのThe Wormはいわゆるクリーン・ブーストからセンド・リターンによるループ・ブレンダー、2入力のミキサー、2出力のスプリッターなどレベル調整込みで追い込める素晴らしいモノ。唯一惜しいのは円安とはいえ、ちと高いですね(汗)。










さて、ここでのコンパクト・ミキサー導入の意図としては、Flameというモジュラーシンセのモジュール製作も担うドイツの工房が古の 'Speak and Spell' を蘇らせた 'トーキング・シンセサイザー' MIDI-Talking-Synthを使いたいからです。米国のMagnevation LLCにより製造された古いアナログのSpeakjetチップを2つ装備し、そのままBastl InstrumentsのThymeからMIDIでコントロールしてランダムに発音させながらラッパと混ぜるためのミキサー導入でもあります。本機の操作としては2本のジョイスティックによる手動のSequencerモードとMIDIによるExpanderモードの2種があり、MIDIでトリガーすればピッチとスピードをコントロールして母音と子音によるリアルな '音声' を生成することが可能(ただし偏執的なMIDIプログラミングとの格闘が待っておりまする)。もう、何を意図させたいのか自分でも分かってないけど(苦笑)、きっかけは去年亡くなった現代音楽の作曲家にしてオノ・ヨーコの元旦那でもある一柳慧氏のブッ飛んだ作品 'Music for Living Space' を思い出したこと。同年に制作した 'Tokyo 1969' のシュトゥックハウゼン流変調コラージュなど含め、ここでは京大工学部が作製した初期コンピュータによる辿々しい ' スピーチ・シンセサイズ' のヴォイスとグレゴリアン・チャントの錯綜が面白い効果を上げておりまする。ちなみに本機のボードへのマウントはHeadway Music Audio EDB-2の上に '二層' で重ねる予定(笑)で、すでにコーナンで金具買ってきてマウント部だけは設置しました...後は肝心のブツだけ(涙)。


こちらがボード上の '設置予定地' です。Headway Music Audioの2チャンネル・プリアンプEDB-2の上に '二階建て' の無理やり増築(笑)でして、なぜか手許にClockworkの方は所有しているので仮に置いてみました。筐体のサイズは一緒なのでこんな感じ...。












え?その肝心のMIDI-Talking-Synthが見えないって?。以前、ヤフオクで終了間際に突然入札してきたヤツにかっさらわれてしまいました...クソ〜(悲)。こんなもん欲しがる奇特なヤツがオレ以外にいるのかよ(怒)。ま、競って熱くなり過ぎないのがオークションの鉄則だけど、ノンビリお風呂なんか入ってる場合じゃなかった(涙)。現在も緩く捜索中です。ちなみに当時、このシリーズの姉妹機としてMIDI-Loop-SequencerのEchometerとMIDI-CV & Gate-SequencerのClockworkの2種も用意されており、そのTalking Synthも現在は 'ユーロラック・モジュラー' のモジュール製作へとシフトしております。とりあえずMIDI-Talking-Synthだけでも限定で再発しないかな〜?(汗)。




そんなモジュール製作に移行したFlameでは現在、MÄANDERというフィルターバンクを搭載したウェーブテーブル・ポリフォニックシンセが唯一のグルーヴマシンとなります。その12チャンネルのフィルターバンクのほか、最大4小節までプログラム可能な合計15トラックのライヴ・ノートリピート・シーケンサー、4ヴォイスのウェイヴテーブル・オシレータを備えるなど、それこそギターと合わせてリアルタイムに 'デスクトップ・ライヴ' のお供としても最適でしょうね。









ちなみに、この手の効果をお手軽に再現出来るものとして 'トーキング・ワウ' 効果のペダルというのがいくつか製品化されております。古くは '擬似ギターシンセ' のEMS Synthi Hi-FliやLudwig Phase Ⅱ Synthesizerに象徴される '喋るような' フィルタリングで、その後によりコンパクトとなった 'エレハモ' のTalking PedalやColorsoundのDipthonizerなどが1970年代に登場しました。これは原初的なエフェクツとも言えるトークボックス(マウスワウ)とは別に、VCFにおけるバンドパス帯域を複合的に組み合わせることで 'A、I、E、O、U' といった母音のフォルマントを強調、まるで喋っているようなワウの効果を生成するものです。現在 'エレハモ' からはそのアップデート版のStereo Talking Machineや米国の工房SubdecayのVocawah、スウェーデンの工房Moody SoundsのWayなどが市場に用意されております。またベルギーからHarman Gillisさんの手がけるSherman Filterbankでも生成することが可能です。ただですねえ...残念ながら、管楽器のピックアップマイクからこの手のペダルに通しても思ったような効果にはならんのですヨ(汗)。う〜ん、ギターと違って倍音が多いからなのか?。









さて、わたしのエフェクターボードで絶対に欠かせないのがNeotenicSoundのダイナミクス系エフェクターMagical Force。いわゆる 'クリーンの音作り' というのをアンプやDI後のライン環境にまで幅広く '演出' させたものなのですヨ。まさに '縁の下の力持ち' 的アイテムというか、実際の楽器本来が持つ '鳴り' や 'コシ'、'旨味?' のようなものを 'アコースティック' だけでは得られないトーンとして生成します。本機はプリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのような '迫力増強系' エフェクター。とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれます。コレはわたしの '秘密兵器' でして、Headway Music Audioの2チャンネル・プリアンプEDB-2でピックアップマイク自身の補正後、本機と最終的な出力の200Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーントーン' はコイツがないと話になりません。ただし '魔法' とはいえ、かけ過ぎればコンプ特有の平べったい質感になってしまうのですが、あえてガッツリと潰しながらEdgeをナロウ気味に設定、Punchで張り出すような '質感生成' にしてみるのも面白いかも知れません。とりあえず、気になった方は各自いろいろと研究しながらコイツを体感してみて下さいませ。ちなみにMagical Forceの機能強化版としてベース用のDyna Forceと対になるかたちでアナウンスされながら頓挫してしまった 'JazzToneMaker' こと幻のTiny Structure、未だに気になっておりまする...。

一方、もう一つの隠れた '魔法' であるTerry Audio The White Rabbit Deluxe。こちらは1960年代のMcintoshのオーディオ・アンプがベースとなっており、いわゆるコンパクト・エフェクターにおいて 'ライン・アンプ' の発想から音作りをするものです。本機の解説を読むとわたしのもうひとつの '魔法' であるNeotenicSound Magical Forceと類似した効果を求めているようで、一切その表記のない3つのツマミは左から青い矢印と共にゲイン、赤い矢印の2つのツマミはメーカーによれば '回路の動作自体をコントロールし、シャッタースピードと絞り量で調整されるカメラの露出のように有機的に連動している' とのこと。そのMagical Force搭載のPunchとEdgeを思わせるパラメータのように聞こえますが、これら2つのツマミの設定をフットスイッチで切り替えることが出来ます。また、ゲインを上げていくとファズの如く歪んでくるのもまさにギター用に特化した 'ブースト的' 音作りと言って良く、その歪み方としてはJHS Pedals Colour Boxのコンソールにおける 'ファズっぽい' 感じと同様のものです。また前述しましたが、直前にパッシヴのコンパクト・ミキサーを繋いだことでバッファー的存在としても重宝しておりまする。前段にMagical Force、後段にこのWhite Rabbit Deluxeを配置することでサチュレートした 'ハイ上がり' のトーンと共に一枚覆っていたような膜がなくなり、音抜けの良くなる 'マスタリングツール' のような位置にある機器ですね。もう、何度も口酸っぱくして書きまくってますけど(笑)、管楽器の 'アンプリファイ' でアンプやPAを用いる環境において、その 'サチュレーション' や 'クランチ' の倍音含めた管楽器の 'クリーントーン' を作ること。それはピックアップ・マイクからの '生音' の忠実な収音、再生を目指すより、あくまで電気的に増幅した際に映える '生音を作る' こと、自分にとってのフラットである管楽器の音を追求することに主眼を置くべき、と考えております。









Hatena ? Active Spice ②

そんな '音場補正' に特化したMagical Forceの源流ともいうべきプリアンプとして、後述するエレアコ用2チャンネル・プリアンプSpiceCubeにも搭載されている '緑色の小箱' でおなじみActive Spice。2000年代初めのヴィンテージ・エフェクター再評価以後、いわゆる 'ブティック・ペダル' と呼ばれた個人によるペダル製作の工房が全国で勃興します。'Hatena ?' というブランドを展開したEffectronics Engineeringもその黎明期を象徴する工房で、特にActive Spiceはベーシストを中心にヒットしました。唯一動画としてUPされているThe Spiceはその最終進化形であり、すでに廃盤ではありますがダイナミクスのコントロールと '質感生成' で威力を発揮してくれます。後継機のMagical Forceも独特でしたがこのThe Spiceのパラメータも全体を調整するVolumeの他はかなり異色で、音圧を調整するSensitivity、Gainは歪み量ではなく音の抜けや輪郭の調整、Colorはコンプ感とEQ感が連動し、ツマミを上げて行くほどそのコンプ感を解除すると共にトレブリーなトーンとなる。さらにブースト機能とEQ感を強調するようなSolo !、そしてTightスイッチはその名の通り締まったトーンとなり、On/Offスイッチはエフェクトの効果ではなくSolo !のOn/Offとのことで基本的にバッファー的接続となります。ちなみに画像左側のものは初期のプロトタイプであり、Level、Wild !、Toneの3つのツマミという仕様でDC9Vのほか、9V電池ホルダーが基板裏側に内蔵?されるように装着しているのが面白いですね。ToneはそのままEQ的機能ですがこのWild !というツマミ1つを回すことでSensitivityとGainの効果を担っており、この後の製品版よりサチュレーション的飽和感の '荒さ' がいかにも初期モノっぽい。まだ南船場で工房を構える前の自宅で製作していた頃のもので、この時期の作業はエッチング液に浸した基板から感光幕を除去すべく玄関前?で干していたブログ記事を覚えております(笑)。Acitive Spiceはその 'クリーンの音を作り込む' という他にないコンセプトで今に至る '国産ハンドメイド・エフェクター' の嚆矢となり、さらに 'プリアンプ感' の強調した派生型Spice Landを始め、2008年と2009年の最初の限定版から2011年、2012年と限定カラー版(2011年版はチューナー出力増設済み)なども登場しながら現在でも中古市場を中心にその古びないコンセプトは健在なり。そして、いよいよえふぇくたぁ工房20周年を記念して 'Hatena ? by NeotenicSound' の名であの '緑色の小箱' が蘇ります!。






単なるエンハンサーやコンプレッサーではない、というピックアップアップ・マイクからの '質感生成' を向上させるのに適したペダルが数多市場へと投入されている昨今、その原点ともいうべき '忘れられたモノたち' による温故知新はバカにできません。過去、この手の地味な '音質補正' というか、ある時代の価値観として広まった解像度を上げる効果で '栄枯盛衰' を体現するエキサイターというものがありました。そもそもこの名称はAphexという会社により製品化された商品名の 'Aural Exciter' であり、続くBBEからは 'Sonic Maximizer' など独自の技術で商品化された後、一般的には 'エンハンサー' というカテゴリーで他社が続々と追随します。共通するのは各社それぞれの回路により 'スパイス' 的に高域成分を原音へ混ぜるというもので、その混ぜ方にどこか '化学調味料' 的不自然なギラ付きがあること含め、今や 'DAW' のプラグインにオーディオやTVの音響効果に備えられた 'EQ的処理' の大半で耳にするのみです。1980年代にはPearl TH-20 Thrillerやラック中心のBBEから珍しいペダル版のModel 601 Stinger、そしてBossのEH-2 EnhancerやDODからFX85 Harmonic Enhancer、そして同社の 'Psycho Acoustic Processor' ことFX87 Edgeというワンノブのヤツなど、いかにも 'ハイファイ' 志向の時代を象徴する製品が市場に用意されておりました。まさに原音重視のエフェクターが跋扈する現代では完全に '過去の遺物' と化しておりますけど、実はEQのセッティングなどであれこれ悩んでいる方にはコイツを 'スパイス' 的に振りかけてやれば解決する場合も多いのです。何かエキサイターの解説って 'ドーピング' でも勧めているようなネガティヴなものが多いですね(苦笑)。ここではそんな国産エキサイターとして初期に登場したTokai TXC-1 Exciterをチョイス。さらに高域のシャリシャリ感を落ち着かせるリミッター的効果として同社のTCO-1 Compressorを組み合わせてみます。ちょっとレアなのがこれら2つ共にツマミが最初期仕様のモノでして、これがツマミ上面が剥がれたり壊れやすいというトラブル多発により急遽次ロット品から別のツマミに変更されました。しかし、このTokaiの旧ソビエト製ペダルに共通する地味で質実剛健な筐体のデザインはカッコイイなあ。ちなみに20年ほど前に本家Aphexから3種のXciterが発売されておりましたけど、最近も国産モノで現行品のVocu Magic Tone RoomやWeed Beefなどが発売されているんですね。




数多ある 'エレハモ' のカタログの中でも最もレアなペダルのひとつである 'Mono to Stereo Exciter' ことAmbitron。本機を構成するショートディレイの 'ダブリング' と倍音の歪みによる音像の補正を応用したものとして、近年 'エレハモ' からThe Analogeizerなどで復活しておりまする。さて、このAmbitronを設計した名匠ハワード・デイビスによれば、きっかけはモノラルのレコードから '疑似ステレオ' を取り出すことにあったとのこと。

 "Ambitronを思いついたとき、わたしのコレクションのいくつかのレコードはモノラルのロックばかりでした。古いものでは45回転や78回転のものもあり、また当時のステレオ録音の中には実際の 'ステレオ・ミックス' がされていないものもありました。多くの場合、ミックスの '真ん中が抜けて' ('hole-in-the middle')おり、おそらくヴォーカルとベースを除いて楽器は真ん中もしくはその近くに無く、左右に振り分けられていました。モノラルのソースからリアルな疑似ステレオを生成して実際に部屋やスピーカーを変更することなく、より周囲の音響を合成したステレオ効果を強調する方法が必要でした。このようにして誕生したのがAmbitronです。"















ちなみにこの 'フット・レコーダー' ともいうべきループ・サンプラーは、そのプレイヤビリティーと簡易的に音楽を構成する 'スタジオ' の意識が統合されたものとして画期的な存在でした。それは2小節単位のフレイズをループして、上下2オクターヴ程度のピッチとテンポ可変、オーバーダブや逆再生ができるものとして、Electro-Harmonixは16 Second Digital Delayや2 Second Digital Delayなどを初めてペダルとして実現させました。1980年代に流行した 'メガミックス' の時代、E-Mu Emulatorなど高級な機器を所有出来ないクリエイターにとっては、この簡易的なループ・サンプラーで '初期デジタル' 最初の恩恵を受けていたことは特筆して良いでしょうね。わたしのループ・サンプラーの理解も未だこのElectro-Harmonix 16 Second Digital Delayで止まっておりまして(汗)、本機は16秒のサンプリング・タイムを持つループ・サンプラーとショート・ディレイ、モジュレーションの複合機で、小節数を設定してピッチとテンポ、逆再生でそれぞれ可変させることが出来ます。オリジナルのヴィンテージものは唯一無二なアプローチのギタリスト、Nels Clineの愛機として活躍しており、2004年のヴァージョンアップした '復刻版' では、外部シーケンサーやドラムマシンをスレーヴにしてMIDIクロックで同期させることも可能。ループ・サンプラーは各社それぞれに使い勝手があり、その設計思想のクセを体得できるか否かで同種製品の評価は大きく異なりますね。また、このレアな逸品に惚れ込んでしまったのが南米ウルグアイからモジュラーシンセのモジュール中心に手がける工房のManeco Labsであり、まずはSweet 16 Digital Delayなどでそのクローンとしての精度を高めながら決定打としての16 Second Digital Delayがついに登場。またネルス・クラインと並び、本機ヴィンテージの熱狂的な愛好者であり現在Line 6のDL4 Delay Modelerを使用するギタリスト、ビル・フリゼール(F)によるインタビューをどーぞ。

- あなたはご自身のキャリア初期においてElectro-Harmonix 16 Second Digital Delayを多くの楽曲に使用していて、このルーパーの代名詞的な存在としても広く知られています。その前は何か違うデバイスを使っていたのでしょうか?。

F - 私が初めて使ったディレイは確かカセットに録音するタイプのUni-Voxテープエコーで、貧乏なミュージシャン向けのRoland Space Echoみたいなものでした。それがダメになってしまったので、次に手に入れたのはUFOみたいな形をしたBossのDM-1ディレイマシン・ペダルで、その後は巨大なラックマウント型のヤマハのアナログ・ディレイも使いました。でも、どれもルーピング出来るものではありませんでした。

- 16 Second Digital Delayにめぐり合ったきっかけは何だったのでしょうか?。

F - 生前親しかったロバート・クワインと私は、よくクレイジーなジャム・セッションをしていました。16 Second Digital Delayが最初に発売された時に彼がそれを購入して私に見せてくれたんですが、試しに使わせてもらって即トリコになってしまいました。とにかく夢中になりましたよ。自分のそれまでの人生、ずっとその登場を待ち焦がれていたような感覚に陥りました。

- 何がそんなに特別だったのでしょうか?。

F - ひとつには、何か録音した後、ループ再生の速度を変更する方法が2つあったことです。一方のコントロールは、再生スピードを徐々に変更し、ピッチを少しずつ上げたり下げたりすることができました。もう一方のコントロールは、まるで異なる間隔を空けた複数のテープヘッドがあるかのようにスピードを変更出来て、1から2、2から4、4から8といった具合にある種数値ベースで細分化してスピードをコントロールすることができました。このコントロール機能により、本当に面白いエフェクトを生み出すことが出来ました。録音したループのスピードとピッチを変更してからその録音にディレイを追加したり、元のピッチで何かオーバーダブしてそれをループさせてスピードを変更したり、逆再生したりすることで変化を付けていくと無限にループすることが出来ました。すべて同時に起こっているまったく異なるサウンドの数々を、すべてレイヤーさせることが出来るわけです。予想していたこととかけ離れたことが起きたりする、この種のランダムなサプライズ要素には中毒性があると思います。

- そのようなランダム性に魅了される理由はなんでしょうか?。

F - 私にとって音楽とは常に、自分が理解出来るものと出来ないものや、自分がすでに知っているものと未知のものとの狭間にある部分を大事にすることです。どんなことが起こるか見当もつかないゾーンに入るというリスクを受け入れたときに、最もインスピレーションを得られます。例えば、8歳の少年が何かを初めて発見したときに「凄い!これって最高!」って興奮を覚えるのと同じで、私もそんな新たな発見が大好きで、ランダム性はそういった発見を可能にしてくれます。昔はサウンドを構成しメロディーを作るといった作曲ツールとして使っていました。ギター用のツールという位置付けではなく、ペダルが徐々にひとつの楽器としての存在に変わっていきました。同時に、ちゃんと注意を払っていないと大失敗してしまうようなケースが存在することも確かです。例えば、リジェネレーションが危険値を自動的に超えないよう調節していないとアンプを破損させてしまう危険性があります。

- ではなぜ使うのをやめてしまったのですか?。

F - 答えは単純で、動かなくなってしまったからです。その後、新しいものを購入しましたがそれもまた故障してしまいました。かなり高額になり始めたときは、まだ販売しているものを見つけることはできたんですが...。以前ボストンにある楽器店に行った時は、1台100ドルのセールで山積みされていたんですがなぜそのとき全在庫を買い占めしなかったのか、それが人生最大の後悔のひとつです(笑)。その後、私はDigitech 8 Second Delayペダルを購入して長い間使っていましたが16 Second Digital Delayで出来ていた多くのことが出来ず、かなり妥協しなければなりませんでした。それにあのペダルはもの凄くノイズも多かったんです。DL4を手に入れた後も使い続けてはいましたが動かなくなってしまってからは、DL4が私のメインのディレイ&ルーピング・ペダルになりました。

-20年もの間Line 6 DL4を使い続けているのはなぜですか?。

F - 他のペダルも試したことはあるんですが結局、Line 6 DL4に戻ってしまいます。使い慣れているのも理由ですが、とにかく直感的に操作できるので何も考えずに使うことが出来るからです。16 Second Digital Delayと比較するとDL4にまったく不満がないとは言い切れませんが、逆に16 Second Digital Delayでは出来なかったこともいくつかあります。

- DL4を具体的にどのように使っているか教えて下さい。

F - 3種類のプリセットを保存出来るんですが、他にも違うディレイが数多く搭載されているのは分かっていてもその3種類だけで事足りることがほとんどです。プリセットの内の1つ目はLoResディレイを使ったベーシックなディレイで、トーンに太さを出したい時に使っています。2つ目のプリセットはReverseディレイを使っていて、何か逆再生させる時はいつもこれを使います。3つ目のプリセットは、Reverseディレイから始めてディレイのタイムを出来るだけ速くすると得られるリング・モジュレーション・タイプのエフェクトです。一般的にリング・モジュレーションはピッチが変更出来ますが、これはピッチが一定というのが普通と違う点です。それ以外は一般的なものとさほど変わりません。また時々、プリセットを選択してからプレイ中にディレイタイムやリジェネレーションなどを手で調節することもあります。ルーピングさせている最中でも他のノブを使ってベーシックなディレイを書けられますし、演奏しながらループにちょっと風変わりなサウンドを追加することが出来ます。こんなことが出来るなんてクールでしょう?。フットスイッチは足下だけどでもノブは手許にあって、演奏中屈まず調節が出来たらどんなに楽だろうって思います。ルーパーを使って特に自分がソロでプレイする時によく使うのは、どのコードにも含まれる複数のノート、またはノート単体を使ったりしながら曲全体を通して使えるシンプルなリズム、またはメロディーのパターンを見つけてそれに合わせて弾くことです。

- DL4を使ってランダム性やサプライズの要素は得られますか?。

F - はい。特定のリズムなどではなく、ランダムなノートやサウンドをループにキャプチャーして、これらノートやサウンドのピッチを1オクターヴ下げたり、録音する時にディレイが1/2スピードになっていれば1オクターヴ上げます。ループを逆再生したり、ピッチを変えてから逆再生したりもします。インスピレーションを得られるようなテクスチャーを持つサウンドを作るためにこういった使い方をします。ループを最初はオフにしておき、曲の後半でオンにするとそのループをとてもミステリアスに曲の中に融合させることが出来ます。これだけ長年使っていても未だにDL4の新たな使い方を発見することがあります。一緒にプレイしたことがあるメアリー・ハルヴァーソンもDL4を愛用しています。彼女は大抵エクスプレッション・ペダルと一緒に使っているんですが、私が今まで試したこともないような面白い使い方を知っています。初めて彼女がパフォーマンスするのを見た時、DL4を使っているとはまったく気付かないくらい独創的な使い方をしていましたよ。


そしてチェコの工房、Bastl Instrumentsのフラッグシップ機として君臨してきたThymeは近年のコロナ禍と戦争による半導体不足の煽りを受けて早々に 'ディスコン' となってしまいました(涙)。ああ、こういう '変態の発想' がまた人知れず時代の彼方に消えていってしまうかと思うとやり切れないなあ。ちなみにわたしの足下には、このTyhmeにMu-Tronの名機Octave DividerのクローンであるSalvation Mods Vividerなど2つもチェコ製品が置いてあります(笑)。とりあえずご新規さんがこの面白さを体感出来ないのは残念ですけど、本機の真ん中に整然と並ぶDelayセクション3つのツマミCoarse、Fine、Spacingをテープの 'バリピッチ' の如く操作してループ・サンプラーからTape SpeedとFeedback、Filterで変調させながらフレイズを破壊・・これで電気ラッパはもちろん、取るに足らない具体音の 'サンプル' ですら新たなイメージで若返りますヨ。そしてもうひとつのRobotセクションではFM変調の如く金属質なトーンへと変調し、それを真下にズラッと並ぶ6つの波形とエンヴェロープ、外部CVやMIDIからの操作と同期・・もちろんこれらのサウンドを8つのプリセットとして保存と、ここでは説明しきれないほどの機能満載。ホントは16 Second Digital DelayとMIDIクロックで同期させたいのだけど、残念ながらMIDI端子が隠れてしまって繋げられません(涙)。とにかく本機はやることいっぱいあって(苦笑)、各ボタンやツマミに複数パラメータが割り当てられることからその '同時押し'、'長押し' といったマルチに付きものの大嫌いな操作満載で大変・・ではあるのだけど、大事なのは機能を覚えることじゃなくコレで '何をやるのか?' ってこと。












ピエゾ式の 'マウスピース・ピックアップ' からグーズネック式マイクの間にもうひとつ、ピックアップ・メーカーの老舗Barcus-berryから一風変わった製品が登場したことはあまり知られておりません。それはトランペットのベルのリム縁にネジ留めで挟み込み、一見ピエゾ式に見えますが電池駆動による簡易型の 'エレクトレット・コンデンサー' 式でベルからの振動と倍音を収音します。1981年に6年もの沈黙を経て復活したマイルス・デイビスのステージで星と月の彫刻の施された黒いMartin Committeeには、それまでGiardinelliのマウスピースへ開けられていた穴に蓋がされる代わりにこの '挟み込む' ピックアップがワイヤレス黎明期と共に装着されたことから注目を浴びました。デイビス使用のものは、かなりの開発費をかけてニューヨークにあったKen Schaeffer Group Inc.という会社が手がけたもの。正確には 'Schaeffer-Vega Wireless System' というもので当時、デイビスのロード・マネージャーであったクリス・マーフィーによれば「あれは同社が作ったトランペット用の第一号システムで6000ドル(当時のレートで100万ほど)はかかった」とのこと。それからしがなくしてBarcus-berryからよりリーズナブルな価格帯で用意されたものがこの同種品。その名も 'Electret Mic System for Brass' と題した本品は発売時期により2つの型番があり当初はModel 1574、後にModel 5300へと変更されました。また、付属の腰に装着するバッテリーパックも9V電池で駆動するModel 1586 Power Supplyのほか3Vのリチウムボタン電池による小型のもの、その後RCA端子の入力部と共に 'Timbre' と 'Level' の2つのツマミの仕様に変更されて最終的には 'Buffer/Preamp EQ' のModel 3000Aが付属となりました。このプラスティック製のネジでベルのリム縁に装着する独特な形状のピックアップですがオープンはもちろん、ミュートによる出音もちゃんと収音してくれますヨ。そんなデイビスのピックアップこれ以降、晩年のステージでお馴染みあの '傘の柄' のようなワイヤレスマイクへと改良を重ねていったようですね。




俗に '荒っぽい仕様' でお馴染みBarcus-berryなんですが、こちらもトランペット本体にマウントする為のパーツが超強力でフレキシブルさの無いゴム付きクリップという難物に苦戦。とにかくクリップ部の着脱が硬すぎて確実に楽器を痛めてしまう為、何か代用になるものは無いか?と探してみたらuxcellのEPDMラバーライニングPクリップゴムという排水管用のパーツを発見!(笑)。いろんなサイズがある中からテキトーに直径8mmのものをチョイスしました。これをトランペットの第1スライド管部にマウントさせることで従来品の余計な 'ストレス' から解放されまする。というか、タイラップ、超硬いゴム付きクリップ、ベタに管体に貼り付けるベルクロなど、このメーカーはマウント部に対する楽器の '保護意識' が希薄過ぎるんだよな・・。ちなみに、このリードパイプへマウントする '中継コネクター' の仕様は初期にあったもので、その後はRCA端子へと仕様変更すると共にピックアップからパワーサプライ兼プリアンプ3000Aへとそのまま入力するかたちとなります。










ちなみにBarcus-berryといえばマウスピースや管体に穴を開けることを避けるユーザーに配慮して、単純にマウスピースに貼り付けてピックアップする簡易版のピエゾ・トランスデューサー式も販売しておりました。Model 1375とされた本製品はすでに1973年のフランク・ザッパのステージにおいてイアン・アンダーウッドが、そのバス・クラリネットのマウスピースにパテで貼り付けてエグいソロを展開しておりました(ネック部分には穴を開けた箇所が蓋をされている)。また、ジャコ・パストリアスのグループにも参加したボブ・ミンツァーがバス・クラリネットに装着したり、日本のフュージョン・バンドであるNative Sonの峰厚介がソプラノ・サックスで使用しております(ちなみにソプラノのネック部分を狙うElectro-VoiceのRE20も管楽器に最適のマイクです!愛用中)。また、オーボエやバスーンなどダブルリード楽器用にはModel 1378もラインナップ。そして、このようなBarcus-berryの荒っぽい '貼り付け型' の伝統は、このピエゾ以降のエレクトレット・コンデンサー型である木管楽器用C5200(C5600)でのサックス・ベル内へのベルクロ貼り付けによるマウントへと受け継がれます。しかし、なぜこの会社はここまで世の趨勢に逆らいながら独自の収音方式によるピックアップばかり製作するのだろうか?(苦笑)。そんな1960年代から長らく 'エレアコ市場' を掌握してきた老舗Barcus-berryは、あまりに旧来のピエゾや簡易 'エレクトレット・コンデンサー' のピックアップに固執する中で、それ以降のグーズネック式マイクとワイヤレス・システムの流行に乗り遅れてシェアを失って行ってしまったのは残念なり。









そんなBarcus-berryを代表する管楽器用ピックアップといえば穴を開けて接合する 'マウスピース・ピックアップ'。古くはランディ・ブレッカーがHammondのInnovex Condor RSMの付属品として用意されていたShure CA20B、弟のマイケルはC.G. Conn Multi-Viderの付属品を各々マウスピースやネックに装着しておりましたが、1980年のステージからランディはより小型なBarcus-berryの1374に切り替えております(お、ここでもElectro-Voice RE20が大活躍)。一方で時代はグッと駆け上がり、あのレッド・ホット・チリ・ペパーズのベーシスト、フリーが嗜むラッパのマウスピースにもその1374は装着され、一時はこんな調子で 'アンプリファイ' させておりました。













ここ最近はRyan Zoidisというサックス奏者がShadowからの同種ピックアップを用いてKorg X-911やSDD-3000 Pedalでのアプローチするなど、まだまだこの手のアプローチは健在なのが嬉しいですね。さて、この '貼り付け型ピックアップ' としては、かつて英国製ピックアップの老舗として有名なC-Tape DevelopementsのブランドC-Ducerから販売されていたSaxmanがありました。このメーカーが管楽器用ピックアップを考えるに当たって問題にしてきたのは、いわゆるマウスピースに穴を開けて収音する際に強調される 'カズー音' の回避にあったようです。Barcus-berryが最初に特許出願した設計図にも採用されておりましたが、それがどのような '不快音' であるのかはPiezoBarrelピックアップをカップ内に装着したこのトロンボーンの動画からも伺い知れるでしょう。もちろん、このパテで装着する貼り付け型も金属製ピックアップ本体とリードをリガチャーで収容するのにある程度の幅を開いて緩くするなどコツが必要です。そして、シンプルなヴォリューム機能を持つプリアンプSaxmanを介して接続するのはKen Stone Audioなる工房からのマルチエフェクツSRE-101が用意されておりました。オクターバーのOctave Select、いわゆるテープ・フランジングの効果を生成する 'Artificial Double Tracking' ことADT、そしてワウのエンヴェロープ・フィルターによるVCF Selectと、原音のOn/OffであるDirect Selectからその音作りが各々約束されております。う〜ん、管楽器の世界も奥が深い(笑)。















この 'マウスピース・ピックアップ' の製品で唯一 '金管楽器用' をラインナップするPiezoBarrel。スティーヴ・フランシスさんがひとりオーストラリアの工房で手作りするもので、現在の主力製品は木管楽器用 'P5' と 'P7' (最近、V1という緑色の新製品が登場しました)に金管楽器用 'P9' になります。ピックアップ本体底部にはメーカー名の刻印、全体の金や黒、青いアルマイト塗装が眩しいですね。さらに同梱するマウスピースが 'ショートシャンク' の中国製 '無印' やFaxx製となりサイズに1Cが追加。また付属するケーブルも金属製プラグとなり、ピックアップを着脱するアダプターがマウスピースのカーブに合わせた波形の加工が施されるなどグレードアップしております。このカーブ状に加工されたソケット部は大変ありがたく、以前は 'DIY' するに当たってマウスピースのシャンク部を平らに削り取っていた手間が不要になったこと。製品としては、ピックアップ本体を封入するフィルムケースをさらにデザインされたパッケージで包装し、PDFによる取扱説明書などを用意してきちんとした印象になりました。本機の開発に当たってはスティーヴさんによればバークリー音楽大学のDarren Barrett氏(最初の動画で黒縁メガネをかけた陽気なオッサンですが、素晴らしいジャズのラッパ吹き)とのテスト、助言を得てデザインしたとのこと。その中身について以下の回答を頂きました。

"The P9 is different internally and has alot of upper harmonics. The P6 (which was the old PiezoBarrel 'Brass') was based on the same design as the 'Wood' but with more upper harmonics and a lower resonant frequency so they do not sound the same."

なるほど〜。実際、以前の 'P6' と比較して高音域がバランス良く出ているなあと感じていたのですが、かなり金管楽器用としてチューニングしてきたことが分かります。一方で以前の 'P6' は木管楽器用との差異は無いとのこと。基本的にはピックアップ本体、ソケット加工済みのマウスピース、ケーブル、ピックアップ内蔵のゲイン調整の為のミニ・ドライバー、複数のソケットが同梱されて販売されております。Bachタイプのマウスピース・サイズは7C、5C、3C、1Cの4種がありますが、このPiezoBarrel 5Cの新旧比較画像からもお判りのように、'P9' 以降は通常タイプのほかショートシャンクのギャップを持った '無印' と 'Faxx製' のBachタイプも用意。そして以前の製品では、真っ直ぐに切削されたアダプターをマウスピースのシャンクを平らに削り取る手間を経て接合しておりましたが、この波形に加工されたアダプターをハンダで接合した方がその強度面でも圧倒的に有利です。ちなみに以前は不定期でMonetteタイプのものもラインナップしておりましたがスティーヴさん曰く、あの分厚い真鍮の切削加工が大変で止めてしまったとのこと(苦笑)。いやホント、金属の穴開け加工って地味に手間かかるんですヨ。

"Please note that if the pickup is upside down, moisture will flow into the pickup. This will cause problems with salt."

また、このピエゾ・ピックアップ使用の注意点として、ピックアップ本体をマウスピース下側に向けて装着すると唾液から分泌される塩分により結晶化、ピックアップ周りが白く粉を吹いたような状態となり音質に悪影響を及ぼします。あくまでこのピックアップ使用時は塩分が沈殿しないようにマウスピースに対して上、もしくは横側に向けて装着して下さいませ。





さて、このピエゾによる 'マウスピース・ピックアップ' 使用にあたって必須の唯一無二なアイテム、NeotenicSound AcoFlavor。ホント、こういうエフェクターって今まで無かったんじゃないでしょうか。というか、いわゆる ' エレアコ' のピックアップの持つクセ、機器間の 'インピーダンス・マッチング' がもたらす不均衡感に悩まされてきた者にとって、まさに喉から手が出るほど欲しかった機材がコレなんですヨ。そもそも本機は '1ノブ' のPiezoFitというプロトタイプからスタートしており、それをさらにLimitとFitの '2ノブ' で感度調整の機能を強化した製品版AcoFlavorへと仕上げ始めたのが2017年の暮れのこと。そのいくつかの意見を反映すべく微力ながらお手伝いをさせてもらったのですが、多分、多くの 'エレアコ楽器' のピックアップ自体が持つ仕様の違いからこちらは良いけどあちらはイマイチという感じで、細かな微調整を工房とやり取りしながら煮詰めて行きました。当初、送られてきたのはMaster、Fit共に10時以降回すと歪んでしまって(わたしの環境では)使えませんでした。何回かのやり取りの後、ようやく満足できるカタチに仕上がったのが今の製品版で、現在はLimit 9時、Master 1時、Fit 11時のセッティングにしてちょうど良いですね。ちなみに本機はプリアンプではなく、奏者が演奏時に感じるレスポンスの '暴れ' をピックアップのクセ含めて補正してくれるもの、と思って頂けると分かりやすいと思います。その出音以上に奏者が演奏から体感するフィードバックの点で本機の 'あると無し' じゃ大きく違い、管楽器でPiezoBarrelなどのマウスピース・ピックアップ使用の方は絶対に試して頂きたい逸品です。そう言えば以前、PiezoBarrel主宰のスティーヴさんに下手な英語で本機の 'プレゼン' 含めオススメしたのだけどプリアンプと勘違いしたのか、このピックアップはSSLコンソール(スタジオにあるでっかいミキサー)のEQやヘッドアンプを参考にした内蔵のGainツマミ調整だけでもそのまま使えるよ、ただAcoFlavorのデザインは良いね!という '評価' をもらってしまった(苦笑)。やはり言葉だけでは伝わらず、これは使ってみて初めてその '威力' が体感出来るものだと思うのですヨ。ちなみにPiezoBarrelピックアップにはミニ・ドライバーで調整するGainツマミがあるのですが、このAcoFlavor使用の場合はそのGainをフルにして本機のMasterでピックアップの調整を行います。そして2022年版では、一部パーツの変更と共に各アコースティック楽器に対する入力感度とより '生々しさ' の演出を見直した 'マイナーチェンジ' が行われました。2つ目の動画ではそれを新旧各々のヴァージョンで弾き比べているのですが、この音響演出で思い出されるのはベース用プリアンプとして用意されているDynaForce内蔵の 'Body' と 'Wood' という2つのツマミ。この '質感' に貢献する 'Divarius Circuit' から新たにフィードバックされたものが 'Ver.2' にも当てはまると想像するのだけど、しかし、あくまで従来の 'Ver.1' からそのまま触るツマミを変えず反映させたところにこのAcoFlavorの完成度の高さが伺えます。








そしてDI出力から 'XLR→TRS' の変換ケーブルを介して繋ぎ 'アンプリファイ' するのはアコースティック用のコンボアンプ、SWR Calofornia Blonde Ⅱ。200W12インチ一発の本機とキャビネットのBlonde on Blondeをスタックさせて愛用中でして、2チャンネル用意されたBass、Mid Range、Trebleの3バンドEQ、アンサンブル中での '音抜け' を意識した高域を操作する 'Aural Enhncer' とハイファイ・ツイーターを背面に用意、そしてミキサー機能の 'センド・リターン' とスプリング・リヴァーブを装備しております。現在は 'ピエゾ+ダイナミック・マイク' のミックスとしてそのまま入力しておりますが、ステレオで使用する場合は 'Stereo Input' にY型のインサート・ケーブルTRSフォンを 'Line Out' から外部モニターに出力して 'L-R' で鳴らすことが可能。またエフェクツの 'Send Return' もフル・ステレオに繋いでミックス出来るなど、実に至れり尽くせりな仕様となっております。そして、このアンプ最大の特徴がハイ・インピーダンスによるアンバランス入力のほか、'Low Z Balanced' のスイッチを入れることでDI出力からTRSフォンのバランス入力に対応すること!。この重宝する機能はCalifornia Blonde Ⅱにのみ備えられており、他社の 'エレアコアンプ' には無い便利機能でもあります。あ、そうそう、この初代機のみについての注意事項なんですけど、こちらにはいわゆる 'Speaker On/Off' スイッチがあります。コレ、必ず '電源On→スピーカーOn、スピーカーOff→電源Off' の順序で行なって下さい。先にスピーカーOnにして電源入れちゃうと耳を突き刺すほどの 'バチッ!' という大きなポップノイズを発してスピーカーを痛めます。正直、California Blonde Ⅱにある 'Muteスイッチ' ってこっちに必要なんじゃないの?と訝しんでしまう(謎)。さて、そんな重宝するCalifornia Blonde ⅡのTRSバランス入力は、他社のアンプにはない本機ならではの機能として取説ではこう述べております。

"ローインピーダンス仕様のギターのバランス出力を入力端子に接続するときは、このスイッチを押し下げてください。TRS端子による接続が必要なバランス接続では、最高のダイナミックレンジと低ノイスの環境が得られます。"



ちなみに、このSWRという会社の創業者Steve Rabe氏は元々Acoustic Control Corporationでアンプの設計に従事していた御仁。そのRabe氏がSWR退社直前に手がけていたアンプのひとつにこのアコースティック用アンプCalifornia Blondeがあり、これもAcoustic時代の設計思想を引き継いだものと言えるのかも知れません。ザ・ドアーズやフランク・ザッパ、ジャコ・パストリアスなどの使用で一斉を風靡したAcoustic Control Corporationのトランジスタアンプは、そのクリーンな出音からエディ・ハリスや駆け出しの頃のランディ・ブレッカー、そして御大マイルス・デイビスのステージ後方で壁の如く鎮座するように愛用されておりました。












ジャズのラッパ吹き、マーカス・ヒルが披露する 'サブトーン・テクニック' とその音色を個性とした日本を代表するラッパ吹き、類家心平さんが自身の愛用するRoy Lowlerのラッパを手始めにしてBenchmark、AR Resonance、Martin、Monette、Mandala(サブのVan Laar Oiramを吹かないのは惜しい)といった豪華な試奏動画をどーぞ。類家さんといったら、あの左頬が大きく膨らむ 'ガレスピーズ・パウチーズ' と共に枯れたサブトーンがトレードマークですよね。そして類家さんによるMonetteの感想というか、ヘヴィ系ラッパ共通のニュアンスの問題ってよく分かりますねえ。あのミッドにミチッとした音像の崩れないピッチの安定感と高音域にスラーで吹き上がっていく時の幅の狭さ..。最高峰ということでトップ・プレイヤーが一度は手にして、その '離職率' (笑)の高さも一定数いる好き嫌いの激しい楽器でもありまする。さあ、休日にドームハウスへと篭る妄想の準備はOK!。そのガルウィングの扉を閉めたらアンプの電源を入れて床に機材撒き散らし、ああでもない、こーでもないとあれこれ繋ぎ変えたりしながらラッパの 'アンプリファイ' で遊び倒しましょうか。そう、これぞまさに 'Music for Living Space' でございます。