2017年9月5日火曜日

'感電' と '実験' の狭間で・・

なんと海外でその名もずばり 'Horn-Fx' という、管楽器専門のエフェクターのサイトが誕生しました!各ジャンルのエフェクター製品に対するユーザー・レビューはもちろん、その手の愛好家が集まってお話しする 'Forum' などの掲示板もあり、意外にも地味に盛り上がっているんですねえ。まあ、コミュニケーションはすべて英語なんですが・・。









Horn-Fx

また、この 'Effects for The Horn Player' さんのように、管楽器専門でひとつずつエフェクター・レビューを動画で紹介していくYoutuberさんも現れておりまして、これらをきっかけにより興味を持ってくれるユーザーは増えるかもしれません。そして 'アンプリファイ' 最初の一歩に相応しいマルチ・エフェクター、Boss VE-20 Vocal Processor。このような管楽器の 'アンプリファイ' にやさしいアプローチは、もしかしたら今後、街の管楽器店に簡易PA一式とエフェクターが置かれることも夢じゃないのかも!?

しかしエレクトリック・ギターと違い、マイクやピックアップからの入力を効果的に活かすためのプリアンプやミキサー、DI、PAシステム一式といった '周辺機器' 含め、トライ&エラーでいろいろと吟味すれば、お金もかかり足元の機器群も大型かつ煩雑になってきてしまうのも 'アンプリファイ' な管楽器の宿命であります。それでも一昔前に比べれば、マルチ・エフェクターや安価で便利かつ小型なアイテムも登場し、案外とコンパクトにまとめようと思えば可能ではあるのですけど、ね。とにかく店頭で試すことができず、購入して自分の環境に持ち込んで初めてその評価が下される恐ろしい世界・・。散財には気を付けたいですが、トライ&エラーの中でいろいろと得られる知識もあります。



Sherman Filterbank 2

以前にクラブ・ジャズ的なスリーピース・バンドPhatの活動でその存在を知られ、現在はソロでquartz-headやrabitooほか、いくつかのユニットで活動するサックス奏者藤原大輔さん。1990年代後半にテクノ界隈で人気を博したフィルターSherman Filterbank 2(現在2台使い!)とその下に置くラック型ディレイKorg DL8000RのHold機能を駆使して、過激に発振するエレクトロニカ的スタイルを披露します。これはわたしも '初代機' を所有しているのですが、ほとんどオシレータのないモジュラーシンセといっていい '化け物' 的機器で、どんな音をブチ込んでもまったく予測不能なサウンドに変調してくれます(ちなみに動画途中の 'Intermission' は長く第2部は58:33〜スタートです)。





Dave Smith Instruments Mopho

Jonah Parzen-Johnsonなるバリトン奏者の足元。中低域でギザギザと倍音のたっぷり含んだ音色はこういうエフェクターとの相性も良いですねえ、うん。この人のチョイスはなかなか面白く、Moogerfoogerのギターシンセ型ジェネレーター、MF-107 Freq. BoxとDave Smith Instruments Mophoという、いわゆる卓上型アナログシンセの外部入力を利用して、内蔵のランダム・アルペジエイターを用いていること。もっと簡単にSubdecay ProteusやZ.Vex Super Seek Wahのようなペダルを使えば良いのに、わざわざ手製の 'エクスプレッション・ボックス' やエクスプレッション・ペダルをMF-107と連動させながら、シンセっぽいランダマイズに変調させようとするセンス、いやあ脱帽です!ちゃんとこれらをサックスのトーンとミックスすべく、Bossのライン・セレクターLS-2にOne Controlのループ・ブレンダーMosquite Blenderを効果的に用いているところも参考になるので見逃さないように。











Electro-Harmonix 45000 Multi-Track Looping Recorder

'エレハモ' 動画でお馴染みGeoff Countrymanから音響的アプローチを展開するWarren Walkerと 'Strymon Ocean Sounds' なるE.ヘミングウェイをコンセプトとした動画、フランスで活動しているGuillaume Perretのそれぞれテナー奏者の足元。Geoffさんはペダルより古いConnのピエゾ・ピックアップの方に目を奪われてしまいますが、これまた '飛び道具' の定番であるリング・モジュレーターの扱い方をレクチャー。Warrenさんと 'Strymon Ocean Sounds' の動画はかなり 'ジャンク' 的実験っぽく無邪気にたくさんのペダルと戯れ、Guillaumeさんは '2017年版' の足元ということで、Electro-Harmonixのループ・サンプラー45000とJHS Pedals Colour Boxを中心にしたセットアップとどれも個性的で面白いですねえ。Warrenさんの足元にはいくつか知らないペダルも見受けられますが、Red PandaのRaster(ピッチ・シフター/ディレイ)とContext(リヴァーブ)はもちろん、ループ・サンプラーとしてLine 6 DL4 Delay Modelerでグリッチっぽい空間生成を行っているのは見事。ちなみに手元にあるのはCritter & GuitariのPocket Pianoですね。





Zorg Effects
Zorg Effects Blog

さて、フランスといえば日本未発売ながら管楽器奏者にとって無視できないブランドを見つけてしまいました。Zorg Effectsという名前で歪み系からコンプレッサー、オクターバーにエンヴェロープ・フィルター、トレモロといった製品を完成品からキット含めて網羅しております。HPのBlogのところを覗いてみれば、管楽器にマトを絞ったナイスな製品を2種準備しているとのこと。これは、Audio-Technica VP-01 Slick FlyやRadial Engineering Voco Loco同様のインサート付マイク・プリアンプでして、通常タイプの 'Just Blow !'、そして2系統のマイク入力を持ったミキサー仕様の 'Blow, Blow, Blow !' という、なかなか他社では製品化されない 'ニッチな' もの。しかし、すでに飽和状態にあるエフェクター業界の中でこのような多様化は今後どんどん進んでいくのではないでしょうか?管楽器による同社デモ動画として、ソプラノ・サックスにディストーションの 'Glorious Basstar' とラッパにオクターバーの 'Zorgtaver' の効果まで用意しているところを見ると結構本気のようで、いやあ、早く日本に入ってこないかな〜 'Coming Soon ! '。





The Little Jake 1
The Little Jake 2
TC Helicon Voice Live 2
Boomerang Ⅲ Phrase Sampler
Boomerang Musical Products

さて、この手のアイテムでYoutuber格好のエフェクターなのがループ・サンプラー。管楽器とのコラボで検索してみれば最も多く 'アンプリファイ' で登場するのがコレでしょう。そんな数ある中でシビれるのが 'バスーン界のマイケル・ブレッカー' ともいうべきPaul Hansonさんの超絶プレイ。現在はTC Heliconのマルチ・エフェクターVoice Live 2とループ・サンプラーのBoomerang Ⅲ Phrase Samplerを駆使して、バスーンにあった鈍重なイメージを吹き飛ばすインプロヴァイズを展開します。現在もいろいろと動画をアップしてはディレイの使い方などレクチャーしておりますが、ここではVoice Live 2のディレイとハーモニー、ループ・サンプラーでじっくりと構築していくスタイルをご開陳。ちなみにHansonさんがバスーンの細いマウスピースに穴を開けて接合しているのは、The Little Jakeというハンドメイドのピエゾ・ピックアップ。



TC Helicon Voice Live Touch 2

ちなみにそのVoice Liveをヴォーカルに特化させたものとしてこちら、Voice Live Touch 2があります。ハーモニーを生成するインテリジェント・ピッチシフトとディレイ、リヴァーヴ、モジュレーション、ループ・サンプラーからラジオ・ヴォイスなど、マイクからの音声を正確に 'エフェクト' することが可能。また、ヴォーカル用だけに入力する声がもたらす 'シビランス' 補正のディエッサー、ゲート、コンプレッサーやEQはもちろん、'ジェンダー・エフェクト' として男声から女声への変調といった面白い機能もあり、管楽器のみならずヴォーカルとの兼用としてもお楽しみ下さいませ。



Electro-Harmonix Superego Synth Engine

大半のループ・サンプラーの基本はあくまでテンポに沿ってフレイズを小節単位で繰り返していくもの。そのようなリズム的アプローチではなく、音のサスティンの部分をHoldでオーバーダブしていくことで 'アンビエンス' の壁ともいうべき、分厚いアンサンブルを生み出してくれるのがElectro-Harmonix Superego Synth Engine。同社ではこの効果を 'Freeze' と称しておりますが、まさに固まったかの如くハーモニーのドローン(通奏低音)があなたのお供に!また、本機内にはインサート端子が備えられているので、ここにお好きなエフェクター(動画ではリング・モジュレーターを繋いでます)を入れることでさらに奇妙な音作りに挑むことも出来ますね。









Vox / King Ampliphonic
King Ampliphonic Pick-up
King Ampliphonic Pick-up 2
Gibson / Maestro Sound System for Woodwinds W2

ここで '温故知新' というべき、1965年のSelmer Varitoneをきっかけに開花した管楽器の 'アンプリファイ' なのですが、後発のConnやGibson / Maestroと並び有名なのが英国の名門ブランドVoxです。同じく傘下にあった管楽器の名門Kingとのコラボレーション 'Ampliphonic' は、ピックアップからエフェクター、アンプやPA一式に至るまで大々的に展開しました。こちらはその最高峰機であったStereo Multi Voice。この時代の何でも 'ファズっぽい' 感じのぶっといオクターヴ・トーンは最高ですね。そして、この時代のヒット作ともいうべきGibson製作の管楽器用エフェクター、Maestro Woodwindsは、よくeBayにも出品されているところに当時のヒットを物語っております。顔は怖いが、ザ・ブレッカー・ブラザーズの 'Some Skunk Funk' のフレイズを織り交ぜた素晴らしいデモ動画。そしてブリティッシュ・ジャズ・ロックの雄、イアン・カー率いるニュークリアスと 'デンマークのマイルス' ともいうべき、テリエ・リピダル・グループ参加時のパレ・ミッケルボルグのプログレッシヴなステージ。やはりこういうのは、保守的な米国のジャズ・シーンより 'プログレ' のバックグラウンドを持つヨーロッパの方が抵抗なくやってしまいますね。しかしミッケルボルグの独特な 'ギターシンセ' 風トーン、一体どんな機器で生成しているのだろう?







TAP Electronics Pick-up
Nalbantov Electronics
'Mad Rockers & Bloody Rockers'
Barcus-berry 1375 Piezo Transducer Pick-up

このような旧来の 'オクターバー' トーンは、未だ木管楽器用のマウスピース・ピックアップを開発するギリシャのTAP Electronics、ブルガリアのNalbantov Electronicsではクラリネットなどに需要があるようで、それぞれピックアップ内蔵や専用のオクターバーとして製作しております。しかし、Nalbantov ElectronicsのはBoss OC-2 Octaveそのままのデッドコピーという感じ。クラリネットの 'アンプリファイ' については、ロルフ&スティーヴのキューン兄弟による 'Mad Rockers & Bloody Rockers' の2枚からなるサイケデリックなアプローチや、フランク・ザッパ&ザ・マザーズの右腕、イアン・アンダーウッドのバス・クラリネットのアプローチが参考になりまする。











Eventide Mixing Link
Radial Engineering Voco-Loco
Audio-Technica VP-01 Slick Fly
Mission Engineering Expressionator

何でか、この手の分野はサックス奏者が積極的に頑張っている姿ばかり目に付きますけど、まずはBrandyn Phillipsさんのデジタル中心のスマートな足元。そしてカナダの電気ラッパ好き、Blair Yarrantonさんの足元が綺麗なボードと共に生まれ変わりました!音はDigitech WhammyとRadialのVoco Locoを導入した以外は従来と同じかな?ただ、人のセッティングにケチつけるわけではありませんが、このMXR Dyna Comp M102の圧縮感はラッパだとダイナミックレンジを狭め、音抜けが悪かった印象があるんですよね。MXRのCustom Shopが限定で発売したレアなIC 'CA3080' を搭載した初期型の復刻版、''76 Vintage Dyna Comp CSP-028' のナチュラルなコンプレッションの方がラッパ向きだと思いますヨ。続いて、すっかり '電気ラッパ向上' のYoutuberとしてお馴染みJohn Bescupさんの '足元' ならぬ '手元' の全景です。現在進行形でどんどんそのアイテムは変更、増殖して行っているようですが、こちらのペダル群はYoutuber活動初期のもの。しかし、これだけの '物量' にあってこの人が終始手を伸ばしているのは、Damage Controlの真空管マルチ・エフェクターGlass Nexusだったりします(笑)。ちなみにBrandynさんがAMTのエクスプレッション・ペダルと共に使用するコントローラー、Mission Engineering Expressionatorは非常に便利な優れもの。これは、1つのエクスプレッション・ペダルで3台のエフェクターのパラメータを操作できるもので、ここではEventide ModfactorとPitchfactorを個別に、または同時に切り替えて、5つまでのOn/Offを本体内にプログラムして呼び出すことが可能です。複数機のコントロールの為にわざわざエクスプレッション・ペダルを増やすことなく、これ一台でリアルタイムに操作できるため 'ライヴ派' 必携のアイテムですね(Amazonで買えますヨ)。







Moog Moogerfooger

ニルス・ペッター・モルヴェルのサウンドって、いわゆる 'エレクトリック・マイルス' 以降のラッパとエレクトロニカ的世界観においてひとつのロールモデルなんだと思います。それは、マイルス・デイビスの 'He Loved Him Madly' からジョン・ハッセルとECMがもたらした 'エキゾ' とアンビエンス、近藤等則さんの 'Blow The Earth' の水平的世界がそれぞれブレイクビーツに乗ったハイブリッドさのひとつの到達点というか。特に、ジョン・ハッセルから受けた影響は欧米から見た 'エキゾ' に対する眼差し含め、かなりモルヴェルは傾倒しているのではないでしょうか。そしてMoog博士の '置き土産' ともいうべき '元祖ローパス・フィルター' のMoogerfooger MF-101。実はモーグ博士がシンセサイザーの音色を構成する特許として取ったのは、この太さと切れ味に特徴のある梯子型4次ローパス・フィルター(LPF)なんですよね。少々大柄な筐体ですが、もし管楽器で良質なフィルターを探しているのならこのMoogerfooger、絶対に損はさせません!







この辺りの'エフェクト' というのは何も 'アンプリファイ' するものばかりではなく、例えばフリー・ジャズの奏者たちが探求する '特殊奏法' を応用して、そこから 'アンプリファイ' にフィードバックする発想の転換というのもあります。この分野で永らく金管楽器はその構造上、どうしても木管楽器の陰に隠れがちな '限界' があったのですが、アクセル・ドーナーがHoltonの 'ST-303 Firebird' トランペットを用いて行う多様なノイズの '採取' は(実際、怪しげなピックアップする加速度センサー?が取り付けられている)、いわゆる旧来のフリー・ジャズよりエレクトロニカ以降の 'グリッチ' と親和性が高いように思うのですがいかがでしょうか?それは、フリー・ジャズにあった 'マッチョイズム' 的パワーの応酬ではなく、まるで顕微鏡を覗き込み、微細な破片を採取する科学者のようなドーナーの姿からも垣間見えるのです。

DPA SC4060、SC4061、SC4062、SC4063

この項の締め括りは、やはり我らが '電気ラッパの師' である近藤等則さん。フリー・ジャズからそのキャリアをスタートして、人生そのままラッパの 'アンプリファイ' の探求に突き進んでしまった孤高の存在です。

"電気トランペットにしようとしたのは、1979年頃だったかな。ビル・ラズウェルたちと 'World Mad Music' ってバンドを作ったんだ。フレッド・フリス、ヘンリー・カイザー、ビル・ラズウェル、フレッド・マー、オレっていう、このメンツでね。あいつらは完全にフリー・ロックやろうってことで、ニューヨークでやり始めたらとにかくあいつらは音がデカい。ヘンリーもデカいギターアンプ鳴らしてるわ、フレッド・フリスもあんなヤツだし、ビルもこんなデカいベースアンプでブウゥン!って弾くし、フレッド・マーも元気だったからね、スクリッティ・ポリッティの前で。で、オレがどんなにトランペットをマイクにぶっ込んでも全然音が聴こえないんで頭にきて、「もうこれは電気だ」って次の日に40何丁目行ってピックアップ買ってきてブチ込んでやり始めたんだ。'必要は発明の母' っていう(笑)。"

"やり始めたら、そこから悩みの始まりでね。電気ラッパ用の機材なんて売ってないわけだから。ピックアップだけ売っていてね。だからどうやってチューニングするのか分からないし、えらい試行錯誤があったよ。すでにマイルスは70年代前半にそれをやってて、マイルスのその電気のやり方を参考にはしたけど、あれじゃ気に入らないからもうちょっとオレなりの、ってことをやりだすとね。"

そして電気のラッパの開発には "家一軒建つほどの金は遣ったね" とのことで、ええ、コンドーさんほどラッパで '感電' してしまった人を他には知りませんねえ。いやあ、今後も他者の追随を許さないほどのぶっ飛んだ音作り、期待しております。


2017年9月4日月曜日

創造する 'エフェクト' のプロセス

ここ近年のアナログ・エフェクターの復刻とデジタルによる 'アナログ・モデリング' の可能性、 'ユーロラック' サイズによるモジュラーシンセ再評価は、今やプラグインやソフトシンセをDAWでコントロールするのが当たり前だというのに、その根底には未だ20世紀末の '遺産' から何かを掴もうとする状況が続いております。







Pedals And Effects
Earthquaker Devices Organizer
Earthquaker Devices Pitch Bay
Electro-Harmonix Pitch Fork

しかし、エフェクターに関しては正直、もう新しい 'ジャンル' というか、何がしかを発奮するものが出にくくなってますねえ。エレクトロニカにおけるプラグインがもたらした 'グラニュラー・シンセシス' からエフェクターへのフィードバックとなった 'グリッチ/スタッター' 系くらいが最近、市場を賑わせていると言っていいでしょうか。この辺もここ数年、かなりの製品が市場にひしめき合っていて少々過剰気味。ただし、この分野においては日本は早くからアプローチしており、Masf Pedalsを皮切りにS3N、Butterfly Fx、Sunfish Audioといった大手ではない小さなガレージ工房がこぞって面白いものを市場に提供しているのは特筆して良いですね。まあ、それでも毎年洪水のように押し寄せる新製品には心躍らせているワケで(笑)、メキシコの旗が印象的な 'ペダル・ジャンキー' の 'Pedals And Effects' さんが取り上げる膨大なペダル群を見てもこの分野の '活況ぶり' はよく分かると思います。そして、7月の '真夏の蜃気楼: エコーの囁き' からの続編で、ここ最近の売り上げ好調な同社を反映して登場した新製品、Earthquaker Devicesの 'オルガン・トーン' を生成するOrganizerと Pitch Bay。このPitch Bayは以前に 'エレハモ' から現れたPitch Forkのライバル機なのですが、ココも従来のギタリストから管楽器奏者へと裾野を広げてきましたねえ。オクターバーほど単純ではなくピッチ・シフターほど仰々しくないという、なかなかに '欲しい' ユーザー層のツボを突いた製品だ。







Soviet Guitar Effects Online Store & Museum
U.S.S.R. Fuzz / Vibrato / Wah

そうそう、こういったコンパクト・エフェクターの過熱ぶりは、いよいよ西側自由主義陣営の向こう側、かつての旧共産圏の 'ペダル' たちへビザールな関心を向けることとなります。ここ最近、eBayなどでゾロゾロと怪しげなキリル文字による何ともレトロかつ無機質、どこか '学研の教材っぽい' デザイン・センスで鷲掴みする旧ソビエト製エフェクターが現れております。当然、西側のエフェクターと規格が違う為か、端子類などに独自のものを採用していて使いづらいのですが、しかし、そのチープかつレトロ・フューチャーな雰囲気はある意味とても新鮮!ファズワウからトレモロ、フェイザーやフランジャーにマルチ・エフェクターのようなものまで揃えられていることに驚きますけど、しかしこれらはかつて '国の所有物' として厳重に管理されていたワケですよね。何か、ロシアになってゴミとなった '不良債権' が巡り巡ってネットの競売に掛けられるという、時代の過酷な流れを感じますねえ。ちなみにかなりの珍品だからなのか、リンク先の日本の楽器店でもの凄い値段が付けられております・・。

さて、これはスタジオにおけるラックで積み上げたアウトボード機器類にも言えることでして、今や、そのほとんどは 'アナログ・モデリング' のプラグインでミックスダウンの処理するのが当然となってしまいました。一方、これらアウトボード機器類からスタジオでの高級なコンプレッサーの処理を、そのままギター用のコンパクト・エフェクターへフィードバックされる現象も起きております。ヴォーカルの処理などに威力を発揮するUrei 1176は、現在でもUniversal Audioにより生産されておりますが、Input、Output、Attack、Releaseの4つのツマミと4モードのRatioスイッチ(全部押しが有名ですね)で起こる極上の効果を、そのままギタリストやベーシストの足元に置くことで緻密なサウンドへと引き上げました。

俗に 'Urel系コンプ' の流れが現れたのは、それまで '潰す、圧縮する' のエフェクティヴなコンプレッサーに対し、より繊細なダイナミズムと音場の演出にプレイヤー自身でコントロールしたい、という欲求が強まったからだと思います。そういう意味では、このMagical Forceもその流れに棹さしており、これはどのような 'ジャンル' と呼ぶべきか、大阪で 'アンプに足りないツマミを補う' をコンセプトとしたエフェクターを製作する工房の '迫力増強系' エフェクター。プリアンプのようでもありエンハンサーのようでもありコンプレッサーのようでもある・・とにかく 'Punch' (音圧)と 'Edge' (輪郭)の2つのツマミを回すだけでグッと前へ押し出され、面白いくらいに音像を動かしてくれます。'Density' (密度)を回すと音の密度が高まり、コンプレスされた質感と共に散っていってしまう音の定位を真ん中へギュッと集めてくれる。コレ、わたしの '秘密兵器' でして、プリアンプの3バンドEQで控えめな補正をしている分、本機と最終的な出力の160Wコンボアンプの3バンドEQでバランスを取っております。本機の特徴は、DI後のラインにおける 'クリーンの音作り' を積極的に作り込めることにあり、おいしい帯域を引き出してくれる代わりにガラリとバランスも変えてしまうのでかけ過ぎ注意・・。単体のEQやコンプレッサーなどの組み合わせに対し、本機のツマミは出音の変化が手に取るように分かりやすいのが良いですね。ここでのツマミの設定はLevel (11時)、Punch (1時)、Edge (11時)、Density (9時)。ともかく、わたしのラッパにおける 'クリーン・トーン' はコイツがないと話になりません。ちなみに、より 'アコースティック' な楽器の持つ '鳴り' に特化したNeotenic Soundの新作プリアンプ、Pure Acousticというのもあります。本機の中央に位置する2つのツマミは、同じツマミを持つ同社のベース用プリアンプDyna Forceの説明によれば 'Divarius回路' というもので、楽器の '鳴り' というべき '音の重心' と '芯の定位'に関する部分をそれぞれ 'Body' と 'Wood' という2つのツマミに落とし込み、より 'アンプリファイ' な環境において 'アコースティック' の演出に長けているとのこと。これは試してみたい!



JHS Pedals Colour Box

このスタジオ・レコーディングにおけるアウトボードの技術の究極と言えるものが、永らく音響機器界の伝説的存在として語り継がれるRupert Neveのサウンドでしょう。特にNeveの手がけたミキシング・コンソールはその太い '質感' に定評があり、このコンソールをバラしてプリアンプ、EQなどを 'チャンネル・ストリップ' にするエンジニア必携のアイテムとなっております。この '質感' をコンパクト・エフェクター・サイズにしてしまったのが近年その名を聞くことの多いJHS PedalsのColour Box。構成はプリアンプ + EQといった感じながら、その可変具合はクリーンからそれこそファズっぽい歪みに至るまで加工することが可能で、動画でのヴォーカルのエフェクティヴな処理に驚かされます。なお入力はフォンとXLRの兼用なコンボ端子となっており、そのまま管楽器用マイクから入力するプリアンプにもなりますので是非ともお試しあれ。









Catalinbread Zero Point Flanger
Strymon Deco - Tape Saturation & Doubletracker
A/DA Flanger

そんなスタジオ・ワークの中でユニークなもののひとつが、ザ・ビートルズのサイケデリックな処理で有名となったADT(Artificial Double Tracking)。2台のオープンリール・テープ・デッキの録音用シンク・ヘッドから再生音とリプロ・ヘッド(再生ヘッド)からの音声を意図的にズラすことで、それぞれの位相差を利用した擬似ダブル・トラッキング生成、フランジング・マシーンの効果を生み出すことができます。当時、似たような効果としてはハモンド・オルガンにおけるレスリー・スピーカーの 'ドップラー効果' か、日本のHoneyがフェイザーに先駆けて開発したコーラス/ヴィブラート・ユニット、Vibra Chorus(Uni-Vibe)の電子的シミュレートに頼るほかありませんでした。しかし、このADTの効果は単体のフェイザーやフランジャーを用いたものとも一味違う、やはりスタジオにおけるアナログな操作で生成される独特なものでして、今までなかなかコンパクト・エフェクターとして納得のいくものはなかった。そんな中でCatalinbreadとStrymonはそれぞれアナログとDSPによる 'アナログ・モデリング' の違いはあっても、この特殊な効果に挑んだ稀有な一台と呼ぶに相応しいものでしょう。ちなみにエグめといえば、コンパクトで最も有名なのがA/DAのFlangerなんですけど、すでに2度の '復刻' もされているだけにデジマートなどで検索して頂ければ中古でズラッと出てきますので、これまた狙い目で御座います。







Musitronics Mu-Tron Bi-Phase
Prophecysound Systems Pi-Phase Mk.2 ①
Prophecysound Systems Pi-Phase Mk.2 ②
Mu-FX Phasor 2X + XP-2
Gerd Schulte Compact Phasing A
Mode Machines KRP-1 Krautrock Phaser

また、このようなモジュレーションによる音作りで1970年代に効果を発揮したのが、Musitronicsの 'デュアル・フェイザー' として君臨したMu-Tron Bi-Phase。この時代、ロックからファンク、レゲエやフュージョンのソロやカッティングには常にかかっていたフェイズ・サウンド。その中でもこの2台分のフェイズを組み込んだ大型フェイザーは、未だ市場ではプレミアが付いております。そんな需要を見越してか、2015年と今年にかけてMu-Tronを忠実に再現した2機種が登場しました。ひとつはオーストラリアのProphecysound Systemsからそのルックス含め忠実に再現、かつ小型化したPi-Phase Mk.2(なぜかYoutubeにまともな動画がひとつもない)。もうひとつは本家Mu-Tronを設計したマイク・ビーゲルによるブランド、Mu-FXから登場したPhasor 2X。こちらはBi-Phaseの 'デュアル・フェイザー' ではなく、同社のPhasor Ⅱを元にしているようですが、それでもMu-Tron直系のフェイズ・サウンドを堪能できます。そして、Bi-Phaseと同じく強烈なフェイズ・サウンドで時代を席巻したのがドイツ産Gerd Schulte Compact Phasing A。クラウス・シュルツェやディープ・パープルのリッチー・ブラックモアらが愛用したことで大変なプレミアものですね。このCompact Phasing AもMode Machinesからその名もずばり 'Krautrock Phaser' として生まれ変わりました。しかしその筐体はあまりにもデカイ・・。











Snazzy FX
Dwarfcraft Devices Happiness
Elta Music Devices

'揺れもの' といえばモジュレーション系以外のものではトレモロやヴィブラートなどがありますが、より多彩な音作りとしてCV(電圧制御)によるLFOがあります。この辺へのアプローチとして近年活発化している 'モジュラーシンセ' があり、これまでコンパクト・エフェクターを製作していた工房などもこぞって 'モジュール' を製作、新たな市場とユーザーに訴えかけようとしております。Malekko、WMD、4MS、Masf Pedals etc..、このDan Snazalleが主宰するガレージ工房、Snazzy FXもそんな参入組のひとつ。現在ではほとんど 'モジュール' へとラインナップが移行しているようですが、このDivine Hammerというウェイヴ・シェイパーはコンパクト・エフェクターの体裁を取りながらCVにより、モジュラーとの互換性でより凝った音作りを可能とします。またDwarfcraft Devices Happinessというエンヴェロープ・フィルターもそんなCVによる音作りを備えた一品で、ここではArturiaのアナログシンセとKorgのドラムマシンをHappinessのLFOで '同期'。しかし、コンパクト・エフェクターが '同期' のマスターになるなんて面白い。そして1990年代にギタリストやベーシスト、エンジニアなどから人気のあった英国のガレージ工房Lovetoneは、現在でもプレミアの付いた価格で取り引きされております。このString RingerはそんなLovetoneのリング・モジュレーターであるRing Stingerをデッドコピーしたマニアックな一台。しかし、Elta Musicなるロシアの工房のサイトを覗いてみれば、いやあ、ギターのみならずシンセサイザーと組み合わせていろいろ遊べる 'ガジェット' 満載で最高ですねえ。どこか日本の代理店とか取り扱わないかな?

ちなみに作曲家の故・富田勲氏はフェイザーを入手する以前、どうしてもレスリー・スピーカーの効果が欲しくなり、それを求めて奇妙な実験を始めたというエピソードがなかなかにゾクゾクします。

"レスリー・スピーカーというのがハモンド・オルガンに付いているでしょ。ただコードを押さえるだけで、うねるようなドップラー効果が起こる。ブラッド・スウェット&ティアーズとかレッド・ツェッペリンが散々使ったんですが、その回転スピーカーというのが日本ではなかなか手に入らなくてね。それにもの凄く高かった。それで「惑星」や「ダフニスとクロエ」で使った方法なんだけど、F(Fast)とS(Slow)というスピードが可変できる古いレコード・プレイヤーがウチにあったんです。その上にスピーカーを置いて、向こうに屏風を立てて回したらレスリーのいい感じがするんですよ。じゃあ、スピーカーにどうやって音を送るかってことで、1本はアースを使って直接台から送って、もう1本は天井からエナメル線を吊るしてそれで回したんです。このやり方だと、3分ぐらいでエナメル線はブチッて切れるんだけど、その間に仕事をしちゃうんですよ。このやり方はレスリーよりも効果があったと思いますよ。レスリーはあれ、回っているのは高音部だけだからね。"







Ludwig Phase Ⅱ Synthesizer
Marcello's Special Binson Shop
T-Rex Effects

今ならBluetoothのスピーカーで音を飛ばして試すことができますが、これは案外、電子的なシミュレートとは違う '天然のフェイズ' 効果を得られて面白いかもしれません。そして 'Moogシンセサイザー' の導入以前、ドラム・メーカーのLudwigが開発した初期の 'ギター・シンセサイザー' Phase Ⅱ Synthesizerも富田氏の音作りで重要なアイテムとなりました。

"あれは主に、スタジオに持っていって楽器と調整卓の間に挟んで奇妙な音を出していました。まあ、エフェクターのはしりですね。チャカポコも出来るし、ワウも出来るし。"

後にYMOのマニピュレーターとして名を馳せる松武秀樹氏も当時、富田氏に師事しており、サントラやCM音楽などの仕事の度に "ラデシン用意して" とよく要請されていたことから、いかに本機が '富田サウンド' を構成する大事なものであったかが分かります。しかしこのビザールな名機、後述するSherman Filterbankや 'エレハモ' のTalking Pedalのルーツ的機種といった感じで、そういえば富田氏、実は 'Moogシンセサイザー' を喋らせたかったのだとか。当時のモジュラーシンセでは、なかなかパ行以外のシビランスを再現させるのは難しかったそうですが、ここから 'ゴリウォーグのケークウォーク' に代表される俗に 'パピプペ親父' と呼ばれる音作りを披露、これが晩年の '初音ミク' を用いた作品に至ることを考えると感慨深いものがありますねえ。他には磁気ディスク式のエコーとして有名なBinson Echorecも '富田サウンド' の重要なアイテムで富田氏は以下のように語っております。

"Binsonは鉄製の円盤に鋼鉄線が巻いてあって、それを磁化して音を記録するという原理のものでした。消去ヘッドは、単に強力な磁石を使っているんです。支柱は鉄の太い軸で、その周りにグリスが塗ってあるんですが、回転が割といい加減なところが良かったんです。そのグリスはけっこうな粘着力があったので、微妙な回転ムラによっては周期的ではない、レスリーにも似た '揺らぎ' が生まれるんです。4つある再生ヘッドも、それぞれのヘッドで拾うピッチが微妙に違う。修理に出すと回転が正確になってしまうんで、そこには手を入れないようにしてもらっていました。2台使ってステレオにすると微妙なコーラス効果になって、さらにAKGのスプリング・リヴァーブをかけるのが僕のサウンドの特徴にもなっていましたね。当時、これは秘密のテクニックで取材でも言わなかった(笑)。Binsonは「惑星」の頃までは使っていましたね。"

わたしも 'ダブ作り' に熱中していた当時、トランジスタ仕様のBinson Echorec EC3を愛用しておりましたけど、とにかくキャリブレーションをしていないのか、もの凄い 'ワウフラッター' による回転ムラが生じて勝手にサイケデリックな効果となっておりました(笑)。さて、このEchorecはBinson社閉鎖後、同社で働いていたマルセロ・パトゥルノ氏が残されたパーツや工作機械の一部などを買い取り、現在のパーツと組み合わせた 'リビルド・モデル' の再生品として受注、少量生産でのみ購入できました(リンク先ではどれも50万ほどしますね)。しかし、カセットテープ式のテープ・エコー 'Replicator' を製作したT-Rexにより2017年、いよいよ正式復活します!





Tel-Ray / Morley RWV Rotating Wah
Tel-Ray / Morley EVO-1 Echo Volume
De Almond Model 800 Trem-Trol

さて、このような '超アナログ' ともいうべきレスリー・スピーカーの効果は、Tel-Ray / Morleyによる 'オイル缶' を用いた独特な構造の 'RWV Rotating Wah' とディレイの 'EVO-1 Echo Volume' という巨大なペダルに結実します。まあ、このMorleyのペダルというのは昔からどれも巨大な 'アメリカン・サイズ' なのですが、そのペダル前部に備えられた巨大な箱に秘密があり、オイルの入ったユニットを機械的に揺することでモジュレーションやエコーの遅れなどを生成するという、何ともアナログかつ手の込んだギミックで作動します。以前に 'トレモロで挑発する' でも取り上げたDe Almondの古いトレモロ・ペダルとよく似た構造と言えますね。







Sherman Filterbank 2
Filters Collection

このような '喋らせる' 効果をそのまま 'オシレータのないモジュラーシンセ' なフィルターで生成するものとしては、ベルギーでHerman Gillisさんによりひとり設計、組み立てを行い、現行機としてテクノ方面でヒットしたSherman Filterbank 2があります。ある意味 '賞味期限切れ' と言われるほどに使われまくったアナログ・フィルターではありますが、むしろ、発振させてシンセのキックとして乱用されたブーム過ぎ去りし後、じっくりと本機の多様なフィルタリングの能力と向き合ってみればまだまだ刺激を受けることでしょう。本機の特徴として、CVやMIDIのノートオンによりトリガーできるエンヴェロープ・フォロワーの独特な追従性があります。1990年代に興隆したループをメインとするサンプリング・ミュージックの手法は、そのままアナログのフィルターを '2ミックス・マスター' に突っ込む '質感' の生成からドラムマシンのキックをリアルタイムに変調するところまで広がり、音楽の構造とその聴き方に対するパラダイムシフトをもたらしたと言っても過言ではありません。それはこのFilterbank 2を始めとして、各社から単体のアナログ・フィルターが製品化されたことにも如実に現れております。









Electro-Harmonix Talking Pedal
Electro-Harmonix Stereo Talking Machine

さて、エフェクターと 'ヴォイス' の関係を探る上で、実はエフェクター黎明期から存在していた原始的なエフェクターがあります。通称 'マウスワウ'、正式にはトーク・ボックスとかトーキング・モジュレーターと呼ばれるものですね。その構造はギターやキーボードからの出力がホースを通して口に運ばれていきます。それを頭蓋骨で骨振動!させながら口腔内を開閉させることでフィルターの役割を果たし、それを別のマイクで収音して(無くても大丈夫ですが)ミックスすることであの独特な、まるで楽器が喋るようなサウンドが奏でられるのです。ギターよりはキーボードで定着したエフェクターでして、特に左手でかけるピッチベンダーと組み合わせることで独特の抑揚を生み出します。代表的なのはオハイオ・ファンクの雄、ザップのロジャー・トラウトマンなのですが、このtalkboxmaihemさんのカバーはかなりのファンキーなノリを体現していてグッド!しかし、これは吹奏が基本の管楽器では物理的にムリな効果なのですが(苦笑)、例えばラーサーン・ローランド・カークばりに2本、3本とサックスを咥えられる人は、思い切ってトーク・ボックスのホースをマウスピースと共に咥えて '腹話術的' な技術と共に挑んでみて下さいませ(笑)。いや〜、これはトランペットなどの金管楽器では不可能だわ。ちなみに、そんな実際に喋りながら演奏することは叶わないけど、擬似的に 'ヴォイス' 的フォルマントな効果をワウに特化させたものでElectro-Harmonix Talking Pedalがあります。そして、ヴォコーダーといえばあのマイケル・ジャクソンにもカバーされたYMOの 'Behind The Mask'。このような 'ヴォイス' とエフェクトの関係性は、例えばトランペットとプランジャーやワウワウ・ミュート、エレクトリック・ギターとトーク・ボックスからワウペダル、クラフトワークとYMOの時代になって流行したヴォコーダー、そしてピッチ・シフトの強制コレクトによるプラグイン、オートチューンを経てヴォーカロイドの '初音ミク' に至るまで綿々と追求されている特異な分野。そう、人間にとっての究極の理想は '人間' を模倣し、凌駕することなのではないでしょうか。







Irmin Schmidt's Alpha 77 Effects Unit.

エフェクター及びシンセサイザーの開花した1970年代、クラウト・ロックの雄として有名なCanのキーボーディスト、イルミン・シュミット考案の創作エフェクター・システム、Alpha 77も述べておきたいですね。Canといえば日本人ヒッピーとして活動初期のアナーキーなステージを一手に引き受けたダモ鈴木さんが有名ですけど、こちらはダモさん脱退後の、Canがサイケなプログレからニューウェイヴなスタイルへと変貌を遂げていた時期のもの。イルミン・シュミットが右手はFarfisa Organとエレピ、左手は黒い壁のようなモジュールを操作するのがそのAlpha 77でして、それを数年前にシュミットの自宅から埃を被っていたものを掘り起こしてきたジョノ・パドモア氏はこう述べます(上のリンク先にAlpha 77の写真と記事があります)。

"Alpha 77はCanがまだ頻繁にツアーをしていた頃に、イルミンがステージ上での使用を念頭に置いて考案したサウンド・プロセッサーで、いわばPAシステムの一部のような装置だった。基本的には複数のエフェクター/プロセッサーを1つの箱に詰め込んであり、リング・モジュレーター、テープ・ディレイ、スプリング・リヴァーブ、コーラス、ピッチ・シフター、ハイパス/ローパス・フィルター、レゾナント・フィルター、風変わりなサウンドの得られるピッチ・シフター/ハーモナイザーなどのサウンド処理ができるようになっていた。入出力は各2系統備わっていたが、XLR端子のオスとメスが通常と逆になっていて、最初は使い方に戸惑ったよ・・。基本的にはOn/Offスイッチの列と数個のロータリー・スイッチが組み込まれたミキサー・セクションを操作することで、オルガンとピアノのシグナル・バスにエフェクトをかけることができる仕組みになっていた。"

"シュミットは当時の市場に出回っていたシンセサイザーを嫌っていた為、オルガンとピアノを使い続けながら、シュトゥックハウゼンから学んだサウンド処理のテクニック、すなわちアコースティック楽器のサウンドをテープ・ディレイ、フィルター、リング・モジュレーションなどで大胆に加工するという手法を駆使して独自のサウンドを追求していったのさ。"



またシュミット本人もこう述べております。

"Alpha 77は自分のニーズを満たす為に考案したサウンド・プロセッサーだ。頭で思い付いたアイデアがすぐに音に変換できる装置が欲しかったのが始まりだよ・・。考案したのはわたしだが、実際に製作したのは医療機器などの高度な機器の開発を手掛けていた電子工学エンジニアだった。そのおかげで迅速なサウンド作りが出来るようになった。1970年代初頭のシンセサイザーは狙い通りのサウンドを得るために、時間をかけてノブやスイッチをいじり回さなければならなかったから、わたしはスイッチ1つでオルガンやピアノのサウンドを変更できる装置を切望していた。Alpha 77を使えば、オルガンやピアノにリング・モジュレーションをかけたりと、スイッチひとつで自在に音を変えることができた。そのおかげでCanのキーボード・サウンドは、他とは一味違う特別なものとなったんだ。"





本機の発想の元のひとつに、キング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップが発案した創作エフェクター・システム(そもそもはブライアン・イーノだと思うのですが)、Frippertronicsがあるのは間違いないでしょうね。長いテープ・ループの変調でそれこそシンセサイズと同等の 'エフェクト' を自在に得られるのですから。しかしこの1977年のライヴ、シュミット以上にベースのホルガー・シューカイが別個にベーシストを立てたその後ろで、怪しげな発信機からラジオ、受話器!や電子機器によるノイズ担当となっているのが笑えます。いやあ、さすがシュミット共々カールハインツ・シュトゥックハウゼンの門下生だっただけのことはあるなあ。上の動画ではイマイチそのサウンドの確認が取りにくいのですが、このAlpha 77もイルミン・シュミット監修などのかたちで、是非とも現在の市場に蘇って頂きたいですねえ。

2017年9月3日日曜日

マーチン・コミッティ

わたしのMartin Committeeもこれで4本目。ええ、マイルス・デイビスに憧れて使っているんですけど、何か?まあ、わたしに限らず世の 'Martin好き' の大半がそうだと思いますヨ。とかくジャズのラッパ吹きにとって神格化されているMartin。俗に 'ジャズ界のストラディヴァリウス' などの噂?も聞きますが、これはラッパのスタンダードな名機として君臨したBach Stradivarius(これ自体、ヴァイオリンの名機にちなんで名付けられたのだろうケド)に当て込んで言われたのだろうと思います。このMartin、とにかくバップ大好き!ってな人にとっては1930年代後半から1960年代初めにかけて製造された 'ヴィンテージ・コミッティ' のミディアムボアにこだわるワケで、ディジー・ガレスピー、マイルス・デイビス、ケニー・ドーハム、チェット・ベイカー、アート・ファーマー、ブルー・ミッチェル、リー・モーガンと錚々たる 'ジャズ・ジャアンツ' が一度は手にした名機。いわゆる 'マーチン・コミッティ' としてジャズメンの為のラッパ製作のアドバイザーにレオナルド・シルキー、エルデン・ベンジ、フォスター・レイノルズという御仁が召集されモダン・ジャズの全盛期に貢献、1961年にRoundtable of Music Craftsmen (RMC)に買収されることで最初の変化を経験します。その後、大手Wurlitzerの傘下にあった管楽器メーカーLebrancに権利を買われ、同じく傘下に収めていたHoltonの生産ラインを用いて1970年代からCommitteeの製造を2007年まで継続してきました。





いわゆる 'バッパー' たちご推薦のきっかけとなったのがディジー・ガレスピーでしょう。ユニークな45度にアップライトされたベルは、その昔、楽屋に遊びに来た知人のコメディアンがふざけてラッパを落っことしグニャっと曲がってしまったものを、ディズが試しに吹いてみたら見た目の面白さと意外にも良い鳴り!だったということで、Martinにオーダーで作らせたのが始まりだったとか。しかし、ディズは楽屋で洗っていたお気に入りのマウスピースを排水溝に流してしまい、急遽、近場の楽器店で見つけたAl Cassのマウスピースを吹いて以降、それをメインとしてしまうとか、急速な息のスピードを殺してしまうとの理由で、ラッパの '唾抜き' というべきウォーター・キーを外してしまうなど、いろいろと楽器にまつわる面白いエピソードのある人ですね。





こちらはウェストコースト・ジャズの寵児としてキラ星の如くデビューしたチェット・ベイカー。ベイカーにとってのMartinは間違いなくマイルス・デイビスの影響でしょう。本人曰く、オレはコイツをMartinの工場まで行って一本ずつ試し吹きしながら選んだんだ、信じられるかい?と言っているほどで、うん、クスリ意外でここまで真剣だったのはジャズとトランペットだったのでしょうね。しかし、あまりの麻薬癖が祟ってラッパは何度も質屋を行ったり来たりしながら、結局はパリで盗まれてしまうという結末を迎えてしまうのですが・・。その後チェットはSelmerのフリューゲルホーンを経て、Conn ConnstellationからBuescher Aristocrat、Bach Stradivariusへと吹き継いでいきます。





駆け出しだったビ・バップ時代末期にマイルス・デイビスとよく連んでいたアート・ファーマー。デイビスが麻薬癖により度々愛機Martin Committeeを質屋へ預けてしまうため、一時はファーマーがMartinを1日何ドルだかで借していたという始末。しかし、それもデイビスが質屋へ売り飛ばしてしまいやしないかと、常にデイビスの仕事の時は後にくっ付いて見張っていたというから面白い(笑)。クリフォード・ブラウンから大きな影響を受けながら、彼のスタイルの根底には、デイビス同様にダークトーンを基軸とした中低域のリリシズムがあると思います。それは、後にフリューゲルホーンを自らの 'メイン・ヴォイス' とすることからも明らかです。このジェリー・マリガン・カルテットへの参加は、そんなフリューゲルホーンへ切り替える直前の、ファーマーのトランペットによるプレイが聴ける貴重なもの。しかし、マリガンもチェット・ベイカーと連んでいた頃よりは相手としてやりやすかったりして(笑)。





アート・ブレイキーのザ・ジャズ・メッセンジャーズとファンキー・ジャズの時代にその人気を二分したザ・ホレイス・シルヴァー・クインテット。そこのフロントマンがジュニア・クックとこの 'いぶし銀'、ブルー・ミッチェル。クリフォード・ブラウンのスタイルを継承しながら、その雰囲気はどこかケニー・ドーハムとよく似た '渋いおっさん' ぶりを感じるんですよね。このグループが来日した時、当時駆け出しだった日野皓正さんと懇意になって、よく楽屋で一緒に練習していたとのこと。面白いエピソードのひとつとして、日野さんが速いパッセージを吹くとオオ、それどうやって吹いてんの?などと辿々しい指使いと共に真顔で聞いてきて、困ったなと思いながら本番のステージで観れば、パラパラパラと急速調で吹き上げてしまうようなお茶目な一面があったようです。そういえば、日野さん初期の代表的なバラッド、'Alone、Alone and Alone' をBlue Noteの自身の作品 'Down With It' で取り上げてくれて、1979年にデイヴ・リーブマンのグループでツアー中だった日野さんがミッチェル急逝の報を受けて、そのまま急遽ベルリンのホテルで彼の為のバラッド 'Blue Smiles' を書き上げたという、心温まるエピソードがあります。





マイルス・デイビスの先輩としてビ・バップ末期にはすでにスター的存在となりながら、動画にも登場するソニー・スティット同様に麻薬癖でそのキャリアをダメにしたハワードマギー。その強面な見た目は完全にギャングの親分といった感じで、何かジャズマンからそのまま役者に転身しても食えたのではないか?と思わせる迫力ですね。この人が1960年と61年にリリースした作品 'The Sharp Edge' と 'Dusty Blue' はわたしも大好き!しかし、ハンカチ被せてラッパ吹いているということは、この人結構な多汗症だったのかも(弱酸性の汗は真鍮に穴開けますからね)。おお、この人もディジー・ガレスピー同様Al Cassのマウスピースだ。





また、ヴィンテージということでは、1930年代後半から40年代にかけて製造されたMartinのレアな 'Handcraft' Committeeというのがありました。このラッパの人気はまさにイケメンのラッパ吹き、クリス・ボッティの影響大でしょう。幅広く太いベルはMartin Committeeの設計プロジェクトに参加したレオナルド・シルキーの設計思想が最も色濃く反映された一本であり、その音色も通常のCommittee以上にウッディな '木管' 的太い響きがあります。ボッティ曰く、その愛機はラージボアのレアな一品だそうでスペアとして2本目を見つけられないくらい大事な 'ヴォイス' なんだそう。





一方、赤、黒、青とカラフルな彩色の施されたLebrancによる復刻版は、完全に晩年のマイルス・デイビス仕様という触れ込みで、大体1990年代初めから多くのラッパ吹きを魅了し続けました。特にデイビスが得意とするハーフバルブの奏法をやりやすいよう、ロング・ストロークのピストンワークが特徴の仕様です(この辺好みも別れますけど)。もちろん、わたしもそんな興奮したユーザーのひとり。上の動画はマイルス・デイビスの先輩にして師のひとりであるクラーク・テリーですが、晩年の彼が吹いていたのはLebrancによるショート・ストロークのピストンを備えたST-3460。何でもウォレス・ルーニーがMartinのカスタム・アトリエにて、テリーの '両手奏法' がしやすいよう小指掛けを増設した特注品を2本オーダーしてプレゼントしたそうですヨ。

当時で大体20万〜30万前後の高いラッパでして、特に彩色と共に見事な彫刻の施されたヤツは高かった・・。楽器としての評価は、特に 'ヴィンテージ' と比較しても全く別物のラッパで、時に価格帯に比べて精々10万クラスの鳴りだ、と揶揄する声もありました。コレはLebrancが傘下に納めるHoltonの製造ラインで生産されており、このHoltonのラッパというのが、米国では吹奏楽などのカレッジ・モデルとして人気を博していたこととも関係していると思われます。メイナード・ファーガソンなどの名手が愛用していたとはいえ、要するに学生にもお求めやすい安価なラッパのイメージなんですね。ジャズのユーザーとしてはマイルス・デイビスの後継者を自他共に認めるウォレス・ルーニーがおり、特に彼はLebrancが構えていたMartinのカスタム・アトリエに入り浸っては多くのカスタム・モデルを製作してもらうほどのマニアだったようです。日本では同じくデイビスを愛好する五十嵐一生さんや高瀬龍一さんなどが使っておりましたね。そんな 'マイルス・フリーク' 以外では個人的にこの時代、BachやYamahaのスタンダードなラッパに満足できない目立ちたがりやさんがこの復刻Martinに手を出し、その一方で当時台頭してきたMonetteのヘヴィ・タイプのラッパに注目が集まっていたような気がします。そういえばMonetteの買えない人たちのために、どこかの楽器店がBachやYamahaのラッパにゴテゴテと分厚い鉄板を溶接した 'ニセMonette' を販売したりとか、あったなあ・・。まあ、今やConnやKingといった伝統の管楽器メーカーの大半はMartin含めBachを傘下に収めるSelmerに買収され、その一方に元Bengeの職人にして管楽器最大のメーカーへ成長したジグマント・カンスタル率いるKanstul、そして日本を代表するYamahaの '3強' に集約、あまり各メーカーごとの楽器の個性といった話はされなくなってしまいました。


わたしが最初に購入したのは1990年代半ば、ちょうど御茶ノ水の楽器店で在庫一掃セールとして黒いMartinが19万で売りに出されていたのを見かけたときでした。正直、同じくセールに出されていた彫刻入りの黒いヤツが欲しかったのだけど・・手が出なかった。これは個人的に良い個体で2、3年吹いたと思うけど、やはりどーしても豪華な彫刻入りのヤツが欲しくて当時シアズ(現Joybrass)と呼ばれていた楽器店のサマーセールで前のヤツを下取りに半分現金、半分ローンで2本目をゲット!この2本目では以前と仕様が変わり、ベルがヴィンテージのCommitteeを模した少々太めのタイプ、1番スライドにU型フックが付き、リードパイプのギャップが浅めとなっておりましたね。コレは5、6年ほど吹いていたと思うんだけど、ある時、大事故にはならなかったものの不慮に落下させてからケーシング部に歪みが生じたのか、ピストンの動きがいまいちになってしまいました。いくつかの工房を回って修正をお願いしてみたものの元の状態にはならず、一部ラッカーも剥げてきたこともありどうしようか、と思い悩む始末。ちょうど時代はインターネット開花期ということもあり、同じくマイルス・デイビスを愛好するHPで知り合った方の情報で名古屋のコメ兵に変わったCommitteeを発見!たぶん青いヤツが経年変化と共に褪色して緑に変色するという異色の一本で、写真で見る限り状態良好、価格も19万と破格であった。う〜ん、さすがに吹かないでネットで購入するのはバクチだなあ、という思いと共にエイヤ!とクリック、手元に来てみれば事故歴もなくこれまた良好な個体で4、5年ほど吹きましたね。









そしてネットで発見した4本目。まあ現在のCommitteeなのだけど、これがLebrancの復刻版ではなく、Martinを買収したRMCがWurlitzerの傘下に入った後にデザインされた珍しいもの。当時、Committeeの上位モデルとして用意された 'Magna' のパーツを一部流用し、たぶん、同じく傘下にあったLebrancがWurlitzerでデザインされたパーツを使って組み立てたラージボアで、1970年代後半から1980年代初めにかけてのWurlitzerとLebrancの '折衷モデル' 。2009年にSkinnersのオークションでデイビス本人が吹いていたMartinがオークションで出品され(上記画像)、およそ40,000ドル(約400万円)で落札されたのですが、実はわたしのCommitteeも彫刻がない以外はコレと全く同じ仕様なんです(価格は雲泥の差ですが)。このSkinnerの落札品が再びChristie'sのオークションに登場して275,000ドル(約2980万円)で落札されました。そんな羨ましい新たな落札者は、米国ミシガン州アナーバーにあるジャズクラブ 'Blue Llama Jazz Club' のオーナーであるドン・ヒックス氏(2020年加筆・追記)。ちなみに自他共に認める 'マイルス・フリーク' のウォレス・ルーニーはデイビスから直々に貰った3本のCommitteeのうち、元々はブラックラッカーながら剥げて 'ロウブラス' を曝け出したラージボア、あの ' モントルー' でギル・エヴァンス・オーケストラ再演の際にサポートしたことの 'お礼' として貰った赤いST-3460、そして、ウォレス本人が最も気に入っているという1960年代後半の青いラージボアをトニー・ウィリアムズのグループに入った頃に使いまくっておりました。


さて、ここでちょっと面白いお話。随分と前に海外のトランペットに関するフォーラムで実際にマイルス・デイビス復帰前後からMartin Committeeの製作に従事していた方が 'Jstar' なるHNでスレッドに降臨、その当時の '復刻版' にまつわる変遷など詳細な事実を述べておられました。以下はまさに 'Martin狂' (笑)として以前、この記事を 'マイルスの楽器を作った男' のタイトルでご紹介されておられたひろぽんさん訳によるものをどーぞ。

"私はトランペット・プレイヤーであり、大学では音楽教育を専攻し、管楽器のリペアスクールの卒業後は、ブラス・スペシャリストとして活動し、1980年にMartin社へ入社しました。

私は自分がマイルス・デイビスのために作ったトランペットに関する資料をどこへやったか忘れてしまいましたが、幸運にも当時のことをよく覚えています。最初のCommitteeは、1970年代半ばにKenoshaで作られました。最初はWurlitzer社の所有するパーツと道具で作りました。残念ながら私たちはオリジナルCommitteeのベルの型を使いませんでした。私たちが所有していたのは、オリジナルをコピーした型だったのです。そのサウンドと吹奏感は、旧Committeeにそっくりでしたが、音程は最悪でした。この時、私たちは少数のCommitteeを市場に出しました。当時、ディジー・ガレスピー、ミック・ジレットなどのプレイヤーは、このCommitteeをとても気に入ってくれました。Skinnersでオークションにかけられたマイルスのトランペットは1980年代の初め頃にデザインされたものと同じだと思います。これはCommitteeの標準的なプロダクションモデルでした。私たちは当時、T3460、T3465、そしていくつかのT3468を作っていました。これらは全てWurlitzer社によりデザインされました。マイルスはその黒いCommitteeを手にした後、いくつかの改良をしたいとチーフデザイナーだったLarrie Ramirezに話しました。それを受けて、私はベルとマウスパイプの組み合わせを変えた5〜7本のCommitteeを作り、マイルスに試してもらいました。しばらくして、マイルスのリクエスト通り何本かを作り、マイルスに送りました。当時のマイルスがリクエストした通り、それらのCommitteeはそれぞれ異なる色にラッカーされていました。最後の一本を私は持っていて、それは黒いラッカーに金の彫刻が施してあり、ベル横には 'Miles' の名前が彫られていました。これらの改訂版はHoltonのST550 MF Horn由来のショートストロークバルブを採用しており、スライドチューブは軽量でインナーチューブサイズは.460 × .491(Mボア)。ニッケルメッキされたアウターチューブサイズは.492 × .535でした。マウスピースレシーバー、S支柱、ウォーターキーはオリジナルCommitteeのままでした。旧Committeeのベルはどれにも採用しませんでした。その最終仕様の一本は小さなベルとBach 25のようなリヴァースマウスパイプを採用していました。この組み合わせは私もお気に入りでした。この組み合わせを採用したモデルはST3460と呼ばれ、ベルにCommitteeの文字が刻まれました。ST3460はレギュラーモデルとなりましたがセールスが伸びず、後に発売中止となりました。5〜7モデルのCommitteeの2番バルブケーシングのカラーラッカーの下に 'ST550' と刻印してあるものがあれば、それはST550のを流用したものです。私はクラーク・テリーのためにダブルフィンガーフックを備えた青いCommitteeを2本作りました。私の記憶では、後で作った方はウォレス・ルーニーからクラークへ渡されたはずです。

私はKenoshaの工場で行われた改良しか知りませんでしたが、Wurlitzer社に買収されたとき、MartinにはJoe Gillespieという専属デザイナーが居て、彼はWisconsinに引っ越して一緒に働きました。彼は僅かな時間しか居なかったので私は会ったことがないのですが、Larryが言うにはJoeの腕はとても素晴らしいということでした。他ではないJoeがいたWurlitzer社だからこそ、トランペットがどんどん改良されていったのかもしれないし、実際に彼はとてもアクティヴでした。


一つ思い出しましたが、私がMartin社のKenosha工場でデザインし直した改良版Commiitteはウォーターキーが下部に付いていました。それらは見栄えが良くなかったのでVitoにダメだと言われました。結局私たちはウォーターキーをオリジナルの横付きに戻し、Wurlitzerの道具は使われなくなりました。ということでみなさんは、このほんのちょっとしか生産されなかった下付きウォーターキーCommitteeにバッタリ出会うかもしれませんが、その楽器と現行Committeeが異なる点はウォーターキーだけです。

ちょうどその頃、Lebranc社のオーナーVito PascucciがWurlitzerデザインによるT3460(Mボア)とT3465(Lボア)についての改良を認めてくれたのでCommitteeは音程が良くなり、セールスも好調になると思っていました。これは私が担当したプロジェクトでした。私が改良したモデルは数年前に工場が閉鎖されるまで生産された現行のT3460とT3465です。もしあなたが新しいCommitteeを店で見かけたら、たぶんそれがそうでしょう。私はベルを小ぶりながら音程の良い、別のMartin社の型に変えました。この小ぶりなベルでさえ私たちの生産ラインの中では最大のものでした。このベルはシームレス、つまり完全にチューブから作っています。ベル周りに円形の継ぎ跡はありませんし、ベル下部に長い継ぎ跡もありません。つまり板状の金属から作られたものではないのです。楽器製作者たちは、このデザインが生み出す可能性とコンセプトについて議論しましたが、結局このデザインに決まったのです。マウスパイプもオールドのGetzen Severensen Eterna同様のテーパーを持つタイプに改良されました。マウスピースレシーバー、S支柱、ウォーターキー、フィンガーフック、彫刻はCommitteeとしての体裁を保つためにそのままにしました。バルブセクションは全て真鍮製の一枚取りで、BachやHolton T101と同じ形状で外見はMartinっぽくしました。色は金の彫刻入りの黒、赤、青だけではなく、クリアラッカーやシルバープレートも用意しました。新Committeeが旧Committeeと同じように吹けないということは分かっていますが、とにかくCommitteeは改良され当時はセールスも好調でした。

T3460とT3465の主な違いはチューブ類とマウスパイプサイズです。現行T3460はBachのような重い真鍮製インナーとニッケル製アウターを備えています。ボア内径は.460、外径は.545です。このマウスパイプは息がたくさん入ります。そのおかげでT3460は "heavier darker open playing horn" になりました。私たちはレッド・ロドニーとこのコンセプトを熟成させました。彼は歯にトラブルを抱えていたため、ずっとフリューゲルホーンを吹いており、その代わりとなるコンボ用トランペットを探していました。現行T3465のチューブ類は軽いです。真鍮製インナーとニッケル製アウターはそれぞれ内径.465と外径.532です。マウスパイプのテーパーはT3460と同じですが、息の流れをタイトにし、息のフォーカスを明確にするためカットオフのポイントは変えました。



Martin社が閉鎖となり、私は他の楽器と同様にCommittee(の生産ライン)をVincent Bach社の工場へ移しました。私はそれらをBach社で再生産しようとしましたが、当時は投資の価値ナシと判断されてしまいました。ウォレス・ルーニーが吹くCommitteeについて、初めの頃はLarry Ramirezがウォレスと共に多くの時間を費やし、その後は私が時間の許す限り、さらに多くの時間をウォレスと共に費やしました。ウォレスはMartin社の歴史と血統に深い理解を示していましたが、彼はいつもより良い、そして他とは異なる何かを探し求めていました。私たちは彼のために、いつもいろんなことを試していました。それはユニークなものばかりでした。Vitoはいつもウォレスのことを高く評価していて、私たちがウォレスを喜ばせることを望んでいました。ウォレスのおかげで素晴らしい楽器T3463が誕生しましたが、残念ながらT3463が世に出る前に工場が閉鎖してしまいました。ウォレスはいつも私たちに挑んできましたが、それはやりがいのあることでした。彼は素晴らしい人間でありプレイヤーです。彼について私たちがしたことを延々と話すことはできますが、こんなに素晴らしい楽器はどこへ行っても見当たらないと思います。もしLarry Ramirezがここに現れたら他にも色々と聞けるかもしれません。"








ウォレス・ルーニーはその活動を開始する1980年代半ばからWurlitzer期のCommitteeを吹いており、その後、上述する新たなT3460/3465ベースでチューンナップするカスタムをLebrancがHoltonの生産ラインとは別に設けた 'Martin Custom Atelier' で製作しました。上の画像はそんな数々の 'ウォレス・ルーニー・カスタム' の一部。そして 'Lebranc' 無き後、マイルス・デイビスから直々に貰ったという青いWurlitzer製CommitteeをベースとしたものをKanstulに製作してもらったのが '1603+ Wallace Roney Model'。そのKanstulが工房を閉めた後にはヴィンテージのCommittee設計に従事したSchilkeが 'Handcraft Committee' をベースとしたHandcraft HC-2を吹いておりました。






また、Martinのシリーズの中ではイマイチ知名度の薄いCommitteeの上位モデルであったMagnaもありました。支柱や1番スライドのオート・トリガー(その他、動画にある1番U型フック、3番スライドの固定リングの仕様もあり)、通常タイプのウォーター・キーなど、パッと見ではMartinよりE.K BlessingのSuper Artistと間違えそうになりますが(しかしMagnaはCommittee同様、リヴァース・チューニングです)、ユーザーとしては動画で吹く 'デンマークのマイルス' と呼ばれたパレ・ミッケルボルグ、ケニー・ドーハムなどがおります。このMagnaの仕様は一部、1970年代のデイビスが用いたCommitteeにも採用されて 'スペシャルな' 折衷モデルとして確認することが出来ます。上の広告は1968年に 'スイングジャーナル' 誌で掲載された 'Wurlitzer / Martin' 時代のもの。ちなみにそのミッケルボルグといえば1984年にマイルス・デイビスと 'Aura' で共演しておりますけど、さらにこの2015年の動画ではシルバープレートの 'ヴィンテージ' CommitteeをAl Cassのマウスピースで吹いておりまする。





'ヴィンテージ' CommitteeからWurlitzerでデザインされたものに一新、最初にLebranc(Holton)で製作したのがこちらのCommittee(まだロング・ストロークのピストンではない)。ちょうど電気楽器のアンサンブルに負けじとLボアにパワーアップされてラッパ吹きとしての頂点を迎えていた頃のマイルス・デイビスでして、テオ・マセロによりプロデュースされたライヴ盤 '1969 Miles' を是非とも聴いて頂きたい!あの一音こそ、わたしが追い求めるMartin Committeeのスモーキーな 'ぶっとさ' なんですよねえ。アレはもうデイビスの声そのものだ。ちなみに、この1969年から70年にかけてのCommitteeといえば 'ワイト島ライヴ' で象徴的な黒い塗装にオレンジのグラデーションを施したもの。後年、とある展示会でこのCommitteeを実際に目にした方によればかなり汚い仕上げだったらしい(苦笑)。また、この '黒&オレンジ' のCommitteeと対になるかたちで、何故か自宅用?として黒にグリーンのグラデーションを施したC管!も当時所有していたようですね。しかし、いくらピストンオイルが手元に無いからって直にピストンをベロ〜ッと舐めるのは体に悪い(汗)。そしてハードにヒットした直後、瞬時にマウスピースのリムをベロッと舐めるところを見るとデイビスはウェット奏法ですね。







上述したSkinnersのとは別にもう一本、コレも本人使用とうたわれているもの。多分1960年代の 'ヴィンテージ' Committeeで全体が深いグリーン一色に彩色されているのですが、変わっているのはリードパイプ後端がグイッとベンドしている!想像するにこの時期から愛用のGustatマウスピースをベンドさせたりしていたことで、デイビスがMartin社に対して楽器もベンドできないか?と持ちかけてやってみたもののイマイチだった試作品が市場に出てきたものなのでは?デイビスのCommitteeというと晩年の黒、青、赤ばかり持て囃されておりますが、個人的にはこの時期の渋いグリーンで '復刻' してほしかったなあ。ちなみにデイビスの '色付き' Committeeに対するコメントは以下の通り。ある意味面白いというか、ヘンなもの摂取していた時のコメントというか(笑)、多分ラッパと一体化したかったのでしょう。

"金色のトランペットは吹く気がしない。ブラス(真鍮)のトランペットを見ると、トランペットしか見えないんだ。緑色のトランペットだとトランペットが消えてしまう感じで、見えるのは音楽だけだ。"




さて、このMartin Committeeが最も似合うのは御大、マイルス・デイビスをおいて他におりません。たぶん当時、BachやSchilke、Benge、King、Connといった錚々たる管楽器メーカーから是非ともうちのラッパを使って欲しい!とデイビスの元に贈られてきたと想像するのだけど、すでに会社も買収され、決して作りの良い楽器ではなかったMartin Committeeを律儀にそのキャリアの最後まで吹き切った御大、やはりこのラッパには '何か' があったのでしょうね。ちなみにそのキャリア初期にはいくつかのメーカーのラッパを吹いていたそうですが、面白いエピソードとして名盤 'Walkin' のレコーディングはMartinではなくスタッフが所有していたオンボロのBuescherだったということ。当時、ニューヨークの郊外にあったハッケンサックの 'RVG' (ルディ・ヴァン・ゲルダー)スタジオで予定されていた録音日。うっかりデイビスは愛機を忘れてきてしまったことが発覚、周囲は 'お流れ' になるのではとどよめきます。その時、スタッフのひとりが車のトランクに入れっ放しにしていたオンボロのBuescherを思い出し、すぐさまデイビスはそいつを持ってこい!と言い放つとピストンの調子を確かめてあの名盤 'Walkin' を吹き込んでしまったそうですから・・ええ、'弘法筆を選ばず' ということは言わずもがなで御座います。

2017年9月2日土曜日

'Against The Clock' の休日

ヒマなときについつい見てしまう 'Against The Clock' 。ひとり10分前後の制作時間を決めてその場で音作り、もしくは何らかの機材を用いたパフォーマンスをお披露目するというもの。ここ最近は、あまりにアマチュア過ぎたりクスリでラリって何を言っているのかよく分かんないヤツが登場したことで、その動画の大半に '最低、ゴミ' の評価を付けられることが多かった気がします(苦笑)。そんな中でもお気に入りの動画を少しご紹介。



もう、これは典型的DAWによる 'ベッドルーム・テクノ' 世代の作り方ですね。Fractureなる方がレコード屋でネタを探すところからもう、気分がウキウキしてくる!やっぱりサンプリング・ミュージックってここから始まるんだよなあ、などと思いながら、細かなブレイクを抜き出してストレッチして、あっという間にダブ・ステップ風のトラック完成。



これは 'Against The Clock' ではなく、Electron公式の動画なんだけど格好良いのでご紹介。とにかく '難易度の高い' 機器のトップに位置するのがこのElektron Octatrack DPS-1。8トラックを備えたループ・メイン、ストレッチ可能のループ・サンプラーながら、そのサンプルの多彩な加工、複数の機能をそれぞれのパラメータで共用する為に、とにかく把握しずらい構造から非常に挫折率の高いマシーンでございます。モジュラーシンセなどの連中がリアルタイムでシーケンスに反映させやすい為に愛用しているようですけど、この動画ではそのループ・サンプラーの機能を用いてレコードのネタ、スクラッチをMIDIコントローラーでどんどんオーバーダブしてはさらにグラニュラー・シンセシスで弄るなど、使いこなせたら素晴らしいパフォーマンスを展開できるでしょうね。







このようなテクノに特化した 'グルーヴギア' 中心のミニマル・ダブのパフォーマンスも非常に多い。とにかく膨大な 'ガジェット' に囲まれているというか、それは、昨日書いた '夏の終わりにミニマル・ダブ' を見て頂いてもよく分かると思います。やはり 'ループ' という反復の中でいかに展開を作れるかがカギでしょうね。







リアルタイム・パフォーマンスではモジュラーシンセ派も参戦しているんだけど、この冴えない 'シンセオタク' な感じの人の動画は素晴らしい。というか、とにかく音作りが早く、刻々と動くシーケンスとグルーヴを掌握しているのは凄いですね。何かケーブルまみれで壁のようなモジュラーシンセを誇っている人で、実は大したことをやっていないという動画も多いので・・。一番下は 'Electronic Beats .TV' で、ここ近年増殖している 'モジュラーシンセ' ユーザーのご紹介。







おお、何だかこの人なりの 'アフロ・ポップ' というか、ループ・メインのブレイクビーツや '4つ打ち' ばかりに耳が慣らされた身には新鮮ですねえ。Pioneer DJの 'グルーヴギア' であるToraiz SP-16を制作で使う人を初めて見た(笑)。NGHT DRPSは完全なるダブステップでロービット系のシンセ・フレイズからウォブルなベースラインが決まった時点で、メチャクチャ早くトラックが組みあがったなあ。そして、'葉っぱ' 吸っててもちゃんと作るヤツは作るということで(笑)、この 'Noah Breakfast' なる集団?の '一筆書き' 的なダビーなトラックは格好良いですね。







フライング・ロータスら 'LAビート' のシーンから登場したトラックメイカー、MNDSGN(マインドデザイン)と南ロンドン出身のトラックメイカー、Hector Plimmer。最後のJon PhonicsはAkai Professional MPC 1000をベースに細かい 'オカズ' と共にちゃんとビートだけで楽曲が成立しているところが素晴らしい。シンプルに、しかしJディラやフライング・ロータス、アフロビートなどに通ずる脱臼したビートを決して大げさな '上モノ' に頼らず追求する姿勢は、日本のリョウ・アライさんもそうだけど、こういう人たちこそ 'ビート職人' と呼びたい。







その一方で、こういった原点回帰というべき男らしいパフォーマンスもグッド。1987年に発売され、現在では完全にロースペックな機器となってしまったE-Mu SP-1200。オールドスクール・ヒップホップのマーリー・マールにより、本機でしか生成できないブレイクビーツの質感を取り出す象徴的存在と言っても過言ではないですね。モノラルで10秒のサンプリング・タイムしかない中で、33回転のレコードを45回転で取り込み、それを各々8つのパッドに振り分けて、ピッチスライダーでテンポを変更するとアナログ盤自体の質感と12ビットというロービットなスペックが '化学反応' を起こし、ジャリッとした 'ローファイ' における新たな価値観を産み落としました。そしていま、'ワーク・ステーション' の最も新しいカタチとして狭い 'ベッドルーム' に帰ってきたAkai Professional MPC X。



こちらもついつい見てしまうヒップ・ホップのトラックメイク中心な 'Rhythm Roulette'。目隠しで3枚のレコードを掘り当て、そこからネタを取り出してトラックを制作していきます。Ski Beatzは1990年代後半にJay-Zの 'Dead Presidents' やCamp Loのアルバム 'Uptown Saturday Night' などを手がけた敏腕プロデューサー。ここでの制作のメインは今やスタンダードな機器といえるNative Instruments Machine Studio。これはAbleton Liveと並んで今や 'ベッドルーム・テクノ' 世代のスタンダードと言っていいでしょう。

2017年9月1日金曜日

夏の終わりにミニマル・ダブ

残暑から一転、長かった夏も終わり・・というか、毎年のことながら夏大好きのわたしにとっては8月ってあっという間なんですよね。そもそも今年の8月はずーっと雨ばかりで早々と夏は終わってしまったという印象だし(悲)、これから短い秋を経てツライ冬がまたやってくるのかと思うと憂鬱だ。しかし、沖縄や台湾の高雄辺りなんかだとこのまま気候は変わらず、ポカポカした陽気のまま年を迎えるのだろうか?自分に今の環境を変える力があるのならばホントに移住したい毎年9月の心境でございます・・。





以前に '秋の夜長に耽る' でもご紹介しましたが、フランスで活動するVOSNEのミニマル・ダブ・セッション。この 'サウンドスケイプ' ともいうべき深〜いリヴァーブ&エコーの音像から滲み出す '4つ打ち' の美学は、まさにジャマイカで育まれたダブの世界観がそのまま、暗く冷たく閉ざされたヨーロッパの地で隔世遺伝した稀有な例と言っていいでしょうね。1996年、ドイツでダブとデトロイト・テクノという真逆なスタイルから強い影響を受けたモーリッツ・フォン・オズワルドとマーク・アーネスタスは、自らBasic Channelというレーベルを設立してシリアスな 'ミニマル・ダブ' を展開するリズム&サウンドと、1970年代後半からニューヨークでダブを積極的に展開させたロイド "ブルワッキー" バーンズの作品を再発させるという、特異な形態でダブを新たな段階へと引き上げることに成功しました。





当時、世界的に興隆したドラムンベースやエレクトロニカの手法の中心にはダブが色濃く漂っており、それをミニマルなテクノの様式で 'ヴァージョニング' させたこのミニマル・ダブは、Basic Channelのサブ・レーベル、Chain Reactionから登場したロバート・ヘンケと彼のプロジェクトのモノレイク、ステファン・ベトケのプロジェクトであるポール、そのベトケが設立したレーベルScapeから登場したキット・クレイトンらが続くことで、ひとつの様式美を打ち立てます。そしてBasic Channelの '心臓部' ともいうべきスタジオ 'Dubplates & Mastering' と敏腕エンジニア、ラシャド・ベッカー(ベトケもカッティング・エンジニアとして関わってます)が彼らの空間生成に寄与するという万全の体制、やはりダブにとってスタジオは創造の源泉と深く結び付く重要な '聖地' なのです。




彼ら 'Basic Channel' と 'Dubplates & Mastering' の協同体制は、特にモーリッツとマークのふたりからなるRhythm & Soundの 'ルーツ志向' から、ジャマイカの歌手であるJennifer Lalaを迎えた 'Queen In My Empire' や、1998年の 'イルビエント' 末期、ニューヨークのアンダーグラウンドでひっそりとカセットでリリースされたSpectreなるヒップ・ホップ・ユニットの作品も 'Dubplates & Masterring' で 'ワッキーズ' 同様にリマスタリングされて再発されるなど、その原点への配慮も忘れてはおりません。やはりこの硬質なダブの質感は、当然、亜熱帯の緩〜い気候と共に育まれたジャマイカ産の 'ルーツ・ダブ' とも、ニューウェイヴと共にメタリックな質感を持った 'UKダブ' とも違う、テクノを経過したドイツ産の 'Dubplates & Masterring' 特有のものでしょうね。





またミニマル・ダブの流れは、ヴラディスラヴ・ディレイやこのヤン・イェリネックなどに聴けるエレクトロニカ寄りというか、Mille Plateauxレーベルのクリック・テクノっぽい質感を持ちながら、やはりダブとテクノをコンピュータを媒介して '換骨奪胎' させる方向へと波及します。古いジャズのレコードのスクラッチを採取して生成したグリッチは別にして、低域の処理などで典型的ダブっぽさとは一味違う感じ?ミニマル・ダブと比較する意味でこの名盤を置いてみました。





DAWと並行して、ここ最近のガジェット的なテクノ機器の隆盛と平準化は、上述したVOSNEやこちらドイツのMartin Sturtzerなどにより 'Youtuber' 的なパフォーマンスで 'ミニマル・ダブ' の音作りを開陳致します。すべては誰もが手に入れられる環境にあって、いかに音作りと編集、ミックスにおいてそのクオリティーに差を付けられるのか。センスはもちろんですが、いかに飽きさせずに反復するための '展開' を描いていけるかがカギでしょうね。







肝心のモーリッツさんは現在Moritz Von Oswald Trioとして活動しており、最新作ではフェラ・クティのアフロビートを支えた伝説的ドラマー、トニー・アレンとの共演を果たしております。しかし、このライヴ動画を見る限りモーリッツさん、ほとんど残業でメール・チェックしている部長にしか見えないな(笑)。最初の動画はBasic Channelの質感、ミックスなどを伝えるべく50分近くのノンストップ・ミックスでまとめた優れた動画。うん、これだけでミニマル・ダブの構造がよく分かりますね。そして、これまたミニマル・ダブの重鎮、Rob ModellとStephen Hitchellのふたりからなるユニット、CV313の 'Infinit 1' のSTLによるヒプノティックなリミックス。う〜ん、サイケデリックだ。







しかしミニマルという言葉もずいぶんと使われ過ぎたというか、そもそもは1960年代、スティーヴ・ライヒやテリー・ライリーらの音の動きを最小限に抑え、その最小の単位から積み上げて反復させるミニマル・ミュージックに原点があります。ここは一応 '管楽器' を取り扱うということで(笑)、トランペットをフィーチュアしたMoritz Von Oswald Trioの曲と、テリー・ライリーがチェット・ベイカーの音源を元にテープ操作で 'ダブ' にしていくという珍曲をそれぞれご紹介。ライリーのはキング・クリムゾンのギタリスト、ロバート・フリップがやっていたFrippertronicsのルーツ的演奏にも聴こえますね。そしてもうひとつオマケ、こちらはトランペットのドン・エリスによる1961年のアルバム 'New Ideas' から、当時のジョン・ケージの影響と 'Fluxus' でやっていたダダイズム的パフォーマンスに影響を受けて '作曲' した 'Despair To Hope'。ジョージ・ラッセルの 'リディアン・クロマティック・コンセプト' に共鳴していた一方で、こんなオモチャ箱を引っくり返してしまったような怪しい感じ、これもわたしなりの 'ミニマル' です。

さあ、暑かった夏も終わり。こんなミニマル・ダブでこれからやってくる秋を前に火照った肌を冷ますべく 'Chillout' して下さいませ。